美女になって 作: taberou 日曜日の夕暮れ時。 俺はあまり流行ってない銭湯に入ると、手早くジャージと下着を脱いで浴場に向かった。 浴場の戸を開けようとすると、その前にちょうど風呂から上がってきた客が戸を開けて出てきた。俺が横に避ければ、その客は軽く会釈をして浴場から出ていった。 入れ違いで俺が中に入りざっと見回すと、客入りは疎らで男湯には俺と同じぐらいのおっさんばかりが数人ほど先に入っていた。 まぁこんなものかと一人納得し、俺はまず先に体を洗うべく適当に空いていた洗い場に腰を下ろした。 すると近くで髭を剃っていたおっさんが俺の方へ目を向けたが、すぐに視線を外して髭剃りの続きを始めた。 傍から見ればどれもなんてことない光景だが、今の俺にとっては何度味わっても堪らない体験だった。 なぜなら、目の前の鏡に映っている今の俺の姿は、四十代の冴えないおっさんなどではなく二十代の巨乳美女だからだ。 *** 俺がこの姿になったのは、一ヶ月ほど前のことだった。 いつものように一人暮らしのボロアパートで目覚めると、胸の上に重たいものが乗っている感触があった。 いったん何なんだと眠気眼で視線を向けると、そこには寝間着代わりに着ているランニングシャツを容赦なく押し上げるでかい胸があった。 「な、なんだこりゃ!?」 驚いて声を上げると、自分の喉から響いてきたのは野太いおっさんの声ではなく甲高い女のような声だった。 体を起こして全身を見てみれば、チビで太っていた俺の身体はまさにボンキュッボンと形容するしかない体型になっていた。 でかい胸と尻は着ているランニングシャツとトランクスを破らんばかりに押し上げて嫌でもその存在感を主張し、スラリと細長い手足から背も高くなっていることが予想できた。 さらに毛深く日に焼けていた肌は染み一つない白くスベスベとしたものになっており、薄くなっていた髪は長く艶やかなブロンドヘアーに様変わりしていた。 そしてでかい胸が邪魔で視界に入っていなかった股間へ恐る恐る手を伸ばすと、でかくなったケツで食い込み気味になっているトランクス越しからでも本来そこにあるはずのものがなくなって平らになっているのがわかった。 「ま、マジかよ……」 俺は両手で股間を押さえて、ただただ呆然とするしかなかった。 これは夢なのか? にしては意識ははっきりしてるし、やはり現実なのか。 現実ならこれからどうすりゃいんだろ。仕事は行けるのか? それよりもます病院か? でも朝起きたら女になってたとか信じてくれるか? そんなことを考えていると、ふとある物が視界に入った。 それは、机の上に置かれた俺の運転免許証だった。 なんてことないそれに違和感を覚え、俺は手を伸ばしてそれを拾い上げた。 免許証には俺の名前である『太田剛造』の他、あれこれ必要なことが印字されていたが、その中に一ヶ所だけおかしなところがあった。 それは、顔写真だ。 本来ならそこには俺の――冴えない髭面のおっさんの顔が載っているはずなのだが、今手にしている免許証にはブロンドヘアーの美女の顔が写っていた。 「これって、もしかして櫛川リサじゃねーか?」 櫛川リサは、最近人気上昇中の女優のことだ。 フランス人とのハーフだとかで、抜群の美貌とプロポーション、そして迫真の名演技でドラマや映画の主演に抜擢されている有名人だ。 なぜそんな女優が俺の運転免許証の顔写真に写っているのかと疑問に思いながらまじまじと眺めていたが、もしやと思い急いで洗面所へ向かった。 でかい胸の重さにバランスを崩してこけそうになりながら洗面所の鏡を覗きこむと、俺の予想通りそこにはランニングシャツにトランクス姿の櫛川リサがあった。 「つまり、俺は櫛川リサになっちまったってこと、なのか……?」 鏡の中で櫛川リサが――いや俺は困惑した表情を浮かべていた。 