狐巫女と入れ替えられてエッチな術をかけられる

 

 

大学の講義も、アルバイトも無い休日。そんな日に原付を飛ばし、見知らぬ土地を一人走る。西原裕介(さいはらゆうすけ)は、そんな自分の習性を今日ばかりは呪いたくなった。

天気予報も確認して、空は青々としていたのに。晴れ渡る空の中、急に雨に降られてしまったのだ。天気雨の事を『狐の嫁入り』とも表するが、物珍しい物に出会ったものである。

特に外に居なければ、この珍しい光景を楽しめただろうに。

 

「くぅっ……どこか雨宿り出来る所って無いのか……?」

 

 初めて訪れる場所なので土地勘なども無い。アスファルトの両脇に木々が生い茂っているだけの、山を突っ切る道路に入り込んでしまっていた。

この道の先には何があるのだろう、という好奇心が突っ走った結果である。ここからUターンしたとしても、しばらく雨をしのげるような建物は無い。わずかな可能性に掛けて、原付のスピードを上げる。

 

「ん……あれは神社、か?」

 

 ふと、右カーブを曲がったあたりに鳥居が有る。数十段ほどの石階段を上った先に、何やら古めかしい神社が見えた。

鳥居の朱色が割と明るい事から、決して放置されている御社(おやしろ)では無さそうである。雨宿りがてら、参拝したとしてもバチは当たらないだろう。

そう考えた裕介は、車両を止めて石段を一段飛ばしで駆け上がってゆく。

 

「ふーっ……そんなに濡れずに済んだか」

 

  リュックサックを軒下に置かせて頂き、財布から十円玉を取り出す。雨除け料金を賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼。

さて、これからどれぐらいで雨は止むだろうかと座り込んでスマホの天気予報を確認しようとした、その時。

 

――もしもし」

「ひゃいっ!?」

 

 声を掛けられるとは思わず、裕介は驚いてしまった。後ろを振り返ると、声を掛けてきたのはこの神社の巫女と思わしき人だった。

そう判断したのは、彼女が白い小袖に緋色の袴といった、年末年始の神社でしか見ないような巫女装束に身を包んでいたからである。

長い髪を後ろで結っていて、下駄を履いていながら動きにくそうな様子もなく。巫女服を着慣れているかのような感じを裕介に与えた。

 

「すみません。少し雨宿りする場所が欲しくて。コチラって部外者は立入禁止でしたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ただ、これから雨足も激しくなってくるみたいで。良ければ、屋内までご案内しますよ。御社殿とは別にはなりますけど」

「そんな、悪いですよ。僕はここで十分ですから――

 

 そう裕介が言いかけた途端に、空は急激に暗くなり雨は激しさを増す。風も吹いて、屋根の下にいても濡れてしまいそうだ。

確かに、外で待ち続けるのはジトっとして暑いだろう。靴も少し濡れて心地悪い。裕介は、彼女のご厚意に甘えることにした。

 

……ご迷惑でなければ、よろしいですか?」

「ええ、構いませんよ」

 

 巫女服の彼女はにこやかに微笑み、少し歩きますからと和傘に入れてくれる。

ちょうど御社殿(ごしゃでん)の裏に、神主の住居と思われる建物があった。ガラガラと玄関の引き戸を引き、二人で上がる。

 

「お邪魔します」

「客間にご案内しますね」

「あ、有難うございます……

 

 毒を食らわば皿までとも言うが。ここまで来てしまったならもう、変に玄関に留まるのも却って巫女さんの迷惑になるだろうと思い、裕介は上がらせてもらう。

(ふすま)を引き、畳の客間に案内された。

 

「すみません、私は神社の作業がありますので一旦失礼します。雨が上がるまで、ごゆっくりお過ごしください」

「ああいえ、わざわざありがとうございます」

 

 そう言って巫女が部屋の襖を閉める。座り込んで、もう一度スマホ画面で検索する。GPS情報で、ここの神社の名前も分かった。

玉替稲荷(たまがえいなり)神社、というお稲荷様を祀っている神社のようだ。神社の階段を上るときに、狛犬の代わりに狐の石像があったことを裕介は思い出す。

天気情報の方はというと、これからしばらく降水確率90%のようで。

 

「しまーったなぁ……小雨になったら無理してでも帰らないと」

 

 畳部屋の窓の向こうでは、ザンザン降りになった雨が裕介を閉じ込めるかのように音を鳴らして。

暗灰色の空が、さっきまでの天気雨など噓だったかのように広がっている。ゴロゴロと、雷まで鳴る音がしてきた。

クーラー入りの部屋にいる事は幸せだったが、ここをいずれ出ていくことを考えると少し憂鬱になる。

 

