あなたの身体、コピーさせてもらうわね。 作:こめライス すっかり街路樹も紅葉を始めた11月。 ここ、西京音楽大学にある有名なもみじ並木も真っ赤に染まり、地面も落ち葉で埋め尽くさんとする、通称「もみじカーペット」が出来上がっていた。 「今年もとっても綺麗にカーペットができたわね!」 「うんうん、やっぱりこのもみじ並木は西京の名物だよね!」 そんな美しい風景の中を、私、中山 奏(なかやま かなで)と赤沢 美奈(あかさわ みな)の2人が下校していた。 2人はともに音大のフルート学科に所属する1年生。 狭き門である激しい受験戦争を勝ち抜き、見事フルート学科の入学を勝ち取ったのがこの2人だったのだ。 当然2人しかいないゆえにすぐに意気投合。 お互いにカナ、ミナと呼び合う仲にまでなった。 「ところでミナ、今日の楽典の授業分かった?」 「ううん、さっぱり。あの教授すっごく細かいところまで教えてくるから分かんない。」 「だよね〜。折角だし聞きに行こうかしら。」 「ダメよ〜カナ、あの先生すごくカタブツで有名なんだよ?絶対に教えてくれないって…。」 誰しもが感じる大学生の悩み、「授業が分からない」は私たち2人にも当てはまっている。 音楽をやる上でも重要な楽典の授業で苦戦しているのだ。 「他の学科の子にも聞いてみたりしない?分かる子がいるかもしれないわ。」 「まあ、ダメ元で聞いてみるのもいいかもね。でも今日が木曜だからいいのよ?これが月曜だったらイヤになっちゃう。」 「ほんとよね〜……。あ、ミナは向こうのマンションよね。それじゃあ、また明日!」 「カナ、また明日?!」 校門をくぐり、数分で私と美奈は別れた。いくら仲が良くても、下宿のマンションまでは同じではなかったのよね。 すると、ご機嫌な私は鼻歌を歌い始めた。 最近練習を始めた曲。穏やかな旋律が、鼻歌によってさらに美しく聞こえる。 「ん〜♪ふふ〜ん♪ふふふ〜ん♪……ふふっ…ミナったら、いつになったら気付くのかしら。」 何やらただ機嫌が良いだけではないようだ。 そのまま私は自宅のあるマンションに着き、エレベーターに乗り込む。 住んでいるのは6階だ。 「そういえば…アレがあったのは先週だっけ。もう1週間になるんだ…。」 何やらぶつぶつと呟いていたが6階に着き、そのまま自宅のドアを開ける。 誰もいないはずだが、部屋の奥の方から何やらかすかにうめき声のようなものが聞こえてくる。 「ふ〜う、ただいま〜。さてと、『偽物』の奏ちゃん、いい子にしてたかしら?」 「むんんん!!!ふむむんんん、むむむんむふふふんんんん!!!!!!」 「いくらもがいても無駄よ。この部屋は楽器の練習もできるように完全防音になってるでしょ?あなたがいくらもがいても、外に声は聞こえないの。」 なんとそこにいたのは、全裸で、かつ全身をキツくロープで縛られている奏の姿があった。 おまけに声が漏れないようにご丁寧に猿轡を噛まされており、何を言っているのかも分からない。 「ミナったらまだ私のこと偽物って気付かないみたいよ?まあ、それだけ私の変身が完璧すぎるのかもね?うふふっ」 「むむん!!むふふんんん!!!!」 「あら、どうしたの?私の服?何を言ってるのかしら。私は中山奏なのだから、中山奏が持っている服を着るのは普通のことでしょ?」 "全裸でない"ほうの奏は、白のブラウスにピンクのセーターと赤のダッフルコート、ベージュのミニスカートに黒のストッキングを履いている。 いかにも普通の大学生らしい格好だ。 「そういえば、この服って1週間前と同じ服装だったかしら?でも、今は私が本物だと思われているの。だから、本物である私がこの服を着るべきなの。」 「………。」 「それにしても、あなた本当にスタイルいいわよね。出るとこ出てておっぱいは柔らかいし。私も全く同じ姿なのに、嫉妬しちゃう。ん、んふっ…んっ……。」 奏が奏を諭している。 片方は全く動くことすらできず、もう片方は片手を胸に当てて揉みしだきながら喋っている。 猿轡をされた奏はもがくことをやめ、目に涙を浮かべて話を聞いている。 「(どうして、こんなことに……。)」 それは1週間前にさかのぼる。 