入れ替わリンピック
  作: すわすわ


 出国直前のミーティングが開始される前、とあるニュースが我々の耳へ入ってきた。どうやら日本で「入れ替わりウイルス」というものが蔓延しているようだ。『入れ替わり』とやらはこちらの言葉で言うと『bodyswap』のことらしい。俺たちは笑わずにはいられなかった。あり得ない。そんなバカみたいなものが本当にあるなんて信じることなんてできない。そんな声が会議室中を飛び交っていた。
「これを見てください。皆さん」
 チームの総監督がそう言うととある紙を俺たちに配り始めた。
「これはなんですか?」
「入れ替わりウイルスと呼ばれるものに感染した場合の対処法だ」
「監督までそんなものを信じているんですか……?!こんな馬鹿げたウイルスなんて信じられるか!!」
 俺がそう吐き捨てると周りのチームメイトたちも次々に異議を唱え始めた。こんなふざけたものを配られるくらいなら大会へ行かない方がマシ、なんて言う奴もいた。だがその声は総監督の怒鳴り声に掻き消された。
「お前たち!!!存在を疑うのは一向に構わんが本当にかかってしまった場合のことぐらい考えろ!!!落ち着いて注意書きすら読めないのか!!座れ!!!」
 総監督に気圧されて全員が渋々それぞれの席に戻った。ガイドラインに目を通すとそこにはこう記されていた。


 東京コリンピック2020 ガイドライン
 ・自分の身体ではなくなった場合、協会は責任を一切負わない。
 ・他人の身体になった場合はその身体に準じた競技に出場するか、本来の自分の競技に出場するかを選択することができる。
 ・競技途中に入れ替わってしまった場合は身体の記録で順位を決めるものとする。
 ・国の所属については精神に依るものとする。
 ・入れ替わった際は国ごとに誰なのかを確認すること。
 など…デタラメにしか思えないような規則が書いてあった。
「総監督。この入れ替わりってのは女とも入れ替わったりするんですか?」
「そうだな…今日本じゃ同性同士しか入れ替わらないって話だ。だがあのウイルスはまだ分からないことが多い。…そろそろ出発の時間だ。行って見てわかることもあるだろう。行くぞ」
 そうして俺たちは祖国から日本へと向かった。これが自分たちの元の肉体で母国の土を踏める機会が最後ということはこの時の我々には知る由もなかった。






 
「日本に来るのは久々だが…違和感まみれだ……なんだこれは……」
 無事に空港についた俺たちは唖然としていた。5歳くらいの小学生がスーツを着てキャリーケースを引いていたり、40歳くらいの男性が男子中学生と手を繋いでいるなどかなりあべこべになっている。
「皆さま、こちらです」
 不思議な光景に気を取られている間に案内役の日本人が到着していた。
「あなたは入れ替わられてないんですか?」
「ええ、幸運なことにまだ大丈夫ですね。でももう時間の問題だと思います…」
「と言うと?」
「出場選手の中ではまだ入れ替わりが起きていませんが日本中で蔓延しているのでいつ感染するか、全くわかりませんので対処ができないんです…」
「なるほど。ありがとうございます」
 そのあと俺たちはバスで選手村へ移送された。選手村にはもう殆どの選手が入村しており、殆ど最後に近かった。出国する前に配られた注意事項があちこちに貼ってある辺り、本当に実在するウイルスなのだと言うことを改めて実感する。本来なら日本観光にでも行きたいところだが不用意に外出してはならないと先程の案内役に口を酸っぱくして言われたので仕方なく部屋に籠ることにした。しかし…
「キャプテン!!日本のコンビニで色々買ってきました!」
「マークお前…まあいいか、コンビニ程度」
 ひとしきり2人で色々貪っていると急に眠気が襲ってきた。
「あぁ…まだこんな時間なのに眠くなってきたな」
「そうっすね…寝ちゃいましょうか」
「開会まで一週間もないし寝れる時に寝ておこうぜ。お休み」
 そう言って俺たちはそれぞれの部屋で就寝した。そしてこれが今の身体との今生の別れとなった。