……これ、帰れるのかなぁ」

「しばらく滞在されます?」

「うぉっ」

 

 振り返ると巫女さんが、お盆に小菓子と麦茶を持ってきてくれていた。

そこまでしてくれているとは思わず、裕介も恐縮するが巫女は別に提案をしてくる。

 

「申し訳ないのですが、少しお休み頂いた後で良いので神社の仕事を手伝って頂けないでしょうか。出し抜けにすみません」

「僕でよければ。雨宿りだけさせていただくのも何ですから」

 

 個包装のミックスゼリーを何個か頂き、リュックの荷物を部屋に置いて、再び神社の御社殿に向かう。

行く先がてら、気になったことを裕介は質問した。

 

……しかし、作務衣は巫女服ですか。普段からそうなんでしょうか?」

「いえ……今日は儀式がありまして。コレはそのための衣装になります」

「それはまた、お忙しい所にすみません」

「いえ。偶然いらっしゃったとはいえ、大事な御客様ですから」

 

 作業としては、軒下から供え物を置くための幣殿に運び込まないといけない儀式用の荷物が何個かあるため、それを運ぶ手伝いをして欲しいとの事だった。

十数個ほどの段ボールを、二人で両側から持ちこむ。何往復かして、ようやく運び終えたころには2人とも汗ばんでいた。

 

「んしょっと……これで全部ですね。やっぱり男手があると助かります」

「いえいえ……そういえば神社は巫女さんお一人、なんですか?」

「普段は何人かで作業するんですけど、今日に限って言えば一人ですね。……そういえば、作業までさせて私は名前も名乗っていませんでしたね。

稲城(いなしろ)三尾(みお)と申します。家の方針で、名前の方で呼んでいただけると助かります」

「あぁ、そういえば自分も名乗っていなかった。西原裕介(さいはらゆうすけ)です。ミオさん、ですね。段ボールの中身、出しますか」

 

 段ボールから、新聞紙に包まれた儀式用の剣やらが出てきた。それらを一旦床に広げる。神社の内側に入り込むことなど殆どない裕介にとっては、少し物珍しい光景だった。

焦げ茶色の建物に、榊の葉や金色のお祓い棒のようなものが並ぶ。御幣(ごへい)と言うのだとミオに教えてもらった。供え物の台にも、山盛りの塩や米粒、お神酒が入っているだろう容器。

そして最奥部に、なにやら大きな鏡のようなものを運ぶ。

 

「ありがとうございます。細かい物は私が並べますね」

「そうは言っても結構な作業ですよ、これ。お休みかもしれないけど、誰か呼んできた方が良いんじゃ……?」

「私一人で問題ないですよ。それに……これから執り行う儀式には、あまり人が居ない方が良いんです」

 

 そう笑ったミオは、次々と締縄や榊立てを配置し、白木の台を組み立ててお供え物を置く台、三方(さんぼう)の用意までしてゆく。

手伝うべきだとはわかっているが、裕介には何をするべきか分からず。正座で座ったまま、彼女の動きを目で追うことしかできなかった。

 

「その……人が居ない方が良ければ、僕が居るのってマズいんじゃ……?」

 

 恐る恐るミオに尋ねると、彼女は変わらない調子で返す。

 

「いえ、裕介さんには。むしろ儀式に参加して頂きたいと思っております」

……ほんの行きずりの者ですけど。問題は無いんですか」

「儀式を見届けて頂くだけで十分です。しばしお待ちを」

 

 全くこの神社と無関係の自分が、儀式を見届けるなどと、そんな重要そうな役回りをして良いのだろうか。裕介は何を質問したらいいやら分からなくなってしまった。

それっきり、雨の音と木の床を踏む音以外は、何もしなくなってしまう。

 

――準備、できました。どうぞ畳の所までお上がりください」

 

 本殿の一番奥、鏡が中央に飾られている場所まで階段を登る。正座をするのと同時に、ファーンと雅楽の音がする。音のする先を見ると、どうやら無線の小型スピーカーから鳴っているようだ。

 

「本来なら私達で演奏するのが筋なのですけど、そこは楽をさせてもらいます」

「そういうものなんですか……?」

「他の所でもそんな感じですよ」

 

 神社の神秘性が少し失われたような感じを覚える裕介。畳に再度正座する。頭を下げると、ミオの振る金色の御幣がシャラリ、シャラリと頭を払う。

彼女が御神体である鏡を前に、祝詞(のりと)を唱え始めた。

 

