入れ替わり理不尽退行 作: CA_KOIKE ① 「エミね!早く大人になりたいの!大人になっていっぱい仕事ができちゃうすごい人になるの!」 「やめとけ、大人なんて大変なだけだぞ」 唐突に妹がそんなことを言い出した。どうせまた何かのテレビにでも影響されたのだろう…。 そう考えて適当に返事をする。 「じゃあ…お兄ちゃんは子供になりたいの?」 「なれるならな」 子供から大人にはなれても、大人から子供に戻ることはできない。 俺は仕事から解放されて遊びたいよ。 「それならお兄ちゃん!悪魔さんにお願いしようよ!」 「悪魔さん?なんだそりゃ?」 「えっとね…紙に図形を書いて、呪文を唱えると悪魔さんがお願い事をかなえてくれるんだって!」 なんだ、こっくりさん的なおまじないか…面倒なことを言い出したな…。 「信じてないね!本当だもん!友達が言ってたもん!」 「はいはい…付き合ってやるから」 妹はこうなると意地でも付きまとってくる。仕方ない…一緒にやってやるか。 妹は魔法陣らしきものが描かれた紙を持ってきた。 小学生のやることにしては本格的な紙だな。 「いい?悪魔さんは、真面目に呪文を唱えないと願いを聞いてくれないからね。呪文は…」 「わかった、わかった」 話は聞いていない、こんなのは適当に聞き流して口をパクパクさせていればいいのだ。 「聞いてる?始めるよ?…ホニャララ×△〇◇…」 突然、魔法陣は輝きだす。影のようなものがあふれ出し…。 「願いは何でしょう?」 「私、大人になりたい!」 嘘だろ…。 「分かりました。対価は…そこの不真面目な男でいいですかね?」 「お兄ちゃんのこと?いいよ!」 おい妹よ!兄を売ることに即答するんじゃない! 「分かりました。はっ!」 「ちょ…」 止める間はなかった。 ② 「俺…どうなって…?」 自分の声こんな高かったか?それになんだか視点が低くなったような…。 「私…お兄ちゃんになったの?」 「ええ、お二人の中身を入れ替えました」 目の前で俺と悪魔が喋っている。まさか…そんな非科学的な事あるはずがない…。 体が入れ替わっただなんて…。 「お兄ちゃん子供になれたしお互いよかったね!」 「いやそれは…」 そうやって妄想したことはあった。しかし、冗談じゃない。もう一回小学生からやり直しなんて嫌だ。ましてや女の子としてなんて。 今までの苦労が水の泡じゃないか…。 「あれ?もっと子供がよかった?実は私ももっと大人がよかったんだよね。悪魔さん、何とかならない?」 「分かりました」 中身が妹となった俺の顔が形を変える。まだ新社会人である俺の顔が、ベテランような風格を纏う。 何年も仕事をこなしてきた印象を受ける。 それに対し俺の視点はさらにどんどん下がっていく。全身が小さく、小さくなっていく。悪魔と中身が妹となった俺の体が、巨人の様だ…。 「服装も合わせて!」 「お安い御用です」 俺が着ていたリクルートスーツは、高級そうなスーツに変わった。ネクタイもおしゃれなものだ。 変化した元俺の体によく似合っている。 妹が着ていたTシャツとジーンズは、ワンピースに変わった。小さくなった体にぴったり…スカートがふわりと揺れる。 黄色い帽子に赤いランドセル…胸元には『1-1 えみ』と書かれた名札。 「小学1年生になれたんだねお兄ちゃん!うれしいでしょ?」 「…うん」 違う!と答えたい…しかしこれ以上下げられるわけには…。 「本日の分は終了です。明日の夜お願いします」 「そうなの?ありがとう悪魔さん!」 少なくとも明日一日はこの姿なのか…。 早く妹が働く大変さに気が付いたらいいのだが…。 ③ 自分の母は基本的に優しいが…さぼりには厳しい。 登校するしかなかった。 「今日は足し算をしましょう」 「「「はーい!」」」 小学一年生として扱われる。先生に悪意はないのだが…屈辱だ。 今の体では自然なことだが…大人の精神にとってはただの羞恥プレイ。 目立たないように顔を伏せる。 「じゃあそこのエミさん。2+3は?」 簡単な計算…のはずだ。計算できるはずなのに…。 「えっと…えっと……わかりません…」 「じゃあ隣のケン君、わかる?」 「5です!」 あの悪魔に知識まで年相応に変化させられてしまった。 問題を聞いた瞬間は、『わかる』と思うのだが、具体的な回答を答えようとした瞬間、難しいことが頭の中から消えてしまうのだ。 「ケン君!よくできました!」 「えへへ…」 小学一年生に負けるなんて…。 「みんな着替えてプールサイドに集合!」 「「「はーい」」」 初めて着用するスクール水着はひどく落ち着かない。 自分の女児の肉体をはっきりと浮き上がらせ…自分が女子小学生になったことをより深く自覚させる。 肌に吸い付いてくる感覚に慣れない。自分の股下にもぴったりと張り付いて…女になってしまったことを意識させる。 「ううぅ…」 水が怖いなんて…そういえば妹はずっと泳げなかったな…。 