 翌朝。いつもより早く目が覚めた。時差だろうか、全身がどこかぼやぼやしている。頭も重い気がするし顔になにかが当たっている気がする。早く顔を洗おう、そう思って洗面所で歩を進め鏡へ辿り着くと。そこに自分の姿はなかった。代わりにそこに移っていたのは卓球日本代表のメダル候補と呼ばれている女子選手であった。
「まさかほんとに入れ替わっちまったってことなのか…」
 思わず零れた呟きも慣れ親しんだ自分の声ではなく別人の、少し低めの女性の声だった。短髪に切りそろえていた地毛の金髪は黒髪ロングになっており、自慢だった2mあった身長も150cmとなってしまっていた。だが流石アスリートと言うべきだろうか、競技に必要なのであろう筋肉はしっかり鍛え上げられている。
「なんということだ…この身体の筋肉、俺の身体に勝るとも劣らない。素晴らしい…」
 ひとしきり筋肉を調べ感心したのち、俺の興味は筋肉から胸へと移った。この異常な状況ではもはや元の身体に戻れるなんて考えは捨て去るほかなく、今の自分がどのような身体なのか確かめたいという欲求のみがこの時俺を支配していた。
「…綺麗だ」
 寝巻きを取り去った今の自分の姿に見惚れてしまった。引き締まるところは引き締まり、出るとこは主張しすぎず程よい。顔もタイプ。俺にとって理想的な女。
「もし入れ替わることがなければ妻にしたかった…」
 もう叶うことがないであろう願いを妻にしたかったその人から発しているこの状況。その倒錯感でどうにかなりそうだった。愛したい人を愛せずに溜まっていく興奮。それに反応したためか股から液が分泌され始めた。俺と出会えたことに身体も喜びを感じているのだろうか。
『俺が日本に来てこの身体になることは運命だったに違いない』
 そう確信した。
「さあ、この身体の全てを見せてくれ」
 元々の持ち主へ宣言するかのようにその言葉を言い放ち、俺はなにかを求めるかのようにひくひくしながら液を垂れ流している下半身の穴に白くしなかやかな指を差し込み、刺激を開始する。
「────んっっ!!!!!」
 艶やかな声が口から漏れ出してきた。今までに体験したことがない未知の感覚。身体もエンジンがかかり始めてきたのか頬は上気し、乳首は起ち、まるでなにかのAVで見たような女の表情がそこにはあった。
「なんてこった……射精なんか比じゃないぜ…」
 本来であれば一生味わうことのなかった女の性感。本来であれば男の性感と比較することなんて出来なかったはずの女の性感。俺はそれを享受している、入れ替わりのおかげで。秘所をひたすら刺激している指も、顔にかかる度芳しい匂いを漂わせるこの髪も、色っぽい喘ぎ声を紡ぎ出すこの口も、興奮で突き出している可愛らしい乳首や胸も、そして自分の乱れている姿を鏡越しで捉えている美しい瞳も、昨日まで別人のものだった身体が全て今は自分のもの。愛おしい。犯したい。その想いが指をまるで獣のように秘所を蹂躙していく。そして想いに応え俺を受けいれるかのように身体は激しく打ち震え、潮を吹き出した。
「───ッッ!!」
 声にならない叫びが部屋中にこだまする。身体の探索のために移動した風呂場はシャワーを浴びたかのように愛液でびっしょりになっていた。かくいう俺も汗と愛液にまみれている。片付けようにもあまりの衝撃に腰が抜けてしまったのか、思うように動けない。もう諦めて風呂場の床へ倒れ込み、自慰の余韻に浸りながら目を閉じた……








