想いと現実の狭間で②
 作:無名


研究室の扉が開くー

「-----」
裕司が、険しい表情で、
室井教授(梨桜)の方を見つめるー

「---また…”わたしは梨桜なの”ですか?」
裕司が呆れた様子で言葉を口にすると、
室井教授(梨桜)は、目に涙を浮かべながら
言葉を口にしたー

「今度は、ホントに、、わたしなの…信じて…」
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆登場人物☆

檜山 裕司(ひやま ゆうじ)
大学生。彼女想いの好青年。優しい性格。

雪本 梨桜(ゆきもと りお)
大学生。裕司の彼女。室井教授と入れ替わってしまう。

瀬島 康介(せじま こうすけ)
大学生。裕司の親友で、いざという時、頼りになる存在。

笠倉 麻奈美(かさくら まなみ)
大学生。裕司の幼馴染で良き理解者。

荒瀬 大吾(あらせ だいご)
大学生。不良生徒。いつもスナック菓子を持ち歩いている。

蘭堂 美穂(らんどう みほ)
大学生。裕司らの後輩。

井守 誠一(いもり せいいち)
大学生。眼鏡をかけたインテリ風男子。

室井教授(むろいきょうじゅ)
大学教授。梨桜の身体を奪ってしまう。

大久保学長(おおくぼがくちょう)
大学の学長

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「信じて…?」

重苦しい空気が室井教授の研究室に流れるー。

「---……」
室井教授(梨桜)が目に涙を浮かべながら
裕司の方を見つめているー。

「お願い…」
と、口にしながらー。


「---ふざけるな」
裕司は室井教授(梨桜)を睨んだー。

室井教授は、入れ替わる前に
”わざと”
「わたしは梨桜なの!」と叫ぶ奇行を
繰り返していたー。

それは、この時のためー

事前に”奇妙な行動をしている”ことを
裕司をはじめ、大学内に広めておいたことでー
”本当に入れ替わってしまった”今もー
誰も室井教授になってしまった梨桜の言葉に
耳を貸そうとはしなかったー。


