キモオタモデル(後編)
 作:黒憑


「ほらっ、着きましたよ!」

 しばらくすると割と大きめな放送スタジオに辿り着く。スタジオ……ほんとは僕が来たかったのはコスプレスタジオだったんだけどなぁ……そんな思いを抱きながらも中へと入っていく。スタッフには本物の美春ちゃんが欠席の連絡をしていたこともあってか少し驚かれ心配もされたものの、いるに越したことはないのか、すぐに控え室に通されたのだが――

「こんな服を……僕が着るのか?」

 たった今手にしているのは膝上丈のデニムスカート。さらにハンガーに掛けられているのはグレーのノースリーブニット。いかにも女の子の服装で……生放送で美春ちゃんが着るために用意された代物だ。もっと派手なヴェルダ様コスプレをしようとしていた人間が言うのもなんだが……これを着るのは正直中々恥ずかしい。

 しかしフルグラのヴェルダ様Tシャツにサイズの合わないメンズのチノパンで生放送に出るわけにもいかないし……ということで渋々着替え始める。まずはヴェルダ様Tシャツを脱いでっと……ん?

「ん……んぅっ……やばっ、おっぱいが引っ掛かって脱ぎづらいなぁ……ぐぬっ……んんっ」

 なんとかTシャツをおっぱいの上までずり上げる。プルンっと生き物のように飛び出してきたのは中々の巨乳とその頂点に張り付いた絆創膏だ。

「おぉ……思えば家にいる時は正面からダイレクトに生乳は見てなかったなぁ。これは凄い……こんなのが身体に付いてたら歩きづらいに決まってるよねぇ」

 手で下から支えてみれば中々の重量感……ヴェルダ様には少し及ばないだろうが中々の代物だ。こんな極上の生おっぱいが目の前に……やばっ、興奮して濡れてきた。

『美春ちゃ~ん? この後メイクもあるからなるべく早く着替えてね~』
「え、あ、は~い……」

 ドアの外からメイクさんの声が聞こえてきて我に返る。くそっ、こんなに濡れてるのにオナニーできないなんて……生殺しにされた気分だ。

 仕方がないのでTシャツを早々に脱ぎ捨て、チノパンにも手を掛ける。しかしこっちもお尻が引っ掛かって中々脱げないというか……無理やり下ろそうとするたびにお尻の張りのある弾力感に触れては脳内トリップしそうになるのをグっと堪える。

 破けるんじゃないかというくらい強引にチノパンを脱ぎ捨てると、鏡に露わになったのは乳首に絆創膏だけ張り付けたおっぱい丸出しの上半身裸、下には男物トランクスのみ穿いた美春ちゃんの姿。

「ほんとスタイルいいなぁ。色も白いし」

 出てくる声も凛とした綺麗な声。くびれとおっぱいが作り出す抜群のスタイルを持つ色白美女……それが男物トランクス一丁というのが中々違和感のある姿になっている。さすがに下着の用意はないわけだし、これは仕方ないか。

 またメイクさんから急かされるかもしれないし早く着替えないと……そう思ってひとまずデニムのスカートに脚を通す。なんだか女装してる気分に駆られるが、今の僕はモデル美女なんだ……そう頭で言い聞かせて恥じらいを何とか掻き消す。チノパンを穿いていた時ほどのお尻の窮屈感こそ薄れたものの、感じるのはどこか脚全体に感じる落ち着かない感覚。スカートって思った以上に心もとないんだな……そう思いながら後は上にノースリーブニットを着込んでいく。

「よしっ、これで出来上がりか」

 目の前の鏡にはデニムスカートとノースリーブニットに身を包んだモデル美女、新山美春ちゃんの姿。スカートから伸びる脚は色白の美脚で、ニットを押し上げるおっぱいはノーブラで少し垂れ気味だが中々の膨らみでオシャレな恰好がバッチリ似合っている。

『そろそろ着替え終わりましたか~?』
「あ、は、は~い」

 僕は姿見に映る美女の姿に後ろ髪を引かれながらも更衣室を出る。それで軽いメイク、さらには煩雑だった髪をしっかりと整えてもらい、あっという間に生放送のスタジオ入りの時間となったのだが――

「やっぱりこの恰好……落ち着かないなぁ」

 用意されたひな壇の椅子に腰かけながら、僕は剥き出しになった生脚を見やる。僕がスカートを穿いて……そこから色白の美脚が伸びている。おまけに脚を見ようとすると常に視界を邪魔してくる胸元……グレーのノースリーブニットを押し上げる2つの膨らみ。

「ちょっと先輩っ。下! 脚開きすぎですって! パンツ見えちゃいますよっ」
「はぇ? あ、あぁ、うん……」

 隣に座る由紀ちゃんに耳打ちされて仕方なく脚を閉じる。なんだか女みたいな仕草をしてるようで嫌だな……と思ったけど今の僕はどこからどうみても女なんだから別に気持ち悪くもなんともないのか。むしろ脚開いて座ったらパンツ見えちゃって……今の僕だと男物トランクスが見えちゃうってことか。むしろそれの方が問題だな。

「それに上も……えっと、朝から思ってたんですけどなんでブラしてないんですか……?」
「え、あぁ……まあ、その……忘れてきちゃって……的な?」

 ブラを付けてないことも最初からバレてたのか。このグレーのニットなら色的にもそんなに絆創膏の跡とか目立たないと思ったんだけど……さすがに女の子には簡単にわかっちゃうのかな。でもまぁ……そこまで目立ってないはずだし大丈夫だよね?

「それにしても……」

 改めて周囲を見渡してみる。今日の生放送は大学生モデルが僕と由紀ちゃん含め5人。周りのモデルさんは用意された衣装とはいえみんな凄くオシャレだし良い匂いするし美人だし……アニメ脳の僕はついつい誰にどのコスプレが似合うだろうかと考えてしまう。リアル女に関しては美春ちゃん以外ほとんど興味がない人間だけど、こうして近くで見るとなんだかんだ興奮してくる。ヴェルダ様のコスプレをできなかったのはほんと残念だけど、これはこれで中々良い気分だ。

「ほんとスタイルの良い美人ばかり……モデルさんってすごいなぁ、ふひひっ」
「もう何言ってるんですか……先輩もモデルでしょ……」

 由紀ちゃんに少し呆れられたが……僕もモデル……そうか。何せ今の僕は大学生モデルの新山美春ちゃんで……三次元ヴェルダ様だもんな。つまりは僕もこの人達と同じスタイル抜群の美女の一員ってわけで……そう考えるとなんだか頬がニヤけてくる。おまけに周りはスラッとしたモデルが多い中で、おっぱいに関してはこの中じゃトップレベルの巨乳だし!