『──注意事項通りに行動してください。繰り返します──』
 どのくらいたったのだろうか、目を覚ました時には既に火照りは引いており、その代わりに寒気が俺を包んでいる。
「くしゅんっ」
 自分から発せられた可愛らしいくしゃみすら愛おしい。こんなに可愛らしく柔らかくしなやかな身体が俺のもの…そう身体を抱きしめながらうっとりしていると、耳を劈くような音量で鳴り続けるアナウンスの存在に気が付いた。
「注意事項通りに行動…ああ、そうか。確か国ごとにで集合するんだったな」
 恐らくこのようなアナウンスがあるということは俺以外にも入れ替わっている人達が一定数いるということなのだろう。なんにせよこのから出て元の自分の部屋へ向かわなければ。そう思って、先程より軽くなった身体を起こし風呂場を出て扉へ向かおうとしたが、とあることに気づいた。
「さて、どうしようか…」
 裸のまま外に出る訳には行かないと。元々の持ち主に申し訳ないし、これからこの身体と付き合っていくであろう俺の尊厳に関わる。何を着るべきなのか、そもそもどこになにが入っているかすら知らないため、とりあえず鞄を漁ることにした。
「これでいいな」
 ひとしきり探索し終わって俺が目をつけたのは日本選手団のジャージ。これなら動きやすいし大丈夫だろう。
 だが問題はこれからだ。下着である。ほぼ30年間男として生きてきてブラジャーやショーツなんぞ、昔付き合っていた彼女のものくらいしか見たことない。しかも付けたことなどあるはずもなかった。だが20代前半の女になってしまった以上付けない訳にはいかないだろう。適当にセットっぽいのをカバンから取りだしとりあえず布団に置いた。これを付けたら今まで生きてきた自分ではなくなってしまうかもしれない、そんな考えが頭をよぎる。葛藤すること10分。
「それでも付けるしかない」
 声に出して自分に言い聞かせる。
「これならはこの身体と生きていくんだ。覚悟を決めろ」
 意を決してブラジャーで胸を包んだ。俺が取りだしたのは色気もなにもないシンプルなもの。男だった時には身体が硬くてあまり手を回すことが出来なかった背中にもすんなり手が届き、改めて自分が今は女になっているということを実感させられた。
「ブラジャーってのは割と窮屈なんだな」
 身体は慣れているが俺自身が慣れていないため、違和感はないのに新鮮に覚えていて不思議な感覚だ。これさえしてしまえばためらいは無いので、ボクサーパンツを履く容量でショーツを足を通すことにした。先程蹂躙した秘所を包み込むような形はブラジャーと同じように不思議な感覚を覚えた。
「こっちもまた窮屈だ…なんか変な感じだな」
 鏡をみてすぐに探索をしてしまったため洗い損ねていた顔を洗ったりなどとりあえずの身支度を終えた俺はドアを開け、母国の選手団が待つ棟へ歩を進め始めた。








「おうおう、可愛らしい日本人が来たな。中身は誰だ?」
「お前らのキャプテンだよ」
「なんだお前か。俺は総監督だ」
「総監督?!失礼しました…」
「気にするな。男子チームと女子チームで全員異性になり、その上国は無差別と来たもんだ。無理もないだろう」
 総監督はヨーロッパ系なのだろうか、非常に目鼻立ちがはっきりした顔の女になっていた。寝巻きですっぴんでも美しい顔に似合わず股を広げて豪快に「こんな綺麗な女になれるなんてな!」と笑う姿は非常に倒錯的だった。
 改めて周りを見渡すと同じ国の選手たちとは思えないほど様々な姿になっている。誰が誰だかなんて判別が付かない。胸を揉みしだいていたり、人にちょっかいをかけたり、髪の毛や身体の匂いを嗅いだりなど行動も多種多様だ。普通じゃありえない光景をどこかぼーっとしながら見ていると、総監督が急に表情を真剣なものへと変化させてこう告げた。
「お前たち、ガイドラインの注意書きは覚えているか?身体の競技か本来の競技か選んでもらうぞ。総監督としては是非とも身体の競技を選んでメダルを掴んで欲しい。だがどうせなら本来の競技に挑んでやる!という漢気溢れるやつは俺の元まで来い。以上だ」
 …競技か。この身体は卓球競技では金メダル候補だ。動きも身体が覚えているだろうし多少練習すれば扱えるようになるはずだ。だがそれでいいのか…?俺はコリンピックに卓球をしに来たわけじゃない。水泳をしに来たんだ。身体の才能に頼ってメダルを取って嬉しいか…?
 自問自答を続け、俺は決断した。
「総監督、俺は元の身体の競技に出ようと思います」
「そうか。その目、前のお前と同じだな…性別は変わっても闘志は相変わらずらしいな。よし、登録しておくから部屋に帰って今日はしっかり休め。そいつもアスリートの身体と言えども違う競技をやるんだ。体力が持ってかれちまう。身体の部屋から荷物こっちに移してさっさとベッドに入っちまいな。お楽しみも程々にしとけよ」
「もちろんです。ありがとうございます」
 総監督には反対されると思っていたため、正直拍子抜けだった。だが競技が出来る分には非常にありがたい。誰が誰だか分からない状態なのでひとまず俺は元々の持ち主の部屋に戻って荷物を取りに行くことにした。