掛巻(かけまく)(かしこ)稲荷(いなりの)大神(おおがみ)――

 

 女性の声ながら、アルト気味に良く響く。歌うようで、独特の音程と抑揚をつけられた発音。長く聞いていると、少しくらくらしてくるような感覚に囚われて。

しかし、裕介には聞き続けなければという不思議な使命感すら湧き上がる。

 

――()()(まもり)()()(まもり)()(まもり)(さきわ)()(たま)()―― (かしこ)()(かしこ)()(もう)()――

 

 最後のミオの発音の後、何も音がしなくなる。外の雨すら、止んだかのように。振り返り、ミオは裕介に近づいて目の前に座る。

 

「準備は整いました。それでは、儀式を――

 

 そして。彼女は突然、裕介の唇を奪う。ここでようやく、自分が金縛りのように動けなくなっていることを裕介は確認した。

ミオの為すがまま、抵抗する事も受け入れる事すらも出来ず、ただ舌で蹂躙される。裕介は何か、奇妙な感覚を味わう。

『自分の身体にある芯棒を、丸ごと引き抜かれるような感覚』。痛みや気持ち悪さは無い。しかし、急流に飲まれてしまうかのように自分の身体を制御できない。

 

「んちゅ……♡♡♡ じゅるるっ……♡♡♡ ごくんっ……♡♡♡

 

 艶めかしい音を立てて、ミオは裕介の口から『何か』をどんどんと奪い、飲み込んでゆく。裕介には、もう座っている感覚すらない。

キスをしているのと、そこからどんどんと自分が漏れ出していることしか知覚できない。

 

「っ…… ごくっ…… はぁっ……♡♡♡

 

 そして。『裕介』は全ての感覚を失い、意識を手放す。暗闇に落ちる寸前、ミオの熱い息遣いを感じながら――

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 頬にサラリとした感覚。畳で眠っていたようだ。

 

「んうぅ……ん?」

 

 自分の唸り声が、妙に高い。枕にしていた腕が、妙にすべすべしていて綺麗だった。上体を起こす。

――違和感。見下ろすと、さっき来ていたはずの黒いTシャツが無い。代わりに白い和服に、赤い布が脚元にかかっている。

 

「へ……胸、が……?」

 

 胸部の服の下に何かが入っている、ように見えた。丸いでっぱりがそこにあって。

取り出そうとすると、柔らかい感覚と同時に『自分の皮膚が触られる感覚』があって。裕介は混乱する。

 

「え…………ぇえ?」

――気がつきましたか」

「は……!? うわぁっ!? えっ何っ!?」

 

 そして『裕介』をより驚かせたのは。自分の顔、自分の姿をした人間が話しかけてきたことだった。

目の前にいる、自分でない自分。完全に取り乱し、びっくりして逃げるように壁に縋る。

 

「ちょっと待って、これ何なの!? 変な夢でも見てるのか僕!?」

「ありゃりゃ……すみませんね、やっぱり驚いちゃいますよね」

 

 てへっ、と笑って見せる『自分』。余計に気味が悪い。驚いて立ち上がったときに裕介はようやく気がついたが、胸の膨らみはまるで自分にくっついているかの様に動いている。

そして何故か、自分は先程のミオが着ていた巫女服を纏っていることに気がついた。

 

「んーと……少しコレを見てもらえますか?」

 

 『裕介(じぶん)』の姿をした人間が取り出したのは、下敷きぐらいの大きさの鏡。

――そして、そこに映っていたのは。裕介の姿ではなく、この神社の巫女であるミオの姿であった。

理解が追いつかず、数秒ほど絶句。

 

…………物凄いVR技術を見てるのかな、僕」

「だとしても、身体の感じ方や、声は誤魔化せないですよ?」

 

 そんな事が起こりうるのかと裕介の常識が拒否しても、あらゆる出来事が――着ている服や、身体の違和感、高くなった声、胸の膨らみ。

目の前の『自分』といった全てが、その現実を突きつける。お互いの身体と精神が入れ替わっているという現実。その上。

 

「えっ……じゃあ、この耳って……

「そっちが本物の耳ですね」

 

 黒色をしていたミオの髪は、銀白色になっていて。その上、頭頂部にモフっとした毛に覆われた獣のような三角耳が存在していた。

ソコをおさえると音が聞こえづらいし、元々耳があった場所には何もない。

 

「な…………ミオさんって……人間じゃ、ない……!? その上、入れ替わってる……!?」

「てへへ」

 

