不思議なステータスプレート 作:デイドリーム 「くっ、何で私がこんな目に……!」 草木が生い茂り少し薄暗く小鳥……否、不気味な鳴き声の鳥が囀る森の中。そんな中、そこには似つかわしくない服を着た少女がそう不満げに、しかし不気味な鳥のさえずりを打ち消してしまえるような可愛らしい声で呟いていた。 少女がこんな森にいるだけでおかしいが、黒と白を基調としたフリル付きのスカートの点いたワンピースを着ており腰回りと胸元には大きなリボンが付けられ頭には可愛らしい白い花のカチューシャで綺麗な黒髪を強調するその少女の姿が余計におかしくしていた。 なぜこのようなことになったのか……それは数時間前に遡る。 俺、ユージはギルドでの依頼で森を歩いていた。依頼は森にいるオークの討伐。 本来、一人で魔物の多い森の中を歩くだけで危険なのだが前回の依頼でへまをやらかし怪我で依頼を受けられなかった俺は治療代も併せて金欠状態だった。このままでは借金生活は間違いなし、それだけならまだましだががこのままだと借金払えず奴隷にされてちまう。それだけはどうにか避けなければいけない。 そんな訳で仕方なく受けた依頼だったが、結果は何とか達成。森の中に入る前に家の中からかき集めた毒消し薬や麻痺消し薬は底をついてしまったが後は帰るだけ。疲労や消耗もあるが、何とか逃げることは出来るだろう。 そんな中歩いていると……進行方向に小さな人影らしきものが見えた。 ――――ゴブリンか? そう思い俺は無駄な戦闘を避けるために後退しようとしたが?? ――ガサッ 疲労のせいで集中力を切らしていた俺は音を鳴らしてしまった。人影も音に気づいたようでこちらに向かって来た。 ――――くそっ 心の中で悪態をつきながら俺は咄嗟に剣を構える。しかし、その人影の正体を見て俺は少し呆然としてしまった。 なぜならその人影は……10歳かそこらの少女だったからだ。少女は白と黒のフリル付きワンピース……いわゆるゴスロリ服を着ておりリボンやカチューシャがそのかわいらしさをより一層引き立てている。俺が予想していた醜いゴブリンなどとは全く正反対で、呆然としてしまったのだ。 「ねぇ、お兄さん私のお願い聞いてくれない?」 しかしその少女の可愛らしい声と怪しく光る眼を見て俺は現実に引き戻された。 ――――こんな森の中にいる少女が普通なわけないじゃないか!俺は少女に向けて剣を向け突撃する。しかし、迷子の可能性も0ではないため俺は柄の方で少女を殴りつける。 すると少女は焦った様子でそれを避けようとするも、躱し切れずに直撃とはいえずとも当たる。 その様子を見て、実はただの迷子なんじゃ……?と思ったがその考えは一瞬で否定される。 ―――翼 そう、黒い小さな翼が少女の背中から出ていたのだ。人間にこんなものは生えていない。 ――――魔族 この翼は魔族のものだ。そして、この可愛らしい少女の外見から判断するに小悪魔族だろう。小悪魔族は相手を魅了する能力を持ち、その能力を使って食料調達をさせたり敵から身を守らせたりという見た目とは裏腹に恐ろしい種族だった。 しかし、ステータスはあまり高くなく直接的な戦闘力は不得意であった。 「な、何で私の魅了が効いてないのよ!」 そして、少女の言う通り魅了も俺には効いてない。これは決して俺が賢者(笑)だからではなく、昔酒に酔って何故か買ってしまった魅了無効の腕輪の効果だ。結構な値段で何でこんなもの買ってしまったのかと嘆いたものだがこんなところで役に立つとは…… そして俺は動揺している彼女に剣を向け……一瞬、動きを止めてしまった。魔族とは分かっていてもこんな幼げな少女を殺すのは一瞬躊躇してしまう。盗賊なんかとはわけが違った。 しかし、そんな俺の様子を見た彼女は咄嗟にいつの間にか持っていたポーチから何かの瓶を取り出し俺に投げつけた。 「ふぅ〜危なかった。もう、何なのよ!魅了が効かないなんて反則よ!」 俺の目の前で少女は悪態をつく。どうやら、俺が投げつけられた瓶の中に入っていたのはそこそこ強力な麻痺薬だったらしい。声くらいなら出せるがそれ以外は無理そうだ。 「くっ……!俺をどうするつもりだ!」 そう言うと彼女は困った顔でこちらを見る。その様子は先程戦っていたとは思えないものだった。 