 僕は周りから目立たない程度に服の上からおっぱいを擦る。この大きさ、柔らかさ。この場にいるどの女よりもでかいおっぱいが僕の手の中にあるんだ。

「せ、先輩……何してるんですか? もう始まりますよ!」
「あぁ、うん……」

 そこで、ようやく生放送の開始時間となる。少しチャラそうな男の司会者の進行のもと、生放送が進んでいく。

「はい、それでは最初に~……今日は5人の読者モデルの皆さんに来てもらったので、一人ずつ自己紹介お願いしま~す!」

 司会者の号令のもと自己紹介が始まる。名前と趣味と小話と……みんなアロマやら買い物やらフィットネスやら無難な話をしながら進行していく。それは僕の隣に座った由紀ちゃんも同じだった。

「じゃあ次は最後……美春ちゃんどうぞ~」

 いよいよ僕の番になったが、さて何を話すか……というか今更ながら生放送って凄く緊張するなぁ。

「あ、えっと僕……いや、わ、私の名前は新山美春です。趣味は~……」

 趣味……まあいちようは美春ちゃんの追っかけだし多少なら彼女のことはわかるけど。でも深堀されたら何も答えられないしなぁ。何しろ何十年もキモオタやってるだけの男だし……なんて思ってると。

「美春ちゃんどうしたの~? あ、そういえばさっ! さっき美春ちゃんがスタジオ入りした時の服? あれってアニメのキャラクターだよね~! ああいうのが好きなの?」
「……え?」

 そういえばまだ着替えてない時にこの司会者とすれ違ってたような……僕の服なんてよく覚えてるなぁ。……と思ったけど、あんな派手なキャラT着てたら当然か。

「僕もアニメってそこそこ知ってるからさぁ。もし良かったらその辺のこと聞かせてよ! 美春ちゃんって普通の今時の女子大生ってイメージだったからアニメの話とかしてくれると新鮮で盛り上がるだろうしさ」

 チャラ男司会者がニコニコしながら話す。どうしよう……本物の美春ちゃんはアニメなんて全く知らないだろうしなぁ。ここで変に答えると後々彼女が困りそうだけど。

 でも……そもそも僕はヴェルダ様のコスプレをすることも叶わずに強引にここに連れて来られて……それでまあ本人に頼まれたわけじゃないけど結果的には体調不良の本人の代わりに生出演させられて……。

 半ば無理やり代わりをさせられてるんだし、少しくらい僕の好きにやらせてもらってもいいんじゃないか? それにせっかく話を振られたんだし、その通りに答えた方がこの場も盛り上がるだろうし。

 それなら……少しだけ。

「えっと……アニメの話をしてもいいんですよね?」
「え? あぁもちろん! 美人モデルの意外な趣味って感じで面白そうだし!」
「わかりました! それじゃあ~……えっとアニメに関してはもうず~っと大好きですね! 今期の深夜アニメも半分近く網羅してまして~……」
「ほ~、そうなんだ~」

 中々興味深そうに話を聞いてくれる司会者。

「じゃあ今日着てたTシャツのキャラも……ってあぁ、視聴者の皆さんすみませんね。今日美春ちゃんが着てたTシャツっていうのは――」
「あっ、ぼ……私持ってきますよ!」
「え、ちょ、美春ちゃん!?」

 僕は急いで生放送現場から出てカメラマンの間を縫うと、自らのリュックに詰め込んだヴェルダ様Tシャツを持って急いで戻る。

「今朝私が着てたのはこのTシャツです!」
「お、おぉ……まさか本当に生放送中に持ってくるとは……まあいっか! そう、これこれ……そういえばこのキャラクター見たことあるなぁとは思ってて……えっと確か名前は……」
「ヴェルダ様です!!」
「そ、そうそう……確かそういうなま――」
「このキャラはほんと僕の一番のお気に入りのキャラなんですよぉ! 僕ヴェルダ様だけでTシャツ5着持ってますからねぇ! 何せもう鞭でお仕置きしたり色仕掛けするシーンがたまんないんですよぉ~!」
「あの……美春ちゃ――」
「もうヴェルダ様ってすっごくエッチでぇ~……だって見て下さいよ、このエチエチなボンテージ衣装!」

 僕は手に持っていたヴェルダ様Tシャツをカメラに向かって見せつける。

「この衣装で男を色仕掛けしちゃうとか最高じゃないですかぁ! 何より衣装からはみ出るおっぱいとか桃尻とか……僕もこんな方にお仕置きされたいですよねぇ! ふひひっ……って、あっ」

 すっかりヴェルダ様のことで熱が入ってしまった……と冷静になって周囲を見渡すと、先ほどまでは興味深げだった司会者は少し引き気味の苦笑いを浮かべているし、周りのモデルは由紀ちゃんも含めて呆然とした表情を浮かべている。まずい、完全にオタク特有のスイッチが入って少し喋り過ぎたかな……なんて思っていると。

「……おや? どうやらコメント欄がかなり盛り上がってるみたいだね~」

 司会者がネット生放送で流れるコメントに目を向けていたので僕もそっちを見やる。

『美春ちゃんってこんな子だったの?』
『ギャップやべえ。生粋のアニオタじゃんwww』
『美春ちゃんってずっとオシャレな子だと思ってたけどオタ趣味全開の子だったのか』
『お仕置きされたいとか美春ちゃんまさかのドM発言』

 どうやらコメ欄は大盛り上がりみたいだ。なんだ、スタジオの空気は微妙だけど番組としては成功してるじゃないか……と浮かれた気分になったのも束の間。中に一部『ヴェルダ様しか知らないんじゃないの? どうせオタにすり寄ったにわかだろ』ってコメがチラホラ見えてきて……ぐぬぬ、許さん。生粋のアニオタの僕のことをにわか呼ばわりとは……