もはやこれが夢ではなく現実であることは一向に目が覚める気配がないことから受け入れたが、そうだとすればなぜ免許証の顔写真だけが変化していたのだろうか? もし昨夜から今朝までの間に俺の身体が何かしらの理由で櫛川リサになってしまったとしても、過去に撮ったものである免許証の顔写真はそのままであるはずだ。 訳がわからないことに頭を捻っていると、スマホの着信音が鳴り響いた。 画面を見ると、仕事場の上司からの電話の着信だった。 今のこの状態で出るか迷ったが、このまま放置しておくのも気まずく思い腹を括って電話に出た。 「も、もしもし……」 自分の口から女の声が出ていることに妙な気持ちになりながら通話に応じた。 一人暮らしの男の部下にかけた電話から見知らぬ女の声が聞こえてきたことにまず何か言ってくるかと身構えたが―― 『おう、太田くん。朝から悪いな。実は今日予定してたやつのことなんだが、資料ってどこに置いてたかね?』 上司は何も気にすることなく、普通に会話を始めた。 これには俺の方が面食らってしまい、逆に問いかけてしまった。 「あ、あの!」 『ん? 何だ?』 「いえ、あの、俺の声、なんか変じゃありません?」 『声? いや別に。いつも通りの男にしては高い女みたいな声だが、変なところはないぞ。どうした? 風邪でもひいたか? 体格も女みたいだからってそこまで貧弱でもないだろ?』 「あ、いえ、大丈夫です。なんでもないです。あ、えっと、資料なら俺のデスクに置いてあります」 『おう、そうか。ありがとう。じゃあ、会社でな』 そう言うと、上司は通話を切ってしまった。 俺はスマホを耳から離し、上司が言っていた言葉を頭の中で反芻していた。 ――いつも通りの男にしては高い女みたいな声。 ――体格も女みたい。 『いつも通り』という言い方からして、上司は以前から俺の身体や声はこうだったと認識しているらしい。 さらに『男にしては』とも言っていたことから、上司の記憶では『太田剛造は女のような外見の男』ということになっているようだ。 「もしかして、俺の身体は昔からこうだったってことになってるのか?」 もしそうなら運転免許証の写真もそれに合わせて変化したのだと説明がいく。 理由は依然としてわからないが、変化したのは肉体のみで立場はそのまま、更には肉体に合わせて過去も改変されているということらしい。 つまり今の俺は『櫛川リサの容姿をした四十代のおっさん』という珍妙な状態だということだ。 真偽はともかく一応答えが出たからか、混乱しっぱなしだった頭は大分落ち着いてきた。 そうなると、改めて今の自分の身体が気になり始めた。 足元が見えなくなるくらい大きく膨らんだ胸を両手で持ち上げると、ずっしりとした重みが伝わってきた。そのまま指を動かして胸を揉めば、胸の確かな弾力と胸を揉まれている感触が同時に伝わり、思わずほうっと息を吐いてしまった。 「おぉ……これが櫛川リサのおっぱいかぁ。すげー良い揉み心地だぜ。それに、んふ、『胸を揉まれる』ってのも気持ちいいもんだなぁ」 胸を揉むたびに自分の口から女の喘ぎ声が零れてくるという事実もまた拍車をかけ、だんだんと興奮が高まっていく。 ランニングシャツとトランクスという普段の自分の服装も、櫛川リサが着ているというだけでエロく感じられた。 「あんっ! ふぉ、やべぇなこれ。ずっと揉んでても飽きそうにないぜ」 ここ最近まったく女に縁がなかったせいか夢中になって胸を揉み続けてしまう。 トランクスで窮屈そうなむちむちの尻に手を伸ばせば胸とは違った感触に感動し、これまたむっちりとした太腿のスベスベの肌を撫で回した。 「うほっ! ケツも良い感じだなぁ。太腿もむっちりで挟まれてみてーぜ!」 頭を触れば、長い髪が引っかかることなく指で梳けてしまった。 「ぶははは! ハゲてた俺にこんなキレーな髪が生えてやがるぜ! しかも天然の金髪だぞ!」 スマホの自撮りカメラを鏡代わりにして顔を見る。画面にはにやにやとだらしない笑みを浮かべる櫛川リサが映っていた。 