キモオタモデル(前編)
 作:黒憑


「うひひっ、まだかなぁ」

 夜の22時、人通りの少ない夜道。僕、伊藤卓夫(いとうたくお)は、一台の車の陰に身を潜める。

 アニメ同人誌が大量に入ったリュックを背負い、茶色のチノパンの中に青と赤のチェックシャツの裾をインした普段通りのオタクスタイル。生粋のアニオタとして今日もアキバで公式・同人問わずに大量のアニメグッズ巡りをしてきた帰りに、“とある待ち人”がここを通るのを今か今かと待ちわびているのだ。

 それは――

「おっ、来たぞぉ!」

 視線の先には颯爽と歩いてくる一人の女性。膝下丈の紺のフレアスカートに、上は白いノースリーブの襟付きブラウスと涼しげで落ち着いた色合いのコーディネートに身を包む姿は、ダークブラウンの艶やかな長髪と相まって清楚な雰囲気を醸し出す。それでいてキリっとした目元や鼻先の高い顔立ちは、美人と形容するに相応しい可憐な美しさを漂わせていた。

「はい……今日の撮影……そうですかっ。私も……です! 明日の放送も……はいっ」

 何やらスマホを片手に通話中の彼女の名前は新山美春(にいやまみはる)。都内の某有名大学の学生、そしてその傍らで雑誌モデルの活動も行っている女の子だ。さっきチラっと聞こえた撮影がどうとかもおそらくはそのことだろう。

「はい、それではまたっ!」

 美春ちゃんは電話を切ると、路上駐車の陰に隠れる僕には気づかずに前を通り過ぎていく。彼女こそ……僕がわざわざアキバ帰りに何時間も待ちわびた女性なのだ。……と言っても、別に彼女は僕と何か約束をしていたわけではない。まあはっきりとした言い方をすれば僕は単に彼女の追っかけみたいなものだ。

 きっかけは偶然だった。数か月前、アキバ帰りに電車の中で見かけた彼女の姿。アニメばかりで三次元の女に興味のかけらも無かった僕は、“とある理由”から彼女に一目惚れをし、その日のうちに衝動的にこっそりと後を付けて彼女の自宅アパートを特定した。

 それからは暇さえあれば彼女の自宅付近や通う大学を徘徊……仕事やオタク活動の合間に彼女の容姿を傍から拝む毎日を送っている。

 僕が彼女にそこまで執着する理由はただ一つ――

「似すぎなんだよなぁ……“ヴェルダ様”に……フヒヒッ」

 ヴェルダ様……僕が大好きな某ヒーローアニメに出てくる悪の女幹部だ。170センチの高身長、バスト100の爆乳と細いウエスト、くびれのある肉欲的な身体つき、さらには透き通った真っ白な肌とキリッとした目が印象的な絶世の美女。おまけに衣装も扇情的で、胸元が網状になっているためか谷間が丸見えでエロすぎる黒いビスチェ、尻肉がはみ出そうな黒のエナメルショーツ、美脚を包み込む黒のサイハイブーツ、全て黒色の所謂“ボンテージ衣装”に身を包む悪役キャラなのだ。

 僕はヴェルダ様が好き過ぎて部屋は彼女のフィギュアやポスター、エロ絵タペストリーで埋め尽くされている。そんな大好きなキャラで、なおかつ何度も欲情してオカズにしてきたヴェルダ様に……新山美春はそっくりなのだ。

 肉欲的かつ凹凸のはっきりした長身のスタイルはもちろん、その端正な顔立ちもダークブラウンの長髪も白い肌も、おまけにその纏う雰囲気までもが彼女はヴェルダ様そっくり……まあおっぱいはさすがにヴェルダ様ほどのアニメ的な爆乳ではないが。それでも間違いなく巨乳に分類される極上の代物を持っているし、まるでヴェルダ様をそのまま三次元に召喚したかのような完コピ具合なのだ。

 僕が初めて美春ちゃんを電車の中で見たときの衝撃は今でも忘れられない。その場でテントを張ってしまった股間をどう誤魔化そうか必死だったし。

 ともあれ、その日から僕は彼女に一目惚れ……暇さえあれば彼女を追いかける日々を送り続けているわけだ。何せヴェルダ様が私服を着て歩いてるような感覚に襲われて物凄く興奮するというか……長らく三次元女でオナっていなかった僕が、何度も彼女をオカズにするようになったくらいには入れ込んでいる。

