エピソード0:欲望の女神 作:ドーン@夜明けの街 言い伝えがあった。 ある商人は黄金を望み、触れるモノ全てが黄金になる力を得たが、食料さえも黄金となり飢え死にした。 ある戦士はどんな武器にも傷つかない体を望み、無数の勝利を得たが、最後は素手の魔法使いの前に倒れた。 その皮肉な『祝福』を与えた女神は、どこかのダンジョンの最奥で次の来訪者を待っているという………。 ……… 「あなたの力を貸して欲しいの。私たちのパーティに入ってくれないかしら?」 酒場で美女3人の冒険者パーティにそう声を掛けられた時には、俺にもやっとツキが回ってきたと喜んだものだ。 リーダーの女戦士は、どことなく気品を感じさせる顔立ちをしていた。 燃えるような赤髪を動きやすいように短くして、機動性重視の軽装鎧を纏っている。 噂ではどこかの貴族の令嬢らしく、何か特別な目的で冒険者をしているらしい。 確かに髪を伸ばしてドレスを着た方が、その美貌とスラリとした体形に似合っているのは間違いなさそうだ。 参謀役の女魔法使いは3人の中で一番の長身で、色白の肌と長い黒髪、そして深い知性を感じさせる理知的な美貌の持ち主である。 口数は少なく、特に男に対しては常に冷めたような視線を投げかけてくる。 ゆったり目のローブを着ているものの、胸や腰の肉付きの良さは隠しきれていなかった。 最後の一人は、黄金色に輝く金髪を持つ小柄な精霊使いだった。 人間とエルフとの混血らしく、人間の女の肉感的な魅力とエルフの清楚で可憐な顔立ちを受け継いでいる。 普段はその愛らしい美貌で微笑みを浮かべており、男たちの目を楽しませる存在だ。 詳しく話を聞くと、彼女たちはあるダンジョンの捜索をするのだという。 危険な罠の多いダンジョンに潜るときは、俺みたいな盗賊技能を持つものをパーティに加えるのが常識だ。 こんな美女たちと旅が出来て、もしも良い仲になれたら……そう考えない男は少ないだろう。 それがたとえ臨時のものであっても、報酬がダンジョンで得た宝物の1割と言われたとしても…だ。 もちろん多数派な俺は二つ返事で引き受けたが……とんでもない話だった。 荷物持ちをはじめとする雑用は全て押しつけられ、雑魚との戦闘は支援なしで先頭に立たされた。 要は、この女たちは俺の事を道具としか見ていないのである。 しかし彼女たちの実力は本物で、俺の欲求不満な状態とは関係なくダンジョン攻略は順調に進み、最深部まで到着したのだった…。 おそらく最後だと思われる豪華な扉の前で、俺たちは最後のキャンプを設営していた。 「で、どうするんだ?」 俺の投げやり気味な問いかけにリーダーの女戦士は当然のように返答する。 「もちろん今回もあなたが一人で先行して罠を全部解除してきてちょうだい」 予想通りの返答に、俺はうんざりしながらも腰を上げる。 「へいへい、じゃあ行ってきますよっと」 こんな目には遭っているが自分の命は惜しいし、プライドもある。 プロとして仕事をするべく慎重に扉を開け、中に滑り込む。 もし一人で手に負えないモンスターが出てきたら、すぐに引き返し援軍を頼むという手はずだったが、中は意外なほど清潔感にあふれており、神殿を思い起こさせる造りとなっていた。 しばらく進むと巨大な女神像がそびえ立ち、そこで終点だった。 俺は慎重に女神像を調べるが、罠らしきものはなく、かわりに俺の読めない文字が刻まれているのを発見した。 これ以上の成果は望めないと判断してキャンプに戻って状況を説明すると、女魔法使いに話しかける。 「俺には読めない文字があるんだ。それが何かの引き金になってる可能性が高い。とりあえず魔法使いのあんただけついてきて解読してくれないか?あんた一人なら何かしらの罠が発動しても俺がカバーできる可能性が高いからな」 俺がそう要請すると、3人は視線だけで何か確認する。 「わかったわ」 美貌の魔法使いは短く返事すると俺のあとに付き従う。 女神像まで戻り文字の場所を俺が示すと、彼女は真剣な眼差しで見つめる。 「やはりここだったのね!」 常にクールな彼女が珍しく興奮した様子で呟く。 そして、俺が聞き取れない言葉を一言唱えると、俺たちは光に包まれた…。 気が付くとそこは先程居た場所ではなく、どこか別の部屋のようだった。 窓などはないのに、なぜか部屋全体が明るい。 