江豪博士の勝手気ままな日常
トゥルー


空は黒雲に包まれ、絶え間なく雨を降らせている。
ここは町外れの一角にある奇妙な建物。
廃墟のような外観は人の住む気配を感じさせず、先程から断続的に鳴っている雷によって、その不気味なシルエットが照らし出されていた。

と、その建物の窓がバタンと豪快に開き、黒い人影が姿を覗かせる。

「ふふふふふ……うくくくく……どわーーっはっはっはっはっはーーーーーー!!!」

人影は肩を震わせ、発声練習でもするかのようにヴォリュームを徐々に上げながら、奇っ怪な高笑いをはじめた。
まるで、ヒキガエルの断末魔のような不快な笑い声だ。

「稲妻よ、天を裂け!吹けよ風!呼べよ嵐!神よ!今日という日を、永遠に人類の歴史に刻むがいい!うが―――っはっはっはっはっはっは!!」

声の主は、雨降り頻る空に向かって叫び声を上げた。

「ちくしょー、放せ!放せええええっ!!」

その後ろから、また別の声が飛ぶ。

「おお!天もこの私の偉業を褒め称えているではないか!聴け!この、重厚にして荘厳なる神の調べを!!」

しかし最初の声の主は背後からの叫びがまったく聞こえた様子もなく、あいかわらず空めがけてダミ声を浴びせている。
やかましい事この上ないが、よく見ると窓の開いた部屋の中には、二人の男の姿があった。

一人は今開いた窓から顔を出していた男。
ボサボサに伸びた髪の毛を海原雄山のように所々白髪に染め、複雑な模様を作り出している。
顔の皺から判断するに、年齢は五十歳前後といったところだろうか?
よれよれの白衣を身に纏い、下は黒い開襟シャツとスラックスを履いている。

その姿から男の人となりを想像するなら、「医者」とか「科学者」と言った言葉が浮かんでくるだろう。
間違っても「建築家」とか「弁護士」なんて言葉は飛び出さないはずだ。
「火付け盗賊改め方」とか「怪獣王子」なんて思った人がいたらスゴイかもしれない。

事実、部屋の中には様々な薬や器具が所狭しと置かれており、何かの実験室といった感じだった。
そんな室内に置かれた丸い寝台に、もう一人の人物が寝かされていた。

彼は驚くべき事に、四肢を鋼鉄製の拘束具で縛られていたのである。
先程の叫び声も押して知るべしだ。

こちらの男は白衣をキッチリと着こなし、白いYシャツにジーンズ、七三に分けた髪と、爽やかな印象。
人の良さそうな顔には、少し大きなメガネがかかっている。
いかにも真面目な青年といった風貌だ。

しかしそんな爽やか青年が、寝台に縛りつけられているのだ。
部屋からはいやが上にも、怪しい雰囲気が漂ってきていた。

以上のような状況説明から、読者のみなさんは悪の秘密結社に捕まったヒーロー番組の主人公の改造手術シーンなどを思い浮かべるかもしれない。

しかし、事実は違う。
この二人の関係は、科学者とその助手。
言い方を変えれば上司と部下。

つまり、これは仕事である。
勿論悪趣味な遊びでもない。
立派な実験の一つであり、この男は人体実験を受けているのだ。
助手というのはこうした仕事もしなければならないのである。大変だなあ。

「するかこんな事!」

こらこら、地文に突っ込みなさんな。
まあ、このまま展開が進まないのもアレだし、字数も限られているわけだから、そろそろ彼らの紹介をしておこう。

まずは海原雄山もどきの男。
先ほど言ったように科学者で、名は江豪椅子人えごう いすひと ――
近所に住む人間からは、発明好きの偏屈男と認識されていた。
事実、ヘンテコリンな発明を作ったり、とんでもない事件を巻き起こしたりして、近所の人間に多大な迷惑かけていたりする。
しかしそんな事は一向に解した様子もなく、飄々と自分の研究を追及するのがこの江豪椅子人という男なのだ。
人は彼を、『ナチュラル・ボーン・ドクター』と呼んだ。

そして寝台に縛られた方の男が、博士の助手の金武嬢二三男きんじょう ふみお くんである。
当年とって二十二歳。
助手というと聞こえはいいが、実際は雑用をまかされたり、近所からの苦情に謝罪に行ったりと、博士の尻拭いばかりやらされていた。
それでいて博士に反抗する勇気もなく、いつもいいように使われているのがこの金武嬢二三男という男なのだ。
近所の奥様は彼を、『チキンボーイ』と呼んだ。

「待てい!読者が信用するような嘘をつくなーーーっ!!」

わあ、何も涙浮かべてまで突っ込まんでもええがな。
まあとにかく、こうした説明でお分かりかもしれないが、ここは江豪博士の住居兼仕事場である。玄関の扉の横には、木製の看板が立てかけられていた。

――『素晴らしき江豪きまぐれ研究所』――

周りの人間からは、通称「エゴ研」と呼ばれている。
説明終わり。

以上の例から、江豪博士の金武嬢くんに対する扱いがどういう物かはお分かりいただけただろう。
自分の世界に突入していた博士は、今の騒ぎにようやく自分の助手の存在を思い出したようだ。

「金武嬢くん……何、騒いでんの?」

「これが騒がないでか!!博士!一体何のマネです!?僕に何をしようって言うんですか!?簡潔に、明瞭に、ストレートに言ってください!!」

ものすごい形相で訴えてくる金武嬢くんに、江豪博士は少し考える仕草を取った後、右手の親指を立てながら歯をむき出して、にか〜っと笑った。

「金武嬢くんは、切り傷とか平気だよね♪」

「楽しそうに言うな!そんなもん平気なわけないでしょう!な、な、何する気なんです!?やめろ、人権蹂躙!鬼、悪魔、妖怪変化!コウモリさん助けてーー!!」

「うむ、金武嬢くんも気になっているようだし……では、そろそろ紹介するとしようか。ダカダカダカダカダカ……ダンッ!お待たせしました!本日の発明品〜、登場〜!!」

江豪博士はドラムロールを口ずさむと、懐からまん丸いボタンが付いたリモコンのようなもの取り出してポチッと押した。
すると、今まで壁だった部分が横にスライドして、中からシーツに包まれた巨大な物体が、ゆっくりと江豪博士や金武嬢くんのところまで独りでに移動してきたのだ。

「なななななななななななななななな!!?」

パニくる金武嬢くん。
寝台に縛りつけられただけでも大変なのに、こんなものが自分の傍に近づいてくれば、誰だってパニックに陥るってもんだ。
つまり金武嬢でパニック。うぷぷ。(らいらっくさん、ゴメンナサイ。 っていうか、このギャグの為にこいつの名前考えたんじゃないのか、作者は?)

