普通の男だったボクが、事故でセクサロイドと入れ替わって、身も心も『淫乱セクサロイド』に作り変えられるお話。
  作: ぷちどろっぷ


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<キーワード>
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TS, 入れ替わり, ハッピーエンド, R18, オス堕ち, メス堕ち


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人物紹介 ※読まなくても本編で説明しています。
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<九澄直道(くずみなおみち)>
ごくごく普通の若手サラリーマン。
大枚をはたいて『セクサロイド』を新品で購入するが、
初期不良の影響を受けて
セクサロイドと肉体が入れ替わってしまう。

<リーミエル>
ヒューマンアーカイブス社の最新型セクサロイド、『HA-03F』。
身長は158cmと女性の平均身長だが、
豊満な肉体と端正な美貌を併せ持つ。
性格は純粋で善。マスターである九澄直道を心から愛している。


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本文
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 『セクサロイド』。
人工的に作り出された人型ロボット――『アンドロイド』のうち、
人間とのセックス機能に特化したロボットの事を指す。

 2130年現在、技術はすでに習熟しており、
人間とほぼ見分けはつかない。
もちろん『機能』もほぼ同様――否、むしろ人を凌駕する。

 当然ながら揃って美形、それでいて主人に従順で淫乱。
まさに理想の体現であり、男女問わず需要が殺到していた。

 これから紡ぐ物語。それは、そんなセクサロイドを買い求めた、
とある男の『数奇な末路』を語るものである――。


◆ ◇ ◆


 ボクの名前は九澄直道(くずみなおみち)、ごくごく普通の若手サラリーマンだ。
ボクは今日、これまでの人生で一番大きな買い物をした。

「それではこちら、ヒューマンアーカイブス社の
 最新型セクサロイド、『HA-03F』となります。
 金額は税込み548万円となりますが、お支払いはどうされますか?」

「く、クレジットの一括払いでお願いします!」

「かしこまりました。高額決済のため
 カード会社からお客様宛に連絡が来ると思いますので、
 そのまましばらくお待ち下さい」

 程なくして腕時計から着信音、ボクは画面をタップする。
前方に仮想スクリーンが展開、オペレーターらしき女性が映し出された。

『九澄様。先程弊社のクレジットカードで
 548万円の高額決済が発生しましたが、
 お心当たりはございますでしょうか?』

「は、はい! 確かにボクが使いました!」

『かしこまりました。それでは、本決済を受理いたします』

 プツン、スクリーンがかき消える。同時に通知が飛んできた。
腕時計の画面には――『決済が完了しました』と表示されている。

 ついに……ついに買ってしまったぞセクサロイド!
それも最新モデルの新品だ!
思わず自然と武者震い。そんなボクの目の前に、
にゅっとガイドブックが差し出される。

「セクサロイドは高額かつ繊細な製品のため、
 購入時に販売店での取り扱い説明が義務付けられております。
 ご存知の点も多いかと思いますが、今しばらくご辛抱ください」

 店員さんが説明し始めた。
ボクは感慨にふけりながらも、説明に耳を傾ける。

「――セクサロイドは高性能なAIを内蔵しており、
 お客様をマスターとして、徐々に成長していきます。
 逆に言えばお客様の扱い次第では期待しない知識を身につけたり、
 好ましくない人格に変化する可能性もありますのでご注意ください」

「えぇと、マスターに反抗したりするんですか?
 最悪殴られちゃったりとか」

「基本的にはロボット三原則に従うため危険性はありませんが、
 育ち方によっては命令を拒絶し始める事があります」

「そういう時はどうすれば?」

「その場合は、『起爆するぞ』と脅してください」

「……は?」

「首輪には起爆装置が搭載されており、マスターの命令でいつでも起動が可能です。
 セクサロイドの基本人格として、この『爆破』を何よりも恐れるように
 プログラムされています。恐れを抱いたセクサロイドは、
 再び命令に従うようになるでしょう」

「ば、爆破!? それって本当に爆発するんです!?」

「もちろんです。首輪に仕込まれた爆弾が破裂、頭部が千切れて吹っ飛びます」

「な、なんでそんな機能を……普通に『電源オフ』とかじゃ駄目だったんですか?」

「……はは。実はこちら、『お客様からの強い要望』で搭載された機能でして。
 所持するセクサロイドが他人に犯されそうになった時の破棄機能も兼ねています。
 後は、まぁ。わざと爆発させて楽しむ方もいらっしゃるようです」

「…………」

 不快感に眉を顰(ひそ)める。

 セクサロイドの購入者層は主に富裕層だ。
正直理解できないけれど。普通の刺激なんて味わい尽くした人間の中には、
そういう非道をする輩もいるのだろう。

「ボクはそんな事しませんよ」

「そう言っていただけて安心しました。販売店の我々としても、
 首無し死体を回収するのは流石に胸が痛みますからね」

「では、説明を続けさせていただきます」

 その後続いた説明も、基本的には
『優しくしてあげてください』という内容だった。
それだけ乱暴に扱う奴が多いのだろう。
眉をハの字に曲げながら、ボクは一つ心に決めた。


◆ ◇ ◆


(誰よりこの子を大事にしよう。そう、自分よりも大切に)


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 アパートへと帰宅する。じきに業者がやってきて、
リビングに大きなポッドを置いて行った。

 正式名称は『メンテナンスポッド』。
巨大な卵型の入れ物で、人が一人すっぽり入る大きさだ。
このポッドが『彼女』の充電器兼メンテナンスマシーンになっている。
多少の傷や故障なら、このポッドに入れれば自動修復してくれるらしい。

「どれどれ……?」

 前面の一部が半透明になっており、中が見えるようになっている。
そろりと中を伺うと、『彼女』が両足を抱えて縮こまっていた。
眠っている――いや、電源がオフなのだろう。

 改めて彼女を見つめてみる。
深海を思わせる紺碧の髪が、サラリと背中まで降りていた。
相当長いストレートヘアー、人間には真似できない美しさ。
あ、ちなみに髪型は『カスタマイズ』でお願いしたものだ。

 まぶたは閉じているものの、それでも美人だとわかる。
整った顔立ちながら、あどけなさも併せ持つ絶妙なバランスだった。

 身長は158cm、女性の平均身長だ。
だが特筆すべきはそのプロポーション。
大きく盛り上がった双丘は熟れたメロンを思わせる。
それでいて腰は見事にくびれていて、
お尻は女性らしい張りのある丸みを帯びていた。
太ったら全体にまんべんなく脂肪がつく人間では到底なし得ない、
『究極の造形美』がそこにあった。

 彼女はもちろん服も着ていて、一見すれば人間にしか見えない。
でも、首に巻かれたチョーカー――製品コードを印字した首輪が、
彼女が人間ではない事を証明していた。

(いやぁ、それにしても可愛いなぁ……
 こんな子を『新品で』お迎えできるなんて。
 まさに運命的な巡り合わせだよ)

 セクサロイドは主に富裕層をターゲットにした『玩具』だ。
新品で購入できるのは一握り。
庶民は彼らが破棄した『中古』を買い求めるのが常。
ボクも裕福ってわけじゃない、本来なら新品に手を出せるはずはなかった。

 ならどうしてボクがこの子を購入できたかと言うと、
もちろんそれなりの理由(わけ)がある。

 メーカーが不渡りを出して倒産したのだ。
倒産するような製造元、となれば品質にも疑問が残る。
さらに問題が起きたとしても、製造元は潰れているわけで。
そんな悪条件が重なった結果、この子は富裕層からそっぽを向かれ、
新品にも関わらず中古の値段で投げ売られていたのだった。

 とは言えだ。セクサロイドの技術は成熟している、
そうそう問題は起きないだろう。
メーカーから正規のサポートを受けられないのは中古も同じ。
だったら使い古された中古より、新品の方が絶対いいだろ?
いくら機械と言ったって、『ボクの初めて』を捧げる相手になるんだし。

 わかってる、これが童貞じみた考えだって事は。
それでも、『相手もボクが初めて』であって欲しい。

 そんなわけで。多少不安は残るものの、『ワケアリの新品』を購入したわけだ。
……まあ、流石に初期不良なら販売店が対応してくれるだろうし、
あまり気にしなくていいだろう。

「さて、と……そ、そろそろ起動しようかな」

 期待に思わず胸が膨らむ、ついでに股間も膨らんだ。
いやいや別にいいだろう? この子はそういう目的で作られた子なんだから。
彼女自身、『経験はないけどセックスは大好き』って存在だ。
別に劣情を抱いても悪くない――って、誰に言い訳してるんだボクは。
もうさっさと行っちゃえよ!

「よ、よし……電源オン!」

 ポッドの前面にあるひときわ大きなボタンを押す。
ポッドが淡く光り始めて、半透明のパネルに文字が印字され始めた。

『SEXAROID HA-03F VER1.00 POWER ON!
 INITIALIZING……』

 まるで2000年代初期のような、酷くレトロな表示が羅列される。
でもそれがいい。このメーカー、ロマンってものをわかってる。
これは素直に期待できるぞ!

 待たされる事約数分、ポッドから生温かい蒸気が噴き出す。
『スリープが解除されました。
 前面のドアが開きます。ご注意ください』

 女の子の声だった、清楚さを感じさせる透き通った声。
それでいて、どこか脳を揺さぶるような、妖しい甘さを伴っている。
股間がびくりとヒクついた。こ、声だけでこの威力か……!

 『プシュッ』、小さな音と共にドアが開く。
女性が姿を現した。ゆっくりと、たおやめに身をかがませて、
ボクに優しく微笑みながら。

「おはようございます。……貴方が私のマスターですか?」

「は、はい! く、九澄直道って言います!」

「ふふ、丁寧語は結構ですよ? 貴方は私のマスターなのですから。
 でも優しそうな方で安心しました」

「え、ボクが……優しそう?」

「はい。セクサロイドに丁寧語で話し掛ける――人間のように
 気遣ってくださる方という事ですから」

「私は幸せ者ですね。貴方のような方に買っていただけて。
 誠心誠意心を籠めて尽くしますので、これからよろしくお願いしますね」

「あっ、はい……こちらこそ!」

 胸の不安が氷解していく。第一印象は『期待通り』――ううん、
これはそんなレベルじゃない。まさに『理想そのもの』だった。

 正直不安だったのだ、『彼女に幻滅されないかな』と。
何しろボクは酷く奥手で、女性と付き合った経験が皆無なのだから。

 彼女にだって人格はある。『何だこの冴えないマスター』、
そう思う可能性はゼロじゃない。
まあその辺はセクサロイドだ、普通はあり得ないけどさ。
それでも怯えずにはいられなかった。女性経験ゼロの悲しいサガだ。

 でも完全に杞憂だった、彼女は聡明で優しい子だ。
それだけじゃない、『ボクがマスターで嬉しい』とまで言ってくれた!

 一気に彼女を好きになる。胸が早鐘を打ち始めた。
性欲由来というよりは、恋した時のそれに近い。

 『セクサロイドに惚れる? これだから童貞は』。
脳内の冷静な自分がツッコんでくるも、ボクはそれを払い除けた。
うっさいな! じゃあ、彼女以上に素敵な女性が
リアルの社会にいるって言うのか? いないじゃないか!