 そして毎日彼女で致す内に、僕の中でたった一つのどうにもならない欲望が湧き上がり、脳内を支配するようになった。

 “美春ちゃんにヴェルダ様のコスプレをしてほしい”

 ボンテージ衣装を身に纏い、台詞を喋り、誘惑のポーズをとってほしい。ドSキャラのヴェルダ様として鞭を片手に完全に成り切ってる姿を見たい。それをシャッターに収め、僕の永遠のオカズとして一生使い続けたい。

 でも僕がストーキング……追っかけをしてる内になんとなくわかったことだが、美春ちゃんはごく普通の今時の女子大生って感じでアニメには全く興味が無さそうだし、ましてやコスプレなんか到底しそうにない。僕の湧き上がる煩悩は夢物語でしかないと思っていたのだが――

「このカメラを使えば……」

 リュックから取り出したのは古びたカメラ。改めてその説明書を見る。

『これは“写し盗りカメラ”です。このカメラで対象人物を撮影すると一夜明けた翌朝、あなたの身体は写し盗った撮影対象へと変化しています。なお正午になると“元通り”となりますのでご注意下さい』

 何とも胡散臭いことが書き連ねられているが……先日、通販で購入した数々のアニメグッズとは別に、配達者不明の段ボールに入って送られてきた怪しい代物だ。

 注文した覚えもないし、何せこんな説明書だけなら悪戯だと思ってすぐに捨てるのだが……段ボールの中にはカメラと共に一枚のディスクが入っていた。中身を再生してみると何やら密着取材のような映像で、スタイル抜群で整った顔立ちの美女がなぜか色褪せた短パンとタンクトップというおっさん染みた恰好でインタビューを受けている……という内容だった。『昨晩この女を撮影した』『ホームレスだから撮影後は公園で寝て、朝起きたら本当に撮影した女の身体になっていた』……カメラマン兼インタビュアーの質問に男っぽい口調で答えるホームレスの恰好の美女。終始タンクトップの上からおっぱいを揉みしだき、ニヤニヤと笑っている姿は確かにさながらおっさんのようにしか見えなかった。

 女が高い金を貰って演技でもしてるんだろう……と最初は思っていたが、あまりにも演技が上手すぎるというか……とにかくどう見てもおっさんなのだ。時折鼻くそをほじったり、おっぱい揉んだり、ケツをポリポリ掻いたり……揚句には自然な放屁音まで出す様は演技というより自然な動作のようにしか見えなかった。

 そしてインタビューの最後、映像内に見える公園の時計が間もなく12時を指そうという頃。「いやぁ、風俗なんて金なくていけねえからさぁ、今日は最高だったぜ。最後にもういっちょ揉んどくわ!」と、そう言いながらおっぱいを揉んでニヤけた表情を浮かべる美女の映像が流れた直後――

『あっ! わ、私がいる……なんで……あなた一体誰なの!?』

 唐突に映像から聞こえてきたのはガラガラなダミ声……しかもなぜか気持ち悪いオカマ口調。そんな謎めいたガヤが音として入ってきたかと思いきや、その瞬間に暗転。そこで映像は終わっていた。

 あの最後の気持ち悪い音声についてはよくわからないが……ともあれ肝心なのはあのおっさん染みた美女だ。“どうせ演技の上手い人間を使った悪戯だ”、“これがもし本物なら身体が変化する瞬間の映像とか流すはずだろう”、“どうせ偽物だ”……そう頭では思っていても、僕は彼女のあまりにも自然体なおっさん臭い姿に一筋の可能性を感じずにはいられなかった。

 もしかしたら……本当に撮影対象に変身できるのかもしれない。つまりは美春ちゃんに……三次元ヴェルダ様になれるかもしれないのだ。まあ効果がなければ処分すればいいだけの話だし。

「そうと決まれば……」

 僕はいつも彼女のことを盗撮している時と同じように、カメラの照準を前を歩く美春ちゃんに合わせる。そして物陰から一枚――

パシャッ
「……?」

 一瞬だけフワっとした感覚がよぎったような……そんな気がしたが、特に何も身体に変化はない。カメラの効果が本当だとしても変化するのは撮影の翌朝……一晩明けてからって書いてあったし当然か。半信半疑、というより正直疑いの方がはるかに大きい気持ちを抱えながら、僕は撮影した美春ちゃんに背を向け帰路に着いた。

