LooT

 

いつも行くスーパーマーケット、夕方の買い物にきている人がほとんどだと思うけど、いつもくる夜中よりずっと人がいた。

あたしはお菓子のコーナーに来るといくつかのスナックをかごに入れた。

すぐに、そのうちのいくつかを戸棚に戻す。

戻す途中で周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると戸棚に戻すうちのひとつを部活でつかっているボストンバッグのなかに入れた。

また左右を見る。

誰も気づいていない。

あたしは何食わぬ顔でレジに並びお金を払った。

千円札を渡して533円のおつり。

 

あたしはおつりを受け取ると、買ったお菓子を袋にいれて外に出た。

 

『ちょっと』

 

その瞬間、突然近くにいたオバサンに腕をつかまれた。

『ちょっといいかしら?』

ばれた?

「なっ、なんですか?」

声がすこし裏返ってしまった、冷静にと自分に言い聞かせる。

『そのかばんの中を見せてもらえるかしら?』

オバサンは厳しい顔で私を見ている。手首は痛いほど強くつかまれていた。

「・・・」

逃げられない。

 

結局あたしはその後、親を呼ばれてしまった。お母さんはいないのであの人が来た。

 

あの人は何度も何度も店の人に謝っていた。

 

 

あの人は、家に帰るとあたしを殴りながら怒った。

 

怒りながらもあたしを殴る快感によいしれているようだった。

 

殴られるたびに痛みとともになぜかあの人の快感が伝わってくるのだ。

 

そのせいか、あたしの体の中でも不思議な快感で体を支配され、体がだんだんと熱くなっていく。

 

いやだ!

 

叫びたい。逃げ出したいけど、その感覚に支配されている間は何もすることができない。

 

お父さん・・・

 

頭に浮かぶのはやさしかったお父さんの笑顔。

 

数年前にお母さんがあの人と再婚してから会ってない。

 

会いたい・・・

 

 

それから数日たったある日、お父さんの友人だと名乗る男の人と会った。

 

お父さんがあたしに会いたがっているということなのだ。

 

お母さんに会うなといわれていけれど、そんなことはかまわない。

 

お父さんに会える。

 

数日後、そのお父さんの友人があたしとお父さんが会えるよう場所を用意してくれるという。

 

「よろしくおねがいします」

 

普段使い慣れない言葉だったけどそのときはすごく自然に口から出てきた。

 

『よろしくお願いします』ってこういうときに使う言葉なんだなと実感した。

 

お父さんに今の状況を言ったらきっとたすけてくれる。

 

いつもよりすこし軽い足取りであたしは家に戻った。

 

 

「ただいま」

 

家に帰ると家の中がまっくらだった。

 

なんか変だ。

 

いつもならお母さんがいて、料理をしているはずなんだけど。

 

でもあたしに関係ないか。

 

少し気になったが3階にある自分の部屋へあがろと、階段をのぼりかけたとき。

 

ふと誰かに呼ばれたような気がしたのだ。

 

なんだろう?

 

変な感覚だった。

 

あたしを呼ぶ声はすぐ近くから聞こえる。

 

声というよりは、強い意志が頭に流れ込んでくるようだった。

 

その意思は、あたしに来いとつよく命令している。

 

自分でも信じられないが、あたしの足はその意思に呼ばれるままに階段を登るのをやめて地下室へと歩き出した。

 

地下室への階段をひとつ下りるたびに、その意思は喜悦に満ちたような色をみせるようになってきた。

 

あたしがちかづいているのがわかるみたい。

 

この感覚は、何度も味わったことがある。

 

あの人があたしに暴力を振るうとき。

 

あの人の喜びがあたしにつたわってくるのだ。

 

いや、つたわってくるのは喜びだけなかった。

 

もうひとつ、その後ろにある感情。

 

うっすらとだけど明確に存在している感情。

 

アタシはその感情がなんなのかわからなかった。

 

