薬でいいなりにしようとしたら…

  作: N.D


 ぱっちりした目にチャームポイントの泣きぼくろ、光り輝くような白い肌と長くて綺麗な黒髪、聞き心地のいい澄んだ声、同学年の女子より大人びた“フインキ“とスタイルのクラス一…いや学校一と言っても問題ない美少女。
 そんなクラスメイトの『上坂八枝』は校内でも有名な女子だった。

 ……しかしその正体は一人で男子数人を負かす事ができるケンカの強さと機嫌が悪いという理由だけで男子に暴力をふるう“リフジン“さを持ちながら、大人の前では勉強も運動も出来る真面目で頼れる優等生という猫をかぶっているクラスの暴君だ。
 喧嘩でも口喧嘩でも男子を負かせるその強さから女子には慕われ、逆に男子には非常に恐れられている姿はクラスのピラミッドの圧倒的な頂点。
 『そんな彼女を今こそ男子が団結して懲らしめてやろう』と、クラスの男子18人中12人…2人は病欠…が近所の公園に集まった。
 内容が内容だからこの手の男子の集まりとしては最大規模となった…のは良いんだけど。
「決闘だ!全員で立ち向かおう!」
「やっぱり話し合いで仲直りを…」
「先生や大人に正直に話して泣きつこう。」
「しかし"男のプライド"が。」
 さっきからこうやって、あーでもないこーでもないとろくに進展しない話するだけでなんの結果も出ないまま時間が過ぎていく。
 そうこうしてる間に塾や家の用事を理由に参加者が減ってしていき、『こんな集まりで名案が浮かぶなら最初から苦労はしないのだ』と皆が気付いた頃には人数が当初の半分以下になっていた。
『ねぇ、ちょっといいかな…』
 そんなタイミングを狙っていたのか、今までほとんど喋っていなかった"眼鏡の男子"が話を切り出してきた。
『実は1つだけ方法があるんだ。』
 そう言って不気味な見た目の液体が入った小さな容器を皆に見せる。
『この薬を使うんだ。』

 説明によれば、これを飲んだ人は『念じた相手をいいなりにできる』らしい。
 この容器一つで一回分で手持ちはこれ一つだけ。
 一度でもいいなりになった人には『ずっと効く』し後から上書きできないから、上坂さんを『いいなり』にして復讐できる権利が貰えるのは一人だけしかいない。
 と聞けば皆が飛び付きそうなのだが、僕も含めて誰も手を取ろうしない。
 何故かというと、まずこの薬は見た目が怪しすぎた。飲み物とは思えない紫のような緑のようななんとも説明しにくい不気味な色で『薬だから』と言い訳できない毒々しさだ。
 これじゃ本物かどうか話し合う以前の問題だ。
 しかも眼鏡の彼も実際に使った事がないから『いいなりにできる』って言っても具体的な効果は分からないらしい。
 しまいには「そんな気味悪の飲んで大丈夫なのか?」なんて皆が思いながらギリギリ踏みとどまっていた事を言ってしまった相手に、『どんな副作用があるのか不明だから安全の保証ができない。』ときっちり返してきた。

『それでも誰か飲んでみる?』

 こんなのただの毒薬だ。
 確かに全員上坂さんに不満がある。けれども流石にこんな胡散臭さと不気味さしかない物を飲むなんて、そんな文字通りの命懸けでやり返したいって勇気は誰も持ってない。
 あくまで安全で大事にならない確実な復讐がしたい…結局僕を含めて全員がそんな消極的な考えしか持っていなかったのだ。
 自分でやるのは嫌だけどもしも薬が本物だった時に復讐できないのは勿体ない、だから誰か代わり飲んで欲しい…皆がそんな空気になって話が進まなくなってしまった。