「--ー梨桜のことは教授より俺のほうが知ってる。
 梨桜は、入れ替わってなんかいないー」

最初にー
室井教授が「わたしが梨桜なの!」と騒ぎ出したとき、
裕司は、梨桜にちゃんと確認しているし、
間違いなく、梨桜は梨桜だったー。


「--最初はそうだったの」
室井教授(梨桜)が言うー

一晩かけて、”どうやって裕司に信じてもらうか”
考えに考え抜いた言葉を
室井教授(梨桜)は吐き出すー。

「--最初は?」
裕司が表情を歪める。

「--うん。
 でも、、今度は本当…
 昨日、わたし、本当に入れ替えられて…」

室井教授(梨桜)が言うと、
裕司は笑いだした。

「はははははっ!
 そんな都合良く、今度は本当なの!なんて
 言われて信じるわけないだろ!」

裕司が言うー。

室井教授(梨桜)を軽蔑の眼差しで見つめるー

「--そう…だよね。
 わたしもそう思うー」
室井教授(梨桜)が悲しそうにそう呟くー

自分が反対の立場だったら、
絶対に裕司と同じ反応をしたー。

だからーー

「--誕生日は5月15日ー。
 血液型はA型ー
 わたしのお母さんの名前はーー」

「---!」
裕司は表情を歪めたー

梨桜の個人情報を次々と
室井教授(梨桜)が口にするー。

「----お前…」
裕司が室井教授(梨桜)の方を見て唖然としているー。

「---……信じてくれる…?」
室井教授(梨桜)は、
梨桜が、裕司から今年の誕生日に貰ったプレゼントのことも
口にしたー。

「ーーーーー…」
裕司の表情が歪むー。

そして、裕司は叫んだー

「--この変態野郎!」
裕司が室井教授(梨桜)の胸倉をつかむー

「--!?」
室井教授(梨桜)は、思わず驚いてしまうー。

裕司は、胸倉をつかむような人間ではないし、
何より、”少しは”信じてくれると思っていたー

だがーー

「-お前!梨桜のこと、そんな細かく調べて
 どういうつもりなんだ!?」

裕司は、梨桜を守りたい一心で叫んだー

個人情報を口にしたのが、”裏目”に出てしまったー。
裕司は、室井教授が梨桜のことを調べたー…
つまり、”常軌を逸したストーカー”だと判断してしまったー

「ふざけやがって!これ以上梨桜に近づいたら…!」
裕司が怒鳴り声をあげるーー

梨桜を守りたい一心でー

しかしー

「---…!」
裕司は、室井教授(梨桜)の目から
涙がこぼれていることに気づくー

「---…」
裕司が、室井教授(梨桜)から手を離すー。

「---……」
裕司は戸惑うー。

これまでのーー
室井教授とは雰囲気が違うー。

分かっているー

”これも”演技だとー。
室井教授の悪質ないたずらであるとー

だがー
裕司は、何故かこれ以上、室井教授(梨桜)を責める気にはなれなかったー。

「----…聞いてみて」
室井教授(梨桜)が呟くー。

「--え?」
裕司が首をかしげるー。

「--”わたし”に聞いてみてー。
 誕生日とか、血液型とかーー

 今の”わたし”には答えられないはずだからー」

室井教授(梨桜)の言葉に、裕司は表情を歪めるー。

「---お願い…」
室井教授(梨桜)が、涙を流しながら言うー。

「----…あんたを信じろってのか?」
裕司は、室井教授(梨桜)の方を見つめながらもー


”もしもー”

”もしも、本当だったら?”ということを少しだけ考えるー。

「---わかったよ」
裕司はそれだけ言うと、室井教授の研究室の出口の方に向かうー

立ち止まる裕司ー。

そして、振り返るー

「もしもーー
 もしも、梨桜がちゃんと答えることができたらー
 俺は何を言われようと、絶対にあんたを信じない」

裕司の言葉に
室井教授(梨桜)は、返事をすることができなかったー

”入れ替わっていることを信じてもらえない恐怖”

それが、室井教授(梨桜)の喉を震わせたー。

裕司は呆れた様子で、そのまま研究室の外に出ていくー



”入れ替わり”なんて、ありえないー。
けれどーーー

何故だろうー
梨桜に、聞かないといけない気がするー

ちゃんと”個人情報”を答えられるかどうかーー。


「-----------」
立ち去っていく裕司を物影から見つめていた人物が
静かに笑みを浮かべたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼休みー

