政代の艶やかな黒くて長い髪の毛を1本、黒い全身タイツの中に入れるとお腹から胸へとファスナーを引き上げる。
すると、徐々に黒かったタイツの色が変化し始め、肌色へと変わってゆく。
それは智一の皮膚よりも白く、透き通った感じがする色だった。
そして、スベスベしていたタイツの表面が人の皮膚のように変化し、まるで血が通っているように
見え始める。
タイツの足の指には爪が出来て、股間には逆三角形のうっすらとした毛が生えてきた。
鳩胸のようにのっぺりとしたタイツだったはずなのに、今は女性らしい二つの胸が付いている。
さらに、黒い手袋がほっそりとした指に変化し、綺麗な細長い爪が生えた。

のっぺらぼうだったマスクも凹凸が出来て……それはまるで政代の顔そっくりだったのだ。
異様に長く伸びた黒い髪の毛。
それはカツラではなく、本当にマスクの頭から生えているのだった――
 
 
 
 
 
 
 

絶対姉貴っ!(後編)
 
 
 
 
 
 
 

黒い全身タイツが変化する様子をじっと見ていた智一。
あのタイツが今や智一の姉、政代が脱皮した抜け殻のようになっている。
もちろん中身が入っていない『皮』状態なので顔も皺くちゃだから、これが本当に政代なのだと
言われても実感が湧かないのだが、智一は確信していた。
 

智一:「あ、姉貴のタイツだ……これを着たら……姉貴になれるんだ……」
 

鼓動を高鳴らせながら、政代のタイツを手に取る。
そして、ぎゅっと抱きしめてみた。
ペラペラのタイツを抱きしめているだけなのに、まるで政代を抱きしめている感じ。
そんな風に思えてしまう。
 

智一:「姉貴……」
 

智一が恥ずかしそうに、タイツの股間を見る。
柔らかそうな黒い毛が生えている。
タイツとはいえ、本物に限りなく近いのだろう。
そのタイツの毛を両手の指で左右に掻き分けて中を見てみる。
すると……
 

智一:「…………」
 

ちょっと口には出せない。
あまりにリアルすぎて、グロテスクだ。
こうやって間近に女性の股間を見たことの無かった智一は、すこしショックを受けながらも
感動すら覚えていた。

まさかここまで忠実に再現しているとは……と言っても詳しくは知らなかったけれど……

そう思いながら、息を荒くする智一は服を脱いで裸になった。
いよいよ、この政代のタイツを着る瞬間がやってきたからだ。
 

智一:「よ、よし。まずは足から……」
 

はぁ……はぁ……はぁ……
 

政代の皮膚と化したタイツを持つ手が震える。
大きく深呼吸をしたあと、長ズボンを穿くような感じで、お腹の割けた部分から
右足をゆっくりとタイツの中に入れてゆく智一。
ヌルッとした着心地のよい感触が足先から伝わってくる。
細くなっているタイツの足に、自分の足をヌッと入れると、思ったより簡単に入れることが出来た。
とても不思議だ。智一のふくらはぎの方が大きいはずなのに、足を入れたタイツは
ほっそりとした足のままなのだ。
ギュッと足を奥まで入れて、それぞれの足の指をタイツの指の中に入れる。
足のサイズも智一の方が遙に大きなはず。
でも、指先もかかとも、小さいタイツに完全にフィットしていた。
 

智一:「すげぇ……これって姉貴の足にしか見えない」
 

そう思いながら、同じようにもう片方の足もタイツに入れる。
丁度太ももの中間辺りまで両足が入っているのだが、そのタイツに包まれている膝から下は
何処から見ても女性の足にしか見えなかった。
手で触ってみると、タイツの上から触られているのではなく、直接自分の皮膚を触られているような感じ。
昨日、自分の姿をしたタイツを着たときと同じ感触だ。
 

智一:「このまま腰まで上げたら……」
 

小さく震える声で呟いた智一は、もう嬉しくて嬉しくて仕方ないのだ。
すでに結果は見えている。
なんて素晴らしいタイツなんだ!
 

智一:「はぁ……はぁ……よいしょっと!」
 

タイツを伸ばしながら太ももを包み込み、そして股間、お尻まで着込んでしまう。
すると、あの男性特有だった股間のふくらみがのっぺりとしたタイツで見えなくなってしまった。
美しい女性特有の曲線を描いている下半身。
それは姉の政代の下半身であり、今は智一の下半身なのだ。
そっと股間を触ってみると、毛を触られたと言う感触が伝わってくる。
ちょっと引っ張ってみると、痛いという感覚。
今までついていたムスコの感覚が全く感じられない。
ゆっくりと毛の中に指を入れてゆくと、先ほど見た政代のリアルな場所にたどり着く。
 

