サキュバス転生の書
 作:灯台守


「ありがとー、助かったよ手伝ってくれて」
抱えた資料を棚に置いてこちらを振り向きながら微笑んだ双葉さんが言う。
この年にしては小柄で可愛らしい雰囲気の双葉さん。
他の男子はもっと発育のいい他クラスの西田さんとか横村さんとかを話題に上げるけど、僕は少し幼げで、それでいて包み込むような優しい性格の双葉さんがずっと気になっていた。
そんな双葉さんが恐らく先生に頼まれたのであろう、大量の資料を運んでいるのを廊下で見かけ、お近づきになれるチャンスだと半分運ぶのを手伝ったのだ。
といっても運ぶ先はそれほど遠くもなく、それでいて普段は滅多に来ることのない一角にある物置代わりに使われている理科準備室だったので、それほど会話が弾んだわけではなかったのだが。
それでも、こう笑顔で感謝されるだけで運んだ甲斐があったというものだった。
それに周りに誰もいない場所で双葉さんと二人きりだというのもどこかどきどきした気持ちにさせられる。
「でもこんな場所、在学中に一回来るか来ないかみたいな所だからなんだか不思議な気分だよね〜」
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、すぐに部屋を出ようとせず中を見て回っていた。
置いて帰るわけにもいかないので、僕も合わせて辺りを見て回る。と言っても、特にこれといった会話の種にできるようなものはない、単なる使わなくなった資料の山、という感じだ。
「わあ、これなんだろ。なんか雰囲気のある本だなあ」
そう言って双葉さんが棚の上から一冊の本を取り、こちらに見せてくる。
確かに、紙の山の中には似つかわしくない、重厚な装丁の本だった。
黒い表紙には見たこともないような文字と、魔法陣のような模様が描かれている。
それはまるで……
「黒魔術の書みたいだね」
思っていたことを先に双葉さんに言われてしまい、思わず双葉さんの方を見ると目が合ってしまう。
「中、見てみよっか」
双葉さんはにへ、とはにかんで本に視線を戻してしまったが、僕は目が合った事実にドキドキしてしまって顔を背けてしまった。
「わっ!」
だから、気がつけなかった。
双葉さんが開こうとした本のページの隙間から、光が漏れ出してきていたことに。
本を開いた双葉さんがその光をもろに受けてしまい、驚いた声を出したことにより、初めてその異常に気がついた。
驚いた双葉さんは本を取り落とし、光を浴びた顔を手で覆う。
落ちた本はしばらく光を放っていたが、徐々にその光量は弱まっていった。
「大丈夫!? 双葉さん!」
慌てて僕はしゃがみこんでしまった双葉さんを支える。
うう〜と唸っていた双葉さんだが、急に息遣いが荒くなってくる。
「熱い……体が……熱いよお……」
しゃがみこんだまま前かがみになった双葉さんが、呻く。
なにか、異常なことが起きている。それがわかっていてもどうすることもできない僕は、とりあえず彼女の背中を擦ろうとした、そのときだった。
彼女の背中が服ごと大きく盛り上がる。
まるで風船のように膨らんだ背中の中心線に、ぴしりと一本のすじが走る。
そのすじが広がって……双葉さんの中から、何かが飛び出した。
「んあああっ!」
声を上げながら、双葉さんの背中から飛び出したモノ……それも紛れもなく、双葉さんだった。
だけど、一目見てそれが普通ではないことがわかる。
まだ上半身しか出てきていないが、ほとんど裸のような衣装を身に纏っている。
その布面積が少ない衣装に包まれた胸は、普段の双葉さんとは比べ物にならないくらい大きいものが備わっていた。
頭にはくるりとねじ巻いた短めの角のようなものが左右に一対付いている。
ずるりと下半身も引きずり出した彼女は、やはり下もほとんど下着のような服で、身長も少し伸び、肉付きが良くなってどこか大人っぽく見えた。
背中には小さなコウモリのような羽、そしておしりの少し上にひょろりと尻尾が伸びていた。
ペタペタと自分の体を触って確かめる彼女。
「なに、これぇ……体が変だよぉ……」
涙目でぺたりと座り込んでしまった彼女。その傍らには、つい先程『脱ぎ捨てた』双葉さんの抜け殻がだらりと床に伏せていた。
見た目は変わってしまったけど、言動からすると紛れもなく双葉さんのようだった。
目の前で起きた異常事態にまだ思考が追いついてはいなかったが、それでも双葉さんを助けたいという気持ちで僕は動いた。
「待ってて、双葉さん!」
原因は間違いなく本だった。
本から発された光を浴びて双葉さんはああなってしまった。
今は光っていないからきっと大丈夫。元に戻す方法もきっとあの本に書いてあるはず。
そう考えて落ちた本を手にとって、ページに書かれていることを読み込んだ。
「『サキュバス転生の魔法陣』……『このページを開いて後述する呪文を唱えて本を閉じ、次に開いた者をサキュバスに転生させる魔法陣』……!?」
素っ頓狂なことが書かれている。普段なら絶対に信じないだろうが、たった今実際に起ってしまったからには信じざるを得ない。
サキュバス……まあ男子高校生なら割とよく知っているだろう。当然僕も知識として知っていた。
もちろん、ゲームや作り話の中の存在として、だが。
そんなものに、双葉さんはされてしまったのだろうか?