「な、何ですかこれはぁっ!?」

「これが今回の発明なのだよ」

そう言って江豪博士は、シーツに包まれたものの横に立ち、そのシーツをぐわしとつかんだ。

「さあ、その目にしっかりと焼き付けるがいい!ご開帳〜!」

一旦間を溜め、博士は包んであったシーツを一気に引き剥がした。
中から現われたものは――
上部から四本のアームが飛び出し、底部にタイヤが付いた人型の機械としか形容しようがないもの。
絵心のない子供が書いた落書きを、そのまま立体化したような、とにかくそんなマシンだ。

「…………」

金武嬢くん、開いた口塞がらず。

「いや〜、このシュールなデザインを再現するのが一番苦労したよ」

江豪博士は腕を組むと、感慨深げに一人悦に入って頷いた。

「何の冗談です、これ……?」

壊れたオモチャのようにギギギと博士の方に首を回し、金武嬢くんは質問してみる。

「ぬっふっふっふっふ。これこそが、私が長年推し進めて来た研究の成果……『全自動脳移植装置』!なのだ!!」

江豪博士はバックに炎さえ燃え上がらせながら、握り拳を作り、カメラ目線でポーズを取った。
その横で金武嬢くんは、目が点になっている。

「ぜんじどうのういしょくそうち……?」

茫然自失のまま、博士が言った台詞をもう一度リピートしています。

「そう!この機械さえあれば、腕に自身のない医者でも頭蓋の切開から縫合まで、寸分の狂いもなく完っ璧に行う事ができるようになるのどぅわ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!脳移植って……まさか、その被験者に僕がなれって言うんじゃないでしょうね!!?」

博士の説明から状況を把握した金武嬢くんは、最悪の事態を予想する。

「ピンポーン!」

「ピンポーンじゃない!なんで僕がそんな手術受けなきゃいけないんですか!?」

「エヘ♪」

「可愛くなるな!大体医師の行う手術を全て行える装置とか言うんならともかく、なんで『脳移植』限定なんですか!?」

「いや、だってこれTSF作品だし……って、まあ!それはこの装置の実験が終わってからゆっくりと説明してやるって。はっはっは。安心しておやすみベイビー」

「て言うか、ぶっつけ本番で手術なんかせんで下さい!失敗したらどうするんですか!?」

「いや、やったって。ハムスターで。10組中3組が成功したよ」

「ゲッ歯類からいきなり人間で実験かい!つーか、めちゃ成功率低いし!!」

「だーい丈夫!この全自動脳移植装置、略して『ブラッド・レンフロくん』の性能は保証付き!グッスリ眠って目覚めれば、OH!すでに体は別人のものに!こりゃスゴイ!」

「何がOHだ!って、全然略称になっとらんわ!しかも略したわりに結構長いし!」

「まーまー細かい事は気にするねい。人間、根性があればなんでもできるって」

「科学者が言う台詞か!本人の了承もなく勝手にこんな事して、犯罪ですよ犯罪!!?」

「別にいーじゃん、君は私の助手なんだし。お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの。あいつのものも俺のものってやつだよ」

「うわ、開き直りやがった!冗談じゃない!不治の病にかかった訳でもあるまいし、健康体の僕がなんで別の体に脳を移植されなきゃいけないんだよ!はーなーせええええ!!」

寝台の上でバタバタともがく金武嬢くんだったが、当然そんな事では拘束具から逃れる事はできなかった。

「あー!結局こういう展開なのかよ!この間はゴリラと人格交換させられたし、その前は女性ホルモン増加薬とかいうのを飲まされたし!なんで僕ばかりこんな目に!?」

そんだけ酷い目に遭ってるなら少しは学習しろっての。

「バカバカバカ、僕のバカ!こんな事なら今日は早くアパートに帰って、TVでも見ていれば良かった!芋ヨーカンに釣られて博士の頼みを聞くなんて言った僕がバカだったんだ!くうううううううう!!」

そんなもんに釣られたんか、おまいは。

「ええい騒々しいのう……じゃあ、そろそろ麻酔で眠ってもらうとしましょうか」

江豪博士はそう言うと、ポケットからヘッドホンとアイトレックを取りだし、それを金武嬢くんに付けてやった。

「な、何するんですか!?うわ、真っ暗」

「麻酔だよ麻酔。そーれ、スイッチ・オンッッ!!」

神谷明口調でスイッチが押されると、アイトレックをかけた金武嬢くんの目の前には、花畑を舞台に、自分めがけて突進してくるイゴール・ボブチャンチンの姿が映し出された。


「ぐはああああああああああああああ!!!!!!」


金武嬢くんは、寝台の上でのた打ち回った。
当然である。
なにしろ只、イゴール・ボブチャンチンが突進してくる映像ではないのだ。

自分を抱擁しようと両手を広げ、愛しそうな表情で走ってくるイゴール・ボブチャンチン。
しかも首から下はCG合成によって釈由美子の体になっているのだ。(しかも水着姿)

60インチの画面で、ゆっくりとスローモーションで近づいてくる首がイゴール・ボブチャンチン、体が釈柚実子の新世代キメラモンスター。これは怖い。
金武嬢くんは三秒もまたずに思考回路を切断し、夢の世界へ逃避した。
もしこの映像に耐えられる人間がいたとするなら、その人物こそが宇宙最強の冠を抱くに相応しいだろう。

「やれやれ、よーやく静かになりやがった。では、手術の準備をするとするか。スルッとね」

江豪博士は全自動脳移植装置(以下、ブラッド・レンフロくん)の後ろに立ち、何やらキーボードを叩いて設定をし始める。

「よし、準備完了!頼んだぞブラッド・レンフロくん!!」

博士は満面の笑みで、レンフロくんの背中にあったレバーをガチャリと下げた。
すると、レンフロくんの頭のモニタが(今更説明すると、パソコンのモニタのようなものが頭部にくっついている)真っ赤に染まり、『手術中』という文字が浮かび上がる。
そして4本のアームが動き出し、メス、電動ドリル、鉗子、ハリセンを取り出した。(何故ハリセン?)

「いよいよ……いよいよ私の夢が叶おうとしている……!頼む、成功してくれよ……!」

珍しく博士は遠くを見詰めるような目で、部屋の奥に顔を向ける。
そこには、金武嬢くんとは別にもう一つ、シーツがかぶさった寝台があった。

緩やかなふくらみ具合から、シーツの下に誰かの体が寝かされているのが分かる。
金武嬢くんの脳が移される予定の体なのだろうか?
さてそれは、もう少し話が進んでからのお楽しみ――


ぎゅい〜ん!

ががががががっ!

ばりばりばり!

ちゅぃぃぃ〜ん!

がっぱあっ!

ぼてぼてぼてぼてぼて!

とんてんかん!とんてんかん!

ずぎゅぅぅぅぅぅんっ!

ごごごごごごご!

どどどどどどどど!

まきょまきょ!

おろろーん!

あばらぼろぼろ〜!

Voooooooooom!



