想いと現実の狭間で③
 作:無名


”我が研究室のためだー
 室井くん、悪く思わないでくれたまえ”

室井教授がーー
まだ、若かった時のことー。

科学の研究者として
頭角を現していた彼はー。
研究室の所長から、そう言われたー。

「--し、、しかし!」
若くー
熱意に溢れていた彼は叫ぶー

”--”インパクト”だよ。
 分かるかね?

 君のような、ビジュアル映えしない男が
 この世紀の発見を発表するよりも、
 彼女のような若く、綺麗な研究者が発見者として
 発表したほうがー
 
 世間に対するインパクトが違うのだよ。”

所長はそう言い放ったー

「--わ、、私が発見したものを…
 彼女に譲れと言うのですか!?」

その言葉に、所長は、室井教授の肩を叩いたー。

”君には感謝しているー
 だがねー。
 この世界では、
 想いだけでは生きてはいけない。

 人間、誰しも想いと現実の狭間で揺れ動いている。

 私だって辛いのだ。

 だが、新発見の発表には
 より強い”インパクト”が必要なのだー。

 分かってくれるね?”

「No」とは言わせないー
そんな所長の目つきー

若き頃の室井教授は
”容姿”を理由に、新発見を、若い女性研究者に奪われー
適当に理由をつけられて、研究室を追放されたー


それからだっただろうかー。
彼ー

室井 宗太郎が、歪んだのはー

容姿に固執しー
女を憎むようになったのはーー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆登場人物☆

檜山 裕司(ひやま ゆうじ)
大学生。彼女想いの好青年。優しい性格。

雪本 梨桜(ゆきもと りお)
大学生。裕司の彼女。室井教授と入れ替わってしまう。

瀬島 康介(せじま こうすけ)
大学生。裕司の親友で、いざという時、頼りになる存在。

笠倉 麻奈美(かさくら まなみ)
大学生。裕司の幼馴染で良き理解者。

荒瀬 大吾(あらせ だいご)
大学生。不良生徒。いつもスナック菓子を持ち歩いている。

蘭堂 美穂(らんどう みほ)
大学生。裕司らの後輩。

井守 誠一(いもり せいいち)
大学生。眼鏡をかけたインテリ風男子。

室井教授(むろいきょうじゅ)
大学教授。梨桜の身体を奪ってしまう。

大久保学長(おおくぼがくちょう)
大学の学長

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----くくくく」

大吾と別れた梨桜(室井教授)は鏡を見つめながら
笑みを浮かべていたー

「--なんて、美しいんだー」
自分の美しさにうっとりとする梨桜(室井教授)

「--ふふふふ、くくくく…
 この芸術品のような身体ならー

 くくく…
 くくくく…私は…私は今度こそ、研究者として
 表舞台に立てるー」

梨桜(室井教授)は興奮のあまり、
気色悪い笑い声を出しながら、爪をガリガリとかじり始めるー。

「--もう、、誰にも私を馬鹿にさせない!
 私はーー雪本梨桜として、私を馬鹿にしたやつらを
 後悔させてやるのだ…!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---」
裕司が大学の敷地内を外に向かって走っていたー

「梨桜…」
裕司は、死ぬほど後悔していたー

恐らくー
室井教授と梨桜は”途中”から入れ替わっていたのだろうー。

最初はー
室井教授の狂言だったー。

けれどー
どこかのタイミングで、本当に入れ替わったー

室井教授が「わたしは梨桜なの!」と騒いでいたのはー
”本当に入れ替わった”あとに、室井教授になった梨桜が
騒いでも「どうせ嘘なんだろ?」と思わせるためー

「くそっ…俺は…俺は…!」
裕司が、大学の外に飛び出そうとするタイミングで、
ちょうど帰宅しようとしていた幼馴染の麻奈美が、
裕司を見つけたー

「--どんなに慌ててどうしたの?」
既にあたりは暗くなってきているー。
麻奈美の言葉に、裕司は

「梨桜が…!梨桜が…!俺は、馬鹿だ!」
と、叫ぶー

麻奈美は表情を歪めながら
「落ち着きなさい」と、裕司の方を見つめると
「何があったのか、教えて?」と
優しく声を掛けたー

裕司は深呼吸すると、
梨桜(室井教授)と大吾の会話ー
その、見聞きした全てを麻奈美に話したー

麻奈美は険しい表情をしながらー

「と、いうことは本当に梨桜ちゃんと
 あの変態教授が入れ替わってるってこと?」

と、裕司の方を見つめたー

「--…あぁ…そうだと思う」
不安そうな裕司ー

しかもー
室井教授(梨桜)は、裕司が、大久保学長に
被害を訴えていたために、
大久保学長が動き、ちょうど先ほど、懲戒免職となり、
大学から立ち退きさせられてしまったー。