「やっぱ美人だよなぁ。同じ人間だってのに元の顔とは大違いだぜ。でも、この顔が今の俺の顔なんだよなぁ。ぐへへへ、おっと涎が……」 我を忘れて隅々まで身体を堪能していると、気がついた頃にはそろそろ家を出なければ会社に遅れてしまう時間になっていた。 「うおっ、やばっ! 早く行かねーと遅れちまう!」 俺は慌ててスーツに手を伸ばした。 一瞬、今の俺がこれを着ていって大丈夫なのか、と躊躇してしまったが、先程自分が出した『立場は元のまま』という結論を信じて袖を通した。 だが俺の元々の体格と今の櫛川リサの体格が違うせいで、ただ服を着るだけで一苦労だった。 当然のことではあるが、背が高く手足も長い櫛川リサの身体では、俺の服はぜんぜんサイズが合っていなかった。 胸や尻がでかくなっているため無理矢理押し込めるほかなく、袖は長い手足では七分丈になってしまった。 逆に腰回りはかなり細くなっていて、ベルトを絞めてずり落ちないようにするしかなかった。 人前に出るにはみっともないが、他に合う服などないためここは我慢するしかなかった。 幸いなことに足のサイズはそれほど差がなかったようで靴は問題なく履くことができた。 俺は鞄を手に取ると、部屋を出て駅へ一目散に走っていった。 *** 数十分後、俺は駅のホームで電車が来るのを待っていた。 時計を確認すると予想していたよりも十分以上早く着いていた。呼吸もほとんど乱れておらず、どうやら櫛川リサの身体は思ったよりも体力があるらしい。今ならもっと長い距離を走っても平気そうだ。 (まぁ、このでけぇおっぱいは走るのに不便だったけどな) ただ歩くだけでもゆさゆさと揺れてその存在をアピールする胸は、走ればさらにばるんばるんと激しく揺れて、その重みも相まって実に邪魔だった 息を整えながら周囲を見れば、俺以外にも電車を待っているやつは大勢いた。だが俺のことを気にする者は誰もいなかった。 俺からすれば男物のスーツを着た美女がいる状況でこの反応ということは、やはり俺のことは普通のおっさんとして周りからは認識されているようだ。 しばらくして電車が到着し、俺も含めて待っていた連中が一斉に乗り込んだ。 社会人になって長いが、見知らぬ他人と密着しなければならない満員電車はいつまで経っても嫌なものだ。 そんなぎゅう詰めの電車の中で、俺の胸が隣にいた若い男の腕に押しつけられた。 こんな美女のたわわな胸が押しつけられれば、普通の男なら鼻の下を伸ばしてしまいそうだが、俺の立場はおっさんのままなので若い男は電車の窮屈さに鬱陶しそうな表情をするだけだった。 電車が揺れるたびに俺のノーブラおっぱいがぷにぷにと押しつけられるが、若い男は俺に目を向けることもなくただただ不快な顔をするばかりだった。 そのちぐはぐな状況に俺は思わずほくそ笑んでしまい、若い男から不審な目を向けられてしまった。 そうやっているうちに目的の駅に到着したため、俺は名残惜し気に身体を離して電車を降りた。 *** 「あ、太田さん。おはようございます」 「おう、おはよう」 会社に着くと、今年入社してきたばかりの女性社員が挨拶をしてくれた。そこに俺の姿に違和感を覚えているような様子は一切見られなかった。 「今日も朝から暑いですね~」 「そうだなぁ。女の人はこの時期日焼けとか大変なんじゃないの?」 「お肌のお手入れが大変じゃないときなんてありませんよ。これでも毎日すごく気を使ってるんですから」 「ふ~ん、大変だねぇ」 そうやって適当に世間話をしていると、彼女は口を尖らせて急に不機嫌になった。 「まぁ、太田さんは良いですよね~。全然手入れなんかしてる風じゃないのにすごく肌が綺麗ですし~」 「ん? そうか?」 「そうですよ! ホントなんなんですか、それ! 白くてすべすべで、これがおじさんの肌だなんて信じられませんよ! 不公平です!」 