ゴルフ場の悲劇(後編)
作:Tira



「それでは製造三課ゴルフコンペ大会を開催したいと思います。部長、始めの挨拶をよろしくお願いします」
シンと静まり返る社員達。
部長がみんなの前に出て話を始める。
「さて、今日もゴルフ日和になりましたな。参加したみんなはえらく張り切っているようだが、くれぐれも怪我の無いよう、頑張ってくれたまえ。誰だったかな、最下位にならないよう頑張ってくれよ」
はっ、はっ、はっと何人もの、小さく低い笑い声が聞こえる。
「部長、ありがとうございました。それでは一組目は準備を始めてください」
一組目の人たちが順番を決め、トップバッターの社員がゴルフボールを ティーに乗せる。
その社員が構えると、あたりは一段と静まり返った。
ゆっくりと振りかぶり、一気にスイングする。

キ〜ンッ!

甲高い金属音と共に、ものすごいスピードで一直線に飛んでゆく。
「ナイスショットッ!」
何人もの社員がその飛距離を称えている。
「うふ。僕もあれくらい飛ばせるかなあ。ねえ、篠河さん」
「さ、さあね……」
「僕達は次の組みですよね。そろそろクラブ持ってきたほうがいいでしょ」
「そ、そうね。持ってくる……わ」
「あれぇ?いつもなら持って来てって言うのになぁ」
朝美(孝章)はハッとして、すぐに言い直した。
「あ……。ね、ねえ……私のクラブも持って来てよ」
「はい。分かりました。ちょっと待っててくださいね」
孝章(朝美)はカートまで走ってクラブを取りに行った。



その間に、部長が朝美(孝章)に近づいてくる。
「やあ、篠河君。調子はどうだい?」
部長に話し掛けられ、ドキッとする朝美(孝章)。
「ぶ、部長」
「今年は一緒に回りたかったが、残念だよ」
「い、いやあ。僕と回ってもご迷惑をかけるばかりなんで……」
「ははは。謙遜なんぞしなくてもいいだろ。君の実力はみんなが認めているんだから」
「いえ。ダメなんですよ、今日は……」
「どうしたんだ?気分でも悪いのか。いつもの篠河君らしくないぞ」
その言葉に、ビクンと身体が震える。
篠河さんらしくない――。
そう言えば、さっき「僕」って言ってしまった。
まだ戻ってきてほしくない。頼む――。
まずいと思った朝美(孝章)は、顔を引きつらせながらそっと後ろを振り返った。
そこには――。
帽子のツバで顔を隠した孝章(朝美)が、クラブを二本持って立っていたのだ。
ニヤリと笑っている口元だけが見える。

ビクッ。

一瞬にして朝美(孝章)の血の気が引いた。
「篠河さん……持って来ましたよ」
とてつもなく低い声を出し、クラブを朝美(孝章)に差し出す。
あまりの怖さに声が出ない。
震える右手で、恐る恐るクラブを受け取る。
「橋板君。今日は大丈夫かね。十万円がかかっとるんだぞ」
「かなりピンチですよ。頑張って練習したんですけどなかなか上達しなくて」
「そりゃあそうだろう。コースを回らないと上達しないものさ。素振りだけやっていても成果は出ないな」
「はい、そうなんですよ。もっと篠河さんに教えてもらえば良かったなあ。ねえ、篠河さんっ」
「…………」
俯いたまま声が出ない。いや、口を開けることが出来ないのだ。
それほどこの雰囲気は朝美(孝章)を締めつけていた。
「う〜ん、今日は本当に調子が悪そうだな。篠河君、あまり無理をしないようにな」
部長が肩をポンと叩いた。

ビクンッ!

朝美(孝章)の体が震える。
それを気にしながらも、部長は課長達のいるところに歩いて行った。
クラブを握る手が汗ばんでいる。
顔を上げることが出来ず、俯いたままだ。
二人きりの空間、そして絶対に味わいたくない雰囲気。
芝生の上に、孝章(朝美)の影がみえる。
でも怖くて、顔を上げられない。
重苦しい雰囲気の中、孝章(朝美)が朝美(孝章)の耳元でそっとささやく。
「……分かってるわね」
一言呟いた後、孝章(朝美)は他の社員がいる方に歩いていった。
目の前に見えていた孝章(朝美)の影が遠のいて行く。
朝美(孝章)は、右手で額の汗を拭った。
額が異常に冷たい。
「はぁ、はぁ、はぁ」
どうしてこんなに緊張しなければならないんだ。
もともと自分の身体なのに。
ちょっと叩かれるくらい平気なのに――。
だが、それを上回る威圧感を孝章(朝美)が放っているのだ。
叩かれるくらいで済むのか?
もっとひどい事をされるのでは――そんな気持ちが脳裏をよぎる。
朝美(孝章)はキュロットスカートに手のひらを擦(こす)りつけ、にじみ出る汗を拭った――。