「戻し方は……? 『サキュバスになってしまった者が人間に戻るには、脱ぎ捨てた元の体を着ればよい』……だって、双葉さ……!?」
元に戻す方法が簡単に見つかって、それを伝えようと双葉さんの方を振り返った瞬間だった。
振り向いたその目前に、双葉さんの顔があった。
なんで、と思う間もなく、近付いた彼女の顔はそのまま、僕の口を塞いだ。
キスを、されたのだ。
反射的に、顔を引こうとした。だが手で顔を押さえつけられ、否応なしにキスを続けさせられる。
舌が絡まり、唾液を飲まされる。
その間も彼女は目を瞑ることなく、まっすぐに僕の目を見てくる。
その怪しくギラつく瞳から、僕は視線を外すことができなかった。
じゅる、ちゅぷぷ、という水音がしばらく鳴り続け、ようやく解放される。
だけど、何故だか力の入らなくなってしまった僕の体は、ぐったりとその場に仰向けに倒れ伏してしまった。
「人間に戻る……? どうして? ありえない。こんなに素敵な体になれたのに」
ちろりと舌なめずりをして僕を見下ろす双葉さん。だけどその様子は明らかに先程までとはうって変わってしまっていた。
「私、理解したの。その本は本当の私をあの体から解放してくれたんだって。あんなちんちくりんで弱っちい人間の体じゃない、本当の私。とっても気持ちよくなれるし、とっても気持ちよくすることもできる、そんな私にね」
意地悪そうな微笑みをこちらに向けるのは果たして本当にあの優しい双葉さんなんだろうか。いや、断じて違う。
これは、きっとサキュバスに転生させられてしまってその思考に引っ張られてしまっているだけなのだ。
そう言おうとしても、体は言うことを聞かない。小さく呻くことしかできなかった。
「それでも、君は私に戻って欲しいのかなぁ? そう言いたそうな顔してるね」
こちらをじっと見つめたあと、口元に指を当て少し考える素振りを見せる。
そして何かを思いついたようににやりと笑った。
「君、私のこと好きなんだよね。今キスしたので、ぜ〜んぶわかっちゃった。だから私にどうしても元に戻ってもらいたい……そうだよね?」
急に自身の心を読まれてしまい、恥ずかしくなってしまう。
しかも、想い人本人にそれをバラされてしまうという羞恥プレイだった。
あまりのことに口をパクパクとさせることしかできない。
「なら、とってもいい方法があるよ。私は元に戻って、君は好きな人と一緒になれて、私はこのままでいられる方法が。……ほら、これを使ってね」
彼女が、床に落ちていたモノを引っ張り上げる。もちろんそれは、双葉さんの、抜け殻。
僕は、彼女が元に戻る決心をしてくれたのかと思った。だけどそれが間違いだったと気がつくのはすぐだった。
ぱちんと彼女が指を鳴らすと、突然体に感じる空気が変わる。
視線を下ろすと服がなくなって、素っ裸にされてしまっていることに気がついた。
そうして彼女はこちらに近づいてくる。……双葉さんの抜け殻を手に持って。
彼女が何をしようとしているのかわかってしまった僕は、必死で逃れようとする。
だけど彼女の瞳とキスによって力を奪われた体は身じろぎさせることが精一杯だった。
そんな僕の脚を持ち上げ、彼女は双葉さんの抜け殻にその脚から詰め込み始める。
「君が、元の私になっちゃえばいい。そうしたら、君は、君の好きな私を、好きなだけ、好きにできるでしょ?」
ぐいぐいと、体が埋め込まれていく。双葉さんの小柄な体に、僕の体が沈み込んでいく。
ぎちぎちと締め付けて体型の違いをわからせてくるが、その外見からの脚の太さは一切変わらない。
僕が入ったら、当然容量的にはち切れてしまいそうなのに、そうはならない。僕の体を、双葉さんの体が締め付けて締め上げて覆い隠してしまう。
