TS小品集(集団入れ替わり多め)
  作: 干支


【この作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません】

 WEB上のイラストを元に個人的に書いたSSを公開いたします。
 手前味噌ではありますが、選りすぐった小品となります。
 願わくば、珠玉のTS疑似体験を共有されませんことを。

 ※既存コンテンツの二次創作等含まれます。





   【十年後の家庭の問題】


「うっ――!!……くぅ、、、―――ハァ、ハァ……」
「あっ、ん……んん…」

 彼女に挿入したモノを引き抜くと、ゴボリと音がして注ぎ込んだ白濁液が漏れ出した。

「なあ、いいのか? 親父さんに許してもらったとは言え、その日に中出しなんて……」
「いいの……私はもう、双葉だから――――」
「?」
「私がキヨくんのこと、愛してるってことだよ……」
「そっか。そう言えば思い出すなあ」
「なに?」
「いやさ、昔は双葉、すごい泣き虫だったじゃないか。
 だからずっと俺が守らなきゃって思ってたんだ。
 でも小学生……中学校上がるころかな。双葉は急にしっかりしてきて。
 なんだか置いて行かれたような気がして悔しかったんだ」
「ふぅん」
「でもその頃って、双葉だけじゃなく、なんだか家族全員、性格変わっちゃってたよね?
 元気だった俊明君は引っ込み思案になったり、お爺さんは若返ったって評判だったり。
 智明は逆に爺臭くなってさ。おばさんも一時期家事が手につかなくて大変だって言ってたし。
 親父さんだってなんかオカマっぽくなってたし」
「……」
「はた目には問題が無いように見えても、やっぱ家庭の問題ってあるのかなってさ。
 俺が傍にいなきゃってずっと思ってた。
 だから嬉しいよ。こうして双葉と一緒になれて――」
「やっぱり変わらないな……君は」
「ん?どうした双葉?」
「んーん。キヨくんもそう言えば昔、お漏らししてるのに、オムツは嫌だって泣いてたなあって」
「バッ……!そんな昔の話持ってくんなよ!」
「えへへへへ。キヨくんだって昔話したんだから、お返しだよ」
「そっか。でもよく覚えてるなあ……たしか三歳ぐらいの頃だぞ?
 俺だって言われて思い出したくらいなのに」
「覚えてるよ。だって君は、こんなに優しくて格好いいんだから」
「んむっ?―――っぷは、バカヤロ……いきなり唇奪う奴があるかよ……」
「じゃあ、次は君からしてよ……ずっとそばにいてくれるんだよね……?」
「馬鹿……俺の台詞取るなっつうの」

 そうして私たちは、甘く、濃厚なキスを交わした。
 こうして私は、ようやく父親であった自分に別れを告げることができた。
 家族で入れ替わり十年が過ぎた。
 ……結局、私たちは戻れないまま、自分の体を受け入れたのだった。






   【更生法】


 施設職員に通された部屋で、俺はモニターを見ている。
 モニターにはどこかのプールが映っていて、ほどなくして少女がひとりプールサイドへあがる。
 濡れそぼり、水を滴らせる水着が包むのは、ほどよい肉付きのカラダ。
 ゴクリ、と唾を飲む俺を見ていたかのように、モニターの少女は全身運動で火照って紅潮した顔をこちらへ向け、微笑みながらベンチに腰を下ろした。

「久しぶり―――ってことになるかな。
 お互い前の体は実感ないかも知れないけど」

 そうだ。三年前までは俺があの子だったんだ……。
 彼女の言葉通り、まるで実感のなくなった記憶に照らすと、若干大人びた顔と体付きに、髪は豊かに伸ばされているのに意識が向き、俺は再び唾を飲んだ。

 人体交換技術が成立して数十年、社会は長ったらしい正式名称を持った「更生法」と呼ばれる法律の運用を始めていた。
 早い話が、落ちこぼれどうしの人生を入れ替えて、少しでもマシにしようという措置。
 具体的には国民は、その社会への貢献度や生活態度、将来性などから個別にランク分けされ、それらは毎年の考査で変動する。
 AからEまでは特に更生法と関わりはないが、その下。最低ランクのRの人間は、二年目からはこの法律の対象者として、同ランクの相手と人生を交換される。
 当時私は荒れていて、素行不良な軽犯罪常習者だった。
 親は仕事で忙しく、ろくに構ってもらった経験も無くて、とうとう人生交換の対象者となってしまった。
 交換相手が、汚らしく肥った引きこもりのオタクで、顔合わせの際、舐め回すような視線と下卑た声で

「君みたいなかわいい子になれるなんてツイてるなあ」

 と言われたのはトラウマだった。
 ――そういう風に『彼女』は記憶している。

 もう自分は言った側なので関係はないが、自分の体がいいように弄ばれることや、自分がそんな相手になることへ、身の毛もよだつ嫌悪を覚えていた。
 けれど法の決定は覆らない。
 これがこの法律の巧みな所で、二年連続でR判定を食らう人間など、ほとんどが家族や友人からも見放され、むしろいい機会だと、進んで人生交換に送り出されるのである。
 結局私は、この汚らわしい男と専用の施設で人生を交換されてしまった。


 その後の経過は、意外なことに順調だった。
 更生法で交換するのは体ではなく人生。説明は難しいのだが、俺は元は彼女であったという自覚も、その記憶もあるのだが、自分が誰かと言えば俺自身であり記憶もそちらの方がより実感を持っている。
 強いて以前の名残りを挙げるなら、嗜好や性格が多少彼女のものになった程度だろうか。
 だから、入れ替わって困ったということも無く、その後のケアも充実していたため、俺は首尾よく社会復帰を果たしていた。 
 お袋も喜んでいたし、以前の記憶も合せてそんな思い出は無かったから満足してさえいると言えた。
 ただ。以前の自分とは、更生の妨げになるという理由から、 接触を禁じられていた。
 それもランクの上昇と年数によって段階的に解消されると言うので、俺も頑張ってDにまでランクを上げ、とうとう限定的な接触。ビデオレターのやり取りが許されたのが、この間の事であった。
 実を言うと、俺から見た彼女は、可愛らしくも発展途上なカラダが性欲をそそり、いつしかおぼろげな記憶を頼りにそれを毎日のオカズにしていた。
 あれだけ嫌がっていた自分の体が弄ばれる想像にも、より一層猛りを増すばかりだった。

 ――そう。俺は、ひそかに期待していたのだ。
「それじゃあ挨拶もしたし、一番気になってること始めよっか」

 ――彼女が引き継いだ嗜好や性格が、
 (彼女は水着の脇に指をかけ)
「こんな格好してるんだし解るよね? 貴方のおかげで私」

 ――オトコのスケベ心であることに。
「こんなにえっちな、やらしいことが大好きな女の子になっちゃいました♪」

 盗聴に綺麗な乳首を乗せた形の良い乳房がまろび出て、彼女はそれを良く見せようとこちらへ向けてくれた。
「素敵なカラダと人生をありがとうね?
 お礼にじっくり見せてあげる。
 オンナノコのカラダでするオナニー♪」

 そう言って体を撫で回し、乳首をつまみ、股間を弄り。
 彼女は何度もイキながら、いつまでもオナニーを続けていた。
 ようやく体力が尽きて、その場から動けなくなったころには、モニターの向こう側の窓も暗くなっていた。






   【「よく、解ったね」彼女はそう言った】


 小学生のころ、双葉は体育の西村と入れ替わっていた。
 朝の早い時間、誰もいない職員室で、見る見るうちにお互いの姿へ二人は変わっていった。
 口止めされつつも時折こうして入れ替わっているのだと教えてもらった。
 入れ替わるとその体の記憶が自分のもののように読めるらしく、違いは判らなかったし気付く人もいなかったけど。
 なんとなく、双葉が活発だったリ、距離感が近いと感じた時に「入れ替わってる?」と聞くと、「良く解ったね」と笑いながら俺の手を掴んで、ふくらみかけの胸に当ててくれた。
 思えばそれが俺の性の目ざめのきっかけだったのだろう。
 体の奥が熱く突き上げられるような感覚にやみつきになって、双葉と先生を観察し続け、やがて入れ替わりも必ず判るようになった。
 ただ、その頃から思春期に入った男子女子は疎遠になりはじめ、俺も例にもれず、双葉と会話を交わすことはなくなっていた。
 どちらがどちらと入れ替わっているかにも注意を払わなくなった。
 
 体育の西村が事故で亡くなったのは、六年生になってすぐのこと。
 飲酒によるハンドル操作ミスで、崖から落ちたらしい。
 ふと、死んだのは本当に西村なのかと疑問を抱いたが、その頃には別の教師が体育を担任していて、繋がりは無かったし、悲しんでいる様子の双葉に問い質すのも悪かったので、疑問はそのままに、時は流れ、俺たちは中学二年生になっていた。