食堂で梨桜(室井教授)を見つけると、
裕司は手を振ったー

梨桜(室井教授)のいる机には
裕司の幼馴染の麻奈美と、
親友の康介の姿もあるー

「お!裕司!梨桜ちゃんが待ちわびてたぞ~!」
康介が笑いながら言うと、
裕司は「ははは、ちょっと前の授業が延びてさ」と
笑ったー

「---」
裕司は梨桜(室井教授)の方を見るー。

動物の牙のようなペンダントをぶら下げた
梨桜(室井教授)-

「---」
裕司は、梨桜(室井教授)を見つめながら口を開いたー


「そういえばさ、梨桜、聞きたいことがあるんだけどさ」
裕司が言うと、
梨桜(室井教授)は「ん?なぁに?」と、口を開くー。

「---梨桜のーー」

誕生日を聞こうとも思ったが
”誕生日いつだっけ?”はさすがにまずい気がするー

誕生日を忘れてる、と受け取られるかもしれないしー
”まさか疑ってるの?”と思われてしまうかもしれないー


「血液型ってなんだったっけ?」
裕司が言うと、
梨桜(室井教授)は笑ったー

「え~?A型だよ~?前に言わなかったっけ?」

ーー合ってる。

裕司がそう思っていると、幼馴染の麻奈美が口を開いたー

「--唐突に血液型聞くとか、
 どうしたの?
 血液型占いでもするの?」

笑う麻奈美ー

「いや、、そうじゃないけどさ」
裕司が苦笑いしながらー
さらに質問を続けるー

好きな食べ物ー
嫌いな食べ物ー
電話番号ー
家族構成ー

そして、勢いに乗じて誕生日も聞いたー

だがー
全て、梨桜(室井教授)は即座に回答したー。

何一つ、間違わずにー

「---おいおいおいおい、どうしたんだよ急に」
親友の康介もさすがに戸惑って口を挟んだー。

「--熱でもあるんじゃない?」
幼馴染の麻奈美が、裕司の額に手を触れながら
真剣な表情で言うー。

「-ーーーー」
梨桜(室井教授)が裕司の方を見つめるー
少し、不快そうな表情を浮かべながらー

「---ねぇ」
梨桜(室井教授)が呟くー。

「--また、室井教授に”わたしは梨桜なの!”とか
 言われて、わたしを疑ってるんじゃないの?」

不機嫌そうな梨桜(室井教授)-

実際は、本当に入れ替わっているのだが、
裕司、麻奈美、康介の3人にとっては
そんなことが起きているなどと、想像もできないだろうー。

「--え、、あ、、いや…」
裕司が気まずそうにしている-

梨桜になった室井教授は一瞬カッなって、
「わたしが梨桜だから!」と、机を叩きそうになったが
それをグッと堪えたー

「---わたし、、さ」
怒りで少し声が震えているがー
裕司たちは、その”わずかな変化”には気づいていないようだったー

「--わたしは、どうみても、梨桜でしょ?
 室井教授の言葉に、騙されないで」

梨桜(室井教授)が、牙のペンダントをいじりながら裕司の方を見てほほ笑むー。


梨桜(室井教授)は苛立ちから、貧乏ゆすりをしていたが、
他の3人は、机の下に足が隠れていることもあり、
そのことには気づかなかったー

「--そ、そうだよな…ごめん。ホントごめん」
裕司が心から謝罪してしまうー。

「-ーーーーーいいけど」
梨桜(室井教授)がそれだけ言うと、
康介が「まぁまぁ」と口を挟むー

「それだけ裕司も、梨桜ちゃんのことが心配ってことさ。
 反対の立場になって考えてみろよ。
 
 「俺が裕司なんだ!」ってあの教授が叫んでたら
 やっぱ、気になるだろ?」

康介の言葉に
梨桜(室井教授)は「うん…」とだけ答えたー。

「-そうよそうよ!悪いのは全部あの変態教授だから!」
幼馴染の麻奈美の言葉に、梨桜(室井教授)はちょっとだけムッとした
表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべたー

「--ごめんな、梨桜ー」
裕司はそれだけ言うと、
梨桜を疑ってしまったことを、恥じたー

それと同時に、室井教授に激しい怒りを抱いたー。


梨桜は誕生日も何もかも、完璧に答えてみせたー。
それだけではない。
初デートの行き先や、プレゼントも、だー。

室井教授がどんなにストーカーだったとしても、
そこまで調べることはできないはずだー。

だからー
やはり”わたしが梨桜なの”と叫ぶ、室井教授が
嘘をついているのだろうー。

裕司は怒りを覚えながら、
”もう絶対にあいつの言うことなんか信じるものか”と、
決意してしまうのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「------」

夕方ー
怒りの形相で裕司は、室井教授の研究室に向かうー。

研究室がある方向から、
後輩の美穂が歩いてきて、裕司に気づくー

「あ、先輩!
 富士山が噴火する直前みたいな顔して、どうしたんですか?」
笑う美穂ー。

裕司はそんな美穂に対して言い放ったー

「室井教授に、文句を言いに行くんだ」

とー。

「ーーあぁ…また…
 先輩も大変ですね…」
美穂はそれだけ言うと、頭を下げて立ち去っていくー。

裕司は、意を決して、室井教授の研究室の方を目指したー。



室井教授の研究室にやってきた裕司ー

研究室の中では、室井教授(梨桜)が、落ち込んだ様子で座っていたー

「---裕司」
室井教授(梨桜)が不安そうに呟くと、
裕司は言い放ったー

「またあんたに騙されたよ」
とー。

「--え…?ど、、どういう…?」
室井教授(梨桜)は戸惑う-

「何が”わたしは梨桜なの!”だ!
 梨桜は全部、誕生日も何もかも答えたぞ!