 部屋へ着くと元の俺の身体が荷物を持って待っていた。
「私の身体…」
「悪いな嬢ちゃん…なんだ、その…身体奪っちまって」
「今まで罹患しなかった事が奇跡ですし仕方ないです…とりあえずお互い頑張りましょう!」
 そう言って涙を目に溜めながら無理に笑った彼女、いや彼は彼自身のものであった荷物を差し出してきた。
「こんな形で自分の身体とお別れするとはな…じゃあな、嬢ちゃん」
「さようなら…」
 お互いの荷物を引き渡し、元々の自分に別れを告げた。仮にも30年付き合った身体だ、情が無いわけじゃない。だが今はこの身体の方がいいと心の底から断言出来る。嬢ちゃんには悪いが惚れ込んでしまったのだ。きっと普通に嬢ちゃんに出会っていたらもうアタックをして自分のものにしようとしただろう。しかしそうせずとも身体は手中にあり、思い通りに動かすことが出来る。何をするにも自由なのだ。幸運としか言いようがないだろう。部屋に帰ったら何をしようか、先程の自慰の続きでも身体の探索でもファッションショーでもなんでもできる。
 この身体はもう俺だけのものなのだから。








 結局興奮して自慰にふけってしまった。目が覚めると布団の上に裸で転がっていた。昨日の風呂場ほどじゃないが肌寒い。身体を見下ろせば白い乳房が2つ体に付いている。それが改めて自分が今女であるということを自覚させてくる。今日は折角だしチームメイトたちと身体の弄り合い…と行きたかったが練習がある以上できるかは微妙なところだろう。ひとまず最低限の身支度をして練習場へ向かうことにした。
 元々嬢ちゃんは競技の時は髪型を団子とやらにしていたらしい。簡単なやり方をネットで調べても女初心者の俺にはさっぱりだった。とりあえず後ろでまとめてはみたがキャップを被る時の対策は考えなければならない。ジャージに関してはそのまま日本選手団のものを使っている。元の身体のジャージじゃ全く今の身体には合わず一昔前のラッパーのようになってしまうし、なにより嬢ちゃんが使っていたものをそのまま使っているほうが理由はわからないが気持ち的に昂ぶる。どうせ水着を着るんだしな、と思い下着はつけないことにした。下に着ているTシャツと乳首が擦れてしまうが…まあいいだろう。
「よし、行くか」
 精神的には慣れ親しんだ練習場、身体的には初めての練習場。どこか新鮮な気持ちで俺はそこへ向かった。









