未知との遭遇したアタシ(19歳) 作:ONOKILL 第3話 「それならば最後の手段を使うしかない…」 奴は手にしたアタシのカバンの中からアタシのスマートフォンを取り出した。 「アタシのスマホに勝手に触るな!」 「違った。これじゃない」 奴は憤慨するアタシにスマートフォンを手渡すと、もう一度カバンの中を捜し、今度はペンライトのような物を取り出した。 それはアタシの知らないもので、奴はいつの間にかアタシのカバンを好き放題に使っていたのだ。 「何それ?」 「ベータ―カプセルだ。これは人間と融合した私が三分間だけ変身する、つまり元の身体に戻るために使用する道具だ。これには別の機能が有って、融合した二人の身体を分離することも出来るのだ」 「そんな便利な道具があるだったら、早く使いなさいよ!」 アタシが怒鳴りつけるように言うと、奴は弁解するように言った。 「融合したのを分離するだけで、入れ替わった身体を元に戻すことが出来るか分からないよ」 奴はそう言って腕を組んで悩みだした。 「やるしかないか」 数分後、熟考の末に奴は言った。そしてベーター何とかをアタシの身体に向けてスイッチを押した。 「何も起こらないじゃ…、えっ!? えぇえええええーーー!!」 アタシが驚きの声を上げる中、着ていたコートが飛散し、その身体があっという間に数十メートルの巨体サイズになった。 アタシはこの瞬間、正義の巨大ヒーロー、正真正銘のウルトラマンと化したのだ。 「なるほど。ベータ―カプセルを使えば、身体を元のサイズに戻すことが出来るのか」 そう言って満足げに腕を組む奴を見下ろしながらアタシは言った。 「ジュワァ! ジュワァ! ジュワッ! ジュワッ!(いやぁああー! 何なのこれぇー! こんなにでかいのなんかやだぁ! 早く元に戻しなさいよぉ!)」 そう言ったアタシは思わず口を押さえた。身体のサイズと共に声も大きくなり、アタシの声が町中に聞こえてしまうと思ったからだ。 「心配しなくても大きくなった君の声は私以外には聞こえないよ」 「ジュワァ?(へっ?)」 「恐らく三分間我慢すれば元のサイズに戻るはずだ」 「ジュワッ!(そんなに待てないわよ!) アタシは囁くような声で奴を怒鳴りつけた。そして恥ずかしさの余り、両手で胸と下半身を隠した。 何故ならアタシはこの時初めて、ウルトラマンの身体は裸そのもの、と意識したからだ。 人間大のサイズであれば何となく気にならなかったが、ここまで大きくなれば衆人の晒しものになる訳で、それを意識した瞬間、羞恥心に襲われたのだ。 アタシは大きくなった身体を隠すように両手で抱え込みながらその場に勢いよく座り込んだ。そして奴の言った時間が過ぎるのをじっと待った。 「あー、びっくりした。何か壊しちゃうんじゃないかと思ってドキドキしちゃった」 アタシは自分の銀色に輝く分厚い胸板に手を当てながら言った。 視線の先に半壊したトイレ、荒れ果てた花壇、壊れたベンチが見えているが、それらを無視した。いや、心の中では先ほどの巨大化は“無かった”ことになった。だから何も壊してなんかいない。 …だって、修理代を出せって言われたって、お金、持ってないんだもん。 アタシは三分後、無事元のサイズに戻った。しかし、入れ替わった身体は元に戻らなかった。 コートを失ったアタシは落ちていた段ボールを身体に巻き、周りから隠れるようにベンチの後ろに座わり込んでいた。 その姿はただのホームレスにしか見えず、アタシは落ちるところまで落ちた、と思った。 「んっ? 何が可笑しいの? 気持ち悪いわよ」 奴はアタシが大きくなってからずっと笑みを絶やさなかった。 アタシはそんな奴が目触りなので怒ったように言ったが、奴はまったく気にせず、アタシの自慢の可愛い笑顔を作った。 「違う。そうじゃない。これで使命を果たせる」 「使命?」 「そうだ。君も知っての通り、私の使命はこの美しい地球を凶悪な怪獣や宇宙人の手から守ることだ」 「そんなこと、アタシの知ったことじゃないわ」 それは本音だった。 19歳のフリーターで一人暮らしのアタシは今を生きることが先決だった。そしてどこかでカッコいい男子を捕まえて恋愛、そして結婚、といった女の幸せを掴まなければならなかった。 よって、例え地球の危機が迫っていようとも、今はそれどころではないのだ。 