あの日から、自分は姫になったー。

現実と夢を行き来しながらー
俊介はその真実を知る。

真実の先に、俊介が選ぶ道は…?




ある日、目を覚ますと異世界の姫になっていたB

 作:無名




俊介は、街を歩いていた。

「−−−……」
ありふれた日常。

けど、なんだか、おかしいー。

いつもの日常なのにー

まるで、”同じ風景”が繰り返されているかのようなー

自分が、自分の記憶をなぞっているだけのようなー
そんな、奇妙な感覚を覚える。

「−−おはようございます」
後輩の足利が挨拶をしてきた。

「え?」
俊介は驚く。

いつもクソ生意気な後輩の足利が、
頭を下げた。

「−−先輩。申し訳ありませんでした」
いきなり土下座する足利。

「−−な、なんだよ急に?」
俊介が驚いて言う。

「部長に言われたんです…!
 先輩に対する態度が悪すぎるって…!

 俺、、自分でもそうだなって…!」

足利は叫んだ。

「−−い、、いや…いいよ」
俊介は、もう慣れていた。

ぞんざいな扱いにー

足利は言う。
「これからはーー
 ちゃんとしますから」

その言葉に、いいよ、と思いながらも、
俊介は、ずっと頭の中で思い浮かべていた出来事が起きて
内心、喜んでいた。

いつか、生意気な足利に、分からせたい。
常々、そうは思っていた。

「−−−」
ふと、”新しい部長”の方を見る。

部長がにっこりとほほ笑む。

部長が、足利に注意してくれたことを感謝しながら
俊介は「いいんだ」と呟いて、
足利と握手を交わしたー

「−−そうだ。」
新しい部長が立ち上がる。

「君に、新規プロジェクトのリーダーを任せたいって
 話が来ている」
新しい部長が言う。

「え…ホントですか!」
俊介は思わず、嬉しそうに声を出した。

今までー
山盛次郎部長のもとでは、ぞんざいな扱いを
受け続けてきた。

だからー
こんな話はもう二度とないと思っていた。

「−−あ、、ありがとうございます」
俊介は頭を下げた。

「−−麻美ちゃんには、サポートに入ってもらう」
”新しい部長”がそう言うと、
後輩女性の麻美は嬉しそうに返事をした。

そしてー

「宜しくお願いしますね!姫様!」

と、麻美は微笑んだー

「姫様?」
俊介はそう返したが、麻美は返事をしなかった。

ふと、お礼を改めてお礼を言おうと、
”新しい部長”の方を見る。

そういえばー
自分は新しい部長の名前を知らないー

そしてー
”新しい部長”にはーー
顔がなかったー。

まるで、もやがかかるかのように、
顔が、見えないー

「−−−−?」
俊介は、何故だかそのことを
対して疑問にも思わなかったー

帰路ー。
パワハラ上司の山盛部長は死んだ。
後輩の足利は、非を認めた。
後輩の麻美は、自分に好意的になった。
新しい部長は、良い人だ。
大家のおばさんは何も言ってこなくなったし、
うるさい騒音ミュージシャンは消えた。

全て、自分の思い通りだー

良い事ばかりー

まるでーーー

まるでーーーー

”夢”

のようにー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー姫様!おはようございます」

今日も朝がやってきた。

「う〜ん…おはよう マミ」

もうこれで、1週間以上経過しただろうか。
この世界の夢を見るようになってから。

あの日、
初めてこの世界の夢を見たときには
とても戸惑ったが
今では、だいぶ姫としての振る舞いも
身についてきた。

色々大変だが、なんとかやれているし、
メイドのマミとの”夜の時間”も楽しみだー。

それにしてもー
朝から晩まで、
毎日1日分、この世界で過ごす夢を見る。

とても、不思議な感覚。

「−−よしっ」
姫としての声にも、身体にも慣れた。

「−−よしっ、て姫様…
 今日はご公務、お休みですよ〜」
メイドのマミが笑いながら言った。

「えっ!?」
思わず俊介は声を出した。

「−−いつも姫様は、
 王宮のお花のお世話をしたり、されてますよね〜!
 今日はどうされるんですか?」

マミが笑いながら言う。

「−−え、え〜〜っと…」
俊介は戸惑う。
姫としての休日。
どんな風に暮らせばいいのだろう。

いやー
どんな風に過ごしたっていいか。

これは、夢なのだからー。


「−−−−」
俊介はふと思い立つ。

そうだ。
王宮騎士団長のカペル

”2年前の転生した”
などとわけの分からないことを言っていた。

カペルに会おう。

「−−あの…騎士団長のカポル…
 今日はどうしてるかしら?」

そう言うと、
マミは笑いながら答えた。

「カペル様ですよ。」

とー。

また名前を間違えてしまったー。
どうにも、ファンタジー世界っぽい名前は覚えにくい。

マミから、カペルの居場所を聞き、
俊介は、動きやすい格好に着替えて
動き出した。

「−−ふ〜ん!姫も私服はこんな感じなのか〜!」
現実世界の少女が着てそうな感じの普通のおしゃれな服。

そんな自分の姿にドキドキしながら
カペルの元をめざす。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「−−−−−」
”山盛部長”が空席を見つめる。

