マンネリ防止
作:nekome


 高校時代の同級生、沢崎香奈子からのメールは突然だった。
「今度の日曜、うちに遊びに来ない? 面白い話があるんだけど」
 文面はこれだけ。
 あまり親しいとは言えない相手からの誘いとしては、ちょっと躊躇してしまう内容だ。
 沢崎とは同じ部活の仲間だったのだが、ここ数年は会ってもいないし、メールすら交わしていない。他の同級生から聞いた話では、大学を中退して結婚、子供までいるということだから、それこそ接点などはない。
 にもかかわらず招待に応じる気になったのは、第一に、自分が昔、彼女に憧れていたから。そう都合の良い展開もないだろうが、今も綺麗であろう人妻からの誘い、ちょっとけしからぬ想像をしてしまっても仕方ないだろう。
 第二の理由は、最近の自分の行き詰まりだ。大学を出て、なんとか就職して3年になるが、正直、今の会社を長く続けられるとは思えなかった。会社に対する不信感は日に日に増し、今は辞め時を窺っている状態だ。
 しかし、辞めたとしてもその先が決まっていなければ困る。再びハズレを引きたくはないし、どこかに魅力的な話は転がっていないか……
 そう思っていた自分のアンテナに、この妙な誘いが引っ掛かったというわけだ。
 人生のフラグは、拾ってみなければわからない。家と職場を行き来するだけでは、イベントは発生しないのだ。怪しい新興宗教の勧誘とかだったとしても……まあ、なんとか逃げられるだろう。
 かくして、俺は彼女にメールを返し、翌週の日曜、その自宅へ赴くことにするのだった。

「やっほ〜、コウ君久し振り〜」
 チャイムに応じて玄関を開けた沢崎は、期待どおりに美しいままだった。
 栗色でサラサラの、真っ直ぐなロングヘア。すらりとした印象だが、決して肉付きが薄いわけではない肢体。薄手のニットに、タイトなスカート姿のため、かなり身体のラインが出ている。家の中に案内されながら、俺はついつい彼女の腰周りに視線を送ってしまっていた。
 こんなことを考えるのは失礼だろうけど、やらしい腰つきだなあ……。あの脚の間に男のモノを受け入れて、そこから子供も産んだのかあ。くそぉ、いい思いしたやつがいるもんだ。
 そんなことを考えていると、リビングに着いたところで、思わぬ人物と遭遇した。
「言ってなかったけど、今日旦那がいるの」
「あ、ああ、えと……初めまして」
「ああ、うん、初めまして」
 思わぬ人物……ってこたあないよな。居て当然といえば当然だ。旦那のいる身で、同年代の他の男と二人だけで会うというのは問題だろう。はは、そうそう美味い話もないよなあ。……ん、待てよ?
「そういえば、子供さんは?」
「今は友達の家に遊びにいってるの。夕方までは帰ってこないわ」
「そっか、そりゃあ……んー、残念、かな」
「くす、無理に言わなくてもいいのに。子供、苦手なんでしょ」
 うわ、そんなこと覚えてるのか。確かに学生時代、皆の前で言ってたけどな。
「けどね、コウ君も自分の子供を持つと変わると思うよ〜」
「そうそう、俺もその時までわかんなかったけどなあ」
 ぐあ、なんて居心地の悪い話題に食いついてくれるのか。夫婦二人vs独身者。彼我兵力差は2対1。おいおい、旦那のいるこの状態で、楽しく過ごすことなんてできるのかねえ。

 しかし、そんな思いは杞憂に終わった。
 この旦那というのが思いのほかに当たりな存在。俺と実によく趣味が合い、色々な話題で盛り上がることができた。時には、沢崎以上に意気投合していたほどだ。
 さらに嬉しいことに、小さいながらも会社を経営しているとのことで、一緒にやらないかと俺を誘ってくれたのだ。
 そうか、この話があるからこそ、俺は沢崎に呼ばれたのか……!
 詳しい話は後日ということになったが、俺は胸を躍らせていた。やはり食いついてみるものだ。こんなところに、転機が隠れていたとは。
 