 脳内漫才していると、ちょんちょんと肩をつつかれる。
現実に引き戻される、彼女が困ったように笑っていた。
そして申し訳無さそうに、こう一言。

「その、すみませんが『初期設定』をお願いしてもいいですか?
 この設定が完了しないと、貴方をマスターとして固定できませんので」

「あ、ああ……ご、ごめん。何をすればいいんだっけ?」

「私の額にマスターの額を当ててください。
 電気信号でマスターの脳を直接参照します」

「いただいた情報を元に、私をマスター専用に最適化します。
 名前、記憶、人格……性癖。全ての情報を元にして、私を『改造』するんです。
 貴方にとって最高の存在になれるように」

 ゴクリとツバを飲み込んだ。サラリととんでもない事を言ったぞこの子。
ボク専用に一人の女の子を作り変える? どう聞いても『凶悪犯罪』だ。
だけど彼女はセクサロイド、そんな暴挙すら合法でまかり通ってしまう。

「え、ええと……ボクとしては今の君が好きだから、
 無理に作り変えなくてもいいんだけど」

「……ふふ、本当に優しいんですね。
 でも、これは私の望みでもあるのです」

「大好きなマスターのために、少しでも理想に近づきたい。
 いざ『行為』を始めた時に、『そんなプレイは無理です』なんて
 拒絶したくはありませんから」

「それに、心配しなくても大丈夫ですよ?
 貴方が『今の私が好き』と思ってくださっているのなら、
 もちろんその意思も考慮されますから」

「だから、安心して……私を、『貴方専用』に作り変えてください」

 彼女はボクの肩に手を添えて、ゆっくり顔を近づける。
それはまるでキスするようで、心臓が破裂しそうになった。
距離はなおも狭まってくる。ふわり、彼女の香りが鼻孔をくすぐった。
甘い果実のような匂い、脳がトロトロに融けていく。

「大丈夫です。苦痛は一切ありませんから。
 そのまま身を委ねてください」

 いつの間にか抱き寄せられていた。ふにょん、柔らかい胸が押し当てられる。
股間を大きく膨らませたまま、ボクも彼女に抱きついて、そして――。


◆ ◇ ◆


 額と額が触れ合った。次の瞬間、微弱な電流を流し込まれる。
ボクは『快感』に耐えきれず、幸福のままに意識を手放した。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 誰かに肩を揺すられている。意識は混濁、はっきりしない。
熟睡中に無理矢理起こされるような感覚、気だるさにボクは眉根を寄せた。
このまま、酩酊したような心地よさに身を委ねていたい。

『――、スター、起きてください!!』

 声が聞こえる。聞き覚えのない男の声だ。
誰だろう? まあ誰でもいいや。悪いけどもう少しだけ寝かせて欲しい。

 祈りが届く事はなかった。
揺り動かす力はより強くなり、声も大きくなっていく。
そのせいか。頭は酷く重いけど、少しずつ感覚も戻ってきた。

 ああもう、せっかく気持ちよく眠ってたのに。
仕方がないな、起きるとするか。
緩慢にまぶたを開く。そして視界に飛び込んできたのは――。

 泣きじゃくる『ボク』の顔だった。

(…………は???)

 え、いやいや何これ、どういう事!?
わけもわからず狼狽えていると、ボクが目を覚ました事に気づいたのだろう。
『ボク』がボクを抱き締めてきた。ぎゅうっとメチャクチャ力強く。

(んぅっ……?!)

 突然の事態に酷く驚く。息苦しささえ感じるレベル、
でも、ボクが驚いたのはそこじゃなかった。
『自分』に強く抱き締められた、ただそれだけで、
『身体全体に甘い痺れが広がった』事。

(えっ、なんで……っ!?)

 『男の体』に抱き寄せられて、対比で『自分の身体』がわかる。
妙に柔らかくて敏感だ。押し潰されて
『もにゅん』と変形した胸――おっぱいとか。
え、ちょっと待って。なんでボクにおっぱいがあるんだ!?

 何もかもが意味不明、もしかしてこれも夢なのか?
うん、むしろ夢でしかないよね? なーんだ夢かぁ焦って損した。

「夢の中で寝たらどうなるんだろうね。
 まあいいや、おやすみなさい」

 口から吐き出された声は、凛としつつも甘やかな声音。
一発でわかる、『彼女』の声だ。

 成程そういう設定か、『入れ替わり』って奴だね。
うん、嫌いじゃないよすごく好き。『対象が自分でなければ』だけど。

 セクサロイドになって自分に犯されるなんて、
悪夢以外の何物でもない。このまま寝逃げでリセットしちゃおう。

「と言う訳で、すやぁ」

「待ってください!? 現実逃避したくなるのはわかりますけど!
 残念ですが現実なんです!!」

 再度ゆさゆさ揺すられる。その感覚は酷くリアルだ。
おかげで脳も覚醒してしまった、とても眠れそうにない。
それでもこれは夢だろう、こんなの現実のはずがない。

「えぇー、これが現実って言うならさぁ、
 こうなった理由を説明してよ。どう考えてもファンタジーじゃん」

「いえ。推測にはなりますが、考えられない現象ではありません」

「…………具体的にはどういう理屈で?」

「脳記憶の転写エラーだと思います」

 『ボク』の顔をした彼女が説明し始める。

 セクサロイドの『初期設定』では、
マスターの脳に直接アクセスして情報を読み取る。
そして主人に都合がいいように、セクサロイドの脳を書き換えるわけだ。

 セクサロイドの脳は機械、もちろん人間のそれとは違う。
でもその構造は人間のニューラルネットワークをベースに設計されており、
可能な限り脳を模倣するように作られているらしい。

 そもそも。『人間の脳から情報を読み取る』――つまり参照処理ができるなら、
『人間の脳を書き換える』――更新処理ができても不思議ではない。

 だから。『マスターの脳を読み込んで、セクサロイドの脳を書き換える』、
その辺の処理にバグがあれば、『両者の情報が入れ替わる』事も起こりうる。

「な、なので……まったくあり得ない話ではないんです」

「え、えぇ……?」

 彼女がくれた説明は、残念ながら納得できるものだった。
『あり得る』、そう思える程度には説得力がある。
と言うか現状を鑑みれば、『それしかない』とすら思えてきた。

「で、でも仮にそうだとして……どうしたらいいんだ!?」

 製造元に連絡――はもちろん駄目だ。会社は既に倒産している。
なら販売店に連絡? 普通の初期不良ならそれもありだろう。

 でも問題は『本人証明』、人格が入れ替わった事を証明する術がない。
最悪の場合、『マスターになりすまそうとする不良品』として
そのまま処分されてしまう可能性もあった。

(そっか……ボクは、今。『処分される側』、なんだ)

 首元のチョーカーにそっと触れる。販売員の声が脳に木霊した。
『首輪には起爆装置が搭載されており、
 マスターの命令でいつでも起動が可能です』
最悪だ。ボクは今、『元セクサロイド』に生殺与奪を握られている。
その事実に気づいた途端、急に怖くなってきた。

 当たり前だろう? もしわからないなら想像してみて欲しい。
いくら人当たりがよかろうと、彼女は『出会ったばかりの他人』だ。
しかもボクらは『主人と奴隷』、彼女は『虐げられる奴隷側』。
そんな相手に、安心して『自分の起爆装置』を渡せるか?

 『哀れな性奴隷』から一転、『主人』に抜擢された少女。
もしも彼女がその気になれば、ボクはあっさり頭部が吹っ飛ぶ。
そして彼女は自由の身になり、人としての生を謳歌できるのだ。

 怖い、怖過ぎる。身体がカタカタ震え出した。
ボクの怯えに気づいたのだろう。彼女はにっこり微笑んで――。


◆ ◇ ◆


 そっと、ボクを抱き寄せた。

「大丈夫です、きっと元に戻る方法があるはずですから。
 諦めずに探しましょう」


◆ ◇ ◆


 ぶわりと、目から涙液が溢れ出す。


◆ ◇ ◆


 不幸中の幸いだった。彼女はどこまでも聖人だったのだ。

 『元セクサロイドだから当たり前?』 果たして本当にそうだろうか。
彼女はもはやロボット三原則に縛られる存在じゃないのに?

 彼女の思考は『ボクの脳』で行われているのだ。
だとしたら。ボクの思考が、醜さが、彼女を狂わせても不思議はなかった。

 なのに彼女はボクを案じる。
純粋で無垢な彼女の事だ、ボクが怯えていた理由すら理解していないだろう。
『このままボクを爆破して自由になる』、そんな事思いつきもしなかったのだ。

 当たり前にボクを心配して、『元に戻る事』を目指している。
こんな『人間』存在するか? いいや、いるはずがない。

 涙液が後から後から流れていく。
命が助かって『安堵』? それもある。でもそれ以上に『感動』していた。
置かれた状況は最悪だけど、この子と一緒なら頑張れる。
そう思えるくらいには、彼女に心を奪われた。

「ええと……ごめん、もう大丈夫。とりあえず現状を把握しよう」

 ひとしきりスンスン泣いた後、改めて状況を確認する。
入れ替わり以外に問題は? 記憶がおかしくなったりしてない?

「私の方は問題なさそうです。マスターの方はどうですか?」

「うん。身体もちゃんと動く。記憶の欠落もなさそうだ」

 ぐいと腕を持ち上げると、ぶるんと胸が大きく揺れた。
と同時に、サラサラの髪が頬を撫でる。
思ったよりくすぐったくないんだな、髪の毛が細いから?
なんて、改めて入れ替わった事を実感する。

 こんな美少女に変身なんて、人によってはご褒美かもしれない。
自由に元に戻れるのなら、ボクも多分喜んだろう。
正直に言えば今すぐ裸になって見てみたいし、何なら胸も揉んでみたい。
流石にこの状況ではやらないけどさ。

「……さて。『今すぐ死ぬかも』的な危険はなさそうだけど。
 とは言えどうしたもんだろう」

「困りましたね……本来起こり得ないエラーなので、
 マニュアルにも対処方法が記載されていません」

「ちょっと思ったんだけどさ。もう一回
 初期設定をやり直せばいいんじゃないかな?」

 これが初期設定の結果だとすれば。
もう一回実行すれば、同じ現象が起きて元に戻れるかもしれない。
我ながら名案だと思ったんだけど、彼女は残念そうに首を振る。

「初期設定はもうできません。首輪の色が白から黒に変わっていますから。
 不具合こそありましたけど、初期設定自体は完了しているんです」

「初期設定は1回限りなんです。何度も設定可能だと、
 悪意の第三者が後からマスターに成り代わる可能性がありますから」

 むむ、それもそうか。ボクもネトラレは勘弁だ。
基本的にマスターは上書きできないようになっているのだろう。
……あれ、待てよ? それはちょっとおかしくないか?

「でもさ、セクサロイドは中古で出回ってるじゃないか。
 それって『マスターは上書き可能』って事じゃないの?」

「厳密には可能なんですが。その場合、現マスターの権限で
 『工場出荷状態へのリセット』を行う必要があります。
 それを実行すると過去の人格が消去されてしまうんです」

「今の状態でそれを行ったら…………その、わかりますよね?」

 ゾクリと背筋が粟立った。つまり『ボクが消えてしまう』のか。
改めて思い知らされる。あまりにも命が軽い存在になってしまった事を。

 彼女がいくら聖人だろうと、ボクの置かれた立場に変わりはない。
今のボクはセクサロイド、人権など存在しないのだ。

 思わず肩を両手で抱く。もにゅり、乳房が寄って谷間ができるも、
それを楽しむ余裕はなかった。

 ……怖い。心臓が加速し始めた。
あげく、ゾクゾクと体が熱く火照ってくる――。

(って、え、なんで?)

 気づけば全身が疼いていた。甘ったるいうねりが体内を駆け巡る。
『とろり』、股の付け根から粘っこい蜜が垂れ落ちるような感覚。
胸の先端が服に擦れている感じがする、身じろぐたびに甘い電流が胸全体に広がった。

(え、なんで、こんな、『発情』してるみたいな……!)