納得がいかない、と不満を全身で表すように彼女は叫んだ。 その声には重い実感が籠っており、他にいる女性社員も頷いているのが視界の端に映った。 立場は四十代のおっさんのままだが、身体は確かに二十代の女――それもかなりの美人のものに間違いないため、そう思われてしまうのもしかたないのだろう。 しかし改めてそう言われると、今の俺は目の前の彼女よりも、いや彼女どころかその辺りにいるどの女よりも圧倒的に美人だということにふつふつと優越感がこみ上げてきた。 そのことが顔に出ていたのか彼女はむっとした表情になってしまい、これ以上文句を言われる前に俺は適当に誤魔化してその場を後にした。 その後も同僚たちに幾度か話しかけられたが、例外なく俺のことを『男』として扱ってきた。 セクハラの常習犯で有名な部長でさえこの魅力的な身体に何も反応しなかったことからも、俺の立場は男のままなのだと改めて確信した。 「さて、これからどうなるのかねぇ」 俺はひとまず確認できる現状を顧みて、男子トイレの個室で一人呟いた。 「う~ん、とりあえず生活するうえで困ることはなさそうなのは幸いかな。ま、そのうち元に戻るかもしれないし、しばらく様子見するかね」 そうこうしているうちに月日は流れて今日に至った。 湯船に浸かりながらこの身体になってからのことを思い返すと、自然と顔がにやけてしまう。 最初こそ早く元に戻らないかと思っていたが、そんな気持ちはすぐになくなってしまった。 お世辞にも優れた容姿とは言えなかった俺が、周囲からおっさん扱いのままであっても若く美しい外見になれたことはそれだけで心に余裕が生まれたらしく、毎日が楽しくてしょうがなかった。 身体の扱いに慣れなかったのも最初のうちだけで、現在は何の問題もなく生活出来ていた。 そしてなによりも『男の立場のまま女の身体で生活する』という行為が堪らなく楽しいのだ。 今のように明らかに場違いな行為を平然と行え、周囲もそれを一切咎めない倒錯的な状況に、俺はすっかり嵌まってしまっていた。 もはや元に戻りたいどころか、一生このままでいいとさえ思っていた。 ちなみに体型はこの姿になってからずっと維持し続けている。 これは日々努力して維持しているのではなく、なぜかまったく変化する様子がないのだ。 食生活や生活習慣は偏りがちで碌に運動もせず、身体の手入れもまったくしていないにも関わらず、肌や髪は綺麗なままで胸の形も崩れることなく、体重も少しも増えていなかった。 なぜなのかはまったくわからないが、苦労する必要がないのは楽でいいと特に気にしていなかった。 「あれ? 太田さん?」 「ん? おう、お前か。こんなとこで会うなんて珍しいな」 声をかけられて顔を上げると、そこには職場の後輩がいた。 後輩は湯船に入ると、俺の隣に腰を下ろした。 「ジョギングの帰りでしてね。この後飲みにいくつもりなんで先に汗流していこうかと。あ、太田さんもどうです?」 「ん~、今日はやめておこうかな」 「そうっすか。それにしても相変わらずでっかい胸っすね~」 後輩は俺の胸を指して言った。 お湯に浮かぶ二つのそれは、俺が身動ぎするたびにふよふよと揺れって、湯面に波を作っていた。 「なんだ、気になるのか? なんなら揉んでみるか?」 両手で湯船から持ち上げてほんのり肌が赤くなった胸を差し出してやると、彼は心底嫌そうな顔をした。 「やめてくださいよ。さすがに男の胸揉む趣味はないっすよ」 「ははは、だよなぁ。『男の胸』なんて触りたくもないよな。冗談だから気にすんな! じゃ、俺はもう行くわ。飲みはまた今度誘ってくれよ~」 俺は後輩を笑い飛ばして、湯船から上がって銭湯を後にした。 *** 帰宅すると、すぐに着ていたジャージを脱ぎ捨ててランニングシャツとトランクスのみの姿になった。 基本的に家ではずっとこの姿で過ごしていた。 