よく考えたら、『今の双葉さん』だって元の双葉さんより大きいのだ。それが出てきたのだから、僕の体もすっぽり入ってしまってもおかしくないのかもしれない。
そう考えているうちに、下半身が収まってしまっていた。みっちりとした肉のぬくもりに包まれた両脚に、どこへ収められたのか、股間の息子は隠されて高校生になってもまだ毛の生えていない幼いつるりとした恥丘が出来上がってしまっていた。
そのまま手繰り上げるように抜け殻を着せられていく。
双葉さんの肉の牢獄が、体を包んでいく。
腕が、指が、ぷにっとした筋肉のない女の子の腕に包まれる。小ぶりのみかんサイズの膨らみのおっぱいがついた胴体が、体を覆う。
「あとは頭だけだね」
目前には、ぱっくりと開いた双葉さんの後頭部。
むわりと女の子の濃い匂いが充満している。
薄っすらと見える内部の様子は、複雑な凹凸により、顔の穴という穴にぴったりぎっちりとはめ込まれるようになっているのがわかった。
そこに、僕の顔がはめられるのだ。
イヤイヤと顔をわずかに振るが、そんなことはお構いなしに彼女は抜け殻の頭を僕に被せた。
湿った肉が顔に張り付く。
より強く密着するように、ギュッと引っ張られる。
口に、鼻に、耳に、目に、びったりと粘着する。
そうして全身が双葉さんの抜け殻に入ってしまった。
更に、背中を引っ張られ、より合わせるようにすじを閉じられる。サキュバスになってしまった彼女が飛び出した出入り口を、完全に閉じられる。
全身が閉じ込められる。小柄な双葉さんの体に、完全に密閉されてしまった。
僕は、涙を流していた。だけどその涙は、僕の瞳からではなく、双葉さんの瞳から流れ出ていた。
全身を双葉さんの内部の肉の締め付けが、ぎちぎちと苛む。痛くはない。苦しくもない。むしろ、気持ちよさや快感があった。
だけど、双葉さんを元に戻すことができなかっただけでなく、その体を僕が使ってしまっていることに悔しさを感じて泣いてしまった。
「どうしたの? そんなに私の体になれたのが嬉しかったの?」
そう言って彼女はまだ動けない僕の顔から、涙を拭ってくれた。
「嬉しいでしょ? だって君はこんなちんちくりんで魅力のない私のことが大好きだったんだもんね。おっぱいだってこんなにちっちゃいのに」
彼女は双葉さんの胸を……今は僕のものになってしまったささやかなおっぱいをしなやかな指で優しく揉み上げる。
ぞくぞくとした快感が、胸から溢れ出す。そういう場合じゃないのに、口から喘ぎ声が漏れ出す。
「今の私は、西田さんや横村さんよりずっと立派なモノを持ってるのに、君はこっちのほうが好きなんだね。
……その胸をおっきくはしてあげられないけど、気持ちよさは今の私と一緒にしてあげるね?」
そう言うと彼女は、『僕の』胸を口に含み、唾液を塗りたくり始めた。
指のときよりもずっと強い快感に、力が入らないはずの体がビクビクと震える。
舌先で乳首を転がされる。それだけで、男のときに射精したときの数倍の快感が走る。
「ぷあっ…… どう? サキュバスの唾液は媚薬になるんだって。これで君の小ぶりなおっぱいは快感を生む器官に成り下がっちゃったってわけ。……もちろん、もう片方もね」
間髪入れずに、もう一方の胸も舐め回される。再び、感度を急激に、強制的に引き上げられてしまう感覚に仰け反ってしまう。
そうして、胸についたふたつの膨らみは、永久にじくじくと快感を求めて疼く、淫らな器官になってしまった。
はっ、はっと息を切らしながら、快感をどうにかして外に逃そうとする。だけどそれを抑え込むように、双葉さんの体は快感を体中に巡らせ内側へと伝達する。
内側の男の体は、密閉されたその中で、快感を余すことなく受け入れる他ない。
体が、二重に快感を享受する。それが互いに作用し、さらに快感を呼ぶ。
