第四幕 その8
JuJu


 敏洋はとまどい、呆然と直立していた。
 そんな敏洋に構うことなく、真緒はゆっくりと、敏洋の着ているボンデージを下ろしてゆく。ボンデージが足首まで達すると、真緒はていねいに敏洋の脚を片足ずつ持ち上げて抜いた。
 真緒はボンデージを脇に置くと、腰を落とした姿勢のまま顔を上げた。そこには、真緒の手によって体を守る物がパンティー一枚だけにされた敏洋の姿があった。
 真緒の視線は、そんな彼の体を品定めするように上下に動いた。敏洋の褐色をした肌は、ボンデージを脱いだばかりのためか、上気したようにほんのりと汗ばんでいる。
 敏洋は恥ずかしさを覚えた。たとえこの女の体が本物の自分の体ではないと分かっていても、こうジロジロと裸を観察されては嫌でも羞恥心がわき上がって来てしまう。ついに真緒の視線に耐えられなくなり、顔を上げて瞳を天井に泳がせた。
「やっぱりすごいですねえ。こうして脱がせてみると、よく分かります。
 背も高いし、スタイルもいいし、髪も素敵ですし。
 顔だって、すっぴんでこんなに綺麗だなんて。なんだか嫉妬しちゃいます」
 どうやら真緒の審美眼にかなったらしい。真緒の言葉に、天井を見つめる敏洋はいくらかの安堵を覚えた。
 だが、そんな安らかな気分も一瞬にして消える事態が起こった。
 股間に何かが触れたのだ。
 敏洋があわてて下を向くと、しゃがみ込んだ真緒が手を伸ばし、敏洋の股間に触れていた。
「……湿ってますよ」
 真緒は、敏洋の股間に触れている指先を見つめつつ言った。
 その一言で、今まで胸だけに向かっていた敏洋の意識が、一気に股間に向かった。敏洋は自分の股間が愛液で濡れていたことに気が付いた。胸の快感に堪えたり、感じている姿を隠すことに夢中になっていて、真緒に指摘されるまで、股間にまで気が回らなかったのだ。
 本当は男のくせに、女の体でアソコを濡らしている。真緒にそう見られているのではないかと思うと、敏洋の羞恥心が高まる。
「これって湿っていて気持ち悪いですよね。脱がしちゃいますね?」
 真緒は敏洋の返事を待たずにパンティーに手を掛けると、一気に足首まで下ろした。
 女の臭いが敏洋の鼻をついた。それが自分の濡れた股間の臭いだと気が付き、敏洋は顔をますます赤くした。
 敏洋は震える手で、股間をかばった。そんな敏洋の手を、真緒は手を重ねてやさしく掴む。敏洋は真緒の手のぬくもりを感じた。が、すぐにその手が股間に当てている自分の手を外そうとしている事に気が付き、手に力を込めて抵抗した。
 真緒は顔を上げる。敏洋は恥ずかしさで声も出ないのだろう。真っ赤な顔を左右に振り、股間を見せることを拒否していた。
「今度は敏洋さんが見せる番ですよ。そうじゃないとずるいです」
 その言葉に、敏洋は真緒が股間を見せた時の事を思い返した。彼女は女自身を見せるだけでなく、大切な場所に毛が生えていないという秘密までさらけ出した。
 その事を思い出した敏洋は、ついに観念し、まぶたを閉じると腕の力を弱めた。
 真緒は再び、敏洋の手を動かした。今度は真緒にされるがままに、股間を覆う手がはずれてゆく。
 そこには、よく手入れをされた、綺麗に形作っている女の翳(かげ)りがあった。
「わっ! あそこの毛も綺麗です。わたしもこんな綺麗なのが欲しかったなあ」
 目を閉じた敏洋にも、真緒が自分の股間をしげしげと観察している姿が見えるように分かった。
「さっき敏洋さんは、気持ちよくないって言ってましたよね?」
 ふたたび繰り返された真緒の問いに、嫌な予感がした敏洋は訊ね返した。
「何をする気だ?」
「本当に気持ちよくないのならば、こんな事をされたって平気なはずです」