 流れが変わったのは進行役になっていた男子の一言だった。
『なあ圭太。お前飲んでみないか?』
「え?あ!僕?」
 咄嗟にうまく反応する事ができず声が裏返ってしまう。
 僕はなんとなく流れで来てしまったけど彼女に勝てる作戦なんて思い付かないから、ずっと一歩引いた空気で参加してた。その事に気づかれたのか『自分が飲むのが嫌ならば自分以外の誰かに押し付けよう』と思った彼に不意打ちで僕が名指しされてしまったのだ。
『そうだよ!お前なら出来るって!』
『だな。さっきから薬を見てたし。』
『よし!なんなら今から試してみようぜ!』
 そして、隙を見せた僕が悪いとばあかりに皆で僕へ押し付ける流れで団結を始めたのだ。
「いやっ流石に今飲むのは…」
『じゃあ持って帰って飲め!』
「ちょ、ちょっとまってよ…!」
 い、いやだ!あんな気味の悪い液体を飲むのは絶対に嫌だ!なんとかして他の誰かに押し付けなきゃ!


・・・・・


 なんて頑張ってみたが、結局押し負けて薬を持って帰ってしまった。
 こうやって断れないから皆に押し付けられたのかもしれないと反省しながら、改めて薬の容器を確認してみる。
「これ本当に飲み薬なのかな…」
 ヤク◯トみたいな形と大きさの容器で量は少ないけど、中身の不気味な液体は糊みたいにドロッとしてて飲みにくそうとかそれ以前に人が飲んでいい物に見えない。
「いいなりにできる、かあ…」
 あまりの薬のうさん臭さとその場の勢いで深く考えてなかったけど、もしこれが本物だったらものすごく恐ろしいものなんじゃないか?
 実際に飲んでみないと『完全な操り人形』になるのか、強力な惚れ薬で『どんなお願いも聞いてくれる』ようになるのか、それとももっと別の効果なのか分からないけど、渡してきた本人は『いいなりになる』のだけは間違いないと断言していた。
「いいなりに…」
 本当にいいなりなるなら、例えば僕が皆の前で裸になれって一言命令すればそれだけで彼女の評判はガタ落ちだし、もっと直接的に何か犯罪をさせてしまえばこの先の人生が終わってしまう。

 そこまで考えると逆に怖さの方が…

 ー『あんた蹴りやすいわ。』『邪魔よ!…自分の席に座ってるだけ?知らないわよ!』『男子のくせに情けないわね!』ー

 …いや訂正だ。彼女には悪いけどリフジンに振るわれた暴力の数々を考えたらそんな恐ろしい物を使われても仕方ないと思う。
「日頃の行いって大事だなぁ」
 ここで少しでも優しさを見せてくれた想い出があれば…いや、せめて無害な相手に『何もしてこなかった』のならば、恐怖心や罪悪感で手を止めてたかもしれない。
 けれど彼女はそんな事は全くなかった。どんな男子に対しても容赦がなくてリフジンで、機嫌が悪ければ視界に入っただけで暴力をふるってきたのだ。
 そんな訳で僕も皆と同じく上坂さんへの不満が溜まりに溜まっているから、仕返ししても罰は当たらないだろう。
「でも、何をしたらいいかな?」
 皆の前で裸にする…までやっちゃったら大人を巻き込んだ大騒動になりそうだからやめておこう。
 ここは何かもっと別の問題にはならないような、それでいてプライドの高い上坂さんが屈辱を感じるような方法を考えてみよう。
 例えば土下座して今までの事を男子に謝らせるとか、今までとは逆に女子から男子を守らせるとか…
「そうだ!上坂さんには僕の彼女になって貰おう。」
 それはふと閃いた一石二鳥の名案。
 上坂さんは中身があれでも黙っていれば間違いなく可愛い。そんな人がなんでも言うことを聞く彼女になれば最高だし、僕の事は『見下してるただの男子』としか思ってない彼女にとって間違いなくプライドを傷つけられる行為だろう。
 うん、よし。なんとか気持ちが盛り上がったこの勢いで思いきって薬を飲んでみよう!
 流石に本当に毒物を渡してくる訳がないだろうし、ニセモノでもめちゃくちゃマズイ何かだろう。ここは覚悟して飲むんだ!
「うっ…気持ち悪い…」
 なんて色々前向きに考えながら勇気を出してみたけど、フタを開けた瞬間その勇気では一気に消えてしまった。
 子供向けの歯磨き粉とジャムを混ぜて煮詰めたような甘ったるい匂いが部屋中に広がり、キツすぎる匂いを嗅いだだけで頭がクラクラする。
 これなら逆にもっと薬って感じの匂いの方が飲みやすかったかもしれない。
「うへぇ…やっぱり飲むのは怖いなぁ。」
 飲むのをあきらめて捨てようかとも考えたけど、もしも本物だったら押し付けてきた他の男子を見返せる絶好のチャンスだと自分に言い聞かせ踏み止まる。