「---まぁ…確かに
 入れ替わってないなら、そんな会話する必要ないもんね」
麻奈美も、ようやく入れ替わりを信じたようだー。

時計を見つめて、ため息をつくと、麻奈美は口を開いたー

「--わかった。わたしも手伝うー」

「ーーえ」

裕司が戸惑っていると、
麻奈美は優しく微笑んだー。

「---小さいころは、”麻奈美ちゃんと結婚するー”
 
 って、プロポーズされた間柄だしね?」

時折いじわるっぽい麻奈美ー

「--それは、もう昔の話だろ…
 ホントに小さいころの」

裕司が苦笑いしながら言うと、
麻奈美は「冗談冗談」と言いながら、
大学の出口の方に向かうー

振り返ると、「梨桜ちゃん…、ってか、室井教授?
どう呼べばいいのか分からないけど、とにかく
室井教授の身体を見つけたら連絡するから」と、
スマホを手にしながら、早口で告げるー

「--本当にありがとうー笠倉さん」
裕司がそう言うと、
麻奈美は少しだけ寂しそうにー

「たまには、昔みたいにーーー」
と、言いかけてから、

「なんでもない」
と、そのまま立ち去って行ったー

裕司も立ち上がるー

”梨桜ーー
 ごめんなー
 気づいてあげられなくてー

 室井教授との入れ替わりにー
 気づいてあげられなくてーーー”

暗くなった街を必死に走り回る裕司ー。

室井教授になってしまった梨桜が行きそうな場所を
必死に駆け巡るー。

公園ー

喫茶店ー

商店街ー

繁華街ー

あらゆる場所を、駆け回るー

「くそっ…俺が、、俺がもっと早く気づいていれば…!」
裕司は、何度も何度も後悔したー

”最悪の事態”が
頭をよぎるー。

裕司に信じてもらえずー、
誰からも信じてもらえずー
大学からも追放されてしまった室井教授(梨桜)が、
自ら命を絶ってしまうー。

そんな、”最悪な事態”-

♪~~

スマホが鳴るー

別方向で梨桜を探してくれている麻奈美からかと思い、
慌ててスマホを手にした裕司ー

だが、相手は麻奈美ではなかったー。

”--聞いたぜ…梨桜ちゃんが、本当に入れ替わっていたって”

親友の康介からのメッセージ。
”聞いた”ということは、麻奈美が康介に伝えたのだろうー。

手短に返事を送る裕司ー。
康介もすぐに返事を送って来るー

”--今、母親のお見舞い終わらせたところだから、
 俺も探すぜ”

とー。

”ありがとう”と
返事を送って、裕司は走り出すー

親友の康介の母親は、半年前から体調を崩していて、入院中だー。
一度だけ、容体はあまりよくないとも聞いているー。

そんな康介までもが、梨桜探しを手伝ってくれることを感謝しつつー

裕司は、ハッと思い立ったー

そしてーーー
その場所に、室井教授(梨桜)は、いたーー

「-----…お願い…」
室井教授(梨桜)は、裕司を見つめると
目から涙をこぼしたー

ギリギリまで追いつめられてー
最後の最後に、裕司を頼ったー

そんな雰囲気だったー

「---わたしを……信じて…」

今にも途切れてしまいそうな弱弱しい声で呟く
室井教授(梨桜)-

室井教授(梨桜)は、裕司のアパートの側でー
裕司が帰って来るのを、待っていたのだー

裕司は無言で室井教授(梨桜)の手を掴むと、
そのまま自分の部屋に招き入れたー

そしてーー
申し訳なさそうに呟いたー

「-ごめんな梨桜… 寒かったよな…?」
”あまり周囲に見られると良くない”という判断から
部屋に引きずり込んだ裕司は、
室井教授(梨桜)に対して、
”気づくのが遅くて、本当にごめん”
と、頭を下げたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---梨桜ちゃん」

街中で、室井教授になってしまった梨桜を
探してくれていた麻奈美と康介が合流したー。

「--あれ、井守も探してくれてたのか?」
裕司が、康介と一緒に眼鏡をかけたインテリ系の誠一も一緒に
家にやってきたことに驚いて、声を掛けるー

「--人数は多い方がいいと思ってな!
 クソ眼鏡にも声をかけたんだよ」
康介が笑いながら言うー

その言葉に誠一は、眼鏡を位置を調節しながら
「-手伝ってくれた相手にクソ眼鏡とは感心しないな」と呟くー

「はは、悪い悪い、ありがとな」
康介が苦笑いしながら言うと、
裕司も誠一にお礼を述べたー。


裕司の部屋にー
室井教授(梨桜)、麻奈美、康介、誠一、そして裕司の5人が集まるー

”さすがに5人も集まると窮屈だな”などと裕司が思いながら
「みんな、ありがとう」と、改めてお礼の言葉を口にしたー

「いいさ」
誠一が眼鏡をいじりながら言うー

「---梨桜ちゃんが見つかってよかったぜ、ホント…」
康介が安心した様子で言う。

「--ーーこれから、どうするの?」
幼馴染の麻奈美が心配そうに裕司を見つめるー。


「---みんなが来るまで梨桜と相談したんだけどさ…
 とりあえず、元に戻れるまで、ここにいてもらおうと思って」
裕司が言うと、
室井教授(梨桜)が不安そうに裕司の方を見つめて頷いたー。

