憧れ 作:Howling 「位置について、用意!!!!」 グランドに、スターターピストルの快音が響き渡る。 ここは、私立青蘭女子高等学校。部活動が盛んで、特に陸上競技においては無類の強さを誇っていた。 今も陸上部の部活動が精力的に行われているが、その中でも、抜きん出て活躍している生徒が1人。 「おー!三城、今日のタイムも上々だな。」 顧問の女性教師がその生徒をもてはやす。 「はい!ありがとうございます!!」 全力疾走であったにもかかわらず、さほど息を切らすことなく明るい表情で彼女は答えた。 彼女の名前は三城亜紀。 2年生で、陸上部のエースだ。 170センチを超える長身と、シックスバックがはっきりと分かるほど引き締まった筋肉が、 美を体現していた。さらに、髪を後ろで束ねてポニーテールにすることで、端正な顔つきが露わなっている。 恵まれた容姿でありながらも、人当たりは良く、人望も厚かった。 事実、彼女を慕う後輩部員も多い。陸上部以外の生徒からも、彼女は憧れの的だった。 「お疲れ様でした-!」 部活も終わり、荷物をまとめた亜紀は、下校した。 夕焼け空の下、校門を抜ける。 「三城亜紀さんですか?」 「はい?」 亜紀に声をかける女性がいた。 長い黒髪に眼鏡をかけ、パンツスタイルのスーツを着た女性だった。 「突然ごめんなさい。私、青葉出版の記者をしています、守谷千春といいます。」 「はぁ・・・・」 手渡された名刺には、彼女の言った内容がそのまま書かれていた。 青葉出版自体は、陸上についての本が出ていることから、亜紀も名前は知っていた。 「それで、今日はどういう・・・?」 「ええ、少し時間をいただきたいの。」 「え・・・・?」 瞬間、亜紀は意識を失った。 最後に意識を手放す前に見えたのは、千春のゆがんだ笑みだった・・・・・・・ 「う・・・・うん・・・・・・?」 亜紀は、目を覚ました。ただ、あたりは薄暗く、何も見えない。 すぐに身体を起こそうとしたが、そこで亜紀は違和感を感じた。 身体が動かない、それどころか、身体の感覚が"なくなって"いた。 しかも、頭も動かせないようだった。動かせるのはあくまで目線だけ。 一体自分はどうなってしまったのか・・・・亜紀の表情に焦りの色が出ていた。 「うふふ。お目覚めかしら?」 突然、部屋の明かりが点いた。まぶしさのあまり目が眩みつつも、しだいに目が慣れていった。 目の前に立っていた女性は、あの千春と名乗った女性だった。 「ご機嫌いかがかしら?亜紀ちゃん」 「あ・・・貴女・・・・本当に記者なの!?」 「ええもちろん。この顔は本物の"守谷千春"よ。」 千春は、自分の顔をさすってそう答えた。 はっきり言って、亜紀には何を言ってるのか訳が分からなかった。 「そんなことより、早く私をここから出してください!!!」 亜紀は、あらんばかりの声を張って千春に主張した。 しかし、千春はただにやにやと笑みを浮かべるだけだ。 「亜紀ちゃん、今自分がどうなってるか分からないようね。」 「ど、どういうことですか!?」 「せっかくだから見せてあげるわ。今の貴女を・・・・」 そう言って、千春は大きめな鏡を取り出して亜紀の方に向けた。 「え・・・・!?い、いやぁあああああああっ!!!!!!」 亜紀は、今の自分の状態を初めて理解し、悲鳴を上げた。 今、亜紀は"顔だけ"の状態で台の上にあるマネキンの頭部のようなものの上に被せられていた。 その上で、顔だけになった亜紀が悲鳴を上げている。 そんな亜紀を、千春はただ楽しげに見つめていた。 「あはは・・・美人の顔っていいわねぇ。