薬でいいなりにしようとしたら相手がもう一人の自分になっていた

  作: N.D


 登校しながら改めて今の状態について考えてみる。
 『僕』は昨日飲んだ怪しい薬の力で『中平圭太の"いいなり"になった上坂八枝』だ。
 あの薬を飲んだら相手は『命令通りに動く操り人形』になると思っていたけど、どうやら『乗り移って身体と記憶を使える』という効果だったらしい。思ったのとは違う説明からしたら屁理屈みたいな結果だけど、一応僕の思い通りに動いてるからあの薬は本物だったという訳だ。
「これはこれで悪くない…いや」
 最初は性別や体格の違う他人の身体に戸惑ったけど、今では最初から僕の物だったかのように馴染んでいて違和感なく動かせる。
 しかも上坂さんの記憶や感情を自由に『見て』完璧に成りすます事も可能で、今朝なんか彼女の家族にも中身が別人だとバレなかったくらいだ。
「最高の気分だ!」
 今の僕は上坂さんそのものになっている。その事実にテンションが上がって思わず大きな声を出してしまった。
「あはは…いけないいけない。」
 こんな事してたら周りから変な目で見られてしまう。
 飲んだ薬の効果は『ずっと』だし、身体としっかり馴染んで乗っ取ってる実感の強い『一生この身体のまま』の可能性が高い今の状況で、もし変な噂でもたってしまえばその時に困るのは僕自身だ。
「まずは現状をしっかりと把握しなくちゃ。」
 昨日あの場で薬の効果を説明された時に『ずっと続く』って言われたけれど、じゃあ『元の僕の身体』の方はどうなっているのだろうか?
 僕の意識がここにあるって事はおそらく脱け殻なってる筈だ。ならばそれは『眠ってるだけ』のか、もしそうなら元に戻れる方法があるかもしれない。
 この身体を手放しちゃうのは勿体ない気もするけど流石に1○年使ってきた身体と人生を捨てたいとは思ってないし、ここまで都合が良い薬の力なら『自由に乗り移れる』ってくらいの効果があってもおかしくない。

 なんて”キボウテキカンソク”をしながら上坂さんの記憶を頼りに通った事の無い通学路を歩く。
「八枝ちゃんおはよー」
「おはよう好口さん。」
 いつもの待ち合わせ場所に着いた辺りで考えるのを中断して、僕に駆け寄りながら挨拶してきたクラスメイトに挨拶を返す。
「あれ、ちょっと眠たそうだけど大丈夫?」
「ちょっと昨日は漫画読んでたら寝るのが遅くなっちゃったの。」
「あはは、八枝ちゃんもそういう事あるんだー」
 自然と上坂さんになりすまして話を合わせる。
 どうやら単純に記憶が分かるというより、身体を使ってる延長で『頭の中』まで利用しているみたいだ。
 彼女は元々大人の前では『猫をかぶって』優踏生を演じていた。その演技力も手に入れたのならば、『普段の彼女』という演技をするのも難しくない。
「教室に行くのが楽しみだなぁ。」
「え?どうしたの急に?」
「ううん、なんでもないよ。」
「ふーん、へんなの。」
 とは言っても、やっぱり調子に乗り過ぎたら素が出てしまう。
 よし。まずは上坂さんの『猫かぶり』に馴れないと。


・・・・・


「皆ー!おはよう。」
 思ったよりテンションが高くなってしまったかな?とか考えながらも上坂さんお得意の『猫かぶり』を利用して普段通りを意識しながら教室に足を踏み入れる。
 見馴れた教室、見馴れたクラスメイト達、見慣れたいつもの光景なのに視界の高さや僅かな五感の感じ方といった身体的な違いがあってなんだか別の所に来たみたいだ。

 違いはもちろん自分の身体の特徴以外にもある。
「おはよう上坂さん。」
「おはよー八枝ちゃん。」
 教室に入るなり女子は羨望や親愛の目をしてまるでアイドルを見るように。
「お、おはようございます。」
「上坂、おはよう…」
 反対に男子は恐怖や恨みのこもった目で独裁者を見るように。
 周りからの視線や向けられた感情は上坂さんにとって馴染んだものだけど『僕』にとっては初めて向けられるものばかり。
 やっぱり今の僕はただ女の子になってるんじゃなくて上坂さんという他人になっているんだ、と改めて自覚できて優越感を感じる。