「--室井のやつの家は使えないのか?」

康介が疑問を口にするー

「--君は馬鹿だな。
 室井教授の住所も知らないだろうし、
 仮に調べても、鍵がなければ入れないだろう?」

誠一が、眼鏡をいじりながら、康介に突っ込みの言葉を入れるー

「うっ…」
康介が苦笑いしていると、
幼馴染の麻奈美は「確かに、それがいいかもね…」と、
少し複雑そうに裕司の方を見つめたー。

「----」
室井教授(梨桜)が、裕司の方を見るー。


”距離ー”
いつもより、裕司が遠くにいるように思えるー

自分が、室井教授の身体になってしまったことで、引け目を感じているからー?
それともーー
裕司が無意識のうちに、室井教授の身体になってしまった梨桜と
”距離”を取っているのだろうかー。

「--とにかく俺は明日、室井と話をつける」
裕司が言うと、
麻奈美は表情を曇らせるー

「-危険じゃないの?」
とー。

「--」
裕司が麻奈美の方を見つめるー

「-梨桜ちゃんの身体が奪われているわけだしー…
 裕司くんだって、何をされるか分からないし」

麻奈美の不安は最もだったー。

それでもー
裕司はまっすぐと麻奈美の方を見つめたー

「それでも、俺は室井と話をするー」

裕司の強い決意ー。

麻奈美は、心配そうにしながらも、
それを受け入れるしかなかったー。

康介と誠一も、裕司の決意を受け止めるー。


麻奈美・康介・誠一には、
”入れ替わりのことはまだしばらく広めないでほしい”と
お願いした上で、
改めて、3人には、今分かっていることを伝えたー

梨桜と室井教授が入れ替わっていることー
梨桜になった室井教授に、不良生徒の荒瀬大吾が接触していたことー


やがてー
夜も遅くなり、麻奈美たち3人は、
裕司の家から去っていくー

残されたのは裕司と室井教授(梨桜)ふたりー。

「---‥なんていうか、、その…」
裕司は、気まずそうな雰囲気の室井教授(梨桜)を見て
戸惑いながら呟いたー

「--いつも通り、してていいから、、さ」

裕司は、この時、初めてー
”あること”に気づいたー

”中身が梨桜であると分かっていてもーーー
 いつものように、接することができない自分”