もうすぐ朝美(孝章)たちの組だ。
かなりぎこちない動作で、孝章(朝美)のいるところに歩いて行く。
孝章(朝美)は、同じ組でプレーする二人と一緒にいるようだ。
この二人。どちらも朝美(孝章)より先輩で、三十歳前後の人。
会社では孝章によく仕事を教えてくれている。
二人とも良き先輩なのだ。
朝美(孝章)にとって、それだけが救いだった。
一人は須藤(すどう)さん、もう一人は城川(しろかわ)さん。
三人の前に歩いて行くと、早速須藤に声を掛けられた。
「ねえねえ、朝美ちゃん。今日の調子はどうだい?」
「あ、うん。あまりよくない……の」
少し俯き加減で須藤に答える。
「そうなのか?体の具合でも悪いの?」
今度は城川が話しかけてきた。
「えっ……そ、そんな事……無いけど」
微妙に笑いながら答える。
「篠河さん、今日はずっと元気がないですねぇ。もっと元気出してくださいよ」
孝章(朝美)に声を掛けられ、一瞬戸惑う朝美(孝章)。
チラッと顔を見ると、孝章(朝美)は楽しそうに笑っている。
その笑顔が逆に怖かった。
「げ、元気よっ。いつもどおり元気なんだから」
「そうですか。それならいいんですけど。頑張りましょう」
「ええ……」
孝章(朝美)が少し離れたところで素振りを始める。
身体の違いを確かめるように、ゆっくりとスイングしながらタイミングをあわせようとしていた。
朝美(孝章)もまた同じように、別の場所で軽く素振りをする。
身体が小さくなり、クラブもその分短くなっている。
コンパクトなスウィングが出来るので、クラブの軌道がいつもより正確に感じる。
「篠河さんの身体。なんとなく打ちやすいな……」
そう思いながら何度もスウィングする。
クラブのヘッドが何度も何度も同じ芝生の上を、軽く撫でるように通っていく。
「これなら……」
自分の身体ではないが、いつも打ちっぱなしで打っていたときよりもまともに飛びそうな気がする。少し自信が出た朝美(孝章)は、城川たちのいるところに戻っていった。
「朝美ちゃん、なかなかいいスウィングしてたじゃないか」
「そ、そうかしら」
「さては、また上位にくい込んで商品ゲットしようとしているな!」
「そんな事無いです……わ」
「なにそれ?」
「う、ううんっ。なんでもないの。気にしないで」
いつもの癖で、敬語が混じってしまった。
朝美がこの二人にはタメ口で話しているのを知っていた孝章。
どうやら孝章(朝美)には気付かれていないようだったので、ホッとしながら順番を待った。

少しして、朝美(孝章)たちの組の番になる。
あらかじめ金属棒で出来たくじを引いて、誰が先に打つかの順番を決める。
その結果、城川、孝章(朝美)、朝美(孝章)、須藤という順番になった。
何人ものギャラリーが見ている中、城川がティーアップを始める。
「やっぱり一番初めは緊張するなぁ」
「そうですね。僕も緊張します。篠河さんは?」
「わ、私も……緊張するわ」
「本当ですか?いつも余り緊張していないみたいですけど」
「そ、そうね。本当はあまり緊張していないの」
「やっぱり、さすが篠河さんですね。恐れ入ります」
「…………」
小声で話している中、城川がスウィングを始める。
身体を大きくひねった後、一気に振り下ろすと――。

キーンッ!

高い金属音と共に、ボールは一直線に伸びてゆく。
そして、全く曲がりもせずにフェアウェイを転がり、二百五十ヤード以上の飛距離をたたき出したのだ。
「スゲーや、あいつ」
「…………」
「ふ〜ん。やりますねえ」
ギャラリーに絶賛された城川が、ティーを抜き取り戻って来る。
「いやあ、あんなに飛ぶとは思わなかったよ。我ながらなかなかやるもんだ。はっはっはっ!」
すごくうれしそうだ。
朝美(孝章)は、とてもうらやましい・・・
あんな風に曲がらずまっすぐに飛ばせればなぁ・・・
そう思いながら、ティーアップする孝章(朝美)を見る。
別段緊張した雰囲気も無い。
一度だけ素振りをすると、呼吸を整えて一気に振りかぶる。
そして、すばやい腰の動きを見せながら、クラブのヘッドでボールを激しくたたき出したのだ。

キーンッ!

先ほどの城川よりは少し低い音でボールが飛んでゆく。
しかし、そのボールは城川が打ったときよりも更に遠くに飛んでいた。
フェアウェイにボールが落ちると、城川よりも十ヤード以上向こうまで転がっていったのだ。
「ふんっ。やっぱりこの身体、よく飛ぶじゃない」
小さくつぶやくと、孝章(朝美)は朝美(孝章)たちのいるところに歩いてきた。
みんなあっけに取られている。もちろん朝美(孝章)も。
まさか、自分の身体であんな風にボールが飛んで行くとは思っても見なかったからだ。
「ど……どうしたんだ?」
「どうなってるんだ……まぐれか?」
「す、すごい……」
三人の驚いた顔を見ると、頭を擦りながら参ったという表情をする孝章(朝美)。
「いやあ。僕もビックリしましたよ。あんなにボールが飛ぶなんて。これも篠河さんに少しづつ教えてもらった成果かなぁ。あははは」
「いや、驚いたよ。まさか俺よりも飛ばすなんてな」
「ああ。俺だってあんなに飛ばせないぜ」
「…………」
誰もが、その飛距離を絶賛している間に朝美(孝章)は一人、ティーアップを始めた。
「みんなが篠河さんに気を取られている間に……」
ティーにボールを乗せ、クラブを構える。
いつもよりボールが近くに見える感じ。
元の身体の時のように、大きめに足を開こうとするとキュロットスカートがこれ以上開けないと、生地をピンと張って太ももを縛り付けている。
「……まあいいか。このまま打ってしまおう」
そう思って一呼吸した時、後ろから大きな声が聞こえた。
「篠河さ〜ん、頑張ってくださいねぇ〜!」
孝章(朝美)だ。
その声に、周りにいた人たちが一斉に朝美(孝章)の方を見た。
「あ……」
みんなの視線を浴びた朝美(孝章)は、一気に緊張した。
鼓動が早くなるのを嫌でも感じるのだ。
「し、篠河さん。こんな時に声援しなくても……」
小さくつぶやきながら、それでも決心を固めた朝美(孝章)はバックスウィングを始めた。
さっきやった素振りのように、軽い気持ちで振ればいいんだ・・・
そう思いながら、一気にクラブを振り下ろす。

