りゅうむすめのかわよろい

 作:ワッタマン




カチャカチャ……ゴソゴソ…

「フゥ…宝箱の罠は解除できたな。」

遺跡型ダンジョンの地下深く。薄暗い迷宮その一角に男の声が響く。

身長180cmほど、筋肉がしっかり付き強面や傷で醜い顔の多い冒険者としてはいいほうな顔つきの
ーーだが街で見たなら人混みに紛れる普通の顔の男だ。

そんな彼はソロで潜るのには少々厳しい階層に潜り、戦闘を極力避けつつ迷宮の宝箱を漁っていた。



(おお、これは短剣か。“見識”…炎魔術師の短剣、炎魔法の威力を増幅する能力有り。呪い無し。…これは高く売れそうだ。
……レアもんが出やすいとはいえちょっと深く潜りすぎちまったし脱出のために俺が使ってもいいがな)

彼は魔法戦士だ。スカウト技能、魔法、近接戦闘に精通し、実力も高い。

迷宮は深ければ深いほど宝箱の中身も良くなり、競合相手も少ない。
彼はソロでも戦闘を極力避ければ迷宮深層に潜り宝箱だけの中身を持ち帰ってくる事ができる程度には実力があった。
それゆえ彼はソロで迷宮深層に潜った。だが少々深く潜りすぎてしまったのだ。

戦闘は極力避けてきたため余裕はある。数回戦闘になってもおそらく大丈夫だ。
が、地上に帰るまで数日はかかる。道中で十何回も戦闘をすれば集中力を欠き、一撃でもまともに食らえば脆い人間である彼は階層に対してレベルも低い事も相まって簡単に命を落とすだろう。


深層から出る魔道具は強力だ。来る人間も少ないので数も多い。彼は宝箱から出る魔道具で地上までの安全を確保することにした。



迷宮内を音を殺しながら歩いていた男は不意に迷宮の柱の影に隠れる。
数分後、彼の進んでいた道の奥から魔物が現れた

(おっと……アイアンゴーレムと魔道人形のパーティか…あんなのと何度も戦ってられねぇぜ)

しばらくして魔物が通り過ぎると彼はまた探索を始める。

そこから少しして彼は宝箱を発見する。大きさはそんなに大きくない。槍や剣などの大中型武器ではないようだ。

(おっ…宝箱だ。こいつの罠は…毒ガスか。ここをこうして…よし。簡単だったな。さて中身は…)

罠を解除し宝箱を開ける。はてさて、中身は…

(……なんだこれ? 青みがかった…布?
いや、どちらかというと皮か?畳まれてちゃわかんねぇな)

宝箱から取り出してばっと広げてみる。
長さは140cm程、人のような形をしている。頭には髪の毛とそこそこの大きさの角がついており、背側にはこうもりのような翼。尻あたりに尻尾。尻尾から翼にかけては鱗で覆われており、そこ以外も手足や皮のいたるところが鱗で覆われている。

「ふぅむ……“見識”」

スキル:見識。鑑定と違い細々とした事は分からないが名前、呪いの有無、そして主要効果がわかるそのスキルでそのアイテムを鑑定した。

(竜人の皮鎧…装備種別:インナー。全ステータス大上昇効果、防御補正、再生、竜体、サイズフィット…そして呪いは無し…

…なんじゃあ…こりゃぁ…!?)

驚いた。それもそのはず、防御補正はまだしも種別:インナーなのにステータス大上昇効果。それも全て。加えて再生もち。さらには竜体という竜系複合スキルまで付いている。
小ささからしてサイズ規制付きかと思えばまさかのサイズフィット付き。じゃあ呪いがあるのかと思えば呪い無し。おそらく今まで彼が手に入れたモノ全ての価値でもこれには遠く及ばないだろう。


これをどうするか。

売れば途方もない富を得られるだろうがそもそも生きて持ち帰れるか、価値が高すぎて買い取りできないのではないか、等様々な問題がある。

(これを装備すればほぼ必ず帰れるに違いない。今後の冒険にもずっと楽になる。たとえ気に入らなくても売ればいい。中古でも俺が一生遊んで暮らせる金になる。そもそも今回の探索で得た他の魔道具だけでも十分な金になるだろうし…

…よし!)