ブラッド・レンフロくんが起動し、手術が開始されると、騒々しい音が研究所の周辺に木霊した。
江豪博士はポケットから煙草を取り出し、火をつけて美味そうに吸いながら、その光景を見守っている。

手術は長時間続いた。
しかし、始まりがあれば終わりもあるもの。
騒々しく鳴っていた音が、ゆっくりと消えていく。

最後には打って変わって、エゴ研は物音一つない静寂に包まれた。
いつの間にか雨も止んでいる。

長かった夜は明け、白々とした朝日が、地平線の向うから顔を覗かせようとしていた―――


###


「う、うう……ん……?」

眠っていた金武嬢くんが、ようやく目を覚ます。

「……?」

寝起きで意識が起ち上がっていないのか、はたまた麻酔がまだ効いているのか、金武嬢くんはボーっとした目つきで天井を見詰めていた。
見知らぬ天井だ。

「えっと……」

必死で脳を回転させる。
記憶の引出しを開け、昨夜の出来事を取り出した。

「!」

途端に記憶が甦り、金武嬢くんは上半身を起き上がらせる。

「ど、どうなったんだ、一体!?」

辺りを見まわしてみるが、そこはすでにさっきの部屋ではなかった。
質素なベットと、申し訳程度のお粗末な家具が置かれている。
病院の個室のような雰囲気だ。

「か、体!僕の体は!!?」

ようやく自分が無理やり脳移植手術を受けた事をハッキリと思いだし、己の体を確認してみた。
かけていたシーツを捲って、片腕を目の前に近づける。

ホッ、よかった。
自分の生っ白い腕を見て安心する。

どうやらこの前のように、ゴリラと体を交換されたわけではないようだね。
動物ならこんなに細くなく、もっとゴツゴツとしているだろう。

――ん?
いや、待てよ……

なんですかこの腕?
僕の腕ってこんなに細かったっけ?

指なんかスラッとしてるし。
肌だってなんか健康的だ。

サイズが妙に小さいような……
これじゃ、まるで女の子だよ。

え、女の子!?

もう一度、自分の体を注意深く観察してみる。
服はいつもの白衣ではなく、寝間着を着させられていた。

真っ白な寝間着。
しかもワンピースだ。
……って、ワンピースゥ!?

ゲッ、スカート!?
なんでスカートを履いてるの!?
僕、寝てる間に女装する癖なんかなかったよな……?

ああ、なんか首がチクチクする。
なんだ、髪の毛か。

って僕の髪ってこんなに長かったっけ?
背中まであるよ。

ああ、なんか変だ、絶対には変だ。
ミステリーすぎる。
そういえば、いつの間に僕の一人称で話が進んでいるんだろう?

しかし、本当に女の子みたいだなあ。
ホラ、足もこんなにキレイだよ。
いくら軟弱坊やと陰口叩かれてるからって(やっぱ言われてたんか)太股なんかふっくらとしてるし、足首もキュッと引き締まってて。

おや、胸まで盛り上がってますよ?
ハハハ、コリャおかしい。


……
……
……
……

胸!?

胸って……む、胸!?
【むね】名詞:@からだの前面の首と腹のあいだ。A衣服の「胸@」に当たる部分!?

って、そうじゃない!
胸があるのは当たり前だよ!
そうじゃなくて、女性のオッパイがあるんだよ!!

ち、乳房……?
バババ、バストっすか!!!!?

事の重大さに気付き、僕は慌てて状況確認を行った。
服の下に林檎でも入れてるわけじゃ……ない!
蜂に指されたわけでもなければ、鬼にほっぺたのこぶをくっ付けられたわけでもない。

本物……?

おそるおそる触ってみる。
とりあえず、指でつついてみましょう。

つんつん。
突つかれた胸は、『ぷるん』と揺れた。

確かに……本物のようだ。
しかも触られた感触もある。
これが意味するのは、僕の胸部に女性の乳房がくっついていると言う事だ。
この間、博士の薬で女性化したから分かるが、これはシリコンではなくマジ本気の女の乳房だった。

寝間着の襟元を大きく広げ、中を覗く。
オ、オッパイだ……!
ピンク色の乳首が目にまぶしかった。
広げた部分から手を突っ込み、その乳首を指でグリグリしてみる。

「はうぅっ!?」

頭の上から足のつま先まで、痺れるような快感がほとばしった。
ま、間違いない。
感覚も共有している!

これで胸にある膨らみが、僕自身のオッパイであると言う事が実証された。
確認作業終了。

――イヤ、ちょっと待て。
あまりの気持ちよさに頭が真っ白になったけど、今の僕の声……?

いつも聞き慣れたものじゃない。
耳が故障したのでなければ、今のは確かに女の声だった……!

「ま、まさか!!?」

と声に出した途端、部屋の隅に全身が映せるほどの姿見が置いてある事に気付いた。
まるで、このシーンで使えとばかりに置いてある。
僕はベットを飛び降り、鏡の前まで走った。

はたして、鏡に映ったのは――
いつものナイスガイな僕の姿ではなく――
『可愛らしい少女』の姿…………!

「な、な、な、なんじゃこりゃあああああああああ!!!!!?」

部屋中に可愛らしい絶叫が鳴り響いた。
ウンウン、やっぱこういうシチュエーションを用意してもらわないとねえ。( お、3人称に戻ったようですな)

すっかりプリチーな姿になった金武嬢くんは、鏡の両端を手でつかんだまま、「あわあわあわ……」と言葉にならない声を出している。
すると、部屋のドアがガチャッと開き、江豪博士が現れた。