どんな表情もきれいで・・・・」 「ふ、ふざけないでください!!!!私の身体は!?どうなったの!?」 「安心しなさいな。貴女の大事な身体はちゃあんと、ここにあるわよ。」 千春は、一度奥に消えた。 ほどなくして、千春は車椅子を押して戻ってきた。 「ひぃっっっっ!?」 亜紀は、声も出せないほどに驚愕した。 千春が押した車椅子に乗っていたのは、紛れもない、顔のない自分の身体だった。 糸の切れた人形のように、意識のない状態で車椅子に座っている。 しかも、なぜか今日部活で使っていたウェアに着替えさせられていた。 何もかもおそらく、この千春という女の仕業だろう。亜紀は心底恐ろしくなって尋ねた。 「あ・・・ああああ貴女は一体・・・・!?」 「?私はね・・・・・」 そう言って千春は、自分の顔に手を宛がった。 「・・・・・・・・・・・・!!!!」 千春の顔は、まるでお面のようにぽろっと外れた。 その下には・・・・目も鼻も口もない、つるんとした肌があるだけだった。 今の亜紀と同じように。 顔が外れると同時に、服装も瞬時に和服のそれに替わっていった。 いくらか体つきも変化している。 これが本来の彼女の姿なのだろうか? 「うふふふふ・・・・これが私の正体。 私の本当の名前は"アザミ"。見てのとおりのっぺらぼうよ。」 口もないはずの彼女から声が響いた。 そして、今外したばかりの千春の顔を手にとって亜紀に見えるようにかざした。 その千春の顔は、不気味なまでに幸せそうな笑みを浮かべている。 「この顔いいでしょう。彼女は私のコレクションの中でもお気に入りよ。貴女も嬉しいんじゃない?千春ちゃん」 アザミが千春の顔に向けて話すと、何と顔だけの千春が口を開いた。 「ええ、もちろんですアザミ様。私は顔だけにされて最高に幸せです。何もかも忘れられて幸せなんです。 もっと私の顔を使ってください・・・・」 千春も、自分と同じように顔だけにされた人間なんだろうか?しかし、あの幸せそうな様子は、亜紀を一層恐怖に陥らせるには十分だった。 亜紀は、目の前にいる非現実な存在にただただ恐怖するばかりだった。 「ど、どうしてこんな・・・・・・・・・・・・!!!!」 顔をこわばらせ、質問しようとする亜紀をよそに、千春の顔を脇に置いたアザミは顔のない亜紀の身体に近寄った。 指を這わせる。 「ああ・・・・貴女、顔も私好みだけど体つきもいいわねぇ・・・・最高だわ・・・・」 「し、質問に答えて!!」 「ふふっ、でもね。残念だわ。貴女には先客がいるもの・・・・・いらっしゃい。」 アザミは奥に向かって声をかけた。 すると、1人の女性が現れる。 「貴女・・・!?」 亜紀と同じ青蘭女子高の制服、地味そうな雰囲気の少女。 亜紀は、その女性に見覚えがあった。 木戸瀬利香。 1年生で、亜紀が大会に参加するたびに、いつも応援や、プレゼントを渡しに来ていた・・・・・ 「木戸・・・・さん?」 「覚えててくれてたんですね・・・・ああ・・・先輩・・・嬉しいです・・・・・」 瀬利香は、心底嬉しそうに跳ね回った。 控えめな印象が強い普段の彼女からは考えられない様子だった。 「どういうことなの?何で貴女が・・・・!?」 言いかけたところで、亜紀は口を塞がれた。 何と、瀬利香は、顔だけの亜紀にキスをしてきたのだ! 亜紀の唇を味わうように、瀬利香は口づけを続けた。 「ぷはっ・・・・あぁ・・・・」 口づけを終えた瀬利香は、幸せそうにため息をついた。 「な・・・・なな・・・・・!?」 「あぁ・・・・やったぁ・・・・・先輩の唇・・・・」 「木戸さん・・・・あなた・・・・・」 「好きですよ。