そこには、後輩の足利の姿もある。

「後任が、別の部署から異動してくることになったよ」
山盛部長が呟く。

「ははっ!先輩がいなくなっても、全然仕事が増えないってのは
 皮肉っすね!」
足利が言う。

山盛部長は呟く。

「しかし…2人も立て続けになぁ…
 勘弁して欲しいよ」

とー

”彼”に続きー
”彼女”も、いなくなってしまった。

まるで、後を追うかのようにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「−−−姫様」
王宮騎士団長のカペルが振り返る。

「カペル…あなたにお話が…ある、、、ります」
姫の口調を時々間違える。

その言葉を聞いて、カペルは
近くの椅子に座るように促した。

「姫様。どうぞ…
 それと…」

カペルが笑う。

「私の前では、普通にしてくださって結構ですよ」

とー。

「−ーーえ?」
俊介は、スカートを整えながら椅子に座る。

王宮の中庭が見える、穏やかな部屋で、
姫とカペルは2人きりになった。

「−−−この前も言いましたけど、
 私は”2年前に別の世界から転生”
 してきました。

 こんな素敵な世界があるなんて、
 びっくりしちゃいましたよ」

カペルが笑う。

「−−ど、どういうことなの…?」
姫の口調でしゃべる俊介。

カペルは言った。

「−−わたし、今でこそ、
 王宮騎士団長のカペルですけど、
 2年前までは、普通の女子大生だったんですよ」

カペルは男だー。
だが、2年前まで女子大生?

「−−い、意味が分からないが…。
 これは、俺の夢だろ?」

姫の真似をするのも忘れて
カペルに問いかける俊介。

「−−−夢。どうしてそう思うんです?」
カペルが笑いながら言う。

カペルが元女子大生とはどういうことだ?

「ーーどうしてって…?
 それは、俺が寝ると、ここに来て、
 目が覚めると…」

その言葉に、カペルは寂しそうな笑みを
浮かべながら言った。

「−−本当に”そう”なのですか?
 この世界に最初に来た日…
 それ以降、何か変わったことはありませんでしたか?」

カペルが言う。

「いいや…この世界の夢を毎日見るようになっただけだ…」

そう呟きながらも、俊介は思う。
なぜ、毎日同じ姫になる?
それに、夢なのに”夢の中の昨日の出来事”がちゃんと
続いている。

例えば、メイドのマミとはどんどん親しくなっているし、
側近のマグナスや騎士団長のカペルも、
ちゃんと”以前の記憶”を引き継いでいる。

普通の夢であれば、こんな風に都合よく
続きを見れるものだろうか。

「−−では、姫様。
 初めてこの世界に来た日以降、
 目が覚めたあと…
 あなたがいた世界に異変はありませんでしたか?
 何か、違いは?」

カペルが言う。

綺麗に座っていた姫の姿勢が乱れて
スカートの中が見える座り方になってしまっている。

姫としての振る舞いも忘れるほど、俊介は
話にのめり込んでいた。

「−−違い…」

俊介は、起きている間のことを思い出す。

”最初”にこの世界の夢を見た翌日ー
現実世界で山盛次郎部長が死んだ。
この世界でジローを処断したからだ。

それからは良い事ばかりが起こった。

うるさい騒音ミュージシャンがいなくなりー
大家さんは文句を言ってこなくなり、
後輩の足利と麻美は自分に好意的になり、
新しい部長からはプロジェクトリーダーに抜擢された

まるで”自分の思い描いた世界”

そしてー
なんだかー

「−−−−夢」
カペルが呟く。

「−−−!?」
俊介はカペルの方を見た。

「−ーーもしも…
 ”逆”だったら…?」

カペルが言う。

「逆ー?」
俊介がはっとするー。

”こっち”が現実で、
”あっち”が夢ー?

だとすれば、
”都合の良いことばかり”起きることもー
”まるで、自分の過去の記憶”で作ったかのような世界なこともー
”新しい部長の名前も顔もないこと”もー
説明がつくかもしれない

確かにー
”最近、元の世界でちゃんと寝たり、布団から起き上がる記憶がない”

気付くと、会社に居たり、
気付くと、こっちの世界で目が覚めるー

「−−−で、、でも、、それはー?」

うろたえる姫に、カペルは近づいた。

「私は、2年前、交通事故で死んだら、
 この世界に居ました。
 騎士団長のカペルとして・・・。

 それまでは毎日友達とおしゃれをしたり、
 可愛いものを楽しんだりする
 普通の女子大生だったんです」

カペルの言葉に、俊介は反応した。

「死んだ…?」

カペルは頷く。

「−−私が思うに、姫様は、
 最初、この世界に来た日に、元の世界では
 死んでいます。」

「−−−な、、なに?」

「−−この世界の姫に転生したあと姫様は、おそらく
 ”元いた世界”の夢を見ているのでしょう」

カペルが言う。

「ま、、待て!あの日も俺はちゃんと寝たぞ!」
姫の叫び声が響き渡るー

「−−・・・・・・」

そ、、、そんな馬鹿な!
俊介はそう思いながらカペルの元から立ち去った。

俺が死んだなんて、ありえない!と思いながらー

カペルの話が本当なら、
自分はもう、元の世界では死んでいて、
自分は、この世界の姫に、転生した??