これはこの格好が楽だというのもあるが、それ以上に美女の身体でこんなおっさん臭い姿でいるという行為を楽しんでいるうちにすっかり癖になってしまったからだ。 ちなみに、これ以外にも服はすべて以前からのものをそのまま使っている。 一度女物の方が着る分には楽だろうから買おうかとも考えたが、立場は男のままなので『女装』扱いになってしまうことに思い至り断念した。 俺は冷蔵庫を開けるとよく冷えた缶ビールを取り出し、蓋を開けて一気に呷った。ごくごくと嚥下し、あっという間に飲み干して空にする。 「ぷはぁ~! やっぱビールは最高だなぁ! こればかりは男でも女でも変わんねーぜ!」 口の端から零れたビールを手で拭い、空になった缶を流し台へ放り投げる。 そして冷蔵庫から新しい酒とつまみをいくつか取り出し、机の上に並べた。 「ま、今ではこういうのも美味く感じるようになったけどな」 手に取ったのは、女が好みそうなチューハイ缶だ。 以前は見向きもしなかった酒だが、この身体になって味の好みも変わったらしくわりと頻繁に飲むようになっていた。 俺は甘く度数も低いチューハイを飲み、つまみのナッツを口に放りこむ。 「ふふ~ん、こうしておっぱいに乗せてぇ、セルフ女体盛り~! なんてな! ぶははは!」 持ち上げたおっぱいにナッツを乗せて遊んだりしながらチビチビやっているうちに、いい感じにアルコールが回ってきて気持ち良くなってきた。 「おっと、そろそろ始まる時間だな」 新しいチューハイ缶を開けたところで、俺は時計を確認してテレビの電源を点けた。 俺が後輩との飲みを断った理由は、今日から始まるドラマを見るためだった。とある企業を舞台にしたラブロマンスらしく、前々から大々的に宣伝していた。 とは言っても、俺は別に大のドラマ好きってわけじゃない。むしろその類のものはほとんど見ることはなかった。 なのに、なぜわざわざ見ようとしているのかというと、このドラマに櫛川リサが出演しているからだ。 ドラマが始まり、櫛川リサが演じるキャリアウーマンが登場した。 櫛川リサのような女がビシッとスーツをキメて堂々と歩く姿は、さぞかし格好いいのだろう。現にドラマの登場人物を演じる他の役者たちもその姿に演技抜きで見惚れているようだった。 だが俺の目にはまったくそうは映っていなかった。 それもそのはずで、画面に映っている櫛川リサの姿はかっこいい女ではなく、女装をしている四十代のハゲでデブなおっさん――昔の俺そのものの姿だったからだ。 俺が櫛川リサの身体になったのと同じように、櫛川リサは俺の身体になっていたらしい。 そのことを知ったのは、今の状態なって三日ほど経った頃にバラエティー番組に出演していた彼女の姿を見たときだった。 テレビの中で他の出演者と会話する自分(の姿の櫛川リサ)はなかなかに衝撃的だった。 彼女もまた俺と同じように立場は元の状態から変わっていないようで、あんな身体でも周囲からは『美女』として扱われていた。 ただ俺と違うのは、櫛川リサ自身も自分の身体が変化したことを認識していない、ということだ。 もし美女であった彼女が自分の身体が冴えないおっさんのものなっていると自覚していたならショックで引き籠っていてもおかしくないし、そうでなくとも仕事とはいえあの身体でビキニの水着を着ようなどとしないだろう。 共演していた男どもがおっさんのビキニ姿に鼻の下を伸ばしていたのも含めて、あの光景は滑稽すぎて腹が捩れるほど笑ってしまった。 ドラマの中では、モブたちが櫛川リサ演じるキャリアウーマンを口々に褒め称えていた。 俺はそれを見ながらチューハイ缶を呷った。 「あんな腹出たおっさんより俺の方が美人なのにな~。まったく見る目ねぇな~」 本気でそう思っているわけではないが、酔いが回ってハイになったテンションでかつての己の姿と今の身体を見比べて一方的に優越感に浸り、それを肴にどんどん酒が進んでいく。 「そんなおっぱい見やがってよぉ。そんな毛深い胸よりもこっちの方がぜんぜん気持ちいいぜぇ~。