 このストーカー野郎が!」

裕司は怒りの形相で、研究室の入口付近から、
室井教授(梨桜)に向かって怒鳴り声をあげたー。

「---全部…答えた…?そんな…!」

信じられないという表情の室井教授(梨桜)-

「--もうあんたの言うことなんて絶対に信じないし、
 大久保学長に相談するので」

裕司は、それだけ言い放つと、
研究室から立ち去ろうとするー

”梨桜を守りたい”
その思いが”裏目”に出ているー

「--裕司!」
室井教授(梨桜)が叫ぶー。

「--ーーもう、そういうのいいので」
裕司は、完全に”呆れた”と言わんばかりに呟くと
そのまま、研究室から立ち去って行ったー


「なんで…なんで…どうしてーー???」

何で、室井教授が、梨桜の個人情報を知っているのか?

「---嘘……わたし…どうすれば…」
室井教授(梨桜)は、激しく動揺しながらも、
”なんとか信じて貰わないと”
と、頭を抱えるー

そしてー

「----------!!!!」

”まだ”
方法はあるかもしれないー

室井教授(梨桜)の目に再び希望の色が浮かび上がっていたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---そうですか」
大久保学長が呟くー。

細々とした老人で、
誰に対しても敬語で話す人物だが、
その眼光は鋭く、
タダ者ではないー
ということを感じさせる人物だ。

「---梨桜も不安を感じていると思うので…
 これ以上、続くと…」

裕司が、室井教授の件を相談するとー

「--分かりました。早急に処分を検討しましょう」
と、大久保学長は、机から立ち上がり、
窓の外を見つめながら呟いたー



「--失礼しました」
大久保学長の部屋から外に出ると、
そこには、ポップコーンの袋を持った学生ー
荒瀬 大吾がいたー。

「---へへへ…彼女のために必死こいてる姿、滑稽だなぁ」
大吾が、バリバリとポップコーンの音を立てながら呟くー。

「--別にどうだっていいだろ」
裕司が、それだけ言って、大吾と視線を合わせずに立ち去ろうとするー。

大吾は素行不良で有名だー
関われば、面倒ごとに巻き込まれる可能性もあるー。

「---なァー」
大吾が背後から裕司を呼び止める。

立ち止まる裕司ー

「--もしもさ、彼女が本当に入れ替わってたら
 テメェだったら、どうするよ?」

ニヤニヤしながら尋ねる大吾ー。

”わたしが梨桜なの!”の室井教授の件は
大学中に知れ渡っているー。

大吾が、こうして揶揄ってくるのも、そういうことなのだろうー。

「--そんなこと聞いてどうするんだよ?」
裕司が聞き返すと、
大吾は少しだけ、ハッとした表情を浮かべて
「いいや、ただ興味を持っただけさ」と、
それ以上は聞いてこなかったー。


「食うか?」
ポップコーンの袋を差し出す大吾。

「-いらないよ」
裕司はそれだけ言うと、大吾に背を向けて廊下を歩きだしたー。


立ち去る裕司を見つめながら、
大吾は、ポップコーンを右手でわしづかみにすると、
それをばりっと口でかみ砕いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学での1日が終わるー。

親友の康介や、友人のインテリ学生・誠一と雑談しながら
梨桜との待ち合わせ場所に向かうー。

「ーーはははっ、室井教授はホントサイコパスだなぁ~
 ま、じきに解雇だろ」

康介が言うと、
誠一は眼鏡の位置を調節しながら、

「僕にはそうは思えないけどな」
と、呟くー

室井教授は変わりモノだがー
優れた頭脳を持っているのは事実であり、
あれだけ計算高い人間が、
意味もなく「わたしは梨桜なの!」と叫ぶとは思えないー

それが、誠一の意見だったー

「---いやいや、天才ゆえに頭おかしくなったのかも」
康介が言うと、
誠一は「君は単細胞でいいな」と、眼鏡をかけなおしながら言うー。

「なんだと~!このクソメガネ!」
笑いながら誠一に襲い掛かる康介ー。

「--あ、じゃあ、俺はここで」
裕司が二人に、梨桜が待っている方向を指さすと、

「おぅ、俺はそろそろ母さんの見舞いに行くからよ」
と、康介が手を振ったー。


「--おまたせ!」
梨桜(室井教授)と合流する裕司ー。

裕司は、梨桜(室井教授)を少し不安そうに見つめるー。

ーー胸元に輝く動物の牙のペンダントが少しだけ気になるー。

”昨日”から、梨桜の雰囲気が”ほんの少しだけ”
変わったような気がするー。

それは、事実だー。

”どこが?”と言われると
言葉には出来ないー。

けれどー

大好きな彼女のことだからー

”ほんのわずかな異変”だったとしてもー
やはり、それはー…

「----さっきはごめんな 色々聞いて」
裕司は不安を振り払うかのように、そう呟いたー。

お昼の時間に、
梨桜(室井教授)に色々聞いてしまったことを詫びるー

「--ううん…別にいいよ」
梨桜(室井教授)が微笑むー

”--私自身が”芸術品”になれてうれしいよー”

