繭の罠
 作:灯台守


クラスの可愛くて、お金持ちのお嬢様との噂のある少女が、普段誰も行くことのないような校舎の最上階の階段から一人で降りてくるのを見かけて、彼女は一体そんな方向で何をしていたのであろうとほんの少しの好奇心で、階段を上る。
上には、特別教室や使われていない教室などで放課後というのもあり、人の気配のしないしんと静まり返った廊下が伸びているだけで、彼女が特別来なくてはならなかった用事があったようには見えなかった。
ほんの気まぐれだったのだろうかと階段を降りようとしたとき、そのすぐ側の校舎の端、廊下の終点に位置する教室の扉が僅かに開いているのが目に止まった。
直感的に、彼女はそこにいたのだろうと思った。忍び足で扉に近付き、隙間から中を覗いた。
使われているところを見たことないその教室は、窓はカーテンが閉められ少し薄暗く、雑多なものが置かれていて物置代わりに使われているようだった。
だが、目を引いたのは使われていない教室の珍しさではなかった。
教室の真ん中に鎮座する、薄ピンク色の少し潰れた巨大な球状の物体。
人一人が入って横になれるくらいの大きさのそれが、教室のど真ん中に鎮座していた。
この教室が物置として使われているのなら、それが何かで使用された、もしくは使用される──例えば、演劇とかに──ものであると言えるのかもしれない。
しかし球状のそこかしこから糸のようなものが伸びて教室の床に張り付いている様は、生物的で明らかにほかに置いてあるものと比べて『異質』だった。
その時点で、最早当初の目的は頭から吹き飛んでしまっていた。
それが一体何なのか、気になって教室へと足を踏み入れた。
近付いてみると、その大きさがよく分かる。教室の天井から3分の2ほどの高さがあるそれはずしりとした存在感を放っている。
表面は多数の糸をランダムに巻き付けたような質感をしていて、床に伸びる糸と併せるとまるで『繭』を思い起こさせた。
いや、実際のところ、それは繭なのだろう。
周囲を回って見ていると、一部に縦に裂け目が走っており、中が空洞になっているのが見えたからだ。
断面を見ると外殻自体は結構な厚みがあるようだったが、それでも中は十分なくらいの広さがありそうだった。
当然、好奇心から裂け目を静かに開いて、中を覗き込んだ。
そうして窓からの光をうっすらと透き通らせほんのり明るい内側にあったものを目にした瞬間、自分がなぜこんなことをしているのかというきっかけを思い出せられることになった。
果たして、繭の中には先ほど階段を降りていったのを見かけた、少女が横たわっていたのだ。……しかも、何一つ身につけていない裸の状態で。
見てはいけないものを見てしまった。そう思って慌てて顔を背け、彼女に気づかれていないことを信じて音を立てないように教室を立ち去ろうとした。
教室の扉に手をかけたとき、違和感に気づいて足を止めた。
この教室に入る前、彼女は間違いなく階段を降りていった。その後自分がここに来るまでに、この教室に彼女が戻ってくることは不可能だ。
では、『繭』の中の彼女は一体誰なのだろうか?
振り返って、繭の方を見やる。
好奇心が理性を上回る。確かめに行かなくては、と。
再び、裂け目の前に立った。音を立てないように、恐る恐る裂け目を開く。
先程と変わらない様子で彼女は横たわっていた。こちらには気が付かなかったのだろうか。
裸の少女を見つめるのはかなりの罪悪感があったが、確認のためと言い聞かせ観察する。
すると、彼女が微動だにしないことに気がついた。
スラリと伸びた手足、可憐な顔、うっすらと開いた両目……そして、生きているのならば必ず動くであろう呼吸による柔らかなおっぱいが乗った胸の上下すら、微塵たりとも動きが無かったのだ。
死んでいる、とまずは考えた。
だがそうだとしたら、階段を降りていった彼女は一体誰だったのかということになる。それに死体にしてはあまりにも綺麗で、まるで生きているかのようだった。
それに、状況が変だった。死んでいるのだったら、この周りの繭は一体何なのだろうか?