キーンッ!

さすが朝美のクラブだ。
高価なクラブから甲高い金属音が響く。
そして、ボールは比較的まっすぐ飛んでいき、先ほどの二人には及ばないが、二百ヤード付近まで転がり、とりあえずフェアウェイで止まった。
「や、やった!初めてまともに飛んだっ」
嬉しさを噛み殺しながら、ティーを抜いて三人の待つところへ。
「朝美ちゃん。なかなかいいところに飛んだよね」
「ああ。あそこならグリーンがよく見えるし。直接狙えるんじゃない?」
「いやあ、いくらなんでも無理っすよ」
「あはは、朝美ちゃん面白いしゃべり方だな」
「え……あっ!」
有頂天で話す朝美(孝章)は思わず手で口を塞いだ。
しかし、時既に遅し――。
ちゃんと孝章(朝美)は聞いているのだ。
「篠河さ〜ん。もしかして僕の真似をしてるんですかぁ。恥ずかしいからやめて下さいよぉ〜」
また低い声で笑いながら話している。
しかし、その目は非常に鋭く朝美(孝章)をにらみつけているようだった。
「…………」
「さて、最後は俺の番か。三人にいいとこ見せられちゃあ俺だって頑張らないとなっ」
須藤は早足で歩き、ティーアップを済ませた。
そして、スッと構えるといきなり振りかぶり、強靭な筋肉を使って一気にボールをたたき出したのだ。

キーンッ!

これまたすごい金属音が響き、非常に低いところを矢のようにまっすぐ飛んで行く。
そして、そのまま芝生に跳ねると、かなりの距離を転がって、一番遠いところで止まったのだ。
三百ヤードは飛んでいる。
「よっしゃぁ!」
須藤はガッツポーズをしたあと、ティーを抜いて三人の待つところに戻ってきた。
「はいはい、恐れ入りました、須藤さん」
「任せとけって!飛距離なら誰にも負けないぜ」
「またまた。お前もまぐれだろ」
城川と須藤が笑顔で会話をしている。
「僕もあれだけ飛ばせるようになりたいなあ」
孝章(朝美)は小さく呟いたあと、「それじゃ、早くカートに乗って第二打を打ちに行きましょうか」と声を掛けた。
「ああ、そうだな」
四人はカートに乗り込むと、スイッチを入れて動かし始めた。
前の座席には須藤と城川。後ろの座席には孝章(朝美)と朝美(孝章)が乗っている。
孝章(朝美)は、ズボンのポケットに手を入れ、そっと朝美(孝章)の耳元で囁いた。
「どう?胸を刺激される気持ちよさは?気に入った?」
「んんっ。や、やめて……ください」
「あれぇ、また敬語使ってるし」
孝章(朝美)がポケットの中で、何やらごそごそ手を動かしている。
「ああっ!!」
朝美(孝章)が、ビックリしたような声をだすと、前の二人が振り向いた。
「どうしたの、朝美ちゃん」
「んっ!ううん。何でも……ないの」
声を震わせながら無理に笑顔を作る。
足を閉じて太ももの上で拳を作って、何かグッと我慢しているような仕草。
「気分でも悪いのか?」
「そ、そんな事……ないの。ぅぅん」
「そうか。ほら、あそこに朝美ちゃんのボールが転がってるよ」
カートが止まり、須藤が朝美(孝章)のボールを指さした。
「う、うん。ありがと」
朝美(孝章)は、孝章(朝美)の目を見て何かを訴えようとした。
でも、孝章(朝美)はニコッと笑うだけで何も答えてはくれない。
「ふぅっ……」
朝美(孝章)がゆっくりとカートから降りると、城川もカートから降りてクラブを選んだあと、少し前にある自分のボールのところまで歩いて行く。
朝美(孝章)も、彼と同じようにクラブを選んだ後、自分のボールの所まで歩いていった。「あっ、んんん。や、やめて……くれ……」
朝美(孝章)は、他の三人に気付かれないよう、クラブを持っていない手でブラジャーごとポロシャツを前に引っ張った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ブラジャーの、ちょうど胸の突起が当る所がブルブルと振動している。
どうやらブラジャーの中に小型のバイブレーターが仕組まれていたようだ。
孝章(朝美)が、ズボンに隠し持っているスイッチで始動させていたのだ。
「こんなの付けてちゃ、まともにプレーできないよ」
そう思っても、クラブは両手で握らなければならない。
必然的に、ブラジャーは胸を覆い隠してしまう。
「篠河さん。なんて事するんだ……」
ボールの前に立ち、クラブを構えようとする。
「どこまで我慢できるか……」
朝美(孝章)は、片手で引っ張っていたポロシャツとブラジャーを
ゆっくりと元に戻した。
ブラジャーが胸に当るに連れ、小さな振動が胸を揺さぶり始める。
「んんっ。うぅ」
胸から伝わってくる気持ちよさを感じながら、両手でクラブを握る。
「はぁ、んんん。あ、あうっ……」
クラブを握る手に力が入った。
顔をやや上にあげながら、背中を反らせて両脇をギュッと締めつける。
自然と膝を屈め、内股になってしまう。
「ああっ。さ、さっきより……振動が……」
カートから小さく見える朝美(孝章)の仕草を見て、かなり楽しそうな顔をしている孝章(朝美)。 ズボンのポケットに手を突っ込み、リモコンのボリュームスイッチを強めにセットしている。
「うふ!あの仕草。ああ、たまらないわ。私って、なんて仕草をしてるの?気付かれちゃうわよ」
朝美(孝章)は、快感を体中で感じている仕草を見ながら「萌え」ていた。
内股でなかなかボールを打とうとしない、いや、打てない朝美(孝章)に大いにそそられるようだ。
「はぁ。あっ、ううんっ」
朝美(孝章)は、ブルブル震えるブラジャーに気を取られながら、ようやく少し足を開き、弱弱しくスウィングを始めた。
「うっ!んんっ」
バックスウィングの頂点まで振り上げたあと、そのままクラブを振り下ろす。