梨桜(室井教授)は、牙のペンダントを手でいじりながら微笑むー。


”我が研究室のためだー”
梨桜(室井教授)は、”あの時”言われた言葉を思い出すー。

「---今度は、負けないー」
梨桜(室井教授)がボソッと呟くー。


「え?」
裕司が首をかしげると、
梨桜(室井教授)は「ううん、なんでもないー」と答えたー。


しかしー
その時だったー

♪~~

梨桜(室井教授)のスマホが鳴るー。

「---」
裕司は、その様子を不安そうに見つめるー。

「--ーー!」
梨桜(室井教授)は、表情を歪めたー



「-------」
室井教授(梨桜)が、大学4階の窓からーー
裕司と梨桜(室井教授)の様子を見つめていたー

”二人が合流”するのを待っていたのだー

「--(お願いーー気づいて)」
室井教授(梨桜)は、その願いを込めて、
梨桜(室井教授)にメッセージを送るー



正門付近を裕司と一緒に歩いていた梨桜(室井教授)は表情を歪めたままー

「---?」
裕司が、梨桜(室井教授)の方を見つめるー。


”あなたの好きにはさせないー”

”あなたみたいな醜悪な人間はーー
 わたしの身体を手に入れても、何も変わらないー”

”すぐにみんなから嫌われてー
 すぐに孤立するだけ!”

”外見が変わっても、あなたは何も変われない!”

”迷惑な行動を繰り返して、
 周囲を遠ざけてーーー
 結局、同じことの繰り返しーー”

”あなたは容姿だけじゃなくて、中身も腐ってる!!!!”


室井教授になってしまった梨桜はー
梨桜になった室井教授にー

”あえて”
きつい言葉を投げかけたー


「---ぐ…ぐ… ぐぐぐ…ぐ」
梨桜(室井教授)が怒りのあまり、
”服をかじり”はじめたー。

袖口を口元に持って行って
梨桜の口で、梨桜の服をかじる
室井教授ー

”室井教授の癖ー”

室井教授には、
激高すると、服をかじったり、爪をかじる癖があるー


「--------!」
それを見ていた裕司が目を見開いたー


「--うっぅぅぅぅ…」
スマホの画面を見つめながら、やがて爪をガリガリとかじり出す梨桜(室井教授)-

スマホに何の連絡が来たのかは裕司には分からないー
けれどー


この仕草はーーー

「----」
裕司は唖然とするー


まさかーー
”本当に”---


「--……り、、、梨桜…」
裕司はやっとの思いで口を開くと、
梨桜(室井教授)は、ハッとした様子で
「--ごめん。いこっ」と
裕司の方を見てほほ笑んだー


大学の正門から去っていくふたりー

室井教授(梨桜)は、4階の窓から
その様子を見つめながらー

”裕司…気づいて…”と、
心の中で、何度も何度も呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した裕司は戸惑っていたー

「まさか…そんな…」
裕司は、机の上に飾ってある梨桜との写真を見つめるー。

さっきの光景ー。

梨桜が、梨桜とは思えない表情で、
スマホを見つめながら
服や爪をかじっていたー

”あの癖”は
室井教授の癖だー。

まさか、本当にー?