「――うわっ、ごめん!」

 放課後、忘れ物を取りに行くと、人気のない教室で双葉が着替えていた。
 ちょうどセーラー服を脱ぐ所で、まくり上げた裾から覗く胸のふくらみが、慌てて逸らした目に焼き付いてしまう。
 双葉から返答はなく、沈黙が夕暮れの教室に流れた。
 ふと、そこで思い至る。
 夏に入って日は長いけど、部活動さえとっくに終わっている時間だ。
 実際ここまで来る途中、誰とも会わなかった。
 なのに、双葉は、制服を着るのではなく脱ごうとしていた。
 部活から帰宅するのに着替えていたなら、制服は脱ぐのではなく着る物なのに……。
 いろいろ可能性は考えられたけど、制服を脱いで何をするんだろう、という疑問ばかりが頭を占めて、からからに渇いた喉からは―――――――。

「もしかして、入れ替わってる?」

 数年越しの、それでいて思いがけない言葉が。
 ゆっくりと、逸らしていた視線を双葉へ向けると、彼女はさっきの制服をまくり上げた姿勢のまま、こちらを見てうっすらと笑っていた。

「よく、解ったね」

 全身が、殴られたような感覚。
 あの時死んだのはやはり双葉の方だった。
 心臓は早鐘のように鳴りながら、何故かあの突き上げるような熱い欲求も。
 股間は痛いほどいきり立っている……。
「田中はさ、知ってる?」
「な、なに、、、が?」
 グロスを塗っているのだろうか。艶めかしく照る唇が、問いかける。
「女の子って、性欲が溜まらないって。興奮しても、男子みたいに、体中熱くならない。だから割と冷静だって」
「そ、そんなこと言われても――――」
「けど、その分イッても男子みたいに萎えない体力が続く限り、興奮したまま。
 だから、始めたら止められなくなるの」
「それ、って、、、、」
「元はお盛んな体育教師だから、こんな可愛い子が目の前どころか、それより近くにいるせいで、いつもおまたがジンジンして大変なんだ」
 グクリ。言葉に唾を飲みこむ。
「だからさ、放課後はこうして、たまった鬱憤をひとりで晴らしてる。
 女子の体だから耐えるのは楽だけど、気持ち的に悶々としてね。それと」

 ゆっくりと双葉は制服を脱ぎ捨てた。
 ネットの巨乳美女の画像より遥かに生々しい、お椀を二つ伏せたような胸と、その上のつぼみ。
 運動で程よく引き締まったなで肩の上で、顔は上気していた。
「やっぱり、あの熱く込み上げる感覚も、懐かしくてね。
 ね、ここでちょっとヌいてみようよ。大丈夫。私も一緒にシてあげる。
 男の感覚はなくなって久しいから、無体だったら謝るけど、万一間違いを犯してもさ―――、」
 
 双葉は上半身裸のまま、俺の背後に回り、胸をおしつけた。
 柔らかい脂肪がムニュリとつぶれる感覚が、Yシャツ一枚隔てて鮮明だ。

「君ならきっと、双葉も納得してくれる。
 アレは純粋な事故だったけど、人生をもらおうとしてたのは本当だしね」






   【Fateの二次創作。なんかどっかの聖杯戦争のあれ】


「バーサーカー、クー・フーリン。召喚に応じ参上した」

 人類の守護英霊を使役し最後の一騎になるまで戦う魔術儀式―――聖杯戦争。
 魔術師として栄達を願い参加した俺は、アルスターの英雄を召喚したのだが……。

「まさか光の御子クー・フーリンが女だったなんて」
「これはメイヴの体だ」

 かなり可愛い(英霊だから当然か?)女性の姿で顕れた英霊は、凡庸な感想に即答した。
 本来は男性だそうだが、俺が欲張って狂化の呪文をリスクなしになるよう唱えたからだと言われた。
 それでも何がどうなったらコノートの女王の姿で召喚されるのか。

「……いろいろあったんだよ」

 またも凡庸な疑問には面倒くさそうに端折られた。
 圧がすごくてそれ以上聞けなかった。

   ◇

「お前からの魔力供給だけでは足りん。何か他で補充しろ」

 戦いは連戦連勝だった。
 彼女はバーサーカーらしい戦いぶりで敵を蹴散らしていく。
 だが、その分魔力消費は予想を超えて激しく、三日目の夜にそう言われてしまった。
 魔術師なら足りない分は他者から奪うものだが、そういう主義ではなかったのと、戦争中とは言え三日間ご無沙汰なのに彼女はいろいろ胸とか隠さないので辛抱ならずつい――

「そのお……性交による供給でも」「構わん」マジか。

「勇士からほど遠い魔術師なぞ、断固拒否すると入れ替わったこの体は嫌悪を感じているが、
 この三日。お前はそれなりの働きをした。辛うじて勇士と言えんことも無い。
 加えてこの姿を前にしてはな。
 男の機能は理解している。『この俺』は失って久しいが。
 相応しい働きをした者へ、相応の下賜を下すのも王の務めだろう」

 ヤバイ。めっちゃ優良鯖や。
 どこか呆れるような表情だったが、こんな美女に蔑まれるならご褒美だ。
 舞い上がったボクは、その晩ハッスルしてしまった。

 ちなみに聖杯戦争は聖杯が汚染されてたので残ったサーヴァントで中身と戦って終わりました。おしまい。






   【夏色パラダイス】


「ようこそオレたちのパラダイスへ! 
 ここなら女子どもの目はないし、自分も相手も好きなトコ触りっこし放題だぜ!」

 双葉の体で競泳水着を着た清彦が、良い笑顔で状況を説明してくる。
 
 クラスの男女の体が入れ替わって三ヶ月。未だ元に戻る手掛かりがつかめないまま夏休みに突入したある日。 
 男子――女子の体の奴だけの極秘だと言われて海に誘われた。
 何かと思えば予想通りと言うか……。
 今まで女子――男子になった女子の目が厳しくて、すぐそばにある女体を自由にできないという、思春期男子には地獄ともとれる状況から、夏休みと言う物理的に引き離される時を狙って脱出を図ったのだ。

「もお、やぁだぁ! この体スゴイ敏感だし、なんだかそういうの怖いんだよ……」
「恥ずかしがるなよお~~。
 男どうし、いや女どうしだろお。――ってわっ、こら避けるな倒れる!」

 向こうでは地味で控えめだった四葉が可愛らしいピンクの水着を着せられ、おしとやかで通していた真琴は活発そうな黄色い水着を着せられお互いじゃれ合っている。
 中身はクラスのエロ四天王の二人、敏明と博之だ。
 ほかにも至る所でクラスの女子――の体の男子が乳繰り合っている。
 入れ替わってすでに三ヶ月。性欲が溜まらず男性ホルモンも分泌されない体ということもあってか、元男子は徐々に大人しく女らしい仕草が身につく反面、自分の体への興味を口にしなくなっていった。
 だがそこはエロ四天王最強の男、清彦。
 奴は女体への趣味を失うかどうかの瀬戸際を賭けて、監視の目が緩むタイミングを見計らっていたのだ。
 常々魅力を語っていた競泳水着を身に纏う奴だけでなく、その場の元男子全員が輝いた顔をしている。
 そう。オレたちの女体への興味は失われてなんかいなかった。

 ――こうして夏休み明け、クラスにはレズカップルとホモカップルが溢れかえることになった。
 ――女子たちも、まあ考えることは同じだったというオチでした。
 ――元に? あれから十年経つけど戻ってないよ?
 ――おっと。“旦那”の“双葉”が子ども達寝かしつけたみたいなんでこのへんで。う~疼く疼く。







   【『ほーら。ノーブラすよー?』】


 しつこい先輩を手ひどくフッたら体を入れ替えられた。
 正確には人生を、か。なので今は俺がテニス部の汗臭い二年男子だった。
 以前の名残りは、多少性格を引き継いでることくらい。
 昔のことは、本で見た情報と大差ない。清彦の記憶こそが俺の記憶だ。

 元清彦の双葉も同じなのか。
 完全に入れ替わってからは、近づいても来ない。
 まあもっとも。中身が清彦のままだとしても、野郎の外見した奴に
 付きまとう意味もないんだが。清彦になったから解る。

 ただ、『男のスケベ心は強烈で、大抵はそうした性向を引きずって、
 えっちな女の子になる』と言われたのが気にかかる。
 学年が違い、たまにすれ違う程度だから、変化は解らない。
 そこはかとなく色気を帯びたような気もするが、思春期の男の体では
 外見含めて変わっていなくても、反応してしまう。
 実際入れ替わってからほぼ毎日オカズにしてしていた。
 この『武部清彦』の強烈な性欲を引き継いだまま、あの、
 よく発育した体を手に入れたなら、どうするか。
 想像に難くなかったし、それだけでいくらでもオカズになった。

