クラス丸ごと異世界召喚~貰ったゴミスキルを組み合わせてなんとか生き残ります~
  作: いつしか


「ったく、どうすりゃいいんだよ…」

机に乱暴に腰掛け、梶原北斗が苛立たしげにタバコに火をつけた。

「ちょっと、何考えてんのよ、ここ教室よ!」

それを見て、学級委員長の狭山あすみが反射的に注意する。

「うっせぇな、こんな時に教室も糞もねえだろうが!」

「それは、そうだけど…」

反論されて黙ってしまう狭山

確かに、今回ばかりは梶原の方が正論だろう。

なにしろ、俺達は今、どことも知れない異世界の荒野に放り出されているのだから…

数時間前、俺こと佐藤夏樹を含む10人の生徒は、教室ごと異世界へと召喚されたらしい。

この手のお約束だと女神様とか、召喚した魔道士だとかが状況の説明をしてくれるものだが
そんなものは一切なく、俺達に与えられた情報は黒板に張り付けられていた一枚の紙切れだけだった。

魔王を倒して欲しいので召喚しました。
チートスキルをあげるのでがんばってね。
魔王を倒すと元の世界へ帰れるよ。

…こんなおざなりな説明と、チートスキルとやらの解説が紙切れの中身だった。

この「チートスキル」が嫌がらせのように使えないものばかりで、途方に暮れて今に至っているのだった。

「と、とにかく、この魔王ってのを倒さないと帰れないんでしょ」

清水渚が口を開いた。

「お前のスキルでどうやって魔王を倒すんだよ」

「…!」

梶原が嘲るように言うと、清水さんは真っ赤になって黙ってしまった。
…彼女のスキルは『無限母乳』
栄養満点の母乳を無限に出すことができるというもので、戦闘には役立ちそうもない。
何より年頃の女子にとっては酷すぎるスキルだ。セクハラにも程がある。

そう思いつつも、恐らく学年一大きい彼女の胸についつい目がいってしまう。

「…何見てんのよ変態!」

慌てて目を逸らす。幸いこの言葉は自分に向けられたものではなかった。

「いーじゃん、ちょっと試しに吸わせてくれよ~」

声の主は花田正吉だ。
決して悪い奴ではないのだが、お調子者で空気を読まないオープンエロ魔人のため女子からの評判は芳しくない。

「絶ッッッッッッ対 やだ! 死ねっ」

両腕で胸を隠しながら清水さんが叫ぶ。

まぁ当然の反応だろう。

ちなみに、花田のスキルは『味変』、食べ物の味を自在に変えられるらしい。
…この状況でこれが何の役に立つというのか。紛れもない糞スキルだ。

「あんたが倒せばいいじゃない。
 強そうなスキル貰ってるんだし!」

揉め事の発端となった梶原に狭山さんが食ってかかる。

梶原のスキルは『硬派』
体の一部を硬くすることができるスキルだ。
奴が硬派と言えるのかはさておき、確かに比較的使えそうなスキルだが…

窓の外でうろつくモンスター…ちょっとしたビル位はありそうなドラゴン等に通用するとはとても思えなかった。

「あんな化け物に勝てっかよ。だったら学級委員長サンのスキルで倒せばいいじゃねーか!」

梶原の言葉に、狭山さんの顔が青ざめる。
彼女のスキルは『自己犠牲』、自分の命と引き換えに大爆発を起こすスキルだと言う。
復活呪文のあるRPGならともかく、現実では最も欲しくない類のスキルだろう。

「まぁみんな落ち着け、何とか状況を打開する方法を考えよう」

剣呑な空気を宥めるように、クラスでも中心的存在の吉岡升一が口を開いた。

「宮内さんとか、何かアイデアないかな?」

「うーん、どうかしら〜」

普段通りのおっとりとした口調で、宮内穂乃花が小首をかしげる。

すると彼女の髪がするすると伸び始め、床にまで達する超ロングヘアーになった。
まるで平安時代のお姫様だ。
実際彼女は由緒ある家柄のお嬢様なので、似合っているのは当然といえば当然かもしれない。

彼女のスキルは『乙女の黒髪』
自身の髪の毛を自在に伸縮、操作できる能力だ。

「朝の身支度には便利そうですけど…この状況ではどうにも困りますね」

そう言うと宮内さんの髪はシュルシュルと戻っていった。

「わ、私も無理!です!」

小針文香が声を振り絞って答える。
彼女のスキルは『忍びの心得』
服を脱げば脱ぐ程、身体能力が上がるというものだ。

大人しい文学少女然とした彼女にはとても扱えないであろう、悪意しか感じないスキルだった。

「同じくムリ、…ってえぇ!もう6時じゃん!
 今日仕事あったのにもー!!」

早池峰奈緒が叫んだ。彼女は雑誌の読者モデルをやっている。
実際バストサイズこそ清水さんに及ばないものの、
全体的なスタイルの良さは学校でも有数だろう。

そんな彼女のスキルは『注目の的』
(モンスターを含む)周囲の注目を一身に集めるスキルだと言う。
彼女らしいと言えばらしいが、この状況では罰ゲームのようなスキルだ。