そして中央には一人の神々しいまでの美しさを持った女性が立っていた。 いや、それも当然だ。 彼女は神そのものであると、俺は自然に理解した。 『よく来たな、男よ。お前の欲望を言ってみよ。気に入れば我が『祝福』を与えてやるぞ?』 女神は、寒気を感じる程の美貌に楽しそうな笑みを浮かべながら、俺に向かってそう告げた。 「待って、用があるのは私よ!」 女魔法使いが異議を唱えると女神が露骨に顔をゆがめる。 『黙れ小娘!欲望と打算を勘違いしている女などに用はないわ!』 女神が強い語気で言い放つと同時に強烈な気が放たれる。 「うぐっ!!!」 その気にあてられた女魔法使いの顔が驚きに強張り呻き声を挙げるが、すぐに表情から生気が失われ両腕が力なくダラリと垂れ下がり、何も考えられなくなったかのようにその場に立ち尽くす。 『わらわの邪魔をした罰じゃ、お前はそこで裸になって突っ立っておれ!』 「…はい…」 するべき事を与えられた女は無表情のまま1つ頷く。 そして身に着けている装備を1つずつ脱ぎ捨てていく。 下着姿になっても気にせず、それにさえも手をかけて脱ぎ捨てる。 やがて美しい全裸姿をさらした女魔法使いは、遠くを見つめたまま、女神の命令どおりに棒立ちとなるのだった。 (ゴクリ…) 俺は生唾を飲み込みながら裸で立ち尽くす美女を見つめる。 スラリと長い手足に、全体的には細身なのにしっかりと凹凸がある体。 真っ白な肌で、美しい形を持った胸に、綺麗な色の乳首。 どれをとっても、男の欲望をそそられるモノだった。 こんな状況でなければ、今すぐ飛びついてしゃぶり尽くしたい。 『さて、邪魔者はいなくなったぞ。我は小賢しい言葉など聞きとうない。お前の心の底から湧き出た欲望を聞きたいのじゃ』 女神は笑顔に戻ると再び問うてきた。 俺は裸で立つ女をちらり見した後、意を決して口を開く。 「…女だ…どんな美しい女でも手に入れることが出来る力が欲しい!」 俺の心からの叫びに女神は楽しそうに笑う。 『そうか、それがお前の欲望なのだな。よいぞ、わらわの『祝福』を与えよう!』 言葉と共に女神から見えない何かが発せられた。 その強烈な力の流れを受けて俺に急激な変化が起こる。 「なんだ!?…体が…」 脱力感に襲われて両手を見つめると、肉がどんどん失われて骨の形が浮き彫りになっていく。 身に着けている革の鎧に重みを感じ始め、苦しさまで感じ始めたので、俺は慌てて脱ぎ捨てる。 猛烈な気怠さを感じながら、改めて自分の体を眺めて驚愕する。 まるでミイラのように全身が干からびてしまっているのだ。 立っているのが不思議なくらい、骨と皮だけの頼りない体だった。 股間のモノに至っては、もはや役に立つとは思えなかった。 「こ、これは?」 『わらわの『祝福』の代償といっていいかもしれぬの。だが、お前の得た能力には必要な事だがな』 「能力?」 『ほれ、あの女を見てみよ。何か感じぬか?』 あの女…裸で呆然と立っている女魔法使いを見て俺は酷い渇きを覚えた。 「…吸いたい…」 俺は鎧の下に着ていた下着も脱ぎ捨てて裸になると、ふらつきながらも裸の女の前まで辿り着き、その両肩を両手で掴む。 そして顔を近づけ、唇を重ねる。 二人の体が同時に脈打つ。 俺は吸い始めた。目の前の女の全てを。 半開きの女の口から光の粒子となった生命エネルギーが流れ出し、俺の口へ次々と吸いこまれていく。 女を構成している要素が流れ込むにつれ、俺の体に柔らかい肉が付き始める。 肌は白く輝き、髪は長く美しい黒髪にかわり、胸や腰はゆっくりと膨らみ、体全体が魅惑的な曲線を描き始めた。 相対して、目の前の女から俺が得たものが失われていく。 女の記憶や知識までも流れ込んできて最初は戸惑うが、徐々にそれが悦びに変わっていく。 「!!!」 途中、意識を取り戻した女は声にならない悲鳴を挙げ、俺を振りほどこうともがくが、すでに棒切れのように細くなった手足では無駄な抵抗だった。 やがて女魔法使いだったモノは完全に吸い尽くされて動かないミイラになり、俺が手を離すと乾いた音を立てて床に転がった。 『これで自分の体を見てみるがよい』 女神が軽く手を振ると、すぐそばに全身を映しだせるほどの姿見が現れた。 俺は鏡の前に立つと覗き込み、息を飲んだ。 