(んんっ………………。)
気が付くとアタシは何かに押し込まれたまま車に揺られていた。
暗くてよく分からないが、皮膚に伝わる感触からそれが段ボールである事は理解できた。
(…もしかして、ここは箱の中?…けど何でこんな所に…!?)
何とか現状を把握しょうと身体を動かそうとしてみるが、身体はおろか指一本動かす事が出来ない。…それどころか助けを求める声も出せないのだ。
(一体、どうなっちゃったんだろう…?)
不安感が脳裏をかすめる。
怖くなったアタシは今までの記憶をたどってみた。
(確か…昨日はバーで飲んでて…その後は…駄目だ。全然覚えてなぃ…)
必死の努力も空しく記憶はうっすらともやがかかった様に、断片的にしか思い出せずにいた。
「キイィッ!」
あれから30分程経っただろうか…どうやら車は目的地についたらしく、荷台から取り出されたアタシはどこかへ運び出されて行く。
「コツコツ…コツ。…コンコン」
足取りはゆっくりと階段を登り、部屋の前に立つと2、3度ドアをノックする。
するとドアを開く音と共に誰かが出てきた気配がした。
ダンボール箱の蓋のわずかな隙間から外を見るとよく分からないが黒いスーツの男ともう一人の男が対峙している。
…アタシは耳をすませて二人の会話を聞いてみる事にした。
「それでは確かにお届けいたしました。」
「…本当に本物なんですよね?。そうですよね。
じゃなきゃあんなに高額な代金なんて…ブツブツブッ」
独り言の様につぶやく男の言葉を遮る様に黒いスーツの男はアタシの入ったダンボール箱を差し出とこう告げた。
「では、期限までお楽しみください。なお、延長および買取には一切応じかねますのでご容赦ください。」
「………………。」
男は無言のままダンボール箱を受け取るとドアの鍵を閉め、部屋の中に戻っていく。そしてアタシを軽々とダンボール箱の中から拾い上げると、薄汚い部屋には不釣合いの大きな鏡の前に向かって歩いていく。
(いくらアタシが軽いからってこんなに軽々と持ち上げられるはず無いのに…それに、この男は一体誰なんだろう…って、ええっ!?)
アタシは思わず息を呑んだ。
鏡の前には身長180cm位のブクブクと太った大男とその手に握られているペラペラの人間の皮が写っていたからだ。
しかもその姿は…
見覚えのあるピアスに亜麻色の髪。
白い肌にやや小ぶりのバスト。
ちょっとアンバランスな位、長い手足。
細い指先と綺麗に整えられた爪。
(ああぁ…もしかして………!?)
鏡に写った精巧に形どられた人型の着ぐるみ。
それが今のアタシである事に気付くのに大した時間は掛からなかった…。
校正版(前編)
あさぎり
「さてと、それじゃ…やってみるか。」
男はアタシを畳の上にほうり投げるとおもむろに着ていた服を脱ぎ始めた。
ムワッとした体臭と汗の匂いが部屋中に広がる。
「ふぅ~暑っちい-なー。も~」
服を脱ぎ終えた男は畳に落ちたアタシに近ずいてくると仰向けのままのアタシを手に取り、うつ伏せに広げると髪を掻き分け首の根元をまさぐり始めた。
(うっ…!)
突然、後頭部を引っ張られるような感覚に思わず反応する。
男はアタシのうなじの辺りを太い指で器用につまむとゆっくりと腰骨の所まで下ろし始めた。
「ジィィィィィィ~ッッッツ!」
と同時に軽妙な音を立てて首から背中に妙な感覚が走る。
(もしかして…これってファスナー!?…ウソでしょ!?)
アタシは自分に起こった事を理解できずにいた。
…が、しかし背中には今までに無い違和感と喪失感を感じる。
まるでぽっかりと大きな「穴」が開いた…そんな例えようの無い感触だった。
「しっかし、ホント大丈夫なのかなぁ~?取りあえず中を調べてみるか。」
そう言うと男はアタシの背中に手を入れると中をまさぐり始めた。
(ひっ!何、ヤダッ!気持ち悪ぃ…)
突然、お腹の中を蛇か何かが這いまわる様な感覚に襲われる。
しかし抵抗しようにも依然として自分では指一つ動かす事が出来ないのだ。
(うっ…ぷ……げぇぇ…え……)
いつ終わるとも分からない時間の中でアタシに出来る事は「我慢」する事だけだった。
「よーし、どうやら大丈夫みたいだな!それじゃ~行・き・ま・す・か☆」
男は脂汗を手でぬぐうとアタシの背中から自分の足を滑り込ませていく。
(んんっ!?)
