第四幕 その10
JuJu


「そんなっ! 大切なところに指を入れるなんて、怖くて、わたしにはできません!」
 真緒はおびえて、顔をふせた。
 しばらく、沈黙の時間が過ぎる。
「頼む……」
 敏洋は嘆願の混じった声をあげた。気持ちのこもった声に心を動かされ、真緒はふたたび顔を上げる。
 そこには、せつない顔で真緒を見すえている女性がいた。その表情に、真緒はおもわず、敏洋が肉体だけでなく、心まで女性になってしまったのではないかと思った。それほど彼の顔は、『女性』そのものだった。
 真緒は敏洋の表情から、彼の体が、快感を求める女性としての回路が入ってしまっていることを悟った。ここでとめられるほど辛いものはないことは、真緒も先ほどの性交で理解していた。
 敏洋の体をここまで火照(ほて)らせてしまった責任は自分にある。こうなってしまった以上、敏洋の体を静めるために、最後までやるしかない。
 そんなふうに思案をめぐらせて、黙り込んでいた真緒に、ふたたび敏洋が声をかけた。
「真緒?」
 真緒は、顔に決心の色を浮かべながらうなづいた。
「わかりました。脚をひらいてください」
 真緒が礼拝堂の床に毛布を敷きなおす。敏洋はその上にお尻をついて座った。
 真緒が敏洋の目の前に正座をすると、敏洋は真緒にむかって両脚をひらいた。
 真緒は上半身をのりだし、敏洋の脚と脚のあいだに向かって腕を伸ばす。
 指先を追う敏洋の視線を感じながら、真緒は人差し指を敏洋の女の部分に近づけていった。
 ついに敏洋の女の割れ目に、真緒の人差し指があたった。
 だが指の進行は、そこでとまってしまう。指先に伝わる、敏洋の大切な場所の感触が、真緒の決心をにぶらせたのだ。
 真緒の指は、中に入ろうとしたり、やめたり、と敏洋の大切な場所で立ち往生をくり返した。
 そのことがかえって敏洋の体を刺激したようで、真緒がとまどうたびに、彼はこきざみに何度も体をふるわせた。
「真緒……、そろそろ……」
 敏洋のさいそくする声に、真緒はわれに返った。敏洋をじらしていたことに気がついた真緒は、下くちびるを噛むと、女の中に指を進めた。
 敏洋の女の部分は愛液でぬれていて、真緒が驚くほど指がすんなりと入りこんでゆく。
 真緒は、敏洋の女の部分が指にからみついてくるのを感じた。
「す、すごいです……。とても締めつけてきます。それに暖かい。これが、女の人の中……」

   *

 敏洋は目を閉じて、自分の体の中に入ってくる真緒の指の感触を楽しんでいた。
 待ちわびていた時が、ようやく訪れたのだ。
 そう思うと、感動でおもわず全身が震えてしまう。
「そのまま、指を動かしてくれ……」
「はい」
 敏洋はあそこに入った真緒の指が動くたびに、股間から快感がつぎつぎとあふれてくるのを感じ取った。
 敏洋だって男だ。オナニーくらいする。だから、股間から生まれる快感くらい知っているつもりだった。だが、同じ股間からくる快感でも、女の快感は男のものよりもはるかに強い。そのすごさに、敏洋は怖れさえ感じていた。
 だが、その感動も長くは続かなかった。すぐにさめてしまう。快感に酔う敏洋の男の心とは逆に、淫魔の女の体は、まったく満足していなかったのだ。淫魔の体は、『指がたったいっぽん、それも女の子の細い指、そんなものでは、とうてい満足できない』と、彼の心に不満を訴えていた。
「……。
 だめだ! このていどでは体が満足しない。もっと快感をくれ」
「え!?
 で、でも! 大切な場所の中に、指を入れたんですよ? 中で指も動かしもしました。
 これ以上って、いったいどうしたらいいんですか?」
「……指を増やしてくれ」
「でも……」
「他に方法が思いつかないんだ。たのむ……」
「……」
 とまどう真緒だったが、他に方法もなく、敏洋にしたがうしかなかった。
 敏洋は自分の体の中に、二本目の指が入ってくるのを感じた。
 それでもまだ、彼の淫魔の体は満足をしなかった。
 敏洋は、三本目の指も切望した。
 三本目の指が入ってくる。かすかに震える指先から、真緒の心配する気持ちが伝わってくる。
 だが、真緒の心配とは逆に、敏洋は快い感覚に酔っていた。
 真緒の指が増えるごとに、敏洋の快感も増してゆく。わずかずつだが、自分の体が満足に向かっているのを感じられていた。
「もっと! 指を!」
「えっ? もう三本も入れているんですよ……。これ以上は……」
「欲しいんだ。そうしないと、この体が満足をしない。
 たのむ、指を増やしてくれ!」
「……」
 真緒はうつむくと押し黙ってしまった。動かしていた指も、敏洋の体の中に入れたままで止まってしまう。
「真緒もわかっているとおり、俺の体は欲情した状態のままだ。こんな状態がいつまでもつづいたら、気が狂ってしまう。抜け出すには、快感で最後までいくしかない。それしか方法はない。
 ――だから、真緒に、最後までいかせて欲しいんだ」
「……わたしに?」
「こんなことを頼めるのは、真緒しかいない。
 真緒だけが頼りなんだ」
「……わかりました。
 敏洋さんがそこまでわたしを求めているのならば、わたし、やります」
 正座をしていた真緒は、さらに腕を伸ばすために、敏洋に向かって動物のように四つんばいになった。
「敏洋さんのためならば、わたし、どんなことでもできます」
 真緒は四本目の指を入れて、その指を敏洋の体の中で激しく動かした。

