嫁の体はオレのもの
 作:せなちか


 十八歳のみずみずしい肌が輝いていた。

 白い夏物のセーラー服を着た目の前の真由に、沙織はかすかな嫉妬を自覚した。
 若さは素晴らしい。何をするにも全力で、どこに行っても新鮮で、かけがえのない友人たちと過ごす心躍る日々……沙織は過ぎ去ってしまった自身の学生時代を懐かしく思い返し、その輝かしい時間が二度と戻ってこないことに心の中で涙を流した。

「元気がないわね、真由」
 沙織は内心の落胆を押し隠し、可愛い妹を気づかった。黒髪ツインテールの美少女の身体は非の打ち所がないほど健やかだが、精神面では明らかな不調が見てとれた。実に惜しいことだ。

「そんなことないけど……」
「嘘おっしゃい。見ればわかるわよ。相変わらず新しいお母さんとうまくいってないんでしょう」

 沙織が指摘すると、真由は目をそらしてしまった。妹が返事をしたくないときの仕草だ。真由はあちらこちらに視線を巡らせたのちうつむき、半分ほど残ったマグカップのコーヒーをのぞき込んでいた。

 沙織と真由、姉妹の年齢は七つも離れていた。日々働きながら忙しく家事をこなす人妻の沙織と、一度きりの青春を謳歌する女子高生の真由。姉妹らしく顔立ちや体格はよく似ていたが、やはり育った立場の違いや年齢のせいか、真由の言動や振る舞いには幼さが残る。そんな無垢な妹を沙織はたいそう可愛がり、できる限り面倒を見てきた。結婚して実家を出てからも、こうして真由を家に迎えて相談に乗ってやっていた。

「新しいお母さんには中学生の娘さんがいるの。お母さんも……それにうちのお父さんも、あっちの娘さんばかり可愛がるの」

 真由は実家で起きたことをぽつぽつと語った。沙織が案じていた通り、新しい家族になかなか馴染めずにいるようだ。
 沙織と真由の母親は、二人が幼い頃に他界してしまった。以来、男やもめで娘たちを育ててきた父だが、最近になって職場の女性と再婚した。その後妻に邪魔者扱いされ、真由は家にいづらくなってしまったという。そのため近ごろは沙織の家を訪ねてくることが増えた。

「ごめん。お姉ちゃんに迷惑かけちゃって……。お姉ちゃんも結婚して自分の家庭があるのに」
「別にいいわよ。血の繋がった、たったひとりの妹だもの。お姉ちゃんはあなたのためならどんなことだってしてあげる。もしも家を出たいなら、うちに下宿してもいいんだからね。真司さんに頼んであげる」
「お姉ちゃん……ありがとう」

 涙ぐむ妹に、沙織は慈愛の笑みを向けた。

「それに、うちにやってくるのはあなただけじゃないのよ。お義父さん、私のお舅さんがね……」
「修さん……だっけ? お姉ちゃんの旦那さんのお父さん……あの人もこの家に来るの?」

「ええ、しょっちゅうね。もう仕事はなさってないみたいだし、奥さんもいなくて独り暮らしだから、暇なのかもしれない。大事な一人息子と話したいんだろうなって、はじめのうちは歓迎してたの。でも修さんったら、なぜか真司さんがいないときに限ってやってくるのよ。大した用もないのにうちに居座るんだけど、その間、私のことをじろじろと変な目つきで見てくるの。油断してたら肩や脚を触ってきて……本当にイヤになっちゃう。身の危険を感じるわ」

 沙織はひと息でまくしたてた。頻繁に訪ねてきては性的な嫌がらせをしてくる舅、修のことを沙織は嫌っていた。元妻である真司の母とは随分前に離婚したと聞いているが、修の振る舞いを考えれば逃げられてしまうのも当然だ。同じ部屋にいるだけで生理的な嫌悪感を抱くような相手だった。

「ええっ、それはイヤだな……そのうちお姉ちゃんが襲われちゃうかもしれない。家に入れなきゃいいんじゃない?」
「そんなわけにもいかないわ。夫の実のお父さんだもの。はあ、頭が痛い……真司さんにも相談してみたけど、あの人、自分のお父さんには頭が上がらないみたいなの。お前の気のせいじゃないか、考えすぎだって言って、全然頼りにならないのよ」
「どちらかといえば大人しそうな感じだもんね、真司さんは。自分のお父さんにガツンと言えるタイプじゃなさそう」
「そうね……本当にその通りよ」

 沙織は嘆息した。

 真司の優しい人柄に惹かれて結婚したが、一つ屋根の下で暮らすようになってからは、彼の優柔不断で柔弱なところがたびたび目につくようになった。押しの強い舅に身体を狙われていると相談しても、抗議ひとつしてくれない。もし将来子供ができても、あの夫が果たして妻子を守ってくれるのか大いに疑問だ。

「ごめんね、悩んでる真由にこんな愚痴を聞かせちゃって。真由の方が、私に言いたいことが沢山あるわよね」
「ううん、大丈夫だよ。あたしもお姉ちゃんのことが大好きだから、もし困ったことがあったら相談してほしいな。あたしには話を聴くくらいしかできないけど……」

 そのとき呼び鈴が鳴った。インターフォン越しに義父の来訪を知った沙織は、急いで真由に隠れるよう促した。
「大変、お舅さんだわ。あなたは見つからないように気をつけて帰りなさい。お舅さん、あなたにもちょっかいを出すかもしれないから」
「うん、わかった……気をつけてね、お姉ちゃん」

 そして沙織は義父を出迎えた。入れ替わりで真由が気づかれないよう出ていくのを確かめ、修を家に上げる。入ってきた修は馴れ馴れしく沙織の肩に手を置いた。

「やあ、沙織さん。元気にしてるか?」
 数年後に還暦を迎える修は沙織よりも背が低く、でっぷりと肥え太り、白い髪がわずかに頭皮に引っかかっている醜い男だ。沙織の夫である真司とは似ても似つかない外見だが、何十年かたつと真司もこのような老人になるのかもしれない。

「ええ、おかげさまで。今日はどんなご用件ですか?」
「たまたま近くを通りがかったものでね。大事な一人息子と可愛いお嬢さんの夫婦生活を邪魔するつもりはないが、夫婦仲がうまくいってるのか、年寄りには気になるんだよ。どうだい、ちゃんと真司に満足させてもらってるか?」

 嫁を訪ねてすぐにこの発言である。理性や品性をどこかに置き忘れてきたような義父を怒鳴りつけたくなるのを我慢し、沙織はリビングでコーヒーと茶菓子を出してやった。もう遅い時間で、舅の夕食もこちらが用意してやらなくてはならないだろう。厄介ごとが憂鬱を招く。

「どうぞ。真司さんはもうじき帰ってくると思いますので、それまでこちらでお待ちください」
「まあ待て。真司とはうまくやってるのか? 夜は満足させてもらってるか?」
「そんなこと……お答えできません」

 嫌悪感が露骨に顔に出てしまったのだろう。修は沙織に腹を立てた。

「ふん、無礼な嫁だな。綺麗な顔といやらしいカラダをしてるから、旦那のいない間に男でも連れ込んでるんじゃないかと心配してたんだが……どうやら、今日は尻尾をつかませないつもりだな」
「本当に何しにいらしたんですか、お義父さん? 最近は毎日のようにいらっしゃるじゃないですか。私だって暇じゃないんですよ。今日だって仕事の帰りに買い物をして帰ってきたばかりで、これから夕食の支度を……」
「そんなに年寄りを邪険にするもんじゃない。今日はいい物が手に入ったんでな。沙織さんも若いお嬢さんだから、こういうのが好きだろうと思って、わざわざ持ってきてやったんだ。少しくらい感謝してくれても罰は当たらんだろ」

 修が得意げに取り出したのは、古いぼろぼろの木箱だった。中には十センチほどの大きさの木が一本入っていて、それを灰皿の上に置いた。

「何ですか、それは?」
「香木だよ。これを燃やして香りを楽しむんだ。今の若い人はこういうのが好きと聞いたぞ」
「お香……ですか。でも私はそういうものにあまり詳しくなくて……」
「そんなはずはない。若い人はアロマ何とかが好きなんだろ? これも似たようなもんだよ」
「アロマはハーブのオイルの香りを楽しむものです。香木とは違います……」
「いいじゃないか、気にするな。同じだよ」

 かみあっていない会話ののち、修はライターを取り出した。

「これはなかなか手に入らない珍しい香木でね。この香りを味わうと、天にも昇る気持ちになるらしい。沙織さんもどうだ。一緒に楽しんでみようじゃないか」
「お気持ちはありがたいですけど……私、そういうのはちょっと苦手で……それに、これから夕食の支度をしなくちゃいけませんし……」
「まあまあ、いいからいいから。ほら、こんなにいい香りを楽しめるのは一生に一度かもしれんぞ」

 と言って、灰皿の上の香木に火をつける修。
 沙織は舅の行為にまったく興味がなかったが、無視して怒らせるのも厄介だ。仕方なく、ほんの少しだけ修につきあってやることにした。

 火のついた香木から白い煙があがった。まるで白蛇のような非常に濃い煙が蠢き、修と沙織の顔にまとわりついた。
 沙織は不思議な感覚に見舞われた。甘く、辛く、酸っぱく、苦い……表現の難しい複雑な香りが沙織の鼻を刺激した。初めての体験に戸惑いつつも、体が浮き上がりそうな心地よい気分になる。

「いったい何かしら、これは……? なんだか頭がぼうっとして、まるでお酒を飲んだあとみたい……」
「効いてきたようだな。胡散臭い話だったが、まさか本当だったのか? オレもいい気分になってきたぞ……へへっ、こりゃ楽しみだ……」

 修はうわごとを口にしていたが、やがていびきをかいて居眠りを始めてしまった。
 いったい何が楽しみなのだろうか。
 沙織は訝しがったが、深く考えることはできなかった。全身が空気のごとく軽くなる錯覚と共に急速に意識が薄れ、目を開けていられなくなる。尋常なことではなかった。

(何がどうなってるの。こんなのおかしいわ。動けない……ううん)
 ソファにもたれかかり、沙織は義父と共に深く深く眠り込んでしまった。

 ◇ ◇ ◇ 

 しばらくして……。
 目覚めた沙織は、自分の体をぼんやりと眺めた。

「なんだ、こりゃ……?」

 次第に目の焦点が合うようになると、己の服装に違和感を覚えた。白いブラウスの胸元を大きな二つの膨らみが押し上げていた。膝丈のベージュのスカートの裾からはむっちりした長い脚が伸び、沙織の情欲を刺激する。
 沙織は大きく股を広げて新しい自分を見下ろした。そして白魚のような指が自身の意思で動くことに驚愕する。驚きながら自分の身体をまさぐった。

「うおっ、柔らけえ……これがオレの胸なのか? オレの体にこんな大きなチチが……!」

 何度も何度も自らの乳房を揉みしだき、豊かな弾力を確かめた。胸を揉み、スカートの中の下着をまさぐり、はしたなく体じゅうを撫で回す。若妻は自身の艶やかな身体に鼻の下を伸ばした。
 ソファの向かい側には、頭の禿げあがった肥満体の老年男が眠り込んでいた。沙織はその顔をまじまじと見つめて飛び上がり、慌てふためいて洗面所に向かった。

 のぞき込んだ鏡に映るのは沙織の顔だ。職場でも器量よしと評判のはっきりした目鼻立ち、すっきりと痩せた顔の輪郭、茶色の長い髪を左側に流した長いワンサイドヘア。鏡の中の自身の頬を悪戯小僧のように何度も叩き、沙織は驚きと喜びに美貌を歪めた。

「この顔、この声……やった、やったぞ……! オレ、嫁の体になってるぞ!」

 沙織は歓喜した。いつも舅を小馬鹿にしていたかん高い女の声が自分のものになっていると思うと、嬉しくてたまらない。
 現在、沙織の中にあるのは沙織の精神ではなかった。信じがたいことだが、あの香木の煙を吸ったことで沙織の心は身体から出ていってしまった。そして空っぽになった沙織の肉体には、同様に体を離れた修の魂が入り込んでしまったのだ。