 頭が爆発しそう、とはこの時を言うのだろうと裕介は思う。言葉が出ない裕介をヨソに、自分の姿をしたミオは裕介の身体をペタペタと触る。

 

「健康な肉体に……うん、案外筋肉もありますね。ちょっと童顔っぽかったから意外……

「自分の口で自分(ボク)の分析するのやめてもらえますか!?」

 

 口にしてようやく、異常なことではあるが実感として腑に落ちる。自分は今、ミオという女性の身体になっている。

おっぱい、と分かって初めてそこを見ると、人の身体にこんなにおおきな膨らみがあるというのは不思議でしかない。

恐る恐る、下から持ち上げるようにして抱える。巨乳の人は肩が凝る、と言う話を聞いたことはあるが、意外に重みがあった。

 

……すごい」

「あらあら、そう観察されると困っちゃいますねぇ……ねぇ、もっとよく見てみません?」

「あっごめんなさ……じゃなくって!」

 

 全く困った風でもなく、むしろ面白がっているミオに裕介は、ようやく聞きたい事を絞り出す。

 

――入れ替わり、ミオさんが起こしたんですよね……? なんで僕なんです……? さっきの儀式は……!?」

「そうですよね、分からないままだと余計に混乱してしまいますね」

 

 壁に背中をつけ、二人並んで話す。三角座りしようとしたが、ミオ()()身体(自分)は袴を着ているのだと思い直して、正座する事にした。

 

――私、人間ではないんです。この神社で巫女をさせて頂いていますが、稲荷神(いなりしん)にお遣えする仙狐(せんこ)の一族なのです」

 

 そう言ってミオは――裕介の身体を操る彼女は、手で何やら印を結ぶ。すると、背後から銀色の煙のような物が3本立ち上る。

ユラリと揺れるそれは、尻尾のように靡くが実体を持たず、掴むことはできない。

 

「尻尾の数は仙人としての力と思っていただいて。私は三尾(さんび)の白狐――今は、修行の一環として色々な儀式や術を修めている途中なのです」

…………ぅゎぁ……

 

 余りに非日常的光景を目にし続け、口をパクパクさせることしか、今の裕介にはできない。しかしミオは更に説明を続けるのであった。

 

「それで……今日は房中術の実践の日にあたるのですが、種族の関係上で肉体(カラダ)を交えて子を為すには『狐の嫁入り』の日でないといけなくて。それで、儀式を今日執り行う事になったのです」

「房中術……? 身体を、重ねるって……いやそれより、なんで入れ替わりの必要が……

 

 その術名に裕介は聞き覚えが無かったが、天気雨の日でないとできない術だと解釈する。しかし、身体を替えられた理由については尋ねておきたい。

 

「私たち仙狐……というよりは。仙人や妖怪の類は、人間(ヒト)と違う次元と空間を生きています。時折出現する、違う次元の存在を感知するのに長けている人間が『霊感の強い人』と言われます。ですが、身体を重ねるような行為は、同じ種族、同じ次元に存在できる者同士しかできません」

 

 自分の口で、自分ではない者が喋るのは少し薄気味悪い。動画で撮影した自分を見ているような感じだ、と裕介はわずかに辟易する。

 

「ですが。魂は人間のものでも、身体は仙人という状態にすれば。同時に、魂は仙狐でも身体は人間という状況なら。ちょうど同じ次元に同調が可能になるんです」

――つまり僕は、半分仙人みたいになってると?」

「そんな感じです」

 

 裕介は、自分(ミオ)の鼓動を感じ取っている。自分じゃない身体を、自分で動かしているというのはよく分からない感覚だった。パニックも落ち着き、先程してしまった行為を思い出して、再び冷や汗。

 

……ぁ。おっぱい触ってしまって、すみませんっ……!」

「おやっ? それを今更気にするなんて」

 

 クスクスと笑うミオはその乳房をムニュ、と軽く摘む。乳首を触られたときの過敏な感覚に、思わず裕介も声を上げてしまった。

 

「ぅぁっ……

「あはは、元の私よりもエッチな声だしちゃったら、私の立つ瀬がないじゃないですか」

 

 裕介の身体でミオは、前に回り込んで三尾(ゆうすけ)に迫る。傍目から見たら壁ドンのようにして、二人の身体が密着する寸前まで近づいた。自分の姿なのに、妙に圧が有るかのように見えた。

 

「っ……

「『房中術(ぼうちゅうじゅつ)』、男女の交合によって不老長生を得ようとする養生術の一つです。素女経(そじょきょう)にもある、古くからの仙術に則るもので」

…………男女の、混合?」

「身も蓋も無い事を言うと、セッ〇スですね」

 

 突拍子もない単語が飛び出し、思考が固まる。裕介の頭の中で、一つの疑問が浮かんだ。今から『それ』をする? 稲城(いなしろ)三尾(みお)の、女性の身体をした自分が、西原裕介(さいはらゆうすけ)の身体を操るミオと? 