先輩のこと。ずっと前から・・・・・・ だからアザミさんにお願いしたんです。先輩を私のものにしたいって・・・・」 「く・・・・狂ってる・・・・!こんなの狂ってるわ!!」 「あはは・・・そうですよ狂ってますよ。でもいいんです。それはすべて"愛"ですから・・・・」 「あ、愛!?」 「そうですよ。先輩は、私にないものすべてを持ってる。それにこんな私に今までいやな顔一つせず接してくれました。 だから私、もっと先輩が欲しい・・・・欲しくて欲しくてたまらない・・・・あぁ・・・・」 嬉々として話す瀬利香の目は、暗く澱んでいた。 亜紀は、後輩の見たこともないようなギラギラした瞳、欲望にまみれた笑み、すべてに戦慄していた。 「だから見ててください。私がどれだけ先輩のことを愛してるかを・・・・・アザミさん。お願い」 「うふふ、分かったわ。」 アザミが指をパチンと鳴らす。 すると、驚くべきことに、顔を剥がされた亜紀の身体がむくりと起き上がった。 それも、亜紀の意思とは無関係にである。 「う、嘘っ!?」 亜紀は目を見開いてその様子を見るしかできない。 見慣れた自分自身の身体。しかし、その顔はなく、背筋を伸ばして歩き出し、 瀬利香の横で直立している様子は不気味でしかなかった。 瀬利香は、顔のない亜紀の身体に抱きついた。 それに答えるかのように、亜紀の身体も、彼女の意思とは無関係に瀬利香を抱きしめる。 「ああ・・・・・先輩・・・・・先輩の身体・・・・イイ・・・・・」 陸上で鍛えられたしなやかな筋肉。バランスのとれた双丘。 どれもが瀬利香にとっての理想であった。それを今、自分の思うがままに触れることができる。 瀬利香はこの上ない幸福感に満たされていた。 「や、やめなさいっ!!!私の身体で・・・・ってひぃっっ!?」 亜紀は、突然襲ってきた感覚に悲鳴を上げる。 「な・・・なに・・・・・こんな、あああっ!?」 それは、性的な快感に他ならなかった。 瀬利香が顔のない亜紀の身体をまさぐり、胸をもみしだくたびに、その感覚は、顔だけの亜紀に容赦なく襲いかかった。 顔のない亜紀も、気持ちよさそうに身体を震わせ、天を仰いでいた。 その様子を一瞥して、アザミが亜紀に対して告げる。 「ああそう、顔を剥がしても、元の身体の感覚はそっくりそのまま貴女の方に来るから。当然よね。貴女の身体だもの。」 そう話しているうちに、顔のない亜紀の身体は、ぐいぐいと瀬梨花にその身を押しつけていく。 まるで、自ら求めるかのように・・・・・ その身体もまた、汗がにじんでより一層色気を増していた。 筋肉質の美しいボディが汗でさらに輝いて見えた。 「や・・・やめっ、って・・・・・こんなの・・・・おか・・・・・ああああっ!!!」 顔のない亜紀の頬にあたる部分が紅潮しているのが、誰の目にも明らかだった。 その様子を見てアザミは、快楽の渦に飲まれかかっている亜紀に対して言った。 「貴女、こうゆうの好きなのかしら?」 「ひゃあっ!?そ、そんなわ・・・・け・・・・ないひっ!!!のに・・・・!!!」 「いいえ。違うわ。今の貴女の身体、欲望のままに動いてるもの。 私が顔を剥がした後の身体ってね、いわば本能に従う動物のようなものなの。 だからこうして瀬利香ちゃんとイチャイチャしてるってことは、本当は貴女、エッチなこと大好きってことね。」 「そ・・・・そんな・・・ことっ!!!!!ない・・・・のにぃ・・・・っっ!!!」 必死に抵抗する亜紀をよそに、顔のない亜紀の身体は、瀬利香と互いに手で股間を摩り合っていた。 顔のない亜紀は、がっしりと瀬利香を抱きしめ、密着する。 