未知との遭遇したアタシ(19歳)
 作:ONOKILL


第1話

アタシは 新緑茂る草原の大地に大の字で寝転がっていた。
青空の中を小さな雲が流れて行くのとほぼ同じように、草原の周りにそびえる木々を抜けて緩やかに流れて来る風がとても心地いい。
そう思うアタシのすぐ側に大きな木が立っている。
高さが約25mで枝の長さが約40mもあるとても大きな木で、これまでの人生では絶対に観ることがなかったもので、今のアタシのお気に入りだ。
アタシが耳を澄ませば、その木の力強い生命の鼓動を感じることが出来る。
木に話を聞くと樹齢が300年くらいで(そこまでいくと数えていないらしい)、今のアタシと比較すると随分と若いが、本当のアタシよりは随分とお年寄りになる。

何故、そのようなことが分かるのかと言うと、今のアタシは木とおしゃべりすること、会話することが可能だからだ。
会話する能力は木や草や花といった植物だけが対象ではなく、虫や動物と会話することも出来る。
となれば、当然ながらこの星に住む様々な国の人たちの言語を理解することなど朝飯前で、この星の外の宇宙に住んでいる何千、何万、それ以上の異星の人たちの言語さえ理解し、普通に会話することも出来る。

アタシはお気に入りの木の下でのんびりと過ごしている。
今のアタシはお腹が空くことがなく、水を飲むことすら必要ない。
太陽の光を浴びるだけで、身体中にエネルギーが蓄積され、それで生命を維持出来る。
与えられた“仕事”により身体に深刻なダメージを受けたとしても、太陽の光をたっぷりと浴びるだけで次の日には完全に回復している。
雨雲レベルではなく、ハリケーンといった自然の驚異により地球に降り注ぐ太陽の光が長期間遮られると流石に元気を無くすが、その時は成層圏に出て太陽の光を直接浴びれば問題ない。

アタシは今から三ヶ月前にここにやって来た。そして“仕事”が無い時はずっとここに居る。
アタシはここだけでなく、地球上のありとあらゆる場所、山、海、空を問わず、何処でも行ける。
いや、この星だけじゃない。その気になれば(それなりに気合を入れる必要があるが)何万光年先の宇宙にだって行ける。

アタシは今から半年前、奴に成り代わってこのような存在になり、現在に至っている。
最初の頃はあの狭苦しいワンルームマンションの中で引きこもり生活を送っていたが、流石に息苦しくなり、成り代わってから一週間後、奴の制止を振り切って外に飛び出した。そして地球上の様々な場所を流浪し、ようやくこの森を見つけた。
今のアタシはある種の森ガール(死後)で、“仕事”が無ければ寝るのも起きるのも好き放題で、隣に立つ木、そしてこの森に暮らしている様々な動物たちと楽しく会話をしながら何不自由なく暮らしている。
ただ一つ難点があるとすれば、周りに人が全然いない、ということかもしれない。

奴の話によれば、アタシの“任期”は4クールの約一年間らしく(クールって何?)、残りは2クールで半年を切ったとのこと。
但し、アタシと奴が抱えている問題の解決に向けた動きが全然無くて、ドラマとしてもマンネリ気味で特に盛り上がることも無く、“仕事”以外はこのような平々凡々な毎日を暮らしている訳で、本当に元に戻れるの? 元に戻る気ないんじゃね? と奴に言いたくなる。

そんな物思いにふけっていると、アタシの筋肉隆々の胸に貼り付けられている(!)カラータイマーが点灯した。奴がいつものようにアタシに向けてメッセージを送ってきたからだ。
(また一週間が経った)
アタシはそう心の中で呟きながら、大きなため息をついた。
どうやら“仕事”の時間が来たようだ。
アタシはこの穏やかで幸せな空間から出て行きたくなかったが、メッセージに答えない訳にはいかない。

「あー、もう、しょうがない」
アタシは吐き捨てるように言って立ち上がった。そしてゆっくりと空を見上げ、全身を軽く曲げた後、ジャンプした。
そのまま空高く飛翔したアタシは空中で一旦立ち止まった。それから両腕を前に出し、メッセージの方角に向けてトップスピードで空を飛んだ。

数十秒後、目的地の空に到着し、飛びながら地表を見下ろすと、いつものように怪獣がいた。
街はいつものように破壊され、彼方此方に炎と煙が立ち昇っている。
アタシはその中の一角にあるビルの屋上に降りたった。するとそこにはいつものように奴がいた。

奴は緊迫した状況とはとても思えないような可愛いメイクに粉まみれのメイド服を身につけていた。
「やっと来たか。あいつ、前触れもなく現れやがって、せっかく作ったケーキが…」
奴はこの状況の中で無駄話を始めようとしたので、アタシは素早く腕を上げ、開いた銀色の手を奴に向けた。
「どうでもいい話は後。早く大きくしなさいよ!」
アタシがそう言うと、奴はブツブツと何かを呟きながらアタシのお気に入りのポシェットの中からベータ―カプセルを取り出し、アタシに向けて押した。

ベータ―カプセルで焚かれた光に包まれたアタシの身体は瞬時に巨大化し、街で暴れ回る怪獣とほぼ同じ大きさになった。そして巨大化したアタシを見た怪獣がアタシに向けて咆哮した。
(今日もこうして戦う訳で…)
アタシは心の中でそう呟きながら、迫る怪獣に向かって前蹴りを放った。

アタシは地球の平和を守る正義のヒーロー・ウルトラマン。
でも本当のアタシはただの人間で、花も恥じらう19歳の女の子。
そんなアタシが何故、ウルトラマンとして怪獣と戦っているのか?
それは今から半年前に遡る…。

つづく






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