 彼らは上坂さんにシイタゲラレタ仲間じゃなくて、僕なら犠牲になってもいいと思って押し付けてきた裏切り者だ。もし成功したとしても上坂さんは僕が独り占めしてやる!
「よし、行くぞ!待っていろよ上坂さん!」

 そうやって何重にも覚悟を決めてやけくそ気味に声を出しながら、とうとう薬を一気飲みした。

「うぇっ…!」
 吐き出すのを我慢して無理矢理飲み込んだけど、液体がドロッとしてるせいで喉から胸元を通ってお腹へゆっくり移動していくのが分かってものすごく気持ち悪い。
 早く薬の効果が現れてくれと必死に願いながら意地で吐き出すのを堪え続ける。

「ま…まだ…かな?おぇ…っ…」
 そうやって胃に到達した薬の感覚に脂汗を流しながら耐える事20分。今度は薬の効果なのかじんわりとお腹の周りが内側から熱くなってきた。

 けれどもこれは楽になってきたってわけじゃなさそうだ。

 まだ体を動かせばお腹の中で『どろり』とした薬の感覚は残ってるから吐き気はそのままだし、全身に広がっていく熱の影響で風邪を引いた時みたいにふわふわした目眩と浮遊感まで…
「うわ…これ、キツい…」
 まるで頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されてるみたいな気分だ。
 まとまらない頭でなんとか「このまま倒れたら危ない」と思ってふらふらしながらベットまで移動する。
 横になったら多少落ち着いた気はするけど、吐き気だけはむしろどんどん大きくなっていく。
 まだたえないと。ガンバってたえて上坂さんを…
「うっ…ダメだ…!」
 とうとう耐えきれなくなって『お腹の中のモノ』を吐き出してしまった。
「おえええぇぇ…!」
 幸い今日の夕飯やさっき飲んだ薬は吐き出さなかったが、生暖かいゲップのような見えないナニかが口から飛び出す感覚を感じなから意識を失って…