そうと決まれば話は早い。俺は早速周りの安全を確認するとその装備を着るために鎧を外し、今までのなんの魔法効果も付いていないインナーを脱ぎ、そしてその場に座り込んでその“竜人の皮鎧”を装備し始めた。


まずは脚。皮鎧の背中にあいた裂け目から両足を入れ、レギンスを着るようにぎゅっぎゅっと足を先っぽまで入れていく。
身体の大きさに比べて皮鎧があまりにも小さかったので、大丈夫かとも思ったものの、柔軟な素材なのかぎちぎちと締め付けられる感覚はあるものの下半身はすっぽりと入ってしまった。


次いで腕を入れていく。まずおおまかに腕を通し、次に指を合わせ一気に指先まで入れる。片方済んだらもう片方も同じようにやる。

すかっ

俺は青みがかった皮を掴んでもう片方の腕を通そうとした。だが、迷宮内が薄暗かったせいか目測を見誤り手前の空間を掴んでしまった。
そう、まるで腕が縮んだかのように。

(もしや俺は深く潜ったせいか予想以上に疲れてるのか?)

俺はそんな事を思いつつ気をとりなおして両腕を通し終わる。そして今度は立ち上がり、一気に皮を全身に着込んだ。

さて、最後に頭をかぶる。長めの髪の毛をかき分け、首筋の裂け目に頭を入れていく。俺の頭よりだいぶ小さかったものの、やはりこれも柔軟に伸びて俺の頭はすっぽりハマりそうだ。ゴソゴソと位置を調整していると圧迫感がだいぶ薄れた。目も開けれそうだ。


「よし…着れたな。
……?迷宮内が一気に明るくなった!暗視も付いてるのか。

…迷宮が大きく!?いや!俺が縮んでるのか!サイズフィットって俺に適用される効果か!」


目を開けると今までいた迷宮は激変していた。
薄暗いはずの迷宮内が先まではっきりと見通せる。
そして迷宮の大きさが明らかに大きくーーいや、俺が小さくなっている。
脱いだ自分の装備から鑑みるに今の俺は身長140cmくらいだろうか。

下を向くとピンク色の乳首と少し膨らんだ胸が見える。まさかと思い股間を見ると、なんとそこにはぴっちりと閉じた縦スジがある。


どうやらこの装備のモデルはメスの竜人のようだ。
装備している竜娘の皮と俺の体が擦れてちょっと興奮するが勃起感はあるのに外からは見えない。
見た目だけとはいえここまできっちり竜娘の姿にされるなんてすごい装備だ。

明るくなった視界で改めて手を見ると、二の腕から先は滑らかな鱗が生え、指先まで覆われている。指先からは黒光りするかぎづめが伸び、まさに竜の腕だ。
だが、物を掴むためなのか手のひらは鱗が無く、ぷにぷにとしている。

手全体が明らかに今までの自分よりも小さくなっているのも相まってまるで幼女と竜の手を合体させたかのようだ。

脚を見るとこちらもまた滑らかな鱗に覆われ、指先からはやはり鉤爪が伸びている。

身体をよじって背中側を見てみると小ぶりだが脂肪のしっかりついた尻からは竜の尾っぽが生えている。だが、あくまで装備なのでさすがに動かせはしないようだ。


背中には俺が装備した入り口である皮の裂け目が尻尾の上から首筋までぱっくりと口を開けており、裂け目からは俺の地肌が見える。
青みがかった竜娘の身体の色と俺のちょっと黒っぽい地肌の色の違いはわかりやすい。


腰あたりからはこうもりの翼を何倍もゴツくしたような翼が生えている。尻尾と同様感覚などはない。

だが尻尾も翼も今の竜娘の身体にはだいぶ大きく、戦闘の邪魔になりそうだ。


背中の裂け目もどうにかしないといくらこの防具が強くても攻撃を受けた時にところてんのように背中から排出されて、無防備なところを殺されかねない。


「んっ?おお、こうすると閉まるのか」


どうにか閉めれないものか。そう思い試行錯誤していると、裂け目を数秒合わせたままにしておくと傷口が消えるように皮の裂け目が消えていく。
尻側から背中にかけて順繰りに裂け目を閉じていき、裂け目が完全に閉じた瞬間それは起こった