「それにしても本当にあんな美人でスタイル抜群の美春ちゃんの身体になっちゃったら……ふひひっ」

 帰ってきた自室の中で淫らな妄想を膨らませる。本当に彼女になれた時のために事前にヴェルダ様の衣装が置いてあるコスプレスタジオの予約は済んでいるし準備だけは万端だ。

 それに何より……今まで40年以上生きてきて一度も彼女ができたこともない僕が……女とスキンシップを取ることすら皆無の僕が、女体に触れるどころか“そのもの”になれるかもしれないんだ。本当に朝起きて美春ちゃんになっていたら何しよう……とりあえずおっぱい揉むかなぁ……あとは……えっとぉ……

「……あれぇ? なんだかすごく眠い……いつもは深夜アニメ見てから寝るのに……ふわぁ~」

 今までに感じたことのない眠気……だめだ、眠すぎるし瞼が重い。まだ外から帰ってきて着替えてすらもいないけど……もう限界だ。

 明日本当に美春ちゃんになっていることを願って……僕はソッと目を閉じた。





~~~~~~~~~~

 その夜――

 青と赤の襟付きチェックシャツ、タイトなチノパン……アキバに出向いた恰好のまま、すっかり寝落ちしてしまった卓夫。六畳のワンルームの中で大の字になりながら、だらしなくいびきをかいて寝る最中、時計の針が夜の未明……12時を指す。

 すると――

「ぐがぁ~……んぅ……」

 いびきと寝息に合わせて規則正しく上下動していた胸元が突然ムクムクと不自然に揺れ動き、着ているチェックシャツを少しずつ押し上げ始める。みるみる内にソレはどう見ても男の物ではなく女の、しかも幾分豊満な膨らみを帯びていき、やがて変化に耐えきれなくなったシャツの胸元のボタンがブチっと弾け飛んでしまう。中に着ていたアニメTシャツのキャラ……彼の愛するヴェルダ様がチラりと顔を覗かせる状況になっても胸の膨らみは止まらず、あっという間にチェックシャツと下のTシャツがあまりに窮屈に見えるほどの豊満な2つの双丘が形成される。

「むにゃむにゃ……うへへ……ヴェルダ様のおっぱいだぁ~……」

 卓夫は寝言を口にしながら、突如形成された大きな膨らみを鷲掴む。

「とっても柔らかくてきもちいよぉ~……ヴェルダさまぁ~……」

 モミモミと指先でじっくりと確かめるように揉みしだく。夢の中で愛しのアニメキャラの巨乳を堪能しているつもりが、まさか現実で自らに出来上がった巨乳を揉んでいようとは知る由もない。おまけに、胸を鷲掴みにしていた指先もググッと伸びていき、かつほっそりとした色白の物へと変化していく。

 さらにはオタクスタイルに身を包んだ彼の全身にも変化が生じ始める。

 チノパンに包まれた脚がググッと伸びると共に丈が足りなくなり、足首の一部……それも本来の彼の濃い肌色ではなく、透き通った色白の足首がチラッと姿を見せる。さらには尻周りがムクムクと膨らんでいき、ソレを覆うチノパンが異様に窮屈でパツパツな様へと変化し、シュッと引き締まっていく腹回りと相まって極上のくびれを作り出す。そして股間部分……夢の中で巨乳を揉んでいるためかすっかり勃ち上がっていたチノパンのテントがみるみる内に萎んでいき、のっぺりとした外観へと変化する。

 こうして首から下はすっかり作り替わってしまった中……ついにはその顔にも変化が現れる。丸みを帯びた顔はシュッと引き締まって小さくなり、だらしなく涎を垂らす口元はぷっくりと艶やかな唇へと変貌する。鼻先も高くなり、瞑っている目元の睫毛は伸びて、眉毛も無造作な物から整えられた物と変わっていく。

 そしてスポーツ刈りだった髪がスーッと伸びていくと共に、その色がダークブラウンの色彩を帯びる。

 ここまでたったの一分足らず……そのわずかな間に彼の全身は“女の身体”へと完全に作り替わってしまった。スタイル抜群の美女の寝姿……しかし、その身体を包み込むオタク染みた服装、おっぱいを揉んで寝言を呟きながらニヤけた表情を浮かべる美人顔……美しい外見とはまるで不釣り合いな下品でだらしない寝姿がそこには広がっていた。

「おっぱいさいこぉ~……んぉ? ……んぅっ」

 すると、それまで胸を揉み続けていた卓夫は寝苦しそうに顔を歪め始める。膨らんだ胸元や尻周り、伸びた脚によって上下の服のサイズが合わなくなったためか無理もなかった。

 まさか自分の身体がスタイル抜群の女体に作り替わっているとは露知らず、彼の夜は更けていく――