 そんなある日、街で偶然双葉を見かけた。
 秋深まる中、チェックのプリーツスカートに黒タイツ。
 上はコートを羽織っている。今年の流行だろうか。
 思わず後をつけていた。あの、コートを大きく押し上げる巨乳。
 去年より大きくなっている……アレを好きに出来たのに以前の俺は、
 なんてもったいないことをしてたんだろう……。
 夜な夜なアレをいじくって……街中でもこっそり弄んでいるのだろうか。
 喫茶店の、ガラス張りのカウンター席に座ると、彼女はコートを脱いだ。
 下は白のセーターで、柔らかい生地に包まれた胸がまろび出る。
 カウンターの上で、マシュマロかスライムみたいに形を変えるソレを
 鬱陶しそうに、けれどどこか愉し気に、双葉は位置を調整していた。
 向かいの通りから凝視する俺を知ってか知らずか、収まりよくなったのか。
 双葉は指先で愛おしそうにセーターの撓んだ生地をなぞり――、
 ゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。その視線は、悪戯っぽく笑っていた。
 双葉は両腕を使って、双丘を囲むように、強調するように持ち上げて
 こちらへ示してみせた。輝くような白が張りのある胸の形をくっきりと見せる。
 それで、双葉は、わざと後をつけさせていたのだと悟った。

『ほーら。センパイの希望どーり、ノーブラすよー?』

 双葉が何か言いながら、両腕を使って、もにゅもにゅと胸をこねくり回す。
『コレ、私は好きな時に好きなだけ弄れるんっすよ? センパイと違って?』
 ガラスと雑踏に阻まれて聞こえないはずの言葉を確かに聴き、
 二つの突起が陽の光の下でうっすらと勃っているのを見た俺は、その場で射精していた。






   【民主王】


 高校生の息子と入れ替わって一週間。
 入れ替わりの手がかりがあると聞き、単身乗り込んだ店は、うら若い女性――それもみんな揃って美女――が、あられもない服装で給仕と客の話相手をしていた。
 息子ぐらいの歳の娘も平然と働いていて、その中にクラスメイトの武部双葉の姿を見つけた俺は、内心の驚きを隠しつつ彼女を指名する。
 バニーガールの衣装があどけない顔には不釣り合いな大きな胸や、しまったくびれ、凹凸のない股間をピッタリと強調していて、いささか目に毒だ。
 それでいて全体的にすらりとした印象を与える長い脚に、若干鼻をひこつかせながらも平静を装って、

「やあ。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「そうだね。清彦くんもこういうお店、興味あったんだ」
「いや……オレ……僕は、君みたいな若い子がいかがわしいお店で働いていると聞いて、いてもたってもいられずにダネ」
「フフッ、変なの。若い子って、まるでオジサンみたいだよ」
「あ、いや、、ともかくクラスメイトにこんな仕事はさせられないからさ、、」
「そんなこと言って、お父さんもも大好きでしょ? こういうの。だから清彦くんも好きなんじゃない?」
「ち、父親は関係ないだろ、、、」
「そう? でも、私はコレ大好きだから……娘には止められたけど……
 趣味と実益を兼ねてるから、清彦くんも気兼ねしないで。もっとジロジロ見ていいんだよ……? フフフ」

 バニーガールの彼女はわざとらしく脚を組み替えながら、流し目でそう促してくる。
 なにかおかしなことを呟いた気もするが、俺の目はたわんだふとももに釘付けで、考える余裕がない。
 どうも双葉さんは清彦に気があるらしく、教室でもこんな調子でことあるごとに絡んでくる。
 学校でもトップクラスの美少女なので悪い気はしなかったが、妙に鋭い所があって、入れ替わりがバレないか内心苦手な相手でもあった。
 そんな彼女は、今のボディタッチをさらに凶悪なものにするバニーガール姿でカラダを摺り寄せていた。
 痛いほどの鼓動に顔を歪める私に、彼女の笑みが少しずつ、だが確実に大きくなり、そして―――

「アハハハハハハハ! おっかしー! ここまでやってもまだ気づかないんだ!!」
「な、なんだね突然……!」
「君のオヤジくさい言葉遣いが出ちゃうってことは全然馴染んでないんだねえ」
「な、なにを言っている!? いや、お前は誰だ!?」
「私だよ。君に市長選で敗れた武部敏明―――ま、元だけどね。今はちゃんと双葉だよ?」
「なぁにぃ!?」

 武部敏明と言えば私の長年の政治的ライバルだ。
 奴は土建屋、私は商工会と支持基盤も真っ向から割れている。

「君と同じように、私は娘と入れ替わったんだよ。三年も前にね」
「なにぃ!? だとするとクラスですり寄ってきたのは!!」
「突然言動が変われば誰だって怪しむよ。そういうの引っ張ってくるのもここで頼まれてるし」
「んな、ここ、だと?」
「鈍いなあ、この街は意外と多いんだよ。入れ替わりって。
 この店は入れ替わっちゃった子のためのお店。今日フロアに入ってるのは、みんな女の子と入れ替わっちゃった人たちだよ?」
「と、とととと言うことは何か!? おおおお、俺は敏明の奴に欲情してただと!?」
「あ、そこは心配しなくても大丈夫。
 入れ替わって日の浅い清彦くんにはわからないだろうけど、一年もすれば記憶も入れ替わって人格も完全に体のものになるから。
 今の私は武部双葉。だから清彦くんはホモじゃないよ?」
「良かった……いや待て、体の人格だとぉ!? 記憶も入れ替わる!! 今の俺が消えるのか!?」
「違うよおー。融け合うっていうのかなー。最初はちょっと怖いけど、すぐにそれが自然だって感じるようになるよ。
 以前の執着とか嗜好は持ち越されるしね。
 ――と、料理できたみたいだから、先に持ってきちゃうね?」

 そういって立ち上がった双葉(?)は軽く握った手を広げた女の子走りで、言葉通り敏明とは思えない。
 左右に揺れるお尻の上でふりふりと踊るウサギの尻尾を見つめて、他の子もそうなのかと眺めまわしているうちに双葉が戻ってくる。
 その手にはお子様ランチがあった。

「はいっ、自分の子どもになっちゃった清彦くんにっ♪ 」
「い、いらんわっ。はずかしいっ」
「私が食べさせてあげちゃうっ。あーんってやって。
 フフ……ホントにいらなぁい?
 柔らかいよぉ~~胸とかぁお腹とかぁふとももとかぁ。
 それとも屈んじゃおっか? 胸の谷間は良い景色だぞぉ。
 私がいつも見下ろしてるの、見せてあげちゃうよ?」
「ぬぅ……ナルホド……それが嗜好を持ち越すと言うことか……」
「おっ、スルドイ。まあそういうことだね。
 私は教えてもらって試したんだけど、君も受け入れたらどうだい?
 一緒にこのカラダをたのしみたいなあってさ、こないだから思ってたんだ?」






   【植物知性体サドーンへの勝利】 


 人格交換装置の発明により、侵略者を兵士と入れ替えることで戦争は地球側勝利に終わった。
 しかし、陥落寸前であった地球文明の傷跡は深く、既存の都市はほとんどが壊滅。
 侵略者王族が新たに築いた街はそのまま復興の拠点として、奴らと入れ替わった地球軍の兵士たちに利用されていた。
 植物から進化した侵略者たちは、日光があれば食事が要らず、特に王族は老衰をも防ぐことができた。
 そのため都市は地球人が住むには適さず、今現在は入れ替わった兵士だけが住む軍都となっている。
 不思議なことに侵略者は、肉体の構造や生命としての系統も全く異なるのに、見た目や男女の機能だけは地球人に酷似していた。
 ある研究者曰く、この形態こそこの宇宙で最も繁栄するカタチだそうだが。
 ―――まあそんな御託より、男が生まれず女ばかりの侵略者兼移民たちと、男ばかりの兵士が入れ替わったことこそ当面の問題とすべきだろう。
 つまりは――。

「はあ……。やっぱ刺激が強すぎるっての」

 第二十一皇女の体でオレは呟く。
 貞淑ながらあでやかな藤の花を思わせる、か細くも芯のある声だ。
 ふくよかな美貌の肉体は、秘所を覆う箇所以外は全て透けている水着のようなスーツに包まれていた。
 侵略者の内蔵はほとんど退化していて、経口での食事は基本的に栄養とはならず、代わりに定期的な日光浴を強く推奨されていた。
 とはいえかつての習慣がそう易々と変わるわけもなく、本日ついに強制的に日光浴が行われたのだが――。

「鏡に映った自分を見たり、自分の声や体を意識するだけでも簡単に疼いて、下手すりゃイッちまうってのに、、
 こんなエロい格好とか―――んっ、、はぁっ、嘘、、、また……っ、」

 侵略者の文化には存在しない地球の日傘を弄びながら、オレはふとももを擦り合わせた。
 またイってしまった。正直言って侵略者の――、或いは女の体になるのを甘く考えていた。
 若く健康な男子が、美女しかいない奴らになれば自分の体に欲情する――――。
 それは漠然と理解していた。
 だが女の体はイっても治まりはしない。むしろもっと昂って敏感になる。
 加えて侵略者の特性として、日光を浴びると活力が湧き、興奮作用のある物質が分泌される。要は性欲も強まるのだ。
 当然男性の精神としてのスイッチは女性の裸体。
 半裸状態での日光浴は歯止めが効かなくなり、本人の意思とは半ば無関係に乱交状態となるのが常だった。
 そういうわけで、半数が疎んで足遠くなっていたのであるが、それもいつまでもというわけにもいかない。
 今のオレたちには充分な日光が必要なのだ。