 だが、握手を交わす俺たちに、沢崎はこう言った。
「難しい話は終わり? そろそろ……本題に入りたいんだけど」
 へ、どういうことだ? 今の話こそ、今日の最大のイベントじゃないのか?
「……ああ、わかったよ。そうだな、そろそろ始めないとな。タカシが帰ってくる前に」
 どうやら、旦那の方は了解しているようだ。一体何をするというのだろう。
 俺が訝しがっていると、二人は互いの顔を近づけ、瞳を閉じた。まさかキスでも見せる気かと思ったが、二人が触れ合わせたのは、唇ではなく額。その姿勢のまま、「ん〜〜」っと微かに唸っている。何かを念じているような雰囲気だ。
 しまった……。
 すっかり油断していたが、本当にオカルト系の目的が隠れていたのだろうか。そうなると、さっきの会社の話も考え直した方が良いかもしれない。
 俺が引き気味に視線を向ける先で、二人は額を離し、互いを見つめながら目をしばたたかせる。
「……よし」
 と短く言葉を発したのは沢崎。
「うん、成功したわね!」
 と嬉しそうに言っているのは旦那の方。……って、え?
「ねえ、わかる? 今、わたしたち入れ替わってるの!」
 俺に満面の笑顔を向けて語りかけてくる旦那さん。あー、いや、ちょっと待ってくれ。
「それは……な、なんの冗談なんで?」
 正直、反応に困るぞ。この人ってこんなキャラだったんだろうか。
「冗談なんかじゃないって〜。今は、わたしがこの人の身体を動かしてるの」
「そして、俺が香奈子の身体を動かしているというわけさ」
 まあ、確かに言動は本来と逆の組み合わせになっているようだが、見ている側からすれば、滑稽そのものだ。男口調の沢崎、というのは面白い気もするが、旦那の方はまるでオカマのようで、ちょっと気色悪い。怪しげな話を聞かされるわけではないのかもしれないが、余興だとしても、素直に笑うには厳しい光景だった。
「いや、入れ替わってるとか言われてもさ、判別のしようがないじゃん。俺には二人の頭の中を覗けるわけでもないし……。なあ、これって、寸劇か何かなの?」
 俺にそう言われて、旦那さんは不満顔だ。
「あ〜もうっ、やっぱりやっちゃった方が早い! ほらシン君、コウ君と額くっつけて!」
「はいはい、わかってるって」
 ずいっと身を寄せてくる沢崎。うおおっ、そんなに接近されると落ち着かないぞ。い、いやあの、顔近づけすぎだって。うわ、本当に額くっつけてきたぞ。ど、どうするってんだ。いかん、ドキドキしてしまうじゃないか。
「じゃ、いくよ〜」
 旦那さんの浮かれた声が聞こえ――直後、酷い眩暈に襲われた。

 意識が途切れたのは、おそらくほんの一瞬だったと思う。
「ほら、もう離れてもいいわよ」
 その言葉で、沢崎と額をくっつけたままであることに気付き、慌てて身体を離す。
 ――ん? 今、何か違和感があったような。いかん、まだ視界が揺れてるのかな。手で額を押さえながら前を見ると、沢崎も同じように……って、あれ? 正面にいる男は……誰だ? いや、いやいやいや、まさか、でも。
「お、おおお俺がいるっっ?!」
「やった! 今度も成功っ!」
 手を叩いてはしゃぐ旦那さん――いや、もう信じるしかない。本当に沢崎なのだろう。
 彼女の話によると、こうだ。
 ある日偶然、旦那と額を合わせて念じると、体が入れ替わることに気付いた。これは夫婦二人に限ったことではなく、息子のタカシ君が眠っている時に試しても上手くいったという。今の俺たちのように、3人以上で入れ替わることも可能で、入れ替わる人間は「沢崎が念じた時、沢崎の肉体にいる者と、沢崎の肉体と額を合わせている者」らしい。
 つまり先ほどのように、「沢崎の肉体に入っている旦那」と俺が額を合わせている時に沢崎が念じれば、旦那と俺が入れ替わるというわけだ。
 「沢崎の肉体に入っている者」が入れ替わりを念じても無駄らしい。主導権は、あくまで沢崎の意思にあるのだ。