「えっと……み、美春ちゃんどうかしたのかな? さっきまですごく楽しそうに話してたのに急に怖い顔してるけど……」
「え? あぁ、いやぁ、僕のことをにわか呼ばわりする奴がいて……こうなったら僕がにわかのアニオタじゃないってことを証明してやろうと思いましてねぇ!」
「え? あ、あの――」
「まずこのヴェルダ様が出てくるアニメには他にもマロンちゃんって幼女キャラがいてぇ……そっちは超ぶひぶひできるんですよぉ! 何せ衣装も肌の露出が多くて凄いというかぁ……あ、幼女といえば今期はロリアニメが豊作ですよねぇ! 萌える作品がたんまりで僕も興奮しちゃいますよぉ!」
「えっと……も、萌え……?」
「も~司会者さんったらアニメ見るって言うくせに全然わかってないですねぇ? わかりやすく言うと幼女が可愛くてブヒブヒできるアニメのことですよぉ! ふひひっ」

 もうそれからはずっと幼女アニメとヴェルダ様の魅力を語り続けた。気付いたらコメ欄は白字で埋め尽くされ、大変なことになっていた。

『やばいwww 美春ちゃんただのキモオタじゃんwww』
『これが男だったらただの変態おっさんだろwww』
『美春ちゃんってアニメの話する時は僕っ子なのか。ギャップやべえ』
『美春ちゃん今ヴェルダ様のおっぱい揉みたいって言ったよなwww自分の揉めよwww』
『いや、美春ちゃんめっちゃ自分の乳揉みながら話してるぞwwwやっぱりただの変態やん』

 どうやらにわかと呼ぶ人間はいなくなったみたいだが……ほんとコメント盛り上がってるなぁ。大草原みたいになってるけど。というか僕ってば知らぬ間におっぱいの魅力を語りながら自分のそれも揉んでたのか。すっかり話すのに夢中で気づかなかった。まあ生放送が盛り上がってるならいいよね? スタジオは僕が話せば話すほど微妙な空気になってるけど……。

 その後はなんやかんやと番組は通常通り進行しつつも、僕が話す番がくればひたすらアニメに絡めた話を語り続けた。スタジオの空気は終始微妙だったけどコメ欄の盛り上がりは間違いなく僕が話してる時が一番だった。本物の美春ちゃんはこれから大変かもしれないけど……まあ僕のおかげで視聴者は盛り上がったんだし良いよね♪

 生放送が終わると、僕は由紀ちゃん含め呆然としている周囲を置いて意気揚々と現場を後にした。再びヴェルダ様Tシャツとチノパンに着替えてスタジオの外へ出ると、すっかり日が高々と昇っていて……となるともうじきこの身体ともお別れか……ん?

「離して下さい! お願いだから中へ入れて!!」

 何やら騒いでいる男がいる。警備員に取り押さえられてるみたいだけど……って、あれ? よくみるとあの男、どこかで見たような……やせ形の体型、短髪の頭、そしてさえない顔つき……って。

「うそ……あれって……ぼ、僕だよね?」

 どうみてもそれは僕……そっくりとかではなく僕自身だ。鏡で何回も見てきた顔だから間違えるはずも無い。一体どうして……だって今の僕はここにいるのに……まあ美春ちゃんに変身してるけど。あれは一体誰なんだ?

 思考が追いつかない中、“僕の姿をした何者か”は僕の存在に気が付いたようで――

「あっ、いた! やっと見つけたわ!!」

 その“何者か”は僕の姿で女口調で声を荒げる。見た目はどうみても四十過ぎの僕そのままのため、まるで痛いオカマのようで……周りの警備員にゴミを見るような目で見られながらスタスタと歩いてくる。

「どうして私がここに……あなた一体誰なの!? これはどういうことなの!? 早く元に戻して!!」

 矢継ぎ早に浴びせられる言葉の数々に耳をふさぎたくなるが……えっと、“私がここに?”、“元に戻して”……って、あれ? これってもしかして……

「ま、まさか君は……」
「何惚けてるのよ! 絶対あなたの仕業なんでしょ!? あなたが私をこんな姿にして……それで私の身体で勝手に生放送に出演して……あんな恥ずかしいことを……絶対に許さないんだから!!」

 浴びせられる罵詈雑言の中で……僕は確信した。たった今、目の前にいる僕の姿をした何者かの正体は――

「君……美春ちゃん……?」
「そうに決まってるでしょ!? 惚けるのもいい加減に……キャッ、ちょっと何するの!? 離して!!」

 なおも気持ちの悪い女口調で喚きながら近寄ってきた警備員に羽交い絞めにされる僕……の姿をした美春ちゃん。その恰好もオカマっぽいというか……どちらかというと女の子っぽい薄桃色の上下のジャージを身に纏い、肩にはオシャレなベージュのバッグを掛けている……というかこれも美春ちゃんがいつも持っていたバッグだ。

 ということはやっぱり……この気持ち悪い僕の正体は美春ちゃんってことなんだろう。

 僕が使ったあのカメラ、“撮影対象に身体が変化するカメラ”って説明書きだったけど……それだけじゃなくて、撮られた側は撮った側に変身しちゃう効果もあったっていうこと……?

 思えば今更だけどこのカメラの名前……写し“盗り”カメラ。あの時は誤字としか思ってなかったけど……“盗る”って本当にそのままの意味だったってことか。

 つまり僕は彼女の身体を文字通り盗んで、それで彼女はそれと引き換えに僕の身体になっちゃったと……そりゃ美春ちゃんは今日の放送だって風邪とか云々の前に来れるはずがないわけだ。その原因は僕にあるわけで……そう考えると、あんなに好き勝手にやった生放送も少し申し訳ない気分になってきた。

「ちょっと何黙ってるの……早く元に戻してよ! くっ……警備員さん離して下さい! この人は私の偽物なんです!」

 警備員にゴミを見るような目で見られながら必死にあがく美春ちゃん。まあ朝起きて僕みたいなブサイクなおっさんになってたら……きっとパニックに陥ったことは想像に難しくない。それで慌てて生放送を欠席する連絡をして……いざ自分がいない生放送を見てみたら、なぜか自分の姿をした人間がフルグラのアニメTシャツを片手にオタトークを展開していると……そりゃすっ飛んでくるわけだ。