・・・・・
・・・・
・・・


 気がついたら『見知らぬ』部屋のベットに寝そべっていた。
 ここはどこだろう?
 首をかしげると部屋に漂う嗅ぎ馴れない甘い匂いが鼻をくすぐった。
 ベッドや棚の上に置いてあるぬいぐるみ、壁にかかった花柄の可愛い飾り付け、どれも女の子が好きそうな可愛くてファンシーな“雰囲気“での物ばかりで男子の僕の部屋とは似ても似つかない。
 いつの間にか手に持っていたのは見覚えのない少女漫画だ。なんとなくページをめくってみたけど女の子と大人の男の人が恋愛する内容みたいで、あまり興味がなかったのでその辺に適当に置いておく。
 そしてその時、僕の手が女の子みたいに細くて小さくてスベスベしている事気がついた。
 不思議に思ってグーパーと開いたり閉じたりしてみると、どうみても自分の手じゃないのに動かす事にまったく違和感がない。
 ここまで馴染んでいると『逆に』違和感があるくらいだ。
 次に髪。僕の髪は少し茶色いくて耳にかからない程度の長さなのに、さっきから長く綺麗な黒色の髪が視界の端を隠している。
 触ってみると凄いサラサラしてるし僕の知らないシャンプーの良い香りがする。どうやらさっきから漂ってる甘い匂いは部屋だけじゃなく僕自身からもしてるようだ。
 更に自分の身体を見下ろしてみと着ている服は女の子用の薄いピンクのパジャマだった。当然僕はこんなの普段は着ないし持ってすらいない。
 そしてそのパジャマの胸元には男の僕に存在しない筈の2つの膨らみ。
 これってもしかして…そう思いながら恐る恐るパジャマの胸元を引っ張って中を覗きこんでみると、そこには間違いなく女の子にしかない胸の膨らみがあった。
 間違いなく、これは女の子のおっぱいである。
「ほ、本物だ…僕、女の子になってる!!」
 僕の口から飛び出した声は最近声変わりした低い音じゃなくて女の子の高くて綺麗なモノだった。
 どうやら服や周りにある物も含めて全身が女の子になってしまったみたいだ。
「凄い!これが女の子おっぱい…ごくり。」
 『これは確認だから』と自分に言い聞かせながら、パジャマの上から手の平で優しく包むように触ってみる。
 程よく細くて綺麗な指で掴んで揉めるサイズ感で、いままで味わった事のないふにゅっとした柔らかい感触が手に伝わってきた。
「うわぁ……柔らかい……」
 どうやら今の僕は大人とまではいかないけど同年代の女子を基準に考えてみたらかなり発育が良い身体になってるみたいだ。
 不細工ではない…と自分では思ってるけど、流石に自覚できるくらいには地味な見た目の僕がただ女の子になったってだけでこんな大人びた身体つきになるんだろうか?
 というより、どう考えてもこうなった原因はあの薬だけど、薬の効果は『念じた相手をいいなりにできる』であって 『女の子になる』じゃなかった筈だ。
 しかも身体だけじゃなくて着ている服や部屋の中まで全部女の子のものに変わっていて、まるで全くの他人になったみたいだし……
「あっ!まさか!?」
 ふと閃いたのは、今の僕はほんとに他人になってる可能性だ。
 それこそ『強く念じていた相手』は髪も長くてサラサラだしおっぱいも同年代の中では大きくて、まさに今の僕の体つきにそっくりではないか。
「何か確認できるものないかな?……ん?」
 鏡がないかなと周りを確認しようとした瞬間、ふと頭の中に『クローゼットの扉の内側にある姿見』が思い浮かんだ。
 不思議に思いつつも、何故かそこにあるんだという確信を持った僕はベッドから立ち上がる。
 いつもより軽くて動きやすい身体にドキドキしながら、クローゼットの前まで移動する。
「………」
 扉を開けたら頭の中に思い浮かんだ通りの位置に思い浮かんだ通りの形の鏡があった。
「うわぁ!やっぱりだ!」
 ぱっちりした目にチャームポイントの泣きぼくろ、光り輝くような白い肌と長くて綺麗な黒髪、同学年の女子より大人びたフインキとスタイル。
 驚きと喜びが混ざった表情で鏡に映っているのは地味で特徴のない僕こと『中平圭太』じゃなく、クラス一…いや学校一と言っても問題ない清楚な美少女『上坂八枝』だった。
「すごい!声も違う!」
 口から漏れた声は最近声変わりして低くなった僕の声とは全く違う澄んだ高音だ。
 聞き心地がいいけどなんだか学校で聞く上坂さんの声とはちょっと違う。
 そういえば前にテレビで自分の声は周りが聞いてるのとは違うって話を見た事あるけど、それが原因なのかもしれない。
「っ……なんだこれ?頭の中に…?」
 上坂さんの姿になっているのをはっきりと自覚した瞬間、大量に自分の知らない記憶が頭の中に流れ込んで…いや、『思い出して』きた。


・・・・・


 今日も充実した1日だった。
 放課後に男子がコソコソと集まってどこかに行ってたけど、きっと私に何かするための話し合いでもしてたのだろう。
 いつも私の方を見ながら話をしていてバレてないと思っているのだろうか。ああいう考えて無しな行動をするとこが子供なのだ。
 そんな事を考えながらベッドに横になる。
 お風呂上がりでまだ暖かい体を手で扇いで冷ましながら、反対の手に持ったお気に入りの漫画を開く。

