ふゆさん総合




入れ替わった人生
 作:ふゆ


「また、美月の話か・・・」

今日は親戚連中が集まって新年会だ、大人達は酒を飲んで楽しそうだけど僕は退屈だった
退屈だけならまだいいけど、皆は僕と同い年の従妹美月の事ばかり話題にする
美月は頭がよくて東京の一流大学を受験する事になってる、スポーツでも活躍して推薦で大学から誘いがあったそうだ
おまけにきれいで何人もの男子に告白されてる
それに引き換え僕は顔も平凡で頭も良くなく、卒業したら就職する事になっていた
皆も僕らを比べていとこでも全然違うねって言うことが多く
そんな事が続いたせいで二人の間には距離ができていた

退屈になった僕は美月の妹の友里ちゃんに漫画でも見せて貰おうと二階に向かった
階段を登ろうとすると丁度上から美月が降りてくるところだった
僕に気が付いた美月は何も言わずに体を斜めにして僕を先に行かせようとした

「あっ」

その時バランスを崩した美月は足を滑らせ僕に向かって階段を落ちてきた



うーん背中が痛い目を覚ました私は最初にそう思った

私階段を落ちたんだ

「よかった気が付いたのね」

気が付いた私を見た沙奈枝叔母さんが、ほっとした表情で言った

「大丈夫どこか痛いところは無い?」

「はい、大丈夫です」

「そうよかった、あんたはともかく、美月ちゃんが何でもなくて良かった」

叔母さんは笑いながらそう言った

あんた?美月ちゃんは何でもない?叔母さんは何を言ってるんだろう、私がそう思ってると後ろから女の子の声が聞こえた

「叔母さん、和也君は私が見てますからもう戻ってもいいですよ」

「そう悪いわね、じゃあお願いするわ」

叔母さんはそう言って下に降りて行った

「怪我がなくて良かったね美月」

誰だろう私は不審に思って振り返り、そこにいた女の子の姿を見て呆然とした

そこにいたのは私だった

背中まで伸びた長い髪、去年のクリスマス会に着ていく為に散々迷って買ったお気に入りのワンピースを着ている女の子、間違いなく私だ

「貴方誰よ、どうして私にそっくりなの?」

「僕だよ和也だよ」

「何言ってるの貴方、和也君は男よ貴方女の子じゃない」

「まだ分かってないみたいだね」

女の子はそう言って私を姿見の前に立たせると、そこに映っていたのは和也君だった

「ええ!、どうして私が和也君になってるの」

「僕にも分からないよ、階段から落ちて気が付いたこうなっていたんだ」

「どうしたらいいの・・・」

「どうしようもないよ、暫くはお互いのふりをして様子を見るしかないんじゃないかな」

「そんな、もうすぐ受験なのよ貴方に受験は無理でしょ」

「そうでもないよ、僕には美月の記憶が分かるみたいだ、こないだの模試の内容とか今まで勉強した所が分かるよ、その代わりに和也として記憶が曖昧だ」

「私もそうみたい、あんなに勉強した内容が全然思い出せない、でも和也としての記憶はハッキリ分かる」

「ふーん、美月って昌の事が好きだったんだ」

昌君は私たちの幼馴染で子供の頃から仲が良かった、同じ学校に通っていてイケメンでスポーツができるので女子に人気があって
私も気になっていた

「やめてよ!、私の記憶を読むのは」

隠していた気持ちを口に出された私は思わず叫んでしまった

「しょうがないよ、自然に頭に浮かんでくるんだから、こんな状態だしこのままいくしかないんじゃないかな」

「私はいやよ、一生懸命勉強してA判定貰えたから、このまま行けば春から大学生だなって思って、大学行ったらやりたい事が一杯あったのに」

「先生になりたいって言ってたよね」

「そうよ、先生になって悩みの相談にのったり、やりたい事の手助けをしてあげったかったのよ」

「なればいいだろう、大学行って教職課程とればなれるよ、でも僕の頭じゃ無理かな」

「そうよ、貴方には無理よ、貴方になんかなりたくなかった、これからどうしたらいいよ」