いや、でもー。

裕司は思うー。
”わたしが梨桜なの!”と室井教授が言い始めた直後は
確かに入れ替わっていなかったー。

それは、梨桜の反応から確認できるー。

「----いつの間に…」
裕司は戸惑い、頭を抱えるー。

雨が降り始めたー
窓の外の水滴を見つめながら、裕司は思うー。

”確かめないといけないー”

もしもー
もしも、梨桜が入れ替わっているのであればー
このままではいけないー。

室井教授(梨桜)に泣きながら”わたしは梨桜なの”と
言われた光景を思い出すー。


”--なぁ…梨桜の様子で変わったことはなかったか?”
裕司が、幼馴染の麻奈美と、親友の康介にそれぞれLINEで
連絡を送るー。


”--変わったこと?
 う~ん…”

麻奈美の方から先に返事が来るー。

”--ってかさ、裕司くん、
 室井教授の言葉にまた惑わされてない?

 梨桜ちゃんも、あんまり疑うとかわいそうだよ?”

麻奈美が叱るような文面の返事を送って来るー。

”幼馴染”であることから、
裕司と麻奈美は何でも本心を言い合える間柄で、
恋愛関係ではないものの、
お互いにとって、大事な相談相手であるのは事実だー。

”それは分かっているんだけどさ…
 梨桜が今日、服をかじってたんだ”

裕司が返事をさらに送ると、
麻奈美からすぐに返事が来る。


”服を?”
麻奈美も、当然、室井教授の癖は知っているー。

しばらく返事がそこで止まるー。
麻奈美も戸惑っているのだろうかー。

”--とにかく、疑うにしても
 梨桜ちゃんの前でそういう素振りを見せちゃだめ。
 いい?

 わたしがもし梨桜ちゃんの立場だったら
 裕司くんに疑われてるって知ったら
 すっごく傷つくから”

麻奈美の返信に
裕司は”わ、わかったよ”と返事を返すー

”でもー
 確かにそれは気になるね…
 わたしも何か分かったら連絡する”

麻奈美とのやり取りは、そこで終わったー。


康介からも少し遅れてLINEの返事が届くー

康介からの返事は
”それより俺、うまいラーメン屋見つけたぜ!
 飯テロ攻撃~”

という返事で、
美味しそうなラーメンの写真が写っていたー

・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

裕司は、梨桜(室井教授)の行動をチェックすることにしたー。

「これじゃ、まるでストーカーだな…」
裕司が自虐的に呟きながら、
大学の授業中を除き、梨桜(室井教授)の行動をチェックしていくー。

「-----」
梨桜(室井教授)の行動に特に変わったところは
ないように見えるー。

だがー

「---!」
裕司は表情を曇らせたー

”また”
だー。

梨桜(室井教授)が、移動中に、爪をかじったー。

少なくとも、裕司は、梨桜が爪をかじっているのは
見たことがないー。

「---」

「--せ~んぱい!」

「--わっ!?」

裕司がびっくりして振り返ると、
そこには後輩の美穂がいたー。

「--どうしたんですか~?
 スパイ映画の主人公みたいな顔しちゃって?」

美穂の言葉に、裕司は苦笑いしながら

「--はは…そういう顔に見える?」
と、自分を指さしたー。

「--はい!見えます!」
にっこり笑う美穂ー。

そうこうしているうちに、梨桜(室井教授)は
別の場所へと移動を始めるー

「--あ、ごめん!蘭堂さん!もういかないと!」
裕司が慌てて移動しようとすると、
美穂は笑いながら、

「な~んか、ストーカーみたいな顔してません?」
と、呟くー

「ギクゥ…!」
裕司はそう呟きながらも
「ス、、ストーカーじゃないし!」と
否定しながら、美穂を置いて、梨桜(室井教授)の尾行を始めたー


その日ー
裕司は、授業などの時間を除いて
可能な限り、梨桜(室井教授)の様子を探っていたー


「---…」
裕司は、”2回”梨桜(室井教授)におかしな行動があったことを
不安に思っていたー

1回は、午前中の「爪かじり」
そして、もう1回は、お昼に食堂で「貧乏ゆすり」をしていたことー

爪と同じで、梨桜が貧乏ゆすりをしていたのは
今まで見たことがないー

そしてー
室井教授は、貧乏ゆすりを、よくしていたー。

「---」
さらに不安が膨らんでいく。


「--ーーー」
大学での1日が終わるー。

幼馴染の麻奈美が心配そうに裕司の方に寄って来るー。

「--あんまり、思いつめないほうがいいよ」
麻奈美の言葉に、
裕司は「わかってるよ」と呟くー。

「-”入れ替わり”なんて、あるわけがないんだからー。
 まぁ、室井教授の言葉が気になっちゃうのも分かるしー、
 梨桜ちゃんがそういう行動をしてるっていうのも
 確かに気になると思うけど…