「……う〜ん、魅了できない奴なんていらないし……けど、このまま逃がすわけにはいかないし……今の状況で殺して魔物が近寄ってくるのも……」 そう言いながら彼女はしばらく考えていたようだが?? 「そうだ!前盗んだあの魔道具を使ってみよ!」 そう言うと彼女は小さなポーチの中からは明らかに取り出せない大きさのプレートを二枚ポーチから取り出した。 「ふっふっふ……これはね、不思議なステータスプレートっていうアイテムなのよ!」 彼女……小悪魔は正しくすごいでしょと自慢する子供といった感じだ。 それはともかく、ステータスプレートというのはボタンに触れた対象のステータスを表示するというものだ。ステータス自体は自分のものなら念じるだけで見れるのだがプレートの場合誰にでも見えるように可視化される。 彼女はプレートの片方を自分で、もう片方を俺に押させた。 名前 ユージ 種族 人族 称号 冒険者 LV 59 HP34/132 MP11/11 物攻89 物防62 魔攻8 魔防32 速32 スキル 剣術 装備 革の服 鉄の剣 魅了無効の腕輪(装備者以外取り外し不可) 名前 リリア 種族 小悪魔 称号 お転婆お嬢様 LV 4 HP11/21 MP67/67 物攻4 魔攻32 魔防29 速7 固有スキル お嬢様 スキル 魅了 装備 魅惑のゴスロリ服 魅惑のカチューシャ 魔法のポーチ すると、ステータスプレートが表示される。やっぱり小悪魔だったか…… 「うーん……ちょっと使うのは抵抗あるけど……逃げるためには仕方ないわね」 そういうと彼女は自身が押した方のステータスプレートこちらに向け……あろうことか俺の体に突き刺した! いや、突き刺したのは語弊があるか。プレートは俺の体に溶けていくようにめり込んでいったのだ! 動揺する俺をよそに彼女は俺が押した方のプレートを自分の体に入れる。それを見て更に俺の頭は混乱し呆然としていた。もし、麻痺していなくても動けなかっただろう。 「ふぅ……よし完了!じゃあ私は行くわね」 そう彼女が告げて去って行っても俺はただ茫然としていることしかできなかった。 「ふぅ……ふぅ……」 あの後、しばらくして呆然としていた状態から抜け麻痺が解けていることに気が付いた俺は早くこんな森から出ようと歩きだした。 しかし、体が重い。依頼での戦闘や先程のことでの疲労、麻痺していた影響などのせいかと思ったがなんだかそれだけではなさそうだった。俺は何となく嫌な予感がして、ステータスを開いた。 名前 ユージ(リリア) 種族 人族(小悪魔) 称号 冒険者(お転婆お嬢様) LV 22?(4) HP36/58?(21) MP42/48?(67) 物攻32?(4) 物防28?(11) 魔攻16?(32) 魔防30?(29) 速15?(7) 固有スキル (お嬢様) スキル 剣術(魅了) 装備 革の服(魅惑のゴスロリ服) 鉄の剣(魅惑のカチューシャ) 魅了無効の腕輪(魔法のポーチ) 「こ、これは一体……!?」 何故かステータスが先程見た時とは全然違う!能力は魔法系以外が下がっている!しかも、何なんだ?このカッコの表示?これは確か先程の小悪魔リリアのものだったはず…… 本日、何度目になるか分からない動揺が俺の頭を満たす。しかし、そんな俺の状態を知ったことかとでもいうように俺の体が発光し始める。 「い、一体何なんだ……!?誰か助けてくれ!」 しかし、そんな俺の叫びも空しく何かが俺を襲う。 初めに、全身を砕かれるような痛みと共に俺の視点がどんどん下がっていく。次に皮膚が猛烈なかゆみに襲われ痒い痒いと掻きむしっていると筋肉質とはいえるほどではないが冒険者としてある程度は筋肉もあり硬かった皮膚が女の子のようなぷにぷにとしたものに変化した。胸もチクチクしだし何かに引っ張られるような感覚の後、わずかに膨らむ。股関節あたりもなんだか奥に引っ張られるような痛みの後、何かを失ってしまったような感覚になる。状況を確認しようとズボンの中を確認しようとすると目の前をバサッと滑らかで心地よさそうな黒いものが覆った。 それを何とかしようと手でどけようと思うも焦っていることもあってか上手くいかない。すると着ていた服が体を覆ったまま、にゅるんと溶けた。体がスライムにでも包まれたような、何となく心地いい気分になる。