「じゃあ、俺、本当に沢崎に……?」
 体中をぺたぺたと触ってみる。長い髪、しっとりした肌、細い指、柔らかな胸――
「あふっ――ごごごごめん!! 今のは偶然当たっただけでっ」
「いいよいいよ〜、どうせわたしの手なんだし、好きなだけ触ってくれても」
 そ、そういうものなのか……? 不安になり、旦那さん――といっても俺の体なのだが、ああ面倒臭い――の方を恐る恐る窺ってみると、にこやかな表情でうんうんと頷いている。
「傍から見てるのも結構面白いもんでね。遠慮しなくてもいいさ」
 おいおい、あんたの奥さんの体だろう。妙な性癖だな。
 ……だが、これはチャンスだ。いくら旦那さんの許可を得られても、その目の前で、俺が沢崎の胸を触るなんてことは怖くてできない。
 けれど、今の俺は沢崎自身になっているのだ。沢崎の手で沢崎の胸を揉むというのは、少なくとも肉体的には、なんら後ろめたいものではない、はずだ。たとえ映像を残されたとしても、それを公にして俺を責めることもできまい。
 それに何より、この入れ替わりを体験させるために俺を呼んでくれたというのだから、多少はっちゃけることすら期待されているかもしれない。
 ようし、きっと大丈夫だ。やろう。やるぞ。
 そんな風に決心を固めていると、何時の間にか後ろに回り込んだ沢崎(体は旦那)が、背中に手を伸ばしてくる。
「えいっ」
 ぬわっ、急に胸の締め付けが緩くなったぞ。ブラのホックを外したのか?
「へへ〜、邪魔なものは取ってあげるね〜」
「って、ちょっ、待て、馬鹿、うわわっ、ひゃっ」
 え、襟から手を突っ込んでブラを抜き取りやがった……。胸に擦れて、なんか変な感覚に襲われたじゃないか。くそう、なんだか辱められた気分だ。けれど、こんなことまでやられたんなら、もう躊躇はいらないだろう。
「んっ……ふっ……うはっ、柔らか……」
 ニットの上から、ゆっくりと胸を揉んでいく。ブラがないせいか、その柔らかさがダイレクトに伝わってくるようだ。ふにゅん、と生地ごと指が沈み込む様子がいやらしい。
「はぁっ、はぁっ、うっ、んんっ、あっ、はぁ……くふぅ」
 しばらく好きなように揉んでいると、乳首のあたりがムズムズし出した。服の上からでも、ツンと尖っているのがわかる。
 うわ、なんてエロい光景だ……。俺に触られて感じてるのか、沢崎の体。
「――ひぁっ?!」
 胸に気を取られていると、突然、さっと尻を撫でられた。
「な、なにするんだよ、おいっ!」
 後ろにいる沢崎をきっと睨む。しかし彼女(というか彼というか)はニヤニヤしたままだ。
「いいじゃないの、わたしの体なんだから。それとも何かな、コウ君の許しがないと、わたしは自分の体を触ることもできないのかな?」
「う、い、いや、確かに、俺が止められることじゃないかもしれないけど……」
「でしょ? ほ〜ら、引き続き楽しんでてっ。こっちも勝手に楽しませてもらうから」
 そ、その理屈でいいのか? 受け入れていいのか、俺?
 ええい、どうせ触られるんなら、自分の意志で触っていかなきゃ損だ。俺は再び、胸元を覗き込みながら、ぐにぐにと乳房を揉み始める。
 すると、今度は沢崎がぴったりと体を寄せ、スカートの中に手を差し入れてきた。
「わわわわっ、ちょ、ちょっと何やろうとして……ひっ!」
「だ〜からぁ、わたしがわたしの体を触りたいから、触りたいトコを触ってるだけだよ〜」
「い、いくらなんでもやり過ぎ、ふざけ過ぎだって、ひゃうっ! く、くすぐったいっての」
「本当にくすぐったいだけなのかな〜? ちょっと湿ってるんじゃない? ふふっ、コウ君たらいやらしいんだから。」
「ば、馬鹿。変なこと言うなよっ」
「ん、じゃあ……香奈子、感じてるんだろう? 下着が濡れてきてるぞ」
 口調が変だと言ったんじゃなくて!
 そりゃあ確かに、旦那さんの声で沢崎の口調は勘弁してほしかったのだけれど。問題なのは、言葉にして指摘されたことで、はっきり意識してしまったということで。うああ、俺、本当に濡れてるのか? お、女として……感じてるっていうのか?
 
