奪われた家柄
  作: 皆月ななな


 俺がその男と組み始めたのは、数年前だっただろうか。
 不思議な男だった。掴みどころがない人間で、特徴がない。例えば1時間前にその男と会っていたとしても、「ではどういう人間だったか」と問われると、はたと困ってしまう。おおよそ奴を形容するのにふさわしい言葉が出てこないし、顔かたちを思い出そうとしても記憶の中のやつはぼやっとした形しかとらず、印象に残っていないのだ。
 そんな特徴のなさこそが奴の特徴であり、だからこそ「俺たちがやっているシゴト」の足がつかないのだ、とも言えた。
 例えばこうだ。ネックレスだとか指輪だとか、高そうな宝飾品を扱っていそうな大通りにある店に俺たちは目星をつける。そして、「奴の能力を使う」。奴の能力とは、「指定した人間の身体を入れ替える」というものだ。そんな荒唐無稽なこと信じられない?俺も自分の身体が入れ替えられるまでは信じられなかったが、実際に自分で体験すると信じるよりほかなくなってしまった。まあ、信じられなければそれでもいい。
 話を元に戻そう。どういうきっかけだったか忘れたが、奴は俺を兄貴と慕っている。俺は奴の入れ替え能力を使って宝飾店の店員に「なる」。場合によってはその店主などになることもある。もちろん、その間に俺の身体は縛っておいて身動きが取れないようにするのだ。でないと入れ替わったあとの俺の身体が騒いでも厄介だからな。そして、店員になった俺と、しれっとその宝飾店に客として来たアイツとで共謀して、一番高そうな宝石を奴に持たせて、あたかも買わせたように見せて宝石を持ち出すのだ。
 その後で元の身体に戻ることになるが、防犯カメラで見ても店員や店主が勝手に奴に宝石を渡したようにしか見えないため、この手法で俺たちが追われたことはない。店としても表沙汰にしようにも、完全に店の失態に見えるので、できないわけだ。しかも、顔が見えている奴のほうも掴みどころがない特徴をしているため犯人を特定することもできないというわけだ。
 完璧に見えるこの入れ替え能力だが、奴にこの能力を使ってもらうには一つだけ条件を提示されている。それは……
「あん、んんっ、そこっ♡だめぇ♡」
「ふふ、兄貴今日もカワイイですよ」
「お、俺は男なんだぞっ♡そ、そんなとこに指入れたらっ、んんっ♡感じるぅ♡」
「今日の店員さんはクールな感じでしたけど、そっちの感度はめっちゃいいみたいですねぇ。俺、自分では入れ替わることができないから一回くらい味わってみたいですよ、女の性感」
「いっ、ダメだ、もう、イっ、くっ!!!」
 プシッ、と潮を噴きながらのけぞり、俺はあえなくイってしまう。今回の身体は本当に感じ方がヤバかった。そう、奴がこの能力を使う条件として提示されているのは、入れ替わる相手は必ず若くて美しい女でないといけない。そして、入れ替わったあと一度は奴とセックスをするということだ。
 最初は奴の能力を信じていなかったから、そんなことができるならいいぜ、一回ヤらせてやるよ、と鼻で笑いながら受けたが、一回女の快感を味わってしまうと強烈で、本来自分にはない柔らかい乳房が揉まれる感覚、自分の女としての細いカラダが奴に蹂躙されていく、征服されていく感じが満更でもなく、それで金もラクに儲かるのだから断る理由は何もなかった。奴は男として女のカラダを味わい、俺は毎回違う女として快楽を味わうことができるのだから、持ちつ持たれつの関係といえた。