 ともあれこの状況……どうするべきか? 今の時間は11時過ぎ、この身体でいられるのは正午まで。そうなると今からコスプレスタジオでヴェルダ様コス……っていうのはどうせ間に合わないしなぁ。

 それならせっかくだし――

「警備員さん、その方のこと離してあげて下さい」
「え……?」

 警備員はどう見ても不審者にしか見えない僕の身体の美春ちゃんと僕を交互に見つめながら心配そうな表情を浮かべる。

「私、少しその方に用事があるのを思い出しました」
「え、でも……大丈夫なんですか?」
「えぇ、大丈夫です♪ それじゃあ行きましょうか? “おじさん”?」

 僕は美春ちゃんのフリをしながら、なおも何か言いたげな彼女の手……昨日までの僕のゴツゴツした手を引っ張り歩き出す。

「ちょ、ちょっと! 一体どこに連れてこうっていうの!?」
「まあまあ……おとなしくついてくれば元に戻る方法を教えてあげるよ?」
「え……」
「それともここでず~っと“私が美春だ”って言ってるかい? そんなことしてたら僕が警察でも呼べば不審者で捕まっちゃうと思うよ?」
「そ、それは……」

 そう耳打ちすると喚いていた美春ちゃんも口を閉ざす。まあ元に戻る方法も何も、あと1時間もしないうちに元通りになるわけで……それで捕まったら困るのは僕だし警察なんて呼ぶわけないんだけどね。こうでも言わないと素直についてきてくれなさそうだし。

「まあおとなしく付いてきなよ。悪いようにはしないからさ」
「うぅ……」

 そこでようやくおとなしくなった美春ちゃんをグイグイ引っ張りながら街中を歩いていく。それにしても、やたらと視線を浴びているような……まあ片や派手なフルグラTシャツを着たスタイル抜群の美女。そんな子が手を引っ張って連れているのは四十過ぎの上下薄桃色ジャージのキモいおっさん……そりゃ注目を浴びるか。傍から見たら援交とか思われてるのかな?

 それにしても相変わらず僕を見る男の視線は胸元……おっぱいばかりだ。まあノーブラだからバルンバルンに揺れてるわけだし仕方ないか。歩く度に揺れるおっぱい、髪から香るのは使ったことのないシャンプーの香り……僕はニヤける頬を抑えられぬまま、ひとまず人の少ない公園に辿り着き、美春ちゃんと一緒に男子トイレの中に入る。

「え、ちょ、ちょっと……」

 一瞬美春ちゃんが躊躇した声を上げるも、僕は構わず彼女を引っ張って個室に入り鍵を閉める。

「こ、こんな所に連れてきて……本当に元に戻る方法を教えてくれるんでしょうね?」

 おそらく初めての男子トイレだからなのか少し美春ちゃんの顔が赤い気がするが……まあ僕の顔なので気持ち悪いだけだ。

「ふひひっ、もちろん教えてあげるよ。でもその前にさぁ……美春ちゃんってばそんなにすぐに元に戻りたいのかい?」
「は? 決まってるでしょ! こんな気持ち悪い身体……」
「も~、ひどいなぁ。まあ確かに四十過ぎのキモオタおっさんだし気持ち悪いのは認めるけど……それでもせっかく異性の身体になってるんだよ? こんな機会なんて中々ないんだしさぁ」

 そう言いながら僕はムギュッとTシャツに包まれたおっぱいを鷲掴む。

「んあぁっ♡ ふひひっ……いいねぇ、やっぱり女の子のおっぱいって最高だよねぇ! んぅっ♡」
「ちょ……やめてよ! 私の身体で勝手な事しないで!」
「えぇ~、でもこれって僕が変身して美春ちゃんになってるだけだし~……この身体は僕の身体だよねぇ?」
「そんな……ふざけないでよ!」
「まあまあそんなに怒らないでさぁ。確かに僕の身体は気持ち悪いかもしれないけど~……それでもせっかくの“男の身体”なんだよ? もっと楽しめばいいのにさぁ」
「こ、こんな身体で何を楽しもうって言うのよ!?」
「え~、例えばぁ……」

 僕はそう言いながら、彼女が穿いてたジャージのズボンをザッとずり下ろす。「キャッ」と男声で気持ち悪い声を発する美春ちゃんをよそに、その下半身を凝視すると中にはパツパツになっている女性用のパステルピンクのショーツ……それがもっこりと盛り上がっている。

「あははっ。女用の下着じゃ僕のちん〇がおさまるわけもないか」
「んなっ……しょうがないじゃない! 下着なんて女用のしか持ってないに決まってるでしょ!」

 頬を真っ赤に染める彼女。僕はそんな彼女の股間……というか昨日までの僕の肉棒をショーツの上からムギュッと掴む。

「ひゃっ! ちょ、ちょっと何するのよ!?」
「へへっ……いやぁ、やっぱり男の身体で楽しんでもらうとしたら、やっぱりおちん〇かなぁってさ」
「はぁ!? い、いやよ、そんな……」
「え~? でもさぁ、こうやって擦ると……」
「え、ちょっと待っ……んぅっ♡ や、やめなさっ……はぅっ♡」

 手で丁寧に擦っていると、ガラガラ声で喘ぐ美春ちゃんと共に段々と大きくなっていく肉棒。あっという間に巨大化したソレはボロンっとショーツの隙間から姿を現す。

「ほらっ、こんなにおち〇ぽ大きくしちゃってさぁ。ほんとは美春ちゃんも興奮してるんでしょ? 自分のエロい身体を間近で見てさぁ?」
「ち、ちが……私が自分の身体で興奮するわけないでしょ!? これはあなたが勝手に触るからで……それにさっきから私の声で、その……そういう卑猥な言葉を発しないでよ!」
「え? あぁ、おちん〇のこと? も~いちいちうるさいなぁ。そんなの僕の勝手でしょ?」
「そんな……ひゃぁっ♡♡」

 またも気持ちの悪い声を発する彼女をよそにそびえ立った肉棒を擦り続ける。これって客観的に見ると美春ちゃんの手で僕の一物を手コキしてる絵面なわけで……なんだかこの状況凄く興奮するなぁ。このままイかせてあげようかな? でもせっかくだし何か他にもっと……あ、そうだっ。