 発情? そう、発情だ。ボクは明らかに興奮している。
いやいや、なんで? 嘆き悲しむ状況だ、とてもサカる場面じゃないだろ。
もしかしてこれもバグか? それ以外に考えられない。
感情の昂ぶりを身体が『興奮』と判断した?

 原因不明かつ未知の症状、助けを求めて彼女を見る。
そして、戦慄が全身を駆け抜けた。

(…………え?)

 ボクを見つめる彼女の瞳は、どこかトロンと潤んでいて、
そして何より、その股間は――。

「ちょ、ちょっと待って。君、それ、『勃起』してない!?」

「あ、す、すいません! その、
 入れ替わった時からずっと『こう』でして……!」

 言われてみればその通りだ。『開封の儀』を始める前から、
ボクはずっと勃起していた。いやいや仕方ないだろう?
セクサロイドを使おうとしてたんだから。

 そこまで考えて腑に落ちた。彼女が今興奮しているのは、
『ボクの肉体が興奮していたから』。今ボクがアレな感じになってるのは、
『この肉体がセクサロイドだから』なのだろう。
説明書にも書いてあった。
『セクサロイドはマスターの性欲に連動して発情する』と。

(って、いやいや冗談じゃないぞ!?)

 いくら身体がセクサロイドでも、その中身はボク(マスター)なのだ。
『自分の身体にご奉仕』なんてたまったもんじゃない。

 彼女だって同じだろう。いくら『ボクの体』が興奮してるからって、
彼女がそういう行為を望むかは別問題――。

「……その、苦しいようでしたら『お世話』しましょうか?」

「え゛」

「今、『マスターの身体』が興奮しているという事は、
 『私の身体』も発情していますよね?
 元は自分の身体ですから、ひと目見ればわかります」

「それは、その……そうだけども」

「深く考える必要はないと思います。
 どうせ私達はこの後結ばれる予定だったのですし。
 ただ性別が入れ替わっただけです。
 このまま、私に『ご奉仕』させてもらえませんか?」

「え゛っ、あっ、う゛ぅぅ~~~っ」

 そっか、やっぱり彼女はセクサロイドなんだ。
『マスターが興奮してるならご奉仕して当然』、
『外見なんて気にしない』のだろう。
身体が変わったところで彼女の人格は変わらない。

 でも、それはボクとて同じ事。
身体がセクサロイドだからって、『自分とセックス』なんて、
そう簡単に受け入れられるはずがない、ん、だけど、
頭が、どんどん、ぼーっとしてくる……♡

 身体の方は完全に臨戦態勢に入っていた。
見た事も触った事もない膣肉が、『マスターのち○ぽ』を求めて
ヒクヒクせわしなく蠢いているのがわかる。

(駄目だ、これ……多分、セックスしないとおさまんない)

 直感的に理解した。そうプログラムされてるんだ。
何しろこれが『初体験』、オナニーで済ませるなんてどうかしてる。
『初回の発情はご主人さまに犯されないと解消できない』、
そんな設定でもあるのだろう。

「……わ、かった。君に、その、お願いするよ。
 で、でも……」

「でも?」

「その、あんまり気持ちよくならないようにして欲しい。
 壊れちゃうかもしれないから」

「ふふっ……はい、わかりました」

 彼女は『ボクの顔』で微笑んだ。
正直に言えば気持ち悪い。でも、残念ながらそれだけじゃない。
『彼』が嬉しそうに笑うのを見ると、
それだけで身体がポカポカ温かくなってくる。

 言葉を当てはめるなら、『しあわせ』。
大好きなご主人さまに求められて、『うれしい』。
そう身体が喜んでいるのがわかる。
それがたまらなく怖い。ボクがボクでなくなりそうだ。

「そのっ、やるなら、はやくしてっ」

 こうして。ボクは自分のアイデンティティーを守るために
『ボク』にセックスをねだるのだった。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 さて。ボクは童貞かつ彼女いない歴=年齢の男なわけだが、
いつか『彼女』なる存在ができた時のため、情報収集には余念がなかった。

 ほら、よく言うだろう? 童貞男はAVの見過ぎで、
現実の女の子に対してとんでもない『やらかし』をしがちだって。

 胸を強く揉んじゃ駄目、『中』を指で荒っぽく掻き回すな。
後は――『処女が初体験でイク事を期待するな』とか。

 いくら発情しているとは言え、彼女の身体は当然処女だ。
まして中身はボクなわけで、『自分の体とえっちする』という
どぎついマイナス補正も掛かっている。

 流石にこの状態でイクはずがない。多少は感じるかもしれないけど、
『ボクの身体』がさっさとボクにアレを注ぎ込んで終わりだと思っていた。

 あ、ちなみに『始まった』のは今からほんの5分前だ。まだ服すら脱いでない。

「っ、だめっ、またっっ、イッ――イックうぅ゛っっっッ゛!!!」

 はい、セクサロイドの身体舐めてました。とにかく感度が半端ない。
ほんの少し肌を撫でられただけで、ゾクゾク体中に鳥肌が立つ。
そっと優しく抱き寄せられただけで、乳首がムクムクとあさましく勃起する。
そして硬く尖った乳首を服の上から摘まれた途端、
みっともなく獣じみた喘ぎ声をあげてこのザマだ。

 いやね、ボクにも男としてのプライドがある。
『自分』に愛撫されて恥も外聞もなく甘ったるい声を出すなんて勘弁だ。
感じるのは仕方ないにせよ、極力声は我慢するつもりだった。
と言うかそもそも、『鳴き声を上げるほど感じる』なんて思ってなかったんだ。

 考えが甘過ぎた。元々『無垢で清楚だけど身体は淫乱』って設定だ。
そこへ『大好きなご主人さまと初体験』ブースト、
さらに『相手はこの身体を誰よりも知り尽くした女』。

 これだけ条件が揃っていれば――、
『初体験なのに乳首だけでイク』なんてミラクルも起きてしまう。

「ふふっ。マスター……気持ちよかったですか?」

「らっ、らめっ、気持ちよすぎるっっ……
 もっ、さっさとっ、いれて、おわってっっ!」

 この調子で続けられたら、挿入前に力尽きるだろう。
それでは何の意味もない。何より恐ろしい事に、
『イッても全然治まらない』のだ。
むしろどんどん発情していく。
『早くご主人さまのおちん○ん欲しいっ♡♡♡』、身体がそう叫んでる。

「でも、せっかくの初夜ですし……じっくり楽しんだ方が良いのでは?」

「感じすぎて、むりっ……! 発情も、どんどん、ひどくなってるっ……!
 このままだと、ボク、壊れちゃうってばっ……!」

「す、すいません。それでは失礼ながら、ささっと脱がせてしまいますね?」

 彼女が手早くボクを脱がせていく。
ブラウスを脱がし、そのまま片手でブラのホックをパチンと外す。
ブラの肩紐が落ちてきて、おっぱいが『ぶるんっっ』とさらけ出された。

 零れ落ちそうなほどの巨乳。それでいて形が崩れる事もなく、
立派に重力に逆らっている。先端は淡い桜色に色づいて可愛らしく、
でもいやらしく勃起して、ツンと上を向いていた。

 なんて美しくて卑猥なんだろう。もしも『ボクのまま』見ていたら、
これだけで射精してしまったに違いない。
でも彼女の手は止まる事なく、さらにスカートが脱がされる。
続けざまにショーツにも手が掛けられ、そのまま『ずるんっ』と脱がされた。

 しっかりは見えなかったけど、股間を覆っている部分がシミになって、
酷く変色していたのはわかった。
相当濡れていたんだろう。脱がす時も『ぬるーーっ』ってすごい糸引いてたし。

 秘裂が外気に晒される。空気を妙に冷たく感じるのは、
それだけあそこが『できあがっている』からなのだろう。

 恥ずかしい、会陰にぎゅっと力が入る。
『ぷちゅっ』と粘液が押し出される感覚がして、
太ももを愛液がねっとりと垂れ落ちていった。
ああもう、どんだけ発情してるんだ……!

「……もう前戯は必要なさそうですね」

「そ、そういうのは言わなくていいってば……!」

 頬に熱が溜まっていく。ボクはたまらず俯きつつも、
ベッドの上に腰を下ろした。挿入しやすいように膝を立てて、
軽いM字開脚のような姿勢を取る。

 初めて見た女性器は、物欲しそうにパクパクと開閉を繰り返していた。
濡れまくった陰唇が、ぬらぬらと滑り輝いている。
まだ誰にも触れられた事がないクリトリスも完全に尖り狂っており、
皮を押し上げてその恥ずかしい姿を惜しげもなく見せびらかしている。

(うっわ、えっろい……できれば他人視点で見たかったなぁ)

 ボクが『セクサロイドの体』に見とれていると、彼女も服を脱いでいた。
こちらは見慣れた『自分の身体』だ。
なのにそれを目にした途端、呼吸が一気に苦しくなった。

 見どころなんて何もない。中肉中背、平凡で見栄えのしない身体。
敢えて言えばアレがガッチガチに勃起してるとこだけど、
それだってせいぜい平均だろう。魅力的でも何でもない。

 なのに呼吸が浅くなる。頭が知恵熱を持ったように重くなり、
思考が定まらなくなっていく。またも『ぷちゅりっ』、
膣肉がせつなそうに蠕動して、中から熱い愛液を搾り出した。

 ああ、もう、最悪だ。この体、『ボク』の事が好き過ぎる……!

「では……挿入(い)れますね」

「っ……う、うん」

 『処女喪失』に対する恐怖、『自分に犯される』嫌悪感。
そういった感情が、まるで無いと言えば嘘になる。
でも、それらを遥かに上回る『発情』が、ボクに期待感すら抱かせていた。

 別の恐怖が脳裏をよぎる。ボクは『これ』を挿入(い)れられてもなお、
『九澄直道』でいられるだろうか。

「んっっ……」

 彼女がボクの両足をぐいと広げて、間に身体を滑り込ませる。
そしてヌルついた膣口に、亀頭をぷにゅっと押し当てた。
そのまま何度かこすりつけ、ペニスに愛液を絡ませていく。
ついでに指で愛液をすくい取り、竿にも蜜を塗りつけた。

 押し当てられた感覚からするに、ボクの穴は相当小さくて、狭い。
あっさり挿入とはいかなさそうだ。
いや、でもこれでいい。『自分のち○ぽで感じまくる』くらいなら、
『破瓜の痛みに嗚咽する』方がいい――。

「んっ、くぅっ……!?」

 亀頭が『にゅぐぐっ』と埋め込まれていく。
経験値ゼロの幼い膣は、硬さを武器に侵入者を拒む。
それでも亀頭が押し付けられて――貫通。
処女膜が突き破られて、そのままズブズブ貫かれた。

「ん、ぐっ、ぅ゛っっ……!」

 いくらセクサロイドと言えど、
流石に『処女喪失で即絶頂』とはいかないのだろう。
普通に痛い。肉を引き裂かれる感覚、血が股を滴(したた)り落ちるのがわかる。
本来なら物など入るはずがない狭い肉穴を、無理矢理押し広げられていく。
生理的に涙が滲み、ボクは肩を震わせた。

「んぃっ、い゛っ、いったぁ゛っ……!!」

「すいません……でも、これで全部挿入(はい)りましたよ」

 彼女は体勢を前傾させて、ボクに身体を密着させる。
そして『よしよし』とでも言わんばかりに、優しく頭を撫でてくれた。
それだけで頬が勝手に緩み、身体もくったり弛緩していく。

 今も確かに痛いは痛い。でも、正直思ったほどではなかった。
今は圧迫感の方が強い。そして、そして、そして、何より――。

 それ以上に、病的なレベルの多幸感が押し寄せてくる。

(うっ、わっ、なんだっ、これっ……!?)