見ているだけでは埒が明かない。
彼女に反応がないことをいいことに、繭の中に入ることを決意した。
なんとなく上履きは脱いでから、裂け目をぐっと押し開いて中に侵入する。
柔らかでしっとりとした感触の繭の内側を踏みしめて、彼女のもとに歩み寄る。
近付いてもやはり何の反応も示さないことから、彼女が意識のある状態ではないことがわかる。
そっと手を伸ばし、彼女の腕に触れた。
ぷに、と人肌のぬくもりと柔らかさがある。その肌はじっとりと汗で濡れていた。精巧な人形、というわけでもなさそうだ。
近付いたらわかる、彼女の体から立ち昇る女の子特有の甘い匂いも、それに少し混じった汗の匂いも、彼女が作り物ではないことを示していた。
次に、彼女の上体を抱き起こそうと、肩に手を回そうとしたときだった。
ぶに、と指が肩に沈み込む。
明らかに普通では考えられないくらいのめり込みだった。
その感触に思わず手を離し少し浮かせかけていた彼女の体を取り落としてしまう。
ぶにゃりと脈打ち彼女の体が繭の床に当たる。
少しの間ふるふると震えていた彼女の体が、再び静止した状態に戻る。
彼女の体に沈み込んだ指を見つめる。まるで、骨格がないかのような感触だった。
改めて彼女の腕に指で触れる。軽く触れているときは普通だが、強く押し込むとやはりずぶりと沈み込む。
骨がない。というか、中身がないかのようだ。だがそれでいて彼女の体は通常通りの『体の形』を保っている。
もう一度、上体を起こしにかかる。少しぐにゃりと腕にしなだりかかる彼女の体を起こすと、背中に驚くべきものが見えた。
うなじの辺りから背骨の位置を一直線に尾てい骨のある辺りまで走る、裂け目だった。
まるで、そこから、何かが出ていったかのように……と、そこまで考えて一つの合点が頭の中でかちりとはまった。
繭と、その中にあった、背中の割れた中身のない少女の抜け殻…… それはまさしく、虫などの蛹からの脱皮のようなものではないかと。
それならば、目の前の反応のない彼女と、階段を降りていった彼女が別にいてもおかしくない。
彼女はこの教室で、脱皮してその抜け殻を置いて帰ったのだ。そうに違いない。
それならばこの大仰な繭にも、反応がない目の前の彼女にも説明がつく。
前提としてのおかしさ、つまりなぜ人間が脱皮するのかという異常から完全に目をそらして自分の中で結論を出してしまった。なぜなら、そう考えなければおかしいとしか言いようがないくらいのものが目の前に実際に存在していたからだった。
そう確信が得られたのならば、目の前の『モノ』は男の自分にとって、とてつもなく『興味』を惹かれる物だった。
服を着ていないのは、脱皮した彼女が着ていったからだろう。汗ばんだ裸体を改めてしげしげと見つめる。
同年代の少女の体をこんな真近くで見られることなんて滅多にない。それもクラスで可愛いと評判の子だったらなおさらだった。
ふわりと広がる女の子の匂いに酔いしれる。いつもなら女子が近付いたときに遠慮がちに嗅ぐ匂いを自由に吸い込むことができる。
そして、抜け殻だと頭でわかっていても、おっぱいに手を伸ばすのはおっかなびっくりになってしまった。
むに、と揉んでみる。柔らかい。中身が無いのに肉厚な触り心地だった。
ここで、一つの変態的な考えが頭をよぎる。
この抜け殻、彼女が脱いだものだとしたら、人が入れるのではないか、と。
男の自分とは体格が結構違うため歪になるかもしれないが、それでも彼女の全身に触れていたものにその身を包むのはかなり倒錯的なことに感じられた。
……どうせここには人は来まい。そう考え、すぐさまその変態的なアイデアを実行に移した。
やはり着るのなら、裸のほうがいい。そう思い学生服を残らず脱ぐ。誰も見ていないことをいいことに、下着もすべて脱ぎ去ってしまった。