 僕はいったん手コキをストップすると、すっかり腰がガクガクと震えている美春ちゃんを押し倒すように洋式便座に座らせ、彼女のショーツをずり下げた。いきり立った一物が一瞬引っ掛かり「んあっ」と声を上げた彼女をよそに、僕は改めて玉も含めて露わになったソレを眺める。

「これは凄い……いつもの僕のよりも遙かにでかく見えるなぁ」
「はぁはぁ……ふ、ふざけないでっ。こんな忌々しい物……」
「もう……そんなこと言ってないでさぁ。せっかくだから~……美春ちゃんにとっては初体験の勃起したソレを……僕にとっても初めてのコレ……この巨乳で気持ち良くさせてあげるよぉ!」

 そう言って洋式便座に座る彼女の前で床に膝立ちになり、ヴェルダ様Tシャツに包まれたおっぱいを横から鷲掴む。そして柔らかでムニュっとしたソレで彼女の今にも絶頂を迎えそうな肉棒を挟み込む。

「キャっ♡ ちょっ、やめっ……んはぁぁっ♡」
「ほらほら……気持ち良いでしょ? それにしても、ほんとに大きなおっぱいだよねぇ。こんな簡単に挟み込めちゃうなんてさ♪」

 Tシャツを押し上げるおっぱいを彼女の肉棒に激しく擦り付け、扱いていく。美春ちゃんは僕の顔で頬を赤く染めながら蕩けた表情を浮かべる。おっぱいがTシャツ越しに股間に当たって扱かれる感触はどんなに気持ち良いんだろうなぁ。僕もこんな風に巨乳の女の子にパイズリしてもらいたい人生だった……まさか自分が扱く側になるだなんて思ってもみなかったが。

 下を見れば僕が今までに幾度となくシコってきた時よりも猛々しくそびえ立つ肉棒……それをおっぱいで盛り上がるTシャツの双丘で挟み込む光景。ちょうどTシャツ柄のヴェルダ様の顔の辺りが肉棒に当たっているためか、ヴェルダ様がフェラをしてるような、そんな高揚感に駆られる。その興奮に自然とおっぱいを動かす手の動きが止まらなくなってきて――

「も、もう……ダメッ……んはぁぁっ♡♡ こ、これ以上は……んふぅ♡」
「ひひっ、我慢しなくていいんだよぉ。僕のおっぱいで気持ち良くなりなよぉ!」
「あっ♡ だ……もっ♡ もう……あぁ♡ んふぅ♡ んはぁぁぁぁぁっっ♡♡♡」

 ガラガラ声なのに女々しい嬌声……おそらくはトイレの外までダダ漏れであろう猛々しい声が響き渡ると共に股間から精液が溢れ出し、僕のおっぱいで盛り上がったTシャツに……そこに描かれたヴェルダ様に降りかかる。まるでヴェルダ様が哀れにも精液に濡れてるような……彼女の同人誌もたくさん買ったけど基本的にドSモードで男をいじめる話ばかりだから、なんだか興奮を覚える。

「はぁはぁ……ほんと……最低……」

 荒い息遣いと弱々しい声で僕を侮蔑する美春ちゃん。でも――

「ふひひっ。そんなこと言ってぇ~……凄く気持ちよさそうな顔してるよぉ? 女の子にパイズリしてもらうなんて僕自身ですらしてもらったことないんだから羨ましいくらいだよぉ。むしろ感謝してほしいくらいさ」
「ふ……ふざけないで……はぁはぁ……早くもとにっ……戻してよ……」
「へへっ、そうだねぇ……」

 まあ言われなくても、もうすぐ時間だろうし……って、あれ?

「そういえば元に戻るって……どんな感じで戻るんだろ?」

 今朝起きたら……僕は美春ちゃんの身体になっていたわけで。つまりは寝ている間に肉体に変化が生じたってことだよね? だとしたら、もし今この状況で元に戻るとしたら……精液濡れのヴェルダ様Tシャツを着る僕自身と……下半身露出した状態で顔が真っ赤な美春ちゃんって状況になって……しかもここって男子トイレ……。

「そ、それはまずいぞぉ!!」

 入れ替わりについて訴えられてもどうせ周りは信じないだろうし適当に誤魔化せばいいと思ってたけど……この状況で戻ったら本当にまずい! この現場を見られたら逮捕されるどころの話ではなくなる……今すぐこの場を離れなきゃ!

「えっと時間は……ってもう12時になる!? あと5秒しかないじゃないか!」
「ちょっと……何慌ててるの?」

 美春ちゃんは何もわかってないようだけど、これは大変なことに――

キーンコーン
「あ……」

 昼の12時を知らせる……どこかの学校の鐘の音だろうか? どうしよう、今からでもどこか人目の付かない所に逃げれば間に合うのか、でもそんなことをしてる内にも肉体に変化が起こったりして――





「………………あれ?」

 鐘が鳴り終わって少し経ったけど……特に身体に変化はない。相変わらず美春ちゃんボディのままだ。腕は白いし指は細くてしなやかだし、何より視線を落とすと主張の激しいおっぱいと精液に塗れたヴェルダ様Tシャツ。さっきまでと何も変わらない光景だ。

「え、元に戻るんじゃ……」

 出てくる声も美春ちゃんの綺麗な声だ……って、あれ? それなら僕の身体になった彼女は一体どうなって……と思って視線を向ける。

 そこには先ほど僕の身体でイった時とは少し違うような……相変わらず顔は赤らんだままだが、どこかボーっとした表情を浮かべていて、その目は焦点が定まっていなかった。なんだこれ……大丈夫なのか? 無事を確認しようと恐る恐るその無表情の顔に手を伸ばそうとすると――

「……………………ふひひっ」

 うっすらと笑った美春ちゃん。その顔はなんだかいつもの……僕が普段アニメでエッチな妄想をしている時と全く同じような歪んだ笑み。というかまるで僕その物のような……

「はぁ~……最高に気持ち良かったなぁ! 美春ちゃんに……リアルヴェルダ様にパイズリしてもらえるなんて夢みたいだったよぉ! うへへっ」
「…………え?」

 彼女は一体何を言ってるんだ? リアルヴェルダ様がどうって……彼女も実はヴェルダ様ファンだったのか? いや、そんなはずはない。美春ちゃんに付き纏っていた僕は、彼女が全くオタ趣味を持っていないことは知っている。それなのになんで……これじゃまるで見た目も口調も笑い方も……そっくりそのまま“僕”を見ているみたいじゃないか。