「あの胡散臭い香木、まさか本物だったのか! 信じらんねえ……へへっ、だがこれで嫁の体はオレのものだ。悪くねえ、まったく悪くねえよ。これでこのチチも尻も、太もももオレのもんだ。どんなに触ろうが舐めようが、誰にも文句は言わせねえ。ひひっ、なんだかいい匂いもしやがる……こんなむちむちしたスケベな女の体がオレのものなんて、たまんねえぜ!」

 見目麗しい嫁の全てを自分が所有していることに、沙織の中の修は背徳的な興奮を覚えた。沙織の中の修がそう命じるだけで、鏡の中の沙織が思い通りに笑ったり怒ったりする。日常、舅に澄ました態度をとっている嫁の多様な表情を見て、沙織の中の修は有頂天になった。

「畜生、真司のやつ、うまいことやりやがって。あの生意気なクソガキがこんなに若くてべっぴんの嫁を連れてくるなんてな。この女と話してるだけで、オレはチン○が勃ってしょうがなかったぜ」
 乳房や股間をまさぐりながら、沙織はリビングに戻った。するとソファで眠っていた修が意識を取り戻し、沙織と目を合わせた。

「きゃああああっ!?」
 野太い悲鳴があがった。

「おう、やっと起きたか。汚い顔でうるさい声出しやがって……その様子だと、やっぱりバカ嫁がオレの体になっちまったようだな」
「わ、私っ!? 私が私の目の前に……これはいったいどうなってるの!? なんで私がこんな体になってるのよおっ!?」
「うるせえぞ、バカ嫁! 騒ぐんじゃねえ!」

 沙織は舅を怒鳴りつけたが、修の興奮は収まらない。無理もないだろう。目の前にもう一人の自分がいるのだから。

「あなたは誰!? どうして私と同じ顔をしてるの!?」
「オレはお前の旦那の親父だよ、バカ嫁。オレは今お前の体になってる。そんでもってお前はオレの体になっちまったってわけだ。ほれ、あっちで鏡を見てこいよ」
「お、修さん? 修さんが私になって、私が修さんになって……そんなことがあるはずないわ。何かの間違いよ。鏡、鏡……」

 ビア樽のような体型の老年男は、ふらふらとよろめきながらも洗面所に向かう。そして鏡をのぞき込んで仰天した。

「いやああああっ!? 何よこれっ! これはお義父さんの顔じゃないのおっ!」
「だからそう言ってるだろうが、バカ嫁! 舅の話は耳の穴をかっぽじってよく聴きやがれっ!」

 洗面所でへたり込む修に、沙織は怒声を浴びせかけた。日頃の彼女が決して口にしないような下品な話し方に、沙織は自分が間違いなく修の心を持った沙織だと実感する。とてもいい気分だ。
 沙織はテーブルの上のマグカップを口に運んだ。体が別人のものになったためか、冷めたコーヒーの味も少し異なるように思えた。修はあまりコーヒーが好きではなかったが、沙織はこの味が好きなようだ。味覚も視力も聴覚も、若々しい五感の全てが明瞭で快い。

 修は幽霊のような顔色で戻ってくると、ソファに突っ伏して泣き出した。いい歳の男が情けないと沙織は嘲る。禿げて醜く肥え太った修は、実年齢よりも老いさらばえて、よりみっともなく見えた。

「な、何なのこれは……いったいどうして……」
「どうだ、これでわかったろ。オレはお前の体に、そんでお前はオレの体になっちまったってわけだ。理解したか?」
「そんな……こんなの信じられません。ううっ、なんでこんな、よりにもよってお義父さんと……あんまりだわ。うわあああん……」
「ギャアギャアわめくな! 嫁は旦那の親に尽くすもんなんだよ! バカなお前も、ちょっとはオレの役に立てて嬉しいと思いやがれ!」
「何を言ってるんですか。私たちの体が入れ替わって、それがどうしてお義父さんの役に立つんですか」
「どうもこうもねえよ。体を入れ替えたのはオレだ。オレがお前の体を有効活用してやろうって言ってるんだ。光栄に思うんだな」
「ええっ!? これはお義父さんのしわざなんですか!?」

 もはや修は卒倒しそうだ。顔は青ざめ、唇が震えていた。哀れなほどのうろたえようだった。それがますます沙織の優越感を刺激した。

「そうだ。さっき香木を焼いただろ? あれは滅多にない特別なものらしくてな。男と女があの香木の煙を吸い込むと、体が入れ替わっちまうんだと。オレもそんな旨い話があるわけねえと思ってたが、まさか本物だったとはな……おかげさまでこの通りよ。三十歳も若返っちまった」
「そんな……早く元に戻してください! 私、お義父さんの体になるなんてイヤです!」
「オレもそんな体はイヤだね。この若い体があれば、癌でおっ死んでしまうこともねえ。まったくありがてえお香だぜ」
「お義父さん、どういうことですか……癌って……?」

 また修の顔色が変わった。先ほどから赤くなったり青くなったり、信号機のような丸顔だ。

「実はな、こないだ医者に癌と言われちまってよ。もう手の施しようがねえんだと。もってあと半年らしいが、お前の体と入れ替わったおかげでオレは死ななくて済む。めでてえ話じゃねえか」
「そんなっ! まさか私に、お義父さんの体で死ねって言うんですか!? ひどい、ひどすぎます! 私の体を返してくださいっ!」

 修はソファから立ち上がって沙織につかみかかってきたが、短い脚を思い切り蹴とばされ転倒。テーブルの角に頭を強打してのたうち回った。

「きゃあああっ!? 痛い、痛い……!」
「ちっ、スカートなんてはいてやがるから動きにくいな。まあいい……とにかくこの体は今日からオレのもんだからよ。お前さんにはオレの大事な体をくれてやる。せいぜい残りの短い人生を楽しんでくれや、ははは……おっ、ちょうどいいところに帰ってきやがったぞ。何も知らねえうちのバカ息子がよ」

 ドアの開く音が聞こえた。沙織の夫で、修の一人息子である真司が帰宅したのだ。真司は床を転がる父親とその前に立つ妻を交互に眺めた。

「父さん、来てたのか。何やってるんだ? 沙織、これはいったい……」
「助けて、あなた!」

 先ほどまで修を見て笑っていた沙織は、血相を変えて真司に抱きつき助けを求めた。そして、修が息子の妻を手篭めにしようと襲いかかってきたのだと主張した。

「あなたが帰ってこなかったら、私はお舅さんに押し倒されていたわ。本当に怖かった……」
「そんなことが……父さん、沙織の話は本当なのか?」
「ち、違います! 私は沙織です! 信じてあなた! 私、お義父さんに体を取り替えられてしまったの! それでお義父さんは私のふりをして……!」
「何を言ってるんだよ、父さん。体が入れ替わった? いい歳してそんな滅茶苦茶なことを言うものじゃないよ」

 修は床に這いつくばって訴えかけたが、真司の心には届かなかった。自分の父親が日常的に沙織にセクシャル・ハラスメントをしていたことは彼もよく知っている。そんな修が語る、体が入れ替わったなどという非常識な話を信じるはずがなかった。

「もう帰ってくれ、父さん。それで、もうここには来ないでほしい。何か用があったら僕の方がそっちに行くから」
「私を信じて、あなた! 私はお舅さんじゃなくて沙織です! 本当に私たち、体が入れ替わってるの!」
「いいから帰って。これ以上ここに居座るのなら警察を呼ぶよ。僕の妻を強姦しようとしたって言って、しょっ引いてもらおうか?」
「そんな……」

 いつになく強硬な真司の物言いに、修は驚き嘆き悲しんでいた。なかなか父親に逆らえなかったが、ようやく毅然とした態度を示した真司……そんな彼が望んだのは、父の体になった愛妻を家から追い出すことだった。

「そういうわけですからお帰りください、お義父さん。へへへ……とっとと出ていけ、聞き分けのないバカ嫁がよ!」
 後半は夫に聞こえないよう小声で言い、沙織は嫌がる舅を無理やり家から追い出した。

「あなた、私の話を聴いてっ! お義父さん、家の中に入れてください! 私の体を返してえっ!」
「まだあんなことを言ってる。怖いわ、あなた……お義父さん、いきなり私に暴力を振るってきて……本当に怖かったの。きっと病気で頭がおかしくなってしまったのよ」
「ごめんよ、沙織。前からそうだったけど、僕の父さんはあまりまともな人じゃないんだ。あんな性格だから仕事だって長続きしないし、母さんにも逃げられて……。でも、もうあんな人とは縁を切る。君を守ることを最優先にするよ」
「そう、嬉しいわ。全力で私を守ってちょうだいね、あなた……へへへ」

 わざとらしく夫にすがりついて無力な女を演じながら、沙織は胸の内で勝ち誇っていた。

(これで嫁の体はオレのものだ。前から生意気でいけ好かないバカ嫁だったが……こんなに若くてエロいカラダをオレに譲ってくれたんだ。いい嫁じゃねえか、ひひひ……!)

 二十五歳の若妻の艶やかな女体……それはもうじき還暦を迎える舅の魂にとって、あまりにも刺激的だった。


 新しい沙織は自分の体を隅々まで探索しようと、風呂に入ることにした。何も知らない夫はリビングでくつろいでいた。妻の体が父親に奪われ好き勝手されていることなど、愚かな真司には想像もできないだろう。
 脱衣場で沙織は服を脱ぎ捨てていく。ブラウス、スカート……震える手つきでブラジャーをとると、形のいい乳房がこぼれ落ちた。先端がつんと上向いた巨乳だ。沙織は興奮のあまり息を荒くして己の乳をもてあそんだ。

「おほっ、いいチチだぜ。でも肝心のチン○がねえや……長年連れ添った相棒がいやしねえ。名残惜しいなあ……もう風俗に行って安い女に慰めてもらうこともできねえよ。くうっ、涙が止まらねえ」

 浴室に足を踏み入れ、唾液に濡れた指先で股間の亀裂をまさぐった。既に興奮していた女体は湿りはじめており、入口に指を抜き差しすると内部が物欲しげに蠢くのがわかった。
 これまで女の性器に指を入れたことは幾度もあったが、自分のに挿入したのは初めてだ。沙織の体を支配する修は異性の肉体になったことを改めて実感し、好奇心と征服欲の赴くままに新しい身体をこねくり回した。
 濡れた膣内は滑らかだった。長い指の先を折り曲げて膣内を引っかき、腹側の弱い箇所を探索する。肉の擦れる刺激に沙織は荒い吐息をつき、濡れた壁にもたれかかった。

「うおっ、これが女の体……す、すげえ。たまんねえ。あのバカ嫁、こんなエロい体を持ってやがって……」

 魂が肉体に嫉妬した。二十五歳の若妻の肉体を五十五才の舅の魂が支配し、新たな所有者の証を性感帯に刻みつけていた。
 女の体で味わう官能に、新しい沙織は夢中になっていた。ぴんと張り詰めた乳首を爪で引っかき、乳房の根元を搾るように揉みしだく。白い肌が桜の花びらの色に染まり、女の汗と汁の臭いが浴室内に立ち込めた。

「ううっ、もう我慢できねえ……なっ、なんかくるっ。イク、イっちまう。イクぞっ、おおっ、うおおおっ」

 沙織は雄々しい叫び声をあげ、生まれて初めての牝のオルガスムスに押し流された。視界が真っ赤に染まり、目の前が幻影の花に覆われる。はちきれんばかりの乳房が弾み、長い手足が小刻みに震えた。

 圧倒的な熱と多幸感に全身が包まれた。これまで想像もしなかった甘美な体験に、沙織はよだれを垂らしていた。女になってよかったと心の底から思った。

「はあ、はあっ、へへへ……これが女のイクってやつか。たまんねえ……へへっ、私ったらこんなに気持ちよくなったのは久しぶりね。最近は真司さんともしてないし……あら?」
 自然と口から出てきた言葉に、沙織は大いに驚いた。それまでの自分とは何かが違うと直感した。

(いったい何がどうなってるんだ? オレ、バカ嫁のことが思い出せるぞ……まるで自分のことみたいに。最近しょっちゅう訪ねてくる変態オヤジが大嫌いで、そんなオヤジに注意一つしてくれない頼りない旦那にも嫌気が差していた。実家に居づらくて訪ねてくる妹の真由だけが、オレの心の支えだった……)