裸になって彼女の抜け殻を手に持ち、背中側を目の前に持ってくる。
裂け目からはより濃い匂いが漂ってきているようだった。
裂け目を開くと、ねっとりとした肉色の内部が見えた。
外側が汗ばんでいたのと同様、内側もじっとりと湿っているようだった。脱ぐのはけっこう体力を使うものなのだろうか。だからこそ人目につかないところで脱皮したのかもしれない。
少し手を入れて触れてみると、意外とぬるりと滑りが良い。しかし一度手を止めるときゅっと吸着してくるような感触だった。
その見たこともない肉肉しい感触に、股間の一物は興奮しきりだった。
手を抜き、裂け目を破れないように大きく開いて、下半身の方に向かって自分の足を差し入れていく。
ねっとりとした感触に包まれていく自分の両脚。分厚い長靴下を履いていくように、彼女の下半身を着ていく。
足先の指まで一本一本入れると、気持ちのいい締め付けに脚全体が包まれる。
と、ここで不思議なことに気がついた。
脚が細くなっている。正確に言うと、自分の脚が入った分太くなるはずの彼女の脚が太くなっていないということだった。
それどころか、長さも変わっている。ぎゅっと締め付けられているとはいえ、物理的におかしいくらい縮まっていた。
だがここまで来たら、もうそういうものなのだと納得させるしかなかった。なぜならこの抜け殻から脱皮したあとの彼女も、階段で見かけたときは別に小さくなんてなってなかったじゃないか、と。
それならば逆に、別の方向性が見えてくる。
この抜け殻を着たら、彼女の姿になれるのではないかと。
止まっていた手を急かすように動かす。ぐっと引き上げた腰回りが、自身の一物やお尻を覆い隠す。
ぐにゅっと下半身が包まれる感触に覆われる。にちっと音を立てて抜け殻が肌に吸着する。
どんどんと体が締め付けられ、縮んでいっている。
腕を裂け目に入れる。左右の腕が彼女の腕に吸い込まれていく。抜け殻の前半身がむにゅっと貼り付いてくる。
少しだけ胸部に重みを感じる。自分の胸におっぱいが引っ付いているという違和感。それも今は興奮させる材料の一つだった。
彼女になってしまった手で、彼女の頭を持ち上げる。目前に後頭部が迫る。
髪から漂う汗臭さと女の子の匂いを鼻に吸い込みながら、裂け目に顔を埋めた。
暗闇の中で、首の方向へと頭をねじ込む。途中、何か管のようなものが口元に当たった。
これをどかさないと、邪魔になっていしまう。だがどかせられるような場所はない。
管からはほんのりと唾液の臭いがした。それがどこに繋がっているのかをなんとなく理解した後、最早勢いのまま、それを呑み込みながら頭を詰め込んだ。
ぬるぬるとした管をしゃぶらされながら、頭が行き止まりまで到達する。
管の終点は複雑な形状をしており、それはそのまま口内にぴったりと嵌まるようにできていた。
瞳を開くと表面がしっとりとした透明な膜に覆われる。そのまま瞬きをすると瞼の内側に巻き込むように密着した。
けほっ、と一度咳をする。ちゃんと気道は確保できているようだった。
小さく、あーあーと声を出してみる。それはいつものような声ではなく、それでいて教室で聞くような彼女の声でもないように聞こえた。だがそれは彼女の声が『自分の喉』から出てきているから聞こえ方が違うのだろうと思った。
完全に彼女の抜け殻に包まれた体は、その柔らかな体からの締め付けに隙間なく襲われていた。
少し体を動かすだけで、肌と抜け殻がずりずりと擦れて、気持ちのいい刺激を与えてくる。
特に股間の膨らんだ一物は狭いところに押さえつけられるように挿入させられており、ほんの僅かな動きですら──股間に血液を送る脈動でさえ──思わず射精してしまうかのような快感に覆われていた。
だがぎゅっときつく締め上げられたそれは出すことを許されず、情けなくびくびくと痙攣するかのように震えているのが感じられるだけだった。