「ひゃあっ!!!先輩っ!!!嬉しい!!!先輩の汗の匂いで・・・くらくらしちゃう・・・・もっと私をまさぐって・・・・・」 瀬利香は、顔のない亜紀の身体の愛撫に蕩けきっていた。よだれを垂らし、その快楽を身に受ける。 顔のない亜紀は、瀬利香の顎を掴んで、自らのなにもない顔に招き寄せた。 まるで、キスをするかのように。 「ああんっっ・・・・先輩・・・・顔がなくっても・・・素敵ぃ・・・・こんなにすべすべで・・・・」 レロレロと、瀬利香は亜紀の何もない顔を丹念に舐め回す。 つるつるの肌が唾液と汗でよりキラキラ光を反射していく。 瀬利香の舌が何もない亜紀の顔をなぞるたびに、顔のない亜紀の身体はびくびくと気持ちよさそうな反応をし、 顔だけの亜紀は、快楽の悲鳴をあげた。 本能のままに動く顔のない亜紀は、汗にまみれたウェアを脱ぎ捨て、今度は強引に瀬利香の服を脱がせた。 「ちょ、ちょっとやめて!!!これじゃ私・・・・・木戸さんを犯してるみたいで・・・ひゃああっ!!!」 されるがままに服を脱ぎ捨てた瀬利香。そのまま、顔のない亜紀と互いの股間を直接密着させた。 「ああんっ!!!先輩!!!先輩!!!!」 瀬利香は、亜紀の引き締まった太ももにしがみつきながら、股間を亜紀のそれとをこすり合わせていく。 憧れの先輩と行き着くところまで行く。この背徳感が、瀬利香を一気に絶頂へと導いていった。 「やっ!!!あっ、ああっ、ああっ、あんっ、ああんっ!!!だ、だめええ・・・・・・!!!!」 亜紀も、なすすべなく快楽の渦に飲まれていく。 精神が快楽の波にのまれていた。 どうしようもない絶頂が迫ってくるのを感じた。 そして・・・・・・ 「も、もうだめ・・・・・・・い、イク!!!イッちゃう!!!!あああああああああ!!!!」 「んああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」 2人は、絶頂を迎えた。 「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・」 「あぁ・・・・・いやぁ・・・・・」 瀬利香は、全裸で横たわって快楽の余韻に浸る。 一方の亜紀も、強制的な快楽に半ば放心状態だった。 顔のない亜紀の身体も、脚を大きく広げただらしない姿で仰向けに寝転がり、肩で息をしている。 「はぁ~・・・・妬けちゃうわね。」 アザミは、2人の営みを楽しく観察していた。 そして、余韻に浸る瀬利香の元に歩み寄る。 「それじゃ瀬利香ちゃん、準備はいいかしら?」 「はい・・・・お願いします・・・・」 瀬利香がそう言うと、アザミは瀬利香の顔に手をかざす。 「!?」 次の瞬間、アザミが瀬利香のおでこあたりに手をかけると、そのまま瀬利香の顔がゴムのように伸びながらぺりぺりと剥がれていった。 そのままアザミが瀬利香の顔を剥がすと、亜紀と同じようにのっぺらぼうになった瀬利香はぐったりと意識を失った。 どういうことなのだろうか!?瀬利香に協力していた様子のアザミがなぜ・・・? アザミは、剥がした瀬利香の顔を整える。人肌と同じ弾力を持ちながら、お面のようにしっかり形を保っていた。 そんな瀬利香の顔を、アザミは顔のない亜紀の顔部分に貼り付けた。 「えっ!?」 驚く亜紀をよそに、顔のない亜紀の身体に貼り付いた瀬利香の顔は徐々に境目をなくし、馴染んでいく。 やがて、違和感が一切ないくらいに、瀬利香の顔と亜紀の身体は融合を終えた。 「さ、起きなさい。瀬利香ちゃん」 アザミが言うと、瀬利香の顔は目を開けた。すくっと身体を起こす。 