サキュバスになってしまった双葉さんにより、双葉さんの体が変えられていく。しかも彼女は巧妙に、見た目は一切変えずに性質だけを、中身だけを変えていく。
現に、今の『双葉さん』は双葉さんではなく、双葉さんの皮を被らされた僕だし、胸の感度もありえないほど上げられてしまったけど、見た目は変わってはいなかった。
その行為に、彼女は恍惚としているようだった。
「いいねぇ、その蕩けきった表情。まるで私じゃないみたい。……いや、私じゃないんだっけ。まあ、どっちでもいいや。もっともっと、変えなきゃね」
ころりと体を転ばされ、股間を顕にした体勢を取らされる。
次は何をされるのか理解しても、それを防ぐ手立てはない。
ちろちろと舌で突起を舐められる。
亀頭を弄っているときの感覚によく似た快感が下半身を支配する。それだけで、股間のすじから、愛液が溢れ出す。
それを舐め取るように、彼女の舌がすじを這う。
愛液が更に溢れ出す。それを舐め取られる。その繰り返しの末に、溜まった快感が爆発し、耐えることのできない爆発が、股間から発せられる。
吹き出た潮が、彼女の顔にかかる。それを意に介さぬように、彼女は舌での責めを続けた。
何度も何度もイかされる。これまでの男性としての絶頂を塗り替えるように双葉さんの絶頂に体が、脳が染められていく。
イく度に、双葉さんの体がより強く密着するような感覚に苛まれる。それは同時に自分の本来の体の存在をより強く感じさせられ、今の状態を思い知らされるようだった。
もう数え切れないほどの絶頂の末、僕はついに意識を手放した。



その日を境に、学校から、一人の生徒が消えた。
怖いね、なんて言い合ってる同級生を尻目に『私』は帰路につく。
玄関の扉を開けると、やっと一息つける。
学校では、ずっと『私』を演じていないといけないから。
それに……
「はあっ……うぅ……」
艶めかしい声が口から漏れ出る。
学校ではずっと我慢していたけど、胸と股間からの強烈な疼き、そして全身の快楽が、その身を蝕む。
『家族』の目があるからもう少しだけ、我慢しなければならない。
急いで『自分の部屋』を目指す。
そして扉を開いて中に入れば。
「おかえり、双葉ちゃん」
外とは違う空気の部屋に『彼女』が待っている。
「ただいまかえりました、ふたばさま……」
挨拶をすませ、彼女の『お許し』を待つ。
「ちゃんと、私のフリはできた? そうじゃないと、私が元に戻りたくなったとき、帰る場所がなくなっちゃうんだからね。そうなったら、困るのは君でしょ? ……ちゃんと、『元の私』としての生活、これからもがんばってね?」
そう笑いながら双葉さんは言うと、手を広げる。
「さ、今日溜め込んだ精気、私にちょうだい?」
『お許し』が出た。
『私』は……僕は、彼女に飛びついて、快感を求めて、疼きを収めるために、『双葉さんの体を使って』、自慰をする。
『彼女』は満足そうにそれを受け止めていた。
彼女の生活を壊してはいけない。
僕は明日も、明後日も、双葉さんが元に戻りたくなったときにいつでも元の生活に戻れるように、彼女のふりをし続けなければならない。
それが、元の僕の好きな優しい双葉さんを取り戻し、僕も元に戻ることのできる唯一の方法なのだから。

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──惚れた弱みってのもあるのかもしれないけど、ちょっと暗示をかけてあげたら、簡単に言うことを聞いてくれて便利だね、サキュバスの力って。
元の体に、戻るつもりなんてないのにね。





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