「一体何がどうな……うっ!?」

 そう思った瞬間……突然頭の中にドッと“何か”が流れ込んでくる。絶え間なく濁流のように……なんだこれ……両親に手を引かれながら赤いランドセルを背負って校門を潜る自分、セーラー服を着て友人と談笑する自分、高校時代にミスコンに選ばれ生徒の前で手を振る自分……って自分なわけがない……どう考えても僕が経験していないはずの記憶の数々がとめどなく流れ込んでくる。

 そしてそれらの中で自分は……“美春ちゃん”と呼ばれている。つまりこれは僕じゃなくて……美春ちゃんの記憶? まるで僕自身が体験して、その時々に抱いた感情がそのまま蘇ってくるような……なんだこれ……私ってば何だか混乱してきて……あれ、“私”? なんだかおかしい、どうなってるのかしら……ん? ちょ、ちょっと待ってよ……違う! これじゃまるで私が美春ちゃん自身みたいじゃないか!

「違う違う違う!!!!」

 危うく何かとんでもない物に呑み込まれそうになる寸前の所で……何とか意識を取り戻す。呼吸が辛いし胸が苦しいが……何とか戻ってきたような。濁流のような記憶の波に溺れかけて……今、僕は何を考えてたんだ? まるで“自分が美春ちゃん”だって……本気で思い込もうとしてた……?

「もしそんなことになったら大変……って、あれ? ということは……」

 僕は再び目の前でニヤニヤと笑う僕の姿をした美春ちゃんを見やる。おそらくは彼女の中にも今しがたの僕みたいに、僕の記憶や感情が濁流のように流れ込んできたに違いない。それであの様子ということは――

 彼女の場合は僕と違って完全に僕の記憶に呑まれちゃったってことか?

「おほぉ……美春ちゃんってば何やら物思いに耽る表情……それもヴェルダ様そっくりだよぉ! いやぁ三次元ヴェルダ様をこんな間近で見れるなんて最高だなぁ!」

 相変わらずの発言……あれは完全に自分のことを四十過ぎのキモオタ・伊藤卓夫だと思い込んでいるようだ。ということは僕ももし彼女のように記憶に呑まれて、僕自身が新山美春だと思い込んでしまっていたとしたら……僕は完全に身も心も美春ちゃんになっていたということか。お互いが完全にお互いになる……もしかしてカメラの“元通り”ってそういう意味……?

「それにしてもなんで美春ちゃんは呑まれちゃって僕は大丈夫だったんだろう? 別に精神力とか強くないし……強いとしたら性欲くらいなんだけどなぁ」

 まあ僕が大丈夫だった原因はよくわからない。ただ結果的には彼女は完全に元の僕になったけど、僕の心は僕のまま……“元通り”とは少し違う……僕にとっては極めて美味しい状況になったわけだ。おまけに呑まれかけた危機と引き換えに得られた物……それは美春ちゃんの今までの記憶、彼女の日頃の言葉遣いや言動、それにモデル活動への取り組み等々……何もかもが僕の脳内にはっきりと刻み込まれた。

 つまりこれを使えば僕は大学生モデルの新山美春として生きていけるってわけで――

「うひひっ、こいつは凄いぞぉ!!」

 やばい、ニヤけが止まらない。だって、僕みたいな四十過ぎで彼女なしのキモオタが……こんな美人で若くて巨乳で……しかも僕の大好きなヴェルダ様そっくりの美女の身体になって……これから先ずっとその人生を謳歌できるだなんて。

「最高だよぉ!! 僕がこれからは美春ちゃんなんだ……僕がリアルヴェルダ様なんだ……」

 そうと決まれば……あと一つ、やることがある。

 僕は 相変わらず便座に座ったままニヤけた表情を浮かべる“元”美春ちゃんの傍らに置かれた手荷物……ベージュのトートバックをササッと拾い上げる。中には財布や手鏡、薄桃色のスマホ……全部見慣れない物のはずなのに、まるで今まで何回も使ったことがあるような感覚を覚える。

「これらは全部僕の……いや、“私”の物ってわけね♪ ふふっ」

 僕は手にしたトートバッグを肩にかけると、代わりに持ってきていた本来の僕のリュックを“元”美春ちゃんの手に握らせる。彼女は一瞬何をしているのかわからない表情を浮かべていたのだが――

「あら? 何を変な顔してるんですか? それはあなたの物ですよね? “伊藤卓夫さん”?」
「僕の……あぁ、そっか……僕のか……えっと、美春ちゃんありがとね、うひひっ」

 あっさりとそれが当然かのように納得する。さて、これで美春ちゃんのスマホも大事な携帯品も全部手に入れたわけだし……彼女の物は一通り僕の物になったわけだ。ともあれ……これでもう“元”美春ちゃんは用済みだ。

「うふふっ。じゃあパイズリで満足したようですし、私はこれで失礼しますね♪」
「え、もう終わりぃ!? もっと美春ちゃんに扱いてもらいた……ってあれ? 僕ってばなんで美春ちゃんにパイズリしてもらってたんだっけ……なんでこんな夢みたいな状況になってるんだぁ……?」

 “元”美春ちゃんはさすがに今の状況に多少の違和感を持ってるみたいだが……それでも入れ替わりの事実に気付く気配は全くない。それじゃあ僕はこれで……そう思いながらトイレットペーパーでTシャツに付いた精液を軽く拭き取ろうとして――

「あっ、そうだ。せっかくだし……」

 僕は精液塗れのヴェルダ様Tシャツを自然と手をクロスにしながらサッと脱ぎ捨てると、チノパンと男物トランクスも脱ぎ捨てる。

「おほぉ!? み、美春ちゃんが僕の前でストリップをしてくれてるよぉ! これは第二ラウンドの始まりかぁ!?」

 すっかり僕に染まった“元”美春ちゃんをよそに、僕は彼女の身ぐるみ……既にずり下がっていた下のジャージとパステルピンクのショーツを脱がせ、上のジャージもファスナーを下ろして剥ぎ取る。