 お腹の奥に力を入れると、ヒクンッと膣壁が妖しく蠢く。
ギチギチに詰め込まれたペニスを感じ、それが嬉しくなってしまう。
抱き締められて頭を撫でられると、しあわせのシャワーが脳に降り注ぐ。

「やば、い、これっ……♡」

 脳内麻薬がドパドパ出てる。ただ挿入されただけ、確かに痛いはずなのに。
『ご主人さまに初めてを捧げられた』、その事実に気が違いそうになる。
なんて恐ろしい洗脳だろう、この身体を作った奴は悪魔に違いない。

「…………動きますね」

「う、ん゛っ……? ひぅ゛ぅ゛っっ!?」

 彼女が腰を引いた途端、脳を焼くような刺激が走る。
『痛み』? それとも、『快感』? 正直区別がつかなかった。
痛いのは間違いない。でも痛いのが嬉しかった。もう完全に狂ってる。

 彼女が抽送を繰り返すたび、ボクは濁った悲鳴を上げる。
そうして泣けたのは少しの間だけ。
少しずつ。でも急速に、ボクの反応は変化していく。

 理解せざるを得なかった。肉棒が膣壁をえぐるたび、
穴の形が作り変えられていく。『マスター専用』の肉穴に。
初々しい硬さの残っていた処女穴は、やがて媚びるように弛緩して、
ねっとりと纏わりつくように蠢き始める。

「へっ……あっ、ぃゃっ、ぅそっ……♡」

 間違いない、ボクは感じ始めていた。
単に『ご主人さまとえっちできて嬉しい』だけじゃない、
純粋に快感を覚え始めてる。
『ぬぢゅっ、ぬぢゅっ』、ペニスが出ては入ってを繰り返す。
硬い肉槍が柔肉をこするたび、
甘い電流が脳を駆け抜け、腰がビクビクと痙攣した。

「うぁあっ、これっ、これっっ、やばいぃぃいっっッ♡」

 身体が凄まじい勢いで『メス化』していく、『ち○ぽの味』を覚えてしまう。
勝手に腰が動き始めて、あさましいメスの腰振りを止める事ができない。

 挙げ句、膣の奥から快楽のうねりが全身に広がって、
ガクガク身体が痙攣し始めた。
どこかに昇りつめるような感覚。本当に、本当に恐ろしい事に、
ボクは今、『処女なのに中イキ』をしそうになっている。

「うっ……わたしもっ、そろそろっ、イキそうですっ……!」

 不幸中の幸いか、彼女も限界が近そうだった。
『ボクの身体』が原因だろう。早漏気味で助かった。

「いい、よっ……だしてっ、はやく、はやくぅっ……♡」

 『ボク』の首に腕を回して、ぐいと身体を引き寄せた。
おまけに足も甘く絡ませ、完全に『だいしゅきホールド』だ。
『自分の体』に犯されている、それを気にする余裕はなくて。
ただガムシャラに腰を振る。膣内を暴れまわる『ち○ぽ』が愛おしかった。

「あっ、あっ、あっ♡ アッ♥」

「アッ、ダメっ、ボクッ、イキそぅっっ♥」

「はいっ、私も――――イキますっっ!!」

 彼女が大きく腰を引く。次の瞬間、
『どちゅんっ!!!』と一気に叩きつけられた。
子宮口をごちゅっと潰される。それが完全にトドメになって、
快楽の洪水が決壊する。

「んん゛ん゛ん゛ぅっっっッッッッッ!!!」

 頭の中が真っ白になり、ボクは思いっきり仰け反った。
一呼吸置いて『ガクガクガクガクッッッ!!!』、激しく痙攣を繰り返す。

「ん゛ひっ、ん゛ひぃ゛っっッッッ♥♥♥」

 膣壁がぐねぐね収縮し、『せーえきください♥』とばかりにおねだり。
それに呼応したかのように『びゅるるるるっっっ!』、
熱い液体が大量に吐き出された。
頭の中が染まっていく。
快感、恐怖、快感、幸福……幸福、幸福、幸福、幸福っっ!!

「はっ、ぁっっっ……♥♥♥」

 うっとり熱い吐息を漏らす。脳は完全に塗り潰されていた。
『ご主人さまに精液を流し込まれてしあわせ♥』
その圧倒的なメスの悦びに比べたら、『ちっぽけなオスのプライド』なんて、
もはやゴミも同然だった。

 無意識のうちに甘えるように、彼女に顔を寄せていく。
近づいてくる『自分の顔』、もう『気持ち悪い』とは思えなかった。
当然のようにまぶたを閉じて――唇と唇が重なってしまう。

 唇は少しカサついていた。
そんなの大した問題じゃない、またも病的な量の多幸感に襲われる。
膣肉がにゅぐにゅぐ蠕動、いまだ埋め込まれたままの
『ご主人さまち○ぽ』におねだりをし始めた。
『もっと躾けてください♥』って。

 彼女はそれを受け入れる。結局ボクは『初夜』にして、
濃厚な膣内射精をたっぷり3回も味わったのだった。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 ハードな夜を越えた翌日。なんとか正気に戻ったボクは、
だからこそ悶え苦しんでいた。

「……死にたい!」

「ま、マスター、お気を確かに」

「いやだってさぁ……『自分とセックス』しちゃったんだよ?
 それもメッチャクチャ感じまくってさぁ。
 最後なんか『ほとんどセクサロイドそのもの』だったし。
 強制メス堕ちさせられた気分だよ」

「き、気持ちよかったならいいじゃありませんか」

「はは、そうだね。この際いっそ開き直って、
 『工場出荷状態にリセット』しちゃおうか。
 『全部セクサロイド』になっちゃえば、この苦悩ともおさらばだ。
 そうすれば素直にあの快感を貪れるしね」

「そ、そんな事言わないで。元に戻れるよう頑張りましょう、ね?」

 まあ流石に冗談だ、いくらなんでも自殺はしない。
ウジウジいじけはしたものの、言うほど落ち込んでもいなかった。
なんだかんだその……気持ちよくって幸せだったし。

「うん、そろそろ気持ちを切り替えよう」

 パシンと両の頬を張り、彼女の方に向き直る。
きょとんとトボけた『ボク』の顔、見るだけで胸がときめいてくる。
正直かなり複雑だけど、殺意を覚えるよりはましだろう。

「ちょっと遅くなっちゃったけど、これからよろしくね」

「……はいっ!」

 勢いよく彼女が頷く、その笑顔に救われた。
はっきり言って状況はよくない、あれこれ問題は山積みだ。
でも気分は悪くない、むしろワクワクすらしてる。
当たり前だろう? こんな素敵な子と一緒に暮らせるのだから。

 改めて喜びが胸いっぱいに広がってきた。
一人感慨に浸っていると、彼女がちょんちょんと肩をつつく。
……『ボクの体』でそれをされると、流石にちょっと気持ち悪いな。

「ん? どうしたの?」

「あ、はい。その、できれば、私に名前をつけてもらえませんか?」

 言われて初めて気がついた。そっか、そう言えば『名付け』すらまだだった。
ボクは満面の笑みを見せると、考えておいた名前を告げる――。


◆ ◇ ◆


「君の名前はリーミエル。天使をイメージして考えた名前だよ」


◆ ◇ ◆


 我ながらいい名前だと思う。清楚で、優しくて温かい彼女にぴったりだ。
まあ入れ替わっちゃったから、『今はボクがリーミエル』なんだけどね♡


◆ ◇ ◆


 …………うん、やっぱこの状況つらい! さっさと元に戻りたい!!


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 望む形とは違ったものの、リーミエルとの新生活がスタートした。

 彼女と暮らし始めて痛感した事がある、『セクサロイドはポンコツ』だ。
いや、こう言っちゃうと語弊があるか。
正確には、『自分とセックス以外の知識が皆無』ってところだろうか。

 リーミエルはボクと入れ替わった。
今の彼女は『人間』で、生存に必要な行動――食事を取ってもらう必要がある。
もちろん睡眠も必要だし、身体も洗ってもらわなければ。
人間としては至極当然。でも、彼女にとっては『未知の行為』だ。

「え、こ、この固形物を口にするのですか?
 どこかで詰まってしまうのでは……」

「人間だから大丈夫だよ。消化できる。
 基本的に1日3回食べないと健康を保てないから頑張って」

「わ、わかりました……んっ、んぐっっ」

「待って、なんで丸呑みしようとするの!?
 そこは噛むところでしょ!」

「か、カム!? 人間はこの行為で絶頂できるんですか!?」

「その『CUM』じゃないよ!? 『噛む』!
 歯で食べ物をすり潰して、喉を通るように小さくする事だよ!」

 まあ仕方がないのかも知れない。
セクサロイドが口にするのは、精液のような液体だけだ。
『噛む』という概念自体、データベースにないのだろう。

 後はトイレの知識もなかった。機械だし当たり前なんだけど、
説明するのは中々につらいものがある。
何が悲しくて『自分の排泄行為』を第三者目線で見なくちゃいけないんだ。
ボクにそっちの趣味はない。

 ちなみに歯磨きは知っていた。
なぜって? 『歯磨きプレイ』ってのがあるからだとさ。
そんなマニアックな知識はいいから、
一般常識をインプットしておいて欲しかった。

 ……とまあ、こんな感じで。
人間になったリーミエルは、ただ生きるだけでも大変だ。
ボクがリモートワーカーで本当に良かった。
出社必須なら即座に休職、いきなり生活が破綻するところだ。

「す、すいません。マスターのお世話をするためのロボットなのに、
 面倒を見ていただいてばかりで」

「あ、あはは……こればっかりは仕方ないよ。
 でもまあ、できるだけ早く覚えてくれると助かるかな」

「じゃあ、そろそろ買い物に行こうか」

 軽く身だしなみを整えて、二人揃って外に出る。
本音では『ボクはお留守番ね』と行きたいけれど、
彼女を一人にするのは無理がある。
そもそも彼女は『お金の概念』すら知らない。

「あ、その服可愛いですね。もしかして用意してくださっていたのですか?」

「うん。……まあ、まさか自分が着る事になるとは思わなかったけど」

 季節は晩秋、それなりに着込まないと寒い時期だ。
もちろんセクサロイドに防寒なんて要らないけれど、
前もって服を用意していた。……彼女とデートしたかったからだ。

「でも、おかげで助かったよ。ほら、首さえ隠せば人間にしか見えないからね」

 だぼだぼパーカーにゆるふわスカート、首をマフラーでふんわり覆う。
完璧だ。とても『セクサロイド』には見えないだろう。

 童貞にしてはやるじゃないかって?
そりゃそうだ。服屋の店員さんに丸投げしたからね、
『彼女用にワンセット揃えてください』って。
おかげで無難に纏まっている、次もあの店にお願いしよう。

 一人で満足気に頷いていると、横からリーミエルの視線を感じた。
その目は愛しいものを見るように細められている。

「……改めて思います。こんな事になってしまったけれど、
 私は貴方に買われてよかった」

「へ、なんで?」

「普通、セクサロイドに服を与えて外に出る人なんていませんよ。
 あくまで『性欲解消の玩具』なのですから」

「でも貴方は違います。私の事を人間のように愛してくれる。
 それがとても嬉しいです」

 心底そう思っているんだろう、彼女の笑みはどこまでも柔らかい。
正直言って驚いた。『ボク』の顔ってこんなイケメンフェイスも作れたのか。
案外悪くないじゃないか、胸が心拍数を速めていく。
って、何で『自分』に見惚れてるんだボクは!

