姉の旅行
Tira


(5)

「あ、あの……」
 ベンチに座っている見慣れた後ろ姿の彼女に声を掛けると、「ああ。優奈、もう話は済んだの? それじゃ、二人は旅行に行く事になったんだ。良かったわね!」と、髪を払いながら立ち上がった。
「え、えっと……」
「どうしたの? そんなによそよそしくしなくてもいいわよ」
 軽く笑顔を作って見つめられる。先ほどまで姉が着ていた白いTシャツに水色のハーフパンツ。そして腰に手を当てた姿は、実の姉そのものだった。
「み、三木畑さん……ですよね」
 その問い掛けに、「ええ、そうよ。二人から聞いたでしょ。私が三木畑 良治。暫くの間、姉の代わりをさせてもらうわね」と答えた。
「ほんとに……三木畑さんなんだ。あの……その喋り方をされると……姉みたいでちょっと……」
「だって、今は空鳥 葵だもの。嫌なら……僕の口調で喋るけど。でも、この場で僕の喋り方だとおかしいから、とりあえず家に連れて帰ってくれるかな」
「えっ、あ……」
 姉の声なのに、ガラリと変わった口調に戸惑う。ショルダーバッグを肩に掛けた姉――三木畑が、「優奈ちゃん、帰ったら少し話をさせてくれるかな?」と問うと、優奈は「……は、はい」と頷いた――。

(続く)







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