「これは壮観だな…」
 プールサイドを見渡すと様々な競技のメダル候補の身体が並び立っている。そして全員が競泳水着を身につけているが、女性用ではない。男性用だ。勿論俺も下半身のみ水着を身につけている。不測の事態だからとはいえ、鍛え上げられた肉体を上半身まるごと晒しているのは非常に滑稽な光景だ。どの競技でも共通なのだが入れ替わった身体用のユニフォームが用意できなければ元々の身体のユニフォームを使うという規則が定められている。俺の身体になった嬢ちゃんはユニフォームがなんとか準備されたらしい。
「あ、キャプテンじゃないすか!」
 コンビニで買い物をしていた後輩、マークがすっかり変わり果てた姿で声をかけてきた。奴はこの身体のチームメイト、つまり同じく日本女子代表の身体になっていた。純白の肌を晒し適度な大きさの乳房を揺らしながら近づいてくる。
「マークか。その身体になってからの調子はどうだ?」
「もう色々絶好調です!!!身体が軽いからか前の身体と同じか、それ以上に早いかもしれません!」
 興奮しながらマークが顔をぐいぐい近づけてくる。俺は日本人がタイプなのかもしれない。思わず頬を赤らめてしまった。
「キャプテンも早く泳いだ方がいいっすよ!めちゃくちゃ新鮮な感覚です!」
 身体的には先輩の元気な後輩に後押しされこの身体で初めての着水。慣れ親しんだ水、身体が違えば感じ方も違うらしい。
「どうすか?!」
「ああ、マークの言う通り、新鮮な感覚だな」
 泳いでみると水の流れに沿って乳房が刺激される。以前より身体が軽い分進みは速いが、これで競技をするとなると気が滅入ってしまうかもしれない。
 平泳ぎ、バタフライ、自由形、背泳ぎとひとしきり泳ぎ終わった後ベンチに座っているとマークが声をかけてきた。
「やっぱ速いですよね!この身体になってようやくいい事があって嬉しいです!」
「それはよかったな。とりあえず調子は確認できたし俺はもう帰るつもりだ。お前はどうする?」
「俺はもう少し泳いでから帰ります。お疲れ様でした!」
「あ、そうだ。マーク、その身体でお楽しみはしたか…?」
「実はまだなんです…やっぱやばいですか?」
「やばいぞ。折角だし今夜どうだ?」
「是非!!」
 後輩とお楽しみの約束をし、俺は選手村へ帰ることにした。
 風呂に入った時にも思ったがこの身体の不便なところを上げるとすれば髪の毛と肌の手入れだろう。当たり前と言えば当たり前なのだが短髪で過ごしてきた身としては非常に面倒臭い。嬢ちゃんが鞄の中に手入れ等のメモを入れてくれていたのだが、手順が非常に多い。一日目にして挫折しそうだった。キツいトレーニングを1日中やっているほうが幾分マシだと思うほどにしんどい。しかしこれからのことを考えると手を抜くことは出来ない。だが化粧はどうせ落ちるだろうと思い、嬢ちゃんには悪いが年頃の女に似合わずすっぴんで選手村を練り歩いている。
 選手村へ戻る頃にはもう夕方になっていた。早く夕飯を食べて部屋に戻ってマークを待とう、そう思ってそそくさと玄関をくぐろうとすると、とある人と目が合った。
「あ…どうも…」
 元俺の身体になっている嬢ちゃんだった。
「ああこりゃどうも。どうしたんだい、そんなドギマギして。悩み事か?」
 身長差で上目遣いに半強制的になってしまった。それが余計ダメだったのか彼女は目をそらしそっぽを向いてしまった。片方の手は股間を抑えている。
 なるほど…
「嬢ちゃん、もしかして処理できてないのか?」
 涙目になりながら彼女は頷いてきた。自分の涙目は死ぬほど気持ち悪いがせめてもの罪滅ぼしだ、そう思って元自分の肉棒を扱いてやることにした。