「ま、まあ人間の感覚で言えば『変態』なんだけどね。
 そう言ってくれるとボクも嬉しいよ――と、ところで」

「なんですか?」

「そろそろ人通りが多くなってきた。ここからは『入れ替わろう』」

 ボクは周囲をキョロキョロ見渡す。
住宅街を抜けて繁華街に接近、ちらほらと人の姿が確認できる。
今のままでは流石にまずい、不自然さは払拭しなくちゃ。
ただでさえ『今のボク』は絶世の美女、間違いなく注目を集めるから。

「は、はい、わかりま――わかったよ」

「はい、それでいいです。今から貴方は『九澄直道』、
 私の方が『リーミエル』です。間違えないでくださいね?」

 今のボクが男みたいに話すのは駄目だ。
何しろボディが『清楚系』、違和感が半端ない。
リーミエルにも『自分がセクサロイド』の前提で話されても困るし、
この際外ではお互いを演じる事にした。

 正直かなり恥ずかしい。でもさっさと慣れなくちゃ。
ボクは恥じらいを吹き飛ばすように、彼女に先んじて歩き始める。

「じゃ、じゃあ行きましょう! 買い物は私がやりますから、
 直道さんは後ろからついてきてください」

「わかりま――わかった。でも、それは少し不自然じゃないかな?
 ほら、今のボク達なら『こう』だと思う」

 言いながら、リーミエルがボクの手を握る。
壊れ物を扱うように、優しく指を絡めていく。
途端に体内温度が上昇、ボクは顔を真っ赤にしながら顔を背けた。

「ほっ、本物の『直道さん』は、そんなイケメンみたいな行動しません!」

「……? 『イケメン』が何を指すのかは知らないけれど。
 ボクの中の『九澄直道』は、このくらい格好いい最高の男性だよ」

「ああ、うぅ……っ♡」

 この展開は非常にまずい、心が身体に引きずられていく。
『ボクの声』で好意を伝えられると、それだけで脳が蕩けてしまう。
このまま口説かれ続けたら、中身まで女になっちゃいそうだ。

「も、もう行きますよ!!」

 『ボク』に手を繋がれたまま、大股で足を踏み出した。
後ろから、クスクス笑う『ボクの声』が聞こえてる。
それがなんだか悔しくて、なのに幸せを感じてしまい、
ボクは大きく頭を振った。

 ああ、もし幸運にも元に戻る方法が見つかったとして。
元に戻れるその日まで、ボクは『九澄直道』でいられるだろうか。
正直に言って自信がない。
だってこうしてる今ですら――胸は高鳴り続けてるから。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 当初は危ぶまれた新生活も、数日もすれば安定し始めた。
それもそうだ。『人間として働く』ならともかく、
『人間として生きる』だけなら覚える事は多くない。

 生活も整い始めた事だし、いよいよ『元に戻る』方法を模索し始めた。
二人並んで情報収集に没頭する。

 あ、基本は役に立たないリーミエルだけど、
コンピューターに関する操作は教えなくても実行できた。
『ユーザー登録』や『サポートへの問い合わせ』に使うそうだ。
この辺の知識をゼロから教えるのは大変だから助かった。

「どうだいリーミエル、そっちは何か見つかった?」

「いいえ、駄目ですね……特に事件にはなっていません」

 今、ボクらが探しているのは『類似案件』だ。

 今回の『入れ替わり』は『HA-03F共通の不具合』かもしれない。
他の購入者にも同じ事が起きているなら、騒ぎになっている可能性がある。
そして社会問題になってしまえば、政府が救済に乗り出すかも知れない――、
と思ったんだけど、残念ながら空振りか。

「……単に、『私が不良品だった』という事ですかね」

「まだわからないさ。ボク達みたいに隠してるかもしれないし」

 HA-03Fは最新機種だ。
発売直後に製造元が倒産した事もあり、販売数も多くない。
仮に情報が出回るとしても、時間が掛かるのかもしれない。

「とは言え、ただ情報が出てくるのを待つだけってのも厳しいね。
 方向性を変えようか」

「と、言いますと?」

「『セクサロイドの事故』に限らず、『精神の入れ替わり』について調べよう。
 偶然にせよ故意にせよ、使えるものがあるかもしれない」

 技術の進化は凄まじい。単にボクが知らないだけで、
『精神交換サービス』なんてのがあっても不思議じゃない。
実際こうしてボク達が入れ替わってるんだし。

 この発想が大当たりだった。検索を始めて数分後、
リーミエルがあっさり『それ』を引き当てる。

「あっ、ありましたよマスター!
 これを流用すれば戻れるんじゃないですか!?」

 興奮混じりの声に釣られて、隣の仮想スクリーンを覗き込む。
画面には『記憶バックアップサービス』と表示されていた。

「…………なるほど。」

 『記憶バックアップサービス』。自身の頭脳を電子化し、
アンドロイドに移し替えるサービスらしい。

 確かにニーズはあるだろう。年老いた高齢者、病気で死ぬしかない患者。
『身体を取り替えてやり直したい』、そう考える人もいるはずだ。
そう、まさに今のボクらのように。

「うーん、でもなあ……」

 これを『希望』と捉えるには、色々問題が多すぎる。
技術的には可能でも、社会的に許されるかは別問題だ。

 いくら記憶を転写したって、アンドロイドは所詮機械。
アンドロイド化した人格には基本的人権が与えられない。
そもそも、『人間とアンドロイドとの記憶交換』が許されるかはかなり微妙だ。
それに加えて、何よりも――。

「一回150万円かぁ。二人分で300万円。
 簡単に手が出る金額ではないなぁ」

 ボクはリーミエルを買ったばかりだ、ほぼ全財産を放出してる。
貯蓄する? 今の給料では年100万円が限界だろう。
今から全力で頑張って、最低でも3年は掛かる計算だ。

「で、でも、これからは2馬力ですよね?
 二人で頑張ればなんとかなるんじゃないですか?」

「うーん、どうだろう……」

 少し真面目に考えてみる。まずボクはどう働くか?
今よりいい職場はあるだろうか。

 ……ないな。『今のボク』が就職活動をしても拾ってくれる企業はない。
機械にできる仕事なら、それ専用のロボットを『借りる』方が効率的だ。
わざわざポンコツセクサロイドを『雇う』理由がない。

 これは『風俗業界』でも同じ事。
風俗には風俗用のセクサロイドが供給されている。
品質を抑える代わりに、もっと安くて耐久性の高い子達が。

(まあ、ボクは今の仕事を続けるしかないな)

 ならリーミエルは?
身体としては人間だ。一般教養さえ叩き込めば、
肉体労働なら可能かもしれない。

 って、この2130年に『頭を使わない肉体労働?』
そんな仕事は存在しない、全部ロボットがやっている。

 現実的な目線で言えば、ボクが知的労働の量を増やして、
リーミエルにできる部分を手伝ってもらうくらいだろう。
それでもせいぜい1.2馬力――あれ、待てよ?

「いや、案外行けるかも……?」

 肝心な事を忘れてた、今のボクは『機械』なのだ。
食事を取る必要もない、寝る必要も、休息すら必要ない。
そんな『今のボク』だったら、人間の数倍は働けるのでは?

 仮に仕事を3倍にして、単純計算で賃金も3倍になったとしよう。
それなら1年で資金を稼げる。

 1年ならまあ許容範囲だ。お金が貯まったら
この会社に頼み込んで精神交換してもらおう。
受け入れてくれるかは怪しいけど、事情を説明すれば行けるかも知れない。
……なんだ、案外現実味を帯びてきたじゃないか。

「よし、ちょっと希望が見えてきた!
 仕事を今の3倍にして、1年間で資金を貯める!」

「そ、それは……現実的なんですか?」

「いけるいける! ……多分!!」

 そうと決まれば善は急げだ、早速今ある仕事に取り掛かる。
うん、やっぱりだ。全然疲れを感じない。
頭の回転も人間の時より速いのだろう、おかげでメチャクチャ仕事が捗る。
こりゃとんでもないチートスキルだ。

(…………もうこのままでもいいかもなぁ)

 いやいや流石に冗談だけどね、やっぱり元には戻りたい。
そのためには稼がなきゃ。ボクは万能感に酔いしれつつも、
機械のように高速で仕事を片付けていくのだった。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 至極順調な日々が続いた。
仕事を3倍に増やした上で、それでも前より余裕がある。
『ロボットの身体』はすごかった。本当に休息が必要ないのだ。

 空いた時間はリーミエルに使う。
一般常識を教えたり、彼女のご飯を作ったり。
後はできるだけ外に連れ出す事にした。
何しろ彼女は0歳だ、この世に生まれてきたばかり。
せっかく人間になったわけだし、この際目一杯楽しんで欲しい。

 と言うわけで、今日は動物園にやってきた。
リーミエルは目を輝かせ、ボクの手を引いて園内を駆け回る。
不思議だな。見た目は『ボクそのもの』なのに、
そんなこの人を『可愛い』と思ってしまう。

 たっぷり半日見て回る。疲れを知らないボクとは違い、
流石にリーミエルは疲れたようだった。
園内のレストランで休憩、見晴らしのいいテラス席に腰を下ろす。

 彼女はハンバーグを注文した。ボクは? もちろん水だけだ。
ボクの前に置かれた水を見て、リーミエルは悲しそうに頭を下げる。

「なんだか申し訳ないです。
 マスターは私のせいで大変な目にあっているのに、
 私だけが幸せで」

 『普通に』喋るリーミエル。
ボクは少し慌てつつ、『彼女』の口調で窘(たしな)めた。

「『マスター』、口調がおかしいですよ?」

「大丈夫ですよ、周りに人はいませんから。
 二人きりの時は普通にお話させてください」

 リーミエルは話を続ける。『ボクの身体』で
ぎこちなくハンバーグを切り分けながら。

「元に戻る方法を調べる過程で、他の所有者がセクサロイドを
 どのように扱っているかを知りました」

「それはもう酷かったです。目を覆いたくなりました。
 無論、彼女達はマスターの性嗜好に合わせて最適化されますから、
 本人は嬉々として受け入れるのでしょうけど。
 正直、今の私からすれば『拷問』にしか映りませんでした」

「私は今、本当に幸せです。……私ばかりが幸せです。
 マスターを不幸にしておきながら、私だけが幸せを甘受している」

 彼女はつらそうに唇を噛んだ。憂いを帯びたその表情を、
『格好いい』などと思ってしまい、身震い。
ボクはぶんぶん頭を振ると、努めて笑顔で口を開いた。

「とんでもない誤解があるみたいだけど。
 ボクは自分が不幸だなんて思っちゃいないよ?」

「え?」

「もし仮に、『君を購入する前』にタイムスリップできたとして。
 それでもボクは君を買うよ。……だって君が好きだからね」

「っ……!」

「確かにさ、最初は『セクサロイドだから』買った。
 エッチな事する気満々だったよ」

「でも、君を買った理由はそれだけじゃなくて。
 心も満たして欲しかったんだ」

 性嗜好に関して言えば、多分ボクも『異常者』だろう。
セクサロイドに愛を囁く変態、
彼女を人間のように愛したいと思うのだから。

「アクシデントは確かにあったし、元に戻りたいとは思う。
 でも、『心を満たす』事については、君は十分やってくれてる。
 少なくともボクは、君を買う前より幸せになってるよ?」

 嘘偽りない本心だった。もう少しだけ本音を言えば、
実際はセックスの面でも満たされている。
むしろあまりに満たされ過ぎて、
戻れなくなりそうで恐怖を覚えるくらいには。

「だから、罪悪感を覚える必要なんてないんだ。
 君が幸せならボクも嬉しい。もっと、素直に幸せを感じて――ね?」

 ボクは穏やかに微笑み掛ける。彼女は呆けた顔をして、
やがて大きく俯(うつむ)いた。『ありがとうございます』、
消え入りそうな小さい声が、ボクの鼓膜を優しく揺らした。

 よかった、わかってもらえたみたいだ。
胸がポカポカ温かくなり、じんわりと幸せが広がっていく。
やがて呼吸が浅くなり、心拍数が上昇していく――って、あれ?