 俺が脳を沸騰させている間にも、沢崎は躊躇うことなく手を下着の奥へと滑り込ませる。くちゅり、と音が聞こえた気がした。
「ひぅっ!? や、やめ……そ、そんなとこっ、んあっ! ば、馬鹿、ひぁああっ?!」
「はぁ……はぁ……いいよぉ、コウ君。もっと可愛い声聞かせて〜」
 初めて経験する、女性器を弄られる感覚。戸惑うにはそれだけで充分だというのに、勝手知ったる自分の体ということか、沢崎は巧みな指使いで俺を翻弄する。体の内側から引き出される馴染みのない快感に、下半身の力は抜け、俺の思考も溶けつつあった。
「……うん、そろそろほぐれたかなあ。じゃ、やらせてもらうよっ」
 言いつつ、スカートのホックを外す沢崎。
「へ……? ええええええっ!?!?」
 蕩けかけていた意識が覚醒する。
「お、おい、冗談だろ? 待て、待て待て待てってば!」
「冗談なんかじゃないよ〜。これから、コウ君が入ってるわたしの体を犯すの。どんな風に鳴いてくれるかなぁ?」
 顔は笑っているのに、凄い力でこちらの腕を掴んでいて、振り払えない。
 これは……まずいだろ。完全に悪ふざけの範囲を超えていたのに、まともに警戒していなかったなんて。知り合いの、それも人妻の体を堂々と触れるという誘惑に浮かれきっていた。
「はは放せよっ! 俺は男だぞっ? そんなの嫌に決まってるだろっ! そ、それに、旦那の目の前だっていうのに、他の男と」
「な〜に言ってるのかな〜。わたしたち夫婦じゃない……体は。夫婦がセックスしちゃいけないってことはないよ〜」
 そんな理屈で良いのかっ? 助けを求めるように旦那さんを見るが、苦笑しているような表情でこちらを見守っているだけだ。
「シン君は、もうわたしに逆らえないもの。だからね、気兼ねする必要はないの」
 いや、誰よりも俺が良くないじゃないか。俺の意思を無視するなよ。ええいくそ、なんて力だ。
「ねえ、わかってる? コウ君は今、シン君の妻、香奈子なんだよ。その体で逃げたとして、どうするの? わたしが協力しないと、元に戻れないよ?」
 その言葉を聞いて、全身の力が抜けた。
 そうだった……“入れ替わり現象の主導権は、沢崎にある”のだ。俺がどんなに懇願しようとも、彼女が望まない限りは元に戻れない。彼女に逆らうという選択肢はないってことじゃないか。