「僕だって美月の事が嫌いだよ、皆はいつも美月のことばっかりほめるし、自分は貴方とは違うって目で僕を見ていたよね」

私たちは子供の頃は仲が良く、いつも一緒に遊んでいたけど、成長するにつれ学力やスポーツで私が皆の注目を集めるようになってから、和也君は私を避けるようになっていた

「なによ、そんなの貴方が努力しないのが悪いんじゃない、私も大学を受ける、そうして私が正しいって証明してみせるわ」

「そう大学受けるんだ、頑張ってね」

和也君は言い返すと思ったけど、あっさりそう言って下に降りて行った



美月にはああいったけど、僕は言葉ほどには怒ってはいなかった

むしろ今の状況に喜んでいた

僕はずっと美月になりたかった

美月のように可愛くて皆に好かれる女の子になりたかった

その夢が叶った

僕はそんな事を考えながら下に降りて行った

「美月ちゃん大丈夫だった?」

「はい、大丈夫です、ご心配をおかけしました」

皆僕のことを美月と思っている、僕は嬉しくなりほほ笑みながらそう言った

皆が帰った後、僕は美月の部屋で自分の姿を鏡に映して見ていた

きれいな長い髪目鼻の整った小さな顔やっぱり美月は可愛いな、それにこのワンピース
隣町にあるデパートで買ったこの服は女子に人気のあるブランドで
街で着てる女の子を見るたびにいいなって思っていた
今日ここに来て、美月がこの服を着てるの見て羨ましく思っていたのを
今僕が着てる、そう思ってすごく嬉しくなった


休みが明けて今日から新学期が始まった、今までと違いチェックのミニスカートを履きブラウスにリボンを付けブレザーを着て通う、
スカートから出た足が凄く寒い、今まで女子はこんな寒いのによくあんな短いスカートが履けるなって思っていたけど
今の僕は寒さより、女子の制服を着れる喜びのほうが大きかった

新しい学校は今までの学校とだいぶ雰囲気が違ったけど、同じクラスに幼馴染の昌もいたからすぐなじめた


入れ替わって1か月が経ち女子として生活にするのもすっかり慣れた
今日も授業が終わって女子達ともうすぐ来るバレンタインの話で盛り上がっていると
美月の親友の麻衣が僕に聞いてきた

「ねえ美月、今年はどうするの?」

「え、なにが?」

僕は何のことか分からず聞き返した

「バレンタインデーの時昌君に渡すチョコの話よ」

それを聞いた僕はそうか去年までは貰う立場だったけど、今年からはあげる方になったんだと思った

「そうね、今年で最後だから手作りでもしようかな」

「お、ついに本音をだしたね」

「そんなんじゃないってば」

僕は笑いながら否定したけど、そんな風に思ってくれた方が都合がいいなって思っていた
子供の頃から美月はなんでも欲しいものを手に入れてしまう
それをずっと見ていた僕は妬む気持ちを持っていた
そう思っていた僕は美月の欲しがっていたものをとってしまおうと考えていた

バレンタイン当日、クラスの男子には義理だよと言って買ってきたチョコを渡すと皆喜んでくれて
昌には皆と同じラッピングだけど、中身は僕の手つくりチョコを渡しておいた

夜家に帰って、勉強してると昌からLINEが入ってきた

「チョコありがとう、あれって手作りだよね」

「うん、そうよ」

「ふーん、そうなんだ、それってそういうこと?」

「勘違いしないでよね、今年で渡すのも最後かもしれないから、そうしただけだから」

「そうなんだ・・・」

「そうよ、まだ受験が終わったわけじゃないから、勉強しないとね」

「そ、そうだね、じゃおやすみー」

ふふ、戸惑ってるね、二人とも告白する勇気がないから僕が背中を押してあげないとね

受験はW大の教育学部に合格して春からは女子大生として東京に行くことになった

ホワイトデーの前日昌から用事があるから会わないかと言われた、どんな用かわかっていた僕はすぐにいいよと返事をした
当日どの服を着ていこうか迷って遅刻しそうになって焦ったけど、なんとか間に合って待ち合わせ場所に着くと
昌は先に来て待っていた