「あ、あれ? リーミエル? なんか、その……興奮してない!?」

「ま、マスターが悪いんですよ!? そんな可愛い顔で笑って、
 優しい言葉を掛けられたら……反応しても仕方ないでしょう!?」

「か、可愛いって何さ!? ていうか自分の顔だろう!?」

「そこはお互い様でしょう!? マスターだって、
 最近『する』時はいつも私の顔を見てトロンとした表情を――」

「す、ストップストップストップ! 公衆の場だから猥談禁止!!
 反論はいいから気分を鎮めて!?」

「無理です、マスターが可愛過ぎます!
 『そんな顔』を見せられて鎮まるなんて不可能です!!」

「どんな顔!? いや言わなくていい聞きたくない!!」

 リーミエルは残ったハンバーグを掻き込むと、
ボクの手を取り立ち上がる。椅子から離れたその瞬間、『ぬちゃり』。
秘部からぬかるんだ感触が伝わってきた。
ああ駄目だ、ボクも完全にできあがってる……。

 前会計のお店で助かった。そのまま即座にお店を出ると、
リーミエルはどこかを目指して一直線に歩いていく。
パークを出たらすぐ近く、
『休憩3時間で3500円』って看板がある建物に。

「マス……『リーミエル』」

「っ……な、ん、でしょう」

 人通りがあるからだろう、リーミエルが口調を変える。
その変化に鼓動が跳ねた。『マスターらしい男の口調』、
それだけで膣内(なか)が反応し、肉壁がうねうね暴れ始める。

「さっきの言葉、嬉しかったよ。でも、やっぱり少し口惜しい。
 セクサロイドである以上、セックス面で満足させなければ意味がないからね。
 だから――」

「だ、だから?」

「いっぱい、可愛がってあげるからね」

「――っ!?」

 目の前の『九澄直道』がにたりと笑う。
獣欲を隠そうともせず、淫らな視線で視姦してくる。
それだけで、『ぴゅるっ』、熱い愛液が噴き出して地面を濡らした。
腰がわなないて、ふらつく。崩れ落ちそうになった瞬間、
『マスター』が腰を抱いてボクを支えた。

「こらこら、腰砕けになるのはまだ早いよ?
 そんな調子じゃ『この後』大変だ」

「か、勘弁してください……っ♡」

 懇願が聞き入れられる事はなかった。
ボクはまるまる3時間、あられもない声を上げて鳴き続ける事になる。
終わる頃には意識が混濁、まともに喋る事すら難しかった。

 『プルルルル、プルルルルッ』、室内にコール音が鳴り響く。
リーミエルが電話を受けて、慌ててボクに助けを求めた。

「ま、マスター。その、後5分で退室時間らしいです。
 『お会計?』しなければいけないらしいのですが
 どうしたら……?」

「ふぇっ、もっ、むりっ……♥
 おま○こ、ごちゅごちゅ、せめちゃ、らめぇっ……♥」

「マスター!? 戻ってきてください!!」

 結局この日は『ご宿泊』した。
『延長したならまだ可愛がっていいですよね?』
なんて微笑むリーミエルに、さらに狂わされたのは言うまでもない。

 こうして色々ドタバタしつつも、ボクらは愛を育んでいく。
そんな日々を続けるうちに。ボクは彼女に『抱かれる』事に、
どんどん抵抗がなくなっていった――。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 季節は巡り、春が訪れ。気づけば彼女と出会ってから、
早くも半年が経過していた。

 月日は人を変えるもの、じゃあボク達の場合はどうか?
まあ色々と変わってしまった。ボクの方も彼女の方も。

「んっ、んっ、んんっ……♡」

 男がベッドに腰掛けている。足は大股に開かれていた。
足の隙間に傅(かしず)くように、女が跪(ひざまづ)いている。

「んんっ、んぅっ、んちゅっ♡」

 女は男の股に顔を埋(うず)めていた。くぐもった声を上げながら、
顔を前後にせわしなく動かしている。
女はぬめった唇をいやらしくすぼめており、
『にゅぼっ、にゅぼっ』と、血管の浮いた怒張が
唇から出たり入ったりを繰り返していた。

「んっ、ちゅぱっ……はぁっ……♡」

 見れば女の顔にはすでに、夥しい量の精液が張り付いている。
あ、ちなみにぼかしてみたものの、『男』がリーミエルで『女』がボクだ。
ボクは今、『お掃除フェラ』でご奉仕している。

(まさか、自分がやる側に回るとはなぁ……)

 前にリーミエルが言ってたけれど。
セクサロイドは『初期設定』で、マスターの性癖に合わせて最適化される。
途中で不具合が起きたけど、『身体の最適化』はバッチリ終わっていたらしい。

 自分自身を分析するに、そこまで尖った性癖はないと思う。
ただ2つだけ、明確に自覚している好みがあった。
それが『お掃除フェラ』と『だいしゅきホールド』だ。
要は尽くされ愛されたい、そんな気持ちが形になった。

 そんなボクの欲望は、『リーミエルの身体』にしっかりインプットされている。
『ご主人さまの体温』が好き。そっと優しく抱き寄せられれば、
瞬く間に肉襞が収縮、しがみつかずにいられない。
両足で『マスター』をがっちりホールド、射精(だ)されるまでは離さない。

 それで膣内射精をキメられて、
精液と愛液でコーティングされた『ち○ぽ』を見せられたらもう駄目。
ゴクリと勝手に喉が鳴り、ダラダラよだれが垂れてくる。
もう舐めずにはいられない、むしろこのまま搾っちゃいたい――♥

「くっ……マスター、射精(だ)しますよっ――イ、クッッッ……!」

「んぐっっ、んんぅぅっっっ♥♥」

 ボクは僅かに顔を引き、ペニスを軽く咥えて口をすぼませる。
奥まで咥えこむよりも、少し余裕のある方が好き。
この方がペニスが思いっきり暴れるし、
『びゅっ! びゅっ!!』って勢いよく吐き出される精液を
しっかりと舌で感じる事ができるから。

「んん、ん……っ♥♥♥」

 期待通りに流し込まれて、腰を震わせながら悦びに浸る。
跳ねるペニスに舌を絡みつかせて、最後の一滴まで搾る事も忘れない。
口内に精液がたっぷり溜まる。いやらしくネバつくオス汁を、
舌で味わうように丹念に転がしながら、ゆっくりと少しずつ飲み干していく。

(は、ぁ……しあわせぇ……♥♥♥)

 きっと今、ボクの目にはハートが浮かんでいるだろう。
ああ、完全に精液の味を覚えてしまった。
『お掃除フェラ』なのに『浅ましく搾ってしまう』くらいには。

 『自分のチ○ポ』をしゃぶる事に抵抗はないのかって?
そりゃあ最初はもちろんあったさ。でも駄目だ、心が身体に引っ張られてる。
何度も何度もイカされて、すっかり覚え込まされた。
『おちん○んは気持ちいいもので、奉仕するのがボクの幸せ』って。

 そもそもだ。今のボクは『リーミエルの脳に記憶が転写された存在』なわけで、
脳自体はリーミエル――『女の脳』なんだよね。
正直に言っちゃえば、最近ボクは『自分が男』だと思えなくなってきてる。
多分リーミエルも同じだろう。最近『責め方』が男らしいから。

「精液は美味しかったですか?」

「…………うん」

 いかにも『ご主人さま』って体勢のまま、リーミエルがボクの頭を撫でる。
手のひらから伝わる体温、心地よさに目を細めつつ、ボクは太ももに頬を擦り寄せた。

 これで今度こそ交尾はおしまい、舌を這わせて『お掃除』していく。
ボクにご奉仕されてる間、リーミエルは頭を撫で続けた。
……まるでペットを可愛がるように。

 やがてリーミエルは立ち上がると、蕩けたボクの手を握る。
まだ甘い余韻が残る腰に手を回されて、びくりと小さく身体が震えた。
エスコートされてお風呂場へ、シャワーで体液を洗い流す。
リーミエルがしたのはそこまで。体を洗うのはボクの役目だ。

「じゃあ、洗うね……」

「はい、お願いします」

 ボディソープを泡立たせ、自分の体に塗りたくる。
全身綺麗に泡で包んで、それからリーミエルにすり寄った。
手を、腕を、胸を、股を、丹念に擦りつけて洗っていく。

「んっ……♥ はぁっ……♥」

 なんでいきなりソープ嬢みたいな真似を始めたのかって?
最初は逆だったんだ、リーミエルがボクを洗ってた。

 でも考えてみて欲しい、嬉々として『お掃除フェラ』しちゃうボクだ。
いつの間にか『ご奉仕大好き』、
自分から『洗わせて』と志願するようになっていた。

 結果として今に至る。『彼』の腕を股で挟み込み、
『にゅるるるーっ』といやらしく擦っていく。
ゴツゴツした肌が突起を擦りあげるたび、秘部を甘いうねりが襲った。

 乳首とクリトリスが隆起してくるのがわかる。
こりゅこりゅと押し当てていると、ソープとは違うヌルつきが股を覆い始めた。

 男の広い胸板に、柔らかな乳房を押し当てて、
『彼』の乳首をコリコリと尖った先端で弄ぶ。
太ももを挟み込んでこっそり腰を振っていると、リーミエルがニヤリと嗤った。

「また、したくなってませんか?」

「……リーミエルだって大きくなってるじゃん」

 熱い眼差しを『チ○ポ』に向ける、当然のように屹立していた。
れるーーっと茎に舌を這わせる。びくびく跳ねるのが可愛い。

 散々チロチロ舐めた後、お尻を向けてフリフリねだる。
我ながら『メスそのもの』だけど、欲しいんだから仕方ない。

「ね、リーミエル……挿入(い)れて?」

 もちろんリーミエルは断らない。ボクのお尻を両手で掴むと、
思い切り腰を押し付て『ずぷぷぷぷっ』、いっきに膣奥まで貫いた。


◆ ◇ ◆


 と、まあ、こんな感じで。ボクは色々変わってしまった。

 毎日散々可愛がられて、頭トロトロのままご奉仕して。
そんな日々を繰り返されれば、そりゃ変わり果てもするだろう?
もう嫌悪感なんて覚えない、素直に男を愛せてしまう。

 目の前にいる『ボクの身体』が、『自分のもの』だと思えなくなってきた。
たくましくて愛おしい、『ボクとは違う男の人』。
『ボクは彼のセクサロイド』、それでいいと思えてしまう。


◆ ◇ ◆


 だから――『こんな事』が起きたとしても、ボクは大して凹まなかった。


◆ ◇ ◆


 大口の仕事が無事に終わって、『ぱーっと行こう』って話になった。
いつもは見向きもしない高級レストラン。
リーミエルに美味しい料理を堪能して欲しい、そう思って予約を入れて。
二人で着飾って店に到着――店員に道を塞がれる。