「---……あ、、そうだ…お腹、空いてるだろ?」
裕司は、無理に笑顔を作りながら
室井教授(梨桜)の方を見るー

中身は梨桜ー
分かっているー

でもーー

「---うん」
室井教授(梨桜)が返事をするー

でもーーー
それでもーー

梨桜を、梨桜だと思えないー。

裕司は、台所の方に向かい、
家にある食材でなんとか梨桜の晩御飯を用意しようとするー

「--チャーハンで、大丈夫かな?
 急だったし、あまり梨桜をもてなせそうなものがないけど…」

裕司の言葉に、
室井教授(梨桜)は「大丈夫…ごめんね、本当に…」と呟くー。

「----」
チャーハンの準備をしながら、必死に自分に言い聞かせる裕司ー

あれは、梨桜だー
あれは、梨桜だー
あれは、梨桜だー

とー。

入れ替わったことは、分かったー

けれどー
急に”室井教授”になってしまった梨桜を、
すぐに受け入れることはできなかったー。

梨桜のことを、どんなに愛していてもー
理想と現実はーー

違ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

朝早く大学にやってきた裕司ー

梨桜(室井教授)に対して
”大事な話があるんだ”と、告げて、
大学の一角に呼び出したのだー。

自販機の前で、お茶のペットボトルを飲む裕司ー

約束の時間までは、まだ少し時間があるー。

梨桜(室井教授)と話をつけるー。
そのつもりだー。

だがー
幼馴染の麻奈美も言っていた通りー
リスクはある。

梨桜の身体で室井教授が何をし始めるか、分からないからだー。
それに、不良生徒の荒瀬大吾がグルであることも気になるー。

「---」
裕司は昨日のことを思い出すー

室井教授になってしまった梨桜を前に
裕司はどうしても困惑してしまうー

室井教授(梨桜)も、常に申し訳なさそうに
居心地悪そうにしていたー。

このままではー
いけない。

早く、梨桜のためにも
梨桜の身体をーー

「--考える人みたいな顔して、どうしたんですか?先輩」

「-!」
裕司が、急に声を掛けられたのでビクッとして、前を見ると
後輩女子の蘭堂 美穂がいたー

「--あ、、な、なんだ、蘭堂さんか、びっくりしたぁ」
裕司がペットボトルのお茶を手に持ちながら言うと、
美穂が「そんなにびっくりしなくても」と笑うー。

「---何か今、考える人~!みたいな顔でしたけど、
 何かあったんですか?」

美穂の言葉に、裕司は「いや…ちょっとね」と苦笑いするー。

「ーーそういえば蘭堂さん」
裕司は、”確認のため”に、
梨桜と同じ美術系のサークルに所属している美穂に
尋ねるー。

「-最近、梨桜とはどんな感じ?」
とー。

美穂は、梨桜のことを慕っているー
そもそも、裕司がこうして美穂に声を掛けられるようになったのも
梨桜を通じて知り合ったからだー

同じサークルに所属している以上、
美穂は、梨桜の近くにいるー。

梨桜の中身が室井教授であるということはー
美穂にも危険が迫っているのだー。

「最近…?特に何も。
 そういえば、室井教授の件はどうなったんですか?」

美穂も当然、室井教授が「わたしは梨桜なの!」と
騒いでいた件は知っているー

「-ーーーーーーあぁ、それは…」

「昨日、懲戒免職になったと聞きましたが」
美穂の言葉に、裕司は、
考え込むー

「--ど、、どうしたんですか?
 皆既日食中の月みたいな顔して…?」

美穂が不安そうに尋ねるー

「はは、どんな顔だよ、それ」
裕司は、ようやく少しだけ笑みを取り戻すと、
「--もし、、もしも、梨桜との間に何かあったら、すぐに俺に相談して」
と、だけ美穂に伝えて、
そのまま裕司は歩き出したー

とにかくー
梨桜の身体は悪用させないしー
誰にも、手出しはさせないー

「は…はぁ…?」
戸惑う美穂を後に、裕司は、時計を確認すると
梨桜(室井教授)を呼び出した部屋に向かったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---」
裕司が扉を開くー。

既に、梨桜(室井教授)はやってきていたー

黒っぽい服装に
動物の牙を模したペンダントー

梨桜(室井教授)は「おはよ、裕司」とほほ笑むー。

裕司も微笑みながら「あぁ、おはようー」と口にしーー

そしてーー
続けたー

「----いえ、おはようございます 室井教授」

とー。

「---!」
梨桜(室井教授)が表情を歪めるー。

「--へ???え???な、、なぁに言ってんの?」
梨桜(室井教授)が無理に笑みを浮かべるー

「--まさか裕司、あの教授の言うことにまた騙されてるの!?
 わたしはわたしだよ!?」

梨桜(室井教授)の言葉に、
裕司は、じっと梨桜(室井教授)を見つめるー。

「--ちょ、、冗談きついなぁ…」
梨桜(室井教授)が髪をかきむしるー

「--あのね、、裕司。いい加減にしてよ。
 わたしだって迷惑してるの。

 室井教授がおかしいのなんて、今に始まったことじゃないでしょ?
 何度も何度も疑われると、わたしだって怒るよ!」

少しきつい口調で言う梨桜(室井教授)-

”この前ー
 梨桜の個人情報を聞いたとき、こいつは完全に言い当てたー”

本当に、入れ替わってるのにー
”なぜ”知っているのかー

考えられることは、ふたつー

”梨桜の記憶を読み取れるか”

あるいはー

”誰かが、梨桜の個人情報を提供したか”