「!?!??〜〜〜〜〜〜〜〜!?ああっ!?んうぅぅううう!?」

尻からなにかが生えていくような感覚と、背中にまるで新しい腕が生えていくような、むず痒い感覚。人体には存在しえない。今までただの飾りだった尻尾と翼に神経が通っていく感覚。俺はのけぞり目を白黒させながらこそばゆいような気持ちいいようなその感覚に耐える。

しばらく耐え、収まってきたところで気づく。

「何かを着ている感覚が無い…?」

そう、裂け目を閉めるまであった皮を着ている感覚が無く、素っ裸でいるような感覚がするのだ。尻尾と翼も元から自分のものであるように動く。


「俺の身体が竜娘になってやがるってのか…ッ!?

声が高い…!?もしや身体の中まで…?」


さっきまではちょっと見た目が竜娘に変わるだけの高性能な防具だった。だが今は身体の芯まで竜娘に変わってしまっているのかもしれない。


「そういえば…こんなちっちゃくなっちゃったら着るもんねぇぞ…?鎧もこれじゃ着れねぇし…どうしよう。慣れない体格に装備これだけだとヤバいしさすがにこれ脱いで…ッ!?しまった!俺としたことが警戒を疎かにしちまったか!」


何かの気配に振り向くとそこにはさっき見たアイアンゴーレムと2体の魔道人形のパーティ。彼等はすでにこちらを認識している。戦うしかない。俺は足元に置いてあった剣を拾い構えた。

「ガガガッ!」
ゴーレムが殴りかかってくる。
俺はそれをステップで躱し反撃しようとした。

「うおっ!?」

だが俺の身体は予想以上に跳んでそのまま壁にぶつかりそうになる。咄嗟に壁に対し足で着地し、そのまま壁を蹴ってゴーレムの方に跳び、反応出来ていないゴーレムの脚部に剣を突き立てる。衝撃で足の関節を歪めて動けなくしようとしたのだが、ゴーレムの足は少々の抵抗と共に切れ飛んでいく。

もしやと思いゴーレムの胴体を剣で薙ぐ。すると本来なら一番硬く、俺ではどうにもできないはずの胴体は簡単に輪切りになり、ゴーレムは機能停止した。


ボボボボボボッ

2体の魔道人形が炎の玉を何個も背後に浮かべ連写してくる。それを避けながら俺は本能のままに喉の奥からこみ上げるままにドラゴンブレスを放つ。

俺の喉から出たドラゴンブレスは放射状に広がりながら炎の玉を飲み込み、いとも簡単に2体の魔道人形を飲み込み焼きつくしていく。


「なんだ…この力…!?」

俺はいくら装備がいいとはいえその装備の見た目は二次性徴ちょっと前くらいの少女だ。いくら竜の要素が混じってるとはいえ素っ裸のままでは苦戦を予想していた。むしろ慣れない身体ゆえに殺されるとすら思っていた。
だが、蓋を開けてみれば勝利どころか圧勝と言っていい。


「…帰るか」

素っ裸の竜娘は可愛らしい声でため息をつきながらそう言う。
さっきまでは死すら予想していた帰り道。あまりにも楽な帰り道になりそうだった。





3日後。



俺は3日かけて地上に戻った。地上に出てから道中、道行く人々は変な目でこっちを見てこそこそなにか喋ってた。
ソロで深層へ潜る俺だ。いつものごとくキチガイに見られるのは慣れている。だがいつもとは視線の質が違う気がする。
予想以上にこの身体の性能が良かったので疲労もなく、家に帰らずそのままギルドに来て魔道具を売る事にした。

「ソフィアちゃ〜ん、いるか〜い俺が帰ってきたぞ〜」

中に入って買い取り窓口の職員を呼ぶ。上級冒険者用の窓口の子はカワイコちゃんばかりで楽しみなのだ。今日の当番はソフィアちゃん。金髪エルフの子だ。

俺は周りの視線を感じつつ彼女を待つ。しかしいつにも増して視線が多い。なんでだ?