~~~~~~~~~~





「んぅ……」

 カーテンの隙間から差しこむ日の光が眩しい。もう朝か……

「ふわぁ~……」

 起き上がって大きく伸びをする。なんだか凄く良い夢を見たような……大好きなヴェルダ様が目の前にいて、しかもなぜかおっぱいを揉ませてくれて……柔らかくてフニフニしていて……今でも夢の中での事なのに手に感触が残っているような……とにかく最高の夢だった気がする。二度寝してもう一回見たい気もするけど……まあ目も覚めちゃったし起きるか。

 ゆっくり立ち上がると、プルンっと胸の辺りで何かが揺れた感覚を覚える。なんだ今の……というか何だか尻とか胸の辺りが凄く窮屈なような……そういえば外着のまま寝ちゃったんだっけ? それにしてもほんと胸が窮屈というか凄く重たいというか、一体どういうこと――

「……………………え?」

 下を向くと見えたのは僕が昨日着ていたチェックシャツとTシャツ……ソレをこれでもかと押し上げる大きな2つの膨らみ。どう見てもソレは僕の身体そのものに付いてるような……しかも膨らみが大きすぎて足元がまるで見えない。おまけに膨らんだシャツの胸元に沿うように垂れてるのって――

「これ……僕の髪?」

 おかしい……僕は短髪だ。こんなふうに髪が胸にかかるほど長いはずがない。それに色もなんだか茶色っぽいし……というか“膨らんだ胸元に茶色い長髪が乗っている”という事実が何もかもおかしい。おまけにさっきから声も異様に高いし、これじゃまるで――

 それまで寝ぼけていた思考があっという間に覚醒していく。

「か、鏡は……」

 慌てて洗面所へと急ぐ。尻周りがあまりに窮屈で歩く度にチノパンというか中のトランクスが擦れて落ち着かない。何より異様に膨らんだ胸元のソレは服の中で暴れ馬のようにユサユサ揺れてバランスがとりづらい。足元を見ようにも膨らみが邪魔でまるで見えないし……というか、やっぱりTシャツの隙間から見えるコレ……この深い谷間ってどうみても僕には無いはずの“あれ”なんじゃ……あれこれ考えている内に何とか洗面所へと辿り着く。

 見つめた視線の先、洗面所の鏡に映るのは毎日見ている髭面でシワも多い四十過ぎの僕の顔ではなかった。そこには……驚きの表情を浮かべた茶髪ロングの美女の姿が――

「ぼ、僕が女に……しかもこの顔……美春ちゃんになってる!? い、一体何がどうなって………………あっ」

 そうだ……思い出した。昨日あの“変なカメラ”で美春ちゃんのことを撮影して……それで家に帰って、あまりに眠くなってきて外着のまま寝ちゃって……

「それで朝起きたらこれって……う、嘘でしょ……?」

 でもたった今僕の発した声は紛れもなく美春ちゃんの透き通った綺麗な声だ。それに何より昨日僕が寝たときそのままの恰好……上はチェックシャツに下はチノパン。おっぱいのせいでボタンが少し外れてるし、チノパンの尻周りがやたら膨らんでるが……こんなオタク染みた男の恰好を本物のオシャレな美春ちゃんがするはずもない。

 まさかカメラの効果が本当だったなんて……もちろん期待していなかったと言えば嘘になるけど、でも……僕が美春ちゃんの身体になれるなんて。やばい、興奮が抑えられないし息が苦しいし、何より胸の鼓動が止まらなくて――

「うわぁ!? ……って、これ……美春ちゃんの……おっ、おっ……」

 さっきまではカメラのこともすっかり忘れてたし、違和感の方が大きかった膨らみだけど……でもそれが女の子の……しかも僕がずっとオカズにしてきた美春ちゃんのおっぱいだとわかった今、ソレは僕にとって極上の獲物にしか見えない。

