『迷い家の妖蝶』

作:九重 七志 

「今日はなかなかいい獲物がいねーなぁ」

貴重な憑依薬を使って外に出ては見たものの、今日に限ってロクな女に出会えない。

「もっとさぁ、出るところが出て――とか、めちゃくちゃ感度が――とか、そういう美女、美少女いないもんかねぇ」

住宅街はとうに通り過ぎ、もはやここは山の中だ。こんなところに女が居るはずもない。

「山越えて隣町まで行くか、戻って適当なので手を打つか――うん?」

霊体の目は生身よりもよく見える。
遠くの方に、なにか家のようなものがあるのを見つけた。

「……行ってみるか」

こんなところに家があるとは思わなかったが、あるもんは仕方がない。
せめて美女がいればいいなと、僅かな望みに賭けてみることにした。

「うわっ、なんだこれ……超豪邸じゃん」

超豪邸は絶対に言いすぎだが、この片田舎にしては妙に立派な――昔の殿様が住んでるような大きな屋敷がそこにあった。

「門は閉まってるけど、関係ねえな」

幽体に壁や扉なんて何の意味もない。
すっと通り抜けて、敷地内に入り込む。

「全っ然ヒトの気配ねーな……」

何部屋か回ってみるが、まるで人の気配がない
何年も使われていないようにも見えるが、不思議とホコリひとつない綺麗さだ。

「俺の部屋とは大違いだな」

何をしてても汚れる自室を思い出し、なんだかバカバカしくなってくる。

「誰もいなさそうなら、もうとっとと帰るか――」

――などと思い、最後の部屋の障子をすり抜けると――

「おっ」

そこには――暗い色の着物を着た、黒髪の少女が立っていた。

「なんだよ、いるじゃん。
 さーて、顔はどうかな〜?」

――驚いた。
驚くほどの美人じゃないか。

潤みを帯びた、真雪のような白肌、まるで血をすすったかのような赤い唇
艶やかな黒髪を肩のあたりで切り、背丈はやや小柄でかわいらしく、どことなく人形めいた雰囲気を感じさせた。

「たまにはこういうのもいいねぇ〜」

胸や尻はそう有るようにも見えないが、かえってそういうのの方が感度がいいもんだ。経験則ってやつだ。

「それじゃあ、お邪魔しま――」

――!?