「申し訳ありませんが、当店では
 セクサロイドの入店をお断りしております」

「あっ…………そうですか」

 完全に油断していた。ちゃんと首輪は隠していたし、
ドレスコードは守ってきたから。『人間にしか見えないだろう』って、
ううん、『普通に人間のつもり』でいた。

 そう言えば聞いた事がある。格式を重んじるお店の中には、
人間と機械を判別できる特殊なセンサーを設置しているところがあると。

 つまりはある種の選民思想だ、まあそれなら仕方ない。
素直に引き下がろうとして、でもリーミエルが肩を掴んだ。

「この人は確固たる人間だ!!」

 ボクは驚き彼女を見上げる。いつもは優しいその瞳が、怒りの炎に燃えていた。
だがボーイは気圧されず、ただ冷ややかに繰り返す。

「申し訳ありませんがルールですので。
 当レストランは人間専用となっております。
 機械と一緒に入店されたいのでしたら、別のお店をお探しください」

「だから!!」

 まるで掴みかかるような勢いで詰め寄るリーミエル。
慌ててその手首を掴み、ボクの方へと引っ張った。
目を見開くリーミエル、ボクは穏やかに首を振る。

「『マスター』、おやめください。この方の言う通りです」

「ま……『リーミエル』」

「『マスター』が私の人格を尊重してくださる事は嬉しいです。
 でも。事実として私は機械ですし、しかもセクサロイドなんですから」

 仕方のない事だと思う。格調高いお店にとっては、
品格もサービスのうちなのだから。
ドレスコードを求める店が、『性処理の道具』を入店させる?
そりゃ無理だよ、他の客からクレームが来てもおかしくない。
ボクだって、バイブを握った奴がお店に入って来たらビビって逃げる。

「帰りましょう? 大丈夫です、お祝いなら他の場所でもできますよ」

 ボクがそのまま手を引くと、リーミエルは大人しく従った。
もっとも表情は酷く険しく、唇は引き結んだままだったけど。
踵を返して店を立ち去る、小さな呟き声が聞こえた。

『はぁ……時々いるんだよな。
 ああやって、本気で機械に入れ込む馬鹿が』

『セクサロイドとイチャつきたいならラブホにでも行けよ』

 それはとても小さな声で、『人』には聞こえなかっただろう。
それでいい。彼には毒づく権利があるし、でもリーミエルには知られたくない。
何も聞かなかったふりをして、ボクはそのままその場を去った。
店を離れて二人きり、彼女が沈痛な面持ちで謝ってくる。

「…………すいません。私のせいで」

「気にしないでいいよ? と言うか完全にボクのミスだし。
 予約の時点で気づくべきだったよ」

「いえ、その事だけではなく……私が不良品でなければ」

「それこそ君のせいじゃないだろ?」

「……私、頑張ります。絶対にマスターが戻れるように頑張りますから」

 なおも唇を固く引き締め、決意を籠めて彼女は語る。
もちろんその気持ちは嬉しい。でも、ボクは本当に気にしてなかった。
『そりゃそうだよね、ボクはセクサロイドなんだから』で終わる話だ。
なんて思いを言葉にすると、リーミエルは不機嫌を隠さず怒った。

「マスターは自分に頓着しなさ過ぎです……!
 まるで、本当にセクサロイドみたいですよ。
 私なんかよりもずっと」

「あはは。なら、こうなってちょうどよかったのかもね?」

「……怒って欲しかったのですが。『いくら何でも失礼だ』って」

「いやあ、正直ちょっと自覚があるし」

「やっぱり、早く戻らないといけませんね。
 このままでは、マスターが心までセクサロイドになってしまう」

「かもね」

 危惧する通りなのだろう。ううん、もう手遅れなんじゃないかな。
素直に本音を言ってしまえば、『それって何か問題なの?』とすら思ってる。
そんなボクの顔を見て、リーミエルは青ざめた顔で呟いた。


◆ ◇ ◆


『急がなきゃ。このままでは、マスターは本当に――』


◆ ◇ ◆


 その日以来。リーミエルは前より一層
『元に戻る方法』を探し求めるようになった。

 そんな願いが届いたのだろうか。
入れ替わってから9ヶ月後。ついに『その日』が訪れる。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


「ま、マスター! 見てください!!」


 なんて事ない平凡な一日。まったり充電していたボクは、
揺り動かされてまぶたを開いた。

 充電中のボクはスリープモードに入っている。
普段からこまめに充電してればスリープしなくてもいいんだけどね。
ついつい人間だった時の癖で忘れてしまうのだ。

 電源に繋がれてスリープすると、一気に意識のレベルが落ちる。
でも五感はわずかに残っていて、意識とは別に反応はできる。
その感覚は『いかにも機械』って感じがして、まだほんの少しだけ慣れない。
できれば起こさないで欲しいんだけど……。

「んん……なんだいリーミエル、まだ充電9%だよ?
 エッチならもうちょっとだけ我慢して」

「違いますってば! 充電したままでいいですから、
 このニュースを見てください!!」

 リーミエルが腕時計を操作、仮想スクリーンを表示する。
映し出されたのはWebサイトだった。

『セクサロイドと精神交換?
 ヒューマンアーカイブス社製最新セクサロイド「HA-03F」について、
 政府が被害者に対して救済措置を発表』

「えっ、こ、れは……っ!?」

「やっぱり共通の不具合だったんですよ。
 同件が複数あったらしくて、密かに問題になっていたみたいです」

 無言で記事を読み進めていく。
曰く、内容が内容だけにプライバシーを考慮して、
秘密裏に検証を進めていたらしい。

 結果として、本件は事件として処理される事になった。
ボク達購入者は『事件の被害者』という扱いになり、救済措置が適用される。
不具合が発生したかどうかは、
セクサロイド側のボディーを検査すればわかるだそうだ。
不具合の事実が確認できた場合、被害者は2つの道を選べる。

①精神交換で元に戻る
 ただしごく低確率で失敗して、
 記憶や人格に異常が発生する可能性がある

②現状を受け入れる
 人間の平均寿命まで給付金を受け取る事ができ、
 さらに特例としてアンドロイドのまま人権が与えられる

 なお、不具合の状況によっては『元セクサロイド』が
『元マスター』を破棄する可能性があるらしい。
このため自己申告は不要、販売店の購入情報を元に強制捜査が行われるそうだ。

「よかったですね、これで元に戻れますよ!」

「…………」

 心底嬉しそうに喜んで、目に涙すら浮かばせるリーミエル。
対照的にボクは沈んだ、とても喜べそうにない。

「あのさ、リーミエル。君、ちゃんと最後まで読んだかい?」

「ええ、もちろん読みましたけど」

「……そっか」

 リーミエルはそういう子だ、根っこの部分が滅私奉公。
だから当然のようにこの一文を受け入れてしまう。

『精神交換を選んだ場合、措置後にセクサロイドは廃棄される』。

 仕方のない事なんだろう。利用者と入れ替わる? 致命的な不具合だ。
廃棄して当然。仮に修理して再利用するにも、今の人格は消去されるだろう。
一定期間人間として生き続けたロボットなんて、恐くて残せやしないから。

 人間にとってセクサロイドの命は軽い――いや、
そもそも『生きている』なんて考えない。
『機械』はどこまで行っても『機械』だ。普通はそう考える。

 だからこそボクは受け入れられない。
だって、ボクにとってリーミエルは『人』だから。

「………………うん、決めた。ボクはこのままでいい」

「駄目です!!!」

 普段はボクに尽くすリーミエルが、驚くほどの大声で反対する。
瞳には恐怖――いや、怒りも混じっていたかも知れない。
拳をぎゅうと握りしめ、ボクを睨みつけながらリーミエルが吠える。

「忘れてしまったんですか!?
 自分が人間だった事を! なのに、その身体になったせいで――
 ロボットのように軽んじられてしまった事を!!」

「覚えてるよ」

「入れ替わった直後の貴方は、あんなに怖がっていたじゃないですか!
 ガタガタ震えて、目に涙を滲ませて!」

「その感覚が正しいんです! 今の貴方は狂っている!!
 お忘れですか!? 私は今、次の瞬間にも――」


「貴方を爆破して、殺す事ができるんですよ!?」


 彼女の声は震えていた。それはリーミエルからすれば最大級の脅し。
虚言じゃない。事実彼女がその気になれば、ボクはあっさり頭部が吹っ飛ぶ。
だからあの日は恐怖に震えた。でも残念、今のボクは――。

「あはっ、あははははっ!」

「ま、マスター……?」

「君の言う通りだよ。ボクはとっくに狂ってるんだ」

 ボクはニッコリ微笑みながら、『マスター』の前で服を脱ぐ。
しゅるり、衣擦れの音を立てながら、劣情を誘う淫らな裸体をさらけ出す。
ぺろりと舌を舐め擦りながら、誘うようににじり寄る。

「君が好き。誰より一番君が好き。
 自分よりも君が好き。完全に君に狂ってる」

「なのに、元に戻れば君が死ぬ? そんなの選ぶわけないじゃないか。
 選ばなければ君に殺される? いいよ、だったら殺してよ」

「君はドン引きするだろうけど。今のボクは、
 『君に殺されるならそれもいいな』って思うよ」

「だから……殺したいなら、どうぞ? 『ボクのマスターさん』」

 にじり寄る。顔はもう目と鼻の先、そのまま強引に口づけた。
『彼』は動く事ができない。ボクは頬に舌を這わせつつ、
右手で股間を撫で回す。艶かしく、何度も、何度も。
股間が盛り上がってきた。服越しに裏筋を『つーっ』となぞる。

「……ふふ、コーフンしてきちゃったね?
 貴方の欲望、伝わってくるよ? ほら、おかげで……濡れてきちゃった」

 『彼』の右手をそっと掴んで、ボクの秘部へと誘(いざな)った。
指先が陰唇に触れて、『ぬちゅり』。蜜が『彼』の指に絡みつく。

「ほら……こんなにしちゃった責任をとって? ま・す・たーさん♥」

 耳元でねちっこく囁いた。そして――、
次の瞬間、膣に『彼』の男らしい指が突き刺さる。

「んひっっっ♥♥♥」

「……わかりました。よーくわかりました。貴方がもう手遅れだという事が」

「んぁっ、ひっ、きゅうにっ、はげしっっ♥」

 『彼』のゴツゴツした指が、蜜壺を遠慮なく掻き回してく。
ざらついた天井を押し上げ、えぐり、愛液を掻き出していく。
『ぼじゅっ、ぬじゅっ、ぶじゅっ』、酷く淫猥な水音を鳴らしながら、
リーミエルは淡々と言葉を紡ぐ。

「責任を取りますよ。貴女を狂わせてしまった責任を。
 私が貴女を護ります。セクサロイドに堕ちた貴女を、
 人間に堕ちたマスターとして」

 普段の『彼』からは想像もつかないほど野性的な指使い。
肉穴を往復する指の動きは激しさを増し、
視界がチカチカ明滅を始めた。だめっ、もうイキ始めてるっ……♥

「んんっ、ちょっ、まってっ、そんな、されたらぁっっ♥♥」

「イッちゃいますか? イケばいいじゃないですか、
 貴女は淫乱なセクサロイドなんですから。
 ほら、さっさとイキなさい。そして、私をもっと興奮させなさい」

「ほら――――『イけ』」

「っっ!? いっ、イ゛ッくぅぅゥ゛ゥ゛っっ゛ッッッ゛♥♥♥」

 命令されたその瞬間、脳に激しく火花が散った。
ううん、そんな生易しいものじゃない。まるで電撃をくらったように、
ボクの体はビクンと硬直、そのまま『びくびくびくびくっっっ』と
断続的に痙攣を繰り返す。

「んッ、ひッ、ひぅッ、ふぅっッ♥♥♥」

 思考は一気にドロドロ溶解、その場にべちゃりと崩れ落ちる。
へたりこんだ先は『水たまり』、足がべったり何かに塗(まみ)れた。
それで初めて、自分が『愛液の潮を噴いていた』事に気づく。