「厄介な体になっちまったもんだ……
 喜んでる奴らもいるけど……男の時とは全然違う抑えの効かなさで、自分が自分で無くなってくようで……」

 言葉通り男の時とは違う、何度イってもおさまらない、ふわふわとろりとした火照りの中で。
 視界の中に入った、裸よりも隠微なシースルーからはみ出た白い双球に、また高みへ達する感覚と共に

「んんっっ、、、うっ、くぅっ、、、」

 オレは、声を殺して喘いでいた。






   【The Real Journal】


「ようこそ。あれだけの情報で、よくここまで来たものね。
 とりあえず褒めてあげるわ」

 巷で続発する、ARシステムを介した人格の入れ替わり。
 学校でも有名なキモオタと入れ替わりが始まってしまった私だが、事件を追っているジャーナリストと運よくコンタクトを取ることができた。
 活動期間の長いその記者は、情報が確かなら中年男性のはずだが、出迎えたのは年端もいかない――下手をすると私よりも年下の――少女だった。

「ふふっ、その顔。女の子で驚いた? そ。ご明察。
 私も入れ替わり済みよ? ――あれこれ手は尽くしたんだけどねえ。
 仕方ないからこの体で記者やってるわ。
 ついでに容姿を活かしてネットアイドルもね。これがいい副収入なのよ」

 脚を組み、デスクに寄りかかる彼女は、その勝気な顔で言うほどに、残念そうには見えない。
 まあ、中年男性記者からこんな人形みたいに可愛らしい美少女になったのだ。
 本当に手を尽くしたかは怪しい所だ。
 
「そんなことないわよ。一応妻子ある身だし、必死だったわ。
 もう解ってるだろうけど、今の私、内面はほとんどこの『私』よ? 家族とも気まずくて、長い事会ってないんだから。
 まあ、こうやって今の身体にいろいろ着せて楽しむ分には不自由しないから、そういう意味では便利だけど。
 全体的に力強さがなくなったのは寂しいけれど、クラッキングメインだし?
 毎日デスクワークする分には、境目のない女の快感の方が向いてるわ。
 毎朝何を着るか迷ってるうちに、ついついシちゃったり。ムラムラしなくなって思考もクリアなんだけど、こればっかりはね」

 そう言って、挑発するように形の良い胸をワインレッドのニットセーター越しにデスクへ押し付ける。
 それから微笑んで、かすかに憐れんだような声で。

「なんにせよ、入れ替わりが完了したら元には戻れない。そしてARに依存した現在の私たちでは入れ替わりは防げない。
 見ればわかるわ。システムが起動するたびに内面が変わっていってるんでしょ?
 その様子だと、あと三日もかからない。
 頑張って調べたのは偉いけど、ここから先は落胆するだけよ? 以前の私みたいに。
 はっきり言うわ。受け入れなさい。
 私も妻を抱けない、こんな頼りない体になっちゃったけど、少なくとも自分だけは簡単に幸せにしてあげられるんだから。
 ふふ。ちょっと薄情ね。
 昔は家族が一番だったのに。今は自分の幸せが大事なんて。
 これも入れ替わったせいかしら?」






   【鈴木さん・日本人女性(16)のCM撮影】


「『TS製糖の新製品。私たちが真心こめて作りました♪』」
「ハイカットー! いい表情撮れたよー! 最高だよー!」

 CM撮影が終わった私は、セットで衣装を着たままスタッフと歓談を始める。

「いやあ、鈴木さんがいて本当助かりますよ。こういうの頼める人、他にいませんから」

 乳牛をあしらったレオタードの衣装は、搾乳を想起させる内容と相まってかなり際どい。
 集団入れ替わりで多くの男が女となったことで、性的な露出はかなり大っぴらになっていた。

「まあ元男でも、視線が気持ち悪いって人も多いですからねえ」
「でも鈴木さんは気にしないですよねえ」
「気にはなりますよぉ。でもうちの部署。半数が俳優のプロダクションと入れ替わったから、活かさないとですし」
「おかげで売り上げ倍増ですからね。鈴木さんの演技もスムーズでしたし。頭が下がります。
 体の才能ですよ。親も俳優なんです。まあ私も映画好きで憧れてたので夢が叶ったって感じですけど」
「それでもその格好は大変では? 今も視線が気持ち悪いって」
「そこはほら、記憶読むには、ね?」

 『ああ♪』と目の前の監督は、端正な二十代女性の顔を歪める。
 体の記憶を引き出すには性的な刺激が効果的だ。公には記憶に人格が呑みこまれたり自我が壊れる危険から控えるべきとされているが、実際には誰も守っていない。
 公表はされないが、記憶を読みこんだ人の方がそうでない人よりも、入れ替わりに起因した精神症が起こりにくいというのも大きいのだろう。
 私たちも入れ替わり当初の四年前にはすでに、隅々まで自分を楽しんでいた。

「いつも家で楽しませてもらってます。というかほぼ普段着状態ですよね。
 レオタードにハイヒール系統もこれで5パターンめですけど、若くみずみずしくスラリとした体をぴっちりした感触で存分に味わえますから。
 実は今回のは私発案のデザインなんですが、着心地も抜群で。
 もう何着か作ってもらって家で着る予定です。
 まあ思いのほか体に染まってて、『こんなのイヤ』って気持ちも強いんですけど、かえってスパイスですよね」
「鈴木さんくらいの年齢差でもそこまで染まるんですねえ」
「あくまで自分を失わないってだけですからね。年齢差があれば大丈夫、という話は。
 なにより成長途上の思春期まっさかりですし。私」

 そう言ってわざと、この前Iカップになった自慢のバストをたわませると、監督も幸せそうに目を細めた。
 これをすると誰もが張り詰めた顔でゴクリと唾を呑んだが、私含め、今や多幸感に満ちた笑みを浮かべている。
 それが少し寂しい反面、可愛い少女の体を自分のものにした、と言う感覚から下腹部が熱くなる。
 この衣装なら、今まで以上に家ではかどることだろうが、さらにおっぱいが大きくなりそうで考え物だ。

 入れ替わり後にスタイルが良くなった人は多いが、自慰の頻度が増えたことで女性ホルモンの分泌が促されたというのが通説だ。
 まして私が入れ替わった初潮を迎えたばかりの少女の体は、日ごと女らしくなり、胸などずっしりと重みを感じながら、成長期特有の張り詰めで重力に逆らってそびえている。
 結局、その感触を余すことなく伝える衣装と、自室や居間の姿見のせいで、ついさらに大きく育ててしまうのだ。
 はじめのうちは、家族にもとやかく言われたが、ずっと続けているうちに慣れたのか、何も言われなくなった。
 一番うるさい妻と娘が、性に目覚めたばかりの少年になったのも大きかったのだろう。
 苦しそうな娘を筆卸してやってからというもの、かつての対応が嘘のように聞き分け良くなってしまった。
 まあ、集団入れ替わりで我が家は新しい関係となったが、家族の愛は変わらない。
 この体の妹になった息子。血の繋がりはなくなったが、可愛い娘に愛しい妻。
 みんなのことを思うと自然とやる気も出てきて、今日もメインの仕事となったメディア露出に羞恥心を楽しみながら望むのだった。

「『たわわに実ったおっぱいを、ぎゅぎゅっと搾って出しました。
  ――はい、どうぞ♪』」

 日本人男性(45)⇔日本人女性(16) 四年前に入れ替わり







   【ミホト教のお勤め】

 
 ミダマ教教祖深山田清彦が強制猥褻その他の罪で逮捕・起訴されたのを受け、教団幹部は十三歳の少女を代表に、新団体ミホト教を設立。 
 一世を風靡したミダマ教の後継団体とあり、世間も警察も注目したが、目立った問題も起きず、人々は次第に興味を失っていった。
 

 五年後―――。ミホト教を一人の男が訪れる。
 ミホト教教祖三井津双葉は、人払いされた道場で、ビキニ水着のような修行衣で、ひとりヨガのような柔軟を行っている。
 腰まで髪を伸ばした、十八歳の肉付きの良い、しなやかな肢体はしとどに汗にまみれている。
 その、誰もが唾を呑む、エロティックな姿に男は眉を顰める。

「これ? 今度在家の信者用に、鍛錬の映像をとることにしたの。
 一本二万くらいとお手頃価格だけど、予約してく? 『お父さん』?」

 男は何か言いたそうな顔をしつつも『約束は守っているんだろうな』とだけ。

「もちろん、いままで通り。
 むしろ男となんてゴメンだし、女の子の方がずっとキモチイイ――おっと。
 魂も清まるしね?
 ふふっ、なに? その顔。女としての純潔は守ってるよ?
 約束通りね」