だー。

「---ねぇ、裕司、わたしは梨桜だよ」
梨桜(室井教授)が、裕司の手を握って微笑むー

「信じて♡」
甘い声を出す梨桜(室井教授)-

だがー
それは逆効果だったー

「-梨桜はそんな色仕掛けはしない」
裕司が”断言”するー

「---…っ」
梨桜(室井教授)が思わず舌打ちしてしまうー

「--わ、、わたしだって、裕司に信じてもらうために必死なの…!
 だから…!」

そう言う梨桜(室井教授)-

それを見て、裕司は梨桜(室井教授)を指さしたー

「--それ」
裕司の指の先ーー

「--!!」
梨桜(室井教授)は無意識のうちに自分の服をかじっていたー

イライラしているときの室井教授の癖だー

「---教授の癖のはずですよね」
裕司が言う。

淡々とー
けれども怒りを感じさせる口調ー

「---ち、、ば、、ばっかじゃないの!
 入れ替わりとか、ホント、ないから…

 あ~~も~~~!
 何なの!」

梨桜(室井教授)は、爪をガリガリとかじり出すー

「--それも」
裕司がさらに指摘するー

「--っ…う、、うっさい!!!!
 っ、、、なんなんだよ なんなんだよ もう」
梨桜(室井教授)が、怒りの形相で、突然狂ったように
飛び跳ね始めるー

激高した時の室井教授の癖だー

「--はぁ、、はぁ…わたしは、、わたしは、、梨桜だよぉ♡」
裏返った声で、無理やり梨桜を装うー

けれどー
もう裕司に芝居は通用しなかったー

「--室井教授。梨桜の身体を返してもらいます」
裕司が、怒りの形相で迫るー

裕司はボイスレコーダーも持ち込んでいたー
準備は、抜かりないー。

「---あぁぁぁああああああああああああ…」
梨桜(室井教授)が狂ったように髪の毛をぐしゃぐしゃにするー

「-うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!」
梨桜(室井教授)が、叫ぶー

「--…」
裕司は、”梨桜”のこんな姿を見たくなかったー

狂ったように発狂する梨桜(室井教授)-

中身が室井教授であってもーー
姿は梨桜なのだー。

「---私が雪本梨桜だ…!私が…雪本梨桜なのだ!」
梨桜(室井教授)が叫ぶー

「--私は自分自身が、芸術品になったんだよ…!
 この世はなぁ、私のような容姿に恵まれない人間には
 冷たく、厳しいんだよ…!

 君に分かるか!?
 容姿を理由に、己の研究者としての道をも閉ざされた私の怒りが!」

梨桜(室井教授)が怒りの形相で、
服をかじりながら裕司を見つめるー

「-…教授、あなたがどんな過去を歩んできたのかは知らないー。
 でもーーー
 それが梨桜の身体を奪う理由になんてなるものか!」

裕司が怒りの形相で叫ぶー

「--あんたがしてることは、、絶対に間違ってる!
 俺はあんたを絶対に許さない!」

裕司と梨桜(室井教授)が、
にらみ合うー。

「---ーふ、、ふふふふふふふ…ははははははははっ!」
梨桜(室井教授)が突然笑いだすー。

「ー何がおかしい!」
裕司が叫ぶー。

「---許さない…か
 でも、いったいどうするつもりかね?」
梨桜(室井教授)が、イスに座り、足を組むー。


「--君のことだー。
 どうせ、この会話も録音しているだろう?

 だがー
 そんなことをしてどうする?」

梨桜(室井教授)はあざ笑うー。
室井教授は感情の起伏が激しくー
取り乱したと思ったら冷静に戻ることが、よくあるー。

「---この会話を…警察にも、大学にも、あらゆる場所にーー」


「あ~~~~!そんなことされたら、ショックでわたし、自殺しちゃうかも~~~!」
梨桜(室井教授)が笑うー

「なっ…」
裕司が表情を曇らせるー

「--いい?裕司、今の梨桜の身体はぁ~♡
 室井教授の思いのままー
 全裸で街を歩くことだってできるし
 自殺することだってできるんだよぉ~♡」

梨桜(室井教授)はそこまで言うと、
イスから立ち上がってー
裕司に近づくー

「-どうかね?入れ替わりのことをー
 目をつぶるのならー
 私は君の彼女としてー
 いいや、君の彼女以上に、君を楽しませてあげることを約束しようー

 この身体もーー
 好きにしてもらってもいいー」

梨桜(室井教授)が、わざと胸を裕司の身体に密着させるー

「--ふざけるな!」
裕司はすぐに反論したー

だがー
裕司のズボンは、少しだけ膨らんでいたー

「ふふふ、身体は正直♡」
梨桜(室井教授)が甘い声を出すー

「ちがうっ…ふざけるな!ふざけるな!」
裕司は叫ぶー

裕司は誘惑に屈してなどいないー
だがー
身体が、無意識に反応してしまうー

あまりの悔しさに唇をかみしめる裕司ー

「-君の彼女を思う”想い”は見事だー
 でもーー
 ”現実”は違うー

 醜悪な容姿のおっさんになった彼女を
 君は本当に、今までのように愛することが出来るのかね?」

梨桜(室井教授)が笑みを浮かべるー

「--で、、できるに決まって…!」
裕司はそこまで叫んでー
言葉を止めてしまうー

正直ーーー
”違和感”を抱いたのは事実ー

梨桜のことが嫌いになったわけじゃないー
頭では分かっていてもー

どうしても今、目の前にいる梨桜(室井教授)に身体が反応してしまうしー
室井教授(梨桜)とはーー
今までのように、抱きしめたり、キスをしたりー
そんな場面は想像できないー

「--想いと、現実は違うー
 
 ふふふ…裕司…
 新しいわたしを…受け入れて?」

梨桜(室井教授)の誘惑ーー

だが、裕司は、梨桜(室井教授)をはねのけたー。

「-ー梨桜の身体を返せ!
 梨桜を元に戻せ!