「それじゃあミナ、また明日!」 「うん、カナ、また明日ね!」 いつものように奏と美奈の2人は別れを告げ、そしていつものように自宅のマンションに戻る。 エレベーターに乗って6階のボタンを押し、扉を閉めようとすると、息を切らして走ってくる人の声が聞こえてきた。 「はぁ、はぁ、はぁ……。ああすみません、待たせてしまいまして。」 「いえいえ、何階ですか?」 「ああ、ええと……6階です。」 「あら、同じですね。わかりました。」 エレベーターに乗り込んできたのは、帽子を深くかぶった作業員のような人だった。 片手には工具箱を持っていることから、やはり何かの作業をするためにやってきたとみて間違いなさそうだ。 そうして奏と作業員の2人を乗せたエレベーターは6階へと向かう。 「そういえば、何故6階に?」 「ああ、少し、点検と修理を、頼まれまして。はぁ、はぁ……まあ、大したことではないんですが。」 「あら、そうなんですね。ありがとうございます。」 やはり、何かの作業をしに来た人のようだ。 2人揃って6階で降りる。 奏はそのまま自宅へと向かったが、少しだけ離れて作業員もついてくる。 「(こっちの方で作業をするのかしら…)」 少し疑問に思いながら自宅の扉を開けた瞬間、首筋に鋭い衝撃が走った。 バチバチバチィッッ!! 「うっ!!!………………」 「…ふう。さて、お邪魔するか。」 なんと、作業員が奏の首筋にスタンガンで電流を浴びせたのである。 首はもとより全身に電流が伝わりやすい。 あっという間に奏はダウンしてしまった。 「はは…。いいにおい、そして可愛い部屋、可愛い子。今回は幸運だったな。さてと、服を頂戴するよ。」 作業員は自分の作業着を脱ぎ素っ裸になると、気絶している奏の服を剥ぎ取り始めた。 当然中に着ている下着まで、一つ残らず奪う。 「起きて騒がれる前にさっさと縛るか。」 そう言うと、作業員の男は道具箱から麻縄を取り出した。 まずは足を曲げさせ足首を縛る。 キツく縛りすぎると失血するし、ゆるく縛るとすぐに抜けられてしまう。 ほどほどに、しかし自由を奪っていく。 次に腕を背中に回し、腕を組ませてさらに手首を縛る。 ここまで1分とかからない。手慣れた手つきだ。 手首と足首をまとめて一つに縛り上げると、まるで海老のように身体を反らせた状態の奏ができあがった。 オマケに亀甲縛りで完全に自由を奪ってしまおう。 グルグルと素早い手つきで縛り上げると、完全に奏は動くことができなくなった。 無理な体勢をとらせたからか、痛みで奏は目を覚ましてしまった。 「んんっ……。え、ええっ!?ちょっとあなた、何してるのよ!!」 「おー怖い怖い。きつい性格してるねえ。まあ、その姿では何一つ抵抗できないだろうがな。」 「このっ!ふん!ふんっ!……、はぁ、これほどきなさいよ!」 「嫌だね。あと、どれだけ騒いでも無駄だよ。このマンションって音大生のために、完全防音になってるんだろ?いくら騒いでも外に声は漏れないぜ。」 それを聞いた瞬間ほど、自分が音大生であることを呪ったことはない。 そしてこの瞬間、奏は悟った。 もう自力では脱出できないのだ、と。 「ははは、ようやく自分の置かれた立場に気付いたか?強がってた表情が一瞬にしてくもったな。」 「……それで、私をどうするつもり?私が明日から学校に行かなければ、ミナも心配して連絡をくれるわ。」 「ほーう。ミナちゃんっていう親友がいるのか。」 「それが何よ。ミナはそのうち部屋にも来るわ。たとえそれで気付かれなくても警察が来る。その時に貴方のことを証言すればおしまいよ?」 「そうか。まあ、普通に考えればそうだよな。けれども、明日以降も中山奏は元気に大学に通うんだよ。その友人のミナって子と楽しくおしゃべりしたり、楽器の指導も受けるんだ。」 「…え?それってどういう意味よ?」 「つまりは……こういうことなんだよなぁ!ハァッ!」 そう言うと、男の身体がゴキゴキと音を立て始めた。 「…えっ、ええっ?あんたの身体どうなってるのよ?」 ガタイのいい身体が徐々にその元気良さを失っていく。しかしそれを快感に感じるのか、男は笑顔で答える。 