 それを聞いて、用は済んだとばかり帰ろうとする男に――。

「でも今さらそんな事確認して意味あるのかな?
 私だけじゃなくて、娘さんも体に染まっちゃってるそうじゃない?
 もうほとんど以前の私みたいになっちゃってるから、
 万一元に戻れたとしても、昔みたいな関係には戻れないんじゃないかな」 

 言いながら双葉は、左足を上に曲げ両手を頭の後ろで組む、ヨガで言うハトのポーズをとった。
 柔らかそうな脂肪がついた体を、余すことなく見せつける耐性で語る。

「まさかあんな子供が潜入捜査だなんて、予想だにしなかったけど。
 証拠を掴まれて追いかけてたら階段で転んで入れ替わるなんて、もっと驚きだよね。
 でも結果的には良かったかな?
 なにせ五年でこんなエッチな体に育つんだから。
 いつでもこの体に好きな事させて楽しめるし。ムラムラしないから余計な失敗もないし。
 なにより女性を侍らせても、女どうしだから全然怪しまれないしね。
 アンタたち親子には本当感謝してる。
 よかったら新しい内気功の体操見てったら?
 コレ始めて、男性信者が一気に増えたんだよねえ。なんでかな? ふふふ」






   【チャイナ・ミステル】


 中国四千年の神秘は伊達じゃない。
 秘香により我々は社内のOLや若手と入れ替わってしまった。
 スケベで有名な奈良山部長などは、
 社内一の巨乳で我が部のアイドルな若葉くんになって大はしゃぎだ。
 今いるコスプレ飯店も奈良山くんの提案でやってきた。
 ノーブラのチャイナドレスでわざとらしく駆けまわり、
 上下左右わがままに弾む胸に夢中な姿は、
 若葉君には気の毒だが我々には眼福だ。
 体が若いせいかハツラツと現状を愉しむ様は、
 なんだか若葉くん本人にも見えた。


 中国四千年の神秘は伊達ではなかった。
 酒が進み酔いが深まるにつれて、我々――私たちは
 自分が生まれた時から今の体のような気分になっていった。
 不思議なことに、彼女たちの入社以前の記憶も我が事のように思い出せて、
 会話の端々に混ざっていた。
 反対に、以前の体の事は、忘れたわけでもないのに、
 本で読んだ話のように白々しく感じるようになっていく。
 若葉など自分の胸を揉みながら、スケベな奈良山部長の文句を言う。
 必ず戻るようにと言われた12時を過ぎながらも、
 私たちは自分が変わっていく快感に抗えず、店に居すわり続けていた。
 なんとなく、元には戻れない気がしたが、心配なんてなかった。
 もう私として生きるのに問題はないし、以前の体に未練はない。


 なにより、若葉は相変わらず自分の胸を弾ませたり、押し付けたりして弄んでいる。
 私たちもその様を眺めて愉しみ、ひそかに興奮している。
 部内のアイドルらしい輝くような笑顔で、踊るように体のラインを見せつける若葉に
 私たちはとろけるような幸せを感じていた。






   【ファイナル・クエスト漫遊記ザーサイ国編ノーマルエンド
    ~魔法使いだった俺が格闘家の娘と入れ替わってもう五年目!?~】

 
 魔王の秘宝を探し当てた俺たちだったが、トラップでお互いが入れ替わったうえ、別々の大陸へ飛ばされてしまった。
 同じ大陸でも竜の巣やら吸血林やらで、行き来が困難なのに、まして別の大陸など、俺たち冒険者でも一生に一度渡るかどうかだ。
 まず今の体で生き延びて、地盤を固めることを考えたのは当然だったし、他の仲間も同じだろう。
 大陸を渡るのは何年も先になるだろうが、その前に死んでしまっては元も子もない。

 そうして、どうにか今の体に適応して、生活の基盤を作り上げたころには五年の月日が流れていた。

「あのぅ、わたし路銀を落としちゃったみたいでぇ、それでぇ実は相談があるんですけどぉ?」
「へへへへ、皆までいうない……へへ。
 ローブの下はそんなスケベなカッコしてるんだからよぉ」
「あんっ♪ ここじゃ警邏さんに怒られちゃいますよお」
「それもそうだな……ちょうどいい。これからアジトに帰る所なんだ」

 数時間後。
 オレは壊滅した盗賊団のアジトで、のされた盗賊たちの山に寝そべり自分の体を慰めていた。
 
「いやあ、終わった終わった♪ 一仕事こなしたあとのナニは、ぁんっ、格別だな♪」

 魔法使いの男だったオレは、格闘家の娘の体になり、隣の大陸に飛ばされていた。
 不幸中の幸いか、格闘家には魔法使いの適性もあり、早いうちから腰を落ち着けることができたのだが――。

「ちんちくりんのガキだったったアイツが、こんな色っぽくなるなんてな、んっ……」

 どうも格闘家は、無理な鍛錬が体の成長を阻んでいたらしい。
 オレが中身となりさほど鍛錬をしなくなってからは、一気に女らしい体つきになって、男と間違われた少女とはまさに別人のごとき、色気立つ女になっていた。
 今じゃ髪も伸ばし、魔法使い(同業者)の間でエロいと評判な、この法衣――レオタードに赤いシルクの手袋とロングストッキング――をまとい、
 こうして男の下心に取り入ることでらくらく仕事をこなしていた。
 順風満帆そのもので、近いうちに大陸を渡るのも夢ではなかったが、二つほど誤算が

「はあ……しかし今日も大した魔法も使わずにのしちまったなあ……」

 魔法使いの適性があるとはいえ、格闘家はやはり天職だったのだ。
 ほとんど鍛えなくても、そこらの男が及ばない身体能力だったし、魔法で少し強化すれば、この大きく育った胸も邪魔にならずでほぼ無敵だった。
 おかげでドラゴンとも渡り合った攻撃魔法はご無沙汰で、もっぱら植物を育てたり家を直したりと、今じゃ格闘家兼街の便利屋みたいな扱いだ。
 このままでは本当にジョブチェンジしかねないと、悩みつつも、今日も拳で解決してしまった。
 なにかと喧嘩っぱやかった格闘家の気持ちが今になって解ってくる。
 まあそうなったらそうなったで仕方ないのだが、もう一つの誤算は捨て置けない――。

「それに、このカラダ……エロくなりすぎ……」

 余韻に浸りながら、体を起こして呟く。
 なにせ女の体はイっても冷めない。
 こんなに実った胸を健康的かつ魅惑的なボディラインに乗せて、そのうえこんな露出も多くビビッドな法衣で包んでいるのだ。
 打算を働かせた服装とは言え、ほとんど自家中毒も同然だ。
 たまるものも、以前のような猛りも無いのに、オ○ニー中毒になってしまって、こうやって隙を見つけては自分の体で抜きまくっていた。
 ほんの少し視線を下に向ければ、娼婦もソレ用の鑑賞球もいらないのだから。

「ええっとぉ、この後はぁ、盗賊引き渡してぇ、報酬もらってぇ、
 新しいオーダーメイドの法衣もできてるだろうからあ、食事にまえに宿屋でえ、それ着て何回かヌいてえ―――」

 今後の事を考えるオレの頭の中でも、オナ○ーとこのカラダをいかに魅惑的に見せるかでいっぱいで、
 これではいかんという意識も、無意識にグローブの指先を口でなおすうち、その華奢な指先が唾液でなまめかしく赤に照るのを見て、かき消えていた。

「とりあえず、盗賊拘束して警邏を呼んだら来るまでもっかいスるか」

 そう決めたオレは、次の行動に移るのであった。






   【集団入れ替わり後におねがショタに援助してもらう話】


 今日は仕事帰りに、久しぶりに清彦の家へ立ち寄った。
 この所仕事が忙しくて構ってあげられなかったから、気を効かせてリクエストに応えてあげるのだ。

「競泳水着……好きって言ったよね? 今日はこれでエッチしよっか?」

 居間に入るなりパンツスーツを脱ぐと、若干蒸れた競泳水着がひやりとする。
 唐突に現れた競泳姿の私に彼は茫然としていたが、視線は完全に思春期男子の肉欲でこちらを凝視していた。

「ふふっ? どうしたの? 触っていいんだよ?」

 いつまでも固まったままの彼は想定の内だったので、服を脱ぐよう促しつつ近寄って腕を取った。

「え……あっ」
「ほらっ? ね? 触って?」
「いいの? ほんとに?」

 もう少し引き寄せれば体が密着する距離で、彼の鼻息が水着越しの胸の谷間に何度もかかり、興奮と羞恥で顔が熱くなる。
 けど、戸惑いがちに問う彼の顔はもっと真っ赤で、腕を掴んでるだけでも激しい鼓動が伝わった。
 先週寄ってからこっち、ずっと抜いていないのがすぐわかった。
 高校一年に当たる彼、いや『彼女』には辛いだろう。