 ごく普通の女子高生だった主人公がカッコいい年上の男の人と出会って恋に落ちて、次々起こるトラブルに悩んだり苦労しながらも二人の仲は接近していき…
「やっぱりいい!いつかこういう恋愛してみたい!」
 クラスの男子みたいな子供っぽくて情けないやつらじゃない頼れる大人の男性への憧れ。
「あいつらがこの漫画に出てくるカッコいい大人になれるとは思えないな?」

 そんな事考えていたら、突然私の背中へ何かが触れてきた。
「ひゃうっ!?」
 生暖かくてドロッとした姿の見えない空気のようなナニカが、服や肌をすり抜けてじんわりと身体の中に流れ込んでくる。
 慌てて背中に手をまわしたけれどナニも触れない。それなのに、触れれない何かは私の中にどんどん入って来ている。
「やっ…なっ…あぁっ…」
 背中を伝って染み込むように全身へ広がって中身を塗りつぶされていく。
 飛び起きて逃げようとしたけど上手く体が動かず、助けを呼びたくても口からはうめきが漏れるだけでまともに抵抗できない。
「ぁ…ぁ…ぃゃ…」
 その間もナニカはどんどん私の中に入ってくる。
 全身の感覚が薄れて、視界が霞んで耳も聞こえにくくなってきた…
 『頭の中』にまで入ってこられて…意識が薄れ…いや、これは飲み込まれ…て…