「…なかなか難しいな、俺や佐藤のスキルもよく分かんねーし」

そう言って吉岡は溜息をついた。

ちなみに吉岡のスキルは『快楽変換』
快感を生命力に変換する…らしいが説明を聞いても今一つよく分からない。

そして俺のスキルが『交換』
同意のもとで色々なものを交換する
というものだが、何か条件があるのか発動すらできていなかった。

「…あの…」

「あのー!!」

声のする方を向くと教室の入り口に駒沢亘が立っていた。
そうだった。こいつの存在を忘れていた。

「おぉ、いつの間に戻ってたんだ。全然気がつかなかった」

吉岡も存在を忘れていたようだ。

「ひどいよぉ…死ぬかと思ったのに」

ブツブツ文句を垂れている駒沢のスキルは『陰キャ』
存在感を消して気付かれないようになる
という影の薄い奴にはピッタリのスキルだ。
名前こそひどいがこの状況下では唯一大当たりといっていいスキルだろう。

尤も彼はこのスキルのせいで半ば強制的に周囲の探索に行かされていたのだった。

「どうだ、何か見つかったか?」

吉岡の問いに対する彼の報告は、絶望的なものだった。

1時間近く周囲を探索したが、見渡す限り人家はおろか草一本生えていなかったという。
…状況は思ったよりも深刻だった。

このままだとモンスターに襲われなかったとしても餓死してしまう。

人間が飲まず食わずで生きていられるのは2日くらいだったか…

自然と、皆の視線が清水さんに、ことに彼女の胸に集まっていた。

「え…ちょっと、絶対嫌だからね」

視線に気付いた清水さんが後ずさる。
確かに彼女の『無限母乳』なら餓死は免れるかもしれない。
とはいえ、彼女からするとクラスメイトに母乳を供給するなんて死んでも嫌だろう。

「いーじゃーん、減るもんじゃねーし」

空気を読まずに花田が言う。

「減るわよ、死ねっ変態ッ!」

花田を睨みつける清水さん。

「と…とにかく他に良い方法はないか考えよう!」

慌てて吉岡が仲裁に入った。


***


…どの位時間がたっただろう。
有効な手立てがないまま、時間だけが過ぎていった。そして、そろそろ飢えと渇きも限界だった。

「ねえ…マジな話女子だけでも何とかならない?」

耐えかねて、早池峰さんが清水さんにささやく。

「ふざけんな!男は餓死しろってんのかよ!」

梶原が耳ざとく聞きつけ怒鳴りだした。

「ハア?誰もそんなこと言ってないじゃん!」

一触即発の状況。この極限状態では最悪の事態にも発展しかねない。

たまりかねて、とうとう清水さんが泣き出してしまった。

「もうやだ!なんで私ばっかりこんな目にあうのよ!!!」

「あーあーオレだったら全然気にしねーのになー」  「誰か代わってよ…もう…」

偶然、花田の暢気な声と清水さんの弱々しい声が重なった。

その時、自分の中に不思議な力の奔流を感じた。直感的に何をなすべきか理解した俺はスキルを発動させた。

次の瞬間、
"清水さん"がピタリと泣きやんだ。
マジマジと自分の両手を見て…おもむろに胸に手ををやる。

「この感触… おぉー、オレ清水渚になってんじゃん!」

流石と言うべきか、胸の感触だけで一瞬のうちに状況を理解した"清水さん"
制服の襟元を広げて中を確認した後、鼻息荒く自分の胸を揉みはじめた。

「あふん、胸揉むと何か出てくる感覚がするぅ。…よーし」

そう言うと、"清水さん"は素早い手つきで上着を脱ぎ、ブラジャーをはぎとった。
たちまち学年一の巨乳があらわになる。

「みんなー、もう大丈夫だ。このオレがおいしいミルクをめぐんでやるぜっ!」

胸を持ち上げて揺らしながら明るく笑う"清水さん"
薄いピンク色の乳首はピンと立っており、その先端からは母乳が滴っている。

クラスメイトの突然の奇行に皆あっけに取られている中、

「ちょっと、あんた花田でしょ!や、やめなさいよ!」

ようやく状況を理解した"花田"が"清水さん"を止めようと彼女につかみかかった。

「ええい、元々お前がワガママ言うからオレが代わってやったんだろうが!くらえっ!」

"花田"をするりとかわした"清水さん"は
そう言って自分の胸をしぼる。勢いよくほとばしった母乳が"花田"の顔にかかった!