自分のものとなった亜紀の身体をまじまじと見つめる。 「あぁあ・・・・・すごい・・・・私、先輩の身体になってる・・・・やったぁ・・・・」 そのまま亜紀の身体をまさぐった。 運動とは無縁の生活を送っていた瀬利香にとって、筋肉質で引き締まった亜紀のボディは未知の領域だった。 手でなで回してその感触を堪能していた。 「き・・・・・木戸・・さん・・・・・!?」 「ああん・・・・先輩・・・・こんな気持ちいい身体で生活してたんですね・・・・・・ この身体いい・・・・・感度が全然違って・・・ああ・・・・・」 瀬利香は、自分のものになった亜紀の身体をまさぐる。 胸に軽く触れただけで、愛液が滴り、乳首がピンと勃っているのが分かった。 後輩の女の子があろうことか自分の身体を乗っ取っている。 その事実に亜紀は恐怖した。 しかし、その恐怖がまだ序の口でしかないことを亜紀はすぐに思い知ることになる。 「さ、亜紀ちゃん。色々あったけど、瀬利香ちゃんも楽しんだことだし、身体を返してあげるわ。」 アザミが不意に言った。 それを聞いて亜紀は安堵した。 奇妙な体験だったが、これで自分は元通りの生活に戻れる。瀬利香にはもう近づかないようにしよう。 今後のことに思いを馳せる亜紀。そんな様子はおかまいなしに、アザミは亜紀の顔を台から剥がして手に取る。そして、それを瀬利香に手渡した。 「さ、瀬利香ちゃん仕上げよ。この顔をその上から被るの。」 亜紀はそれを聞いて不安になった。元に戻すなら、先に瀬利香の顔を剥がすべきなのでは・・・・・ 「はい。あぁ・・・・これで先輩とひとつに・・・・・」 亜紀はその言葉を聞いて、そして瀬利香の澱んだ瞳を見て戦慄した。 「ちょ、ど、どういうことなの!?」 「そのままの意味よ。貴女の顔を身体に戻してあげるわ。でもね、それは今までの貴女に戻るわけじゃないの。 こうして今の状態で顔を戻すと、今の瀬利香ちゃんとひとつになるのよ。 瀬利香ちゃんが亜紀ちゃんの記憶も何もかも引き継いで"新"三城亜紀として生まれ変わるの。素敵でしょう・・・・」 アザミは気持ちよさそうな声で語りかける。 瞬間、亜紀の表情は絶望に染まった。 つまり、このまま瀬利香が自分の顔を被ると、自分自身が消えてしまうのだ。 「い、いやっ!やめて!!私、消えたくない!!!!!」 「消えませんよ。せ・ん・ぱ・い。私と一つになるんです。 そして一緒に"三城亜紀"として生きていきましょう。」 「おかしいわ。木戸さん!!!貴女、大切な人とかいないの!? このまま顔を被ったら貴女だって・・・・」 「そんなの、どうでもいいわ。」 蕩けていた瀬利香が一瞬、冷めた表情になって言った。 「え!?」 「今までの私の人生って最悪で無意味でした。 いじめにつぐいじめ、とにかく地獄でした。だから私生まれ変わるんです。 大好きな先輩として・・・・・」 「そ、そんな・・・・・」 「だから、先輩・・・・・ひとつになりましょう。」 瀬利香は、亜紀の顔を自らに宛がった! 「や、やめ・・・あががが・・・・・」 瞬間、亜紀は目を見開き、口をぱくぱくさせる。 瀬利香は、亜紀の顔を両端から強く自らの顔に宛がい、押さえつける。 そうしているうちに、亜紀の顔は、きゅうきゅうと音を立てながら身体に馴染んでいく。 それは、瀬梨香と身も心も溶け合っていくことに他ならなかった。 目の焦点が定まらなくなり、やがて、白目を剥いた。 『あ・・あがが・・・わた・・・し・・・は・・・さんじょ・・・あ・・・き・・・・さん・・・・じょう・・・・』 (あああああああっ!!!!イイのぉ!!!!