 人間なんて、何かあると、関連付けて考えちゃう生き物だから、ね?」

麻奈美の言葉に、裕司は「そう、、そうだよな」と呟くー

そうー
入れ替わりなんてあるはずがないー
あまりにも、非現実的すぎるー。

最近も、入れ替わりモノのドラマが放送されていてー
そのCMも見たことはあるがー
あれは、あくまでも”フィクション”の中の話ー

現実で入れ替わりが、起こるはずがないー。

「--もう少しだけ、調べてみるよ」
裕司が言うと、
麻奈美は少しだけ微笑んで
「無理しちゃだめよ?」と、呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・

”今日は用事があるから”
裕司は、梨桜(室井教授)に朝のうちにそう告げて
一緒に帰ることができない、ということは
伝えておいたー

室井教授は、研究室に篭りきりのようで、
今日は姿を見かけていないー。

「----」
裕司が、梨桜(室井教授)を尾行するー。

授業が終わった後、梨桜(室井教授)は、一人、移動を始めたー。

梨桜(室井教授)が大学に用事で残ることは
度々あったから、これ自体は別に怪しいことではないー

しかしー

「-----」
梨桜(室井教授)が振り返るー。
髪を揺らしながらー

「--!!」
裕司は咄嗟に隠れたー。

「----誰?」
梨桜(室井教授)が鋭い声で言い放つー

いつもの梨桜とは、雰囲気が違う気がするー

裕司は、消火設備の後ろに隠れながら、
震えていたー

”-----(今、見つかるわけにはーー)”

「---…誰???そこに誰かいるでしょ?」
梨桜(室井教授)がそう呟きながらーー
近づいてくるー。


「----………」
裕司は、”このままじゃバレるー”と、
なんとか言い訳を考えてからー
深呼吸して、姿を見せようとしたその時だったー。


「---俺ですよ」

梨桜(室井教授)が見ていたのは、別の方角だったー。

「----!」
裕司が、消火設備から少しだけ顔を出すとー
梨桜(室井教授)の元に、男が近寄って来たー

「---なんだ、お前か」
梨桜(室井教授)の口調が変わるー。

「---へへ、中で話しましょうか」
男が言うと、そのまま梨桜(室井教授)と男は、
普段はほとんど使われていない部屋に入っていくー

「----!」
裕司は表情を歪めたー

”なんだ、お前かー”
梨桜の口調がおかしいー

「---」
それにー
梨桜(室井教授)に近づいてきた男は
何故、梨桜に対して敬語だったのかー?

裕司は、戸惑いながらーー
その教室をーーー
覗いたーーー

そこにはーー

「-----!!!!」


「あいつはーーーー」
裕司は拳を握りしめるー。

その部屋の中には、腕を組んだ梨桜(室井教授)とー
不良の荒瀬 大吾がいたー。

裕司は身を潜めて会話を聞くー

「---それで、話とは?」
梨桜(室井教授)が、呟くー。

裕司は、”梨桜の話し方がやっぱりおかしい…”と
不安を感じながら、部屋の外から、扉越しに会話を聞くー

「--へへへ ”警告”ですよ」
大吾がポテトチップスの袋を持ちながら
ポテトチップスを数枚手にして、それをかみ砕くー。

「--警告?」
梨桜(室井教授)が表情を歪めたー。

「--えぇ、そうです。
 その女の彼氏が、”入れ替わり”のこと、嗅ぎまわってる
 そうじゃないですか」


ーー!!!