「おまたせ、もうだいぶ暖かくなってきたね」

「うん、そうだねもう3月半ばだからね」

僕たちは喫茶店に入って話を始めた

「これ、ホワイトデーのお返し」

そう言って昌がくれたのはハンカチとクッキーだった

「わあ、可愛いハンカチありがとう」

僕はニッコリ笑ってそう言った

その後暫くお喋りしてると、昌がソワソワしはじめた
僕が「どうしたの」と聞くと

「ねえ、美月って好きな人いるの」
と聞いてきた

「え、いないわ」

「じゃあ、東京に行ったら俺と付き合ってくれないか」

僕は上手くいったねこれで昌も僕の物だと思った

「うん、いいよ私もずっと前から昌君の事が気になっていたの」

「そうなんだ、俺もホントは中学の頃からそう思ってたんだけど、ずっと言えなかったんだ」

「私たちもっと前から付き合えばよかったね、東京行ったらよろしくね」

「うん、こちっこそよろしくね」

昌は嬉しそうにそう言った


4月になり僕は大学に通う為東京に行った、入学式には叔母さんも来てくれて僕はスカートスーツを着て出席して女子大生になった
美月は親ともめたみたいだけど、浪人して大学を目指す事になった

大学が休みになり、地元に帰った僕は入学祝のお礼をする為に自分の家に行くとお母さんが出迎えてくれた

「いらしゃい、美月ちゃんきれいなったわね、すっかり都会の女子大生ね」

僕は髪を少し染め軽い感じにして
服装ははシフォン素材のブラウスにリボンのついたベージュのスカートを履き
都会的で清楚な美人になっていた

「そんなことないですよ、これ評判の良いクッキーです召し上がって下さい」

「あら、ありがとう和也美月ちゃんが来たわよ」

お母さんに呼ばれて美月が2階から降りてきた

「久しぶり和也君元気だった」

「久しぶり・・・」

美月はきれいになった僕を見て少し戸惑いながらそう言った

「和也さっき解らない問題があるって言ってたじゃない、美月ちゃんに見てもらったら」

「え、いいよ別に自分で考えるから」

「私はいいよ、人に教えるのも勉強になるから」

「うん、じゃあ頼むよ」

「あ、これはこうすれば簡単よ」

2階の僕の部屋で美月に勉強を教えていると、昌から電話がかかってきた

「あ、昌君、今和也君の家に来てるの、うんそう、きょう何時ごろに着くの?、遅くなるんだ、じゃあ会えるのは明日になるのね、
ふふ、そんな事ないよ、うん待ってるから、じゃあ明日ね」

「今の昌君から?、ずいぶん仲良さそうね」

「うん、そうだね今僕たち付き合ってるんだ」

そう言って僕は楽しそうにデートしてる写真を見せた

「どうして・・・」

美月は真っ青な顔でそうつぶやいた

「だって仲のいい男女がいたらそうなるのは当たり前だろ」

「あなた男でしょ・・・」

「ふふ、私は女よ」

僕はニヤリと笑ってそう言った

「ひどい・・・」

「あそうそう、話しておきたい事があったんだ」

「なによ」

「僕ね処女じゃなくなったんだ」

「え、もしかして相手は・・・」

「そう、相手は昌だよ初めてだから痛かったけど、昌も喜んでくれたから嬉しかったよ」

「帰って、あなたの顔なんて見たくないわ」

「そう、じゃ帰るね、勉強頑張ってね、和也君」

僕はにっこり笑ってそう言って下に降りて行った

「叔母さん帰りますね、また来ます」

「あら、帰るの勉強まで見てもらって悪いわね」

「いえ、いいんですよ、何かあったらまた言って下さいね、失礼します」

僕は微笑みながらそう言った


それから2年経ち僕は成人式に出席する為に地元に帰ってきていた
振袖を着た僕はきれいで男子と違って女子は華やかで女子として出席できて嬉しかった

夜には中学の同窓会があり、振袖を脱いでフレアーのスカートを履きローズピンクのカーディガンに着替えて出かけた
昌が家まで迎えに来てくれて、僕の着たファーの付いたアイボリーのコートを見ると
「そのコートいいね、似合うよ」と褒めてくれたので嬉しかった