 俺は、あんたを絶対にーーー」

「--…」
梨桜(室井教授)は笑みを浮かべたー

「--今、ここで、私が服を脱ぎ捨てて
 悲鳴をあげたら、どうなるか、わかるかね?」

「---…!!!」

裕司は「お前…」と声を上げるー。

「--くくくくっ…私がこの身体である以上、
 君は私には勝てないのだよ…

 ふふふ…この身体は最高だぞ?
 想像以上に、イイ声が出るんだー。

 彼女の喘ぐ声、聞いたことはあるかね?
 何ならここでー」

「---貴様ぁぁぁ」
裕司は拳を握りしめてぶるぶると、震わせるー

「殴るのかね?
 いいとも。
 だが、傷つくのはーー

 ふひっ…ひひひひひひひ」

梨桜(室井教授)が興奮した様子で服をかじり始めるー

「ひひひひひひっ…私は…芸術品そのものになったんだー
 ひひひひ、もう、誰も、私を止めることはできないー

 ひひひ…ひひひひひっ」

梨桜(室井教授)が嬉しそうに、子供のように
部屋の中で飛び跳ね始めるー

梨桜のそんな姿ー
見せないでくれー

裕司はそんな風に思いながらー
梨桜(室井教授)を見つめるー

「--話は以上だー。
 私を受け入れるのであれば
 君の前では、彼女として振舞ってあげようではないか…ふふふ

 だがー
 邪魔をするならー
 この身体を悪用してー
 君を、破滅させるー」

梨桜(室井教授)が裕司の方を指さすー

「--それと、このことを広めたらーーー
 わたし~~、ショックで自殺しちゃうかもぉ~♡」

梨桜(室井教授)が、ふざけた口調で言うー。

「--く…」
裕司が梨桜(室井教授)を睨むー

「--これ以上話すことはないー
 さぁ、出て行きたまえ」

梨桜(室井教授)が偉そうに手を後ろで組んで笑うー。

「---…お前の好きにさ-

「出て行きたまえ!!!!!!」
梨桜(室井教授)が、部屋にあったハサミを自分の首筋に向けながら叫ぶー。

「--くそっ!…!俺は必ず、梨桜を取り戻す!」
裕司は”今はこれ以上は危険だ”と判断して、
怒りの形相で、部屋を飛び出したー


「梨桜…くそっ!梨桜!」


「----」
早足で歩き去っていく裕司をーー
廊下の影から何者かが見つめていたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