 過去の沙織は多忙とストレスに苦しめられ、ここのところ真司との夜の営みはご無沙汰だ。新しい沙織はそれを我がことのように思い出していた。沙織が沙織の記憶を思い返せるのは当然のことかもしれないが、沙織の中の修にとっては当然ではない。これは驚くべき……そして歓迎すべき発見だった。

(こりゃあいい。オレ、バカ嫁の頭の中を自由にのぞけるんだ。職場の仕事や人間関係、家事の仕方……へへっ、何でもわかるぞ。こりゃあいい気分だ)

 どうしてこんなことになったのか判然としないが、自慰で絶頂に至ったことが原因ではないかと思えた。そうとわかった沙織はますます激しく己の体をもてあそび、入れ替わる前の本人も知らない性感帯を見つけ出そうとする。
 若妻の体も脳も、もはや完全に舅の支配下にあった。その気になれば、沙織の記憶を引き出すことで以前の沙織とまったく同じように振る舞えるだろう。彼女と義父が入れ替わっていることなど誰にも悟られまい。

「沙織、やけに風呂が長いじゃないか。変な声も聞こえたぞ。何かあったのか?」
「いいえ、あなた。何もありません。私は大丈夫よ、大丈夫……」

 心配して浴室の様子を見に来た夫に、沙織は平静を装って答えた。愉快でたまらない。沙織の夫は妻の異変に……妻の中身が別人になったことにまったく気づかず引き返していったのだから。

「へへっ、これでこのカラダはオレのもんだ。ココロもカラダも、嫁の全てがオレのもの……ひひっ、たまんねえ……! オレが嫁になるなんて最高じゃねえか……!」
 沙織は下品に笑って再び手淫にのめり込む。それを止める者は誰もいない。二十五歳の若妻の肉体と人生が舅に根こそぎ奪われるのを止める者は誰ひとりいなかった。

 ◇ ◇ ◇ 

 朝、マンションのエントランスから真司が出てきた。パリッとしたスーツとネクタイ、細い眼鏡、夏らしく爽やかなツーブロックの七三分けショートヘア……通勤のため駅に向かう真司の姿に不審な点は見当たらなかった。表情も落ち着いていて、私生活の悩みはうかがい知れない。
 マンションの隣にあるコンビニエンスストアの駐車場から、修は気づかれないよう真司を見送った。

(お義父さん、あれから何日も私になりすまして……いったいどういうつもりかしら。どんなに演技しても親しい人にはわかるでしょうに。真司さんだって気づいてるはずよ)

 愛する妻の中身が突如として別人になってしまったにも関わらず、真司が平静に見えるのが奇妙に思えた。

 不思議な香木の効果によって中身が入れ替わってしまった沙織と修。二人はまだ元に戻っていなかった。
 修の体になった沙織は家を追い出され、やむを得ず近くにある修のアパートに避難した。まったく掃除されていない汚い部屋で枕を濡らした。この数日間、真司に何度も連絡して事情を説明しようとしたのだが、真司は元妻・現父親の言うことに少しも耳を貸さなかった。直接マンションを訪ねても不審者扱いされ、警察を呼ばれる始末だ。

 修になった沙織が元の体に戻るためには、沙織になった修を捕まえ、戻るよう説得するしかない。
 おそらく、あの魔性の香木をもう一度燃やして二人一緒に煙を吸えば、魂が身体を抜け出て元の体に戻れるはずだ。修は汚い部屋を掃除して家探ししたが、あの香木と同じものは見つからなかった。
 もしやあの一本だけなのでは……一度体が入れ替わってしまうと元に戻れないのでは……最悪の想像を思い浮かべて、修は何度もおののいた。

 沙織と真司が暮らすマンションの前で、夏の朝の日差しを浴び、修は汗だくになって待ち続けた。沙織が現れるかどうか確信は持てなかったが、幸い彼女はやってきた。

「お義父さん!」
 修は慌てて沙織を呼び止めた。振り返った沙織の方が長身ですらりとしており、見下ろされるのが不愉快だ。

「ああ、沙織さんか。おはよう、元気そうで何よりだ」
「おはようじゃありません! 私の体を返してくださいっ! それにその服……いったいなんですか! 私の体でそんなふしだらな格好しないで!」

 通勤に向かうつもりなのだろう。沙織は愛用のカバンを肩に提げていた。
 しかし修が激昂したのはその服装だ。白いシャツと黒のタイトスカート……といえば聞こえはいいが、シャツは恵まれた巨乳を強調するために前が大きく開かれ、一番下のボタンで辛うじて留められている状態。けばけばしいピンク色のブラジャーが恥ずかしそうに顔を出していた。タイトスカートの裾は下着が見えるギリギリの長さで、黒いストッキングに光沢のあるハイヒール。会社員というよりも、いかがわしい接客サービスの店員が会社員のコスプレをしているかのようだ。

「なんだ、オレの服装が気に入らないのか? 真司には好評なんだが」
「真司さんの前でそんな格好してるんですか!? しかも会社にまで行くなんて……信じられない! 今すぐ私の体を返してください!」
「わかったわかった、お前さんの望むようにするから落ち着きなさい」

 胸ぐらをつかんで必死で迫ると、沙織は肩をすくめて修をなだめた。

「それじゃあ、元に戻してくれるんですか!?」
「ああ、こっちに来なさい。人目についたらまずいからな」
 沙織は修をコンビニエンスストアの裏に連れてきた。店員が来ないことを確認すると、壁に背を向けて立つよう修に指示する。修は訝しがりながらも渋々それに従った。

「ほら、早くチン○を出せ」
 沙織は修のベルトを外すと、ズボンを下着ごとずり下ろした。だらりと萎えた男性器があらわになり、修は赤面した。

「きゃあっ!? な、何するんですか!」
「オレの体が気に入らないから困ってるんだろ? なら、お前がその体を気に入れば問題ないじゃないか。こうやって、な」

 沙織はにやりと笑い、片手で修のペニスを撫で回した。修は抵抗しようとしたが、ぐっと壁に背中を押しつけられている上にズボンを下ろされ身動きがとれない。入れ替わって以来、小便をするたびに目をそらしてきた男の象徴が、若い女の巧みな手つきに煽られる。すぐに肉棒が硬くなった。濡れたように光る真っ赤なネイルから、修は目が離せない。

「イヤぁ……こんなのイヤです。やめてください」
「イヤなはずがないだろ。お前のチン○はこんなに硬くなってるじゃないか。オレの柔らかい手が気持ちいいだろ。ほれ、ほれ……見ろ、ますます硬くなっていくぞ」
「ああっ、やめて。やめてえっ。うぐっ」

 修の口が沙織の空いた手に塞がれ、声も出せなくなった。「大声を出したら人が来る。誰かに見られて噂になったら、真司の耳にも入ってしまうぞ。嫁と舅が隠れていい仲になってるってな」と耳元で囁かれ、抗う手段を封じられる。卑劣な脅迫だった。

「お前は黙って、その粗末なモノをおったててりゃいいのさ。まったく、大きさも硬さも真司のとは比べものにならねえほど貧相だな。真司はまだまだ青二才のガキだが、それでもあいつはオレを満足させてくれるんだぜ」
(そんな……私の体でいったい何をしているの)

 夫婦の夜の営みを匂わせる発言に修は憤ったが、沙織の淫らなテクニックに彼が勃起させられているのは事実だ。上向いた陰茎の笠を指先で擦られるのがたまらない。修は鼻の穴を広げて呼吸を速くした。

「うう、うっ、うああっ」
「へへっ、早くもフィニッシュか? 我慢は毒だぜ。とっとと出しちまいな」
(な、何なのこれは。これが男の人の感覚……ああっ、もう我慢できなくなっちゃう)
「その様子だと初めてみたいだな。男の気持ちいいところ、たっぷり味わってくれよ。おら、イけっ」
「ああっ、お腹の底から何かが……あっ、で、出る。出るぞっ、うおおおっ!」

 とうとう限界を迎え、修の下腹からマグマが湧き上がった。白い粘液が勢いよく噴き出し、若妻の手に絡みつく。生まれて初めての射精に修の中の沙織は酔いしれた。

 絶頂を迎えた老年の一物はたちまちしぼんだ。黒いアスファルトに点々と精がこぼれ、不快な臭いを放つ。もはや修は何も考えられず、ただ荒い息を吐き続けた。

「ふふっ、いっぱい出しましたね。お義父さん」
「はあ、はあ……ああ、オレはどうなったんだ?」
 美しい笑みを浮かべた沙織に下から顔をのぞき込まれ、修は狼狽した。決してしてはならない行為のはずなのに、快くてたまらない。先ほどまで修が己の醜い身体に抱いていた嫌悪感は急速に薄れつつあった。

「いいことを教えてあげますよ、お義父さん」
 沙織の中の修は、沙織の話し方を真似て微笑んだ。「体が入れ替わったこと、すぐに周囲にバレると思ってたでしょ? だって中身がオレだもんなあ。嫁の中身が料理も掃除も洗濯もできねえ役立たずのおっさんとなると、さすがにうちのバカ息子も気づくかもしれねえ。でもね……あれから私は、日頃のあなたみたいに完璧に家事をして、仕事もちゃんとこなしているんです。この刺激的な服装以外、今のところ誰にも不審がられていません。これがどういうことかわかりますか?」

「わ、わからない……どういうことだ?」
「ふふ、わからないんですね。やっぱりオレの脳みそじゃ難しいことは考えられないですよねえ? 種明かしをしますとね……あることをすると、入れ替わった体の記憶が思い出せるようになるんですよ」
「思い出す……?」
「ええ、そうです。真司の妻、沙織。六月十日生まれの二十五歳。市内の商社に勤める会社員。得意な料理は肉じゃが。これまでにつきあった男性は今の夫を含めて三人……どうです? 私はいくらでも沙織のことを思い出せますよ。だって私が沙織ですもの。当たり前ですよねえ。いったい何をしたら沙織のことを思い出せるようになったと思います?」
「それ以上やめて……か、体を返してくれ」

「もうわかってますよね? それはエロいことです。入れ替わった体でエロいことをすればするほど、今の体から記憶を引き出せるようになるんですよ。すごいでしょう?」
「そんな……じゃあ、お前がオレにこんな真似をしたのは……」
「ご想像の通りですよ、お義父さん。あなたの心をその体に馴染ませるためです。一回ザーメン出したくらいじゃ大したことないかもしれませんが、どうですか? 少しは修の体に馴染んできたんじゃないですか、沙織お義父さん?」
「う、うあああ……あああああ……!」

 心の底から沸き上がる衝動に耐えきれなくなって、修はアスファルトの上にへなへなとへたり込んだ。腰が抜けて立つことができない。嫌悪と後悔とそれ以外の感情とで、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 沙織はそんな義父を嘲笑すると、汚れた自分の手を白いハンカチで拭いた。清楚で貞淑だった美貌の人妻は、いまや別人にしか思えない妖艶なフェロモンを醸し出していた。

「それじゃ、私は仕事に行ってきますからこの辺で。お義父さんも次の働き口を見つけないと生活は苦しいでしょう。せいぜい頑張ってくださいね」
「う、うう……オレは、オレは……!」

(私は沙織よ。絶対に修じゃないわ。何としても私の体を取り返してみせる。でもさっきのバカ嫁の手コキ……ああっ、あんなのたまんねえよ。畜生、また近いうちにやらせてやるぞ。なにしろオレはバカ嫁の舅なんだからな、嫁は舅に絶対服従しねえと……あれ?)