「み、美春ちゃんどうしたの? 一緒に裸になって……今度はセ……セ……セクロスしてくれるのぉ!?」

 “元”美春ちゃんは顔を真っ赤にしながら興奮しているが……残念だがそんなことするはずがない。元は僕の身体とはいえ……男とヤるなんてまっぴらごめんだ。

 僕が用があるのは……この服だけだし。

 奪い取った薄桃色のジャージを裸の上から着てファスナーを上げる。さらには下はパステルピンクのショーツに脚を通す。ピッチリと……トランクスを穿いてるときよりも違和感はないし、身体にフィットする感じだ。その上に今度はジャージのズボンを通す。

「これで完成っと……ふふっ」
「み、美春ちゃんが僕のジャージを着てる……これはどういうプレイなんだぁ!?」
「あら、何言ってるんですか? これは“私”の物ですよねぇ?」
「え……?」
「その代わり……それらは全部あなたの物でしょう?」

 僕はそう言いながら足元に転がったヴェルダ様Tシャツとチノパン、トランクスを指差す。

「え、あれ……そ、そうか。このヴェルダ様Tシャツはどうみても僕の宝物の一つ……あれ? じゃあなんで美春ちゃんが今まで僕のコレを着てたんだぁ?」
「うふふっ、細かいことはいいじゃないですか♪ むしろご褒美ですよね? 私が一時的に着てたTシャツ……それがあなたの物になるんですよ?」
「え? そっか確かに……これ……み、美春ちゃんの温もりがあるってことかぁ! やばい興奮してきたぞぉ!! こ、これ凄く良い匂いするよぉ……むほほぉ……」

 僕が脱ぎ捨てたヴェルダ様Tシャツをじっくりと堪能するように嗅ぐ“元”美春ちゃん。かつての自分の匂いに興奮しているとも知らず……なんだか滑稽な絵だ。まあヴェルダ様Tシャツはまた新しい物を買い直せばいいだろう。ちゃんとこの新しく手に入れた身体に合うサイズの物を……ね。

「じゃあ私は今度こそこの辺で! もうこんなサービスは金輪際ないですからねぇ~」
「あぁ美春ちゃんの残り香Tシャツ凄く良い匂い……って美春ちゃんもう行っちゃうのぉ!? ちょっと待っ……あっ、勃起して上手く立てない……ま、待ってよぉ~」

 すっかり僕に染まった“元”美春ちゃんを背にトイレを後にする。もう彼女は用済みだ。僕に染まっちゃってるから僕のストーカーとかやり始めるかもしれないけど……何せ僕は僕自身の所業は全部わかってるわけだし、面倒になれば警察にでも突き出せばいいだろう。

「へへっ、これでもう……これからは僕が美春ちゃんだぁ! うひひっ、リアルヴェルダ様の身体が僕のものぉ!!」

 トイレの洗面鏡を見れば、そこには薄桃色のジャージに身を包む美春ちゃんの姿が……この声も顔も身体も……この身に付けてるジャージも下のショーツも……もうこれからは全部僕の物なんだ。

「うへへっ、最高の気分だなぁ!」

 僕はジャージのファスナーを少し下ろし、おっぱいの谷間をチラッと露出させると街へと繰り出す。男共のスケベな視線が集まるのが何だか良い気分だ。僕はジャージに包まれたおっぱいを揉みながら秘部を延々と濡らし続けた――





『さてさて今日のゲストは~……この方! 最近注目の現役女子大生モデル、新山美春さんで~す』
『はい、こんにちは~』

 ――“あの日”から数か月。

 テレビに放映されている美春ちゃん……いや、今や“自分自身”の姿をのんびりと眺める。部屋着のヴェルダ様のフルグラTシャツを押し上げる柔らかな双丘を揉みしだき、ソファにだらっと寝そべって秘部に指を突っ込みながら。

「んっ……んはぁ♡♡ ふひひっ、ほんと凄いよなぁ。ただのキモオタだった僕が……こんな地上波の番組にゲスト出演しちゃうなんてさぁ……んぅ♡♡」

 もう幾度となく経験した女体オナニーの快楽に今日も耽りながら……たった今見ているのは人気のトーク番組だ。そこに僕がゲスト出演しているなんて何だか信じられない。これも美春ちゃんのスタイル抜群の身体と美しい顔のおかげ……と言いたいところなのだが実はそれだけではない。

 そもそも元々の美春ちゃんと言えば、ごく一般的な女子大生モデルに過ぎず、雑誌には出るものの別にこういった地上波の番組に出演したことなんて全くなかったのだ。ところがあの日……僕が彼女の身体、記憶、その全てを手に入れて成り代わった時から……“女子大生モデル・新山美春”は途端に表舞台に引っ張りだこになったのだ。

 それには理由があるのだが――

『それじゃあここで美春ちゃんの自宅映像こうか~い!』

 番組が美春ちゃんの自宅……というかあの日以降は僕が美春ちゃんとして使っている部屋の映像を流し始める。もちろんこの放送は生ではないから今撮っているわけじゃないが……それでも今いる僕の部屋の内装がテレビに映し出される。美少女キャラのポスターだらけの内装、所々に置かれたフィギュア、ぬいぐるみ……どう見ても“重度のアニオタ”の部屋がそこには映し出されていた。

 実際に映像に流れる通り……今やこの部屋は以前美春ちゃんが使っていた頃の簡素でありながら女性的な部屋からは程遠い完全なオタ部屋と成り果てている。これも彼女がモデル業で稼いだお金を僕がアニメグッズに片っ端からつぎ込んだ結果なのだが……まぁ昔の僕のアニメグッズが全部“元”美春ちゃんの物になっちゃって単純に買い直しまくったという事情もあるけど。ともあれ美春ちゃんの部屋を昔の僕の部屋と全く同じようなアニオタ一色の部屋へと変貌させたわけだ。