「ん?」
 ふと視線を感じて教室の端へ視界を向けてみると、昨日の『男子会』で最後まで残っていたメンバーがこちらの様子を伺いながら何か話していた。
「おい、全然変化がないぞ」
「圭太のやつちゃんとやったのか?」
 内緒話のつもりみたいだけど少し意識して耳をすませば内容が筒抜けだ。
 バレたくないならもっと隠れて話せばいいのに、と今まで上坂さんが男子に感じていた子供っぽさを実感しながら彼らに近づく。
「あっおい!」
「げっやば!」
 僕に気がついた男子達へニッコリと笑顔の表情を作りながら尋ねる。
 それがいつもの『男子を威圧する時の笑顔』だと察した男子達の表情が強張り、半分くらいは素早く逃げ出してしまった。
「ねえ、さっきからこっち見て何を話てるの?」
 残りの逃げそびれた男子達の中から適当に、最初に目が合った1人を選んで尋ねる。
「えっあのっその…」
「何?私は何を話してたのか教えてほしいだけなんだけど?」
 今回の生贄となった宮本くんのしどろもどろで何が言いたいのか分からない様子を見て、イライラしながら威圧する上坂さん…になりきってもう一度尋ねた。
「おい、やっぱりいつも通りだ。」
「でも圭太は…」
 結果的に良い思いが出来たから薬の効果には感謝しているけど、それはそれとして皆に薬を押し付けられた事はちょっと恨んでいる。
 中身が僕だと知れば調子に乗ってあれこれ言ってくるのは分かりきってるし、そんな事になればせっかく『僕が苦しんでまで手に入れた学校一の美少女』が皆に奪われてしまうのと同じで結局僕が損をしてしまうだけだ。
「誰がどうしたの?私と関係あるの?」
 そんな訳で、あくまで僕は上坂さんになりすましたまま彼らに話しかける。

「け、圭太、中平圭太が昨日…」
「圭太?ああ、あのパッとしないヤツね。」
 すまない僕よ、上坂さんになりすますためなんだ。と内心で詫びる。中身はどうあれ今の僕は上坂八枝だからそれ相応の態度で接しないといけないのだ。
「なに?あいつ休みなの?」
「そう!なんか昨日の夜、急に熱が出たらしくて今日は休みなんですよ!」
 もしかしたら話題に食い付いた?なんて希望で表情を変える宮本くんと逃げ遅れた周囲の男子達。
「一応大した事ないらしくて今朝には熱も下がってたし、他のやつが実際に顔見てきた様子だと元気そうにしてたって…」
「まあいいわ、あんなのに興味ないもの。」
 話の途中で切り上げられてしまい、期待の眼差しで見ていた男子達が一瞬にしてがっかりした表情になる。
 ふふ、普段気軽に話し合う相手が僕を見て全く違う態度で接してくるのはなんだか楽しい。
「で、アイツと私に何か?」
「いや、何でもないです……」
 力なくうなだれた男子達の姿を見ていたら、薬を押し付けられた事に対して少しだけ気が晴れた。
 どうでもいい話題として切り上げたフリをしたけど、とりあえず僕の本体が意識不明の重症とかじゃないようで安心した。
 でも『元気そうにしてた』ってどういう事なんだろう?
 脱け殻になった僕の身体に誰か入ってる?それとも実は『僕』の方が中平圭太だと思いこんでるだけの上坂さん自身だとか?でも『僕』は僕の記憶を持ってるし…
「これは確認する必要があるわ。」


・・・・・・・


 学校ではその後もずっと上坂さんになりすましたまま過ごしていた。
 身体も記憶も本人の物なのだからちょっと素が出てもバレなかったし、あの薬を渡された集まりにいた男子でも流石に中身が別人になってるだなんて分かるわけないから、皆が『地味な男子の1人な僕』を『クラスのトップの女子』と信じきってるのは今までにない体験で最高だった。
 そんな今までになく充実した学校が終わると、今度はまっすぐ僕…『中平圭太』の家へと向かった。
「すいません、私は…えっと、中平君と同じクラスの上坂といいます。」
 玄関前で改め眺める元の僕の家。
 僕としては産まれから今までずっと暮らしてきた見慣れた家だけど、上坂さんとしては始めて来た僕の家という普通じゃ味わえない奇妙な感覚。
 教室もそうだったけど、身体が違えばなんだか見慣れた光景でも違って見えて不思議な気分だ。