ただその感情は誰もが持つ感情であることはわかっていた。

 

 

あたしは例の意思に導かれるままにお風呂場の間にたっていた。

 

正確にはたたされていたのだ。

 

扉がゆっくりと開くとあの人が出てきた。

 

洗い場にはおかしな祭壇のようなものがつくられている。

 

『おかえり』

 

あの人はにっこりと笑っていった。

 

あの声は・・・、あの意思はやはりあの人のものだったのだ。

 

「お母さんは・・・?」

 

あたしは言った。どうでもいいことだったけど祭壇のことに触れるのは怖くてできなかったのだ。

 

『高校時代の友人が亡くなられたといってね、さっきでかけたよ』

 

「そう」

 

早くここから逃げなくてはならない。あたしの中で本能とよばれるものが大声で言っているのだが、体が硬直して動かない。

 

『やっぱりね、咲ちゃんは僕と相性がぴったりだよ』

 

あの人はあたしの頬に触れた。

 

『咲ちゃん、君は僕に殴られるときに感じていただろう?』

 

「そっ、そんなこと・・・!」

 

どうしてそれを知っているの?

 

『僕が君とコミュニケーションをとるたびに、君の感情が僕にも流れ込んできていたんだよ』

 

そんな事あるはずがない・・・

 

『あるんだよ。君の考えは僕には手にとるようにわかる』

 

まずい・・・

 

『そうまずいようね、君にとっては僕に絶対に知られてはいけないことさ、君が僕の手から出て行こうとしているんだろう?』

 

全力で体を動かそうと、逃げようとするのだが体が動かない。

 

『さっき、君が帰ってくる前におまじないをしたんだよ。どんなおまじないだと思う』

 

あいつはそう言ったがあたしにはすでに、そのおまじないが何なのかわかっていた。

 

あいつははあたしと自分の体を交換するつもりなんだ。

 

そして交換されたら二度と戻れない。

 

あいつはあたしの顔に、自分の顔を近づけてきた。

 

あいつの荒い息がアタシの顔にかかる。

 

やめて!!

 

あいつの唇があたしのくちびるに重なった。

 

その一瞬、あたしの視界がなくなった。

 

そしてつぎの瞬間、あたしの視界はあたしのものでなくなっていた。

 

あたしが見ているのはあいつの視界なのだ。

 

目の前には目を見開いているアタシがいる。そしてその目はだんだんといやらしい笑みへと変わっていった。

 

あたしは立っていられず、床に倒れてしまった。

 

あたしになったあいつは、あいつの体のあたしを洗面所へ寝かせると制服を脱ぎ始めた。

 

あいつは制服をすべて脱ぎ終わると今度は下着のまま風呂場へと入っていった。

 

お風呂場からシャワーの音にまじって鼻歌が聞こえた。

 

それは数分前までのあたしの声だ。

 

友達によくすこし低いねって言われてたあたしの声。

 

いまはあいつの声になっている。

 

『咲ちゃん』

 

あたしはつぶやいてみた。

 

あいつの声で。

 

言っただけで、股間が熱くなっていく。

 

全身の体液が沸騰しそうに熱くなる。

 

今風呂場であたしのからだのあいつがシャワーを浴びている。

 

そのことを想像するだけで、股間がさらにあつくなってどうしようもなくなっていくのだ。

 

あたしが我慢しきれなくなったとき、あいつはお風呂場の扉を開けるとアタシを見下ろしてニヤリと笑った。

 

その目で見られるとあたしの体中の血液がさらに熱くなって全身を駆け巡る。

 

「やってみる?」

 

あいつ・・・、”咲ちゃん”はあたしを見下ろしながら言った。






オワリ





あとがき

絵版で描いた絵に話をつけてみました。

最近はあらすじを決めてから話書くことが多くなりましたが、久々に本能の赴くままに適当に筆を走らせてみました。





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