昼休みー

裕司は、食堂でヤケ食いをしていたー。

幼馴染の麻奈美、親友の康介、友人の誠一が、
そんな裕司を見て、
”上手くいかなかったこと”を察するー。

「---…だいじょうぶ?」
心配そうに麻奈美が声を掛けるー

だが、裕司はそれでも反応しないー

周囲が目に入らないほど、裕司は落ち着きを
失っていたー

「----おい…裕司!」
康介が言うー。

「--裕司くん!!ねぇってば!」
麻奈美が裕司の肩に手を触れると、
裕司はようやく「あ、、ごめん…」と、
やけ食いする手を止めて、
みんなの方を見つめたー。

「---…まずは落ち着け。何があったんだよ?」
康介の言葉に、
裕司は梨桜(室井教授)とのやり取りを、
思い出せる範囲内で全て、伝えたー。

麻奈美が表情を曇らせるー

康介が悔しそうな表情を浮かべるー。

「---俺はいったい、どうすれば…」
暗い表情の裕司ー。

だがー、
眼鏡の位置を調整しながら、誠一が口を開いた。

「--室井教授がダメならー
 荒瀬から攻めればいい」

とー。

「あ?どういう意味だよ?クソメガネ」
康介が首を傾げる。

「--ふぅ、相手が嫌がってたら、その呼び方はいじめだぞ?」

「でもお前は嫌がってないじゃないか」

「--まぁな」

康介と誠一がいつものようなやり取りを繰り広げてからー
誠一が、裕司の方を見たー

裕司と麻奈美も、誠一の方を見つめる。

「--檜山、お前の言う通りなら
 室井教授を直接追い詰めるのは難しい。

 ヘタをすれば、こっちが変態扱いされてしまうし、
 彼女の身体でとんでもないことをされる可能性があるー」

誠一が冷静にそう呟くと、
鋭い目つきで続けたー

「だったらー
 荒瀬だ。

 あいつがグルなら
 あいつから”入れ替わりについて”聞き出せばいいー」

荒瀬 大吾ー。
いつもスナック菓子を食べている不良でー
先日、裕司は、梨桜(室井教授)と荒瀬大吾が接触していたのを
目撃したー。

二人の会話から、
大吾が、入れ替わりに関与していることは、間違いないー。

「--室井教授に、大吾のことは言ったのか?」
誠一の言葉に、
裕司は首を振るー

梨桜(室井教授)との会話で、
大吾の名前は一切出していないー

「だったらー
 室井教授は、お前が、室井・大吾の繋がりを知っている、とは
 まだ知らないわけだー」

誠一の言葉に、裕司は「確かにそうだな」と呟くー

室井教授も、大吾もーー
まだ裕司が、”室井教授と大吾が話していた場面を見ていた”とは
知らないのだー。

そこに、隙があるー。

気づかれる前に、荒瀬大吾を追い詰めー
なんとか、梨桜と室井教授を元に戻す方法を聞き出すことができればー


「--だったらわたしも手伝う!」
幼馴染の麻奈美が言うー。

「いやー」
誠一は眼鏡をいじりながら言う。

「少々手荒になるかもしれないから、
 笠倉さんは、来ないほうがいい」

誠一の鋭い目つきに、麻奈美はゴクリと唾を飲み込むー

「--笠倉さんは、心配しないで」
裕司も、麻奈美を危険に晒したくないという思いから、
麻奈美にそう言葉を掛けたー。


放課後ー
誠一が、大吾を呼び出した。

裕司が呼び出せば
”入れ替わり”のことを知っている大吾は、当然
警戒するだろうし、梨桜(室井教授)に相談する可能性もあるー

だから、誠一が、大吾を呼び出したのだー。

「--悪いな」
親友の康介が言うー。

「いや、仕方ないさ。」
裕司が笑うー。

当初、親友の康介も手伝うつもりだったのだが、
病気で入院中の母親の件で、
どうしても病院に向かわないと行けなくなり、
康介は、足早に大学を後にしたー。

「--」
裕司と誠一がうなずくー。

大吾を呼び出したのはー
室井教授が使っていた研究室ー。

梨桜の身体を奪ってから、室井教授は別の部屋を使っているためー
今は、誰も使っていない研究室だー。

裕司と誠一が研究室に入るとー
既に、荒瀬大吾が待ち構えていたー

スナック菓子の袋を手に、
バリバリとスナック菓子をかみ砕く大吾ー

「……なんでテメェもここに?」
大吾が誠一だけではなく、裕司が入って来たことで、
警戒の色を顔に浮かべるー。

「---何か不都合でも?」
裕司が言うと、
大吾が「いいや」と笑みを浮かべて、
スナック菓子の袋を誠一と裕司の方に向けたー

「どうだ?お前らも食うか?」

次の瞬間ー
誠一が想定外の行動に出たー

裕司も、大吾も、驚きを隠せないー

特に、大吾はーー

そうー
誠一が、突然大吾の顔面をグーで殴りつけたのだー

「-ーーがっ!?」
不意打ちに大吾が吹き飛んで、研究室のイスを押し倒すー。

スナック菓子の袋が宙を舞いー
スナック菓子が散乱するー。

窓の外は、既に日が沈んで暗くなっているー

「--テ…テメェ!」
不良として恐れられる大吾が、鬼のような形相で叫ぶー。

「--お、、おい!?井守!?」
裕司も驚きを隠せないー

眼鏡をかけた誠一の眼差しはーー
刃物のように鋭かったー

「---いきなり何しやがーー」

そう叫ぼうとした大吾をさらに殴りつける誠一。

不良の大吾と言えど、
あまりに突然の暴力になすすべなく、
痛めつけられていくー。

「--な、、、な、、」
大吾が壁に叩きつけられて
誠一に胸倉を掴まれるー。

「--雪本梨桜さんと、室井教授の入れ替わりー」
誠一の言葉に、
大吾が表情を歪めるー。

「--な、、なんでそれを…!?」
一瞬にして青ざめる大吾ー。

「--お前が、梨桜になった室井教授と話しているのを、見た」
裕司が言うと、
大吾は真っ青になってから、少しだけ笑みを浮かべたー

「---く、、、くくく…だったらどうする?
 それを知ったところでー」

大吾が言葉を止めるー
誠一が、大吾の胸倉を掴む手に、力を込めたー

「--全部言え。
 何故、雪本さんと室井教授が入れ替わった?
 他に誰か絡んでいるのか?
 二人を元に戻す方法は?」

誠一の狂気的な尋問に大吾は、表情を歪めるー

「---知るかよボケ!」
大吾が唾を誠一に吐き捨てたー

誠一が鬼のような目で大吾を睨み返すと、
大吾を思いきり殴りつけ、
殴る、蹴るの暴行を加えるー

「おい!!井守!!落ち着け!」
裕司が叫ぶー

梨桜のためとは言えー
さすがに、やりすぎだし、
これでは問題になってしまうー

裕司は誠一を止めに入ろうとするー

だがー
誠一は、大吾の首を絞めて、大吾を脅したー

「言え…
 全部、言え」

裕司はその光景を見ながら唖然とするー。

誠一は普段、暴力など振るわないー
その誠一が、何故こんなー?