つまりそれは――

 

――ボクが女の子になってソレをするって事ですかぁ!?」

「『(オトコ)』として房中術を行うのは私も初めてで。今から楽しみですね」

 

 裕介(ミオ)が言うなり、三尾(ゆうすけ)の履いている袴の内側へと腕を差し入れる。そのまま、人差し指が直接肌に触れる。指先のひんやりとした触覚が、直に伝わる。

 

「ひゃうっ!? な、なんでぇっ

「ご存じですか? 巫女さんって袴の下は何も着けないのが正装なんです」

「だからってぇっ……んうっ

 

 その愛撫の仕方は、『慣れている』かのように的確に責め立てる。スジをなぞり、ぞわぞわとした感覚を与える。

しかし、不快ではない。自分(ミオ)の鼓動が早くなるのを感じる。抵抗しようにも、相手は自分の身体なのだからやりづらい。やがて、ナニカが剥かれる感じ。

 

「ん、うぅぅ……

「裕介さんは見れないですけど、今クリ〇リスの皮を剥いたところです。気持ちよくなれるよう調整はしたつもりですけど、どうですか?」

「調整、ってぇぇっ……♡♡ なんか、ジェットコースターで落っこちた時みたいなぁっ……

 

 身体が重力から解き放たれるかのよう。漏らしている訳ではないのに、股の所が何だか湿っぽく感じる。

指での責めが少し強くなり、おマン○を時折押すかのように圧力がかかる。ただそれだけの動きで、じわじわとした心地よさが、身体を暖める。

 

「私の身体だから、気持ちよくなる方法だって知ってるんです。こうやって、息を掛けると――

「ぁ――ひゃぁぁぁぅ♡♡♡

 

 袴の内側に頭を入れた裕介(ミオ)が、ふぅっと息を吹きかける。それがク〇トリスに当たる、瞬間に三尾(ゆうすけ)の腰がぴょんと跳ねてしまう。

男の時、自分でシたときの浮遊感、それが何秒にも渡って続く。快楽に殺される、そんなイメージすら頭によぎる。

 

「そうだ、裕介さん。今は女の子の身体になってるんですから、それを楽しまないと。折角だし、自分のお〇ぱいを触ってみるのはどうですか?」

「はぁっ……はぁっ…… で、でもっ……

「良いじゃないですか、今は『裕介さん(アナタ)()身体(カラダ)』なんです。私の修行に付き合ってくれるご褒美と思ってください」

 

 決して女性経験は豊富ではなく、おっ〇いを触った事など無い裕介にとって、まさか初めて触れるのが『自分の』胸である事は僅かに複雑な心境になってしまう。

しかし、逆に自分の身体なのだから触れても問題は無い、と葛藤は減る。こわごわ、といった感じで手の平で乳房を掴んだ。

 

「んぅっ…… やっぱり、おおきいっ……

「急に強く揉むと痛いですよ、軽くふにっとするぐらいで」

「っはぁっ……♡♡

 

 言われた通りの強さで揉むと、確かに体中がぽわぽわと温かくなる。もっと気持ちよくなりたい、そんな思いがどこからともなく湧き上がってきて。

袴から頭を出した裕介(ミオ)は、今度は三尾(ゆうすけ)の乳首の部分を軽く指圧で押し、こねくり回す。くすぐったさと、じれったさの中に一瞬、快感が混ざる。

 

「おっぱいで少し気持ちよくなったら、今度は強めの刺激を与えるといいんです」

「いたっ♡♡ あっ……♡♡

 

 乳首を指で挟みこむようにして刺激されると、少し痛いぐらいの感覚に襲われる。

――だがミオの身体は、その痛みすら快感として知覚(誤認)する。ソコを触りながら、与えられる快楽で頭がいっぱいになる。こんなに心地よい瞬間が、他に有るのだろうか。

 

「あはは、私の身体は感じやすくなるようにシてるので。それに、まだまだ本番じゃ無いですよ?」

 

 いったん裕介(ミオ)はその場を離れ、神社に持ち込んだ段ボール箱から何かを持ってきた。荒い呼吸の中、三尾(ゆうすけ)は一瞬『ソレ』をカラオケマイクか何かかと勘違いする。