 そんなある日、奴が持ってきた計画は衝撃的なものだった。俺はしばらく考えた末、承諾することにした。どんな計画だったかって?それは、この後のお楽しみってやつだ。

 それからしばらく経ったある日。俺は朝起きると、この数ヶ月してきたように、自慢の黒髪をなびかせながら豪邸を移動してシャワーを浴びにいった。
「おはようございます、お嬢様」
 その途中、使用人たちとすれ違う。
「おはよう、今日もよろしくね」
 そう、俺はこの豪邸の持ち主である夫婦の美人令嬢、麻由里と身体を入れ替えていた。ちなみに俺と身体が入れ替わった麻由里はといえば、「私が本物の麻由里よ!」などと言ってこの豪邸に押しかけてきたものだから、おかしなことを言う不審者としてすぐ警備員に取り押さえられ、俺の自宅に用意しておいた襲撃計画が警察にも無事見つかって逮捕された。もうあの身体は用済みだ。しばらくは刑務所から出てこれないだろうから、その間にことを済ませるってわけだ。
 シャワーを浴びながらそんなことを思う。俺の毛穴一つ目立たない肌は、シャワーの水を弾いてはきらきらと光り輝いていた。ふと下を見やれば、男が見ればむしゃぶりつきたくなるような白くて柔らかそうな胸が眼前に広がる。胸が邪魔で下半身がよく見えないが、入れ替わった直後などは興奮して夜になるとこの身体のマン○を鏡でまじまじと見ては乳首をいじくり回し、何回も絶頂していたものだ。
 下着をつける前に、軽く胸を揉んでみる。
「んっ……♡」
 いままで入れ替わってきたどの女よりも感度がよく、男の精神で考えても揉みごたえがある。鏡でみた顔はといえば、あどけないところもあるが整っていて、肌はつややかで、まつ毛は長く、唇は何も付けなくてもぷるっとみずみずしい形をたたえていた。俺はふふっ、とわざとらしく女のように笑ってみる。この身体を楽しめる奴は幸せだろう。ブラジャーの付け方にも慣れた俺は、今では麻由里として振る舞うのに十分な気品すら身につけていた。この胸も、髪も、顔も、自分のものとして認識できるようになった。そろそろ頃合いだ。

「お父様、お母様。今日は紹介したい人がいるの」
 そう俺が言うと、奴は頭を下げて挨拶をした。
「はじめまして。麻由里さんとお付き合いをさせていただいております」
 そう、俺たちの計画はこうだ。そろそろ結婚適齢期にもなる麻由里の身体と俺の身体を入れ替え、身体も立場も乗っ取る。それだけではなく、奴を俺の婚約者に仕立て上げ、麻由里の身体になった俺と奴は結婚するというわけだ。
「な、な、どこの馬の骨ともわからん奴との結婚を許すわけにはいかんぞ、麻由里!」
「そうよ、貴女にはもっとふさわしい人が……」
 そういうと思ったぜ。しかし俺は愛おしそうに自分の腹を撫でる。
「ごめんなさい、お父様、お母様。でも、私のお腹にはもう、この人との赤ちゃんが……」
 そう、この日のために奴とは何回もセックスを重ね、ようやく妊娠することができたのだ。待ちに待った奴との子供ができたと分かったときは、嬉しくて思わず泣いてしまった。だいぶ女の身体に気持ちが引っ張られたのかもしれないな。
 案の定、子供が出来ているなら仕方がないとしぶしぶ麻由里の両親も認め、晴れて奴は俺の夫となった。公認の仲となった俺たちは、毎晩仲睦まじくセックスをする。
「しかし兄貴、男なのに俺に抱かれてなんともないんですか?今更ですが」
「あんっ♡今更それを聞くかよ。そうだな、男の身体だったら多分気持ち悪いと思うんだろうが、女の身体になるとそんなふうには感じないな。チン○も股の間にないし、逆に自分のマン○にチ○コを入れるって考えただけでうずいてくるんだ。女の脳を使っているから、思考も少しはそっちに引っ張られているのかもな。あっ、そこっ♡気持ちいいっ♡」
「ふふっ、兄貴はもしかすると女になる才能があったのかもしれませんね」
「はぁ、はぁ♡男にもチヤホヤされるし、セックスをすれば男より何倍も気持ちいいし、その上この家にいれば俺はお嬢様だからな。その上子供まで作れて、男よりも女でいたほうが得だと思うぜ」
「そんなことを言われると、俺も一度くらい女になってみたくなりますよ」
「ふふっ、ダメだぞ?お前は俺の大事な旦那さまなんだからな♡」
「冗談ですよ。こんな良いマ○コ、挿れないわけにいかないですから。人間の男もなかなか気持ちいいものですよ」
「やんっ♡そこ気持ちよすぎっ♡」

 こんなわけで、俺たちの計画は完了した。無事俺は女の子を出産し、ママになった。この家の財産は実質俺たちのものだ。もちろんこの麻由里のカラダも。さて、あとは季衣と名付けた俺の娘がまた年頃になったら、奴に頼んで娘と身体を入れ替えてもらうのだ。
 なぜか、奴は老いる様子もない。もしかしたら奴は宇宙人か、この世のものではないのかもしれないな。でも、そんなことはどうでもいい。俺は若く美しい女の身体でいつづけ、奴とセックスし続け、子供を産み続けたいと思っている。奴は俺とセックスし、快楽を貪りたいと思っている。お互いにメリットのある話だ。この家の財産を食い尽くしてしまったら、また次の家でご令嬢を探せばいい。俺は奴に今日もチン○を打ち込まれてよがりながら、幸せいっぱいだった。

(完)















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