これで私は本当に先輩に・・・・三城亜紀にぃ・・・・アハハハハハハ・・・・) 『い・・・・や・・・・わ・・・た・・・し・・・・は・・・・・・・』 亜紀の意識は、ここで途絶えた。 脳裏に響く快楽に満ちた矯声をBGMにして・・・・ 身体の方にも影響が及び、亜紀の身体はがくがくと痙攣して、やがてその場にへたりこんだ。 3分ほど経って、アザミが声をかけた。 「気分はどうかしら?」 すると、亜紀の身体はむくっと起き上がる。 一見して、すべてが元通りの亜紀に戻っていた。 しかし、アザミの方を向いた瞬間、 「最高・・・・・」 本来の亜紀がしないような澱んだ笑みを浮かべていた。 瀬利香がしていたような笑みを・・・・・ 「最高に気持ちいいですぅ。生まれ変わったみたい。」 「それに、今どんどん入ってきてるでしょう?三城亜紀の記憶が・・・・」 「ええ。あっ・・・・・・」 今や完全に三城亜紀と融合した瀬利香の脳内に、自身が経験したことのない記憶が、亜紀の記憶がフラッシュバックしてくる。 やがて、それが自分の記憶であると認識できるようになっていった。 それだけでなく、癖や仕草も自然に身についていく。 「はい!完全に自分の記憶って感じがします!!!昔からそうだったみたいに・・・・・・」 いつしか口調もはきはきとしたそれに変わっていた。他ならぬ、亜紀の口調だった。 「アザミさん、色々ありがとうございます!!これで私、『私』になれました!!!」 「うふふ、どういたしまして。契約ですもの・・・・・」 「ところでアザミさん、"元"私の身体はどうするんです?」 完全に亜紀となった瀬利香は、顔を剥がされ横たわるかつての自分の身体を冷ややかに見下ろした。 「ああ、それなら心配いらないわ。」 アザミが手をかざすと、肌色の何もないお面のような物体が現れた。 それはやがて、かつての瀬利香の顔に変わっていった。 アザミはそれを顔のない瀬利香の身体につける。 すると、瀬利香の身体はむくっと起き上がった。 「今からあなたは"木戸瀬利香"よ。元の生活に戻りなさい。」 「はい・・・・私は木戸瀬利香。私は木戸瀬利香・・・・・・」 アザミによって再構築された瀬利香は、そう言ってその場を離れた。 「うわぁ・・・・・すごいですね!!!」 「うふふ、私が顔を奪ってあげた娘はみんなこうしてあげてるのよ。 誰にも気づかれることはないわ・・・・・・ おめでとう瀬利香ちゃん、いいえ、今日から新しい"三城亜紀"ちゃんね。」 「はい!!!うれしいです!!!この身体、一生大事にします!!!」 「よかったわ。それじゃ、私も当分はこの近くに住むことにするわ。」 そう言ってアザミは、千春の顔を自分の顔に宛がった。 「あ~ん♪アザミ様ぁ、私の顔を使ってくれる・・・・嬉しい・・・・・ あっ、あっ、アザミ様とひとつに・・・・ああん・・・・・・」 宛がう瞬間、千春の顔はそんなことを言いながら幸せそうにしていた。 かぶり終えると、アザミの姿は、先ほどまで化けていた千春の姿に変わった。 「"守谷千春"としてね。」 --------------------------------------------------------------------------- 「位置について!用意!!!」 青蘭女子高等学校のグランドに、今日もスターターピストルの快音が響く。 活動中の陸上部に、今日も颯爽と走る亜紀の姿がそこにあった。 「おー!!三城!!ここんとこ調子いいんじゃないか。いいことあったのか?」 「はい!!!色々いいことありました。」 「そっか、ぼちぼち今日は終わりだから、筋肉痛ならないようにほぐしとけよ~」 「はい!!!