揉み心地も最高だぞ~」 空いている手でおっぱいを鷲掴みにして揉むと、この一ヶ月の間にさんざん弄りまくってすっかり敏感になった乳首はすぐに固くなり、ランニングシャツ越しにぷっくりと浮かび上がってくる。それを摘まみ上げれば快感がぴりっと伝わってきた。 ランニングシャツをたくし上げて片方の胸を丸出しにすると、ピンク色の先端を口で咥えて、吸いつき舌で舐りまわす。下腹部が熱くなって湿り始めたのを感じ、口を離せばねっとりとした唾液が糸を引いた。 「んふっ。ぷはぁ、あ~堪んねぇなぁ。こんな魅力的なおっぱいが身近にあるのに誰も気づきやしないんだから世の男どもはホント損してるぜ、へへへ。……ん? ぶふっ!? おいおい、なんだありゃ! 酷い絵面だなぁ!」 ドラマはいつの間にか展開が進んでいたようで、俳優と櫛川リサが涙を浮かべながら抱き合っていた。 他の連中には感動的なシーンに見えているのだろうが、俺にはイケメン俳優と女装したおっさんが抱き合っている光景にしか見えず、思わず酒を吹き出して大笑いしてしまった。 これではラブロマンスではなくコメディだ。 「ぶははは! ホントひっでぇな! キモすぎんだろ! あ~こりゃ口直しが必要だなぁ」 俺はチューハイ缶を机の上に置くと、片手で唾液塗れの胸を揉みながらもう片方の手をトランクスの中につっこんで股間に指を這わせた。 すっかり湿っているそこは指を動かすたびにくちゅくちゅと卑猥な音をたてた。 「うほっ! いいねぇ、この感触。最初はチン○がなくて物足りなかったが、今じゃこっちの方に病みつきだぜ」 この一ヶ月でどこをどう弄ればこの身体で気持ち良くなるか熟知しているため、的確に急所を刺激し、だんだんと股間に染みが広がって口からは涎が垂れてきた。 「はぁはぁ、あんっ! あぁ、気持ちいい~! こんな最高な身体を手に入れられて俺って世界一ラッキーだぜ! 俺になっちまった櫛川リサは災難かもだが、ま、本人はそのことに気づいてないし別にいいよなぁ」 そんな勝手なことを言いながら秘所を引っ掻くと、身体が一際大きくびくんと跳ねた。 そこを何度も愛撫すると、軽くイキかけて俺は歯を食いしばって身体を仰け反らせる。 「おほっ! ここさいこぉ! この身体も俺に使われて喜んでるみてぇだ! リサちゃんが大切にしてきた身体は俺が一生大事に楽しんでやるから、リサちゃんは安心して『おっさんみたいな女』でいてくれよな! はははは!」 *** その後もずっと自慰行為を続け、落ち着いた頃にはとっくにドラマは終わっていた。 荒くなった息を整えて、俺はべたつく手でリモコンのスイッチを押してテレビの電源を落とした。 「ふぅ……。さて、と。満足したし、明日から仕事だし今日はもう寝るかぁ」 涎や涙でぐちゃぐちゃになっていた顔を、ランニングシャツをたくし上げてごしごしと拭き取った。汚れたそれは脱いで、そのへんに放り投げた。 「とりあえず汚れちまったから着替えねーとな。……あ、そうだ。せっかくだし裸で寝てみるか。へへへ、なかなかセクシーなんじゃねーの」 言うが早いか、手早くトランクスも脱ぎ捨てて全裸になった。 オナニーをして火照った身体が蛍光灯に照らされ、一糸纏わぬその姿を眺めてニヤニヤといやらしい笑みが出てしまう。 「う~ん、やっぱ俺ってばスタイル良いよなぁ。一番好きなのはおっぱいだけど、このプリケツもエロさじゃ負けてないぜ!」 形のいい尻を突き出して叩けば、ぺちんっと良い音が響く。 あまりに良い音だったため、調子に乗って太鼓でも叩くように尻を左右に振りながらリズミカルにぺちんぺちんと叩きまくった。 「ぶははは! バッカみてぇ! でも、こういうのも楽しいな。今度もっとやってみるか!」 叩きすぎて少し赤くなった尻を撫でて、俺は灯りを消して布団に潜り込む。 次はどうやって気持ちよくなろうか考えながら、俺は眠りについた。 |