 見覚えのない顔、聞き覚えのない声が数え切れないほどまぶたの裏に浮かび上がり、修の頭の中をぐるぐると回っていた。

 癇癪を起こして上司を殴り、職を失った日のこと。
 酒やギャンブルにのめり込み、土地と家を手放して安アパートに引っ越した日のこと。
 夫の金づかいの荒さと暴力に耐えられなくなった妻に離婚を宣言された日のこと。
 五十五年分の舅の記憶が次々と蘇ってきて、二十五歳の若妻の魂に染み込んでいく。

「な、なんだよこれは……? オレは修じゃねえ。修じゃねえのに……!」
 別人の心と体がより深く繋がりつつあった。修は大汗をかいて頭をかかえ、コンビニの店員が気づいて声をかけるまでその場にうずくまっていた。

 ◇ ◇ ◇ 

 休日、真由は姉のマンションの前にいた。

「結局、また来ちゃったなあ……。お姉ちゃん、今日は家にいるのかな?」

 エントランスの入口に立って嘆息した。
 父が若い後妻と睦まじくするのを見るのが辛く、自宅にいたくなかった。その後妻が十八歳の継子のことを厄介者扱いしているのであれば尚更だ。仕方なく真由はできる限り放課後に居残りをしたり、友達の家で過ごしたりするよう努めている。嫁いだ姉の厚意に甘えて、こうして兄夫婦の家に邪魔することもしばしばある。

(お姉ちゃんのことだから喜んで入れてくれると思うけど、もう結婚してるのにあんまり迷惑かけるのもなあ……真司さんにも悪いよね)

 この日の訪問は事前に姉の許可を得ていなかった。あらかじめSNSで連絡したのだが、沙織からの返事はなかった。どんな時でもすぐに真由のメッセージに返信してくれる姉にしては珍しいことだった。もしかしたら出かけているのかもしれないと思いながら、他に行くあてもない真由は、休日の昼までを学校で過ごすと、姉の自宅前まで来てしまった。

 優しい沙織はたった一人の妹に自宅の合鍵を持たせ、いつでも遊びに来ていいと言ってくれていた。しかしそれでも、無断で部屋に上がり込むわけにはいかない。親しき仲にも礼儀ありだ。
 部屋番号を打ち込んで姉を呼び出そうか、それとも姉夫婦に迷惑をかけないよう帰ろうかとマンションのエントランスで迷っていると、真由の前に老年の男が現れた。姉の夫である真司の父親、修だった。

「修さん……? こ、こんにちは」

 まずいことになったと思った。修は若い女性を見たらすぐちょっかいをかける迷惑な男で、息子の妻の沙織にもセクシャル・ハラスメントを繰り返していると聞く。白と紺のセーラー服を着た幼い自分は格好の獲物かもしれない。真由からすれば、いくら用心してもしすぎることのない相手だった。

「真由……」
 修は元気のなさそうな顔で真由を眺めた。すぐに鼻の下を伸ばして体を触ってくるということはなかったが、死人のような顔色が不気味だ。ろくに会話を交わしたこともない嫁の妹の名前を呼び捨てにするのも馴れ馴れしいと感じた。

「修さんもお姉ちゃんの家を訪ねてきたんですか? あ、あたしはすぐ帰りますから、修さんはどうぞ真司さんとごゆっくり……」

「違うんだ、真由。オレは修じゃない」
「え?」

 それから姉の舅が語った内容は、利発な女子高生にも到底理解が及ばぬことだった。なんと、先日修が沙織を訪ねたとき、二人の体が入れ替わってしまったというのだ。

「それじゃあ今は修さんがお姉ちゃんで、お姉ちゃんが修さんになってるってことですか?」
「そうだ……信じられないだろ? でも本当のことなんだ。オレはあいつに沙織の体を盗まれてしまったんだ。頼む真由、オレを信じてくれ」
「そんな……そんなこと言われても信じられません。体が入れ替わるなんて、ありえない……」

 真由が戸惑って答えると、修は気の毒なほどがっくりと肩を落とした。

「そうだろうな……急にこんなこと言われても、信じられないだろう。だが本当のことだ。今このマンションに住んでいる沙織の体は、あの憎たらしい下品な舅が使ってるんだ。どうしても信じられないなら、自分の目で確かめてくるんだな」
「はい、そうします。お姉ちゃん、今日は家にいるんですよね?」

 奇妙な言動の修から早く離れたくて、真由はエントランスから姉の沙織を呼び出した。インターフォン越しに歓迎する旨の返事があり、真由は一人でエレベーターに乗り込んだ。建物の入口で所在なさげに立ち尽くす修の姿が小さく見えた。

(ああ、びっくりした。修さん、なんであんなおかしなことを言うんだろう。体が入れ替わるなんて、ドラマやアニメの中の話でしょ? 現実にはありえないよ。それに、あたしの大好きなお姉ちゃんがあんな気持ち悪いおじさんの体になってるなんて、想像しただけで鳥肌たっちゃう)

 あれほど不気味で不可解な話を聴かされるくらいなら、胸や尻を汚い手で触られる方がまだマシかもしれない。もしや姉の舅は認知症を発症したのではないかと疑った。
 嫌な思いを振り払い、真由は沙織の部屋に到着した。ドアが開いて最愛の姉が姿を見せた。

「おう、よく来たな、真由ちゃん。まあ上がれよ」
「お、お姉ちゃんっ!? その格好はどうしたのっ!?」

 あまりの衝撃に真由の心臓が止まりそうになった。常に清楚で上品な服装を心がけているはずの姉が、今は大きく前の開いた黒革のボンテージスーツを身に着けていたのだ。豊かな胸が下品な衣装によってより強調され、汗とそれ以外の体液の臭いが真由の鼻をついた。

 信じられない。
 先ほど修の奇怪な話を聴かされたときもそう感じたが、今回の驚きはその比ではなかった。真由の憧れだったあの真面目な姉が、繁華街の裏路地にある店で男の接待……それも変態的なプレイをするような格好で、玄関に仁王立ちしていたのだ。折れそうなほど細く高いピンヒールの靴のせいか、脚が細かく震えているのがまた滑稽である。

「いったいどうしちゃったの、お姉ちゃん!? そんなおかしな格好をして……ひょっとして真司さんにはそういう趣味があるの?」
「いや、これはオレの好きなSМ衣装でな。いつもオカズにしてるアダルトビデオに出てくる女がこんな格好してるんだよ。滅茶苦茶エロくてたまんねえぜ、へへへ……」
「好きなアダルトビデオ……え、なに? どういうこと?」

「このスケベなバカ嫁の体にも似合うだろうと思って着てみたら、案の定バッチリでよ。オレがこんなスケベな女になってエロいカッコしてるなんて、もうたまんねえぜ。さっきからオナニーしまくってるんだが、女は何回でもイケちまうのな。くうっ、たまんねえ」
「いったい何を言ってるの、お姉ちゃん……?」

 真由は頭がくらくらした。真面目で清楚な姉とは思えない風体と言動である。もしや発熱して意識が朦朧としているのかと思い沙織の額に手を当てたが、興奮して顔を真っ赤にしていること以外、高熱を疑わせるものはなかった。
 下劣極まりない姉の姿に、真由は悲しいやら情けないやらで泣きそうになった。

「それにしても、いいところで訪ねてきてくれたもんだ。へへっ、今日は真司のやつが飲み会で出かけてるから一人だったんだ。このエロい体でオナニーするのはたまんねえけど、可愛い真由ちゃんと乳繰りあうのはもっといいだろうなあ。さあ真由、大好きなお姉ちゃんと仲良くしましょうね、ふひひ……」
「いやっ! はなして!」

 姉が自分に伸ばしてきた手を、真由は大声をあげて振り払った。このように乱暴に姉を拒絶するのは初めてのことだ。それほどまでに沙織の振る舞いは常軌を逸していた。

「今日のお姉ちゃん、おかしいよ! こんなのあたしのお姉ちゃんじゃない!」
「はははは……それは違うぜ、真由ちゃん。オレは間違いなくお前さんの姉貴だ。なんてったって、このカラダは間違いなくお前さんの姉貴のカラダなんだからな」
「お姉ちゃんの、カラダ……?」
「ああ。だから、今はオレがお前さんの大好きな沙織お姉ちゃんなんだよ。中身はどうだか知らねえけどな。さあおいで、若くてぴっちぴちの女子高生の真由ちゃん……」

 ドアに背中をつけて立ち尽くす真由に、沙織が両手を伸ばして迫る。真由は姉の顔をにらみつけたが、その整った顔立ちはどこからどう見ても実の姉、沙織のものだ。沙織によく似た別人が真由の姉になりすましているわけではない。これまで誰よりも沙織を見てきた真由にはそれがよくわかった。

「真由、ちゅーしよう。ちゅー」
「やめて、お姉ちゃん……んんっ」

 ヒールのせいで少し背の高い姉が、真由の唇に自分のを重ねた。まだ恋人のいない真由にとって初めての接吻だ。まさか最愛の姉にファーストキスを奪われるとは予想だにしなかった。
 戸惑う真由の歯をこじ開け、沙織の舌が口内に分け入ってきた。気色悪さとほんのわずかな興奮に震える妹をもてあそぶように、沙織の舌が隅々まで真由を舐め回す。よく似た顔立ちの姉妹は淫らなキスに没頭し、相手の唾液を嚥下した。

(あたし、お姉ちゃんとキスしてる……。こんなのいけないのに、大好きなお姉ちゃんに口の中を舐め回されてるよう……)

 幼い頃から憧れていた美人の姉と濃厚なキスを交わして体を火照らせている。その事実が信じられなかった。
 たっぷりと時間をかけて真由の口内を蹂躙し、ようやく沙織はキスをやめた。姉妹の舌はほんの一瞬、唾液の橋で結ばれ、名残惜しそうに離れていった。

「へへっ、たまんねえぜ。バカ嫁のカラダもオレにとっちゃ充分若いが、やっぱり女子高生は格別だな。どうせ入れ替わるならお前のカラダにしときゃ良かったぜ、ははは……」
「お姉ちゃん、ホントにどうしちゃったの? いつもの優しいお姉ちゃんに戻ってよう……」
「めそめそしやがって、面倒くせえガキだな。まったくしょうがねえ。じゃあこのカラダの記憶を読んで……」

 半泣きになって真由が懇願すると、沙織は細い指で己のこめかみを押さえ、何ごとか考え込んだ。そして不意に柔和な笑みを浮かべた。

「ごめんね真由。お姉ちゃん、あなたにひどいことをしちゃったわね。ごめんなさい。許してちょうだい」
「お、お姉ちゃん? いつものお姉ちゃんなの?」
「ええ、そうよ。お姉ちゃん、真由に謝らなくちゃいけないわね。本当にごめんなさい」
「ホントだよ、お姉ちゃん。今日はいったいどうしちゃったのさ? あたし、もうどうしたらいいか……」

 ようやく自分が知る心優しい沙織が戻ってきたのかと真由は安堵した。黒光りするボンテージスーツを着て聖母の微笑みを浮かべる沙織。決してこのような奇行にはしる彼女ではないが、何か特別な事情があるのだろうと推測した。

「心配かけたわね、真由。でもお姉ちゃんはもう大丈夫よ。だって……」
「だって?」
「だってお姉ちゃん、このカラダも記憶もぜーんぶ、大好きな修さんに捧げたんですもの。エロいことをすればするほど、バカ嫁の記憶が読めるからなあ……へへへっ。おかげで今のオレは真由ちゃんのことだって何でもわかるぜ。幼稚園児の頃にお姉ちゃんにプロポーズしたことも、小学校三年生までおねしょしてたことも、何でもな……くく、くはは、あははははっ!」

 奇声をあげて笑いだした沙織は、やはり普段の温厚な姉ではなかった。真由の顔から血の気が引き、理解のできない異常事態が起きていることを本能で察した。

「やっぱり、あんたなんかあたしのお姉ちゃんじゃない! 近寄らないでっ!」
 真由は素早く背後のドアを開け、沙織の家から全速力で逃げ出した。

「おい、逃げるなよ。せっかくお姉ちゃんが可愛がってやろうってのによ……おい真由! 戻ってきやがれ!」
 姉の怒声を背中で受け止めてエレベーターに飛び乗った。息も脈も苦しい。だが、それ以上に心が苦しかった。

(あんなのあたしのお姉ちゃんじゃない……絶対におかしいよ。お姉ちゃん、いったいどうしちゃったの?)
 母を亡くし、父を継母に奪われた真由にとって、沙織は唯一頼れる肉親だった。その沙織が何の前触れもなくあのような狂人になってしまうとは……自分は悪夢を見ているのではないかと疑ったが、いくら頬をつねっても目が覚める気配はなかった。