しかし(ミオ)がスイッチをONにした瞬間、それがヴヴヴヴと振動を始めたため、その正体に気が付く。

 

「な、何で神社にバイブなんか持ち込んでるんですかぁっ!?」

「今日は特別ですから。それに、房中術は男と女の両方が節度を持って気持ちよくなるための方法を学ぶ仙術です。

仙術も学問の一つで有る以上、現代により優れた技術や機械が有れば、それを取り入れるのが正しい在り方なので」

「そ、そうじゃなくてぇっ!」

 

 明らかにこの場に似つかわしくないだろう、という三尾(ゆうすけ)の発言は遮られる。そっと、バイブを秘部に軽く当てられた。それだけの刺激で、一瞬意識がトぶ。

思考の全てが、股に与えられた振動という刺激に支配される。頭の中が、悦楽だけになりなにもかんがえられない。

 

「あ゛っ♡♡♡ あ゛ぁぁぁ♡♡♡ お゛ぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡ ひゃめっ♡♡♡ とめてぇぇっ♡♡♡♡♡♡

「ふふっ。自分の姿ながら、こんなに乱れる格好を見るのはなかなか面白いです。それに――

 

 裕介(ミオ)は、ジーンズの下からでも分かる程に怒張した股間のソレに軽く触れ呟く。

 

「んむっ……興味深いですね。魂の如何に関わらず、雄の身体は雌に反応するようで。最も、フェロモンの関係や個体差は考慮に入れる必要は有りますが……

私の経験数(サンプル)が他に無い以上、結論は急げないですね」

「ん゛もうっ♡♡♡♡ りゃめえ゛ぇっ♡♡♡♡ とめて♡♡♡♡ くりゃはい゛っ♡♡♡♡

 

 裕介(ミオ)の呟きを理解できる状態ではなかった。振動するソレに触られるだけで、腰が抜けて動けない。気持ち良すぎて動けないなんて、味わったこともない。

ようやくバイフが離れた頃には、三尾(ゆうすけ)は息も絶え絶えだった。

 

「あとは、内側からほぐしてゆきましょうか……

「はぁっ……♡♡ はあ゛ぁっ……♡♡♡ うち、がわ……?」

 

 ぴっちりと閉じていたはずのオマ〇コは、既に愛液をダラダラと溢して雄を迎え入れる準備をしていて。

そこに裕介(ミオ)は、ゆっくりと薬指を入れてゆく。ヌプリ、と自分の中に異物が入り込む感覚。しかし痛みもなく、むしろ充足感すら湧き上がって。

 

「うーん、外側からだとちょっと解りにくいですね……ココかな?」

――あ゛っ♡♡♡♡♡♡

 

 スポット(アソコ)をグリッと軽く触れられた瞬間。フワっと体の芯が浮き上がったかのように錯覚する。腰からビクンと跳ねてしまって、自分の身体なのに勝手に動く。

そんな異常事態を引き起こしているのに。『もっとシてほしい』と、そんな思いが浮かぶ。

 

「自分だから分かりますよ。ココ、良いですよね」

「う゛あ゛っ♡♡♡♡ やめ゛っう゛♡♡♡ そんなにい゛っ♡♡♡♡♡♡ ずっとしだいでっ♡♡♡♡♡♡

 

 引き付けを起こしたかのように、身体がビクビクと無意識に動く。思うように動けないなんて気持ち悪いはずなのに、キモチイイ。あたまがまっしろになる。

ミオから与えられる刺激を、快感を、ただ自分は受け入れているだけで幸せになる。

 

「うん、これだけ事前に弄っておけば大丈夫でしょう」

 

 そう言いながら、裕介(ミオ)はジーパンのベルトを外し、少し慣れない調子で脱いでゆく。トランクスも脱ぎ捨てて、股間を露にした状態の(かのじょ)

ソコから勃ち上がっていた彼の息子は、普段自慰をしているときとは比べ物にならないぐらいに大きなモノになっていた。見間違いではないかと三尾(ゆうすけ)は慌ててしまう

 

「っはあ゛っ……♡♡ そ、そんなに、大きかったですっけ自分の……?」

「裕介さんが眠っておられる間に、ちょっぴり仙術で大きくしましたよ」

 

 『ちょっぴり』? そんな疑問が頭に浮かぶが、それよりも(かのじょ)がそれを見せつけてきたという事は。

 