と同時にアタシは下腹部の辺りに異物の挿入感を感じ、思わず吐きそうな気分になってきた。…まるで急に空腹から満腹になった気分だ。
「アレッ…んっ…と、何だよぉ。もうっ!」
少し乱暴な口調で、ストッキングを履く様にアタシの足に自分の足を強引に詰め込んでいく男…しかし思い道理にいかずに苛立っている様子だ。
それもそのはず、身長160センチたらずのアタシの身体にこの男の身体が入りきる事、自体おかしいのだ。
それでも男は諦めずに更に力を込めてアタシの皮を引っ張り上げる。
「んんんんんんんん~っ!!!えいっ!!」
「………………!!!!!」
悲鳴をあげる事も出来ずに男にされるがままのアタシの身体。
丸太の様な男の足を詰め込まれたアタシの足は今にもはちきれんばかりに膨らんでいく。
(痛い、痛い、痛いよぉ。ヤメテェ~!!)
アタシは男に懇願しようとするが、一向に声は出ない。
そうこうしている間にも男の足は更に深く、奥の方へ潜り込んでくる。
「あれ、何だぁ?急に足がムズムズしてきたぞぉ~。それに…おおおおおおっっっつつつ!!!」
男は突然の身体の変化に戸惑っているらしく狂喜にも似た声を上げる。
と同時にアタシの身体にも変化が現れ始めた。
「ミシミシ…メキャ…ミシッ…」
先程まで膨らんでいたアタシの足が異常な音を立て段々と身体が締まっていく。
それはまるで元の形が記憶された金属の様だった。
(はぁはぁはぁ…はぁ!?)
しばらくするとあれ程はちきれんばかりに膨らんでいたアタシの足は、元のすっきりしたサイズに戻っていた。
「おおおっ!すげぇー。スベスベだぁー☆。」
男は興奮した様子で自分のモノになったアタシの足を何度もさすりながらうっとりとした口調で更にアタシの皮を引っ張り上げる。
お尻…腕…腰…胸と男の汗ばんだ身体がジワジワとアタシの中に入って来て、それと同時にたとえ様の無い恐怖感と感覚が襲ってくる。
そう、まるで「自分」が「自分」じゃ無くなる様な…。
(いやあああああぁぁぁ!!やめててぇぇぇぇええ!!)
消して届くことの無い絶叫を上げてアタシは気を失った。
「んっ、んんっ…ふあぁ……ん」
再び意識を取り戻した時、アタシの身体は全裸のまま鏡に写る自分の姿を見ながら一心不乱に自慰にふけっていた。
自慢じゃ無いけど街を歩けば誰もが振り返り、今まで一度だって男に不自由した事の無かったアタシが…。
「おっ、オッ…何だよコレ。すっ、スッゴイ…気持ち…あぁっ!」
喘(あえ)ぎ声を上げながら淫らな表情を浮かべるアタシの顔。
快楽を貪る様に一本、更に一本と指を股間に滑り込ませるとクチュクチュと音をたてあふれる液体。…そしてそれに答えるかの様に敏感に反応する身体。
真っ赤に顔を上気させ、呼吸を乱しながら自らの身体を弄ぶ鏡の中のアタシはまるで別人の様だった。
「ああっ!…はぁん…あんっ!!」
鏡に写るアタシの痴態を冷静に見つめるアタシの瞳。
その姿が猥褻であればある程、まるで他人事の様に冷静に思えてくる。
しかし間違いなくアタシ自身なのだ。
(ちょっと、何やってるのよ!やだっ、やめ…っ)
何とか動きを止めようとするが、先程と同じで自分では何も出来ない事に気付く。
それなのに快感と言うか、感覚だけは感じられる為、段々とアタシは自分で自分を慰めている様な気分になっていた。
「ハァ…ハァ…いい、はぁぁん~ああっ」
やがて奇妙な感覚に襲われながらもアタシはこの快楽を甘受し始めていた。
まるで高価な陶器を扱うような繊細で丁寧な指使い。
身体の芯から押し寄せてくる止め処(とめど)ない快感の波。
…それは今まで味わった事の無い物だった。
「はぁ、はぁ…あうっ…うくぅ!!」
ケモノみたいに途切れ途切れに小さくうめき声を上げ、アタシの身体はその場にへたり込むとそのまま天井を見上げていた。
「はぁ…はぁ………」
しばらくして何が何だか分からないうちに絶頂に達したアタシの口から意図しない言葉が漏れた。
「フ~また、イッちゃったよ。まったく際限ないよね。女の快感って☆でも、ま~せっかくこんな美人の身体になれたんだから貸し出し期限までたっぷりと楽しまないとな…グフフ。」
アタシの口から出たアタシじゃない奴のセリフ。
そう、それはあの男の口調そのものだった。
[前編 完]