「おう、目が覚めたのかね」

博士の呼びかけに一応振り向いてみるも、金武嬢くんは相変わらず混乱している様子だ。

「どれどれ……」

そう言って江豪博士は金武嬢くんの瞼を開き、ペンライトで覗き込んだ。

「フム、問題なし……自分の名前が分かるかね?」

「え?あ、ハイ……金武嬢、二三男です……」

まだ思考が麻痺しているようで、金武嬢くんは江豪博士の質問に素直に答える。

「よし、記憶の混濁もない!成功したのだ!バンザーイ!」

江豪博士はポケットから取り出したクラッカーを鳴らすと、勝手に一人で盛り上がり始めた。
金武嬢くんはポカーンと間の抜けた顔で、それを見詰めている。

「は、博士……?」

「おめでとう金武嬢くん!脳移植手術は無事成功したよ!これも君のおかげだ!ウンウン、そうか、君も嬉しいか。喜びを共に分かち合おうではないか。くうう!」

腕を両目に押し当てて号泣する博士と、鏡に映る今の自分の姿を交互に見続ける金武嬢くん。

「博士……博士!こここ、これはどう言う事です!?」

「どう言う事って?」

「この体ですよ!なんで女の子なんですか!?」

ようやく頭がハッキリしたのか、金武嬢くんは鏡を指差し、江豪博士に質問を浴びせた。

「もっと、ナイスボデーの方が良かった?」

「んな事聞いてるんじゃない!なんで男ではなくて女なんですか!?」

「いや、折角移植するんなら、やっぱ女の体の方がいいでしょう?この手のジャンルの小説ならそんなの基本だよ、君」

「なんですこの手のジャンルって!?ああ!とにかくそんな事はどうでもいい!ぼ、僕の体は!?早く元に戻してくださいよ!」

「あ、君の体?君の体は……ほれ」

博士はそう言うと、またしてもボタンを取りだし、壁をスライドさせた。


「しぎゃ〜!」


中には巨大な水槽があり、鰻と鮫を足し合わせたような怪物が雄叫びを上げ、水中で暴れ回っている。

「君の体はカトリ―ヌちゃんのお昼ご飯になっとるよ」

よく見ると、その怪物(カトリ―ヌちゃんと言うらしい)が、何か肉片のようなものを口にくわえていた。

「おおおおおおおおおおおお!!!」

金武嬢くん、絶叫しながら水槽にダッシュ。
しかし、もはや遅かったようだ。
すでにカトリ―ヌちゃんは全てを飲みこみ、バリバリと咀嚼している。

「体……僕の体……ぶぉくのからだがああああああああああ……!!」

水槽のガラスを爪で引っかき、金武嬢くんは泣き崩れた。
カトリーヌちゃんはすっかり満腹になって尻尾をフリフリ、水槽の奥に帰っていく。

「研究に悲しい犠牲はつきものなのだよ……」

江豪博士は煙草を加えたまま、神妙な面持ちで金武嬢くんの背中を叩いてやった。

「…………」

ゆっくりと、金武嬢くんが振りかえる。
目は血走り、顔を憎悪に歪めて。

コ・ロ・ス

いくらお人好しの金武嬢くんでも、この仕打ちには殺意を爆発させたようだ。
“博士を殺して僕も死んでやる!”なんて決意を胸中に刻みつけるほどに。
かつてないほどに脳を回転させ、「江豪博士殺人事件」の企画書を頭の中で必死に作成している。

推理作家も顔負けだ。
これを実行すれば、完全犯罪としてどんな名探偵でも誰の犯行か分からないだろう。
と、江豪博士がぽん、と金武嬢くんの肩を叩いた。

「犯人は君だね」

「まだ、考えただけだわ!って、なんで僕の考えてる事分かるんですか!?」

「とーにかく、そんな憎々しげな顔しとらんで……ほれ、鏡を見てみい」

博士は金武嬢くんの顔をつかむと、無理やり鏡の方に向けた。

「よく見ろ、自分の顔を……こ〜んな可愛い顔してからにぃ。ぐっしっしっし」

言われて金武嬢くんは、渋々鏡に目を向ける。
あらためて、別人となった自分の相貌と対峙する。

確かに――可愛い。
背中まで伸びた黒髪。
丸っこい顔にはつぶらな瞳と、お人形のように小さな鼻と口がついている。

歳で言うと高校生くらいだろうか?
しかし体つきを見てみると、とてもそんな年頃の少女には見えなかった。ごっくん。

「どーよ、どーよ?グーだろ?」

「え、ええ……まあ」

金武嬢くんは頬を赤らめ、頷く。

「博士……と、ところで誰なんです?この体の持ち主……」

「ん?私の妻だよ」

「…………え…………?」

自分の聞き間違いかと思い、金武嬢くんは博士の顔を見返す。

「妻……?え、江豪博士の奥さんなんですか?」

「ああ」

「それにしては、十代のような体ですけど……」

「あいつは童顔だったからなあ……」

江豪博士は煙草を指に持ちながら、窓の外を見詰めた。

「お、奥さん……」

同じ言葉を繰り返す金武嬢くん。
あまりの事に、さっきまでの憎しみは霧散し、頭の中を様々な想像がよぎった。

「ま、まさか、奥さんが交通事故で脳死状態になって、それで僕の脳を……?」

「いや」

「じゃ、じゃあ脳腫瘍の発見が遅れて死んでしまったとか?」

「うんにゃ。妻はいたって健康だったよ」

「はあ?じゃあ、なんで奥さんの体を……?」

「イヤ、ただ男の脳が入った妻を見たかったというか」


一瞬、場の空気が凍りつく。

「へ…………?」

聞き間違いかと、目を瞬かせる金武嬢くん。
江豪博士は相変わらず窓の外を見詰めたままだ。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どう言う事なんです?」

「言った通りの意味だけど?」

「って、それじゃあ奥さんは何も悪い所がなかったのに、脳移植実験の体に選ばれたんですか!?」

「そだよ」

「ど、どーしてまた!?」

「だから見たかったんだって、男の脳の入った妻が」

「そんな……!そんな理由で、奥さんを死なせて手術をしたんですか!?」

「いや、別に死んでたわけじゃないよ。手術するまでは人口冬眠してもらっていたから」

「って、待てよ待てよ、待ってください!つまり博士は、奥さんが亡くなったから甦らせる為にこの研究をはじめたわけじゃなく、ただ脳移植手術を試したいが為に、奥さんの体を使ったって言うんですか!?」

「まあ、それがこの研究の目的だったからなあ……もっと言えば私の夢だし」

「ひ……酷い!それじゃあ奥さんは、博士の研究の犠牲になったってわけじゃないですか!あ、あなたは奥さんを愛していなかったんですか!!?」

「だから、男の脳の入った妻を愛したかったんだって」

「む、無茶苦茶だ……」

金武嬢くんは驚愕し、ヨロヨロと後退りした。
今までも酷い人だとは思っていたが、ここまで人非人だったとは。
そのままドアから逃げ出そうとするが、しかし先程のブラッド・レンフロくんが現れ、彼の前に立ち塞がったのだ。

「!」

「ふっふっふ。私の手から逃げられると思っていたのか?」

そう言うと、江豪博士は素早く金武嬢くんの後ろに回りこみ、体を押さえつけた。

「は、放せ!この人でなしぃっ!!」

「まあまあ。つれない事言わないで、ここで仲良く夫婦生活を営んでいこうでないか。イッヒッヒ」

「誰がするか!あんたと伴侶を誓った覚えはない!今日限り、助手の仕事も辞めさせていただきます!」

「あ、忘れてた。妻の名前は春流ね。江豪春流えごうはるる。じゃ、とりあえず家具でも買いにいこっか♪」

「聞けよ人の話!新婚気分か!?だいたい、僕は春流なんて名前じゃない!金武嬢二三男だ!くっそー!あなたと言う人間が、よーく分かりましたよ!そうか、イカれた研究の為にこの人と結婚したんですね!?最初から計画犯罪だったんだ!」

「ええい、やかましい……何を言い出すかと思えば。そもそも私の妻はな――」


ちゅどーーーんっ!!