梨桜が誠一の彼女ならわかるー
だが、誠一からすれば、”友人の彼女”でしかないー。

何故、こんなにー

「わ、、わかった、、わかった、言うよ!」
大吾が悲鳴を上げるー。

誠一に睨まれながら大吾は、震えるー

床に散乱したスナック菓子を見つめながら
大吾はー

「--俺は、、知らねぇんだ」
と、怯えながら呟くー

「知らない?」
誠一が睨むー

大吾はビクッとしながらー

「--俺は”連絡役”-
 室井教授への伝言役だよー
 見返りに”入れ替わり薬”を貰う約束をしてるー。」

大吾の言葉に、裕司は「入れ替わり薬?」と首を傾げるー
誠一は大吾を睨んだままだー。

「--ば、、”売人”から買ったって言ってた…
 詳しくは知らねぇ…!

 俺が”連絡役”で、
 あいつが”監視役”だー。

 それぞれ見返りは、入れ替わり薬1本ずつー」

大吾の言葉に、
誠一と裕司は唖然としながらー
裕司が大吾に問いかけるー

「1本ずつ…?
 入れ替わり薬ってのは、何本あるんだ!?」

「--た、、たしか、5本ー」
大吾が震えながら呟くー

1本は、室井教授が梨桜と入れ替わる際に使ったー
残り”4本”の入れ替わり薬が存在するー

「--黒幕は誰だ?」
誠一が、鋭い目で大吾に迫るー。

「---そ、、それは…」
大吾が震えるー

”絶対に言えない”という様子で口を閉ざす大吾ー

「-ーお前が室井教授への連絡役なら、
 ”室井教授に連絡している”やつがいるはずだ。
 誰だ?」

誠一の言葉に、
大吾は「それは、、言えねぇ…」と震えるー。

「---」
誠一が大吾に迫ろうとするー。

その時ーーー

大吾が、いつの間にか拾っていたスナック菓子の袋を誠一に投げ付けて
ボロボロになった顔面のまま、研究室の出口に向かって走り出したー

裕司も、大吾を止めようとするも、大吾は裕司を手で払いのけて
そのまま走り去っていくー

「おい!待て!」
誠一と裕司が慌てて大吾を追いかけるー

”室井教授”に報告されたらー
梨桜の身が危ないー

そう思ったからだー

全てを知るまで、大吾を逃がすわけにはいかないー

・・・・・・・・・・・・・・

「---はぁっ、、はぁっ、、はぁっ」

大吾は、夜の大学構内を必死に走っていたー
裕司と、誠一から逃げるためにー

「----!」

大吾の正面に、別の人物が現れるー

「----ー役立たず」
その人物は、虫かごと入れ替わり薬を手に持ちー
不気味な笑みを浮かべていたー

・・・・・・・・・・・・・・

必死に大吾を追いかける二人ー

「くそっ!室井教授にこのことが伝わったら…」
裕司は焦るー

梨桜(室井教授)が、裕司たちが大吾を
痛めつけたことを知ったらー
梨桜の身体で何をしでかすか分からないー

「---」
誠一が舌打ちしながら、裕司と共に大吾が逃げていった
方向に向かうー

しかしー
廊下の曲がり角を曲がった二人は
驚いて足を止めたー

大吾がーー
うつぶせの状態で、虚ろな目になって
ゾンビのように、床を這いずっているー

「--なんだこれは?」

大吾の横にはー
潰れたカメムシのような虫と
捨てられた虫かごー

「---」
裕司は、ハッとして慌てて廊下のさらに先に向かって走るー


裕司たちは更なる”闇”に足を踏み入れようとしていたー


④へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

③、お読み下さりありがとうございました!!

今回のお話は、毎日500文字前後ずつコツコツ書く
(コンディションの良い日はもうちょっと書きます)
スタイルで書いています~!

お祭り本番まで時間もありますし、
のんびり、ゆっくり、色々考えながら…というスタイルですネ…!

各話のコメントはそのお話を書き終えた時に書いているので、
これを皆様が読んでいるころには、
実は私がこのコメントを書いてから半年以上経過しているのですが、
ようやく皆様の元にお届けすることができてうれしいデス…!

私も、お祭りを楽しみつつ、
皆様の反応も楽しみにしています~!

今日もありがとうございました!!!

④以降も、ぜひ楽しんでくださいネ~















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