 改めて見ると我ながら巨根だな…身体が小さくなったからとはいえ、客観的に見ても結構大きい部類になるだろう。
「じゃ、始めるか」
 俺は上着を脱ぎさってTシャツ1枚となり立派に勃起した肉棒を擦り始めた。
「こんな優しくでいいんですか?」
「ああ。激しくやると痛いしな。こんくらいでいい」
 それからはしばらくは沈黙が続いたに。ひたすらに肉棒を擦り続ける。そろそろだろう。そう思って俺は動かしていた腕を止めた。
「え、どうしたんですか?まだ出てないですよ?」
「ちょっといいことを思い付いたんだ。嬢ちゃん、元自分の身体でその欲を発散してみないか?」
 俺の突拍子もない提案に彼女は心底驚いた表情を浮かべていた。単純にセックスでの女の快感を味わってみたい、というのはあるが彼女にとってもいい事はある。この身体は恐らく処女だ。俺が母国に帰った後、変な男に純血を散らされるより自分で散らす方がいいのではないか。思いやりから出た案である。決して快感だけが目的な訳では無い。
「…わかりました。そうしましょう。肉棒を扱く自分の身体を見てムラムラしてたんです。是非」
 予想外の返答に動揺している間に彼女はいつの間にか俺の背後に回って腰に手をかけてきた。
「早くジャージ脱いでください……もう我慢できません!」
 男の性欲に引っ張られているのか、彼女は冷静さを失ってしまっていた。俺の履いていたジャージとショーツを強引に脱がせ男根を強引に秘所へ突っ込んできた。
「おい待て!まだ準備が…ひぎっ!!」
 膜が破れ股に血が流れる。痛みで悶絶しそうだった。元俺の身体の嬢ちゃんは正気を失い、まるで動物のように一心不乱に穴へ肉棒を差し込み続ける。快感と痛みが混ざりあい涙か流れる。そんな時間がしばらく続き、腟内射精をしかけたであろう時だった。
「キャプテン、さっきから物音がすごいんですけど大丈夫です…か?!」
 鍵を閉め忘れていたドアから救世主が現れた。涙目で気絶しかけの俺と正気を失った元俺を視認したマークは急いで俺たちを引き離した。
「助かった………」
「よかったです…」
 想像を絶する痛みが続き意識が朦朧とする中、頬に柔らかく暖かなものが触れてきたのは気の所為だろうか……







 その後俺が目を覚ましたのはあの出来事から丸々一日後だった。マークが付き添っていてくれたらしい。あの場面での助太刀は本当にありがたかった。俺はいい後輩を持った。
 嬢ちゃんはというと事情聴取の結果、様々なことを考慮して無罪放免にはなったが出場資格剥奪となったらしい。俺が誘った訳だし罪悪感が湧いてくる。彼女の全てを俺が奪ったも同然だ。純血も入れ替わった相手のよくわからない外国人によって散らされ、これからはもう自分の元身体に会える可能性もゼロに近い。俺のように今の身体を気に入っていれば別だが彼女は決してそうではない。だからこそ嬢ちゃんの分も背負って生きていく。これが俺に出来るせめてもの罪滅ぼしだろう。
「総監督、選手登録の変更って可能ですか?」
「まだドローを決めるくじは始まってないし多分出来ると思うが…どうしたんだ?」
「身体に準じた競技に出場したいんです」
 総監督は残念な表情を浮かべていたが俺の眼を何かを察したらしい。
「わかった。お前がそこまで言うなら変更しておく。やったことがない競技なのに大丈夫なのか?」
「きっと身体が覚えているので大丈夫です。俺を信じてください。身体は違えど必ず母国にメダルを持ち帰って見せます」
「頼むぞ、キャプテン」