 失望してマンションのエントランスを出ると、それを見計らって年老いた肥満体の男が近寄ってきた。
 修だった。
 修は真由の落胆に気づいたのか、人目につかない狭い路地に彼女を連れていった。

「真由……どうだった?」
「あんなの、あたしのお姉ちゃんじゃない。いったいどこの誰よ、あの下品な女は……!」
「だから言っただろ。あれは沙織じゃなくて、沙織の体を盗んだ修なんだ。そして、体を盗まれた沙織はこの私……畜生、意識しないと前みたいに喋れないわ。この体に馴染めば馴染むほど、私は修さんになっていく……」

 修は悲しそうに言った。その理知的で穏やかな表情に嫌悪を抱かせる要素はまったくなく、あの好色な修とはまるで別人のようだ。
 そして、同じく別人のごとく変貌した沙織……。
 あの変わり果てた沙織の姿を見てしまった今、もはや彼の言うことを信じないわけにはいかない。
 沙織と修は本当に体が入れ替わってしまったのだ。

「修さん……ホントにあなたが本物のお姉ちゃんなの?」
「ええ、そうよ。信じてくれた?」
「どうしてそんなことになったのかわからないけど……でも、信じるよ。お姉ちゃん、ホントにあのおじさんに体をとられちゃったんだね。さっきは信じてあげられなくてごめんね……ううっ」

 真由は修の体にすがりつき、子供のように泣きわめいた。ろくに洗濯もしていない服の汚さも鼻をつく体臭も気にならない。肥え太った老年の男の体に宿っているのは、最愛の姉の心なのだ。

「ごめんね、真由。私がこんなことになって、あなたにも迷惑をかけちゃって……」
 修も涙を流し、か細い真由の体を抱き返した。

 五十五歳の男と十八歳の女子高生。昵懇の間柄である姉妹は号泣して抱きあい、辛すぎる現実に耐えるのだった。

 ◇ ◇ ◇ 

 それから修は、現在の自分の家に真由を案内した。築数十年の古いアパートは今にも崩れそうで、その隅にある狭い一室が修の部屋だった。

「ひどい部屋に住んでるんだね。お姉ちゃんはここで暮らしてるの?」
「ええ、これでも掃除はしたんだけど……」

 あちこちがカビて不快な臭いが立ち込める陰気な部屋に、真由は顔をしかめた。
 穴の開いた座布団の上に彼女を座らせ、修は土色の壁にもたれかかった。疲労と憂鬱で力が出ないが、真由が自分の話を信じてくれたことが唯一の救いだ。

「さっきの話だけど……もう一度詳しく話してくれない、お姉ちゃん? なんで修さんと体が入れ替わっちゃったの?」
「うん、それがね……」

 修の体になってしまった沙織は、これまでの経緯を説明した。癌を患った修が沙織を訪ね、妖しい香木の力で互いの体を入れ替えてしまったこと。沙織の体だけではなく記憶まで奪い、彼女になりすましていること。沙織の心が修の体によく馴染むよう、淫らな悪戯を仕掛けたことも話した。

 話を聴き終えた真由は、まるで我がことのように怒りに身を震わせた。

「ひどい、そんなのひどすぎるよ。お姉ちゃんが綺麗な体をとられて、修さんの代わりに病気で死ななくちゃいけないなんて……殺人だよ」
「落ち着いて、真由。まだ私が死ぬと決まったわけじゃないから」
「でも許せないよ。真司さんのお父さんはホントにひどい人だね。そうだ、真司さんとは話してみた? 旦那さんはお姉ちゃんの言うこと信じてくれないの?」
「ええ、全然。何度も電話したんだけど、ちっとも聞いてくれないわ。仕方のないことだけど……」
「そうなの。旦那さんもひどい人だね。とにかく何とかして元に戻る方法を探さないと……」

 真由は決意を新たに、拳をぐっと握りしめた。沙織によく似た美しい顔立ちだが、やや幼さを残した立ち居振る舞いが印象的だ。快活で表情がころころ変わり、見ていて飽きない。修はわずかに笑顔になった。

「でも、どうやったら元に戻るんだろう。二人の体を入れ替えたお香って、一本だけだったの? 他にはないの?」
「たしか私が見たときは一本だけだったわね。もう焼いてしまって残ってないけど……」

 修はあの日、体が入れ替わる直前のことを思い出した。古いぼろぼろの木箱から取り出された奇妙な香木……箱の中に入っていたのは一本のみだった。
 修と沙織を元に戻すには、おそらくあの香木をもう一度焼いて、二人同時に煙を吸い込む必要があるはずだ。では香木が他に何本も存在しているのか。それともあの一本しかないのか……今の修にはわからない。

「そもそも修さんはどうやってそのお香を手に入れたの? 何本手に入れたの? この家の中に同じお香はないの?」
「わからないわ。入れ替わってから私なりにお香について調べたり、この部屋を探したりしたけど、今のところ手がかりはないの。あの人に聞いても教えてくれるはずがないし……」
「じゃあ、その辺のことは思い出せないの?」
「思い出すって……つまりそれは」

 真由の言葉に、修はうつむいていた顔を上げた。

「修さんは入れ替わってからお姉ちゃんのことを思い出せるようになったんでしょ? だったら、お姉ちゃんも修さんのことが思い出せるはずだよ。体が馴染んだら思い出せるようになるって、あの人が言ってたんだからね」
「そ、それはそうだけど……でもそれは」

 修は逡巡した。

「イヤなの? 修さんの頭の中をのぞくのが」
「それ自体がイヤなわけじゃないのよ。でも記憶をさぐるには、その、なんていうか……いやらしいことをしなくちゃいけないのよ。私が修さんの体でふしだらなことをするのは抵抗があるというか、気が進まないというか……」

 肥満した禿げ男は赤面して首を振った。沙織の手に性器を愛撫してもらったあのときの光景が脳裏に蘇る。だらしなく頬を緩ませ射精してしまった屈辱と快感を思い出すと、自己嫌悪に胸が締めつけられた。

「今はそんなこと言ってられないでしょ!? 元に戻るためならどんなことでもして、手がかりを探さないと!」
「そうだけど……やっぱり怖いのよ」
「怖い?」

「自分が自分でなくなってしまうのが怖いの。いやらしいことをして気持ちよくなると、修さんの思い出が頭の中に浮かんできて、その代わり私の記憶が薄くなって消えてしまいそうになって……入れ替わる前の自分の体や、その辺の女性をいやらしい目で見てしまうの。まるで本物の修さんみたいに。身も心も修さんになってしまうようで、それが本当に怖いのよ……ううっ、ううう……」

 両手で顔を覆い、女々しく泣き出す修。若く上品な人妻がけだもののような舅の欲望に汚染される恐怖は筆舌に尽くしがたい。もう沙織に戻れなくなってしまうことを修は恐怖していた。

「そうだよね……あたしでも絶対に怖いと思う。でもずっとこのままってわけにもいかないからさ。勇気を出して修さんのことを調べてみようよ。あたし、お姉ちゃんが修さんの代わりに死んじゃうなんて絶対にイヤだよ」
「真由……」

 セーラー服の少女に手を握って慰められ、修は生気を取り戻した。

「そうね……逃げてばかりじゃ問題は解決しないものね。ありがとう真由、あなたの言う通り、今夜にでも修さんのことを思い出せないか試してみるわ」
「ダメだよ、こういうのは早い方がいいよ。あたしも協力するから、やってみようよ」

 真由はそう言って修ににじり寄った。
 修は驚き、少女から離れようとする。だが狭い部屋で逃げられる場所などなく、部屋の隅に追い詰められた。

「やめなさい。何をしようっていうの、真由? イヤっ、そんなところ……」
「やめないよ。お姉ちゃんのためならこのくらい……」

 真由はおずおずとファスナーを下げ、修のズボンの中から老年のペニスを取り出した。だらりと垂れ下がった白髪交じりの黒い一物に、生娘の少女は目を剥いた。

「すごい。おちん○んってこんななんだ……」
「真由、やめなさい。あなたがこんなことをする必要はないのよ。お願いだからもっと自分を大切にしてちょうだい」
「必要はあるよ。お姉ちゃんが修さんのことを思い出すにはエッチなことをしなくちゃいけないんでしょ? あたし、協力するよ」

 おそるおそる修のを握りしめ、加減を確かめるように切っ先を撫で回す。生き物にも似てびくびくと跳ねる肉棒に真由は悲鳴をあげたが、決して逃げようとはしなかった。
 心地よい感触だった。十八歳の女子高生が白く柔らかな手で男性器を握ってくれていた。沙織の魂を宿した修は目を細めて満足の吐息をつく。シャンプーの匂いを漂わせる美少女が、たどたどしい手つきで修のペニスをしごきはじめた。

「ああっ、真由。それダメ。気持ちいい……」
「気持ちいいの、お姉ちゃん? よかった。あたし頑張るね」

 血の溜まった勃起に細い指が巻きつき、幹を上下に摩擦する。沙織のものとは比較にならない戯れのような動きだが、うぶな少女に淫らな奉仕をさせる興奮は大きい。沙織の舅は少しずつ着実に高ぶっていく。

「お姉ちゃん、あたしのも触って」
 真由の手に腕をつかまれ、制服のプリーツスカートの内部に手を運ばれた。ショーツを脱いだのか、指先に触れるはずの布地の感触はない。濡れそぼった秘唇を修の武骨な指がなぞりあげた。

「お姉ちゃん、それいいの。お姉ちゃん、お姉ちゃんっ」
「ま、真由……可愛いぞ、私の真由っ」

 肉に雫の絡む音が止まない。十八歳の女子高生と五十五歳の無職男が、互いの性器を指で愛撫していた。誰が見ても許すことのできない不埒な行いに、修は爆発寸前になる。

 だが、それで終わりではなかった。真由は唐突にペニスをしごく手を止め、修の前にひざまずいた。

「出そうになった? でもまだだよ。もっとエッチなこと、お姉ちゃんにしてあげるね」

 そして少女は下腹に顔を寄せてきた。ツインテールの黒髪に三段腹を撫でられくすぐったい。いきりたった陰茎の切っ先が小さな口に飲み込まれていく。あまりの行いに修は動転した。

「真由、そんなことまでしなくていい!」
「大丈夫。あたし、お姉ちゃんのためなら何でもできるよ。お姉ちゃんが元のお姉ちゃんに戻るために、どんなことでもしてあげたいの」

 真由は臭いと汚さに耐え、修の肉棒を頬張った。加齢により硬度を失ったペニスが小さな口いっぱいに膨張し、女子高生の呼吸をせき止めた。

 沙織の妹は健気だった。苦しくてたまらないだろうに、舌を出して口内の男性器に奉仕しようと努力する。自分が少女を苦しめていることに罪悪感と背徳感とを抱き、修の下半身に血流が集まる。尿道口からとろとろの粘液が漏れ出るのがわかった。

「ああっ、真由すごい。真由の口の中、すごく気持ちいい……」
「んっ、んんっ、んぐっ」

 いい気分になった修は、腕を伸ばして真由の髪をわしづかみにした。頭の左右で束ねられた長い髪は非常に持ちやすい。修は真由の頭を乱暴に前後させ、真由の口から喉にかけて肉棒で蹂躙した。
 真由の目から涙がこぼれ、激しく咳き込んだ。
 しかし修は彼女を気づかうことなく、真由の喉を強引に犯した。迫りくる射精の欲求に抗うことができない。欲望と本能のままに真由の口内を征服した。

「ううっ、出る、出るぞ真由。しっかりオレのを飲み干せよ。おおっ、うおおおっ」

 ようやく訪れた噴火の瞬間に、修の顔が醜く緩んだ。老年の子種が痩せた少女の喉奥に次から次へと注ぎ込まれていく。ぐぽぐぽと卑猥な音を漏らし、真由は白いマグマを消化器で受け止め、そして我慢できなくなってペニスを吐き出した。

「おええええっ! げほ、げほっ! うえええ……」
「ありがとよ、真由。最高だったぜ」

 修は礼を言い、悶える真由を乱暴に突き飛ばした。悲鳴をあげて這いつくばる女子高生にのしかかり、半ば萎えた性器を必死で彼女の股間に擦りつける。もはや何も考えられず、衝動だけが体を動かしていた。