「これは俺が産まれつき持った能力みたいなもんだ。自分の身体を自由自在に変形させることができるんだぜ。」 「あ……あ………………。」 そう言い残すと、男の身体が少しずつ小さくなってゆく。 作業着を着ているのでよくわからないが、手や足が袖に隠れてしまっているので身体が変化していることは明らかだ。 そして髪が徐々に伸びてゆく。 少し薄めの焦げ茶色をした髪は少し前に染めたばかり。 生え際だけ黒く、次第に焦げ茶色になるのは誰かの髪そっくりだ。 顔つきもいつのまにか変化していた。 濃いヒゲが一切消え、毛穴も全く見当たらない。シルクのようなつやつやの肌になっている。 団子っ鼻だった顔も整えられてゆき、どこかで見た顔だ。 「ふぅ……。どうだい。君そっくりになれたと思うんだけど。」 男は私そっくりの声で喋った。 私は声すら出せない。目の前にいた男が私そっくりに変身したのだから。 「さて、重い作業着を脱ぐか。っとと。うほー、いい身体してんねぇ!」 スルスルっと服を脱いだ男は、自分にできた大きな胸を揉みしだきつつ、全身をベタベタと触っている。 「ち、ちょっと…私の身体で、何をするつもりよ…。」 「決まってるだろう?君の代わりに生活してあげるのさ。俺はもう人生に疲れたんだ。そこで考えた。この能力で女の子として死ぬまで過ごそう、とね。」 「ヘ、ヘンタイ!」 「まあそう言うなよ。今まで何人かに変身してきた。君は5人目くらいかな。」 「え、えっ……?」 「ちなみに前に変身してたのは、オーボエ学科の新居みずきって子だったはずだぜ。彼女の姿で、君と一緒にオーケストラの授業も受けたりしてたの、気づかなかっただろ?あのダッタン人の踊りって曲、俺が吹いてたんだぜ?」 奏は記憶を思い起こす。 たしかに先月、オーケストラの授業が何回かあった。フルートは通常オーボエの隣に座る。 隣で美しいソロを奏でていたあのみずきちゃんの音色に思わずうっとりしてしまったことを思い出した。 まさか、あのみずきちゃんがこの男だったなんて……。 「さあ、ここで問題だ。当然俺は楽器を吹く才能なんてないから、指使い?とかもわからない素人だ。そんな俺が、なぜスラスラと楽器を吹けていたと思う?」 「それは……。」 「それはな…つまり、こういうことさ。」 男は私の身体を起こす。 一体何をするのかと思うと、次の瞬間には唇を奪われていた。 「んん、んちゅ……んん……」 「んんーっ!んん、ん……」 片方は縄で縛られている奏、もう片方の奏が縛られている奏を支えながらキスを交わす。 奏は抵抗しようと必死に首を振るが、首ごと抱きかかえられており、唇を離すことができない。 「んん…ぷはっ!ちょっと、やめなさいよ!」 「うふふ…私は中山奏、19歳。中学生の頃からフルートを始めて、高校は名門の桜川高校に進学。そして西京音大を受験して合格。今は赤沢美奈が一番の友達。趣味はスイーツ巡り、特技はもちろんフルート。最近はトランペット学科の梅岡謙吾のことが好き……。ありがとう、もう1人の私。記憶、いただいたわね。」 「……っっ!!!!」 「もう、いい加減驚くのやめたら?今ここにいるのは中身も外見も中山奏なの。あなたは 私の姿をした偽物。無駄な抵抗はやめなさい。」 それを見た瞬間、私の中で最後の希望が崩れ去った。 まだ外見だけなら、喋り方や癖でバレていたかもしれない。 だが、目の前にいるもう1人の私はそんな私の記憶すらコピーしてしまったのだ。 「うふふ、せっかくだから能力を証明するためにも、フルート、吹いてあげるわね。一昨日から習い始めた練習曲でいいかしら。」 床に落ちているカバンからフルートのケースを取り出し、組み立てる。 記憶によって、一昨日から新しい練習曲を始めたこともモロバレだ。 もう1人の私は左側の髪を耳にかける。 私が演奏をするときにする仕草だ。 「ふふ、それじゃ、いくわよ。」 目の前で裸の私がフルートを吹いている。 細かなフレーズやゆったりとしたフレーズも自由自在に吹きこなす。 低音域のヴィブラートがあまり得意じゃないところもそっくりだ。 途中で音を間違えると軽く目を閉じて首をかしげる仕草も私と同じ。 