しかし、それは長くは続かず今度は絹のように滑らかな感触になりまた俺を包んだ。先程と同じで心地いいが足元がすぅーすぅーしているし、何だか重い。 そんな中、今度は急にお腹が痛くなり何かが出そうになる。俺はそれを何とかこらえようとするも上手くいかず何か黒い紐状で先端にハートのようなもののついた尻尾のようなものが出てきた。それと同時に背中からも何かがニョキ!とでてきた。見ることは出来ないため触ってみると何だかふさふさとした感覚で何故か撫でるとうっとりとした気持ちになる。 しかし、そんな俺をまたもや嘲笑うように激しい頭痛が襲う。 「痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイイタイ……!」 俺は気が付かなかったが、それは俺の声よりも一回りも二回りも高いものだった。 そうして、先程までの疲れや痛みも合わさって俺は無に逃げるように気絶した。 気絶からしばらくして、私はまるで長い間眠り続けていた後のように目を覚ました。 起き上がると、長い髪の毛が私の邪魔をする。それを私は慣れたような手つきで流すように髪を避けた。 「え……?私、髪なんて長くな……!?」 私は気絶する前に起こったことを思い出し、何故かポーチから姿見を出した。 「こ、これは………?」 鏡に映っていたのは慣れしんでいた私の体ではなく先程の小悪魔のものだった。くりくりと丸い目。プルンとした可愛らしいお菓子のような唇。小さな鼻。黒くてキラキラとした髪、そして白い花のカチューシャ。 服は黒と白のゴスロリでフリルやリボンが可愛らしさを一層引きたてていた。そしてそんな服から小さな翼と尻尾が生えており自分は人間でないと証明するようなものだ。 けれど何故かこの姿に親しみを感じてしまい戸惑う。 私は今度はステータスを開いた。 名前 リリア 種族 小悪魔 称号 お転婆お嬢様 LV 4 HP11/21 MP67/67 物攻4 魔攻32 魔防29 速7 固有スキル お嬢様 スキル 魅了 装備 魅惑のゴスロリ服 魅惑のカチューシャ 魔法のポーチ これを見ても私に驚きはなかった。ステータスを見る前から簡単に予想できたことだから。けれど、状況を知るために私はステータスの詳細を確認する。 小悪魔…相手を魅了することに長けた魔族。サキュバスよりも魅了能力は落ちるが人間の精力を奪う必要はない お嬢様…魅了系スキルにプラス補正が入る。ただしステータス・戦闘能力・成長速度はマイナス補正 魅了…相手の目を見ることで魅了する。可愛らしい姿、声、キスなどで魅了の効果を高めることも出来る 魅惑のゴスロリ服…魅了系スキルにプラス補正が入る服。速度・力にマイナス補正 魅惑のカチューシャ…魅了系スキルにプラス補正が入るカチューシャ。副作用として魅了を使うとたまに心地よくなる 魔法のポーチ…沢山物の入るポーチ これを見て益々私は、自分があの小悪魔リリアになってしまったことを自覚させられてしまう。冒険者として持っていた力はなくなりか弱い体、貧弱なステータスになってしまった。代わりに魅了という人間の男としてはあり得ないようなスキルを受け取ってしまった。 そして、先程気がついたけれど……精神もリリアの色に染められてしまったようだ。自然と女の子っぽい仕草をとってしまうし口調も可愛らしいものとなった。今はショックからこんな感じだがリリアの性格の影響か「遊びたい!」という欲求が強まってきている。 記憶の方もリリアの物を思い出せる。幸い男だった時の方も思い出せるけれど何だか遠い過去のようにぼやけてしまっている。代わりにリリアのものはあの自分と会って魅了が効かないという動揺や悔しさがまるで自分自身のものだったかのように思えてくる。その影響か、今の私も自慢の魅了が効かなかったことに苛立ちを覚えてしまう。 そして、元のリリアが何故これを使ったのか分かった。リリアはどうも魔族のお嬢様で、行儀や優雅さを強制されるのが嫌になって逃げている最中だったのだ。 早く逃げないと私も同じ目にあってしまう! きっと今のリリアに染められた私には行儀や優雅さに拒否感を覚えてしまうからきっと捕まったら前のリリアと同じようにどんどんストレスに耐えられなくなってしまう。 そうして私は他人に押し付けられた人生から逃げるかのように逃走劇を開始した。 |