「な、何するの!? まさか入れるつもり!? ちょっと待って……!」
「はあっ、はあっ、真由、チン○ハメてやるぞ! お前の体はオレのもんだあっ!」
「や、やめてお姉ちゃん! いつものお姉ちゃんに戻ってえっ!」

 嫌悪をあらわにする真由を組み伏せ、修は勃起を少女の股間めがけて叩きつけた。
 真由の処女喪失……を修は期待したが、それは叶わなかった。慌てたせいか、いきり立った一物は柔らかな太ももに挟まれていた。
 性交には失敗したものの、修は腰を前後させるのをやめない。困惑する真由の脚の弾力を堪能し、疑似的な挿入に興奮した。

「こ、これはこれで……はあ、はあっ、すべすべの肌がたまんねえっ。出るぞ、また出すぞっ! うおおおっ」
「い、いやあああっ! お姉ちゃんやめてえっ!」

 またしても樹液がほとばしり、真由の脚と制服を汚した。アパートの狭い一室にむせ返るほどの精臭がたち込め、修は真由の汗ばんだ体にしがみついて横たわった。聞こえるのは自分の荒々しい呼吸と、真由のすすり泣く声だけだ。

「はあっ、はあっ、はあ……オ、オレはいったい何を……?」

 我に返った修の中の沙織は、自分の所業に愕然とした。献身的に尽くしてくれた妹を暴行し、処女を奪おうとしたのだ。悔悟の情と自己への忌避感が胸を締めつけ、目の前が真っ暗になった。

「オレはなんてことをしちまったんだ。オレは修じゃねえ、沙織だ。沙織のはずだ……! でも、さっきから頭の中に浮かんでくるのはオレの思い出ばっかりだ! 畜生、畜生……オレ、もう沙織に戻れねえのかよう……!?」

 絶望に視界を覆われる修。彼の中にいる沙織は既に沙織ではなく、名前も魂も修になりつつあった。若く美しい肉体としとやかな魂、家族、隣人……何もかもを奪われた若妻は額を力いっぱい畳に押しつけ、辛い現実から逃れようともがいた。
 どうしていいかわからなかった。

 ◇ ◇ ◇ 

 真っ赤な西日が車内に差し込んでいた。沙織は電車の壁に体を預け、手元のスマートフォンでグラビアアイドルの写真集を眺めていた。仕事が終わった疲労感と充実感を背負い、ストレス発散に自分や他人の女体を楽しむ。これが新しい沙織の日常だ。

(ひひひ、今日もよく働いたな。今までコンピュータなんか使ったことなかったが、嫁の脳みそを使いこなせば気楽なもんさ。まったく、仕事帰りのオナニーは格別だぜ)

 周囲の乗客に気づかれないようミニスカートの中の己の秘所をまさぐっていると、スマートフォンにSNSのメッセージが届いた。
 送信主は真由。今年で高校三年生になる可愛い妹だ。

「お姉ちゃん、修さんのことだけど……そろそろ許してあげてくれない? 他に家族もいないのに、真司さんとお姉ちゃんにいつまでも厄介者扱いされて追い払われるのは本当に辛いんだって」

 要約するとそんな内容だった。舅の修は沙織と真司の家に立ち入り禁止になったが、現在もときどき息子夫婦のマンションの周りを徘徊している。おそらく真由が沙織の家を訪ねてきたとき、修に会って相談されたものと推測された。

 修が沙織の体を狙う変態男だと真由には伝えておいたはずだが、心優しい真由のことだ。修に同情して沙織との仲を取り持とうというのだろう。余計なお世話だが、たった一人の妹である真由の頼みとあらば、沙織も無視を決め込むわけにもいかない。

(どうするかな……。あのバカ嫁オヤジが二度とうちに近づかず、真由との接触も絶てるいい方法はないか?)

 沙織は思案した。まさか信じるとは思えないが、嫁と舅の肉体交換の事実を修が真由に打ち明けるかもしれない。沙織になりすますことには絶対の自信を持っていたが、実の妹に不審な目を向けられるのは避けたいところだ。
 沙織は先日、真由にしてしまった無作法な行いを反省した。すぐに調子に乗ってしまうのが自分の悪いところだ。たとえ沙織の美貌と頭脳を手に入れても、根本的な人格が変わらない限りトラブルのリスクが生じる。沙織は問題への対処を迫られた。

(そうだ……あのバカ嫁オヤジが罪を犯して警察に捕まってしまうってのはいいんじゃないか? それならあいつが真由と話すことはできなくなるし、ショックを受けた真由を慰めてやったら、オレが怪しまれることもなくなるはずだ)

 そんなはかりごとを思いつき、沙織は手早く計画を練る。
 いくら中身が貞淑な人妻であろうと、愚昧な修の体に馴染んでしまえば、欲望のコントロールも覚束ない老年男になるだろう。それを利用して、修が沙織を襲うよう仕向けてはどうだろうか。そうなれば修は性犯罪者として拘束され、二度と沙織の前に現れることもなく、病でひとり寂しくこの世を去るに違いない。

(へへっ、待ってろよバカ嫁オヤジ……オレが引導を渡してやるからな)

 己のアイディアを自賛した沙織は、ぺろりと舌を出して唇を舐め回した。
 これから自分は、義父を塀の向こうに追いやるため、彼にレイプされるのだ。長らく自分のものだった老爺の肉体に押し倒され、望まぬ性交を強要される……その光景を想像すると、沙織の女の芯がじんと疼き、下着が熱い蜜で湿るのだった。


 計画実行は次の休日になった。
 沙織はその日、久しぶりに修を自宅に招待した。真司は友人たちとの集まりに行って留守にしており、計画を実行するには最適の日だ。少し遅れた時刻に真由も呼んでおり、暴行の証人役になってもらう予定である。真司が早めに帰宅すれば暴走した修を取り押さえてくれるかもしれない。

「ご無沙汰してます、お義父さん。まさか、また呼んでいただけるとは思いませんでした。どういう風の吹き回しでしょうか」

 にこりともせず、修は仏頂面で沙織に挨拶してきた。
 何が言いたいのかは聞かずともわかる。体を返せというのだろう。沙織はソファを指さし修を座らせた。

 その日の沙織は、肩から紐で吊り下げるタイプの半袖ブラウスを着用していた。肩や首回りが露出しており、修の視線を自然に引きつける。下半身は派手な花柄のミニスカートで、むっちりした美脚で好色な舅を誘惑した。

「そんな不景気なツラすんなよ。オレもあんたにゃ悪いとは思ってるんだ、沙織さん」
「何がですか!? ひとの大事な体を盗んでおいて、悪いなんて言葉じゃ済まされないでしょう!」
 案の定、修は激怒した。わずかに白髪の残った禿頭が茹蛸のごとく真っ赤だ。「今すぐ私の体を返してください!」

「それができればいいんだがね……。実は、あの香木はこの世に二本とない貴重なものだったんだ。だから一度体が入れ替わってしまうと、二度と元には戻れない。沙織さんには本当に悪いことをしたと思ってる……だが、もうオレたちは一生この体で生きていくしかないんだ」

 沙織がそう告げると、修は絶望に顔を歪めて泣き出した。

「そんな……そんなのってないわ……!」
「本当に悪いね、沙織さん。謝るよ。この通りだ。でも、オレたちにできることは何もない。それがわかったらもう帰ってくれないか。オレはお前さんの代わりに真司と幸せになってやるから、お前さんもどうか諦めて、その体で余生を過ごしてほしい」

「お義父さんが幸せに……そんなの許せない……!」
「え?」
「もう我慢してられない。私が元の体に戻れず病気で死ぬっていうのに、お義父さんだけ幸せになるなんて許せない! こうなったらお義父さんも不幸にしてやる!」
「何をする!? バカな真似はやめろ!」

 沙織は恐れおののいたふりをしたが、これも計画通りだ。あらかじめ家じゅうに隠しカメラを仕掛けており、修が自暴自棄になって襲いかかってきたら、その映像を証拠に警察に突き出すつもりだった。怪我さえしなければ犯されても構わない。むしろレイプは望むところだ。

 修は力任せに沙織のブラウスを引きちぎり、ミニスカートを乱暴に剥ぎ取った。
 沙織の色っぽい体がソファに押し倒された。

「わ、私の体……はあ、はあっ、いい匂いがする……」

 理性をなくした舅は嫁の唇に吸いつき、三十歳下の女の唾液をすすった。
 不快な体臭を放つ老年男との接吻に、沙織は目を見開いた。ぞくぞくする背徳感が沙織の背筋を駆け抜け、元の自分に強姦される期待が高まる。自分から修の口内に舌を差し込み、舅との荒々しいキスを楽しんだ。

(ああっ、オレ、オレとキスしてる……臭くて汚くて、クセになりそう……)
「へへっ、私とのキス、たまんねえ。なんて柔らけえ唇なんだ。沙織、もっともっと……」

 男の本能を呼び覚ました修は自分が若い女だったことも忘れ、沙織を征服しようとする。ブラジャーを奪って豊かな乳房に噛みつき、つんと尖る乳頭に音をたてて吸いついた。

 沙織は吠えた。二十五歳の女が歓喜に高揚していた。
 修の魂を宿した沙織は夫の真司だけではなく、職場の同僚や行きずりの会社員、さらには制服姿の学生とも関係を持っていた。ときには真由と同じ年頃の少女に金を渡し、ホテルに誘って女同士で楽しんだことさえある。
 しかし、修に組み敷かれるのはそれらの肉体関係とはまったく異なる興奮があった。入れ替わって離れ離れになった肉体と精神が、今もなお呼びあっているのかもしれない。高ぶっているのは修も同じようで、裸になった彼のものは今まで見たことがないほど膨張していた。

「あらあら、お義父さんったら……はしたないわ」
「沙織、そのデカパイでこれを頼む……」

 舅に乞われるがまま、沙織は弾力ある乳房で修の陰茎を挟み込んだ。唾液を潤滑油にして幹をしごくと、巨乳の谷間から黒々とした亀頭が飛び出した。

「すごいです。お義父さん、真司さんのよりたくましくなって……」
「沙織を犯せると思うと、力がみなぎるんだ。どうしてだろうな? 今まで私が沙織だったのに」
「いけませんわ、お義父さん。嫁と舅がこんなふしだらな……ああ、オレも興奮してたまりませんわ。さあ、熱いのをお出しになって」
「おおっ、こりゃいかん。すごい弾力だ。出る、出るぞ沙織っ」

 沙織が亀頭にキスをすると、修は生臭い精を噴き出した。白い樹液が沙織の顔に塗りたくられた。鼻腔内に悪臭を放つ粘液の塊がぶちまけられ、若妻は顔を歪めて喘いだ。

「うぐおおおっ、臭い、臭いわ。こんなものをオレのあそこに注ぎ込まれたら、一発で妊娠しちゃう……」

 受精の二文字を思い浮かべて、沙織の子宮がきゅんと疼いた。これから自分は老い先短い義父に犯され、彼の子を孕んでしまうかもしれない。真司と修の顔がかわるがわる閃いた。

「沙織、こっちを向け! お前を私のものにしてやる!」
「お義父さん……きて、オレのお義父さん!」

 仰向けになった沙織の腿を修が押さえつけ、二人は一つになった。射精を終えても衰えない巨大なペニスに一気に奥まで貫かれ、女は呼吸を止めた。
 凄まじい圧迫感だ。夫の真司のものよりも巨大な肉の塊が沙織の内部を埋め尽くしていた。沙織の額に玉の形の汗がにじんだ。

「ああっ、すごい。大きくて……は、激しいっ」

 二十五歳の人妻の身体がゆさゆさと揺れ動き、荒い吐息をついた。肉づきのいい太ももが舅の許しを乞うように艶めかしくくねる。緩やかな抜き差しが始まると、摩擦は淫らな波紋となって全身へと広がった。

 沙織になった修が女として抱かれるのはこれが初めてではない。体が入れ替わって以来、何度も相手を替えて異性のセックスを満喫してきた。しかし今回の舅との結合は、それらとは比べものにならない興奮をもたらした。