 ―――統計によると、男と入れ替わった元女性は自慰を行わないケースが多いらしい。
 女性は性欲が薄いから性欲処理が不要、と言うわけではない。
 逆に、日々訴えかける男の性欲から問題を起こす者も多い。
 どうも、そういった衝動と欲求を、自分で処理することを覚える前に、元男性との性交で満たすようになるのだそうだ。
 さもありなんと言った所で、元男性は元男性で、はじめは精神に刻まれた欲求から自分の女体を愉しむが、女の体は一人では満足できない様になっている。
 力強い筋骨に抱かれ包まれた際の安心感。
 信頼できる相手と肌を触れ合わせる幸福感。
 なにより逞しいモノでナカが満たされる充足感にストロークの快感。
 それらすべて、ひとりHや女相手では得難いものだ。
 私の周りでも、はじめは男なんてと拒否していたのが、次第に物は試しと手を出していき、今では誰もが好んで男と交わっている。
 それは、援助交際が集団入れ替わり以前より遥かに一般化したことからも明らかだ。
 今や元女性たちは、稼いだ日銭を、性欲に突き動かされせっせと元男たちの快楽に支払っている。
 特に『清彦』のように、入れ替わり以前からキャリアウーマンで金払いが良く、しかも若く中性的な体になった層は、元男性からの人気も甚だしい。

「あっ……すご……」

 スリ…スリ…とためらいがちに胸を撫でる彼の、体の記憶に染まり切った初心な反応がたまらない。
 3年前に仕事で一緒になってからこっち、キープできたのはラッキーだった。

「や……やらかくてすこい……」

 スリ…ふにっ…と。
 偶然力をこめてしまったのだろう。不意に指先が胸に沈み込むと、キヨヒコは感嘆の声を漏らした。
 私は乳首の先から走った電流に『んっ』と声を上げてしまった。
 それでお互いスイッチが入ってしまったようだ。
 彼は容赦なくむしゃぶりつきはじめ、私はそれをむさぼるように受け入れた。

 冴えない40代フリーター男だった私が、大学生のギャルと入れ替わって6年。
 体の地頭の良さからITエンジニアとしてそれなりに稼ぐ日々は、『彼女』の援助もあって潤っている。
 元ギャルの記憶や人格も、いまやすっかり26歳のIT企業勤務の女性のそれに変わっている。
 言うまでも無く、競泳水着やバニースーツを自宅で纏ってオナる一方で、ショタを弄び自肉欲を満たす元男性の人格だ。






   【西山さんはトレーニング中!】

 
 同じクラスの西山はいわゆるギャルという奴だ。
 制服を着崩しクラスの行事には非協力的。真面目な体育委員の俺とはしょっちゅう衝突していた。
 そんな西山と集団入れ替わりで入れ替わった俺は、混乱する周囲をよそに、日課の筋トレを西山の体でも続けることにした。
 この体を鍛えてやれば、西山の夜型な生活リズムも改善され、
 元に戻った際には多少なりとも真面目な性格になるかも知れないと考えたのだ。
 俺の体の西山は

『まあ好きにすればいいんじゃない? 私も好き勝手やってんだし』

 と意味深な笑みを浮かべて女漁りに行ってしまったが、元の体に戻れば泣いて感謝するに違いない。
 笑っていられるのも今のうちだ。
 西山の豊満で肉付きのいい体には、男として興味をそそられなくも無かったが、
 例え周りの元男子がやっていようと本人から事前に許可をもらおうとも、手を出すなど男として言語道断。
 有言実行で筋トレあるのみだ!


 ――そうして一年が経った。

「ん!」

 一年前は、肥満ではないが見るからに運動不足で、むちむちとだらしなかったこの体も、
 見事に引き締まり、重くて持ち上げられなかったダンベルも持ち上がるようになった。
 今の体でもやり遂げたことにより、大事なのは身体ではなく気の持ちようなのだと、改めて自分が誇らしくなったのだが……、

「ん……」

 ギリギリの負荷に耐えているため、小さく呻くことしかできないが。
 ゆさりと揺れて、今なおふるふる震えている、去年よりサイズのあがった胸の感覚。
 ぴったりしたウェアで、両脚をきゅっと揃えて踏ん張っても、股間はなだらかなまま。
 びっしょりと汗をかいた全身から立ち上る、ほのかに甘い、女のニオイ。
 西山の、魅力的な女の体と、自分がそれになっている事実を意識すると、何もないはずの股の間が、ジンジンと痛いほどに疼いてカーっと顔が熱くなる。

『言っとくけどそのカラダ、相当インランだから。
 まあせいぜいガマンして鍛えたちょうだいね』

 一年前に西山にそう言われた通り、今のオレの体はなかなかにエグい火の付き方をする。
 女と入れ替わった元男の半分は、勃つ感覚が無いので性欲が減ったと言うが、
 もう半分は終わりのない女の快楽にどっぷりハマってしまっているのが現状だ。

(我慢しろ我慢しろ我慢しろオレ……! アイツらみたいになってたまるか……!)

 すっかり女が板につき、思い思いにはしたない格好をして人目のない場所で耽っている、
 元男子のクラスメイトのことを思い出しながら、筋トレに集中する。

(今は学校でトレーニング中だからな……! イタすのは家に帰ってから、、、
 かえってからだっての……!)

 かくいうオレも、西山の記憶が読めるようになってからは、少しはおしゃれに気を遣っている。
 この日のスポーツウェアも、さんざん家で迷って、最終的にそれぞれでオナっていちばんキモチよかったのを制服の下に着てきたのだ。
 お陰で遅刻ギリギリだったけど、身だしなみは大切だから仕方ない。

(今は筋トレ頑張って、、、オレの体をカンペキに仕上げないと……!
 それから家に帰ったらオナって、学校とオシャレの勉強もして……。
 ああっ、女ってホント大変だしっ!)

 入れ替わりから三年後、政府は元に戻すコストと、すでに多くの人が性的刺激による記憶読み込みで今の体に順応している状況を鑑みて、
 入れ替わり研究の支援打ち切りを決定した。









   【元子役の集団入れ替わり後】


 ※このSSはワトソン様によるシリーズ作品「集団入れ替わり事件」(https://www.pixiv.net/novel/series/1202405)の二次創作となります。


 近未来。
 発達したVR電脳空間にばらまかれたウィルスにより、人々の意識と体が繋ぎなおされてしまった『集団入れ替わり事件』。
 VRのみならず、ネットに接続しただけで入れ替わるこの奇禍により、社会は大きな混乱と変化を余儀なくされた――。

 アリー・ハンターは世界的に有名な子役だった。
 『だった』というのは彼女が子役として活躍したのは十数年前のことだからだ。
 さらさらのストロベリーブロンドに華奢な手足がお人形さんみたいと言われる反面、
 勝気な顔つきで画面の中を思いっきり動き回る彼女の姿は、今なおファンを獲得し続けている。
 現在も女優業を続けており、一定の評価を得てはいるものの、軸足は自身が代表を勤めるアパレルブランドに移っており、女優『アリー』と聞いてほとんどの人が思い浮かべるのは、幼き日の可愛らしくも活力あふれる彼女の姿だ。

「どうして女優業に専念しなかったか、ですって?
 入れ替わり事件に関係あるのか? ――そうねえ。
 ブランドを立ち上げたのはあの事件のあとだから、そう思うわよね。
 実際そうなのだから否定はしないけど、それじゃお話が終わっちゃうわよね?」

 牀(しょう)と呼ばれる寝台を兼ねた長椅子の端で、くつろぎながら語る彼女の顔は、かつての勝気な表情そのままだ。
 サングラスを外したかつてと変わらない少女然とした顔立ちが、女優の豊かで均整の取れた体と調和して、以前とは違う蠱惑的な魅力を与える。

「ま。あの時がピークだったってことかしら。
 今の私も気に入ってるし、ちゃんと評価してもらえてるって感じてる。
 あら? そう言ってくれる? ありがとう。ええ。役者冥利につきるわ。
 ――けれどね、少女の魅力は何者にも代えがたいもの。
 努力や、ええ、多分月並みな意味での才能でさえ辿り着けない神懸かりの一瞬。
 下手に拘ったりして、アナタたちファンの思い出を汚したくなかったのよ」

 招かれた中華風の意匠で統一されたリビングで、彼女は語る。
 フィルムの中の輝きには、『自分』でさえも手が届かないのだと。

「つまり集団入れ替わり事件をきっかけに、そう考えるに至ったという事でしょうか?」
「総合するとそうなるわね。だって子役やってた頃の私は考えもしなかったことだもの」

 問いかけると、彼女は細やかな口でにっと笑い、悪戯っぽく口角から舌先をのぞかせた。

「――『あの輝き』は『あの彼女』だけのもの。
 本人でさえ汚していいモノではないわ。そうでしょう?
 まして中身が別人ともなれば、ねえ?」

 そう言って、しなを作るようにアリー・ハンターは24歳の成熟した体を、こちらへ向けた。
 部屋の雰囲気にあったボディコンめいたチャイナドレスは、布地の少ないホルターネックが、彼女の顔よりも大きい爆乳をバンドのように支えている。
 男だけでなく女ですら注視せざるを得ないボリュームだが、不思議とだらしない感じがしないのは、その肩から二の腕、指先まで良く引き締まっていて、ほのかに筋肉質でさえあるからだろう。
 肉付きの良い腰回りも、爆乳と見事に調和していて、クイと指先で紐をひっかけた所作に、思わず生唾を飲みこんでしまった。