「…」

あまりの出来事に思考がショートした"花田"はとうとう気を失ってしまった。

「よし、これで邪魔者はいなくなったな!」

トップレスのまま腰に手を当てて満足げにうなずく"清水さん"

「まずは自分で味見すっか」

そう言うと、胸をつかんで先端を口に含んだ。

「おおっ、この吸われる感覚は…クセになりそう」

「でも味は微妙だな…『味変』!」

「おお、いちごミルクだ!」

大騒ぎしながら自分の胸を吸い続ける"清水さん"の痴態を見て、状況を察した吉岡が話しかけてきた。

「佐藤、まさかお前の仕業か?」

「ああ、俺のスキルで花田と清水さんを『交換』した」

「そうか…」

それ以上は誰も何も言わなかった。
清水さんには悪いけど、本音では皆ほっとしていたのだ。

「おーい、オレのおっぱいが飲みたいやつは並べ!直飲みでもいーぜ!」

"清水さん"が朗らかに叫ぶ。

…こうして、花田と清水さんの体を張った活躍により、餓死の危機は去ったのだった。


***


モンスターがうろつく荒野を、早池峰奈緒が一人歩いている。
街の雑踏の中でさえも一際目を惹くその美貌は、魔物の目も惹きつけたようだ
上空を飛んでいたドラゴンが彼女をめがけ急降下してきた。
と、ふいに彼女の気配が消失した。
獲物を見失ったドラゴンは困惑して立ち止まる。
そこに宮内穂乃花の黒髪が絡みついた。
引きちぎろうとドラゴンは暴れるが、彼女の髪は異常な強度で怪物を拘束していた。

「オイ、今だ変態!!」

宮内穂乃花が荒々しく声を上げると
隠れていた狭山あすみがドラゴンの前へと歩み出た。
狭山あすみは全身から光を放ちーードラゴンを巻き込んで大爆発を起こした!

学級委員長の尊い犠牲によりドラゴンは倒された。爆心地には何一つ残っていない…
と思いきや、そこでは狭山あすみが生まれたままの姿で身悶えしていた。

「ああ…何度やってもカ・イ・カ・ン」

みるみる内に彼女の傷は塞がっていく。

…実は、彼女らの中身は全員男子生徒だ。

早池峰奈緒の身体の駒沢亘が『注目の的』と『陰キャ』で魔物を引きつけ、
宮内穂乃花の身体の梶原北斗が硬質化した黒髪で拘束し
狭山あすみの身体の吉岡升一が『自己犠牲』による自爆でとどめをさす。

女子のスキルは身体に、男子のスキルは精神に結びついていることを発見した俺達が
試行錯誤の末にあみだしたのがこの戦術だった。

自爆した筈の狭山あすみが生きているのは、中身の吉岡升一が強烈なマゾであり、
痛みによる快楽を生命力へ変換して再生するからだ。
ただし、服は再生しないので必然的に全裸になってしまう。

ちなみにこうして話している俺の役割は、変則的なヒーラーだ。

「痛ててて…佐藤、回復してくれ」

"宮内穂乃花"が声をかけてきた。見ると左腕がざっくりと切り裂かれている。
ドラゴンが暴れた時にやられたのだろう。

「分かった」

そう言うと、宮内穂乃花(梶原北斗)と狭山あすみ(吉岡升一)を『交換』した。

「あふぅん、宮内さんの体で感じる痛みもイイ」

"宮内穂乃花"が黒髪を振り乱して快楽に身をよじる。そうしている内に『快楽変換』の効果で傷はどんどん癒えていった。

「てめぇ、俺の体で変な声出してんじゃねえ!」

裸の"狭山あすみ"が悶える"宮内穂乃花"を足蹴にする。

「ああん、もっと踏んで。ののしって~」

…今の"宮内穂乃花"にはご褒美にしかなっていないようだ。

「はあ…お前がこんなド変態とは思わなかったよ」

頼もしいクラスのリーダーだった筈の吉岡の豹変に思わずため息をつく。

「本性隠してたからな。まぁ佐藤だって露出狂なんだし、変態同士仲良くしようぜ」

「俺のは趣味じゃねえ!!」

…今の俺の身体は小針文香のものだった。
そして彼女のスキルを発動させるために、一糸まとわぬ姿である。

ただ、これはヒーラーであり、
入れ替わりを解除できる俺が死ぬ可能性を少しでも減らすためのやむを得ない措置なのだ。
断じて趣味じゃないし、小針さんも(しぶしぶだけど)納得している。

「まぁまぁ落ち着けよ。そんなことより、戦闘後の一杯やってくか?
 今日はコーラ味だぜ~!」

"清水渚"が自らの巨乳をゆさゆさとゆすりながら言う。
言うまでもなく、彼女の中身は花田正吉だ。
ちなみにトップレス姿である。
…こいつこそ露出狂なんじゃねえか。

「あのー…誰か忘れてませんかー?」
 僕オトリ役で頑張ったんですけど…」
会話に入れず忘れられていた"早池峰奈緒"が弱々しく呟いた。

こうしてやたらオドオドした陰キャモデル、粗暴なヤンキーお嬢様、母乳を出す巨乳女子高生、
全裸女子2名の異色パーティーはやがて魔王を倒し、伝説となるのだが、それはまた後の話である。

(おわり)













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