「も、もっと……触っていいんだよね? 今は僕の身体なんだから……」

 試しに膨らみを指の先で押してみると沈み込むようなムニュっとした柔らかさ……生まれて四十数年間、女と縁がなく、特に風俗通いもしていない僕にとっては未知の感覚だ。

「やっわらかいなぁ……うへへぇ」

 今度は指の先で鷲掴み、手の平で感触を確かめる。服を隔ててもよくわかる柔らかな心地よさとハリのある感触。すごい……美春ちゃんのおっぱいが僕の手の中にあるんだ。マシュマロみたいで凄く気持ち良くて……それに揉んでると何だかおっぱいから全身に快楽が流れ込んでくるような。これってもしかして……おっぱいを“揉まれている”感触なのか? 揉んだことも揉まれたこともないのに一度に両方を味わえる日が来るなんて……なんだか身体中が熱くなってきた。

「んはぁっ♡ やばっ、変な声出ちゃったよ。でも美春ちゃんの身体……すっごいきもちぃっ……もっと、もっとぉ……んっ♡」

 おっぱいだけじゃなくて、もっと美春ちゃんの身体中を弄りたい。溢れる欲情のままに今度は後ろを振り向き、キュッと引き締まったお尻を鷲掴む。チノパンをぱつんぱつんに膨らませているが、その触り心地は張りがありつつも柔らかくて……そして美春ちゃんの小さな手には収まり切らない豊満な桃尻だ。手の平から五指の先まで心地よさが伝わってくると共に、女の子のお尻を好き勝手お触りしている事実に何だか興奮を覚える。

「これじゃまるで女の子に痴漢してるみたいだもんねぇ。うひひっ」

 思わず涎が零れるのを手で拭う。鏡には鼻の下を伸ばしてだらしない表情を浮かべる美春ちゃんが映っている。いつもシュッとした落ち着いた表情をしていることも多い彼女がこんな下品な笑みを浮かべているのはどこか新鮮で、だからこそ紛れもなく僕が美春ちゃんの顔に、身体に、声になってる事実を再認識する。今まで女と縁のなかった僕がこんな美人で巨乳の女になっているんだ。こんなの……他のどんなモテる男共より遙かに凄い体験をしてるじゃないか。

 そう思うと益々興奮してきて、段々と股間の辺りに湿った感触を覚え始める。これだけ興奮していれば、間違いなくテントを張っているはずの股間部分はいまだにのっぺりとしたまま。その代わりに生暖かい疼くような感覚を覚える。これがもしや“濡れる”って感触……そして何もついてないここには女の子特有の恥丘があるのか。童貞の僕にとっては未知の世界で……エロゲでしか見たことのない禁断の場所。だからこそこの目で確かめたい……チノパンのファスナーを下ろして……この中に……手を入れて――

リリリリッ
「うぉっ!?」

 突然、部屋の方から鳴り響く目覚まし時計の音。一旦秘所に伸ばしかけていた手を止めて、目覚ましの元へと急ぐ。針は朝の8時を示しているが……なんで休日なのにこんな時間に目覚ましかけてたんだっけ? 何か大事なことを忘れているような――

「あっ、そうだ……ヴェルダ様のコスプレ!!」

 美春ちゃんの身体に初めて触れて、感じて……女体の神秘に夢中ですっかり頭から消えていた。そもそも僕が彼女の身体に変身した本来の目的はヴェルダ様のコスプレをすることじゃないか! スタジオの予約も済ませてるし早く行かなきゃ……本当はもっとこの身体を隅々まで弄り回したいけど。でも――

「何せヴェルダ様のコスプレをして……三次元ヴェルダ様をこの目に焼き付けて……写真もいっぱい撮ってもらって……一生のオカズを保存しまくるのが僕の一番の目的だし! こればっかりは第一優先だもんなぁ」

 この声もヴェルダ様に似た綺麗な声だし、何なら写真だけじゃなくて動画を撮ってもいいかもしれない。彼女のコス姿で“あなたにご奉仕するわ~”とか言ってみたり……やばい、そんな姿をこれから毎日オカズとして見られるって思うと勃起してくる……って今は無いのか。

 まあそうと決まれば早く外出の準備をしなければ……ということで慌てて洗面所に戻り、まずは顔を乱雑に洗い流す。いつもなら感じる髭剃り跡のジョリっとした感覚も年相応の荒れた肌の質感もない柔らかでスベスベとした肌触り……凄く新鮮な気分だ。それに洗い終わって鏡に視線を向ければ今の自分の……美春ちゃんの水に濡れて色っぽい美人顔が映る。