ザッ!

クラブのヘッドが芝生をえぐり、ボールは土ごと前に飛んでいった。
ダフリながらも、とりあえず前に飛んだ。
そして、まだグリーンまでは距離があるが、フェアウェイはキープしているようだ。
「うう。はぁ、はぁ、んんっ」
打ち終えた朝美(孝章)は、すかさず胸からポロシャツごとブラジャーを引っ張った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ブラジャーが胸から離れているにも関わらず、朝美(孝章)の胸は先ほどの振動がまだ残っているかのようにジンジンと気持ちよい感覚を脳に伝えていた。
「はぁ。む、胸が……」
朝美(孝章)は、引っ張っているポロシャツの襟元から、朝美の胸をふと見た。
胸の突起がプクッと膨れているのがよく分かる。
「し、篠河さんの……胸だ……」
思わずその豊かな二つの生胸を見つめる。
ポロシャツの中から、もわんとした生温かい熱気と、かすかな石鹸の香りが立ちこめた。「…………」

トンッ!

いつの間にか握る力が緩んでいたようだ。
片手に持っていたクラブが、芝生の上に落ちた音で我に返る。
「はっ!」
あたりをキョロキョロ見回すと、既に打ち終わっていた城川がカートに戻って、後ろに積んでいるケースにクラブを入れているところが見えた。
「あ、まずい」
いつの間にか、ブラジャーの振動が止まっている。
朝美(孝章)は急いでカートまで戻り、クラブをケースに入れて孝章(朝美)の横に座った。「篠河さん、打つまでずいぶん時間がかかってましたね」
「え、ええ」
朝美(孝章)が、すこし赤い顔をしながら答える。
「ダフッてましたね」
「ええ、ちょっと失敗したみたい……」
「へぇ〜、篠河さんでもフェアウェイで失敗するんですね」
「目にごみが入っちゃって……」
「あ〜、なるほど。それで変な仕草してたんですねぇ」
「…………」
孝章(朝美)は、意地悪く朝美(孝章)をからかった。
「早く行こうか。次の人が待ってるから」
「ああ」
須藤と城川は、後ろの二人の会話を適当に聞き流しながらカートを走らせる。
そして、少し移動したあと、カートを停めた。
ここからは四人がお互いにボールを打ちながらカートで移動。
四人は数本のクラブを片手に、それぞれのボールをグリーンに向かって打ち上げる。
「ああっ!ま、また……」
朝美(孝章)も他の三人と同様、先ほど打ち損じたボールを打とうと構えたのだが、またしても孝章(朝美)が、ブラジャーについているバイブレーターを振動させ始めた。
朝美(孝章)は、顔をしかめながら――というか眉を歪め、色っぽい顔をしながらボールを打つのだ。

コンッ!