「…まあいい。で、そんなこんなで君と身体が入れ替わってしまい、使命を果たすどころではなくなっていた。ところがこのベータ―カプセルを使えば、君の身体を、というか私の身体を元のサイズに戻すことが出来ることが分かった。これならば凶悪な怪獣や宇宙人が現れても戦えるという訳だ」 奴が得意げにそう言った。戦うって何? 「戦う? 誰が戦うのよ?」 アタシは心に思ったことをそのまま口に出し、その場から立ち上がった。そしてベンチに座っている奴に詰め寄った。 すると奴はにやりと笑いながらアタシを指差した。 「もちろん君だ」 「ち、ちょっと待ってよ。それっておかしくない? 第一、この身体になったからって、アタシが怪獣と戦える訳ないじゃない」 確かに今のアタシはウルトラマンそのものだが、中身はただの女の子でしかなく、戦うことなど到底出来なかった。 しかし奴はそんなアタシに対して自信満々に言った。 「大丈夫だ。戦闘スキルは私の身体が覚えている。慣れれば何とかなる」 「出来ないわよ! それにアタシが戦うってことは、あんたは何もしないことになるじゃない!」 アタシは一番肝心なことを奴に指摘した。アタシが戦う時、ヒーローである奴は何をするのだ? 「そんなことはない。私の目の前に凶悪な怪獣や宇宙人が現れたら、君に向かってベータ―カプセルを押す。すると君が巨大化してそのまま戦う。ピンチになればその都度、私が戦い方を伝授する。どうだ。見事な役割分担だろ?」 アタシはそれを聞いて頭にきた。ヒーローである自分は何もせず他人に、しかもアタシのようなか弱き女の子に戦わせるなんてヒーローの風上にも置けなかった。 (こいつぅ、調子に乗りやがってぇ!) そう思ったアタシは奴に向けて両腕を十字に構えた。 それは無意識のうちに出た例の必殺技のポーズで、次の瞬間、右手から眩いばかりの光を放つ光線がほとばしった。 奴はそれを見た瞬間、頭を抱えて素早く身を伏せた。 すると光線は寸でのところで奴の身体に当たらず、奴が座っていた公園のベンチを轟音と共に木っ端みじんに破壊した。 「や、やるじゃないか…」 地面に倒れ、腰が抜けたように動けない奴は、青ざめた表情で破壊されたベンチを見つめていた。 アタシはそんな奴を見つめながら、心の中で興奮せずにはいられなかった。 何故なら、ただのか弱い女の子でしかないこのアタシが、ほんの少し怒りを感じただけで至極簡単に例の必殺技の光線を発射し、公園のベンチを苦も無く破壊したのだ。 確かに奴の言う通り、この恐るべき力を使えば、凶悪な怪獣や宇宙人と戦うことが出来るかもしれない。 そんな妙な自信が心に芽生える一方、怒りに身を任せていたとはいえ、自分の本当の身体を殺さずに済んだ、とほっと胸をなでおろした。 …そして現在 と足早にまとめて説明したが、これが半年前にアタシと奴の間に起きた出来事だ。 こうしてアタシは奴に成り代わり、ウルトラマンとして一週間毎に現れる(!)凶悪な怪獣や宇宙人と戦い始めた。 最初は上手くいかず、幾度となくピンチを迎えたが、奴のアドバイス(意外に教えるのが上手い)とこの頑丈な身体のお陰で徐々にウルトラマンらしい戦いに慣れていった。 そして今日もいつものように怪獣と戦っているのだ。 アタシは怪獣を捕まえると上手投げで豪快に投げ飛ばした。目の前の半壊のビルに怪獣がぶつかって全壊になってしまったが、いつものことで仕方がない、と割り切った。 アタシは何気に胸のカラータイマーを見たが、まだ点滅していない。 (ちょっと早いけど、いっか) アタシは後方にジャンプしてジタバタしながら起き上がる怪獣と距離をとり、怪獣に向けていつものように両腕を十字に構えた。すると次の瞬間、アタシの右手から放たれた光線、ウルトラマンの必殺技であるスペシウム光線が怪獣に向かって走った。 アタシはスペシウム光線が怪獣に直撃するのを見つめながら思った。 (これでおしまいね) ところがこの日は何かが違った。何故ならスペシウム光線が直撃しているにも関わらず、怪獣は爆発はおろか、倒れることさえなかったからだ。 (うっそぉ!? まじぃ??) やがてスペシウム光線が出尽くし、両腕を力なく下げたアタシは、何事もなかったかのように咆哮し、ゆっくりとこちらに近づく怪獣を見つめながら思った。 (これって超ヤバい奴かも) つづく |