「そういえば今更だけど……これって所謂“すっぴん”ってやつだよね? まあ別に化粧しなくても美春ちゃんは綺麗だし問題は無さそうだけど……」

 そもそも化粧の仕方なんてわかるはずもないし道具もない。コスプレの時になったらスタジオでヴェルダ様メイクしてもらえるようオプションも付けたし問題ないだろう。あと他には……髪もまあセットしてもらえるだろうし、このまま下ろしたまま適当でいっか。

 あと問題なのは――

「服……だよね?」

 当然ながら女物の服なんて持ってない。いや、美春ちゃんの身体になったらヴェルダ様コスプレをする以外のことが全く頭に無かったからすっかり忘れていたというか……こんなことなら買っておけば良かったが、今さら後悔しても仕方ない。

「時間もないしなぁ。いっそこのまま行っちゃうか!」

 今の僕は昨日の外着のまま……上はチェックシャツに下はタイトなチノパン。どうせ似たような服しか持ってないし、選択の余地は無さそうだ。

 ただチェックシャツが……胸の辺りのボタンが二つほど無くなってるというか。きっとおっぱいが膨らんだ時に弾け飛んだに違いない。おっぱいが膨らんでボタンが飛ぶ……まるでアニメみたいというか……どうせならその瞬間を生で見たかった気もする。

 ともあれ、さすがにボタンが外れたシャツをそのまま着ていくのは憚られるし、何より現在進行形でおっぱいが窮屈過ぎる苦しさから少しでも解放されたい気持ちもあり、ひとまず上のチェックシャツは脱ぐことに決める。残っていたボタンを外すとバルンッとTシャツに包まれた豊満な双丘が勢いよく姿を現す。そしてそのお山に描かれているのはボンテージ衣装のヴェルダ様だ。今日もほんとに凄く美しい姿……のはずだったんだけど。

「あらら……ヴェルダ様が少しおデブちゃんになってるじゃないか」

 大きなおっぱいを何とか包み込むパツンパツンに膨れたTシャツと共に、そこに描かれたヴェルダ様は少し横に伸びてしまっている。あともう一つ気になるのは……ぽっこりと出来た2つの突起だ。ちょうどヴェルダ様の透き通った白肌の部分と重なっているから突起がかなり目立っている。しかも少し動く度に擦れるし痛いし、このまま外を歩くと血が出るかもしれない。でもブラジャーなんてもちろん持ってないし……とりあえず絆創膏でも貼っておくしかないか。

 僕は適当に棚から絆創膏を取り出すとTシャツの裾から手を入れて両乳首にペタペタと貼り付けていく。

「んぅっ……」

 なんだか乳首に触れた瞬間にピリッとした感覚が全身に流れ込んだが……今、この興奮に浸り始めると本当にコスプレに遅刻してしまう。僕の目的はあくまで一生のオカズとしてヴェルダ様コスの撮影をすることなんだ!

 改めて一通り外出の準備が整った自分の姿を目の前の鏡と、自らの目で見やる。まずは下の茶色のチノパン……僕と美春ちゃんで身長にそこまで大きな違いはないはずだけど、脚に関しては彼女の方が少し長いためか七分丈みたいになっており色白の足首がチラりと見えてしまっている。おまけにタイトなサイズのためか、美春ちゃんの大きなお尻の膨らみで尻周りがパツンパツンになっており、どうにも窮屈な感じだ。

 そして上はヴェルダ様のフルグラTシャツをチノパンに裾インした恰好。とりあえず乳首のでっぱりは何とかなった……はずだ。髪はストレートに下ろしただけ、化粧も何もしてないが……まあこれでも美春ちゃんは十分美人だし問題ないだろう。ただ美人過ぎるせいで、こんな“Theオタク”みたいな恰好にかなり違和感を覚えるが。

「それじゃあ行くとしますかぁ。本人と鉢合わせたりしなきゃいいけど……」

 そういえば撮影された側の美春ちゃんに何か起こったりは……してないか。別に説明書には何も記載がなかったし。きっと僕が彼女に変身してるだけで、彼女には何の影響もないんだろう。だからこそ本人との鉢合わせだけはしないように心の中で願いながら、僕は街へと繰り出した。

「さて……外に出たはいいけど、ほんとおっぱいが凄く揺れるなぁ。見てる分には最高だけど、実際になってみると結構大変だ、こりゃ……」

 Tシャツの首回りを引っ張れば視界に広がるのは揺れるおっぱい。ただでさえ女の身体は男の時とは全くバランスが違うのに、ここまでおっぱいの主張が激しいと足元すら見えないし結構重たいし……何より歩く度にバルンバルンに揺れては生き物のように動くから正直煩わしい。だけどまぁ……Tシャツの中で暴れ回るおっぱいを眺めることができる……こんな極上の視点は中々堪能できるものじゃないしなぁ。