部屋に戻ると、姫は叫んだ

「私は寝るぞ!」
がに股で歩きながら
ベットに飛び込む。

そんな馬鹿な
そんな馬鹿な
そんな馬鹿な

メイドのマミは「ひ、姫様?」と困惑していた。

俺は…死んでない
俺は…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

気付くと、
街を歩いていたー

俊介は思うー

ほら、帰って来れたー

と。

これは、夢ではない。


だがー

俊介は不安を覚えるー

”姫”として目覚める時は、ちゃんとベットなのにー
なんでこっちの世界で目覚める時は、
こんな中途半端な場所にー

それにー

俊介はふと思い立って走った。

”いつも入ったことのない裏路地”に
足を踏み入れるー

そしてー

「こ…これは…!?」

”俊介が行ったことのない場所”

そこにはー
黒い霧が出ていて、先に進めなかった。

ここはー
俊介の夢ー

だからー
俊介が行ったことのない場所は、存在しないー

いつも見ていた光景から
作りだされた、夢ー

だからー
架空の人物である”新しい部長”には
名前が存在しないー
顔も、存在しないー

「うわああああああ!」
俊介は走った。

「なんだ?なんだ?なんなんだ!?」
俊介は叫ぶ。

自宅に駆け込もうとする俊介ー

こっちが、”夢”なのかーー?


ガバァ!

俊介は起き上がった

そこにはーー
王宮の自分の部屋とーー
メイドのマミの姿があったーー

「−−姫様?うなされてましたが?」
マミが言うー

「そ、、そっか…はは…」
姫は目から涙を流していたー

理由は分からないが、
最初にこの世界に来た日ー、
自分は寝ている間に死んだー

そして、姫に転生したんだー

けれど、死んだことを自覚できていない自分は、
寝るたびに、元の世界の夢を見ていたー

だからー
自分に都合の良い事ばかり起こってー
新しい部長の顔も名前も分からなくてー
だんだんと意識がはっきりしなくなってー

「−−−そっか…」
悲しそうに呟くと、俊介は決意した。

別に、いいじゃないか。
こうして別の世界に転生できたんだし、
自分は”姫”になったんだー

「−−わたしは…わたしは…もう俊介じゃない」
そう呟くと、マミは「え?」と首をかしげた。

「−−そういえば…
 わたしの名前って…?」

夢だと思って真剣に考えていなかった。

夢じゃないー
これが、現実だ。
俺は、いや、わたしは姫になったんだー

異世界の姫に、転生したんだ。

「−−姫様のお名前ですか?
 姫様の名前はーーー」

マミから告げられたのは、
可愛らしい名前だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

元の世界ー

アパートの大家は呟く。

「−−全く…殺人事件なんて勘弁して欲しいよ」

警察官が”殺人”のあった部屋を
調べている。

数日前ー
ここで、幾田 俊介”というサラリーマンが
就寝中に、何者かに刺されて、即死したー。

彼はー
恐らく自分が死んだことにさえ、気づかなかっただろう。

犯人はーーー
先ほど、、”発見”されたー。

同僚の俊介を殺害したのちも、普通に出勤していた、
”緑川 麻美”という後輩女性ー。

昨日、指名手配された彼女は、会社を無断欠勤して
行方を晦ましていた。

そして、先ほど、自分の家で、自ら命を絶った麻美の遺体が発見されたのだ。

麻美の遺体の近くには
”ずっと隠してたけど、
 俊介先輩のこと、殺したいほど大好きでした?”

と、書かれたメモが落ちていたー

麻美の部屋はーー
壁中に先輩?と書かれており、
俊介の写真が1000枚以上は貼られていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「−−−今日もありがとう」
姫になった俊介は、1日を終えて眠りにつく。

眠りについた俊介を、
メイドのマミはじっと見つめたー。

「−−ふふふ、可愛いですよ…先輩」
マミが笑みを浮かべるー

異世界に転生したのは、
俊介だけではないー

「−−−あぁぁ…大好き…
 ”殺したい”ぐらいー」

麻美は、異世界のマミに転生していたー。

俊介の後を追うようにー

元の世界で死んだタイミングは麻美の方が後だったが、
この世界にやってきたのは、同時だったー。

しゅるり…
寝ている姫の頬を舐めるマミ。

そして、興奮したマミは、
姫の首に手を触れて、
そのまま姫の首を絞めはじめるのだったー

「だいすき?」


おわり







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