今度はボールの頭を叩いてしまい、コロコロと転がって行く。
しかし、またしても運良くグリーン前で止まったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
き、気持ち……いい……。
朝美(孝章)は、嫌がらせをされながらも、どこかこの快感を楽しみはじめていた。
ボールはうまく飛ばせなくても、胸から伝わってくる気持ちよさが朝美(孝章)の気持ちを沈めることは無かった。
身体をふらつかせながらも、もう一度打ち直し、なんとかグリーンに乗せる事が出来た。既にグリーンに乗せていた三人と共に、パターを持ってグリーンに集まる。
「俺が一番遠いか」
須藤は呟きながら、ボールの後ろにしゃがんでラインを読む。
「ちょっと難しいか……」
ラインを読み終わった後、パターを握りなおして構える。
「篠河さん。今、声出しちゃ須藤さんに悪いですよ」
「えっ?」
小声で朝美(孝章)につぶやいた孝章(朝美)。
孝章(朝美)の右手はポケットの中でごそごそ動いている。
「ちょ、ちょっと待って。今は……あうっ!」
ビクンと武者震いのように身体を震わせると、持っていたパターごと両手でスカートの上を押えた。下半身の力が一気に抜けるような感覚がして足に力が入らない。
強制的に内股にならざるを得ないその感覚は、朝美(孝章)にとってはあまりに刺激的すぎた。
「はあっ。ううう……んん。う〜」
「朝美ちゃん、ちょっと静かにしてくれないかな」
構えていた須藤が朝美(孝章)の方を見ながら注意する。
「んんっ!ご、ごめんなさい……ぅぅっ」
声を殺して下半身からの快感に耐える。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
息をするのもままならないという感じだ。
パンティに仕込まれたバイブレーターが酷く股間を刺激していた。
孝章(朝美)は、その姿を見てとてもうれしそうだ。
涎を垂らしながら喘いでいる姿、いや、我慢している姿に見とれている。
「……いいよ、すごくいいよ。そうやって必死に我慢している姿が何ともたまらない」
いつの間にか、孝章(朝美)ズボンの前は、モッコリと膨れ上がっていた。
男として興奮しているのだ。
「はぁ、んんん。と、止めて」
目を潤ませながら訴えるように小声で話す朝美(孝章)。
その表情も何ともたまらない。今から襲いたいという欲望にかられる孝章(朝美)だったが、みんながいるのでそれは出来ない。ポケットの中のリモコンを操作し、ごく微量の振動だけを送るようにセットする。
「このくらいなら大丈夫ですよね、篠河さんっ」
「…………」
先ほどよりもかなりおとなしくなったパンティに、少しホッとする。
だが、それでもジンジンと伝わってくる微妙な振動が下半身を徐々に熱くするのだ。

お、女の身体ってこんなにすごいのか・・・

男のそれとはあまりに違う。
須藤があの長い距離を見事に沈めたところを見て「ナイスイン!」と声を掛け合う二人。朝美(孝章)もすごいと感じてはいたものの、今はこの身体を制御する事で頭がいっぱいだった。

出来るだけ身体のことは気にしないようにしよう。
ゴルフに集中するんだ。

そう決心しながらも、下半身の疼きは朝美(孝章)の集中力を乱し、結局三回目にやっと入れることが出来た。
一ラウンド目からこんな調子じゃ、百%最下位になってしまう。
朝美の身体だから別にいいと言えばいいのだが、金を払ってゴルフをしている孝章としては、多少はそれなりの成績(スコアー)を残したい。
でも、こんな事をされていては――。


その後、最後のホールになるまで孝章(朝美)の嫌がらせは続いた。
一緒に回っている須藤と城川も、朝美(孝章)の異変には気付いていたが、時折見せるそのセクシーな表情と、男心をくすぐる何とも言えない仕草を見ていると、なぜかそのまま見ていたいという欲望にかられてしまうのだった。
二人とも篠河朝美と橋板孝章が入れ替わっている事に気づいていないだけでも救われている。
朝美(孝章)はそう感じていた。
ふらふらしながら十八ホール目のカップにボールを入れる朝美(孝章)。

これでやっと解放される――。

下半身を震わせながらも、やっと終わったという思いから安堵の表情が現れる。
結局、須藤と城川は八十台前半のスコアーまとめた。
孝章(朝美)は九十台後半というスコアーで無難にまとめている。
自分の身体ではないのに、よくこんなスコアーを出せるものだ。
そして朝美(孝章)は、百三十五というスコアー。
もちろん最下位。
だが、前回は百四十九だった事を考えると、朝美の身体なのに十四も縮めた事は奇跡といえよう。まあ、この一年で素振りを頑張った成果でもあるのか。それとも、朝美の身体だったからこそ縮められたのかもしれない。
「最下位ですねぇ。今日は調子悪かったんですか?」
「え、ええ。ちょっとね」
全員のスコアーをまとめた成績表が貼り出される。
みんな、孝章(朝美)の成長振りに驚いているようだ。
孝章(朝美)よりもスコアーの悪い社員が何人もいるのだ。
「どうしたんだよ。お前がこんな成績で上がるなんて、何か細工でもしたんじゃないか?」
「まったく信じられんな。一年でこれほど成長するものなのか?」
「細工なんてしてませんよ。俺たちがちゃんと見ていたんだから。なあ、城川」
「ああ。正々堂々とやってたさ。それよりも朝美ちゃんがなあ……」
城山は孝章(朝美)をフォローしつつ、朝美(孝章)を気遣っていた。
「き、今日は調子が悪かったのよ。次はまた上位を狙うから……」
「そうですね。僕よりも悪かったんだから、今度はがんばってくださいよ。篠河さん!」「…………」