「圭太のお見舞いにこんな可愛い子がくるなんて。」
 玄関から飛び出してきそうな勢いで現れた『お母さん』は、そういって嬉しそうに家に入れてくれた。
 お母さんの聞き慣れたパタパタというスリッパの足音やその家にしかない匂いは、たとえ身体が他人になっても『自分の家』なんだと思えて安心する。
「あの子の部屋はこっちよ。案内するわね。」
 そういって案内される先は二階の奥の僕の部屋。ほんとはこっちが僕の家だから部屋の位置は完全分かっているけど、あくまで僕は上坂さんと初めて来るお客様。
 そんな昨日から何回も味わってる奇妙な感覚を楽しみながら、上坂さんのフリをしてお母さんと話をする。
「会って大丈夫という事は、中平君の調子は良いんですか?おか、おば様。」
「ええ、今朝病院にも行ってきたけど大したことないって言われたの。熱もないし本人も大丈夫って。」
 どうやら本当に『僕とは別に』僕がいるみたいだ。
 お母さんに直接聞いて安心すると同時に、じゃあ中身はいったい誰かなんだろうかと疑問に思う。
 身体は女の子でも僕は僕だという自覚もあるし、迷わずこの家に来れたからやっぱり『思い込んでるだけ』って可能性は否定された。
 だとすれば脱け殻になった身体に別人が入ってるのか?それとも…

「あなたはあの子と仲が良いのかしら?おばさんあなたの事は何も聞いてなくて。」
「そうなんですか?中平君とは最近仲良くさせて貰ってるんです。」
「あらあら、そうなのね!」
 上坂さんの大人に対する猫をかぶった優踏生スマイルで僕との関係を好き勝手言っておく。
 上坂さんみたいな可愛い女の子がわざわざ心配して様子を見に来てくれたから、お母さんは二人の関係について期待しているみたいだ。
「あ、付き合ってるとかじゃないんですよ。ただクラスの男の子の中では一番仲がいいっていうかその…」
 恥ずかしそうにうつ向く…フリをして好意を匂わせる。学校でなりすますのも楽しかったけど、こうやって彼女がやらない事や言わない事を好き勝手やってしまうのも楽しい。

「圭太ー。あなたにかわいいお客様よ。」
 僕の部屋の扉の前でウキウキしながらそんな事を言うお母さん。
 はたして、中にいる僕が『僕』のままならどんな顔をしているのだろうか…
『え?女の子?わ、ちょっとまってお母さん…!』
 お母さんは何か気を利かせたのか、びっくりさせようと僕の了承を貰う前に扉を開けた。


・・・・・
・・・・
・・・


『圭太ー。あなたにかわいいお客様よ。』
 お母さんの妙にご機嫌な声に慌てて体を起こす。
「え?女の子?わ、ちょっとまってお母さん…!」
 僕のクラスは一部を除いて男女の仲がそんなに良くない。それなのに来る女の子なんて誰なんだ?なんてまだちょっとクラクラする頭で考えようとしていたら、何故かお母さんは勢いよく扉を開けてしまった。
「ちょ、ちょっとお母さん!いきなり開けないでよ…」
 焦りながらお母さんの後ろに立っている『誰か』へと視線を向けると…
「「あっ…!」」
 その人と目があったその瞬間、脳内に電流が走った。
 向こうも似た表情とリアクションをしているけど、それを見て何か勘違いしたお母さんは物凄く嬉しそうな顔で「人でゆっくりお話してね~」と言いながら彼女を半ば押し込むように部屋に入れて出ていった。
 なんで彼女が来たのか?なんて考えなくても分かる。昨日僕が飲んだ薬は本物だったからだ。