「―――ええっと……。
 確かアリーさんは、体の記憶も読み込み済みで、人格も完璧に調和している。
 『アリー・ハンター』として扱って差し支えない、ということでいいですね?」
「アリスに聞いたのかしら?
 ――ふふ。あの子ったら仕方ない……え、違うの?」

 ムチムチしながら決して太い印象を与えないふとももを組むと、
 柔肉をきゅっと締め付ける黒いサテン地のロングストッキングがたわんで艶めかしく照明を反射した。
 私も半ば無意識にタイツに包まれた脚を擦り合わせている。
 なんとももどかしい気分でひそかに火照り気味の鼓動を感じていた。

「はい。アリス社長もいろいろ教えてくれるつもりのようでしたが、控えさせていただきました。
 なにぶん彼女も多忙の身ですし」
「へえ……。どうやって調べたのかしら? 個人情報はプライバシーで照会できないはずなのに」
「大したことじゃありません。
 事件後の経歴やアリス氏の紹介と言う点から、ある程度の察しはつきましたし、今までの取材や調査した事例からも可能性は高いな、と。
 その後、伝手を辿って関係者から裏を取っただけです」
「簡単に言うのね。こっちも隠してたつもりはないけど、そこまで人に言ってもいないのに。
 ――ま。好きな事ならなんだって『大したことじゃない』かしら?」

 核心をつくような発言に、お互い思わずニヤリとしてしまう。

「本音はそっちよね。この手の話題なら、アリスも予定なんて気にしないもの。
 私もよ? 秋用や冬用の『水着』を売り出したのは、もとからそういう絵をSNSにあげていたから」

 アリーさんは、中国の男性向けアプリゲームでイラストレーターをしている中国人男性と入れ替わっていたのだ。

「そうね。とはいえ有名どころとは縁遠い、私自身の画力もまあお察しと言った所だったけど。
 そういう所も貴女とは仲良くなれそうじゃない?」
「あははは……」

 曖昧に笑って返す。
 そう言えば、お互い20代前半で、入れ替わり前の年齢も確か同じくらいだったはずだ。

「あっちの方の歳は忘れちゃうわよね。もう関係ないもの。
 あら? 貴女は懇意にしてるの? 私なんかはお情けで雇ってはいるけどもう何年も会ってないわ。
 家族ももういないしね。
 ――へえ。援交。体の相性がいいのかもしれないわね。
 ちょっと羨ましいかも。私も久しぶりに今度会ってみようかしら」
「ええ、いろいろ面白いですよ? お金よりも反応が楽しいですから。
 なにより自分の体がもっと好きになれますし」
「自分のってそれどっちぃ?」
「えへへ♪ ご想像にお任せします♪」

 自分でもちょっとあざといかなってくらいの可愛い声ではぐらかす。
 その後も互いに談笑を続ける。いろいろと。

   ◇

「――ええと、それでどこまで話したかしら。あんっ、もう、ちょっとお♪」
「はぁはぁ、ああ、ごめんなさい、、、綺麗だったから、つい、、、」
「まあ、傍に抱き寄せたのは私だったし、、、―――ああ、そうそう。どうして事業を立ち上げたか、かしら?」
「ええ。ホームページやSNS、雑誌などのインタビューでは『だれもが自分らしい衣装を』と度々言っておられますね?
 ――失礼ながら、入れ替わり後では有り触れた社是だと思いますが」

 長椅子の端へ寄って、乱れた衣服を整えると、気持ちも切り替わる。
 多少踏み込んだ質問に、アリーさんは笑うと

「手厳しいわね。でも嫌な気分じゃないわ。
 敏腕記者の手腕といったところかしら?
 ――ええ。それは表向き。
 さっきも言ったけど、えっちな格好をした女の子が好きで、それを仕事にするほどだったから。
 この体になった後も、それを仕事にしようと思ったの。
 女優業を続けても良かったんだけど、自信が無かったのよね。
 もともと自分の事じゃなかったからか、記憶を読んで彼女の演技は出来ても、『あの頃のアリー・ハンター』には到底届く気がしなかった。
 いいえ、汚してはいけないと思った。
 けれどあの入れ替わりの混乱期に、お芝居以外何もできない、中身のイラスト技術も100RT行けば快挙の半端もの。
 そんな元おっさんの小娘に何ができるか考えた時、男の時には無かった衣装の知識が溢れてきたの。
 子どものころから業界にいたから、相当に詳しかったのよね。
 それもただの服装じゃない。ここではない、刺激的なSFやファンタジー、時代物の衣装の数々。
 ここではないどこかを描いた人々の夢の結晶。
 それらでカタチづくられた架空の物語の殿堂。

 これだ、と思ったわ。
 私の好きな、えっちな女の子たちを、現実のものにする。
 胸を打つような衝動に駆られてはじめたの。

 知識をイラストに落とし込む技術、それを元にデザインする服飾の技能。
 それから会社経営や売り込みの方法。
 全部ゼロから勉強して身に着けたわ。
 貴女も覚えがあるんじゃなくて?
 頭のスペックがいいから、かつての知識だけでも、ずっと優れた結果が出せる。
 それが楽しくて、以前なら考えられないほど学習に打ち込めて、より優れた成果を手に出来る。
 
 貴女も言ってたけど、お金じゃないのよね。
 純粋に楽しくて仕方ない。
 そうしてお人形みたいに可愛らしい少女や、活発で健康的な女の子、全身柔らかくてちょっとだらしないのが嬉しい美人さん。
 何より華やかな美貌にびっくりするくらい大きな胸の元子役――」

 そう言って彼女は私に散々押し付けたり挟んだりした二玉のスイカを、誇るように持ち上げてみせた。
 果実と言うよりはおもちか大福みたいにずっしりとした質感が視覚から伝わる。

「――彼女たちが、好きな時に好きな場所で、こんなに際どい恰好をする休日の街の大通り。
 昔はたまに妄想するくらいで終わってた、そんな世界が少しずつだけど実現してきている。
 ねえハルカ? 貴女ももう、気付いてるんじゃない?」

 彼女は『私』の名を呼び、問いかける。

「もうこの世界は元には戻らない。
 だって動機がないもの。
 世界を元に戻せる人達には。
 権力を持った人々は大抵が高齢で、実質は若返りだわ。
 能力を持った人々は、体に付随するその力を手放したくはない。
 むしろその逆ね。
 彼らは新しく手に入れた、若く、美しく、優れた体を使って、自分にとって都合のいい世界を作り上げていく。
 例えば政治――入れ替わった人たちが、暮らしやすいよう制度を整えて、外堀から戻る理由を解消している。
 例えば経済――入れ替わった人たちが、より楽しく、より快適に過ごせる事業が、今日この時も新たに生まれては受け入れられている。
 元に戻る確かな方法が見つからないこの現状では、手放すことなんてもう誰にも出来ない。考えることさえしない。
 五年以上経つんだもの。この世界を否定するなんて誰にもできはしないわ。
 悪しき支配者の陰謀なら、敵を倒せば終わるけど、現実に創り上げたのは多くの人の総意。
 多分、今戻る方法が見つかったとしても、みんなこう言うんじゃないかしら?
 『余計なことをしてくれるな。俺たちは今の体がいいんだ。その技術は世に出すんじゃない!』って」

 心底楽しそうに。
 しなやかな女豹のような視線で語る彼女に、私は記者として、公平な立場から。

「大陸の方は考えることのスケールが大きいですね。
 まあ。そういう可能性もあるでしょうが、何が起こるかわからないですからね。世の中って。
 俺は今を楽しむだけですよ」

 話しているうちに、適当なフリーライターだった中年男『蒲田明夫』としての自分が顔を出していた。
 もっともこの体の小鳥のような可愛らしい声だと、多少低くしてみた所で、なんだか女の子が虚勢を張って男の真似をしてるようにしか聞こえないんだが。

 今の体――入れ替わり当時はまだ裕福な家庭の女子高生だった――『相澤遥』になって随分と経つ。
 かつてのフリーの記者としての知り合いや冴えないおっさんをやっている元遥ちゃんには『俺』として接しているが、
 記憶も人格も自分のものになった以上、相手に応じて『自分』を替えるのは当然だった。
 自然、『相澤遥』としての知り合いも多くなってきて、普段の考え方も徐々に『私』寄りになりつつある気がする。
 明確にどこからどこまでとも言えなくて、ただ単に理屈の上ではそうなるという話なのだが――。
 現に、誰に言われたわけでもないのに、今の『アリー・ハンター』なら、雑誌社の敏腕女記者(に成り代わった冴えないおっさん)として振る舞った方が喜ばれると。
 そう考えて、相澤遥寄りで対応していたのだが、さて、かつての俺はそこまで自然に気が回ったか。
 まあ要は、目の前の彼女や紹介してくれたIT会社社長ほどではないが、俺もこの20代前半の女としてのアイデンティティを獲得しつつある最中なのだろう。
 うだつの上がらないその日暮らしの中年記者でも、育ちのいいテニス部所属の元気な女子高生でもない。
 集団入れ替わり後のトレンドをおさえた記事で、世界的なセレブからも注目を集める、スタイルのいいやり手の女記者――そういう『新しい自分』をだ。