 敏洋は、ふたたび股間に何かが当たった感覚を知り、驚いて目を開く。そこには、真緒の指が自分の股間に触れている姿があった。真緒の指が動き出す。やわらかくて暖かい指が、敏洋のあそこをなで始めたのだ。
「真緒、やめ……あっ!? 」
「指は入れないので安心してください」
 敏洋の体を、今まで感じたことのない様な快感が走った。
(やめさせなければ)
 敏洋はそう思った。
 さっきの胸の刺激もすごかったが、今度の刺激はそれ以上だ。胸の刺激だけでも意識をたもつのに苦労したのに、これほどの刺激を受けたら、正気ではいられなくなる。
 そう考えつつも、敏洋は真緒を止めることが出来なかった。これ以上はいけないと言う思いと、やめて欲しくないと言う快感への未練が、彼の心で激しく交錯する。
 そこに、体の奥から吐息が沸き上がって来た。何よりも、真緒に女として感じていることを知られることだけは避けなければならない。そう思った敏洋は、声に出さないように、吐息を鼻から逃した。
 真緒はそんな敏洋を見上げて見ていた。
 快感を隠そうとする姿が、逆に色気を高めていた。目を強くつむり、あごを上げて、快感に堪えている。吐息を我慢しているのか、口を堅く閉じ、鼻から色っぽい声を漏らしていた。胸の下で腕を絡ませるように自分を抱き、体をくねらせている。
 どうやら敏洋さんは、これで感じていることを、ばれないようにごまかしているつもりらしい。真緒はそう思うと、敏洋を心底可愛いと感じた。おもわず、責める手の動きが速まってしまう。
「ん……んん……」
 真緒の指に合わせる様に、敏洋の息も激しくなる。
 敏洋の精神は快感に堪えることで精一杯なのだろう。抑える者がいなくなった女の体の本能が表に出てきていた。敏洋の姿は、感じているのを必死に堪えている女性そのものだった。
 敏洋の眼鏡だけが、彼が男であることを思い出させた。それさえなければ、思わず真緒自身でさえも、彼が本当は男だと言うことを忘れてしまいそうだ。それほど、その仕草は女そのものだった。その色っぽい表情を、元は男の敏洋がしているのだと思うと、真緒はますます興奮してきた。
 沸き上がる敏洋への思いが、真緒に新たな行動を起こさせた。
 真緒は敏洋の胸に顔を寄せると、彼の乳首を口にくわえた。さらに左手も敏洋のもう一方の胸に這わせてもてあそぶ。もちろん右手はその間も休むことなく敏洋のあそこを執拗に攻め続けていた。
「んっんっ! ん……はああ〜っ! 」
 敏洋はのどの奥から襲ってくる吐息を、息に混ぜて鼻から流すことで堪えてきた。だがついにあえぎ声となって出てしまった。再び声をこらえようとするが、今まで堪えていた反動もあるのか、あえぎ声は止まらなかった。一度出してしまえば、後はのどの奥から声が押し寄せる。
 さらに体も、勝手に女として反応してしまう。敏洋は、もはや自分の肉体が、自分の言うことを聞かなくなってしまったのだと、快感の中で自覚した。
「はあああっ!!」
 あきらめた途端、快感が怒濤と共に迫る雪崩(なだれ)のように一気に押し寄せて来る。もはやプライドとか、本当は男だとか、そんな事はなんの役にも立たなかった。敏洋の意志など関係なく、彼の精神は快感に押し流されていった。
「あああ〜っ!」
 今までで一番激しい嬌声が、自分ののどから出ていることを感じた。
 何も考える事が出来ない。ただ気持ちいいと言う感覚だけが、肉体からあふれ出て、脳に染み込み、心を飲み込んでゆく。
 敏洋は、自分の体が崩れるのを感じた。快感に、もはや立ち続けていることができなくなったのだ。自分の体が崩れ落ちてゆくのを感じながら、失ってゆく意識の中で「これが、女の絶頂ってやつか……」と思った。
 だが男の敏洋は知らなかったのだ。本当の絶頂は、これからだと言うことに。


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