――その後、軽く打ち上げをしたあとに、みんな家路につく事にした。
それぞれ車に乗って帰ってゆく。
「朝美ちゃん、ちょっとどこかに寄ってかないか?」
城山の誘いに、朝美(孝章)は「ううん。今日は疲れたから……」と言葉を返した。
「そっか。それならしょうがないな。また今度誘うよ」
「うん。ありがとう」
「じゃあな」
城川がゴルフ場を後にすると、残っているのは朝美(孝章)と孝章(朝美)の二人だけになった。
なぜか朝美だけは着替えずにそのまま。
白いポロシャツに赤いキュロットスカートで孝章(朝美)の前に立ち止まる。
「あれぇ?着替えないんですか?その様子じゃシャワーも浴びてないみたいですねえ」
クラブハウスの風呂に入り、着替えを済ませた孝章(朝美)がさっぱりした表情で話し掛ける。
「あなたがそのままでいろって言ったからじゃないの」
少し膨れた顔で言い返す。
「ああ、そうでしたっけ。はははは・・・いやあ、うまいですね。すっかり篠河朝美じゃないですか」
「も、もういいでしょ。元通りにしゃべっても」
「……んふっ、いいわよ。ゴルフも終わったんだからね」
安堵の表情の後、朝美(孝章)は自分の言葉でしゃべり始めた。
「ふぅ、篠河さん。もう元に戻りましょう。僕は疲れました」
「疲れた?ウソでしょ。プレーしている時は全然そんな表情しなかったじゃない」
「してたでしょ。もう身体がボロボロですよ」
「ボロボロじゃないでしょ。気持ちよくて仕方がないくせに……」
孝章(朝美)がまたリモコンのスイッチを入れると、朝美(孝章)の身体がビクンと震える。
「ああっ!ま、また……」
「素直に気持ちがいいって言いなさいよ。分かってたのよ、途中から私の身体で快感を楽しんでいた事」
「そ、そんな事……ううんっ」
「その身体の持ち主が言うんだから間違いないわよ。私が気持ちいいと思うようにセットしておいたんだから」
「んっ」
「んふ。いいわ、その表情。どうしてそんなに切ない顔が出来るのかしら……。私、もうドキドキしちゃう」
「し、篠河さん。あっ」
「大丈夫よ、心配しなくても。さあ、元の身体に戻るために駐車場に行きましょうか。ここじゃ、人に見られるから」
「……はい」
今の朝美(孝章)は、孝章(朝美)に従う以外の選択はなかった。
ぎこちない歩き方で孝章(朝美)の後をついていくと、入れ替わった時と同じ場所に着く。「誰もいないわね」
「うっ。そ、そんな事より、早く元に戻してくださいっ」
「どうしたの?その表情……。あら、そう言えばスイッチを入れたままだったわね。ふふふ」
いやらしい笑みを浮かべながら朝美(孝章)の表情を楽しんでいる。
「と、止めてくださいよ。早くっ」
「んふ。もうちょっとあとで!」
孝章(朝美)はうれしそうに朝美(孝章)の前にしゃがみ込んだ。
「んっ。な、何するんですか?」
「篠河さんの身体、今どうなっているのかなって思ってねぇ」
下から見上げるように朝美(孝章)の顔を見ると、両膝の上のあたりを両手でスッと撫で始める。
「あ……あ、朝美さん。何を……」
「だから大人しくしてなさい。でないと元に戻らないわよ」
「ちょ、ちょっと……。ま、待ってくださいよ……はぁ……」
「柔らか〜い。太ももにパンストが貼り付いてるわ」
朝美(孝章)を立たせたまま、太ももを優しく撫でた。
そしてキュロットスカートの下から侵入した両手がお尻をやさしく這い回る。
パンストの感触が何とも気持ちいいらしい。
朝美(孝章)は何度も何度もキュロットスカートの中で両手を這い回した。
「ふぅっ。んううっ……」
胸の下で両腕を組み、グットと力を入れて我慢する。
太ももをギュッと締めて、その手から逃れようと腰を動かすが、股間を刺激するバイブレーターと、優しく愛撫するように這い回る孝章(朝美)の手を完全に拒む事は出来なかった。
「はぁ、はぁ、んん。あ、朝美……さ……ん……」
必死に抵抗する朝美(孝章)の表情を見て、余計に欲情する。
孝章(朝美)の手が、キュロットスカートの中でお尻から前のほうに移動した。
お腹の少し下の辺りを優しく撫でたあと、そのまま下に移動して――。
「ああっ!そ、そこは!はぁぁぁ〜っ」
「ああ。たまらない……。その顔、なんてセクシーなの?」
両手の親指でパンスト越しに股間を刺激する。
その指にバイブレーターの振動が伝わる。
一番感じるところに押さえつけられているので、もう何ともいえない気持ちよさが湧き出てくる。
「ああ!あっ、あっ、あうっ、はぁっ!」
孝章(朝美)が、親指で押し付けるたびに朝美(孝章)の口から切ない喘ぎ声が漏れている。朝美(孝章)はその声を聞くたびに、激しく鼓動を打ち鳴らすのだ。
「い、いい。いいわぁその声。んんんっ、ゾ、ゾクゾクするのっ」
朝美(孝章)の顔を見上げながら、その声と表情を堪能する。