 目の前に居るのは上坂さん…いや…

「「『僕』がいる…」」

 不思議な事に、目があった瞬間に彼女が『上坂さんの姿をした僕』だと理解できた。
 パッとしない男子の僕と美少女の上坂さんはどう考えても見た目が全く違う。それなのに、何故か目の前にいる彼女はまるで鏡に映った自分を見ていると錯覚してしまうほど僕と重なって見えたのだ。
「良かったぁ。そっちも僕のままみたい。」
 大人の前で猫をかぶってる時とも本性を現した時とも違う、どことなく頼りなさそうな顔でホッとする彼女の姿に違和感と同時に親近感を覚えた。
 上坂さんのこの反応からして、熱のせいで僕がおかしくなっている訳では無さそうだ。
「鏡じゃなしにこうやって自分の顔を見るなんて変な感じだね。」
 不思議そうな表情でまじまじと僕の顔や体を眺める上坂さん。
「説明しなくても大丈夫だと思うけど、あの薬の力で上坂八枝は中平圭太に身体を乗っ取られちゃったみたいなんだ。」
 なるほど、身体を動かしているのはもう一人の僕なのか。確かにそれはある意味僕の『いいなり』になっているのかもしれない。
 と、普通なら意味不明だと思う状況と発言なのにすんなりと受け入れられる。
「思ったのと違ったけどこれはこれで悪くないかも。」
「でしょ?これからは『僕』の意思一つ…二つ?で上坂さんの事を思うがままにできるよ!例えばこうやって…」
 何となく向こうのやりたい事が分かった僕は右手を振ってみる。すると上坂さんは僕と全く同じタイミングで僕と全く同じポーズで右手を振ってきた。
 そのまま続けて何も言わずにいきなりピースをしたり、ほっぺたをつまんでみたり…途中からお互い慣れてきたのか僕がポーズをとらなくても、やってほしいと思うとその通りのポーズを見せてくれるようになり始めた。
「テレパシー?とはちょっと違うのかな。心の声が聞こえるっていうより以心伝心の方が近い?」
「そうだね。なんていうか『向こうはこう思ってる』って予想が100%当たる感じ?」
「そうそう!全く同じ人が目の前にいるとこうなるんだね。」
 お互い全く同じ事を考えてるからなのか、会話をしてる筈なのに今自分は独り言を言ってるんじゃないか?と錯覚しそうになる不思議な感覚を楽しみながら、更に彼女の行動『を』エスカレートさせていく。

「こういうポーズとか好きでしょ?」
「おお…!」
 そう言ってニヤニヤしながら制服のブラウスのボタンを上から順番に外していく。
 ブラウスの第三ボタン、隙間からブラジャーとおっぱいの谷間がチラリと見える位置で手を止めて前屈みになる。
 そんな姿を食い入るように見ても怒らない。
「元の上坂さんならそんな目で見てきたら間違いなく蹴飛ばしてるね。」
「そもそも上坂さんはこんなポーズしないでしょ。」
 彼女ならあり得ない…というか女の子ならあり得ない行動だけど、中身が女の子じゃなくなった今では僕が見たいと思ったら躊躇なくやってくれる。
「それにこっちはちゃんと上坂さんの記憶は分かるんだよ。」
 ニヤリと笑い、自分の股間と胸に手を添える上坂さん。
「私ってオナニーは週2回するの。でも男の人とのエッチについてはあんまり詳しくなかったんだ。…だけど君のエッチな本とか動画の記憶のせいでムッツリ女になっちゃったの!」
 上坂さんそのものな口調や仕草のまま、まるで日常会話のように女の子が普通なら言えない事を喋る。
「女の子の体って凄いのよ。男の子よりずっと気持ち良くて…」
「…!待って!」
 パタパタと、階段を登るスリッパの足音が扉の向こうから聞こえてきた。
「「まずい!お母さんが来る!」」
 2人して慌てながら、上坂さんがブラウスのボタンを止めていく。

『ちょっと入ってもいいかしら?』
「う、うん。大丈夫だよ。」
 お母さんが扉をノックする直前、なんとか服を整え終えたのを確認してから了承する。
「邪魔してごめんなさい。お菓子とジュースを持ってきたの。」
 そういってお母さんはテーブルの上にお菓子とジュースの入ったコップを載せたお盆を置く。
「まあ!ありがとうございます、おば様。」
 まるでスイッチをオン・オフで切り替えるように、僕っぽさやさっきの慌てようを完全に消しさってお母さんと話始める上坂さん。
「いいのよいいのよ。迷惑じゃなければ遠慮せずこの子の相手してあげて。」
「そんな迷惑だなんて…」
 早速『上坂さんを僕と付き合わせる』という元々の計画を実行して、いかにも僕の事が気になるかのように恥ずかしそうな顔をしてこちらを見つめてくる。
 雰囲気まで完璧に上坂さんに…それも本性を隠した優等生な姿になっているから、彼女の整った可愛い顔でそんな事されると中身を知っていてもドキっとしてしまう。