 俺が愕然としている間に、沢崎はどんどん服を剥ぎ取っていく。そして、俺を四つん這いにさせると、腰を両手で掴み、すっかり怒張したペニスを割れ目にあてがった。
 くちゅっと、粘膜同士が触れ合う感触が伝わってくる。
「ひっ……! な、なあ、やっぱりやめてくれよっ。お、男に犯されるなんて冗談じゃないって。入れるなよ、入れ――んふぁっ!」
 ペニスの先で割れ目をなぞられ、思わず声が漏れてしまう。
「ここまで来て、収まるわけないでしょ。ふふっ、これだけ濡れてるんだから大丈夫……よっ!」
「んああああっ!!」
 一気に、ペニスを中に突き立てられた。体の内側に異物を入れられることへの気持ち悪さと、敏感な部分を擦りあげられることによる快感が混ざり合い、思考がぐるぐると回る。一度は子供を産んだ体だというのに、ペニスはひどく太く感じられた。みちみちと肉を押し広げて進み、こつんっと奥にぶつかって止まる。
「ん、あ、おはぁ……は、入ってる……一番、奥まで、ああ……」
 実際に挿入されているのはお腹の下ぐらいだというのに、上半身まで圧迫されているような気分になる。まるで串刺しにされているようだ。
「さあ、動くから、ねっ」
「馬鹿、やめろ、動く、なっ、あっ、はぁっ。くっ、ううっ、動くなあっ。もう抜けっ、抜いてくれよっ」
 ずちゅっずちゅっと沢崎がペニスを前後に動かす度に、衝撃が腹に響く。敏感な膣壁を抉られてゾクゾクと快感が走るが、それよりも、苦しさと悔しさが勝る。相手の中身が沢崎だなんてことは関係ない、俺は今、男のモノに犯されているのだ。
「あはぁっ、いいよぉっ、その反応っ! ふぅっ、んっ、やっぱり、嫌がる自分を犯すのって、燃えるわあっ」
「なっ……!? なんだよそれっ。くふっ、んっ、うぁぁっ、この、変た……んはァっ!」
「だってぇ、シン君はもうすっかり慣れちゃって、んっ、面白くないんだものっ。マンネリ防止ってやつよっ。やっぱ夫婦生活には、はァっ、刺激が必要よねっ。だからほら、簡単に溺れちゃわないでよっ。新鮮な反応がっ、見たいんだからっ」
「だ、誰が溺れたりなんか……ふァっ?! んぅっ、ああっ、か、掻き回すなあっ!」
 駄目だ。どんなに拒絶の言葉を口にしたところで、沢崎を喜ばせるだけ。
 無駄とは思いつつも、旦那の方に視線を向ける。入れ替わりという特殊な状態とはいえ、他の男が自分の妻とセックスをしているのだ。心中穏やかでないのでは……。
 だが、そこで俺は絶句することになる。旦那はギラついた目で俺たちを見つめながら、俺の体で、股間を膨らませていたのだ。
「なあ……見ていたら我慢できなくなってきたんだが……。上の口を使っても構わないかな?」
 しょ、正気かコイツ? 俺のペニスを咥えさせようっていうのか、妻の口に。というか俺に!
「ああ、わたしは……んくっ……構わないけど? シン君がそれでもいいって言うんなら……。別に妊娠するわけじゃないしね、ふふっ」
「んな、ななな何言ってんだっ! そんなことしてたまるかよっ! ち、近づくなっ! んっ、んんんんーっ!」
 必死に口を閉じて抵抗するが、膣内を容赦なく責めたてられては、とても堪えきれるものじゃない。
「んふぁっ!――んぶううっ、むぐっ?!」
 思わず息を漏らした隙に、口内にペニスを捻じ込まれてしまう。すえたような臭いと、先走りの汁の味が口の中に広がる。うう、なんてことをしてくれるのか。
「うっ、はぁっ、こういうのも、なかなか興奮するな。ほら、歯を立てるなよ、香奈子」
「上下で二本咥えるのはどんな気持ちだ? まったく、いやらしい女だな香奈子は」
 香奈子呼ばわりにも抗議のしようがない。くそぉ、この変態夫婦めっ。
「くっ、はっ、いいぞ、もっと口をすぼめろっ」
 口腔内がペニスに占領されているという屈辱。だが、自分の物である以上、乱暴に扱うわけにもいかない。肉の塊に口の中を蹂躙されても、ただその動きに身を任せる。……そのうち、思考に霞みがかかってくる。
「おっ、ふっ、ははっ、腰が動いてきたじゃないかっ。気持ちイイんだろっ?」
 ち、違う。これは……お前に体を揺らされてるだけでっ。腰を振ってなんか……だ、ダメだ、頭がぼうっとして……。
 俺にとっては間違いなく初めてだというのに、沢崎の肉体が開発されているせいなのか、苦しさは収まり、ペニスに突かれる度に快感が掘り起こされて、その波が全身に広がっていく。愛液はどんどん溢れ、膣内が攪拌されるのに合わせて、淫らな水音を立てる。ずちゅっずちゅっというその音は、肉がぶつかり合う音とともに、俺の聴覚を冒していく。決して好きなはずのない男のモノの臭いも、脳を痺れさせつつあった。
「んっ、んうううっ、んっ、ふむっ、んんっ!」
 最早、よがり声を上げそうになっているのか、それを否定したがっているのかもわからない。ただただ、未知の感覚に翻弄されるままに唸っていた。
「ううっ、はぁ、はぁ、で、出るぞっ」
「わ、わたしもっ。コウ君、しっかり受け止めてねっ。いくよっ、あっ、くぅっ……!」
 瞬間、口の中と腹の中で、ペニスがぐっと膨らみ――勢い良く、その中身を吐き出した。喉の奥と、おそらく子宮に、温かく生臭い液体が叩き付けられる。
 ああ、出されちまったんだ……そんなことを考えながら、俺の意識は闇に落ちた。
 ……………………。
 …………。
 ……。
 
 再び意識を取り戻した時には、俺は自分の体に戻っていた。
 全員、服を整えており、先ほどまでの痴態の名残はない。
 もしかして、すべて夢だったんだろうか。いや、考えるのはよそう。
 時刻は既に夕方。俺は、仕事の話について再度予定の確認をした後、他の話題を振ることなく退出することにした。
 帰り際、玄関まで見送りに出てきた沢崎が呟いた。
「また、メールするからね」
 ……俺の中で、どこかがズクンと、疼いた気がした。



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