江豪博士が喋りかけたその時、ものすごい爆発音と共に研究所が大きく揺れた。

「な、何だぁ!?」

「……ちっ、もう動き出しおったか」

うろたえる金武嬢くん。
それとは対照的に、江豪博士は今までとはまったく違う厳しい表情で、爆発音が聞こえた方向を睨みつけた。
スゴイ形相だ。
画:さいとう・たかを並みである。

「まったく……連中は!」

「あ、博士!?」

吐き捨てるや否や、江豪博士は部屋を飛び出した。
驚いた金武嬢くんが慌てて後を追う。


部屋の外に出てみると、研究所の正面玄関が爆発物か何かに破壊されているのが分かった。
ドアは吹き飛び、近くの壁まで崩れている。
辺りに飛び散った破片が痛々しい。

「ひどい……だ、誰がこんなことを!?」

次から次へと巻き起こる騒動に、完全に考える事をやめた金武嬢くんは只、呆然とするのみ。
江豪博士の方は、ポケットに両手を突っ込んだまま悠然と立ち、崩れた壁の奥を見詰めていた。

煙の中から、人影が現れる。
それは一気に増え、破壊された玄関から十数人ほどの男たちが研究所の中に入ってきた。

全員黒い道着を着ている。
どこかの道場の門下生と言った感じだ。

「――お久しぶりですわ、江豪博士」

現れた男たちを掻き分け、一人の人物が声をかけてきた。
口調からして女性だと思われるが、その容姿は顔に派手な化粧を施し、コテコテの女装をした長身の男だったのだ。
こちらはラメ入りの青い道着を着ている。

「フン、貴様か……青大将」

「随分な言い様ですわね?わざわざこうして、我ら『毒蛇団』が出向いたと言うのに」

「呼んだ覚えはないわ。とっとと帰って脱皮でもしていろ」

「アラアラ、これは可笑しい。依頼したものもいただいていないと言うのに、もうクライアントを帰すおつもりで?」

「何がクライアントだ。誰がお前らの依頼を受けると言った?」

「うふふふふ……とぼけても、駄・目。そこにしかっりと、完成品があるではないですか」

二人の舌戦に置いてけぼりを食らった金武嬢くんは、突然『青大将』と博士が呼んだ男に指差されてビックリした。

「何を言うか!これは私が長年進めてきた研究の成果だ!お前らとは関係ない!」

「確か……あなたの奥様でしたか?聞きしに勝る美貌ですわね。そして、ついに脳移植にも成功した……その中に入ってる脳みそが、博士の助手の金武嬢二三男くん?」

「な、なんで僕の名前を……?」

自分の正体をあっさりと見破った目の前の男(?)に、金武嬢くんは言い様のない恐怖を覚えた。

「フン!やかましーわ。大体、金武嬢くんは女の体になって、ようやくそのボデーを確認しようとしていた所だったんだぞ。それを邪魔するとは……無粋な連中め!」

「ふ……過度の探索はストーリー進行に多大な影響をもたらします事よ」

博士の抗議を軽く受け流す青大将。
その手の心配は作者だけに任せてほしいものである。

「博士……こ、この人達は一体?」

ようやく合の手を入れられるかと思い、金武嬢くんは江豪博士に質問した。

「くだらない企みで世を混乱させようとしている、毒蛇団とか言うろくでなしの連中だ。こいつがその頭目の青大将――お山の大将気取りの小狡いチンピラだな」

「くだらないとは心外ですわね。我らの崇高な計画に、博士のその素晴らしい頭脳を活用していただこうと思っているのに」

「アホ抜かせ!私の頭脳を自由に使っていいのは、私だけだ!勝手に人の発明に目をつけおって……!」

「目をつけた?この人達が?博士の発明に!?」

「なんじゃい、その『なんて物好きな』みたいな顔は」

「あ……いやいや!」

ズバリ思っていた事を指摘されて、金武嬢くんは笑ってごまかした。
しかしよく考えてみると、世の中を混乱させようとしている人間が江豪博士の発明品に目をつけるのも分かるような気がする。
何せコンセプトからして、「誰かを困らせる」という項目が含まれているのではないかと疑わしいものばかりなのだから。

「へへへ……どうです大将?あっしの情報通りでやしたでしょ?」

そんなやり取りをしていると、取り巻きの中から一人の男が前に出てきた。
金色に染めた長髪が、道着と酷くアンバランスな感じだ。

「あ〜、そうね。お前の言った通り、博士は脳移植手術の実験をちゃ〜んとやってくれてたみたい。ふふん、いい子ちゃんね♪」

どうやらこの金髪が、エゴ研をスパイしていたらしい。
――まあ、実際には、研究所を疎ましく思っている近隣の奥様連中に話を聞きに行っただけなのだが。

「へっへっへ!つーわけで大将!約束の報酬なんですが……?」

「ああ、そうね、忘れていたわ。こっちにいらっしゃい」

青大将はゆっくりと手招きした。

「ひゃっほう!」と声を上げ、金髪は主の元へと駆け寄る。

「金武嬢くん、よく見ていろ」

「え?」

博士に言われ、金武嬢くんは二人に注目した。
金髪は自分の髪を手で掻き分け、首筋を露わにする。
青大将は大きく口を開くと、その首めがけてガブリと噛みついたのだ!

「わ!」

驚く金武嬢くん。
よく見ると、青大将の前歯からは二本の鋭い牙が生えていたのだ。

パターンだが、金武嬢くんは「ヴァンパイア」とか「吸血鬼」だとかを連想した。
さらにそこから「吸血鬼ハンターD」とか「吸血鬼ゴケミドロ」を連想する。
人の思考は押し留められないのだ。

「おおおおおおおおおおお!」

金髪はと言えば、恍惚とした表情で唸り声を上げ、噛まれるまま悶絶している。
数秒後、青大将がようやく牙を引き抜いた。
近くにいた側近が素早くハンカチを差し出し、口元を拭き取る。

「では……とくと、覧あれ〜♪」

ハンカチを放り投げた青大将は、突っ立ったままの金髪を見詰め、うっすらと笑みを浮かべた。

「うっ!うううう!あぐうううううううううう!!」

すると、金髪が両腕で体を抱いたまま、痙攣しはじめたのだ。

「毒!?」

目の前の集団の名前から、金武嬢くんはその一文字を連想する。
しかし、暴れている金髪の体が生命活動を停止する様子はない。
それどころか、全身の毛穴から水蒸気のようなものが噴出し、どんどんと体が縮まっていった。

「こ、これは!?」

金武嬢くんの胸中にいやな予感がよぎる。
この光景、見た事がある――?

「はあっ!はあっ!」

金髪の変化がようやく治まった。
ただし、その場にいるのはさっきまでの彼ではない。
身長は縮まり、体型も少し丸みを帯びていた。

「女性化……?」

「そう、その通り――」

金武嬢くんの呟きに、江豪博士が答えた。
確かにそこに立っているのは、すっかり女の姿になった金髪だったのだ。

「やったーーーーー!!女だああああああああああああああ!!!」

金髪は甲高くなった声でそう叫ぶと、自分の胸に手を置いた。

「はああん!本物のオッパイ……!ついに俺の夢が叶ったんだぁ!イエイ!」

気持ち良さそうな顔で、自分の胸を揉みつづける金髪の女性(?)