 *

 教会の暗闇のなか、ステンドグラス越しの静かな月あかりが、ふたりの女を照らしだしていた。
 シスターにむかって脚を開く淫魔と、四つんばいになって、その淫魔の股間に片腕を伸ばすシスター。
 なまめかしい淫魔のあえぎ声と、シスターの熱い呼吸。そして淫魔の股間で、指を動かすたびに生まれるいやらしい音。それらが、静寂の礼拝堂にひびきわたっていた。

 *

「だめだ。……まだたりない……真緒、もっとだ、もっと……」
 真緒は自分の手を見た。すでに四本もの指が、敏洋の体の中に入っているのが見えた。これ以上増やすと言うことは、五本の指すべて入れることになる。指が五本も入るアソコと言うのは、真緒の常識を超えていた。
 それでも真緒は、言われるまま、五本目の指を入れた。
 すると、とうとう五本の指全部が入ってしまった。
「ぜ……全部入りました……。これでいいですか?」
「ああ。そのまま奥まで……」
「そんな……」
 そう言いつつ、真緒は敏洋の命令通りに、ゆっくりと腕を押す。すると、たいした抵抗もなく、手首まで入ってしまった。
 さらに腕を飲み込んでいく。
「すごい……。手首が中に入ってしまうなんて、ぜったいに無理だと思っていたのに。
 最初に、一本の指を入れたとき、あんなにきつく締めつけてきたのに。それなのに、こうして腕もらくらくと入ってしまいました。
 これが……淫魔の体なんですね」
「いい! いいぞ真緒! そのまま腕を動かしてくれ!」
 真緒は敏洋に言われたとおり、ゆっくりと腕を動かした。敏洋のアソコはまだ広がる余裕があった。それは、男の大きな手も飲み込むことができることを物語っていた。
 真緒は、淫魔の体を確かめるように、敏洋の体の中で手のひらを閉じたり開いたりする。
 敏洋の体の中は暖かく、ぬめっていて、やわらかかった。とても不思議な感覚だった。
「あっあっあっ……、ああーっ!」
 さすがの淫魔の体も、腕まで入れられたのは効いたらしい。真緒が腕を動かすのに合わせて、敏洋ははげしい声を上げた。
 その時、涙を流している敏洋の顔が、真緒の目に入った。
「え? 敏洋さん! やっぱり痛いんですかっ!?」
「ちがう! 気持ちいいんだ。
 ものすごく気持ちよくて、涙がとまらない」
 そこまで言ったと思うと、敏洋は体をのけぞらせた。
「真緒……感謝する……」
 敏洋は、大きく体をふるわせながら言った。
 彼は快感のあまり、ついに失神してしまった。

 *

 敏洋は目を覚ました。
 半身をおこしながら、あたりを見わたす。
 そこは教会の礼拝堂だった。床に敷かれた毛布の上で寝ていた。
 敏洋は、どうしてこんな所で寝ていたのか不思議に思った。
 が、すぐにジャコマに淫魔にされたことを思い出した。真緒とこの場所でいやらしい事をして、この場所で絶頂に達して気絶したのだ。
 敏洋は自分の体を見た。
 真緒がかけてくれたらしく、体の上にはもう一枚の毛布が載っていた。
 そして、女の体を誇示するように、毛布の上からでもわかるほどの大きな胸が目に入った。
「そうか……ジャコマのことも……淫魔にされたことも……すべて夢じゃなかったんだな」
 となりを見ると、真緒が寄りそうように寝ていた。
(俺は絶頂を迎えて、そのまま眠ってしまったのか)
 どのくらい時が経ったのだろうか。
 そう思った敏洋は、目をステンドグラスの窓に向けた。すでに月は消え、空はわずかに白みがかっていた。
「あ、おはようございます」
 真緒も目を覚ました。
 真緒が半身を起こした。彼女にかかっていた毛布がまくられて、あらわになった上半身が、敏洋の目に入る。
「真緒! 胸! 胸が見えている!」
 敏洋は顔を真っ赤にして、あわてて視線をそらす。
「なにいっているんですか、いまさら。さっきまで、あんなことをしていたのに」
「さっきのは特別だ!
 発情した淫魔の体を静めるためにやったことだ。
 だから、さっきのことは忘れろ!
 それから、胸を隠せ!」
「はい。隠しました。もうこっちむいてもいいですよ」
 敏洋は真緒の方に向いた。真緒は言われたとおりに、ひざに載っていた毛布をつかみ、胸を隠していた。
 敏洋は、真緒が自分の顔を見つめているのに気がついた。
「なに、人の顔を見ているんだ」
「さっきの敏洋さん、女の子みたいで、すごくかわいかったなと思って」
「!!」
「そういう風に、恥じらう姿もかわいかったですよ」
「――だからっ、それはわすれろっていっているだろうっ!」
 敏洋は自分の顔が熱くほてるのを感じた。
「そんなに照れないでください。わたしまではずかしくなってしまいます。
 あんなかわいい敏洋さんの顔、わすれるなんていやです!
 それに、わたしだって、敏洋さんだから、あんなに大胆になれたんですよ。もしも他の人だったら、どんなことがあっても、あんなことしません」
「と、とにかく、さっきのことは誰にもいうなよ」
「わかってます。ふたりだけの秘密ですよね。
 敏洋さんとふたりだけの秘密だなんて、なんだかうれしいです」
 そういってほほえんだ真緒の表情が、あまりにしあわせそうだったため、敏洋はおもわず、彼女に見とれてしまった。
「ん? なんですか?」
「な、なんでもない。
 いいから、さっさと服を着ろ!」


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