 思い出したのはナニカこと『僕』が身体の中に入ってきて、身体の持ち主の意識が消える瞬間までの記憶。
 もしくは今の僕が上坂さんの姿に変身してるんじゃなくて乗り移って本人の身体を動かしている証拠だ。
「すごい!これ全部本物の…」
 着ている服装も見ず知らずのこの部屋も髪から漂ってる甘い匂いも澄んだ声も全部本物の上坂さんの物で、唯一違うのは身体を動かしている中身だけ。
「クローゼットの中身も全部上坂さんの着たことある服なんだ。」
 しかも彼女の記憶まで『思い出せる』みたいだ。
「へ~この服は誕生日に買ってもらったんだ。こっちは皆が可愛いって言ってくれた…けど男子には可愛いすぎて似合わないって言われて喧嘩になったやつ。」
 最近着た服・お気に入りの洋服・その服がお気に入りの理由……クローゼットの中を確認すると、それにちなんだ上坂さんの記憶が次々思い浮かんでくる。
「この前のプールの授業休んだじゃない?男子はサボりだろって言ってきたけど実はあれって生理が来たからなの。」
 もちろん思い出せるのは服についての話だけじゃなく、友達とのナイショ話や親も知らないとっておきの秘密といった上坂さんの頭の中にあるものは何でも分かる。
「男子なんてガキだから嫌いよ。やっぱり木村先生みたいな大人の男の人じゃないとダメね!」
 自分の父親とくらいの歳の大人の人が好きなのは意外な事実だ。友達にも秘密にしてたけど、今の僕なら上坂さんの事ならなんでも自由に盗み見る事が可能だ。
「人の身体を盗るなんて、やっぱり男子みたいなガキはサイテーね!」
 身体が本物だからいつもの男子を見下した表情で『それっぽい事』を言えば簡単に上坂さんになれる。
「えへへへ、でも盗まれても仕方ないよね。だって私の普段の行いが悪いんだから。」
 …それも長く続かない。油断すればすぐに鼻の下を伸ばしたニヤケ顔になってしまうからだ。
 色々と台無しだけど本人なら絶対やらない表情だし、これはこれで薬の効果を実感できて興奮する。
「なるほど。これはこれで、ある意味僕の『いいなり』になってる状態だね。」
 思ったのとだいぶ違うけど全然悪くない。
 冴えない男子とは全く違う美少女になって、その身体を好きにしていいなんて言われたら嬉しいに決まっている。
「だからこの身体は僕の好きに使わせて貰うよ上坂さん。」
 鏡に向かってそう宣言してみる。
 当然ながら目の前に映る上坂さんは怒る事なく鼻の下を伸ばすだけだ。
 そういえば彼女の意識はどうなってるのだろう?もし意識が残ってるなら罵詈雑言の嵐なんだろうけど、今のところそういう抵抗や拒否は感じない。
「えへへ、まあ今はいっか」
 頭の中で眠っているのか、実は意識があるけどコッチからは分からないだけなのか…もしかしたら消えちゃったのかもしれないけれど、残念ながら僕にはそれを確認する事ができない。
 まあ今さら『そんな事』どうでもいい。
 もしも実は眠ってた意識が目覚めて身体の主導権を取り戻されたりしたら勿体無いし今の内に目一杯楽んでおかなきゃ。
「何しよっかな?またおっぱい触っちゃってもいいかな?…うん、いいわよ!」
 鏡に映る上坂さんが快く了承してくれた。
 口調はあまり似ていなくても姿と声は本物だから、僕が喋らせてるのにまるで本人がOKしてくれたと錯覚しちゃいそうになる。
「私のおっぱいって同い年の中だと結構おっきいのよ。実は普段からブラ着けてるんだけど、今日はもう寝るだけだから脱いじゃってるの。私のおっぱい見てみたい?」
 誘うような言葉を喋らせながら胸元のボタンを外していく。
「うっわぁ!これが女の子のおっぱい…!」
 服の下から現れたおっぱいはやっぱり同い年とは思えない大きさで、先っぽにあるキレイな薄いピンク色の乳首はちょっと硬くなって尖っていた。
「女子はおっきいのが嫌なんだぁ。勿体無いなぁ」
 上坂さんや他の胸が大きい女子は基本的にそれがあまり嬉しくなかったらしい…という記憶を引っ張り出しながら、おっぱいをむにゅっむにゅっと強めに揉んでみる。
 僕の手の動きに合わせて形が変わるおっぱいを特等席から見るのはすごくエッチなんだけど…
「うーん…思ったのと違う…」
 柔らかくて感触は気持ちいいしすごく興奮してる。けれどもっとこう、前に見た動画みたいに軽く揉んだだけで気持ちよくてエッチな声でちゃうものかと思ってた。
 記憶と身体を手探りしながら物足りなさの理由を考えてみる。
「んっ…あんまりオナニーしたこと無いんだ…」
 本物の女の子の身体の事は詳しくないけど、これなら皆で回し読みした本やネットの動画で見た知識で上坂さんよりエッチな事には詳しいかもしれない。
「んっ…そうか、乳首の先っぽが…」
 おっぱいの先っぽ、すでに興奮して固くなってる乳首を指先で弄る。
「あっすご…あはんっ…」
 くすぐったいようなピリピリした気持ちよさに合わせてちょっとわざとらしい声を出してみる。
 多少気恥ずかしさもあるけど、こんな言葉を『僕が言わせている』事実の方に興奮して股間が熱くなってきた。
「やっぱりちんちんがついてない…」
 ムズムズして太ももを擦り合わせると馴染みの感覚がないのが分かってなんだか落ち着かない。
 さっきから何度も繰り返してる身体の性別や体型の違いからくる違和感。
 それを自覚すればするほど上坂さんの頭の中から関係した記憶や知識が引っ張り出されて、僕の意識とこの身体の違和感が減って馴染んでいく。
「ここ触ったらいいのかな?」
 記憶を確認しながらズボンの中に手を入れる。
 身体が覚えてる気持ちのいい場所を指先で探るように触れると、ヌルッとした湿った感触と音がした。
 女の子は興奮したらここが濡れるって聞いた事あるけど本当みたいだ。
「ん…ここらへんを…あんっ…!」
 乳首を触った時より強い刺激が体を通り抜け、今度こそ勝手にエッチな声が漏れた。
「んっすご、ここさわったらっあっ!あっ!」
 湿った温もりを手先で感じながら指で割れ目をかき分けて、ソコに反対の手の指先を挿入れる。
「あっあっやばっこれやばいっ!」
 指を出し入れしながら気持ち良い場所を擦っていると、さっきと比にならない電流が流れるような刺激が全身を走ってエッチな声が止まらない。
「あっあんっあっいっちゃう!」
 とうとう込み上がってくる気持ち良さが限界に達して…
「あっはぁぁああぁぁぁっ!」