「博士!これはもしかして、女性ホルモン増加薬……?」

「ウム、私の考え出した大発明品を、あの男が盗みおったのだ!まったく……」

「ホホホホホ。博士の発明品をこうして立派に使っているというのに、文句を言われる筋合いがありまして?」

青大将が、口に手を当てて笑う。
前歯から伸びた二本の牙から、ピンク色の液体がタラリと流れ落ちた。
あれが女性ホルモン増加薬だろう。

「さあ江豪博士、おとなしくその試験体と脳移植装置を渡してもらいましょうか。我ら毒蛇団が、博士の発明を世界の為に役立てる事をお約束しましょう」

女性化薬や脳移植装置が一体どう世界の役に立てるのかと、金武嬢くんは疑問を持つ。

「馬鹿か?私のこの偉大な脳細胞を、なんで世界のためなんぞに使わねばならん?私の発明は全て、私自身の為のものだ!大体、人にコキ使われるなんぞ笑止千万!気ままに、思いついた時に、自由に何かを作り出す――これが『すばらしき江豪きまぐれ研究所』の基本理念!一切の例外はなーい!さあ、分かったらとっとと帰った帰った!巣でとぐろでも巻いておれ!!」

「つまり……どうあっても渡す気はないと……?」

にべもない博士の言葉に、青大将の目が鋭くなる。

「では仕方ありません。美学に反しますが、力づくでいただいていくとしましょうか……サムソン!」

青大将が叫ぶと、部下達の中からマントを羽織った身長二mほどもある大女が前に出てきた。
真っ赤に染めた髪が腰まで伸び、炎のように波打っている。
マントから覗く腕の太さは人間の頭ほどもあり、全身まさに筋肉の塊と言った感じだ。
ボディビルの大会で優勝できそうな肉体である。

「こいつは元プロレスラーのサムソン郷田。私の力によって最強の女子プロレスラーに生まれ変わったのです。さあ、サムソン!その女を捕まえなさい!」

「うが〜〜〜〜〜〜〜!!!」

サムソンは雄叫びを上げ、羽織っていたマントを投げ捨てた。
下は黒いレオタードに、黄色のレスリングシューズスタイル。
首や肩をコキコキと鳴らすと、獲物である金武嬢くん目掛けて突進してきた!

「わわわわわわ!!」

逃げようとする金武嬢くんだったが、あまりの恐怖に腰が抜けてしまう。

「金武嬢くん!何をしている、そんなデカブツ叩きのめしてしまえ!」

「む、無茶言わんでください!僕がどうすれば、こんなのと戦えるんですか!?アステカイザーにでも頼んでくださいよ!!」

へっぴり腰のままサムソンのタックルを転がって躱し、金武嬢くんは博士の無責任な注文に抗議する。

「おう、忘れとった。これを指に填めたまえ!」

何やら思い出したらしい江豪博士はポケットから(一体どれだけ物が入っているんだ?)指輪を取り出し、金武嬢くんに向けて放り投げた。

「こ、これは!?」

慌ててキャッチして確かめると、指輪には真っ赤な宝石が填められていた。

「それをどこでもいいから指に付けて、何か叫んでみろ!そうすれば、お前に戦う力が備わるハズだ!」

「ええ?イ、イヤそんな事、急に言われても……」

このシチュエーションから、ある程度の展開を想像する金武嬢くんだったが、さすがにそんな恥かしい真似をさせられるとなるとちょっと躊躇してしまう。

「い〜から、とっととやらんか!!」

「ハハハハハイイイイイイ!!」

しかし、やはりいつもの条件反射で、博士の声に素直に従ってしまう金武嬢くんだった。
急いで指輪を人差し指に装着する。

「え、えーと……へへ、変身!!!」

「うわ、ベタベタやん」

江豪博士、呆れ返る。
博士は、金武嬢くんが大の仮面ライダーファンである事を知らなかった。
当然、LD−BOXは鑑賞用と保存用に揃えてあるし、クウガのDVDだって全巻予約済みだ。
まあそんな事はともかく、金武嬢くんが叫んだ瞬間――指輪の宝石が光り輝き、部屋中を照らし出したのだ。

「わ!」

「な、何なの!?」

「うぐうううっ!?」

部屋にいた人間、全員が目を瞑る。
光が渦巻く中、指輪の中から白く輝く布が何十枚と現れ、金武嬢くんの体を包み込んだ。
サムライトルーパーもビックリである。

「ちょっと、どうなってるのよ……!?」

眩しかった光が、ゆっくりと消えていく。
あまりの眩しさにうずくまっていた青大将が、誰にともなく毒づいた。

「金武嬢くん、自分の姿をよく見るのだ」

「え――?」

毒蛇団たちが前後不覚に陥る中、江豪博士だけは平然とした様子で、懐から煙草を取り出して火を点けながら、不敵な笑みを浮かべていた。
金武嬢くんはようやく視界が回復したようで、うっすらと目を開いて博士に言われた通り視線を下げる。


「げっ!!?」

――そして、絶句した。
目の前にあったのは、さっきまでの白い寝間着を着た体ではなかったのだ。

真っ赤な、
鮮やかなまでに真っ赤な、チャイナドレスに身を包んでいる。
いつの間にか金武嬢くんが、チャイナドレス姿になっていたのだ!


「なっにぃぃぃぃぃーーーーーーー!!?」


毒蛇団の皆さんも吃驚仰天。
金武嬢くん自身からは見えないが、髪も左右に結われており、目にはアイシャドーさえかかっていた。
化粧もバッチリ。
唇もドレスに負けないくらい真紅の口紅が塗られているし、ドレスの胸元には白い薔薇が描かれていた。
どっからどう見ても、アイヤ―!と言った感じだ。

「へ、変身?馬鹿な……」

さすがの青大将も、口をアングリと開けてます。

「は……博士!どうなってるんです、これ!?」

もう何度目になるだろう質問を、金武嬢くんは口に出した。

「だーーーーっはっはっは!!驚いたか小童ども!?こんな事もあろうかと、手術の時に妻の体を改造し、緊急時には超人的な能力を発揮できるようにしておいたのだ!あの指輪を填め、合図で出現する戦闘用チャイナドレス『転身聖竜』を装着する事によってな!名づけて チャイナローズ どぅわあああああああああああっっっ!!!!」

背景に稲妻を直下落撃させながら、江豪博士はものすごい形相で変身した金武嬢くんの姿を命名した。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!改造って……この体、もしかしてサイボーグ化したって事ですか!?」

「まあ、遠からずそう言う事やね」

「なあああんで、そんなマネしたんすか!?なにより、この体に入る僕の了承もなしに!!」

「いーじゃん、『誰がために』戦うって感じでさ♪カックイー!」

「よくない!本当にあなたは、いつもいつも……」

拳を震わせる金武嬢くん。

「う、噂にたがわぬ独善振りね。江豪椅子人……」

青大将は汗を垂らしながら、密かに金武嬢くんに同情した。
敵に同情されてるよ、おい。

「ま、まあとにかく、私達がその力を利用すれば、世の中ハッピーなのよ!チャイナローズだかなんだか知らないけど、毒蛇団の怖さをたっぷりと教えてあげるわ!さあ、アンタ達!ジジイと小娘をふん縛っておしまい!!」

青大将の合図で、サムソン以下毒蛇団員が攻撃体勢に入る。

「金武嬢くん!とりあえず押し問答は後だ!今は目の前の敵に集中しろ!」

「……くっ!」

真の敵はあんたなんじゃないのかと胸中で思いながら、金武嬢くんは仕方なく構えを取った。

(しかしこの数を相手にしろっての!?)

構えたはいいが、多勢相手にやっぱり弱気だ。

「へへへえ!いただき!!」

先程女性化した金髪が手刀を繰り出してきた。
金武嬢くんは、それを紙一重で躱す。

(え?相手の動きが、スローに見える!?)