ありがとうございます。」 そう言って、亜紀はひとりグランドの端でストレッチを行った。 人知れず、本来の彼女がしないような笑みを浮かべながら。 『ええ、いいことならたぁくさんありましたよ・・・・』 あれから、瀬利香は亜紀としての新しい生活を始めていた。 アザミの言うとおり、記憶などすべてを引き継いだ瀬利香にとって、運動など一切苦にならなかった。 思うように走ったり、身体を鍛えたりすることができ、心底楽しくなっていた。 『あはっ・・・・・また濡れてきちゃった・・・・・』 瀬利香は、亜紀の身体の下腹部が熱くなるのを感じた。 アザミが言ったとおり、亜紀の本性は淫乱。 女性の肉体美や汗の匂いに興奮する本性を隠していた。 かつての亜紀はそれを表に出さないようにしていたが、瀬利香が亜紀となった今、 真逆でその性癖が表に出るようになっていた。 しかし、周囲の人間は『ただスキンシップが増えた』程度の認識になっている。 そして・・・・・・・ 「ねえ春奈。今日ちょっと時間ある?」 「なぁに亜紀?」 「実はね、今度の大会向けに記事を書きたいって、青葉出版の人が取材したいんだって。だから春奈にも手伝ってほしいな~って。」 「へぇ~。何か面白そう、いいよぉ。」 「ありがとう~!じゃ着替えたら正門で待ってるね!!」 1時間後・・・・・・ 「うふふ・・・・・今日もいい顔が手に入ったわ・・・・」 アザミは、千春の顔を貼り付け、千春の顔でうっとりとした表情を浮かべる。 目の前には、顔を剥がされ、糸の切れた人形のようになった春奈が転がっていた。 手元には、幸せそうに目をつむる春奈の顔が・・・ 「どうでした?親友の顔は?」 亜紀、いや瀬利香はあっけらかんとした表情でアザミに尋ねた。 同級生をアザミに売った罪悪感は皆無だった。 「最高だわ。春奈ちゃんの顔。こんなにきれいですべすべ・・・・ ありがとう亜紀ちゃん。契約して正解だったわ。」 「よかったです!お礼はもう十分いただいてますから。このくらい簡単ですよ」 アザミの言う契約とは、ある人間の欲望を満たす代わりに、その人間に、女性の顔を奪い集める協力者になってもらうことだった。 協力者を探していたアザミは、瀬利香と偶然知り合いになった。 瀬利香のゆがんだ欲望を知ったアザミは自らのっぺらぼうであることを明かし、契約関係を結ぶことに至ったのだった。 「そうだ亜紀ちゃん、せっかくだから私のコレクション見る?」 「いいんですか!?」 「もちろんよ。パートナーですもの。さあ、いらっしゃい・・・・」 アザミに連れられて、亜紀は思わず息をのんだ。 「うわぁ・・・・・きれい・・・・素敵・・・・・」 壁一面にかけられた美女の顔。 アザミのコレクションである。どれも目をつむり、幸せそうな笑みを浮かべている。 架けられているのは、妙齢のマダムから女子中学生と思われるみずみずしいもの、 中には外国人女性のものもあった。 もちろん、亜紀や瀬利香のものも記念にかけられていた。 このふたつは特別で、アザミの妖力で生成された、いわばレプリカである。 「あはっ♪このマダムの顔、きれい・・・・・」 亜紀は、架けられていた妙齢のマダムの顔に舌を這わせた。 「今度、このコレクションで遊ぼうかしら?」 「あ!いいですね!!やりましょうよ!!!」 「亜紀ちゃん背が高いから、この外人の顔なんか似合いそう・・・・」 「うふふふ・・・・・」 他愛もないやりとりを楽しみながら、亜紀は、内側で融け合った本来の彼女に向けて思いを馳せた。 『ずっと、ずぅっと一緒ですよ。せ・ん・ぱ・い』 |