 しばらく上坂さんとお母さんの2人が雑談して、その合間で僕が相づちを打つ形で会話をする。
 付き合ってはいない友人だけど、明らかに僕に好意を持っている女の子。
 もう1人の僕となっている彼女はお母さんから見た上坂さんのイメージをそういうふうに固定していく。
 本来の彼女は好意どころか僕の事をちゃんと覚えているかも分からないのに、そんな事を知らないお母さんはすっかり信じ込んでいる。その事実に僕は今すぐ興奮して飛び跳ねたくなるのを我慢して2人の会話を聞いていた。

「うふふ、じゃあお母さんは晩ごはんの準備しないといけないから、ゆっくりしていってね。」
「はい、ありがとうございます。圭太くんとは色々お話したい事があるので。」
 アイコンタクトのつもりか、何か言いたそうな期待に満ちた目で僕を見た後やっと部屋を出ていった。

「「……」」
 2人とも黙ってお母さんが部屋から離れるまで足音を確認する。
「んふふ。単純に記憶が読めるだけじゃなくて身体とか魂に染み付いてるクセみたいな部分も引っ張り出せる感じかしら?おかげで『僕』の時に苦手だった事もできちゃうのよ。」
 もう大丈夫だ。そう思ったタイミングで上坂さんが話始める。
 発言の内容は明らかに上坂さんではないけど口調や”フインキ”だけなら本人そのもので、今も続いてる『以心伝心』がなければ実は正気に戻ってるのではないかと警戒していただろう。
「頭の回転も演技力も上坂さん譲りだし、身体も違和感なく動かせちゃう。おかげでクラスの皆だけじゃなくて私のママにも中身が違うってバレてないの。」
「すごい!これなら上坂さんが僕の思った通りに動くのとほとんど変わらないね。」
「でしょ?さて、邪魔者は居なくなったしゆっくり話しよっか。」
 上坂さんはベッドの端に座っている僕に近づいて、そのまま向かい合う形で膝の上に乗ってきた。
 僕の腰に足を絡ませ抱きしめながら身体を密着させる。
「私って柔らかいしイイ匂いがするでしょ?興奮する?」
「う、うん…」
 女の子の甘い匂いと温もりを彼女の着ている制服のブラウス越しに感じた。
 僕がやらせていると分かってても身体は本物の上坂さんだ。彼女の澄んだ声でそんな事を言われたら当然のように興奮してしまう。
「印象薄くて情けないヤツって思ってたけど、近くで見るといい顔してるじゃない。」
 ぱっちりとして目でまじまじと僕の顔を覗き込んで観察しながら呟く。男子の相手をする時のキツい表情を見せなくなっただけでこんなに印象が違うなんて…
「ふふ、圭太くんだーいすき。」
 まるで本当に付き合ってる彼女のように甘え声でささやきながら、僕の顔を自分の胸元に押し付ける。
「うわぁ……柔らかい……」
「実はさっきお母さんが来る前にブラ外したんだ。カバンの中に隠したから後で見せてあげる。」
 制服越しでも分かる女の子のおっぱいの柔らかさと温もり。
 クラスの中でも特に大人びた彼女の身体は当然おっぱいも大きい。顔を埋めるのに程よくて、いままで味わった事のないふにゅっとした柔らかい感触が顔面に伝わってくる。
「ねえ、せっかくだしもっとエッチな事しちゃおうよ。」
「さ、流石にそれはマズイんじゃ…」
「大丈夫大丈夫。こっちに任せてくれたらいいから。」
「うわっ!」
 グイっと重心を手前に傾け僕を押し倒す。
 油断していたのと、良くなってきてるといえ体調が悪くて本調子じゃなかった僕は、あっさりとベッドに倒れ込んでしまった。…いや、たぶんケンカ馴れしてる彼女には本調子でも押し倒されてただろうけど。
「今の上坂さんは『僕』の記憶も持ってるから、この前こっそり観てたエッチな動画の事も知ってるんだよ。」
「え?あっ!」
 押し倒した僕の腰にまたがったままニヤリと笑う上坂さんを見て『何をするつもり』なのかすぐに分かってしまった。
「ふふ、君のオチン〇ン硬くなってる…」
「う…」
 ズボンの中で元気になってる僕のチン○ン。
 当然、腰にまたがってる上坂さんにも当たってるし、むしろ自分から尻を動かして股間を押し付けて来ている。
「んっ…そっちがちんちん硬くなってるのと同じで、私の股間も濡れちゃってパンツが大変なの?わかるかしら?」
 密着した上坂さんの股関から漂う生ぬるい温もりと湿った音。女の子は興奮したらそこが濡れるって聞いた事あるけど本当だったみたいだ。
「分かる?私のエッチなとこ押しあててるの。」
「い、いいのかなこんな事しちゃって…」
「気にしない気にしない。だって昨日の夜から好き勝手してるんだよ?」
「す、好き勝手…ごく」
 上坂さんの身体を使って何をしていたのかは聞かなくても簡単に想像できる。
 なにせ彼女は性格さえ考えなければ間違いなくクラスどころか学校一可愛いのだ。
「このおっぱいを揉んだり…」
 自分の身体なのに他人の物を触るような、お気に入りの玩具を触るような手付きと表情で、両手で自分の胸を触る姿を僕に見せつける。
「こんな感じで股間を机の角にグリグリしたり…」
 そう言って硬くなったチン○ンをなぞるように、リズム良く前後に腰を動かし始めた。
 あくまでお互い服を着たまま『本番』ではないけど、ズボン越しでも気持ちよく刺激してくる。
「んっ…んっ…んっ…」
「うっ…すご…っ…!」
 上坂さんもしっかりと『自分が気持ち良くなる場所』を体重を乗せ押しあててるから、彼女の口からだけじゃなく股間からもクチュクチュとエッチな音が聞こえてくる。
「あん!あっ!ああぁぁん!」
「んっ…くぅっ!」
 限界をむかえて頭の中が真っ白になるのと同時に、チ○チンから勢いよく精液が飛び出した。
「はぁ…はぁ…」
 汚れたパンツの中の気持ち悪さより上坂さんの甘い匂いと跨ってたまま脱力した重みの気持ち良さが上回る。
「はぁ…はぁ…一緒にイッたね。」
 頬を紅くしていつも以上に大人っぽい”フインキ”を出しながらそう言った上坂さんの姿を見て、僕の股間は再び硬くなってしまった。
「…こっちもまだまだ続けれるよ?」