まるで録画したビデオを見ているかのようだった。 もはやここまでやられると、諦めもつく。 「ふぅ……やっぱり下のD(デー)の音はまだ苦手ね…。」 「く、悔しいけど、私そっくりだわ。」 「うふふ、その通りよね。もう分かったでしょう?とりあえず、気の済むまであなたとして生活させてもらうから。大丈夫、ちゃんと食事はあげるわ。死ぬことはないから、安心してちょうだい。」 「……………。」 そして1週間が経ち、今日というわけだ。 「でね、私、考えたの。実はね、そろそろ中山奏としての生活に飽きちゃったの。だから、もうそろそろ解放してあげてもいいかなって。」 「ふむん!?ふむむ、ふん……」 私は必死に首を縦に振った。 「でもね、最後にあなたにはたっぷりと女としての快感を味わってもらいたいわけ。つまりは、エッチ、しましょうね。」 「むむむむううううんん!!!」 嫌だ、そんなのお断りよ。今度は必死に首を横に振る。 「うふふ、怖がらないの。ちゃんと、解放して、あげるからッ!!」 突如大声をあげた奏は、何やらストッキング越しに自分の股間を触っている。 すると、股間部分が大きく膨らみ始めた。 本来ならつるぺたの股間に、縦に大きな棒が形成される。 「うっ、ふう……元の体のおちん〇ん、生やしてみたわ。これでやりましょうか。」 そこからは早かった。 私は必死に抵抗したが、縛られたままで動けないために、もう1人の私は大きくなったおち〇ちんを秘部に挿入してきた。 変身して以来、もう1人の私は毎晩自慰行為にふけっていたために、どのように突けば1番気持ち良く感じるかを徹底的に知り尽くしていた。 抗えない私は激しく身体をビクビクさせて興奮を感じてしまう。 「んんん……っ。んん、むふふんんんん!」 「ふふ、そんなに気持ちいいの?あなたも好きね。この身体、処女ではないみたいだけど、こんな快感を感じたことは今までないでしょう?」 「むんんんん!!!!むふふふんんん!」 「あら、何を言ってるのかしら、聞こえないわ?うふふっ。」 確かに、私は処女ではない。初体験は高校生の頃に付き合っていた彼氏と済ませてしまった。 だが、目の前のもう1人の私によって、あっという間にイかされてしまった。 汗をかき、体液で濡れ、縛られていた麻縄が湿る。 「ふう……。それじゃあ、気も済んだことだし、私は元の男に戻るとするわ。服もちゃんとお返しするわよ。でも暴れられたくないから、しばらく眠っててちょうだい。」 そう言うと、もう1人の私は小瓶に入った液体をハンカチに染み込ませ、鼻に押し付けてきた。 ツンとくる臭いだ。おそらく麻酔だろう。 地獄のような1週間だった。でも、それもこれで終わる。 遠のく意識の中で、心の中は安堵感に満ち溢れていた。 どれくらい時間が経っただろうか。 目を覚ますと夜中になっていた。 1週間もの間拘束していた縄は綺麗さっぱり無くなっていた。 ゆっくりと身体を起こして机に向かうと、メモ書きが残されていた。 『この1週間、楽しかったわよ。ありがとう。 ついでだから身体を綺麗に洗っておいたし、冷蔵庫には私特製のご飯があるからそれを食べるといいわ。 まあ申し訳ないとは思わないけど、とりあえず生活は丸々返してあげる。 授業はバッチリ出てノートもとってあるし、実技もお褒めの言葉を頂いてるから安心しなさい。 それじゃあね。 中山 奏』 私と全く同じ字で書かれたメモには、あの男の感謝とも気遣いとも取れるような発言が書き残されていた。 冷蔵庫には本当に手作りのご飯が入っていたし、何か怪しいものが混ぜ込まれているようでもない。 ノートはカラフルにとってあるし、実技指導の手帳にもA判定が付いていた。 それから部屋をくまなく探したが、私の服は全て揃っていること、1週間前に男が着ていた作業着と持ち歩いていた道具箱がなくなっていたことから、本当に元の姿に戻ったようだ。 「なんだったのかしら……。忘れたいほど屈辱的だけど、終わってからこんなことされちゃあ何にも言えないじゃない。」 こうして、地獄だった、かつ不思議だった奏での1週間は終わりを告げた。 あれから1ヶ月が過ぎた。