「うひひっ、こいつは良い眺めだよねぇ……って、んぉっと!」

 ついおっぱいに夢中で転びそうになる。その拍子にポロンッと零れ落ちそうなほどに揺れるおっぱいにまた興奮し、いつまでも眺めていたい気分に駆られるがひとまず視線を前へと戻す。

 それにしても歩いているだけなのにやたらと注目を浴びているような……よく見ると主に女からは変な奴を見るような感じというか普段僕自身が向けられてるのと似たような視線というか……おそらくは美女なのにキモオタみたいな恰好をしてるから変人だと思われてるのかな? まあこんな綺麗な女が街中をヴェルダ様のフルグラTシャツで歩いてるなんて普通ないか。

 一方の男共の視線は……もちろん訝しげな視線も見受けられるが、どうにもそれだけじゃないような……少し頬を赤く染める彼らの視線は心なしか僕の尻やらおっぱいの辺りに集中してる気がする。

「やべえ、あの変な恰好した女の子、メッチャおっぱいでかくね?」
「だよなぁ。しかも超揺れてるし……あと尻もパツパツでまじエロいわ」

 そんなセクハラ染みた会話が通り過ぎざまに聞こえてくる。すごいなぁ、美春ちゃんの身体は……歩くだけでこんなに注目されちゃうのか。まあ僕でもこんな女の子がいたら当然のように視姦しちゃうだろうけど……そんなことを思っていると、また一人僕のことをジロジロと見てくる人が……って、あれ? 女?

「おぉ、エッロい身体してんねぇ。まあ俺も負けてねえけど……うひひっ」

 ボソッと男っぽい口調で呟きながらすれ違った女性……凄く美人なのにあまりにだらしない笑い方だし、歩き方も何だか女っぽくないというか……それに僕を見ている間ずっと自分のおっぱい揉んでたし。何だかまるで男みたいだったなぁ……でも、あの人どこかで見たような……って、あれ? 

 確かあの……カメラのサンプル映像の……ホームレスが変身した女性にそっくりのような。容姿も男っぽい仕草もあの映像のままというか……まあでもカメラの効果はその日の正午までのはずだし気のせいか。

「それよりせっかくだから僕もおっぱい揉みながら歩いてみようかな♪ うひひっ、いい揉み心地ですなぁ」

 Tシャツ越しのノーブラおっぱいを堪能しながらもコスプレスタジオに向かって歩き続ける。相変わらず視線を向けてくる男共には時折ウィンクもしながらすっかり気持ちも舞い上がっていた……のだが。

「あれ? 美春先輩?」
「ん……?」

 何やら歩く先に僕を見ている女がいる。“美春先輩”って……確かにそう言ったよね? えっと、あの子は確か――

「やっぱり美春先輩だ! おはようございま~す!」
「え? あ、あぁ、えっと……お、おはよう。その……ゆ、由紀……ちゃん?」

 由紀ちゃん……皆本由紀(みなもとゆき)。確か美春ちゃんと同じ大学の後輩でかつモデル仲間だ。偶に彼女が美春ちゃんと一緒にいて会話するのを盗み聞きしてたから何となく知ってたのが助かった。

 背は美春ちゃんより少しだけ小さめで顔は美人系というよりは可愛い系というか……まあ美春ちゃん同様、僕の人生で到底縁のなさそうな美女だ。それにしてもこの子……童顔なのにおっぱいでかいなぁ。モデルって華奢なイメージだけど、こんなに巨乳な子もいるのか……ってまあ美春ちゃんも……というか今の僕も似たようなもんか。

「いいおっぱい……ふひひっ」
「……先輩? どうしたんですか? 私の胸元に何か付いてます?」
「え? あ、い、いやぁ、なんでもないよぉ。えへへ……」

 しかしまさか知り合いに会っちゃうとはなぁ……少し困ったことになった。適当に誤魔化さないと……

「それにしてもびっくりしちゃいましたよ~。えっと、その……いつもと違う恰好してるので、一瞬人違いかな~って思っちゃいまして」
「え? あぁ、えっと僕……わ、私もたまにはこういう恰好もいいかな~って思って……」
「へぇ~……ちなみに、その変な……ど、独特なTシャツに描かれてる人はなんていう名前なんですか?」
「あ~これはヴェルダ様っていう僕の大好きなキャラで……じゃなくって! えっと、その、アニメのキャラというか……わ、私も、その……あまり知らないけどなんとなく買っちゃった的な? あははっ」
「……?」