・・・・・


「やっぱり上坂さんの身体は最高だ!」
 お互いに何回もイッてスッキリした、流石に帰るのが遅くなっちゃいけないからと僕から離れた上坂さんが自分の身体を抱きしめながらそう言った。
「元の彼女が知ったらボコボコにされちゃうね。」
 どう考えても人の身体を勝手に使ってやっていい事ではないけど、彼女の日頃の行いや見た目の良さを考えたら『仕方ない』と思ってしまい罪悪感はあまり無い。むしろ遥かに嬉しさが勝っている。
「ふふ。大丈夫、上坂さんは完全に僕になってるみたいだから。」
「やっぱりそうなんだ。そういえば『ずっと効く』って言ってたもんね。」
「『僕自身』はそっちの一部なのかな?なんとなくだけど上下関係?いいなりって訳じゃないけど元の僕に逆らえない気持ちがあるみたい。」
 薬を飲んだ僕と上坂さんが出会ってからなんとなく感覚で分かった事だけど、たぶん今の上坂さんはあの薬を飲んで『吐き出された』僕の魂の一部が彼女の中に入り込んだ状態だ。
 僕と彼女を乗っ取った一部はまだ繋がりがあるみたいで、『分身』とか『親機と子機』みたいな関係っぽい。
 しかも彼女の意識は消えたり眠ってる訳じゃなく、僕との境目がなくなるまで混ざってしまっているようだ。
「まあ、混ざったっていっても意識が完全に僕になってるから消えちゃったのと変わらないけどね。」
 そんな事を言われても思ったより罪悪感や恐怖心は感じなかった。彼女の日頃の行いのせいなのか、あくまで命を奪ったわけじゃないからなのか…ひょっとしたらこういう所も薬の効果なのかもしれない。
「これからは僕にだけ都合のいい女の子として、裏では好き勝手してあげるね。」
「いいねそれ。下手に正体をバラしたり女子を敵にするより上坂さんを利用してる感じがする!」
 薬を押し付けた男子への恨みがあったけど、上坂さんとエッチな事が出来たから許してあげよう。
 でも、男子にバラしたら『中身が僕なら』って自分たちも好きにしていいって勘違いしてしまうのは目に見えている。
 折角手に入れた上坂さんを僕以外の人にまで使わせるのは『勿体ない』し、女子の間にある彼女の評価を下げちゃうのもなんだか彼女の価値が下がる気がして『勿体ない』。
 あくまで表向きには今まで通り、でも裏では今日みたいに僕に都合よく、そうやって僕だけに”いいなり”な上坂さんにしてあげよう。
「「明日から楽しみだなぁ!」」








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