しばらくして彼女がやってくる。そして彼女はこちらを見て、次いで顔を赤らめながらこう言った。

「ふ、服を着なさい!!ほら!そこの男共はあっち見てなさい!貴女はこっち!更衣室と服貸してあげるから!」

!!
そういや俺今何にも着てないじゃねぇか!合う装備もないし特に困らないしで迷宮内でずっと素っ裸でいたから慣れちまったのか!
というか“貴女”?

…あ、今俺竜娘の姿か。

「おい、ソフィアちゃん!俺だよ!ソロ魔法剣士のアンドリュー!この姿は装備なんだ!ほら、ギルドカード!」

「はぁ?
…はぁぁぁあ!?」










「…で、その装備で帰ってきたわけね。しかしソロでそんな所まで行くのアンタくらいよ。まったく…」

彼女に今までの経緯を話すと納得してくれた。魔道具の買い取りもしてくれるらしい。

「そういえばその装備はどうするの?」

「とりあえず売らないつもりだ。こんな良い装備を売るわけないだろ。まあでもこの身体だといろいろ不便だし着替えるよ。更衣室貸して貰ってもいいか?」

「ええ、今は空いてるはずだから大丈夫よ。しっかし結構いい体格のあんたがそんな可愛い竜娘になってるなんて本当驚いたわ」

「意識させないでくれ」



許可を貰ったので俺はギルドの更衣室へ行く。そして装備を脱ごうとしたのだが全く脱ぎ方がわからない。
ソフィアちゃんに相談し、結局“鑑定”持ちの魔道具査定員に診て貰ったのだが…







「はぁ!?脱げない!!?」


「えーとですね、貴女が今着ている竜人の皮鎧ですが、迷宮出土品としては珍しくどうやら不完全なもののようでして、背中の裂け目に処理を施しておかないと裂け目が完全に癒着して取れなくなってしまうようでして…」
目の前の魔道具査定員がばつが悪そうにそう言う。



「…………」



どうしよう、
俺はさっき更衣室で見た鏡に映った自分を思い出す。。

今までよりも40cmも小さい身長、手のひらに入る程度に膨らんだ胸、ちょっとくびれたお腹、脂肪のついた柔らかそうな尻、そしてただぴっちり閉じた裂け目があるだけの寂しい股間、美しさと可愛らしさ、そして幼さの共存する整った顔。

ここまでならまだ人間の範疇だ。

だが、今の俺の肌は青色をしているし、ほっそりとした手足は滑らかな鱗に覆われ、指先には鋭い鉤爪が生えて、
背中の腰あたりからは鱗が生えた蝙蝠のような翼に覆われている。
尻の上あたりには蜥蜴のような太く立派な尻尾が生えているし、頭には黒い角が生えているし、瞳孔は縦に裂けている。一目見れば誰でも俺が人間じゃない事がわかる。

こんなんじゃいくらこの身体が強いとはいえ生活しづらい。自分の家だって今まで問題なく届いていた所は高すぎて届かないし、
今まで自分が使ってた衣服など大きすぎて使えない。パンツだってゆるゆるだ。


俺はもしかすると一生この身体なのだろうか、一生この竜娘の姿なのだろうか、そう考えると目眩がした。















カチャカチャ…ゴソ…プチっ「あっ」ドッカァン!

「くそ!また失敗だ!この手の爪じゃいらない糸まで切っちまう!

…まあ効かないからいいけどさ」

数日後、迷宮深くのさらに深く。ひとり魔道具を探す竜人の少女がいた。

身長140cmほど、筋肉などないような細っこい身体に尻尾やツノや翼が生え、肌は青く、手足は鱗に覆われ鉤爪の生えた

ーーだが街で見かけたなら誰もが振り返るような可愛らしい顔の竜人の少女がいた。

そんな彼女…いや、彼は人が未だ入った事なき階層で宝箱を漁っていた。


「もしかしたら今まで誰も入った事のない所ならこの身体を脱ぐ道具があるかもしれないって…ったく、無責任な…ソフィアちゃんも“可愛い妹が出来たみたい”とか言って着せ替え人形にしてくるし…」




彼女は脱げなくなった竜娘の皮を脱げる道具を探している。いくら強くても、男の子が憧れるドラゴンでも、この小さく可愛らしい身体と一生付き合っていくのは嫌なのだ。彼ははたして元に戻ることが出来るのだろうか?






「お?見たことのない魔道具だな」














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