 翌日。俺はプールではなく卓球場へ向かうこととなった。元々嬢ちゃんが使っていたものをそのまま使うことになり、正直今すぐにでも身体を慰めたくなったがそういうわけにもいかない。時間もないので足早に練習場へ向かった。身体にしてみれば慣れ親しんだ場所、俺としては初めての場所。前日の状況とは全く逆の環境に鼓動が高鳴った。同じ国で精神準拠で卓球を選択した元女子選手、もとい現男子選手と練習を始めた。最初は代表選手とは思えないほど下手だったが…
「こりゃすげえ…メダル候補の身体は伊達じゃないな。勝手に身体が動きやがる…」
 1時間も練習すれば本来のものに近い動きを引き出せるようになり、この身体の才能を思い知らされた。ここまでなんでも出来れば楽しいだろう、そう思うと笑みが溢れる。
「まるで本人みたい。同じ表情してますよ」
「そうか?まあそりゃ今は俺が本人だしな」
 そんな冗談を交わしながらいつのまにか時間は過ぎていき、練習を切り上げることになった。
 練習相手をしてくれた彼女とそのまま選手村への帰路に着く。そのままシャワーも浴びず部屋に帰った俺はとあることを思いつき実行へ移すため風呂場へ向かった。
 



 練習場で着替えてきたジャージを脱ぎ去り、俺の身体になってから、嬢ちゃんの身体だった時からの汗が染み込んだ下着やユニフォームを身に纏う。そして後ろで適当に束ねていた髪の毛をほどき、時間をかけなんとか以前の彼女の状態にセットした。これで側からみれば完璧に"日本代表のメダル候補"そのもの。誰もが間違いなく本人だと口にするだろう。ついに競技生活まで俺のものとなったのだ。罪悪感から志願したはずなのだが、今はこの事実にただひたすら興奮が抑えられなかった。もはや嬢ちゃんのものだった全てが思いのままなのだ。これで興奮しない方が失礼と言えよう。目の前の豪華な食事を口に運ばない訳はない。肉体も呼応して股がびしょびしょになってしまっていた。3日前にこの身体に初めてなった際は考え付かなかった本人の姿になりきっての自慰。男だった時はこんな性癖は無かったはずなのだが今ではこの状況に興奮しきっている。
「さて…始めるか…」
 鏡の中の嬢ちゃんが歪んだ笑みを浮かべながらユニフォームを脱ぎ始める。服を脱いでいる姿すら美しい。余計なものを取り払ったころにはショーツにはシミが広がっていた。次は下着だ。ぐしょぐしょのショーツ、締めつけの強いブラを難なく取り外すと目の前には愛しの人の身体を身にまとった自分自身が写っている。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
 もう自制なんて出来なかった。浴槽の縁へ座り股を大きく開く。相変わらず秘所は愛液を流しながら男根を求めている。ここで俺は準備していたあるものを取りだした。それはラケットである。鞄の中を漁っていた時、使い込まれたサブラケットを見つけたのでちょうどいい太さをしているし自慰に使ってやろうという魂胆だ。
「意外にすんなり入るもんだな」
 大きすぎるかなと思っていたので拍子抜けだった。意を決して動かしてみると指では得られない快感が俺を襲ってきた。
「んっ♡」
 切なく艶やかで色っぽい声が漏れ出す。とても甘美で刺激的な快感。セックスで得られるのと似たようなものなのだろう。愛液がラケットのグリップに染み込んでゆく。もうこれは競技では使えないだろう、だがそれでも構わない。俺のものなのだから。
 なり切っていたからか、どこか女性的になっていた手の動きは今では最初の自慰と同じようにまるで獣のように乳首を刺激し、ラケットを腟内で動かしていた。断続的に流れてくる快感は勢いを増し絶頂寸前。声にならない声を発しながら頂上へと登っていく。そしてその時はすぐにやってきた。
「あ…あ……ひぐっ!!!」
 防波堤が決壊したかのようにとんでもない量の潮が股から溢れ出てきた。全身を快感が駆け巡り、意識がかろうじて保てている程だった。女になれてよかった、俺は心の底からそう感じた。
 