組んでいる腕に力を入れ、けなげに我慢している朝美(孝章)。
足をガクガクと震わせ、今にも倒れそうな感じ。
「う、うふっ。あ、ああ、だ……だめ……だ」
足の力が入らなくなり、徐々に腰が下がってくる。
胸の下で組んでいた両手は、刺激を送りつづけている孝章(朝美)の手をキュロットスカートの上から掴んでいた。
孝章(朝美)は、それでも刺激しつづけている。
「はぁ、はぁ、そう。そんなに気持ちがいいの?ああっ。私、もう我慢できない」
あまりに可愛らしくセクシーに感じた孝章(朝美)は手を抜いたあと、キュロットスカートの前に付いているボタンを外してチャックを下まで降ろした。
「手を……後ろを向いて手をつきなさいっ」
「ああっ!」
孝章(朝美)は強引に四つん這いの体勢を取らせると、キュロットスカート捲り上げ、パンティごとパンストを太ももまで降ろした。
目の前には、しみ一つない朝美(孝章)の綺麗なお尻が現れる。
「はあっ、はあっ、はあ」
孝章(朝美)は目をむいて穿いていたスボンとトランクスを膝まで下ろすと、左手で朝美(孝章)の腰を、右手で大きくいきり立っているムスコを手にした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
何をされるのかはすぐに分かった。
四つん這いになりながら後ろを見ると、見慣れた物が近づいてくるのが見える。それが突き出したお尻に隠れると、入口に当る感触がした。
「あっ」
「その顔、もう最高よっ!」
「う……うあああっ!」
身体の中に何かが入ってくる感覚。
生温かいものが、お腹の下にめり込んでくる。
それと同時に、身体を揺さぶる快感が全身を駆け巡った。
朝美(孝章)は猫のように背筋を伸ばした。
「ふああっ!あああっ」
「んんっ。あっ……いい。暖かいわ」
根元までムスコを挿入した孝章(朝美)は、その包み込む暖かさをじんわりと感じていた。両手を朝美(孝章)の腰にあてがい、しばらくそのままの体勢をとる。
「ああ……。し、篠河……さん」
苦しそうに――いや、その瞳は涙で潤っているが、決して嫌がっている表情ではない。
口を半開きにしたまま、孝章(朝美)の方を見ている。
「はぁぁ。どうしてそんな表情で私を見るの?どうして?」
孝章(朝美)の気持ちは、もう「イって」いた。
いきなり激しく腰を動かし始めた孝章(朝美)は、お尻がパンパンとぶつかる音を聞きながら、よだれを垂らして遠くを見つめている。
「うあっ!ああっ、あっ、あっ、んくっ。はあうっ!」
急に腰を動かされ、対応しきれない朝美(孝章)。
強制的に身体を前後に揺さぶられ、湧き出る快感になす術がない。
「あっ。あはっ、あはっ、あはっ」
耳に入る朝美(孝章)の声が、孝章(朝美)の気持ちを更に高ぶらせる。
あっ!なっ……す、すごっ……い。あ、ああっ」
初めて味わう女性の快感に、どうする事も出来ない。
身体の中を激しく出入りする元自分のムスコ。
自分に犯されているのだという錯覚に陥りながら、果てしなく湧き出てくる
女の快感に理性を奪われてゆくのを感じていた。
「あ、あんっ。あんっ。うあっ、あうっ。あうっ!」
「ふんっ。はぁっ、も、もっと……声を……出だすのよっ!」
孝章(朝美)が少し怒鳴るような低い声で命令する。
「ううっ!女らしく。はぁ、はぁ、女らしく喘いで。は、早くっ」
「あ、あ、あんっ。あはっ!ああん!」
朝美(孝章)は、より一層高い声で女性らしい喘ぎ声を漏らした。
「ああっ!そ、そう。そうよ。いいっ、はぁはぁ。いいわ、その声。あっ、わ、私っ……もうっ」
少しぎこちない腰つきになったあと、更に激しく腰を動かす孝章(朝美)。
身体の奥深くまで突き上げてくるムスコは、女性としての喜びを、いや、その限界を確実に朝美(孝章)に告げていた。
もう踏ん張っていた両手に力が入らなくなり、お尻だけを上げて前のめりになる。
地面が前後に揺れるのを眺めながら自然に出る喘ぎ声すら止める事が出来ず、ただ終着駅がそこまで近づいてきている事を予感していた。
「んんっ!ああっ。あああ、はああう、ふああっ」
「あっ!すごいっ!そんなに締め付けないでっ。あっ!」
「んあああっ!あっ。あっ!ああっ!」
「はあああっ。ああっ、あああ〜っ。あうぅ〜」
――腰の動きがゆっくりと力強いものになったあと、全てを出し尽くしたかのように腰を静める。その腰に合わせるように朝美(孝章)のお尻も沈んだ。
そして、正座した孝章(朝美)のムスコが朝美(孝章)の中から外れると、ドロッとした液が出てきた。
「んん……んんん」
猫のように丸まって、体中で快感を味わう朝美(孝章)。
「はぁ、はぁ、はぁ。んん……はぁ〜」
孝章(朝美)は息を切らせながら放心状態になり、天を仰いだ。
しばらくして――。