そこには、先程まで目の前に立っていた美しい裸体の女が、驚いた表情で立っていた。 「これが今の私なの?!」 鏡に映った女の声と口調で、感嘆の言葉が自分の口から洩れた。 「素晴らしいわ!」 自分が美貌の女魔法使いになった事実に俺は歓喜した。 そして、自分のモノとなった美しい体を弄ろうと手を動かすが、女神の視線に気づき躊躇してしまう。 『構わぬぞ?欲望に従った姿を見るのは、わらわの愉悦じゃ。思いのままその体を貪る姿を見せて、わらわを悦ばせてみよ!』 女神の言葉に笑みを浮かべて頷くと、俺は豊かな胸の膨らみを、柔らかいお尻の肉を、そして興奮で濡れてきた股間を、欲望のままに激しく弄り始めた。 「あ、あっ、ふわぁぁぁ!」 快感に押し出されるように、口から喘ぎ声が漏れた。 当然のことだが、これは俺が望んだモノとは別物だ。 おそらく女神もそれを承知で、わざとこの能力を俺に授けたのだろう。 しかし、こうやって女…それもとびきりの美女…の体を手に入れたことは、喜び以外ありえなかった。 (…もしかしたら、これが俺の本当の望みだったのかもしれないな…) 『ついでじゃ、これを与えてやろう』 床に散らばっていた衣服を身に着け終わった俺は、女神が差し出したモノを受け取る。 それは美しい宝石がついたペンダントだった。 「これは?」 『その宝石には、わらわの魅了の魔力を込めてある。とはいっても力は劣るから警戒する相手には効果が薄い。しかし相手が気を許しているなら、大抵の命令には従わせることができるぞ。上手く使うがよい』 続いて床に転がっている女のミイラを指さすと言葉を続ける。 『それと、そこに転がっているモノも持っていくがよい。使い道は分かるよな?』 何となくだが言われたことを理解した俺は、ニヤリと笑みを浮かべると元女魔法使いだったミイラの手足を慎重に折りたたみ、最低限の品しか入れていなかった背負い袋に詰め込む。 『後はお前の好きにすれば良いが、たまには我の頼みを聞いてもらうとしよう。決してお前の損にはならぬだろうから…』 そう告げた女神が手をかざすと、俺は光に包まれた…。 再び気が付くと、ダンジョン終点にあった女神像の側に立っていた。 「無事だったのね!」 声に振り向くと、心配して見に来たのか、パーティメンバーの女たちが立っていた。 精霊使いの女が、安心したように叫び近づいてくる。 しかし、リーダーの女戦士がそれを遮り冷ややかな声を出す。 「待って!あなたが本物かどうか確認させてもらうわ。合言葉を言って!」 一瞬だけ3人の間に緊張が走る。 だが、女魔法使いの姿をした俺は溜息を一つもらすと、表情を緩めて答える。 「そんなものは決めていないわ。あなたの機転なんでしょうけど…。そうね、こんな事態になったときに必要だから決めておいたほうがいいかもしれないわね」 すると女戦士も安心したように笑みを浮かべる。 「うん、大丈夫みたいね、安心したわ。で、どうだったの?」 俺は表情を引き締めると、少し落胆してみせた後、語り始める。 「…残念だけど、ここは違ったみたい。別室に転移させられたけど、誰も居なかったわ」 「そうなの…。そういえば、あいつはどうしたの?」 今更思い出したような女戦士の質問に溜息をつくと、表面上は冷ややかに答える。 「あいつは罠にハマって死んだわ。おかげであたしは助かったけど」 「そうなの?まあ、あなたが無事だったんだから、あいつには感謝しないとね」 大して興味無さそうな口調で言い切られるが、俺は当然のように黙って頷いておく。 「それじゃあ、もうここには用はないわね。撤収しましょう」 女戦士の宣言でパーティは出口に向かって進み始めた。 (くくく、さて、どちらから頂いてやろうか…) 前を行く二人の美女の品定めをしながら、俺は思案を巡らし始めたのだった………。 (あとがき) この話はブログとPixivで公開している『狙われた女魔導士』の男がその能力を手に入れた話です。 今回投稿したもう1つの作品『使命(クエスト)』も含めて、お互いの話に奥行きを持たせるために書きました。 合わせて読んでもらえると、話が繋がると思います。 中途半端なところで終わっているようにみえますが、残りの二人がその体を奪われる場面は、皆さんの脳内で自由に創り出してみてください。 |