 沙織の体を我が物にした修。
 修の体に馴染みきった沙織。
 肉体を交換した舅と嫁が再び出会い、一つの喜びを味わっていた。

「沙織っ、いいぞ沙織っ。お前のカラダはたまらんぞっ」
「オ、オレもいいっ。あっ、ああっ、お義父さんのチン○、たまらないのっ」

 火のついた夫人は止まらない。自分から悩ましげに腰を上下させ、修の肉棒をより深いところで受け止めようと必死だ。沙織は長い腕を修の後頭部に回し、再び情熱的な接吻をねだった。強姦の瞬間を記録するという本来の目的も忘れ、三十歳上の舅との合体を心から楽しんだ。

 修も嫁を喜ばせるためにペースを速め、腰を前後させて淫らな音色を奏でた。シワだらけの乾燥した手で沙織の乳房を揉みしだき、みずみずしい女体に本当の主人が誰なのかを教え込む。真司の妻の白い肌には、真司の父親の汗と体液とがこびりつき、わずかに酸味のある独特の臭いを放っていた。

「だめ、おかしくなるっ。オレ、本当に沙織になっちゃうっ」

 舅の心を宿した沙織は絶叫した。修だったことを忘れて、自分が本当に若い人妻なのだと確信する。生まれたときから沙織が脳に刻んできた二十五年分の女の記憶……その全てが修の魂に染み込んでいった。
 自分は真司の妻、沙織。そして今、真司の父親である修と許されない交合に熱狂している。夫を裏切り不貞を楽しむ自分自身に沙織は酔いしれた。修の見事なペニスに子宮の入口を何度も叩かれ、目の前に星が舞った。

 そして男と女は終点に到着した。

「沙織、そろそろ……」
「ああっ、あんっ。いいです、お義父さん……オレはいつでも……あっ、ああんっ」
「イクぞ沙織……私の子を孕ませてやるからな。うっ、うおおっ、おおっ、沙織孕めっ」

 修は目いっぱい腰を突き出し、男性器を根元まで挿入したところで爆発した。沙織の腹の奥に熱いものが広がる。それは女が最も待ち望む瞬間の一つ……二十五歳の若妻は、いま夫の父親の遺伝子を体内に注がれているのだ。

「あっ、ああっ、オレもイキます……ああっ、沙織イクっ、イクのっ、あああっ」

 とろけるような膣内射精の高揚に、オルガスムスへと押し上げられる。魂で結ばれた男女が再結合してひとつになるのはこれ以上ない快楽だ。夫や行きずりの男たちが相手では決して味わえない満足感に、沙織はてっぺんまで上り詰めた。

 修が抜け出すと、沙織のぽっかり開いた下の口は、はしたなくよだれを垂れ流した。沙織の愛液と修の精液が混じりあってソファにこぼれ落ちていく。沙織の背筋がぞくりと震え、熱い息を吐きだした。
 生理の周期から考えて、そろそろ危ない時期だ。もしかしたら修の子を宿してしまったかもしれないと思うと、火照った体がいっそう燃え上がる。後悔は微塵もなく、喜びと興奮だけが沙織を支配していた。

「はあ、はあっ……ああ、バカ嫁を犯すのはたまんねえ。スケベでむちむちで最高のカラダだぜ」
「そうですか、それは何より……ふふ、すっかりその体に馴染んでしまったようですね、お義父さん」

 大喜びする修を、沙織は不敵な笑みであざ笑った。修の中に入った沙織は、互いの体が入れ替わってしまったことも忘れ、本能の赴くままに元の自分の体を犯してしまったのだ。修を篭絡して元の体に戻りたいと思わないよう誘導することも、沙織の目的の一つだった。

「何を言いやがる。オレは修だ。この体に馴染んでなんて……あれ?」
「ふふっ、よかったです。たっぷり楽しんで、もう元の体に戻りたいなんて思わないでしょう? この体は私がありがたく使わせていただきますから、お義父さんはその体で短い余生を楽しんでくださいね」
「そんな……その体はオレのもので、抱くと最高に気持ちよくて……ああ、たまんねえ。オレは何を言ってるんだよう……」

 混乱してわけがわからなくなってしまったのだろう。うろたえる修の姿は憐れみを呼んだ。
 これで既成事実は確保した。沙織が望めば修を強姦の犯人として訴えるのも容易いこと。二度と自分に近づかないよう手配して、あとは修が癌で死ぬまで、ほんの数ヶ月の間待てばいい。それで沙織の体は沙織だけのものになる。真司も真由も、誰も沙織の正体に気づくことはあるまい。五十五歳の舅は、二十五歳の嫁として人生をやり直せるのだ。

「ふふっ、愉快愉快。さあ、お風呂にでも入ろうかしら……きゃああっ!?」

 突然、腕をねじり上げられて、沙織は悲鳴をあげた。完全に油断していた沙織は抵抗もできず、荷造り用のロープで手足を縛り上げられてしまった。
 いったい何が起きたのか理解できずに目を白黒させていると、背後から真由が現れた。白いTシャツと青いデニムワンピースを着た十八歳の妹が、沙織を拘束したのだった。

「真由!? あなた、どうしてこんなことを……!」

 彼女を招いたのは沙織自身だった。姉に呼ばれた真由は沙織が修に強姦されている現場を目の当たりにして、修をレイプ魔として警察に通報する、あるいは告発の証人になってくれる……沙織の計画ではそのようになっていた。

 ところが現実の真由は思ったようには動いてくれなかった。真由は怯えることもなく修の傍らに立ち、中身が別人になってしまった姉を糾弾した。

「修さん、これで終わりです。お姉ちゃんの体を返してもらいます!」
「真由、まさかあなた……入れ替わったことを知ってるの!?」

 完全に予想外だった。修が真由に助けを求めることは想定していたが、あの幼く潔癖な少女が、汚い老年男の主張に耳を傾けるとは思わなかった。まして体が入れ替わるなどという妄想の虚言である。信じる方がおかしいと思った。

「自分が自分でなくなるかもしれないって、すごく怖いですね、お義父さん。あなたを油断させるためとはいえ、自分の体を抱くのはあまりにも気持ちよくて、本当に心まで男になってしまいそうでした……」
「あなたたち、共謀して私をハメたのね? 生意気な……くそっ、これをほどけ! あとで許さねえぞ!」

 沙織は暴れたが、ロープが肉に食い込むだけだ。抵抗が無意味だと悟り、精一杯の虚勢を張った。

「オレを縛ってどうするつもりだ!? お前らが何か企んだところで、元の体に戻れるわけじゃねえ。無意味なことよ! 今なら真由だけは許してやるから、とっととこの縄をときやがれ! さもないとてめえらは二人揃って警察行きだぞ!」
「これを見ても同じことが言えますか、お義父さん?」
「なっ……!?」

 修が真由から受け取った品を見て、沙織は顔面蒼白になった。
 十センチほどの大きさの白い木……それはあの香木に間違いない。

「ひいいっ!? お前、どうしてそれを……!?」
「あなたの家に、あの香木がもう一つだけ残ってるのを思い出したんです。隠していたみたいですけどね。お義父さんが私の記憶を勝手に盗み見たのと同じように、私もお義父さんの記憶をなんとか思い出して、このお香を見つけて……それができたのも、この子のおかげです」
「エッチなことをすれば、いろいろ思い出せるんだよね? あたし、お姉ちゃんのためならどんなことだってできるんだから!」
「てめえら、オレをはなせっ! このカラダはもうオレのもんだっ! 若いぴちぴちの女の体でオレは人生をやり直すんだ……うっ、ううっ、畜生……畜生……!」

 香木に火がつけられ、沙織は美貌をぐにゃりと歪ませた。香木の白い煙を吹きかけられ、意識が急速に薄れていく。最後に沙織が目にしたものは、ゆっくり開くドアと、怪訝な顔をした真司の姿。
 いいところに帰ってきたが、もう遅い。沙織の体から舅の魂が抜け出して、二十五歳の若妻の肉体は空っぽになった。

 ◇ ◇ ◇ 

 気を失っていた時間はほんの十数秒か、それとも数分間か。
 再び目を開くと、沙織は本来の自我を取り戻していた。

「ううっ、これは……私の体? やった、やったわ……!」

 沙織は自分の艶めかしい裸体を見下ろし、喜びのあまりべたべたと撫で回した。それは貞淑な人妻ではなく、好色な老爺の手つきだった。既に拘束は解け、細く形のいい女の手足を己の意思で自在に動かすことができた。

「くうっ、これが私の……オレのカラダだよ! へへへ、入れ替わる前は気づかなかったぜ。オレがこんなにいやらしくて男を喜ばせるカラダをしてたなんてな……」

 そこで沙織は我に返った。「あらいやだ。私ったら、まるでお義父さんみたいなことしちゃって……。これじゃ変態だわ。気をつけなくちゃ」

 随分と長い間、修と体が入れ替わっていたせいか、沙織の心には助平な老年男の欲望が混じっていた。はしたなくも自分で自分の体に興奮してしまう……だが、それも無事に体を取り戻した喜びと比較したら些細なことだ。

「ち、畜生、畜生……! オレのカラダが……若くてぴちぴちのオレのカラダがあああっ! なんでこんなことになるんだああああっ!?」

 沙織の足元には、悔しさのあまり床を七転八倒する舅の姿があった。沙織が元の体に戻ったのと同様、修も自分自身の体に戻ったのだ。禿げて肥え太り、余命半年の醜い体に。
 寝ている間に真由に縛られたのか、修は全身がロープでぐるぐる巻きにされていた。

「残念でしたね、お義父さん。これで、この体は元通り私のものです。あのお香がもう一本だけご自宅に隠してあったこと、お忘れだったんですか? 私はちゃんと思い出せましたよ。真由のおかげで」
「畜生、このバカ嫁がっ! 最初からあの香木が本物だとわかってたら、もっとうまくやってたんだ! お前のせいでオレはまたこんな汚い体になっちまって……ガンで死んだらどうしてくれる!? この親不孝者!」
「そんなの私の知ったことではありません。ご自分のお体のことは、ご自分で責任をお取りになってくださいね」

 辛辣な物言いでぴしゃりと返す沙織。今回の一件で、彼女は修にほとほと愛想が尽きていた。なにしろこの舅は彼女の体を奪い、癌を患っている自分の代わりに沙織を死なせようとしたのだ。殺したいほど憎い相手だ。もっとも沙織が手を下すまでもなく、じきに病で亡くなるだろうが。

 絶望する修を見下ろしていると、沙織は室内にもう一人の人物が倒れているのに気がついた。白いTシャツと青いデニムワンピースを着た細身の少女……沙織の妹、真由だ。

「真由っ!?」

 沙織は慌てて妹の体を抱き上げた。真由はいくら呼んでも応えない。失神しているようだ。

 沙織は恐怖した。もしや真由はあの煙を吸ってしまったのではないか。
 あの魔性の香木の煙を吸えば、肉体から魂が抜け出して、近くにいる異性の身体に入り込んでしまう。まだ十八歳の若く可憐な真由が、死期の迫った修の醜い体と入れ替わってしまうのではないか。
 沙織が自分の体を取り戻せたのは真由のおかげだ。そのせいで彼女に犠牲を強いてしまうのは耐えられない。

「真由、真由っ! 起きて、真由!」
「ううん……こ、ここは?」

 姉の必死の呼びかけが天に届いたのか。
 ようやく真由が意識を取り戻した。修は変わらず床に這いつくばって、口汚く沙織を罵っている。幸い、真由と修の精神が入れ替わったわけではないようだ。

「よかった、真由。あの煙を吸い込んだわけじゃなかったのね。私、あなたのおかげで元の体に戻れたよ……本当にありがとう」
「沙織……顔が近いよ」

 真由は恥ずかしそうに頬を赤らめたが、その表情はどこか奇妙だった。修ほどではないが、沙織の裸体を眺める視線に邪な感情が含まれているように思えた。まるで男のような視線だ。