自分の動体視力に驚く金武嬢くん。
やはり、改造された影響なのか?

「それなら!」

意を決し、体を反転させて廻し蹴りを放ってみる。

「ぐふあっ!?」

金髪はそれをまともに食らい、壁に激突した。
襲い掛かろうとしていた毒蛇団がたじろぐ。

「すごい……こいつは……!」

金武嬢くんは、全身からあふれ出てくる躍動感をひしひしと実感していた。
かつて味わった事がないほどの力を感じる。
まるで、自分が一流の格闘家にでもなったようだ。

「もう!何やってんの!?一度にかかりなさい!!」

青大将の叱咤が飛ぶ。
お互い確認を取りながら、部下達は再び金武嬢――いや、チャイナローズに襲いかかった。
(変身した後は、正体知ってる人でもその名前で呼ばないとね)

「チャイナローズ!こいつを使え!」

江豪博士もしっかり名前を叫び、またしても道具を投げ渡す。
先端に羽毛が付いた真っ赤な扇だ。

チャイナローズは受け取った後、それを襲いくる毒蛇団めがけて投げつけた!
手を離れた扇は倍ほどの大きさに巨大化し、回転しながら毒蛇団を叩きのめした!

「ぐああああああっ!!」

僅か一振りで、サムソン以外の連中はノックアウト。
すごい威力である。

「うぬぬぬぬ」

これには青大将も歯噛みした。

「脳移植だけではなく、変身までするとは……大体、なんでチャイナドレスなのよ!?」

ごもっとも。

「ぬっふっふ。お前、中々強そうだなぁ……」

しかしサムソンはそんな事にはお構いなしに、姿に似合わない男言葉で喋ると、彫りの深いアメコミに出てきそうな顔を(ペンシラー:ジム・リー)歓喜に歪ませ、舌なめずりをした。

「サ、サムソン!こうなったらアンタだけが頼りよ!その力、見せつけてやってちょうだい!!」

「うおおおおおっ!!」

サムソン、雄叫びを上げてチャイナローズにタックルをぶちかます!

「くっ!!」

チャイナローズは、それを潜り抜けるようにジャンプして回避した。

(このパワーで直撃を食らったら、今の僕でもやばいんじゃないのか!?)

何とか避けたが、タックルの衝撃からサムソンの力を予想し、チャイナローズは戦慄する。

「先手必勝!!」

意を決し、サムソンの死角に回りこむようにダッシュすると、軸足にローキックを連続で放った。
バランスを崩させ、そこから反撃する作戦だ。
しかし、サムソンはビクともしない。

「なんだぁ、そのヤワな蹴りは!?」

サムソンは鼻で笑うと、攻撃を続けるチャイナローズを無視し、その体を持ち上げてがっちりとベアハッグに決めたのだ!

「ぐああああああっ!!」

ものすごい怪力に体を締め付けられ、苦しむチャイナローズ。

「ほほほほほ!サムソンのパワーはね、はっきり言ってマキ上田の倍はあるわよ!?」

青大将が勝ち誇った顔で哄笑する。
イヤ、もうちょっと新しい例えはなかったのか?

「おほほ♪こりゃ、たまらんなぁ〜」

サムソンはチャイナローズの体を締め付けながら、そのたわわに実ったオッパイに顔を埋め、感触を楽しんでいた。

「こ、こらやめろ!気色の悪い!」

「こんな立派なものが付いてるのに、楽しまない手はないぜ?ほーれ、ほれ」

胸の谷間に突っ込んだ頭を左右に振り、圧迫感を満喫するサムソン。

「あはぁぁぁぁっ!?」

チャイナローズは胸から急激に押し寄せる快感に耐えられず、色っぽく身悶えた。

「よし、サムソン!読者サービスよ!」

「ハッ!」

青大将の命令に応え、チャイナローズの体を反転させ羽交い締めの格好にすると、サムソンは両乳房に手を置き、ゆっくりと揉み始める。

「くううっ!?」

繰り返し襲ってくる刺激に顔を歪ませるチャイナローズ。
パンチやキックに耐えられるスーパーヒーローでも、女性になったばかりの男の子であるからして、その抜群の感度に対する抵抗力はハッキリ言って無いに等しい。

(こ、これが……女性の体……!はううっ!)

もう、メロメロのチャイナローズであった。

「どーれ、やっぱこういうドレスは、スリットから覗くスラっとした足を拝まないとね〜?」

サムソンは、ドレスの裾を持ち上げようとする。

「や……くぅっ!やめろ……!こういうのは見えそうで見えない所が、わびさびなんだぞ……!」

恍惚感の中で抵抗しようとするチャイナローズだったが、力はほとんど入らなかった。

「そんな状態で何ができるってんだぁ?大人しくしてなって。たっぷりと気持ちいい〜事してやっからよぉぉぉ……」

チャイナローズの耳元で、サムソンが囁く。
酒臭い、それも安物の酒の混じった息を嗅ぎ、チャイナローズは吐きそうになった。

「て、てんめぇ……い・い・か・げ・ん・に・し・ろ……!」

その悪臭に、怒りが込み上げてくるチャイナローズ。
髪の毛が逆立ち、彼の体からじわっと陽炎のようなものが込み上げてきた。


「――フ、勝ったな」

戦闘の様子を静かに見守っていた江豪博士が、ニヤリと笑う。

「え、何?」

すでに勝利気分に浸っていた青大将は、チャイナローズの只ならぬ変化に気付き、うろたえた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

全身から真っ赤な闘気を放出させ、魂の叫びとも言える絶叫を発しながら、チャイナローズは体を押さえつけていたサムソンの腕を一気に引き剥がした!

「ぬおおおっ!?」

自分の怪力をいともあっさりと破られ、サムソンは驚愕する。
当のチャイナローズはと言えば、すでに目はイッちゃってるわ、顔も怒りで真っ赤にに染め上がっているわの、「俺の怒りは爆発寸前!」状態だ。(って爆発してるんだけど)
曲がりなりにも格闘家の端くれとして、サムソンはチャイナローズのその気迫に戦き、距離を取ろうと後退する。

「サ、サムソン、どうしたって言うの!?」

「どぁーーーーーっはっはっはっは!驚いたか駄目人間!?チャイナローズの体には、操を傷つけられそうになるとブチ切れ、通常の3倍のパワーを発揮する『怒りの3倍モード』が取りつけられておるのだあ!私以外の人間が彼女をイタダこうとすると発動するように設定してな!ぐしゃしゃしゃしゃ!!」

「な、何なのその無茶苦茶なキャラ設定は!?行き当たりバッタリで考えているでしょう!?」

すいません――
ともかくチャイナローズは炎のようにオーラは燃やし、サムソンを睨みつけた。

「!?」

金縛りにあったかのように竦み上がるサムソン。
とりあえずチャイナローズの怒りの矛先は、その酒臭さに向けられたようだ。

チャイナローズは思った――こいつの「におい」を止めてやる!

