8人のあみだくじ

作:greenback





あーみだーくじ。
あーみだーくじ。
ひーいてたのしい、あーみだーくじ。

ああ、心臓が爆発しそう。
すでに、1位から6位までは決定。
残っているのは、7位か、ビリのどちらかしかない。
もともと贅沢をいうつもりはない。
7位でいいんだ。
ビリでさえなければ……!

あーみだーくじ。
あーみ……

私の指が、終着点に到達する。
ほう、と吐息がもれる。
そこに書かれていたのは、数字。
幸運の――7だ。





ビリの座を引き当ててしまったその子は、
ずいぶんとかわいらしい女の子だった。
甘木ユウちゃん、か。
わざわざこんな悪魔のゲームに参加する必要なんて
なかったように見えるけど……
まあ、今さら詮索しても仕方ない。
彼女には彼女なりのコンプレックスがあったんだろう。

「お、お願い、許してください。
何でもするから、お願いだから勘弁してください……」

下着姿で両手を拘束されたユウちゃんは、がたがた震えている。
かわいそうだとは思うけど、ルールだから仕方ない。
大丈夫、痛くないからね。
まずは1位の人から。
この人は、ああ、たぶん……

「ごめんね、あたしは『鼻』を頂くわ」

ああ、やっぱり。
チャーミングといえばチャーミングだけど、
ちょっと上向きだし、わりと大ぶりだものね、その鼻。
しだいに、2人の鼻が光を帯びていく。

「やっ、やだ!
やめて、お願い、あたしの鼻とらないで!
……あ、あ、あ、あっ、あっ、ああああっ!!」

歓喜と絶望。
正反対の表情を浮かべた2人の顔が、見ていられないくらいまばゆく光って……
気付いた時には、もう『それ』は終わっている。

「あら素敵」

1位の彼女は、満足げに鏡を見る。
そこにあるのは、先ほどまでとはうって変わって、すっきりと通った可愛い鼻。
かわりに……

「か、鏡っ! あたしにも、鏡を見せてっ!!」

見ない方がいいんじゃないかなあ。
ユウちゃんの顔のど真ん中には、
『ちょっと上向きで、わりと大ぶり』な例の鼻が、
堂々とあぐらをかいている。
まるで、生まれた時からそこにあったみたいに。
うん、大丈夫。
今はちょっとアンバランスだけど、似合ってなくはないよ。
そのうち、きっとなじむはず。
――さあ、どんどんいってみようか。

2位の人は……『目』か、だと思った。
ユウちゃんのくっきりした二重の目は、
あなたじゃなくても欲しくなるよね。

3位の人は、『口』?
ああ、たしかにちょっと大胆な歯並びしてるかも。
ユウちゃんも八重歯だけど、それがまたかわいいし。

4位の人は『おっぱい』ね。
なるほど、まだちょっと小振りだけど、
ユウちゃんの胸はすごくきれいな形してるよね。
将来性まで考慮に入れた、いいセレクトだわ。

5位の人は……え、『体重』?
へえ、そんなのもアリなんだ。
ちなみに、今あなた何キロあるの?
――あはは、それはエグい。

そして、6位の人は『年齢』か。
いろんな裏技があるんだなあ、勉強になっちゃった。
見たところ、15歳位かな、ユウちゃんとの年齢差は?
え、25歳?
見えないなー、ぜんぜん若い……
あ、でも、本当に若くなるとやっぱり見違えるわね。

ひとりにつき、所要時間はたった数分。
だから、まだ1時間も経っていないのに……
ユウちゃんは、すっかり別人のようになってしまっていた。
たとえ家族が見ても……ううん、本人だって
もとの彼女を思い浮かべるのは難しいんじゃないかな。

「い……いやぁあああっ、返してっ!
それ、みんな、あたしのッ!
あたしの顔、
あたしのおっぱい、
あたしの……体型……若さ……
泥棒っ!
泥棒どろぼう泥棒ッ!
うわぁあああああああああああっ!!」