「真由、いったいどうしたの」
「沙織、僕は幸せ者だ。君みたいな素敵な女性と夫婦になれて……沙織、愛してるよ」

 真由はうっとりした顔で沙織の乳房に吸いついた。沙織は妹が何をしているのか理解できず、ただ妹にされるがままになっていた。

「ちょっと、真由……あなた、何をしてるのよ。修さんじゃあるまいし、こんないやらしい真似……」
「お姉ちゃん、その人はあたしじゃないよ」

 沙織の疑問に答えたのは夫の真司だった。シャツとジーンズを身に着けた真司が部屋の入口に立ち、笑顔で姉妹を見下ろしていた。

「あなた? それにいったい何を言って……」
「あたしは真司さんじゃないよ、お姉ちゃん。あたしは真由。お姉ちゃんのおっぱいを吸ってる女の子は、あたしの体になっちゃった真司さんだよ。あたしたちも体が入れ替わっちゃったの」
「ええっ!?」

 姉妹は揃って驚いた。沙織が驚愕したのはもちろんだが、真司の魂を宿した真由は顔を真っ青にしていた。

「そ、そんな。僕、真由ちゃんの体になってるのか? 体が入れ替わってるなんて、こんなの信じられない……」
「あなた、私はさんざん言いましたよね? 私とお義父さんの体が入れ替わってしまって困ってるって。それなのに、あなたは私の言葉を一度たりとも信じてくださらなかったわ」
「悪かったよ、沙織。でも仕方ないだろう? こんな不思議なことが起きてるなんて、誰も信じてくれないよ……ああっ」

 真由が悲鳴をあげた。デニムのワンピースの上から真司が彼女の乳房をわしづかみにしていた。

「ホントにひどい人ですよね、真司さんって。お姉ちゃんが苦しんで泣いてるっていうのに、全然信じてくれなくて。疑り深くて頭の固い真司さんなんて、お姉ちゃんの夫にふさわしくないと思います」
「何をするんだ、真由ちゃん。ぼ、僕のおっぱいが、こんな……ああっ、揉むな。揉まないでくれっ」
「ふふっ、気持ちいいですか? 最近お尻やおっぱいが大きくなってきちゃって、困ってたんですよね。この体は真司さんにあげますから、大事にしてくださいね」

 不敵に笑う真司の姿に、沙織はある疑念を抱いた。それは、真由がみずみずしい十八歳の体を自分から捨てたのではないかというものだ。

「真由……あなた、まさか自分から望んで真司さんと入れ替わったの?」
「そうだよ、お姉ちゃん。ちょうどお香を燃やすタイミングで真司さんが帰ってきたから、ちょうどいいかなって」
 真司は悪びれもせず言った。「お姉ちゃんを信じてくれない、お姉ちゃんを守ってくれない真司さんは、お姉ちゃんにふさわしくないよ。これからは真司さんの代わりに、あたしがお姉ちゃんの旦那さんになって守ってあげる」
「真由、あなた……」

 沙織の胸の内に温かいものが広がっていった。夫も舅も沙織のことをいささかも大事にしてくれなかったが、彼女の妹だけは沙織を信じて助けてくれた。そんな真由が、これからは沙織の夫として一生添い遂げてくれるというのだ。既に夫への愛情が枯れ果てていた沙織にとって、この上なく望ましい話だった。

「本当にいいの、真由? あなたの可愛らしい体が、年上の男の人のものになっちゃうのよ。すぐに修さんみたいなお爺ちゃんになって後悔するかもしれない」
「別にいいよ。あたしにはそんなことより、お姉ちゃんを幸せにしてあげる方が大事だから。お姉ちゃん、好きだよ。絶対に幸せにするからあたしのお嫁さんになってください」
「ええ、わかったわ。私、真由の……あなたの妻になります……」
「おい、お前たち、何を言ってるんだよ……僕の体を返してくれよ」

 接吻を始めた睦まじい夫婦の隣で、うら若き女子高生になった元夫が力なくへたり込んでいた。いくら彼女が騒ごうと、肉体交換の香木はもう使い切ってしまい、元の体に戻ることは叶わない。
 いい気味だと沙織は思った。

 それから夫婦になった姉妹は、なおもわめき続ける修を家から叩きだし、ようやく平和な日常を取り戻したのだった。

 ◇ ◇ ◇ 

 仕事を終えた真司が帰宅すると、カレーの匂いが鼻をついた。大鍋の前で忙しそうに副食の準備をしている真由に、背後から挨拶した。

「ただいま、真由。いい匂いだね」
「おかえりなさい……あ、沙織も一緒だったんだ」
「ええ、ちょうど帰りが同じ頃になったの。お土産においしいお菓子を買ってきてあげたわ」

 真司と沙織は荷物を下ろし、食事係の少女をねぎらった。はじめは家事をするのを嫌がっていた新しい真由だが、この半年間ですっかり主婦業が板についていた。以前の真由に言わせれば、もともと身の回りのことはひと通りできていたから当然のことだが。

「仕事は順調なの、真司?」
「うん、いい調子。真司さんって仕事もスポーツもよくできるんだね。おかげで職場の女の子からモテるモテる」

 真司は義妹作のカレーライスを頬張って答えた。あの摩訶不思議な香木の力で体が入れ替わって半年。真由だった真司の生活は公私ともに順調で、何の問題もなかった。

 強いて言えば……。

「あら、あなたったら浮気してるの? こんなに可愛い妻とその妹を毎晩もてあそんでおいて……許せないわ」
 沙織は目を細くして笑ったが、真司は妻の笑顔に冗談では済まない圧力と恐怖を感じた。すっかり尻に敷かれてしまっていることを自覚する。

「してないしてない。それより真由は受験どうするの? 志望校は決まった?」
「ああ、うん。脳みそが違うから苦労してるけど、何とかなりそうだ。進路は僕が決めていいんだね?」
「うん、いいよ。もうその体はあなたのものだから……自分とその子のことを考えて、一番いいと思う道に進んだらいいと思う。あたしたちもできる限り協力するからさ」
「そうだな。この子のためにも頑張らなくちゃ……」

 真由はやや膨らんだ自分の腹を撫でて微笑んだ。もうすぐ成人になる少女の顔は、娘から母親のものへと変わりつつあった。
 妊娠が発覚した当初は随分と気落ちしていたが、今では女として、母親としての自覚が芽生え、何ごとにも前向きだ。義妹の変化と成長を真司は喜ばしく思った。

「お腹に赤ちゃんがいるのは私も同じよ。私のことも労わってよ、あなた」
「わかってるよ。あたしが一番好きなのは沙織だから。元気な赤ちゃんを産んでね、沙織」
「はい、あなた……愛してます」

 沙織は真由と同じ孕み腹にも関わらず、軽快な動きで真司に抱きつき接吻をねだった。夫婦の唇が重なり、カレー味のキスにのめり込む。

 女たちは妊娠していた。どちらも父親が誰かはわからない。真由は修と真司の二人と関係を持ったが、沙織はそれに加えて行きずりの男たち数人が赤子の父親候補である。誰の種であれ、姉妹は生まれてくる子供たちを大事に育てる決意を固めていた。

 修は死んだ。この世のすべての人々を呪い、妬み、恨みながら病に倒れた。彼が沙織にしたことは決して許されないが、結果的に修の行いがきっかけとなって、真司と沙織は睦まじい家庭を築くことができた。たまには墓参りに行ってやってもいいかもしれないと、真司は死者に思いを馳せた。

 豊かな乳房を夫に揉みしだかれる沙織の姿に、食卓の向かいで真由がもじもじしはじめた。

「ずるい、沙織ばっかり……僕もしてほしいのに」
「いいわよ真由。あなたもこっちに来なさい。ふふっ、あんなにかっこいい男の人だったのに、今じゃすっかりいやらしい女の子になっちゃったわね」
「そんなこと言わないで……あっ、ああんっ」

 夕食を終えて食欲を満たした夫婦は二人がかりで真由を手篭めにした。沙織がキスをして可愛がり、真司がたくましい男の象徴を秘所に滑り込ませる。たちまち少女は乱れ、浅ましい声をあげて悶えた。

「ああっ、沙織、真由っ。もうちょっと優しく……」
「真由はてめえだろ、このバカ亭主!」
 沙織は乱暴な口調で真由を怒鳴りつけた。「てめえのせいでオレはあのボケ舅に殺されかけたんだからな! ちょっとやそっとで許してもらえるなんて思うんじゃねえぞ! てめえはこれから一生オレに絶対服従だ!」
「そ、そんな。あれは僕のせいじゃ……あんっ、ああんっ、ご、ごめんなさいっ!」

 床に押し倒されて色っぽい肢体をくねらせる間、真由はひたすら沙織に謝っていた。言葉だけを聞くと沙織の怒りが収まっていないように思えるが、真司はそうでないことを知っていた。沙織が元夫の真由を口汚く罵るのは、マゾヒストの気がある彼女を喜ばせるための芝居なのだ。修の悪影響が残っているのも事実だが。

「ごめんなさい……ああっ、こんなのダメなのに。僕、男だったのに……自分の体をとられて、こんなことされて気持ちよくなってる……ああっ、あひっ」
「ホントだよ。真由には元男のプライドはないの?」

 真司も沙織に加勢し、真由をいじめることにした。「ほら、見てよ。こんなに大きなモノが真由の中に出たり入ったりしてるんだよ。気持ちいいの?」
「ああっ、は、はい……すごく、気持ちいい、です……」

「信じらんない、この変態! あーあ、お姉ちゃんは結婚する相手を間違えちゃったね。もうこんな変態、家から追い出しちゃおうよ。そうだ……今のあたしの職場の男の人、みんな結婚してないんだよ。みんないい年して独身で、女の人に飢えててさ。真由はみんなのこと覚えてる?」
「は、はい。田中、鈴木、佐藤……職場のみんなのことはちゃんと覚えてます」
「覚えてるならよかった。今度全員うちに呼ぶから、お義兄ちゃんが……真由が相手をしてやりなよ。今の真由はとっても可愛いからさ、たとえ妊婦さんでもみんなセックスしたいと思うよ、きっと」
「い、いやだあ……あいつらに代わる代わる犯されるなんて耐えられない……ああっ、イ、イクっ、イクうっ」

 義妹は白目を剥いて艶めかしい体を震わせた。真司のものをくわえ込んだ膣内がキュッと収縮し、速やかな射精を促す。真司はその期待に応え、丸みを帯びた真由の体に白い樹液をたっぷりと叩きつけてやった。

「同僚の皆さんに犯される妄想をしてイクなんて……なんていやらしい女なの。本当に呆れちゃった。ほんのいっときでもこんな人と夫婦になろうと思った自分が恥ずかしいわね」
「ふああ……ご、ごめんなさい。犯さないで、犯さないで……」
「ふふっ、いい顔……ねえ、次は私にもしてよ、あなた。もう我慢できなくなっちゃった」

 沙織は真由の上にのしかかり、うつ伏せで尻を向けて真司を呼んだ。黒いタイトスカートが脱ぎ捨てられ、汗の染み込んだパンティストッキングがむせ返るような臭いで夫を誘惑した。
 いい気分になった真司は、今度は沙織の中に分け入った。二十代の若い男根はいささかも衰えることなく最愛の妻を満足させた。妹の体液がこびりついた肉棒が、たちまち姉まみれになった。

「ううっ、いい締めつけ……沙織の中、最高。もうたまらないの」
「お世辞なんか言って。若い真由の方がいいんじゃないの? ほら、真由の肌はこんなにすべすべよ」
「そんなことない。あたしは生まれたときから沙織のことが好きだったんだから。大好きなお姉ちゃんをお嫁さんにできるなんて最高。もう言うことないよ」
「真由……ううん、あなた。嬉しい……あっ、ああっ、イクっ。沙織イキますっ」

 長く繰り返された突き込みが、子を孕んだ若妻を優しく絶頂へと押し上げた。もう妊娠の心配もなく、真司は残りの子種を全て沙織に注ぎ込んでやった。

「……うん、これはいい眺め」

 二人を犯しつくしたあと、真司はぽつりと言った。
 揃って股間に開いた大きな穴から真司の汁を垂れ流し、女たちは幸福のあまり失神していた。
 仰向けになった十八歳の妹と、うつ伏せになった二十五歳の姉。よく似た巨乳美人姉妹の裸体を思う存分観賞し、真司はほくそ笑んだ。

「これからずっと一緒だよ、大好きなお姉ちゃん。ついでに可愛いお義兄ちゃん……」

 カレーライスと美人姉妹……己の欲望をすっかり満たした真司の中の真由は、心の底から満足していた。
















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