12月。 季節はすっかり冬。 先月はもみじで埋め尽くされていた並木道も、うっすらと雪が積もるほどになってきた。 年内の最終授業を終えた学生たちも、三々五々に帰宅してゆく。 「ふーう、終わったぁ〜!ミナ、なんだかんだで1年、早かったわね。」 「そうだね、カナ。この西京に合格してカナと出会えて楽しかった!」 「私もよ、ミナ。あ、そうだ。この後ミナのおうちに行ってもいい?プチクリスマスパーティしない?」 「いいけど、片付けをするからまた後で来てほしいかな〜。あと、来るときに適当にお買い物してきてくれない?お金は少し多めに払うから。」 「いいわよ。それじゃあ20時に行くわね。」 「わかった!」 私と美奈はいつも通りに別れ、帰宅する。 「そういえば、先月のこと……。結局一切誰にも言わなかったけど、話してみようかしら。」 ふと先月の偽物事件を思い出した。 どうせ信じてもらえないだろうと、美奈にすら話すことはなかった。 「まあ…気が向いたら喋ろうかしらね。とりあえず、ジュースとケーキ、あとは適当なおかずでいいかしら。」 奏は自宅を出てスーパーに向かい、買い物を済ませてから美奈のマンションに向かう。 美奈のマンションは、私が住んでいるマンションより出入りのセキュリティが厳しい。 一度中から応答してもらわないと開かないのだ。 「もしもーし、ミナ?私、奏よ。ちょっと早いけど着いちゃった。」 「わかった。今開けるね。」 インターホンの応答が消えると、自動ドアが開いた。 美奈の部屋は4階だ。 「はーい、カナ、ありがとう。おつかれさま。」 「こちらこそ。ちゃんとケーキもあるわよ。」 「お、カナちゃん気が効くね!私の好きなモンブランがある!ありがとう。」 「ミナの好物なんて忘れるわけないわよ。それより寒いわ。早く乾杯しましょう。」 「うん、そうしよっか。」 乾杯といっても、まだ未成年なので炭酸ジュースだ。 「それじゃ、『カンパ〜イ!』」 2人だけの、ささやかでちいさなパーティだが、2人の心はそれで満たされていた。 大学の愚痴、教授の当たり外れなど、大学生らしい会話に終始したが、やはり奏には引っかかるところがあった。 「(やっぱり…話しててみようかしら。)」 「ねえ、ミナ。ちょっといい?」 「ん、どうしたの、カナ。」 「落ち着いて聞いてね。先月の半ばくらいだったかしら。ちょうどものすごく難しい楽典の授業があった日、あるじゃない。」 「あったね〜、もう懐かしく感じちゃうね。」 「その日の夜ね、突然男の人に襲われて、その男の人は私そっくりに変身したの。」 「……えっ?」 「それでそれから1週間くらい、その男は私として生活してたのよ。キスすると私の記憶を貰えるみたいで、まるで外見から中身までそっくりだったの。」 「……信じられない、なにかのおとぎ話?」 「それが、本当なの。信じて。」 「……そう、だったの…。それじゃあいくつか、聞いてもいい?」 「うん、いいわよ。」 「その男が、『今 も ず っ と 赤 沢 美 奈 に 変 身 し て る っ て 、 思 わ な か っ た ?』」 「えっ、それって…ううっっ!!」 美奈は突如私のみぞおちに突きを入れた。 「そ、そんな、美奈……」 「うふふ、これならどう?」 美奈は片手で顔をぐちゃぐちゃと触る。 手を離すと、美奈の顔は奏の顔になっていた。 「あ……あ…………。」 「ほんっと、カナって可愛い。カナを解放した日から、ずーっと1ヶ月くらい赤沢美奈として過ごしてたのに、気付かなかったんだ。やっぱり私の能力って、すごいのね。」 私は痛みに耐えきれず、倒れ込んでしまった。 悶絶しながら気が遠くなる中で、美奈は喋っていた。 「私の身体、カナよりスタイル良くて、おっぱいなんて触るとすぐに感じちゃって可愛いの。」 「でも、改めてカナを見ると、顔はやっぱりカナの方が可愛いかなって。解放するとは言ったけど、もう来ないとは言わなかったしね。だいぶミナの体は堪能したから、もう一度、カナの身体借りるね。」 あぁ、やっぱりこの男、最悪……。 再び衣服を剥ぎ取られ、キスをされ擬態されるんだ。 私は、絶望感に溢れていた。 |