同窓会には懐かしい顔が揃っていたけど、美月は来ていなかった受験があるので忙しいんだなって思っていたから
その事を昌にいってみた

「和也君来てないね、勉強が忙しいんだね」

「和也は休めないバイトがあって来られない、みたいだ」

てっきり勉強が忙しいんだと思っていた僕は驚いて昌に聞いてみた

「え、もうすぐ受験なのにバイトして大丈夫なの」

「模試の結果が思ったより悪かったから、受験は諦めたって言っていた」

「そうなんだ・・・」

なんだ大きいこと言ったけど、結局駄目だったんだ、美月も口だけだねと僕は思った
結局中途半端になった美月はいい就職先もなくフリーターになった



東京での僕は友達と旅行に行ったり、学園祭ではミスキャンパスに選ばれたりして女子大生生活を楽しんだ
遊んでいただけではなく、塾に行ったりする余裕のない子供たちに無料で勉強を教えたりボランティア活動なども行い
充実した日々を過ごして、卒業式を迎えた
卒業式は叔父さん叔母さん達が来てくれて、校門の前で振袖袴姿の僕と一緒に写真を撮って僕は女子大生を卒業した


卒業した僕は地元の高校で美月のなりたがっていた教師になった
教師になった僕は生徒や他の先生達の評判もよく順調に過ごし
私生活の方も昌は東京で就職したけど
東京の昌に会いに行ったりして僕達の仲はずっと続いていた
向こうに行くときは、女友達の所に泊まると叔母さん達には言っていたけど
僕が昌の所に泊まってるいるのは、薄々気が付いているようだった

今日は昌が帰省したのでデートする事にした
地元のショピングセンターを二人で歩いてると
仕事中の美月を偶然に見かけたので声をかけてみた

「和也君久しぶり、元気そうね」

「やあ、久しぶり二人とも相変わらず仲がいいね・・・」

今日の僕はブランド物のバッグを持ち
服装はベージュのニットにブラウンのタイトスカートを履き足元はブーツにした
僕を見た昌は、きれいだね先生には見えないよ女子アナみたいだねって言ったけど
美月は薄汚れた作業服を着ていた

美月は僕が左手の薬指にはめている指輪に気がつき
「その、指輪」
とつぶやいた

「あ、これ昌君に貰ったの」

「もしかしてそれ・・・」

美月のつぶやきに昌が
「そうなんだ、実は俺たち結婚することになったんだ」
と言った

「そうなんだ、おめでとう」

美月は力なくそう言った

「ねえ、昌君、和也君は私たちの幼馴染なんだから、結婚式のスピーチ頼んだら」

「ああ、そうだね、和也頼めるかな」

「う、うん、考えておくよ」

「じゃあ、考えておいてね、またね和也君」

僕は美月にそう言った後昌の方を向いて

「行きましょ、昌君」

と言って二人で歩き出した

昌の運転する車で帰る途中、昌は助手席に座る僕に話しかけてきた

「和也元気がなかったな」

それはそうだよ、ホントは夢だった教師になって、昌と結婚して幸せになるのはそっちだったはずなのに
僕と入れ替わってしまって、それが駄目になったからやり直そうとしたのに、失敗してフリーターになったんだから
でも僕はそんな思いをおくびにもださず

「そうねえ、私たちが結婚したら今までみたいな付き合いはできなくなるからね」

と言った

「そうだな、和也も彼女でも作ればいいのに」

「ええ、そうね」

これで僕は美月の美しい容姿も、夢も、好きな相手も全部奪ってやった

入れ替わる前はやりたいこともなく人生がつまらなく感じていたけど
今は女友達から、イケメンでいい会社に勤めてる素敵な彼と結婚出来て羨ましいと言われ
仕事も評価されて幸せな人生を歩んでいる
こうなってよかったと、あの時の出来事に感謝していた
僕は以前美月に感じていたコンプレックスが、すっかり消えている事を感じた。









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