あまりの気持ちの良さに股間を押さえようとした腕が、今までついていなかった胸の双丘に当たり、ぶるんと形を変えた。
その瞬間、胸から甘い刺激が広がる。
自身の身体のないはずの場所から、快感が走る。その衝撃に体がビクリと震える。
この抜け殻は、体型だけでなく、彼女の体の感覚まで与えてくるのだ。
それを理解してからは早かった。
未知の快感を得られた思春期の男子がそれを途中で止めることのなどできやしなかったのだ。
はじめは恐る恐るゆっくりと、次第に強く激しく、胸を揉んだ。
指でぷっくりと勃起した乳首を転がし、摘み上げた。
その度に男のときにはなかった快感が脳に伝達される。それでいて、抜け殻の締め付けにより、男の体も全身が常に愛撫されているような状態で、それも相乗して強烈な快感として脳に焼き付けられる。
胸に飽き足らず、さらなる快感を得ようと股間に手が伸びる。
だが抜け殻に包まれている今、そこには自分のモノは覆い隠されていて触ることはできない。
代わりに触れた少女の股間にあるものは、すでに十分なほど濡れそぼっていた。
ぬちぬちとした音を立てながら、快感を得ようと指をすじに沿って動かす。
その頂点にある突起に触れたとき、内側の一物が撫で上げられるかのような刺激が股間を貫いた。
思わず悲鳴を上げそうになるのを必死で堪え、乳首を弄るのに合わせて股間の突起を弄る。
人差し指と親指の先だけでイジれるそれは、小ささに似合わず快感の強度は途轍もないものだった。
それを弄ると同時に内側のモノを包むものがズルズルと擦り合わされ、腰が砕けそうになるほどの快感が与えられた。
最早座っていることもできずに、繭の柔らかな床に倒れ込み、片手は胸を、もう片手は股間をひたすら弄り倒していた。
快感は高まるのに、射精はできない。それでいて射精したときよりも強烈な絶頂が二度、三度とやってくる。
しかも絶頂しても快感の高まりが下がることはなく、そのまま次の絶頂へと連れて行かれた。
終わりが無いような自慰だったが、流石に何度も続くと体力が限界になってきていた。
一度落ち着かせるために手を休めようとしたが、体の疼きはそれ以上で、乳首とクリトリスからは指を離すことができないままだった。
余韻のような快感の中でふつふつと疼きだけが溜まっていく。少し休憩したらもうちょっとだけ……そう考えていたときだった。
「どう? 私の皮。そんなに気持ちいい?」
突然声を掛けられビクリと体が跳ねる。
声のした方、繭の裂け目から、覗き込んでいる人物がいた。
それは、今自分が着ている抜け殻の本人に他ならなかった。
サーッと全身の血が冷える。しかし同時に、体を覆う抜け殻はかーっと熱くなっているような気がした。
さっきまでの興奮はどこへやら、慌てて起き上がり、胸と股間を隠すように手で覆い、正座の体勢になる。
「私の皮、勝手に着るなんて駄目じゃない。ねえ、〇〇君?」
自分の名前を呼ばれて、目の前が真っ暗になったかのような気になった。
男の自分が、女子の脱ぎ捨てた抜け殻を着ていたなんてことが広まったら、この学校にはいられないだろう。
それどころか、この近辺にすら住めなくなってしまうことさえあるかもしれない。
完全な油断だった。少し考えれば、扉の鍵が開いていた時点で、彼女が戻ってくることに頭が及んだだろう。
だがあまりにも非現実なものを見て、どこか常識のたがが外れてしまったのかもしれない。
そんなことを考えながら、彼女の顔を見ることもできず、ガタガタと震えながら俯いて床を見ることしかできなかった。
「……まあ、皮を放っておいた私も悪いところがあったかもしれない。だから、今すぐその皮を脱いだら許してあげる」
彼女の声が、お先真っ暗になりつつあった自分に、希望を見せた。
すぐに、抜け殻を脱ぐことに取り掛かった。