「ぇ、いやいや、そんな大きなモノが入る訳っ……

「ふふっ、逃がしませんよ?」

「う゛っ……ぐぅっ……♡♡♡♡

 

 逃げようにも、三尾(ゆうすけ)には最早動く気力などない。ペ〇スの先端とワレメが触れ合い、そのまま奥深くまで侵入する。指を挿入れた時よりも、当然ながら異物感が強い。

自分の肉体をかき分け、ソレがどんどんと内側に入り込んでくる。息苦しい。痛みではないにしても、上手く呼吸できない。強烈に不安が頭をもたげる。思わず、目の前の自分(ミオ)に抱き着いてしまった。

 

「っはぁっ♡♡ ん゛う゛ぅぅっ♡♡♡ い゛っぁ……♡♡

「落ち着いて、段々と気持ちよくなってきますから」

 

 2人の肉体が密着した上に、お互いに強く抱きしめ合っている。だが、それが三尾(ゆうすけ)の恐れを抑えるのには効果的だった。

数十秒、1つになった状態で動かずに互いの息が混じる。裕介(ミオ)はその状態で、三尾(ゆうすけ)の頭頂部にある狐耳を後ろから撫でる。ゾクゾクするようなこそばゆさが、頭全体を走った。

 

「うぅぅぅっ♡♡♡ な、なんりぇ♡♡ みみ、しゃわられただけなのにぃっ♡♡♡♡♡♡

「耳の所も、興奮してると感じるようにになるんですよね。ほら、気持ち悪さも治まってきたでしょう」

 

 途中で止まっていた挿入が再び始まる。段々と、異物感よりも『ソレ』で満たされていることに心地よさを感じている自分が居る事に、三尾(ゆうすけ)は気が付く。

 

「っはぁっ♡♡♡ これでぇっ……♡♡ ぜんぶ、なのっ……♡♡♡♡♡

「子宮口まで届くちょうどの所ですね……雄の身体も、なかなか良いっ……それじゃぁ、今から動きますね」

「動くって……えっ……お゛っ♡♡♡♡ ごっ♡♡♡♡♡

 

 一度ペ〇スが腟内から抜け、再び突かれる。ただ一回の前後運動だけで、三尾(ゆうすけ)は自分がプレス機で潰されたのではないかと錯覚する。

 

「あぁ……ぬるぬるして、ぎっちりして、暖かくて気持ちいい……さっき自分で致した時よりも格段に……雄の快楽もなかなか良いものですね……っ」

「お゛ぉっ♡♡♡♡ んぐう゛っ♡♡♡♡ お゛ごっ♡♡♡♡♡ っはあ゛っ♡♡♡♡

 

 勢いづいた裕介(ミオ)は、肉欲に任せて腰を何度も突き動かす。当然、三尾(ゆうすけ)の身体は幾度もプレスされ、その衝撃に悶える。

――――だが、それすらも病みつきになる。もっと激しくしてほしい。もっと自分を壊してほしい。情欲に火のついた三尾の身体は、そう訴える。

 

「はぁっ、はぁぁっ……そろそろ、でそうですねっ……さっきよりも、凄く身体が、熱いっ……!」

「あ゛ぁっ♡♡♡♡ ひゃあぁぁぅ♡♡♡♡♡ んお゛ぉぅ♡♡♡♡♡

 

 さながら獣の様に呻くことしかできない。その内に裕介(ミオ)の我慢も、もう限界になっていた。はち切れんばかりの肉棒から、精液が飛び出すのも時間の問題で。

 

「いいですかっ、ゆーすけさんっ 思いっきり、出しちゃいますよっ♡♡

「ほお゛ぉっ♡♡♡♡ ぁお゛ぉぉっ♡♡♡♡♡ ふう゛ぅぅぅっ♡♡♡♡♡

 

 裕介(ミオ)の言葉を解する余裕もなく。極大まで持ち堪えたペ〇スの熱は、勢いよく彼女自身の身体に解き放たれた。

三尾(ゆうすけ)は、熱い液体が己の身体に注ぎ込まれているのを感じる。奥深くに注ぎ込まれた雄の種。普通なら嫌な感覚すら沸き起こりそうなのに、今の自分は何をされても気持ち良いとしか考えられない。

 

「くっ……うぅぅっ……♡♡ はぁっ……はぁっ♡♡

「ぁ……♡♡♡♡♡♡ がっ……♡♡♡♡♡ はぉっ……♡♡♡♡♡ んう゛ぅぅっ……♡♡♡♡♡

 