気持ちは分かるけど……ずいぶん人聞き悪いこというじゃない。
あなたにも分かってたはずだよ?
この『8人のあみだくじ』に参加した以上、ルールは絶対。
7人の勝者が、残り1人の身体から1つづつ
好きなものを指定して、交換できる。
この上なくシンプルで、公平なルール。
まあみんなは、新しく手に入れた身体を見るのに夢中で、
ろくに聞いてないみたいだけど……

さあ、いよいよ7人目。
私の番だ。

「う、うう、もう、許して……。
あ、あなたは、いいでしょ?
そんなにキレイだし、若いし、
今さらこんな、こんなになっちゃったあたしと
交換するものなんて……」

誉めてくれてありがとう。
でもね、あるんだ。
ひとつだけ、どうしても欲しいものが。
それは、ユウちゃんの……『女』。

「ごめんね、私はあなたの、『性別』が欲しいの」
「へ?」

意味が理解できず、きょとんとしてしまったユウちゃんに、
私はロングスカートをたくし上げて、
そこにあるモノを見せてあげた。

「……ひ、ひぃいやあああっ!?
ダメ、そんなのダメ、こんなの反則でしょ?
嘘、いやッ!
あ、あっ、あああッ!
嫌だぁあああああーっ!!」

私とユウちゃんの股間に、光が集まってくる。
絶叫する彼女があんまりにもみっともなくて、
あんまりにもかわいそうで、
そして、あんまりにもかわいくて。
すっかり固くなっちゃった私のモノが、
本来あるべきレベルをはるかに超えて熱く、輝いていく。
――気持ちいい。

物心ついたときから、どうしても『女』になりたかった私。
『8人のあみだくじ』の噂を聞いたのは、
歌舞伎町のお店で働きながら、必死でお金を貯めていた時だった。
ホルモンでも、手術でもなく。
本当に……本当の意味で『女』になれる方法が、ある。
怖ろしいリスクを犯すことに、何のためらいもなかった。

そして、今。
熱く、固く屹立した自分の『男』に……はじめて愛おしさを覚える。
あなただって、好きで私にくっついてたわけじゃないのよね。
今まで、嫌ってごめんね。
甘い感傷にひたりながら、指先で股間に触れる。

「ひゃうっ!?」

快感にぴくん、と身を震わせたのは、私ではなくユウちゃんだった。
交換がはじまっている。
包みこむように、優しく、ていねいに指を動かしてみる。
いつ以来だろう。
独特の罪悪感と、
自分が男であるという現実をはっきりつきつけてくるこの行為。
それが嫌で、たまらなくて……自らそれを禁じた。
はじめのうちは性欲の行き場をもてあまして
頭がおかしくなりそうだったけど、全力で耐えぬいた。
そして今、自分の意思でその禁を破る。
ううん、これは違う。
もはやこれは――オナニーではない。

「やっ、やっ、やめてぇっ!
感じ……う、嘘、嘘嘘っ!
ああっ、あっ、あっ、あああっ、触らないでえぇっ!!」

ユウちゃんが、甘い声で叫ぶ。
彼女の股間から、光を帯びた何かがゆっくり持ち上がってくる。
それに呼応して縮んでゆく私のそれに別れを告げるように、
手の動きを早める。
もう感覚はほとんどないのに、なぜだか分かる。
――出る。

「うああぁあああああぁぁあーッ!!」

びゅく、と鈍い音を立てて、
私が溜め続けた白濁液が……彼女の股間から吹き上がる。
新しい場所に生えかわった肉の棒をびくん、びくんと痙攣させながら、
射精はびっくりするくらい長く続いた。
快感と絶望がないまぜになった表情で悲鳴をあげるユウちゃんが、
たまらなくかわいい。

ああ、私ってこんなにSっ気があったんだ。

ついさっきまでユウちゃんのものだった『それ』が、
私の興奮に応えてゆっくりと湿り気をおびてくる。
夢にまでみた、その感覚。
それがあんまり嬉しくて、私の目に熱いものがこみあげてきた。
にじんだ視界の中には、同じように涙を流している“彼”。
口の中で、ちいさく呟く。
ありがとう。
そして――さようなら。

あーみだーくじ。
あーみだーくじ。
ひーいてたのしい、あーみだーくじ。

今日もきっと、どこかで誰かが口ずさむ。
それは幸運な7人と、あわれな生贄のゲーム。










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