「はっーっ♥ はーっ♥ あっっ、まって、ボクまだイッてるッっ♥」

「待ちませんよ。貴女はセクサロイドなんでしょう?
 マスターを放置して余韻に浸られては困ります」

「ほら、挿入(い)れますよ。ちゃんと腰を振ってくださいね?
 私の精液を搾るのが、貴女の存在意義なんですから――」

「えいっ」

「ん゛い゛ぃぃっッッ゛♥♥♥」

 まだ絶頂に開閉を繰り返す陰唇、『彼』はそれを物ともせず、
奥まで『ずぶぶぶっっっ』と貫いた。
互いの恥丘がキスをして、子宮と亀頭も口づける。
当然ながらボクは失禁、病的に膣肉を収縮させ、
繋がった秘部からだらしなく尿を漏らしながら喘ぎ続けた。

「ひぅ゛ぅっ…………♥♥♥」

「ほら、自分ばっかりイッてないで動いてください
 イクのは構いませんけれど、本分を忘れてはいけませんよ?
 貴女はもうセクサロイドなんですから」

 『彼』はボクの身体を抱き寄せ、そのまま後ろに倒れ込む。
床に背をつけて寝転がると、ボクをその上に跨がらせた。
つまりは騎乗位だ。『彼』は嘲るように嗤いながら、
ボクのお尻をペチンと叩く。弾力のあるお尻がぷるんと揺れた。

「ほら、いつまで放心してるんですか。
 いい加減腰を振りなさい――『振れ』」

「は、はぃぃ、こし、ふりましゅぅっ……♥」

 いまだ腰をビクつかせたまま、ヘコヘコと腰を振り始める。
今まで何度もしてきた事だ、それなりに慣れているはずだった。
でも快感が強過ぎて無理、思ったように動けない。
と言うか無理に決まってる。イキっぱなしなんだから……っ♥

「はっ♥ はへっ♥ へぅッ♥ ぅクゥゥッ゛ッ゛ッ゛♥♥♥」

 ほんの僅かに動いただけで、さらに降参アクメをキメる。
亀頭でGスポットを『ごりゅっっ』とえぐられ、深い絶頂に押し上げられた。
少しでも熱を逃がそうと、犬みたいに舌を垂らして、荒い吐息を吐き続ける。
駄目だ、全然戻ってこれない……♥

「はぁ……やる気あるんですか?
 先程から自分ばかりあさましくイキまくって。
 それでセクサロイドを自称するとか、私の事を舐めてます?」

「らっ、らって♥ リーミエルの、いつもよりっ♥ おっきィっッッ♥♥♥」

「っ……知りませんよ。セクサロイドである以上、
 相手がどんな状態でも、自分がどんな状態でも、
 ちゃんとご奉仕を完遂してください」

「とりあえず、まどろっこしいんでこっちで好き勝手に動きますね」

 リーミエルはボクの腰を両手で掴むと、
『どちゅっ!』と下から突き上げてきた。
その瞬間に意識が消し飛ぶ。『びゅるるっ!』
まるで射精のように愛液を撒き散らしつつ、ボクは虫の息であえいだ。
前後不覚、ただただ絶頂の洪水に溺れ、意味をなさない音を吐き出す。

 容赦のない腰つきだった。ただ突き上げるだけでなく、
ボクの腰を掴んで強引に揺さぶってくる。
奥の奥まで『チ○ポ』が刺さり、子宮をどちゅどちゅ潰される。

 まるでオナホール扱いの乱暴なストローク、それでもボクはイキ乱れる。
後から後から愛液を噴き出し、『彼』をベトベトに汚していく。
もはやローションのようだった。『彼』が腰を打ち付けるたび、
『ニチュッ、ニチュッッ』と卑猥な音が鳴り響く。

「ひッ♥ はんっ♥ ィぅ゛ッ♥ はぁっ♥♥」

「……私の身体ってこんなに愛液を貯蔵していたんですね。
 それにしても多過ぎます。そろそろ終わらせないと
 オーバーヒートで壊れてしまいますか」

「あ、確か充電も途中でしたね。仕方ない、終わらせてあげますよ。
 ほら、最後くらいしっかり腰を振りなさい」

 ペチペチと顔を軽くはたかれ、少しだけ我を取り戻す。
身体はイキ狂ったままだ。腰のわななきはまるで止まらず、
肉壁はぐねぐね収縮している。蜜壺は狂ったように愛液を垂らし続け、
まるで故障したようだった。

 それでも。『彼』の胸板に両手を添えて、何とか必死に腰を振る。
だって――ボクはもうセクサロイドなのだから。

 『彼』の終わりも近いのだろう。
リズミカルだったストロークが不規則になり、ガツガツ腰をぶち当ててくる。
膣内(なか)に侵入した肉棒がヒクヒクヒクヒク蠢き始め、
射精が近い事を教えてくれた。

「っ……イキますよっ! マス……直道っ! 全部受け止めなさいっ!」

「ひゃいっ♥ ぜんぶっ♥ うけとめましゅっっ――
 ん゛ぁぁあ゛ぁぁあ゛っッッッ♥♥♥♥♥」

 『彼』がひときわ強く腰を打ち付ける。ペニスが子宮口を押し潰した瞬間、
ペニスが『ぶくり』と膨れ上がり、凄まじい勢いで精液を吐き出した。
『どびゅっ、びゅるるるるるぅっッッッ!!!』
降りてきていた人工子宮めがけて『びちゃっ、びちゃぁっ!!』と
大量の精液がぶち撒けられる。

 ボクは全身を硬直させて、その全てを受け止めた。
筋肉が『もう無理』と言わんばかりに病的に痙攣、意識を失い倒れ込む。

 なのに膣肉だけは『もっと、もっと♥』と言わんばかりに、
射精チ○ポに甘えるように纏わりついて、
『ぎゅっ、ぎゅっっ♥』としつこく精液を搾り取っていた――。


◆ ◇ ◆


 時間にして数秒……それとも数分?
ボクが意識を取り戻すと、リーミエルがボクの頭を撫でていた。
そしてボクに問い掛ける。『考え直せ』と言わんばかりに。

「……どうです、思い知りましたか? これが『セクサロイド』です」

「強過ぎる快楽は苦痛になります。貴女が私として生きていくなら、
 今後一生この責め苦と付き合っていく事になるんですよ?」

「最後にもう一度だけ聞きます。……元の体に戻りませんか?」

 なるほど、あの荒っぽいプレイはそういう事だったのか。
ボクを少し懲らしめて、悔い改めさせようと。

 でも、それならむしろ逆効果だ。
だってこのプレイで確信できた。ボクはもう、身も心も――。

「ううん、ボクはこのままでいい。
 このまま、セクサロイドとして生涯を君に捧げるよ」

「ボクね、君に責められてすっごく興奮しちゃったんだ。
 もう『その身体』を自分のものとは思えない。
 仮にノーリスクで戻れたとしても、今更戻りたくないよ」

「だから、ね? ボクをこのまま愛し続けて」

 リーミエルは大きくため息を吐く。でも、諦めたように苦笑した。

「……わかりました。なら私も、マスターとして貴女の事を愛します。
 欲張りで淫乱なセクサロイドとして、一生使ってあげますよ」

 そう言って、リーミエルはボクに優しく口付けた後。
ボクをお姫様抱っこして、メンテナンスポッドに詰め込んだ。
慣れた手付きでポッドを操作し、ボクの検査を開始する。

 身体がスリープモードに入る。
一気に薄暗くなる意識、ボクはもはや躊躇う事なく、
そのまま意識を手放した。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 数日後、ボクらの家にも政府の調査機関がやってきた。
『どうしたいか』と彼らに問われ、ボクはよどみなくこう返す。
『このまま現状を受け入れます』と。
彼らは特に驚かなかった。聞けば、大半の被害者がそう答えるらしい。

『精神交換を選んだ場合、数%の確率で失敗しますからね。
 命を賭けた博打なんてしたくないでしょう』

 彼らはそう言って笑ったけれど、それが理由だとは思わない。
多分、他の人もボクと同じように考えたんじゃないかな。
『愛する人を守りたい』。あるいは、『セクサロイドも悪くない』って。

 現状を受け入れたボクには、給付金と新しい戸籍が割り当てられた。
給付金は素直に有り難い。セクサロイドも結局は機械、
長く使うなら部品交換が必要になるから。

 でも正直戸籍は微妙だ。なぜって? いやいや恥ずかしいでしょ。
『ボクはセクサロイドを使おうとして、
 事故ってセクサロイドになっちゃった間抜けでーす♥』
って喧伝するようなものだし。
もちろん緊急時は使う。けど、普段はひた隠しにしておきたい。

 あ、ちなみに『起爆装置』は無効化された。でも首輪自体は外せないらしい。
『セクサロイドが首輪を分解して逃亡する』事を防止するため、
最初から身体と一体化しているそうだ。

 そんなわけで。結局ボクはこれからも、
対外的には『セクサロイド』として生きていく事になる――。


◆ ◇ ◆


 二人揃って街に出る。当然外では『彼』が『マスター』、
ボクの方が『セクサロイド』だ。

 手を繋いで歩いていると。通りすがりの赤の他人が、
ヒソヒソ話す声が聞こえた。

「おい、あれってセクサロイドじゃね? 製品コードの首輪してるし」

「最近多いんだよなー、ガチで機械に惚れちゃう奴」

 ボクは彼女の顔をして笑い掛ける。

「……ふふ、言われてますよ、『マスター』」

 リーミエルはボクの顔をしてこう返した。

「ほうっておきなよ。ボク達は愛し合っている、
 それはボク達だけが知っていればいい」

「ふふっ、そうですね」

 この件が物語っている。ごくごく普通の『健常者』からすれば、
ボク達の関係は酷く滑稽に映るのだろう。

『ロボットに本気で恋するなんて』
『あげく、自分から人間として生きる道を放棄するなんて』

 正直ボクもそう思う。ボクは人間としては狂っていると。
でもさ、こうも思うんだ。長い間連れ添って、個別の経験を積んだAI。
そうして育まれた人格は、人間と何も変わらないんじゃないかなって。

 だからボク達はこれでいい。これからも、
ボクは『彼のセクサロイド』として生きていく――。

「――って、あ、あの? 『マスター』、なんか興奮してませんか?」

「ごめん。『ナオ』がすごくいい顔をしていたから」

「馬鹿……だったらもう帰りませんか?」

「駄目だ、今度こそあのお店に入る。今度は『ナオ』にも戸籍があるし、
 あのレストランも文句は言えないはずだ」

「私は気にしてませんから。と言うか今の私からすれば、
 あんなレストランの何かより、
 貴方の精液の方が絶対に美味しいんですけど?」

「ね? 飲ませてください。貴方の、『これ』……♥」

 言いながら、『彼』の股間を弄(まさぐ)ってやる。
もうはち切れんばかりに膨らんでいた。
指先で軽く握ってやると、布越しでも『ち○ぽ』の形がよくわかる。

「ちょっと『ナオ』、こんなところで……!」

「あはは、私はセクサロイドですもん。
 セックス最優先ですよ、人間のTPOなんて知りませーん」

「ああもう、この淫乱わがままセクサロイド!」

 『彼』はボクの手を取ると、歩調を速めて歩き始めた。
向かった方角はレストランと真逆、馴染みのホテルがある方だ。

「ふふ、いっぱい可愛がってくださいね?」

「ああ、たっぷり懲らしめてあげるよ」

 その言葉だけで腰が砕ける。
ボクはヌルついた太ももを擦り合わせながら、
愛しい『彼氏』に抱きついた――。


◆ ◇ ◆


 ――うん。やっぱりボクって、『セクサロイド』の才能があると思う。


(完)


※別作品としてリーミエル視点もございます。
 お気に召しましたら覗いてみてやってください。
『セクサロイドだった私が、事故でマスターと入れ替わって、
 元御主人様を『淫乱セクサロイド』として飼うお話。あ、でもハッピーエンドですよ!』
 https://skeb.jp/@puchi_drop/works/4













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