彼女が目の前で見ているのも気にせず、とにかく脱ごうとした。
まず腕を引っ張り出そうとした。しかしみっちりと貼り付いたそれは、一向に腕から剥がれない。
ならば一旦隙間を作ろうと背中の裂け目に手をやったときだった。
背中に手が触れる。そこには、裂け目なんてなかった。
汗ばんでしっとりとした肌が、なめらかに継ぎ目もなく存在しているだけだった。
そんなはずはないと、必死で背中をまさぐる。
爪を立ててみるが裂け目が現れる気配はない。
それならばと頭を抜こうとする。腕と同じで隙間なく密着した抜け殻は、ずるると快感を発生させる摩擦を生むだけで口に入った管も、目に入り込んだ膜も剥がれる兆しは見えなかった。
頭や腕だけでなく、脚も胸もお腹も、股間もどこもわずかにずれるだけで脱げる気配が微塵もなかった。
「今すぐ脱いでって言ったのに脱がないってことは、許して欲しくないのかな〜?」
彼女の声がしたので見ると、繭の裂け目から見える表情は、にやにやと意地悪く笑っている様だった。
そこで、彼女は許す気など最初からなかったのだと気付いた。
自分の皮を着たらどうなるか知っていて、あえて反応を見たのだと。
絶望と情けなさで涙が出そうになり再びいてしまった自分に、彼女が近付いてきた。
「そんなに脱ぎたくなかったの? まあ私の皮でのオナニー、とっても気持ちよさそうだったもんね。だからずっと着ていたいって思ったんでしょ?」
そんなことは全く思っていなかったが、今は彼女の言うことに耳を傾けることしかできなかった。
なにせ、自分のこれからの処遇は彼女の一存で決まると言っても差し支えなかったからだった。
「そもそも私になりたかったのかな? だってそうじゃなきゃ人の皮が落ちてても着てみようなんて思わないもんね。それくらいの変態さんだったんだ、あなたは。そうでしょ?」
彼女が返答を促すようにこちらを見つめる。それに対し横に振ろうとした首を手で押さえつけ、彼女は続けた。
「そうじゃないって言うなら、勝手に人の皮を着て人の体で変態行為をした男として、みんなに言いふらすことになっちゃうんだけど……そうじゃないよね? あなたは私になりたかった。そうだよね?」
最早選択権は残されていなかった。自分の意思とは違ったとしても首を立てに振らざるを得なかった。
「そっか。それなら良かった。じゃあその皮あげるから、存分に使っていいよ」
にっこりと笑った彼女が、裂け目の側まで戻り、外から鞄を取る。
そしてそのチャックを開くと、中からこの学校の女子用制服と女性用の下着を取り出した。
「これ、今日さっきまで私が着てたやつだけど、裸じゃだめだから着てくれるよね? 一日脱皮欲でうずうずしてたからパンツとかびちょびちょだし制服も汗でじっとりてるけど、どのみちあなたもそうだから気にならないよね」
そう言って彼女は服を押し付けてくる。
「私の姿じゃもう家に帰れないでしょ? だから今日今この瞬間、元のあなたは死んだものとするね。でも大丈夫。あなたは私の家でこれから過ごせばいいから。ううん、正確に言うと私の家で『飼って』あげるから心配しないで」
彼女の言葉を聞きながら、全て彼女の計画通りだったのだろうと思えた。
この教室に皮を置いたのも、階段で誰かに自分の姿を見せるのも。そしてそれを見た誰かが皮を着るであろうことも。その魔の手にかかったのが自分だったのであり、自分であったら皮を着る確信もあったのかもしれない。
繭を作る糸のように雁字搦めに彼女の思惑に拘束されてしまった自分は、最早脱げない皮を着せられて彼女に従うことしかできない状態にされてしまった。
絶望に震える体を、彼女の皮は恐ろしいと思えるほどの柔らかく温かい抱擁で包み込んでいた。







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