「ふぅ〜。もう最高だったわ。なんて素敵な喘ぎ声なの?私、あの声だけでもう一回イッちゃいそう」
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「ねえ、服を着てシャワー浴びてきなさいよ」
「はぁ、はぁ。し、篠河さん……」
「なに?」
「元に……元の身体に戻してもらえるんですよね」
「んふっ!そうね。先にシャワーを浴びてきたらね」
「……わ、分かりました」
朝美(孝章)はロッカーの場所を聞いた後、服を元通りに戻してからフラフラとした足取りでクラブハウスに入っていった。
「よかったわぁ。ああ、ちょっと考えただけなのに……」
孝章(朝美)のムスコが、また大きく膨れ上がっている。
「私も、もう一度シャワーを浴びればよかったかしら」
そう言うと、ヌルッとしたムスコをトランクスにしまいこみ、しわくちゃになったズボンを穿きなおした。

――二十分後、クラブハウスのロビーで私服の朝美(孝章)と、スーツ姿の孝章(朝美)がソファーに座っていた。
「ねえ、どうだった?私の身体」
「そ、そんな事より早く僕の身体に戻して下さいよ」
「私が先に聞いてるのよ。どうだったの?私の身体は」
「ど、どうだったって……どういう意味ですか」
「んふっ。そうやってごまかす事自体が答えになってるわね」
「な、何の事ですか」
「よかったんでしょ。私の身体」
「…………」
「もっと女性の快感を味わいたいんでしょ」
「そ、そんな事……」
「シャワー浴びながら何してたの?」
「な、何って……べ、別に。ただ……シャワーを浴びただけですよ」
「私の胸、柔らかかったでしょ」
「…………」
「私のあそこ……まだ火照ってたでしょ?」
「…………」
「本当はまだ私の身体でいたいんじゃないの?」
「そ、そんな事ないです。自分の身体に戻りたいんです」
「ふ〜ん。そう、そうなの。その身体でもっと快感を味わいたいと思わないの?」
「……お、思いませんよ。別に……」
「いいのよ。私はこのままでも。あなたがそれを望むなら」
「望んでなんか……いませんよ……」
「いつでも元の身体に戻れるのに?」
「……い、いつでも」
「そう、いつでもよ。あなたが戻りたいと思えばいつでも……ね」
「本当……ですか」
「んふっ。ええ、本当よ」
「…………」
「やっぱりね……」
「……その……」
「いいわ。しばらくその身体を貸してあげる。その代わり私の言う事は何でも聞くのよ。分かった?」
「……は、はい」
孝章(朝美)はその返事を聞くとニヤ〜っとした、いやらしい笑いを見せた。
朝美(孝章)はその笑いが意味するところを知る由もなかった――。


――数日後。
今日もいつもどおりの業務をこなす社員達。
二人も普段どおりの生活を始めていた――。
「篠河さん、この書類はどうすればいいんですか?」
「ああ、それなら田中君に渡しといてくれる」
「はい。分かりました。あ、それからちょっと相談があるんですが……」
「何?」
「ちょっとここでは……」
「……いいわ。向こうに行きましょ」
「はい」
二人は廊下の突き当りを曲がった、誰もいない小さな会議室に入った。
「どうしたの?」
「あの……今日は何色のパンティを穿いてきたんですか?」
「……く、黒よ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「……ええ……」
朝美が両手で赤いタイトスカートの裾をゆっくりと持ち上げると、肌色のパンストに包まれた黒くてセクシーなパンティが現れた。
「うわぁ。いいですね、すごくセクシーだ」
「も、もういいでしょ」
「あれ、付けてますよね?」
「…………」
「ねえ、付けてるんでしょ。」
「……だって」
「……約束ですもんね」
「分かってるわよ」
「じゃ、いいですか?」
「……え、ええ」
「へへ・・・それじゃあ失礼して」
孝章がズボンのポケットから見覚えのあるリモコンを取り出す。
「じゃあ入れま〜す」
孝章はリモコンのスイッチを一つ押した。
「ああっ!」
朝美はタイトスカートを持っていた手を離すと、そのまま股間にあてがった。
「いい顔してますね。もうちょっと強くしますから。」
「えっ、あ、ちょっと……はぁっ!ああんっ」
「うわあ!いい声だ。なんてセクシーなんだ」
「あ、ああ……と、とめて。お願い……」
「こっちもいいでしょ」
そう言いながらもう一つのボタンを押す。
「うわあっ!はぁぁぁ、あうう」
その刺激に、朝美は片手で股間を、もう片方の手で胸を押えた。
「あ、ああ、あ、はぁ」
「ああ。いい、いいよぅ。なんていい声なんだ」
「お願いだから……もうやめて。篠河……さん」
「僕は橋板孝章ですよ。篠河じゃあありません」
「はぁ、はぁ、はぁ。ううっ。お願い……しますから」
「もう。折角いい声出してるのに。それなら少し緩めてあげるから、このまま戻るわよ」
「こ、このままって……」
「いいわよねぇ、みんなの前でそんな表情してくれるなんて。もうたまらないわ」
「…………」
もっこりとした股間を押えながらニヤニヤ笑う孝章。
それを見た朝美は何も言う事が出来なかった。

――あれから一度も元の身体には戻っていない。
孝章は、朝美のいいなりになるしかなかった。
女性の快感に目覚めてしまった孝章は、この快感を手放す事が出来なくなっていたのだ。それをいい事に、孝章を奴隷のように扱う朝美。
そう――孝章は朝美にとって、性の奴隷になってしまったのだった。



ゴルフ場の悲劇(後編)……おわり









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