未知との遭遇したアタシ(19歳) 作:ONOKILL 第2話 今から半年前… 「アタシの身体、返してよぉ!」 アタシは目の前にいるアタシの細腕を掴みながら言った。正確に言うとアタシの身体になっている奴に対してだが。 すると奴はアタシの大事な可愛い顔を歪め、自慢のサラサラヘアーを無造作に掻き上げながら困ったように言った。 「まいったなぁ…。本来ならこの一件で死にそうになった君を私が助ける予定だったのだ…」 「それって、どういう意味?」 アタシが思わず問いかけると、奴はやれやれといった仕草をして答えた。 「君の命を救う代わりに私と君の身体を融合する。普段は君の身体で生活して、必要な時になるとその身体に変身して戦う、…とこんな筋書きだったのだが、まさか二人の身体が完全に入れ替わってしまうとは…」 アタシは奴の都合の良い話を聞いて頭にきた。人の身体を何だと思っているのだ。 「あんたの力で早く元に戻しなさいよぉ! アタシ、いつまでもこんなむさ苦しい男の身体なんてやだぁ!」 アタシはアタシらしく怒りをあらわにすると、それを見た奴も逆切れした。 「あー、うるさい! 私の身体でそんな気持ち悪い仕草をするな! これでも私は正義ヒーロー、ウルトラマンなんだぞ!」 確かに奴の言う通り、右隣に位置するショーウィンドウに映った今のアタシの身体は、光り輝く銀色をベースに赤色のラインが鮮やかに映える筋肉隆々のりっぱなウルトラマンの身体だった。 そんなアタシが内股になり、軽く握りしめた両手を胸に当て、極めて女の子らしい怒りのポーズをとっているのだ。 その仕草は誰がどう見てもオカマにしか見えず、奴に言われるまでもなく気持ちが悪かった。 まだまだ青春真っ盛りの19歳のアタシは、高校を卒業した後にフリーターとなって働いていて、この数ヵ月間はとある大手デパートの販売員をしていて、この日は限定販売のケーキを売るべく開店前の準備をしていた。 売り場はデパート建屋外の催事場近くの小さなフロアーで、同僚が遅刻していたため、寒空の中、たった一人で準備をしていた。 そんな時、頭上から光輝く大きな赤い球が落ちてきてアタシとぶつかった。 アタシはその衝撃で気を失い、気が付くと何故かウルトラマンの身体になっていた。そして目の前にはアタシの身体になった奴がいた。 どうやらぶつかった衝撃でアタシと奴の心と身体が入れ替わってしまったのだ。 アタシたちが言い争っていると、視線の先に店長が走ってくるのが見えた。 「あ〜ん、店長ぉ〜。助けて下さいよぉ〜」 アタシは店長に向かって、男らしい野太い声ながらいつもの様に猫なで声で助けを求めたが、店長は意にも返さず言い放った。 「おお、やっと来たな、ウルトラマン。さあ、こっちだ」 アタシは今日、催事場でウルトラマンショーがあるのを思い出した。店長はアタシのことをショーに出演するウルトラマンの着ぐるみだと勘違いをしているらしく、アタシの銀色の太い腕を掴むと無理やり連れて行こうとした。 アタシはそんな店長の手を振り払い、訴えかけるように言った。 「ちょっと待って下さい。違います。アタシ、ウルトラマンの着ぐるみなんかじゃありません。正確には本物のウルトラマンなんです」 それを聞いた店長の不思議そうな顔をしたので、アタシはもう一度言いなおした。 「い、いや、違う。そうじゃない。そうじゃなくて、アタシは本物のウルトラマンなんかじゃありません!」 アタシの隣に居た奴はそれを聞くと思わず頭を抱えた。そしてアタシを押しのけるように店長の前に立った。 「そんなややこしい言い方をするから訳が分からないじゃないか。私が説明する。彼女の言う通り、この私が本物のウルトラマンなのだ」 奴はそう言って自分の胸に手を当てた。 「アタシがウルトラマンの訳ないじゃない!」 「だからそうじゃなくて『二人の身体が入れ替わっている』と言う説明をしようとしているのだ。少しは黙ってろ!」 「何よぉ!」 アタシと奴は再び言い争いを始めた。店長はそんなアタシ達を半場呆れ顔で見ていたが、それが一段落するとアタシの身体の奴を無視してアタシに言った。 「何を言っているんだ。お前はどこからどう見ても、あの正義のヒーロー・ウルトラマンじゃないか。さあ、行くぞ。向こうで子供たちが待っている」 店長はそう言ってアタシの背後に回り込むと背びれの付いた背中を押した。 「だから、違う! 違うんだってばぁ!」 その場に呆然と立ち尽くすアタシ自身を見つめながら、アタシはウルトラマンとして催事場に連行された。 「あーあ、酷い目に遭っちゃった」 「私もだ」 数時間後、夜もすっかり更け、誰も居なくなった公園のベンチにアタシと奴は居た。 突然、正義のヒーロー・ウルトラマンの身体と入れ替わってしまったアタシは、店長に促されるまま無理やりウルトラマンショーに出演させられ、何とかドンと言う着ぐるみ怪獣や、何とか星人と言う着ぐるみ宇宙人と戦った。そしてその後、沢山の子供たちと握手会までさせられた。 一方、奴の方もアタシの代わりにデパートの販売員としてケーキを売らされた。 アタシたちは共に慣れない身体で振り回され、心身ともに疲れ切っていた。 アタシは両親と離れ、ワンルームマンションに一人暮らしをしていたが、今のアタシはどう見ても不審者にしか見えず(てか人間じゃない)、この姿のまま帰る訳にはいかなかった。そして何より入れ替わりの元凶である奴をアタシん家に上げる気がしなかった。 よってアタシと奴は、この寒空の下、他に行く宛てもなく公園に居るしかなかった。 奴はデパートの制服からアタシのお気に入りの可愛い衣装に当たり前のように着替えていた(何故かメイクも直されていた!)。 一方、アタシの方は、その余りにも目立つ身体を隠すため、デパートからだまって借りたフード付きの黒いロングコートを着て、フードを頭からすっぽりと被り、大きめのサングラスと白いマスクで顔を隠していた。 アタシはコートから垣間見える銀色の手足を見てため息をついた。そして隣にいる普段通りのアタシの可愛い顔を見て泣きたくなった。 「そんなことより、本当に身体は何とも無いのか?」 奴はそう言ってアタシの身体を心配した。 奴の話によれば、今のアタシの身体は地球上では三分間しかその姿を維持することが出来ないらしく、場合によってはそのまま死んでしまうこともあるらしい。 だから奴は何度も念を押すようアタシの身体の具合を聞いた。そしてその度にアタシはこう答えた。 「全然」 アタシと奴の身体が入れ替わってから随分と時間が経っているが、見栄えが悪い以外は特に何の支障も無い。 「入れ替わりが起きたのと同時に私の身体、と言うか今の君の身体が地球の環境に合わせて突然変異した。身体の維持が出来るのはその結果だろう。つまり、君はウルトラマンでありながら、もはや別のウルトラマンだと言えるだろう」 奴は自分の身体だったものを上から下まで隈なく見つめた後、そう結論付けた。 アタシは眉間にシワを寄せてながら何度も頷く可愛い奴を見て、そんな気難しい話はどうでもいいから早く元の身体に戻してくれ、と心の中で願った。 つづく |