「大丈夫だからねー」 先生に抱きかかえられて水に入る。小さな子供のように、先生にぎゅーっと抱き着いて水に入る。 それは無意識の行動であった。 「はなさないで…」 「大丈夫、先生が付いてるからねー」 本能的な恐怖に勝てない…仕方ないんだ…。 そう自分に言い聞かせるのでいっぱいいっぱいであった。 「起立、礼、さようなら」 「「「さようなら!」」」 やっと一日が終わった…後は帰るだけっ…⁉ あっ…だめだ…とめないと…。 それは本当に突然のことであった。尿意を感じて…いつものように我慢しようとした。 しかし、それは男の感覚。女性の我慢のやり方なんて知る由もなく…。 「せんせー!エミちゃんがおもらししてますー!」 「あらあら…」 止めようとしているが、黄色い液体は止まってくれない。 恥ずかしい…恥ずかしくて恥ずかしくて…。 退行した脳は羞恥であふれかえって、処理の限界を迎えてしまう。もうどうすればいいのかわからなくなってしまって… 「えぐっ…えええええん…ひぇえええんん!」 自分の感情が制御できない。恥ずかしさで頭がぐちゃぐちゃになってしまって…声と涙を抑えられない。 「大丈夫エミさん。誰にでも失敗はあるの」 「ひっく…」 その後の処理は先生に何から何までやってもらった。自分は何もできなかった…。 ④ 夜になって多少ではあるが知的な思考を取り戻す。 このままじゃだめだ…精神まで体に引っ張られて汚染されているのは間違いない。 何としてでも戻してもらわないと…。 「仕事の大変さがわかっただろう…?なぁお互いに戻らないか?」 「やだ。大人になって働くのは大変だったけど…とっても楽しかった!難しいことがいっぱい考えられるの!」 そう言うなり妹は悪魔を呼び出す。待って俺も呪文を…。 「偉くなるのってもっと年齢ないと駄目なんだって今日学んだんだ。だから…」 「分かりました」 元俺の体はさらに年齢が上がったようで、顔に軽く皺が入っている。 スーツから立派な仕立ての服に変わる。服装・顔がマッチして、社長と呼ばれても違和感がない堂々とした男が完成する。 ただでさえ低かった視点がさらに低くなる。バランス感覚が失われて、意識していないと転んでしまいそうだ。 ワンピースが近所の幼稚園の制服に変わる。ピンク色のスモックに短いスカート、小さな帽子にチューリップの名札。 見覚えがある…年少の名札だ。 「そういえば、お兄ちゃん今日おもらししただって?パンツじゃダメかな?」 下着の感覚が消えたかと思えば、もこもことした感覚。 おむつを穿かされてしまった…。 「もう好みも変えたほうがいいよね。そのほうが自然だし」 男社長のようになった妹の腕には腕時計が巻かれ、俺の腕の中にはデフォルメされた熊のぬいぐるみ。 「かわいい…くまさん…」 思わずぎゅっと抱きしめてしまう。もう離したくない…。 「でも知識はもっといっぱいあったほうが社長にふさわしいかな。できる?」 「もちろんです」 えっ…そんなことをしたら…。 「えっ…えっと…えっと…」 言葉が出てこない…。頭の中の語彙をほぼ全て消されてしまった…思考はできるが言葉は紡げない。 なにをどうすればいいのかわからない… 「×××××…××××…」 「〇〇〇…〇〇…」 悪魔と妹が何か会話しているが…意味不明な文字列にしか聞こえない。 あれ…あたまのなかがふわふわする…なんでぇ…? …おはなしながいなぁ…なんだかねむくなっちゃった。 「おお、話が長くなってしまったか。すまんないね、お嬢ちゃん。悪魔さん、いろいろとありがとうございます」 「いえいえ…こちらこそ」 ⑤ 「くまさん。おいしい?」 えみはようちえんにかようことになったの。はじめはとってもはずかしかったし、こわかったけれど…。 だいすきなくまさんといっしょならへいきなの! だけど…えみはといれをひとりでできないの…。 えっと…せんせいのまえにたって…。 「せんせ…おしっこでちゃった…」 「今変えてあげるからね」 おむつをみせてかえてもらわないといけないの…。 みんなといっしょにといれしたいけど…どうやったらいいかわからないの…。 すかーとをはすされちゃったらはずかしいおむつがまるみえ…あかちゃんみたい…。 はやくおっきくなりたいけど…おおきくはなれないの。 えみもうずーっとここにいる…からだはおっきくならないし、むずかしいこともかんがえられない。 えみはずーっとこどもなの…。 ⑥ 名前:えみ 性別:女 身体年齢:3 立場:幼稚園年少(女児) 意識:成人男性 羞恥心:成人男性相当 知識:1歳相当 思考:2歳相当 好み:3歳女児相当 振舞い:3歳女児 服装:3歳(+オムツ) 備考: ・トイレの知識がないのでオムツを着用 ・熊のぬいぐるみが好き ・全ての要素について成長することはない 自我はわずかであるが薄れつつあり、やがて消えてしまうだろう…。 |