・・・・・


 気がついたらカーテンの向こう側も明るくなっていた。
「んっふぁ~~」
 カーテンを開き、射すような日射しに当てられてあくびが漏れる。
「オナニーしすぎたぁ~」
 女の子の身体で感じる未知の気持ち良さ、強い刺激を感じる度に身体と馴染んでいく高揚感と征服感、それらにやみつきになった僕は夜通しこの身体を弄り続けた。
 ちょっと羽目を外しすぎた気もするけど、そのおかげで元の身体との違いや上坂さんの記憶の思い出し方もだいたい分かった。
 どうやら単純に記憶が分かるだけじゃなくて身体を操る延長として『頭の中』も使えるみたいだ。
「私って大人っぽいのは見た目だけじゃなかったみたい。」
 それを利用すれば彼女お得意の『猫をかぶった演技』でこんな風に口調を真似するのも簡単に出来る。
「上坂さんの意識が残ってたらタダじゃすまいんだろうなぁ。ふふ。」
 僕が確認できる彼女の最後の記憶は身体を侵入してきた僕の意識に飲み込まれてく瞬間だ。
 そのまま消えちゃったのか僕に押しやられて眠っているのか分からないけど、今のとこ内側から抵抗されている感じはない。
 最初は「薬の説明とここまで違ったんだから『効果がずっと』っていうのも間違いかもしれない」なんて思ったりもしたけど、既に『時間が経つほど僕の意識とこの身体は馴染んでいってる』のが感覚的に分かってその可能性が薄いと察している。
 正直な所、もしかしたら一生このままかもしれない…なんて本気で考えたている。
「戻れないなら戻れないで、それこそ大事に使わないとね。ふふ。」
 とはいえ、不思議と恐怖心も罪悪感も全く感じていなかった。
 現実感の無さすぎる今の状態で色々マヒしてるのか、メンタルの強い上坂さんの身体を使っている影響なのか、『ホンモノの上坂さん』を消してしまった事より『学校一の美人の身体を奪っているという事実』への喜びの方が上回っているのだ。
 ひょっとしたら『これ』も含めて薬の効果なのかも。
「まあいいや、今そんな事考えてもキリがないし。」
 今何より大切なのは、思ってたのと違ったとはいえ上坂さん『の身体と意識』を僕のいいなりにできているという事実だ。
 元々は操った彼女を僕と付き合わせててプライドを傷つける予定だったけど、僕が直接この身体を操ってるとなれば話が変わってくる。
 僕の元の身体がどうなってるのか分からないし、一生この身体のまま過ごさないといけないってなった場合は復讐だなんて言ってられない。
 ある意味それ自体が復讐になりはするけど、そうなれば上坂さんの評判を下げる行動をして困るのは『僕自身』になってしまう。
 なので、今の自分や上坂さんの意識がどうなっているのか?や元の身体に戻れるのか?が分かるまで、上坂さんになりすましたまま過ごす方が都合が良さそうだ。
「さて、まずは『ママ』に朝の挨拶しにいかなきゃね。」
 まずは戻れなくても大丈夫なのか調べるためにも、上坂さんの家族に会ってみてホントに彼女になりきれるのかしっかり確認してみよう。
「大丈夫。記憶も身体は私の物だから『ちょっと様子がおかしい』って思われても、流石に『中身が別人』だなんてバレるわけがないわ。」
 なんて言わせながら鏡を向いてにっこりと笑顔を作り、やや寝不足なのを除いて上坂さんのいつも通りの朝を満喫しに向かった。











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