 そして――

『いや~、ほんと珍しいよねぇ。美人でモデルさんで……それでいてこんなにアニメ大好きの所謂オタクっていう子は中々いないからねえ』
『うふふ、そうですかねぇ?』

 司会者の話に、映像の自分がニヤけた笑みを浮かべて答える。

 僕がこうして有名なトーク番組に出るほど急速に人気が出た理由……実は、あの日に行ったネット番組の生放送……あれをきっかけに、“美人過ぎるキモオタ”という一風変わった形で僕の噂は瞬く間に世間に広まってメディアの知るところとなり、あっという間に地上波番組に引っ張りだこになったのだ。付け焼刃のようなオタクに媚びたアピールとは違う中身の濃いオタトーク……というかアニメの女の子に平気で欲情する美人モデルとして、その取り繕わないありのままのキモさが話題になり、“キモオタモデル”として唯一無二の売れっ子モデルになってしまったわけである。

「うへへっ、凄いよなぁ。言ってることはただのキモオタなのに……それを美人が言ったら変わり者としてこんなに注目を浴びちゃって、こんなに売れちゃうんだからねぇ!」

 それこそ元々の一般的なモデルとして売り出していた美春ちゃんより何倍も売れちゃうくらいだし。そんな優越感に浸りながらテレビに映る美春ちゃんの……今の自分の映像を見つめる。下こそ可愛らしいフレアスカートだが、上はヴェルダ様Tシャツ……そんな姿でニヤニヤと笑いながら自分の部屋のオタグッズを紹介している。僕みたいなキモオタモデルをきっかけに世の女性の間でもっと美少女アニメが広まってくれれば良いなぁ……なんてもっともらしい思いを抱きながら僕はソッとテレビの電源を消す。

「さて……そろそろ時間かな。オナニーはこの辺にしてっと……んぅっ」

 ググッと伸びをすると、プルンっとおっぱいが揺れる。これを揉んでまだまだオナニーに耽りたい……そんな衝動に駆られたが今はここまでだ。僕は秘部から漏れ出た愛液をティッシュで適当に拭き取り身支度を始める。ショーツにブラジャー、スカートにブラウス……そして髪を整え軽く化粧もして……記憶の定着によってすっかり手慣れた女性としての身支度もそこそこに外へ出る。

 スカートの中に吹き込むヒヤッとした感触、おっぱいの揺れる感覚、髪から香る甘い香り……美春ちゃんとして感じる女の感覚にはいまだに興奮してしまう。何だか身体が熱くなってきたのは外の熱気だけが理由ではないような……そう思いながらブラウスの襟元をパタパタと煽っていると、露骨に感じるのは男共の視線。僕のことを馬鹿にしていたチャラ男共が鼻の下を伸ばして僕を見ていると、そう思うと言い知れぬ優越感が湧き上がる。

 それにしてもほんと暑い……こんな日は家でクーラーの効いた部屋でオナニーに耽っていたいところだけど、今日はどうしても大事な用があるのだ。

 それは――





「もっともっと~……美春ちゃんこっちにも笑顔ちょうだ~い」
「美春ちゃ~ん! 最高に可愛いよぉ!!」

 たくさんのカメラを向けられながらポージングを決め続ける。今日は大規模な同人誌即売会……そこに僕はコスプレイヤーとして参加しているのだ。

「ほんとに凄いよ美春ちゃん! ヴェルダ様そっくりだよぉ!!」
「うふふっ、ありがとう! でも“ヴェルダ様そっくり”じゃなくて~……私のことはヴェルダ様と呼びなさい!!」
「ははぁ~、ヴェルダ様~!」

 今日のコスはもちろんヴェルダ様だ。胸元が網状の黒いビスチェ、尻肉がはみ出そうな黒のエナメルショーツ、美脚を包み込む黒のサイハイブーツに身を包む今の僕は、誰がどう見てもリアルヴェルダ様にしか見えないだろう。僕はあの日叶わなかったヴェルダ様のコスプレを……あれから何回も着ては、こうして披露している。いちようそれ以外にも色々なコスプレをしてるけど……何よりダントツで受けが良いのはヴェルダ様のコスプレなのだ。

 今日も囲み撮影という形で四方八方でカメコ達がカメラを片手に僕のことを撮影しまくっている。

「ヴェルダ様~こっち向いて~!!」
「うふふっ……はぁ~い」

 ブヒブヒと興奮するオタク達に向けてポージングを取り続ける。何せ僕自体がヴェルダ様の大ファン……だからこそヴェルダ様に完全に成り切って完璧なポージングをとるのは造作もないことなのだ。僕がヴェルダ様の台詞を真似したりウィンクを投げる度に大歓声が沸く……僕はこの身体になってコスプレイヤーとしての楽しさ、その興奮にすっかり憑りつかれてしまった。今までキモい、臭いと侮蔑の目を向けられ続けてきた僕が、こんなにもみんなの羨望の眼差しを浴びている……なんて最高の気分なんだ。

 そして、そんな数多い視線……囲み撮影をするオタク共の中に一際大きな歓声を送る人間が一人。

「ヴェルダ様~!! もっと谷間見せてぇ~!! もっと誘惑した表情ちょうだいよぉ!!」

 かなり卑猥でマナーとしてはアウトな要求を行う一人の男。それは僕にとってはあまりに見慣れた姿で……そして僕がコスプレを行う度に必ず撮影に来る……いわばすっかり常連と化してしまった男、“元”美春ちゃんだ。

 カメラを片手に鼻息を荒くしながら本来であれば禁止されているローアングル撮影にも必死に精を出している。もう彼女には、かつて自分が目の前でコスプレをする美女の身体だった頃の記憶なんて欠片もないんだろう。あの日流れ込んだ記憶によれば、僕と入れ替わるまではコスプレどころかアニメにすら興味がなかった彼女。それが今や僕の身体と記憶にすっかり染まってしまいコスプレイヤーとアニメ大好きのキモオタになり、おまけに元の自分の身体はアニメコスプレイヤーになっちゃうなんて……世の中わからないものだ。

 僕は“元”美春ちゃんの卑猥な要求にも特に文句も言わずに胸や尻を強調したポージングを取り続ける。まあこれくらいのこと……こんな最高の身体を写し盗らせてくれたんだから少しサービスしても問題ないよね。

「うふふっ、これでどうかしらっ♪」
「ぐはぁ! ヴェルダ様……谷間が反則だよぉ!!」

 相も変わらずかつての自分のおっぱいやお尻を熱心に撮る“元”美春ちゃん。なんだか良い気分だなぁ……そう思いながら、僕はとっておきのウィンクを彼女に飛ばし続けた。









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