 顔から涎も垂らして、股ぐらもびしょびしょ。乱れきった巫女服のままへたり込んで身体をピクつかせている三尾(ゆうすけ)は無様ですらあったが、それでも彼女(かれ)は幸せの絶頂にいた。

 

――これで、『契り』も完了です。本当にありがとうございました」

 

 多幸感に包まれたまま、三尾(ゆうすけ)は意識を闇に手放し――――

 

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 ぼんやりとした意識の中、目を覚ます。裕介が当たりを見渡すと、神社の建屋には何も残っていない。

儀式用の飾りやお供えも、御神体の大きな鏡も。自分の身体にタオルケットが掛けられているのに気がついて、ようやく自分の身体を確認する。

 

「僕の身体、だよね……?」

 

 ぼんやりとした頭で、ミオの姿を探す。ここにいないという事は、離れに戻ったのだろうか。そう思い、外に出た。

重い雨だったはずの空は、既に明るさを取り戻していた。傘もささずに、神社の後ろ手に回った時。

 

「え……? なんで……?」

 

 神社の裏側には『何も無かった』。ただ森と、空き地が広がっているだけ。裕介は当然混乱する。

あの時、ミオに招き入れられて雨宿りをしたはずなのに。あれは夢だったのだろうか。なら、どうして自分は神社の中で眠りこけていたというのだろう。

 

 しばらく呆然として、もう一度確認するために神社の建屋に戻る。自分が眠っていたタオルケットのそばに、リュックと何かが置かれていた。

拾って確認すると、白を基調とした狐のお面である。裏側に白い毛が一本ある。鏡で見た、ミオの姿を思い出す。

 

――持って帰って良い、って事だよね」

 

 なぜだか、そんな気がした。タオルケットをたたみ置いて、お面をリュックに入れる。

明日は朝から講義なので、早めに戻る必要がある。帰り際、お賽銭箱に初めて千円札を入れて、神社の階段を降りた。朱色の鳥居をくぐって、もう一度振り返る。

 

「玉替、稲荷神社……

 

 夢か(うつつ)か。化かされたのだろうか。

――だけど、もう一度来てみようと、そう思って原付のエンジンをかける。ほんの少し重くなった荷物を背負って、裕介は林道を駆けていった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 その後。時々、同じ神社を訪れる事は何度かあったが、ミオに会う事はおろか、神社の管理人に出会う事も無かった。

人の居る気配など微塵もないのに、いつも落ち葉はキレイに掃かれている。改めて不思議な神社だ、と思いながら何度か参拝していた。

 

「何だったんだろう、あの日は」

 

 実は本当にユメだったのでは、と自分を疑う。しかし、持ち帰った白狐の面はそれを否定する。結局、どちらとも結論を出せないまま何ヶ月もが過ぎ。

 

 雪の降る季節の夜。外から帰ってきた裕介は、いち早く身体を暖めようとコタツに飛び込もうとする。だが。

 

「もしもし」

 

 ノックの音がした。こんな時間に配達員だろうか、と思いながらドアを開けると。

 

「お久しぶりですね」

――ミオさん!?」

 

 夢で出会った、あの神社の巫女。彼女が、今日はグレーのコートに身を包んで現れた。その傍らには、裕介より少し幼いぐらいの女子。何処かおどおどしている。

 

「今は稲城(いなしろ)四尾(しお)と申します。先日は仙術の特訓に協力して下さって有難うございます。おかげ様で修行の成果も認められ、四尾(シオ)を名乗ることになりました」

…………えっと……アレってやっぱり夢じゃなかったんだ……ところでその方は」

 

 すると話を振られた少女は、裕介の方を見るなり目を輝かせてこう言うのだった。

 

(とと)さま……

……とと、さま?」

「仙界と現世は時間の流れが違いますので、基本的な仙人としての智慧(ちえ)をこの子に会得させてからこちらに参りました 

最近は仙狐が人の子の世話をする修行も流行っているとのこと。是非ともこの子をお預かりいただければ――

 

 思考が固まってしまう。何か仙狐について変な誤解もあるし。つまり、今まで起こったことというのは。

 

「女の子として交わった挙げ句……知らぬ間に子供まで作っちゃったって……事ですか……?」

「そうなりますね

「きゅ〜……

「あぁっ!? (とと)さまっ!?」

 

 ショートを起こした脳が限界を訴え、裕介はその場で意識を失ってしまう。慌てる少女の一方で、四尾(シオ)は柔らかく笑うのみであった。

 

 その後、半人前の仙人と青年と、時々四尾の仙狐との生活が始まるのだが、それはまた別の話。

 

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