姉の旅行
Tira


(9)

「んっ……」
 部屋に戻った優奈は、扉に背を預けたままパジャマのズボンに手を差し入れた。姉の股間が明らかに濡れている。
「私……」
 スマートフォンを手に取った彼女はベッドに寝転がると、SNSを開いて葵と彼氏が写っている写真を眺めた。
彼氏の横で笑顔を見せる姉を暫く見つめた後、カメラソフトを立ち上げ、自分の顔を映してみる。画面には、少し困った表情の葵が優奈を見つめていた。
「お姉ちゃん。私……今、お姉ちゃんに変身しているんだ。お姉ちゃんの姿を借りて三木畑さんとセックスするのって……いいと思う?」
 画面にリアルタイムに映る姉は、優奈が話し終えても返事をしてくれない。そんな事は分かっているが、自分だけで判断が出来なかった。
「……そうだ。折角だからこの姿を……」
 優奈はベッドに座り直すと、軽く髪を整えて写真を撮った。微妙に笑う姉の表情にはあまり納得しなかったが、【三木畑さんにスーツを借りたよ!】という言葉と共に、葵に向けて写真を投稿した。
 暫くすると既読マークが付き、軽快な音楽と共にスマートフォンの画面に着信の文字が表示された。
「何、お姉ちゃん」
「ほんとに優奈が私のスーツを着てるの?」
「そうだよ」
「嘘っ! 三木畑君、貸してくれたんだ」
「うん」
「彼、何か言ってた?」
「えっ? 何かって?」
「だって……スーツは誰にも貸さないって言ってたから。秋生にだって貸してなかったみたいだし」
「そうなんだ。三木畑さんから着てみるかって言われたんだけど……」
「……ふ〜ん。だって! 秋生。話してあげてよ」
 隣で聞いていたのか、スマートフォンから聞こえる声が長谷岡に代わった。
「もしもし、優奈ちゃん」
「あ、はい」
「すごいな。空港の時もそうだけど、目の前に葵がいるのに、葵と話しているみたいで変な感じだ」
「は、はぁ……」
「ねえ優奈ちゃん。三木畑は何か言ってなかった?」
「その……何かって言うのが分からないんですけど」
「そっか。三木畑はね、そのスーツを自分以外の人に貸す事をすごく拒んでいたんだ」
「……そうなんですか。別に……私から貸して欲しいと言った訳じゃないんですけど」
 その言葉に、スマートフォンの向こうでクスクスと笑い声が聞こえた。
「あの、何なんですか?」
「ごめんね優奈ちゃん。実はアイツ、そのスーツを貸すのは、俺の彼女になって欲しい人だけだ……って言ってたんだ。さっきも葵が話したけど、親友の俺でさえ何度も貸してくれって言ったのに、貸してくれなくてさ」
「……えっ?」
「まさか優奈ちゃんがその人になるなんて思わなかったよ。なあ葵」
 またスマートフォン越しの声が姉に代わると、「だよねっ。でもお似合いかもよ。優奈、玉の輿になれるんじゃない?」と言われた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私、全然そんな気持ちは……」
 無いと言い掛けたが、言わなかった。
「まあ、また帰ったら教えてよ。三木畑君、いい人だよ」
「そ、そんな事は分かってるけど……」
「……って言う事は、優奈もまんざらじゃないんだね。彼、優奈の好きなマッチョな体型だし。じゃあ、お土産買って帰るから。後はよろしくね!」
 そう言うと、通話が切れた。
「ち、ちょっとお姉ちゃん……。待ってよ、ほんとに三木畑さんが私の事を? 私達、今日会ったばかりなのに?」
 大の字になってベッドに寝転んだ優奈は、目を閉じて今日の出来事を思い出した。空港で初めて彼に会った時から先ほどの会話まで。このスーツを着て、勝手に姉の快感を楽しんでいたけれども、悪い人では無いと思う。過去の話や、スーツを開発した経緯を聞き、思いやりのある優しい人だと感じた。それに、姉にも言われた様に、筋肉質な男性が好きな優奈にとって、確かに理想の男性かもしれない。
「三木畑さんが……私の彼氏になるの?」
 分厚い胸板や、薄っすらと見えるシックスパックの腹筋を思い出すと、右手が自然とパジャマのズボンに忍び込んでいった。
「んっ……」
 バスタオルに隠れた彼の股間。手で隠していたが、膨れ上がった生地が彼の興奮を表現していて、優奈の女性としての性欲をかき立てた。
「やっ……ん。お姉ちゃんの声……」
 優奈よりも大人びた姉の艶やかな声が、彼女の興奮を誘った。
「ふっ……ん。あっ……はぁ」
 股間の生地が執拗に蠢き、足がM字に開く。空いている手がパジャマの裾から入り込み、ブラジャーを押し上げてDカップの胸を揉みしだいた。
「うっ……あっ。はあっ……んっ」
 普段、姉が感じている快感を体験している。勃起した乳首を弄ると、自分の乳首よりも気持ちいい感じがした。彼氏の秋生に愛撫され、女性の体として十分に開発されているのだろうか。
「あっ! はあっ! はっ、はっ!」
 姉の声で喘ぐたびに、葵と一つになる感じがする。この体で三木畑に抱かれたら、どんなに気持ちがいいだろう。あの筋肉質な体で、激しく突かれる事を想像した優奈は、「ああっ!」と声を荒げると、足をM字に開いたまま尻を上げ、姉の体からオーガズムを受け取った――。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 天井を見つめながら肩で息をする。セックスの経験が違うのか、姉の快感は気持ちよさの深さが違った。
肉体によって感じ方も違う――自分の体も、経験が増えればもっと感じる様になるのだろうか。
「お姉ちゃん……」
 優奈はゆっくりと体を起こすと、競り上がったブラジャーを元に戻し、姉の部屋に戻った。
「ゆ、優奈ちゃん……」
「声、聞こえていました?」
「あ……その……」
 彼は答えにくそうに、ゆっくりと頷いた。
「三木畑さんもお昼に同じ事をしたんですよね」
「えっ。あぁ……やっぱり聞こえていたんだ。ごめんね、葵さんの体で勝手に……。そっか、だから昼間に優奈ちゃんの部屋に行った時、ちょっと怒った感じだったんだね。でも、初めてだったんだ。今まで、何度もこのスーツを着ていたけど、本当に一度もした事は無かったんだ。その……信じてほしい」
「信じますよ。それに、今は怒ってないです。三木畑さんの気持ち、分かりますから」
三木畑は申し訳なさそうに、「そ、そっか……。ほんとにごめんね。色々と嫌な思いをさせて。それじゃあ……そのスーツを脱いで来て。葵さんの姿に戻るから」と言った。
「はい。でもその前に……」
「えっ? ゆ、優奈……ちゃん?」
 優奈は扉の鍵を閉めると、部屋の電気を消した――。

(続く)







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