 訝しげな様子でTシャツに描かれたヴェルダ様と僕の顔を交互に見つめる由紀ちゃん。まあいつもは清楚でオシャレな美春ちゃんがこんな恰好してたら驚くか……先輩だから遠慮してるのかもしれないが、その顔には明らかに“ダサい”と言いたげな渋い表情が浮かんでいる。このままじゃまずい……すぐにボロが出そうだし、これ以上怪しまれると面倒だ。早めにズラかるとしよう。

「あ、えっと……わ、私、用事があるからこの辺で……」
「……用事? あぁ、そうですよね。これから生放送ですもんね!」
「……はい?」

 生放送? なんだそれ?

「えっと……何それ?」
「え? 先輩ったら何言ってるんですか? 今日は大学生モデルを数人集めたネット生放送番組のお仕事ですよね……?」
「……はぇ?」
「も~何を惚けてるんですか? それこそさっき先輩こんなメールくれたじゃないですか!」

 そう言ってスマホのメッセージを見せてくれる由紀ちゃん。そこには――

『深刻な風邪を引いたから今日の生放送行けなくなりました。先方には既に伝えてるから今日は一人で頑張って……ごめんなさい』

 そんな絵文字も何もない簡素なメッセージ、その送付主は……新山美春。つまりは僕じゃなくて本人からのメッセージのようだ。昨日はそんな体調悪そうには見えなかったけど……今朝になって急に体調を崩したのかな?

「いつもモデルの仕事に真面目な先輩が急にこんなこと言うからどんだけ体調悪いんだろうって心配してたんですけど……まさかこんなとこで会うなんて思いませんでしたよ~。体調大丈夫なんですか?」
「あ、あはは……いやぁ……その……少し眠ったら良くなったというか……」

 もう上手い誤魔化し方も見つからない。くそ……そういえば美春ちゃん昨日放送がどうとか電話で言ってたな。もっとちゃんと聞いておくべきだったかもしれない。

「へ~体調良くなったってことは……生放送来るってことですよね!?」
「え? あ、いや、それは……」

 あれ……この流れはまずいぞ。

「いや~、良かったですよ~! 今日は他のモデルさんとあんまり話したことないし一人だと不安だなって思ってまして~……えへへ。それじゃあ早く行きましょ!」
「え、あ、ちょ……僕はその……」
「も~さっきからちょいちょい出る“僕”ってなんですか~? そのオタクっぽいTシャツもそうですけどイメチェンですか~? ふふっ」

 僕の話も聞いてもらえず、腕を組まれながら引っ張られていく。

 どうしよう……読者モデル勢揃いの生放送なんて僕にはできっこないぞ。というか、これじゃあヴェルダ様コスプレできなくなっちゃうじゃないか! 正午までしかこの身体でいられないのに……せっかくスタジオ予約して、一生のオカズを撮影しようと思ったのに思わぬ誤算だ。何とかこの場を逃げ去りたいが、そのためには由紀ちゃんの腕組みから逃れないといけないし……あ、今何だか柔らかい感触がムニュって……って、あれ? これってもしや――

「これが……当たってるってやつか……?」
「……? 先輩?」

 ラブコメアニメで幾度となく行われるシーン、少し積極的な女の子が腕組みと一緒に豊満な乳肉を押し付けるアレ……それを僕は体感しているのか。由紀ちゃんの大きなおっぱいが僕の腕に……なんて柔らかくて心地よいんだ。それになんだか距離が近いから凄く良い匂いするし……まるでアニメの主人公になった気分だ。

「ふひひっ、これは良いぞぉ……」
「えっと……どうかしました?」
「え、な、なんでもないよ。えへ、えへへっ」
「……?」

 腕にはムニュりと当たるおっぱいの感触、さらには僕自身も歩く度におっぱいが揺れる感覚。腕におっぱい、目下にもおっぱい……何だか興奮で頭がおかしくなってきた。もうとりあえずコスプレとか置いといて……今はとにかく僕の人生で全く縁の無かったリアル女のおっぱいに浸り続けたい。

 僕は周りから訝しげに見られながらも、いつまでも頬のニヤけを抑えることができなかった。







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