少女と、目が合う――

「なんだ?
 もしかして、が――」

――少女の、目がそれる。

少女の視線の先には――ひらひらと、舞う、


「……なんだよ、驚かせやがって」

どうやらこの黒い蝶を目で追っていただけらしい。

マジで"見れるやつ"ってのは居るらしいが、あいにく俺はお目にかかったことはないね。

「さて、それじゃあ改めて――」

少女の背中側に回り込み、うなじを嗅ぐような位置に付く。

いい匂いしそうな肌してんなぁ、ヘヘッ」

幽体だから匂いは分からないが――どうせ、すぐに分かるようになる

「それじゃ、お邪魔しまーす!」


すっと滑り込むように、幽体を少女の中に押し込んでいく。
「あっ」というか細い声がして、目をまんまるに見開いているのが"わかる"。

ぐらりと揺れる感覚、意識を少しずつ抑え込み、身体は畳の上へと崩れ落ちていく。

声にもならない声が抜け出て、目を閉じたのを理解した瞬間。
俺は、畳のひんやりとした感触を"肌で味わって"いた。

「あはっ」

"俺の口"から、か細くてきれいな声が漏れる。
俺は床に、"真っ白いきれいな手"をついて、"着物の裾"を踏まないように立ち上がる。

布をかけられた姿見の前まで歩き、布を丁寧に外してしまう。
鏡に写った黒髪の美少女は、その整った顔立ちに似合わぬ下卑た表情をしていた。

「憑〜依、成功ッ! ヘヘッ」

俺は"彼女の顔"で、笑い声を上げる。
こんなに汚い口調なのに、声が綺麗だとすげえ興奮するな。なんてことも思いつつ。

「まずは、こっから拝ませてもらいますか」

脱ぎ方など知るはずもない着物をするすると脱いで見せると、体に染み付いた習慣なのか丁寧に折りたたんでしまった

「へっ、育ちのよろしいこって」

丁寧にたたまれた着物を乱暴に押しのけると、俺はまず胸元に視線を向けた。

思ったよりはあるな……でも、まあ貧乳は貧乳だよな」

さらしに包まれて押し込められてはいたが、そこまで締め付けはきつくなかったのでまあ想像はしていた貧相な胸。
ひんやりとした白い指先で、その先端に触れる――

「――ぁっ!」

思った通りだ、めちゃくちゃ感度がいい。
ちょっと触っただけでシビれるような快感が全身を駆け巡る。

「ぁ、ぁ、ぁぁあっ……乳首だけで、こんなッ……」

キュッと足を閉じ、身をよじらせてうずくまる。
吐息はすぐさま荒くなり、漏れる声も次第に大きくなる。

「ぁあっ、あ……あああっ……あっ…いい……」

口の端が湿る感覚、垂れた涎が糸を引き、畳のシミが増えていく。

「ぁ……熱い……あそこが……んっ……」

当然だけで満足できるはずもない
細くきれいな指先は自然と下半身に伸びる。

「んんんんっ!!! あっ、あっ、ああぁんっ!」

段違い、ありえない、途方もない快感
くりくりと固くなった陰核に触れる度、魂まで響くような快感が突き刺さる。

「はあぁあっ、んはあぁんっ、もう、だめ……あっぁっあっぁっ――」

ぬめりを帯びた膣内に細い指を抜き差しする度、快楽の臨界点へと加速度的に接近していく。

――そして――

「ぁっぁっぁっぁっ――あぁぁぁぁああぁあぁぁぁっぁぁあああああ!!!!!」

――俺は、少女の身体絶頂した。




「はぁ……はぁ……」

良かった、素晴らしい、最高の身体だ。余韻さえも心地が良い。
もっともっと楽しみたいところだが――残念ながら、もう体が動かない

「はぁっ、はぁあっ……くそっ、体力のない体だな……」

体中どこを触っても、体液でベトベトだ。
派手に潮を吹く身体も、俺は結構好きだ。

「あー……だいぶ汚しちまったな」

もちろん畳や壁もベトベトだ。
部屋中メスの匂いで満杯で、もしかしたら畳んだ着物にもかかってしまったかもしれない。

「……まあ、いいか」

どうもこのまま起き上がれそうにないし、このままおサラバさせてもらうことにしよう。

「……っ」

少女の身体がビクンと震え、手足がだらんと力が抜ける。
ぬるりと抜け出た幽体の俺は、少女のきれいな寝顔を眺める。

ああ、本当にいい身体だった――

でも、こんなところにこれほどの上玉がいたなんてな。
……一回だけじゃ、物足りねえよなぁ?

また来ることに決めた俺は、キョロキョロと道を調べながら帰途についたのだった――


     
     
       
     
       



――数日後。

いくら探しても、あの屋敷が見つけられない。
場所は間違いない筈なんだが、どこをどう見てもそんな建物は存在しない。

どっかで道を覚え間違えちまったかなあ。

――まあ、いいか。

ちょっと勿体なかったが、お楽しみなんてまあ幾らでもある。
また、別の上玉を探せばいいさ。

俺は、今日も憑依薬を呑み下す。

いつものように、ゆっくりと、意識が薄れていく感覚。

視界の片隅に影が差す。
なにかヒラヒラしたものが見える。

――なんだ、か。

どこから入ったのか、黒い蝶が部屋の中に舞っていた。

――さて、今日はどんな身体を探そうか――

身体からぬるんと抜け出し、獲物を探しに狩りに出る。

間の抜けた顔をした、魂の抜けた抜け殻。

部屋を出る瞬間、振り返ると。
黒い蝶が、すっと、鼻先に止まったのが見えた――

[迷い家の妖蝶]おしまい。

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