 練習→自慰→睡眠の爛れたサイクルを続ける生活は試合当日にまで及んだ。だがむしろ身体の調子は日に日に向上し、今が1番いい状態だと断言できる。
 嬢ちゃんは世界ランキングで1位だったのでシードで3回戦からの出場。俺自身、卓球の戦略なんて知らないので彼女の動画を見て色々試しながらなんとか身体の記憶を辿って同じことができるようにした。自慰をする時と同じ格好で試合に望めばよかったが髪型を作るのだけは面倒だったので適当に後ろで縛っている。
「キャプテン、そろそろです」
「わかった、頑張ろうな」
 ベンチはマークについてもらった。俺も驚いたのだが実は元々卓球選手らしく知識は万全だから、と名乗り出てきた。外見だけ見れば日本代表なのに中身は全く別の国の代表、観戦している人たちはさぞ混乱するだろう。相手は精神準拠で試合に出場しているのだろう、明らかに自分の身体に戸惑っていた。
『0-0』
 俺は集中力を研ぎ澄ませ身体の記憶を引き出した。コートに立っているのはもはや俺ではなく嬢ちゃんそのものだろう。集中力が切れた頃にはもう試合が終わっており、圧勝でしか無かった。
「キャプテンすごいっすよ!!圧巻でした!」
「よせよせ。嬢ちゃんの身体が勝手に動いてくれただけさ」
 入れ替わりは試合会場でも起きているらしく試合途中で急に顔を触りだしたりなどおかしな状況だらけだったが、あれよあれよと勝ち進み、いつの間にか決勝。そして優勝。身体に頼った勝利でしかないが1番上手く身体と適応できたと考えればいい。マークの助けもあったからこその優勝だ。
 選手村へ戻ると総監督を初めとするチームメイトたちに胴上げをされた。卓球で表彰台なんて夢のまた夢だったし、しかも金メダルだ。お祝いムードも当然なのだろう。
 部屋へ戻ると置き手紙が置いてあった。
「なんだ…?」
 差出人はマーク、文面はこう書いてあった。
『優勝おめでとうございます。相談したいことがあるので、よければ今夜俺の部屋に来てください』
 さっきまで一緒にいたのにもどかしいなと思いつつ、別に断る理由もないので彼の部屋へ向かうことにした。






「来てくれたんですね」
 部屋へ向かうと月光に照らされながらどこか寂しげな表情を浮かべ、ベットに座っているマークがいた。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「先輩。約束忘れちゃいました…?」
「約束…?あっ」
 記憶を辿ると確かに約束をしていた。お楽しみの約束。
「あの時からこの身体がずーっと興奮しっぱなしなんです…責任取ってください」
 彼はそう言うと俺をベッドへ押し倒し強引に唇を奪ってきた。そしてあれよあれよと服を脱がされ、2分もすればお互い純白の肌を月明かりの元に晒していた。
「行きますよ…」
 俺たちはいわゆる貝合わせと呼ばれる状態になりお互いの身体を刺激し始めた。舌を入れてキスをしながら愛液をお互いの秘所へたらし、乳首を擦り合いながらただひたすら身体が求めるままにお互いを貪り続けた。淫靡な喘ぎ声が口から勝手に漏れ出してしまうような自慰よりも強烈な快感の波が俺たちに押し寄せてくる。お互いを抱きしめ合いながらただひたすら流れに身を任せていた。
 そしてその時は突然やってくる。
「せっ先輩っ…!なにか来そうです…」
「俺も…だ…あっ♡♡♡♡」
 割れ目から汁が飛び出し激しい快感が俺たちを襲った…







 あの貝合わせから数日後、マークと俺はすっかりハマってしまい毎日身体を重ね合わせている。総監督やチームメイトたちとも身体を重ねていずれ大乱交パーティでも、というところだ。大会自体は終わったのだが入れ替わりがまだ選手村内で起こっているらしく、入れ替わりが収まるまでしばらくはここで過ごすことになるらしい。まあ国に戻ってしまえば貝合わせすることは難しくなるだろうし、どちらかと言えば好都合だ。
 きっと新しい身体になったことによる不都合などはあるだろう。だがこの身体になれたことで得たものが沢山ある。あんなことはあったが、嬢ちゃんへの感謝は生涯忘れることはない。俺はこれからの人生に小さな心臓を弾ませながらマークの部屋へと向かっていった。












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