裕司は、大吾の言葉に、震えながら、
さらに息をひそめるー。


「--せっかく、入れ替わる数日前から
 ”わたしは梨桜なの”って騒いで撹乱したのに
 台無しになっちまいますよ、このままじゃ」

大吾が、ポテトチップスをバリバリ噛みながら言うと、
梨桜(室井教授)は笑ったー。

「---はははははは 君は心配症だな
 だいじょうぶさ」

イスに座った梨桜(室井教授)が貧乏ゆすりをしながら笑うー。

「---梨桜を、信じて♡」

甘い声を出す梨桜(室井教授)-
一緒にいる大吾がドキッとするー。

「---って、言えば、あんな小僧、すぐに私のことを信じるー」
梨桜(室井教授)が言うと、大吾は、ドキッとして床に落とした
ポテトチップスを拾い、それをそのまま口に運んだー。

「--へへへ、さすが、大人の悪知恵ですねぇ。
 確かに今、襲いたくなっちまいましたよー

 ”教授”-」

「---!」
裕司は、大吾が”教授”と呼んだのを聞き逃さなかったー

震える裕司ー
今すぐ部屋に飛び込んで、梨桜(室井教授)を問い詰めようとも考えたー

まさか、本当に入れ替わっていたなんてーー

だがーーー


「ーーお、裕司!」

「---!!!」

偶然、通路を通りがかった親友の康介が、裕司に声をかけてしまうー

「---!!!!」
裕司は、慌てて梨桜(室井教授)と大吾がいる部屋の扉の前から
”しーっ”と、指を唇に当てながら、離れていくー。

康介の腕をつかむと、裕司は、
その通路から離れて、階段の方に向かい、
そこで立ち止まったー

「--な、なんだよ!?何してたんだよ」
康介が戸惑うー

裕司は、悔しそうに呟いたー

「梨桜がーーー
 梨桜がーーー
 室井教授に…」

その言葉を聞いて、康介は裕司の方を
唖然とした表情で見つめることしかできなかったー

そうこうしているうちに、
梨桜(室井教授)と不良生徒の大吾が部屋から出てきて、
反対側の廊下の方に歩いて行ったー

裕司は、その様子を柱の影から確認するとー、
康介の方を見て、首を振ったー。

「-ーーー俺…謝らないと…」
室井教授になってしまった梨桜に酷いことを言ってしまったー

「---し、、仕方ねぇよ…誰だって入れ替わりなんて…」
康介の言葉に、
裕司は「でも…俺…」と、戸惑いながら口にすると、
「--ちょっと俺、梨桜のところに行ってくる…!」と
室井教授の研究室に向かって走り出したー。

”--もうあんたの言うことなんて絶対に信じないし、
 大久保学長に相談するので”

昨日は、酷いことを言ってしまったー

梨桜ー
ごめんー

そう思いながらー


しかしーーー

「---!!!」
室井教授の研究室は、片づけが始まっていたー

「---な、なんで…?」
裕司が唖然としていると、
大久保学長が姿を現して、微笑んだー

「--安心してください。
 君の彼女に付きまとっていた
 室井教授は、今日付けで懲戒免職となりましたー」

大久保学長の言葉に、
裕司は、膝をついたー

”俺がーーー
 梨桜を、余計に追い詰めてしまった…?”

そう感じた裕司は、すぐに外に向かって走り出したー

「梨桜…!」
室井教授になってしまった梨桜に
行く当てがあるとは思えないー

なんとかー

なんとか、室井教授(梨桜)を見つけ出さなくてはー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

薄暗い大学構内を歩く男ー

スナック菓子をボリボリと食べながら、
建物から出て、大学の敷地内を歩くー

街灯に照らされたその場所で立ち止まると、
大吾の背後から、別の人物が姿を現すー。

大吾はその人物を見つけて、笑みを浮かべると
こう呟いたー

「ーーーー”言われた通り”ちゃんとやってるぜ?
 そろそろ”報酬”が欲しいもんだな?」

とー。


③へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

第2話でした!

お話として成立するようにしつつも、
入れ替わりとしてのゾクゾク要素も入れつつ、
物語としても、入れ替わりとしても楽しめる作品に
バランスを調整するのが結構難しかったりします…☆

物語性を持たせると、どうしても
入れ替わりのゾクゾク・ドキドキ要素が少なくなりがちな部分も
ありますし、ゾクゾク優先にすると、今回書いているようなお話を
作るのはなかなか難しかったりするので、
”バランス”の調整に、色々頭を悩ませつつ…

でも、そういう悩みも、執筆していて楽しいところの一つですネ~!


まだまだ物語も、ドキドキ要素もここからが本番デス!
ぜひ③以降もお楽しみください~!















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