さあ、ここから大逆転だ!
音楽もヒーロー側の曲にチェンジ。
BGMは「あばれん坊将軍」のテーマだ。(瀬戸朝香とかエンヤでも流れると思った?)


「とおーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

チャイナローズは雄叫びと共に天高く舞い上がった。

「おおおっ!!」

そのあまりの美しさに、サムソンは思わず見惚れてしまう。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

呆けたようにこちらを見詰めるサムソンの顔面めがけて、チャイナローズは急角度からの飛び蹴りを放った!
増強したパワー、加速したスピードで放たれたその蹴りは、あまりの速さにチャイナローズ自身の姿を歪ませ、ひとつの赤い彗星――いや、あえてここは一本の大きな薔薇となり、サムソンに突き刺さったのだ!


ドッゴ――――ン


凄まじい破壊力。
サムソンは何もできないまま、地響きを立てて崩れ落ちた。

「な……!な……!?」

チャイナローズのトンデモない戦闘力を見せられ、青大将は茫然としている。
サムソンはピクリとも動かず、起き上がってくる様子はない。
完全に失神していますなあ。

残った部下たちも相変わらず気絶したまま。
残るは最早、主犯格一人だ。

「さて……どうするかね、蛇大将くん?このままここで、私の実験台にでもなりたいのかな〜?」

その青大将に近づき、江豪博士はこれ以上はないと言う小馬鹿にした目つきで彼を見下した。

「ムキー!お、お、覚えてらっしゃい!!」

わざわざ懐からハンカチを取り出し、それを食いちぎるように噛みながら、青大将は爆破した玄関から脱兎の如くトンズラする。
走って逃げるのは間抜けだなあ、なんかメカとか使えよ。

ともあれ、戦いは終わった――
勝利のファンファーレが鳴り、一陣の風がエゴ研を拭きぬけていく。

「あ、あれ?」

『怒りの3倍モード』から開放されたチャイナローズは正気に返り、キョロキョロと辺りを見回した。

「まーーーったく、散らかすだけ散らかしていきおって……目が覚めたらこいつら自身に片付けさせるか?」

いまだに倒れたままのゴロツキ達を蹴飛ばしながら、江豪博士はぶちぶちと文句を垂れている。

「は、博士……あの親玉、逃しちゃっていいんですか?」

「ああ、気にするな。いつまでも俗物どもと関わっていても、脳が劣化するだけだからな。放っておけ、放っておけ」

「でも……どうするんです、これから?」

「どうするとは?」

「いや、だから僕をこんな姿にしておいて、どう責任を取ってくれるかって事ですよ」

ようやく騒動が収まり、チャイナローズこと金武嬢くんは当初の抗議を博士に訴える。

「まーだそんな事を言っとるのか!細かい事を、ぐじぐじと……」

「重要な事でしょう!?僕のこれからの人生はどうなるんです!こんな姿になってしまって……」

「だから、私の妻として振舞えばいーだろうに」

「冗談じゃない!助手の仕事でもてんてこ舞いだって言うのに、この上性生活の処理までさせられるなんて御免ですよ!」

「君は春流なんだから、私と夫婦の生活を営むのは当然ではないか」

「んなわけあるか!大体、僕は女の子じゃありません!春流なんて名前でもない!金武嬢二三男!立派なオ・ト・コ!男です!!」

「じゃあいっその事、金武嬢・二三男・春流ってのでどう?」

「イヤ、どうって言われても」

「もしくは江豪・K・F・春流とか」

「目茶目茶無理あるわ!」

心底疲れたように、チャイナローズはがっくりと肩を落とす。

(そもそも、こんな身勝手な人によく連れ添おうと思った女性がいたもんだよ……)

そして、もっともな疑問を心の中で呟いてみた。

「まあ、あれも中々どうして、強かな女だったからなあ」

「だから勝手にリィーディングせんでくださいって!」

「いつぞやは人類皆殺し爆弾作ってくれとか頼まれたもんだ。ウンウン」

「どんな女性ですか!?」

只の冗談に聞こえない所が怖い。

(なんか、自分の体の持ち主の事が怖くなってきた……この夫にしてこの妻ありなのか?よもや、その性格に振り回され過ぎてもう限界だから、別人の脳ととっかえようとしたなんて真相じゃないだろうな)

いや、そんなオチかもよ?

「まあ、とにかく関係ない話はどうでもいい!ぬっふっふ。ほれ、口ではなんのかんの言っても、体の方は正直ではないか〜」

江豪博士はスケベ親父と化した顔で、チャイナローズの腕を乱暴につかんだ。

「あんたは官能小説か!?は、放して下さいよ、この色情ジジイ!!」

怒りの鉄拳を博士の顔面めがけて打ち込もうとする。
しかしそれは寸前でピタリと止まった。

「無駄だよ。君の体は『江豪3原則』によって動いているからな。ちなみにどういうものかというと、1、私の命令には絶対に従う事。2、他の全てを擲ってでも、私の身を守る事。3、主人である私に反抗したり、暴力を振るう事は一切認められない、というものなのであーる」

「横暴だーーーーーー!!!」

泣き叫ぶチャイナローズだったが、江豪博士の言う通り、その超人的なパワーを彼に対しては振るう事はできなかった。
まさに暖簾に腕押し、ぬかに釘。

「さあさあ、春流。久しぶり同じベットでネンネしよか♪あ、今日のご飯はオムライスがいいなあ〜。後で買い物に行こう。近所のみんながアツアツですね〜!なんてウワサしちゃったりなんかして!うしし。おお、そうだ!まずはお前のネグリジェ姿が見たいな〜。クローゼットにちゃんと取っておいたのよ。さあ着替えよう、やあ着替えよう。春流……愛してるよん♪だーっはっはっはっはっはっはっは!!」

「一片、お前の脳みそ切り裂け!この魑魅魍魎の変態オヤジ!い、いやだ、チェリーボーイでロストバージンなんて死んでも死にきれない!しかも相手がこんな利己オヤジだなんて!あああああああ!だ、誰か!たーーーーすーーーけーーーてーーーーーーー!!」

早朝の町にチャイナローズの悲鳴が鳴り響く。
彼(=彼女)は江豪博士に首根っこを引っ張られながら、研究所の奥へと消えていった。
合掌。

まあ、可愛そうな金武嬢くんであるが、町の人にしてみればまた騒動の種が増えたようなものだ。
今朝の騒ぎの苦情も、結局は金武嬢くんが一心に受ける事になるんだろうなあ。
つくづく不幸な男だよ。

最後に言っておくが、この物語はフィクションである。
江豪博士も実際の人物をモデルにしたわけではない。
作者が江豪博士のようなエゴイストと言うわけでは決していない。
いや、ホント。

こんなふざけた内容の話、思いつきで書いたわけじゃない。
いやそんな、書きながらキャラクター設定考えていたとか、話の展開考えていたとか、そんな事は決してないです。

真面目な奴なんです。
悪気はなかったんです。
魚食べれないんです。
ごめんなさい。

奇特な方は金武嬢くんの幸あらんことを祈ってください。
アーメン。

さらば拳銃。さらば熱き男たち。(関係なし)


劇終



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