 それを以前の自分が失われるんじゃないかと気にしていた時期もあったが、件のIT会社の女社長(中身元男)による『特訓』で、
 『蒲田明夫(俺)』と『相澤遥(私)』の意識が両立し、混在するようになったことで、どうでもよくなってしまった。

 アリー氏に言った通り、この先何が起こるかわからないんだから、今を楽しむ方が得なのだと。
 俺は開き直るようにふんぞり返って脚を開き、鼠蹊部と股間を惜しげもなくさらしてみせた。
 すると目の前の相手も楽し気に深く頷いて。

「そうね。だからこれは『私はそう考えるし、そうするだけ』と言う話。
 でも、アリスも同じ考えなんじゃないかしら。
 きっと世の中の富裕層や権力者はみんなそう。
 貴女も、多くのエスタブリッシュメントが愛読する記事の筆者なんだから、自信と自覚を持ちなさい?
 この集団入れ替わり後の世界の構築に加担してるんだって。
 言ってくれれば、すぐに私たちの仲間に加えてあげるわよ?」

 ふむ。中国人は面子を気にするので、あまり無碍に断るのもよくないのかもしれない。
 それとも今はイタリア系アメリカ人なので、関係ないのだろうか。
 個人的に興味深くなくはないし、どうしたものか。

「なんてね♪ 無理強いしたってしょうがないわ。
 なによりこんな話をできるほどの人に嫌われたくないもの♪
 流石に誰にでもしてるわけじゃない。
 アリスとだってここまでの話はしなかったんだから、まずはそれを喜ぶとするわ。
 ついつい私の野望――いいえ、理想を語ってしまう相手に出会えたことをね。
 まだ時間はあるでしょう?」
「ええ。貴女さえよければ」
「ふふ。なら好きなだけ愉しみましょう。今日はそのつもりで、貴女にその服を用意したんだから♪」

 そう言われて自分のしなやかなボディラインをぴっちり包んで描き出す、チャイナドレスと競泳水着の合いの子みたいな衣装を見下ろした。
 中華風の赤白と煌びやかな金色の龍が彩らる双丘越しの、余分な肉のないお腹。
 その先のなだらかな白い股間は、タイツに包まれた太ももと三角地帯を描き出している。

 ほとんど知識のようになってしまった男の感覚の代わりに、湧き上がるむず痒い感覚そのものに体が熱くなりながら。
 ひどく赤面した顔で一言。

「まったく、意地が悪いですね? 」
「可愛い子はどうしてもいじめたくなっちゃうもの♪ そうでしょ?」

 その言葉に、じっとりと視線は、因果応報と獲物を狙うものに変わっていた。

 ◇

 後日、彼女が複数の企業と合同で発表したのは、俺が着ていたのに似たチャイナドレスめいたデザインの競泳水着型ウェアラブル端末であった。
 会見では、AIによって半自動的に登録から認証がハンズフリーで行われる様子が流れていた。
 彼女たちはこれを着て生活するスマートシティの構想を語り合ったと言うが、さてどうなることだろう。

 そんなことを電車の座席で考えながら、視線はスマホのニュースサイトに落しつつ、
 こちらを凝視する元女と思しきいがぐり頭の青年を、スーツのミニスカートから覗く脚を組み替えてからかっていた。


 (終)




 


【この■■はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません】


 こうして作品を書きあげた私は、しっかり保存とバックアップを行い、執筆ソフトを終了させ、PCをシャットダウンさせました。
 もとはごくごく個人的な楽しみのために書き散らした乱文です。
 ですが、せっかくの機会を得たので、こうして人目に触れさせようと決めたのです。
 欲望のままに、さしたる推敲も無くつづった、執筆と言うさえおこがましい拙文の集まりではありますが、数を重ねれば輝くものも現れると言います。
 その言を信じて、これはと思うものを(多少手を加えつつも)そのままに、皆さまのお目に触れさせるに事とした次第なのです。

 もちろん、以上の全てはフィクションであり、現実に起こったことではありません。
 いくらか現実と重なる要素もありますが、基本的には有り得べからざる物語なのです。
 そうであったならと思うことも無くはありませんが、どうあれ手が届かない以上実現を想うのは不毛でしょう……。

 私は疲れた目を宙に向け、しばしマッサージを行った後、空気を入れ替えるべくチェアーから立ち上がりました。
 黒いニットのセーターに包まれた、折れそうな細腕の付け根で、相反するようなボリュームの胸が、ひとつ躍動します。
 地味なジーンズを履いた、腕同様に病的一歩手前の華奢な脚を動かして窓際へ。
 少し力を込めた後開いた窓からは、昨日今日で一息に秋めいた空気が流れ込み、烏の塗羽色の長い髪をさらいます。

 窓の外には昨日と変わらない街の通りがありました。
 ごくごく当たり前となった、街の日常の風景です。
 

 例えば甲冑を来た若い女武者が歩道を行き。
 白銀の鎧に包まれた騎士が馬と共に車道を走る。
 ボンテージを思わせるボディースーツの女性は蛮族の女戦士でしょうか。
 戦装束以外の現代的な服装をした青年や少女も見かけますが、見目麗しい人が多く、そうでない人も強烈な印象を与える個性的な顔立ちです。
 山脈の上に浮かぶ大水晶。
 遠くに霞む世界樹。
 ――それは、地上に現出した常磐の祭日。

 街の外の空を行くワイバーンに目を向けながら、私はひとつため息をつきました。

 なんのことはありません。
 世界が変わったのは数年前の事。
 これまで数多のフィクションの中で巻き起こされた事態を、現実が引き受けたというだけの話です。
 詳しい所は知る由もありませんが、世界の暗部で狂気にかられた魔術師(魔術師!)がひとり。
 曰く「霊的に劣った現生人類は地上の支配者に相応しくない」「過去の偉人・英雄たちに、『現在』を譲り渡すべき」と。
 要は歴史上の優れた人間と現在の人間を入れ替えて、より良い世界を作り上げようとしたらしいのですが、それでは歴史に矛盾が生じてしまいます。
 世の中を動かした人々が別人にすり替れば、つじつまが合わなくなり、世界が滅びてしまう……。
 当然のようにその企ては阻まれましたが、その際に事故が起こりました。

 発動する入れ替わりの術式、介入する世界の守り手、歪みの傍から修正を始める世界そのもの。

 なにもかもが複雑に、或いは乱雑に混ざり合った結果、過去の偉人たちとまるまる入れ替わるのではなく、
 私たちの『要素』が交換されたことで、世界の矛盾は回避されたのです。
 それは屈強な肉体であったり明晰な頭脳であったり卓越した精神であったりと。
 世界を保障するための『要素』はあちらに残り、それ以外の全てが我々と交換されました。
 まだ物理法則が定かならない時代とも交換が行われたことで、つじつま合わせに、世界の法則も一部塗り替わります。
 窓から見える世界樹や飛竜はその一例です。
 
 ワナビーな独身男性であった私も、中古の女流作家と入れ替わりました。
 多くの方々がそうであったように、その体が。
 加えていくらかの記憶や人格の一部。
 他にも気づいていないだけで、入れ替わったものは多くあるのでしょうが、外面はまるごとに。
 内面もモザイク状に混ざり合った今の『私』では、もはや知る由もありません。

 何故私がと考えたこともありました。
 たしかにこの作家に影響を受けた所もないではないですが、他にもっと縁の深そうな人がいそうなものなのに。
 完全に内面が入れ替わった人や、混ざり合って壊れてしまった人と比べれば幸運であるとは自覚していますが……。
 この文(ふみ)を紡ぎ出すのは、果たして私か『彼女』か――。
 そのもどかしさから逃れるのは、世界が元に戻らないと判った以上、叶わぬ願いとなってしまいました。

 それでも。
 こうなってしまったことには何か意味があるのだと。
 彼女の要素を手にした者として、歴史に名を刻んだ作家に恥じないよう、今日もこうして書き続けるのです。
 書き続けるしかないのでしょう……。

 ふと顔を上げると、窓ガラスに映った私が目に入ります。
 華奢な手足に相応しい、ほっそりとした白い面立ち。
 そこにほんのりと切なげな朱がさしていました。
 その事実に、さらに朱は深まり、私はジーンズの中に差し入れた冷たい指先を、蜘蛛のように動かしながら、秘所を刺激し続けるのです。

 
 (了)

 












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