智一:「うっ……何か今、体に電気が走ったような……」
 

ビクンと体を震わせた智一。
政代の感じるところに指が触れたからだ。
ムスコの感覚よりも、はるかにすごい刺激がそこから伝わってくる。
 

智一:「な、何だよこれ……あ、姉貴のココ……すげぇ感覚だ……」
 

その敏感な感覚に驚いた智一。
しかし、それ以上指が動く事は無かった。
 

智一:「ふぅ〜。あ、あとから……いつでも触れるじゃないか……」
 

余裕の言葉が智一の口から漏れる。
もう政代を手に入れたと思っているようだ。

股間を触っていた手をペラペラのタイツの腕に通し、指先までしっかりと入れ込む。
本当に人の皮膚を着るような感じだ。
しっかりと肩まで入れると、お腹から胸にかけて付いているファスナーを引き上げた智一。
政代より智一の方が背が高いはずだったのだが、タイツが伸びたというよりは、
智一の背が低くなっているように思える。でも、無理矢理押し込まれているという感覚は全く無い。

そして、智一のタイツの時と同じように、ファスナーは皮膚の中に見えなくなってしまい、そこには
政代のふくよかな形の良い二つの胸がしっかりとついていた。
 

智一:「あ、姉貴の胸だ……」
 

興奮しながら、今や智一の物となった、ほっそりとした綺麗な政代の手で、その胸を揉んでみる。
 

智一:「あっ……胸の感触だ……こんな風に感じるんだ……女性の、姉貴の胸って……」
 

柔らかい胸の感触を楽しむ智一。
身体を見下ろしてみると、そこには智一の身体では無く、姉の政代の身体があった。
ほっそりとしたウェストに、のっぺりとした股間。
すらっとした2本の足に、きゅっと引き締まったお尻。
これら、政代の全てが智一の物なのだ。

ずっと鼓動は高鳴りっぱなし。
そんな鼓動を更に激しく打ち付ける行動を取り始める智一。
両手を首の後ろに回し、長い髪のついたマスクをゆっくりと被り始める。
ギュッとマスクの首元を広げながら頭に被った智一は、しっかりと首の下まで引っ張った。
何となくマスクの目に自分の目を合わせ、鼻や口がも合うように調整すると、マスクが顔に吸い付くような
感じがしてフィットした。
首元を触ると、いつの間にかマスクの継ぎ目がなくなっている。
 

智一:「よ、よし……あっ……こ、声が……」
 

自分の出した声に驚いた智一。
それは自分の声よりもはるかに高い音域。でも、いつも耳にしている女性の声。
そう、政代の声だったのだ。
 

智一:「す、すげぇ……声まで姉貴になってるっ!」
 

と、政代の興奮した声でしゃべった智一が、机に置いている小さな手鏡に顔を映してみる。
そこに映っているのは、化粧こそしていないが、紛れも無く政代の顔だった。
驚いた表情をしている政代。
その顔が、徐々ににやけ始めると
 

智一:「やったぁ。俺、姉貴になったんだぁ!」
 

と大声で叫んだのだった。
嬉しそうにペタペタと頬を触る智一。
ちゃんとその頬を触られたと言う感触が伝わってくる。
政代の全身の感覚を、今、手に入れた智一。
ガッツポーズをしながら、込み上げてくる喜びを表現する。
 

智一:「すげぇよ。このタイツ。ここまで姉貴とそっくりになれるなんて思ってなかったのに」
 

お尻を両手でギュッと掴んで、その掴んだ感じを後ろに振り向きながら見てみた智一。
すると、政代の長い髪の毛が顔の前に回りこんでくる。
 

智一:「この長い髪の毛だって俺のものなんだよな」
 

クンクンと髪の毛を匂ってみると、かすかにシャンプーの香りがする。
このタイツは、そんなところまで再現しているのだ。
 

智一:「そっかぁ……俺って今、姉貴なんだ……」
 

分かりきった事を呟いた智一は、さっそく次の行動に出る事にした。
まだ両親も政代も帰ってくる時間ではない。
今のうち。今のうちにやりたいことをしておかなければ。
 

智一:「よし、姉貴の部屋に行って化粧しよう」
 

そう言って、裸のまま隣の政代の部屋に行った智一。
 

智一:「えっと……」
 

いつも政代が使っている化粧箱を取り出し、鏡台の上に置く。
そして、裸のまま椅子に座った智一が、政代の顔に化粧を始めた。
昨日の夜にインターネットで調べていた化粧の仕方を思い出しながら。

まず、油取り紙で顔の油をとる。
タイツ(マスク)なので油なんて出ないだろうと思っていたのだが、しっかりと汗や油が
紙に付いていた。
マスクをつけてからまだ何分も経っていないのに。
それほど智一が興奮して、汗を出していたという事だろう。
 

智一:「え〜、まずは下地を作るって書いてあったっけ。たしかファンデーションってやつだよな」
 

画像が載っていたので、それと同じようなものを探してみる。
すると、肌色のリキッドタイプのファンデーションが入っているのを発見した。
 

智一:「よし、これだこれ。これを……パフってやつで塗るんだよな」
 

そう言いながら柔らかいスポンジ生地のパフを手にとり、リキッドタイプのファンデーションを付けて顔に塗り始める。
鏡に映る政代の顔にファンデーションが塗られると、小さなホクロやかすかに見えるシミなどが
どんどん消えてゆく。
あまり塗りすぎるとダメだと書いてあったのでうっすらと塗るだけにした智一。
今度は口紅を塗り始めた。
グロス入りのピンクが少し混ざっている赤色の口紅。
リップブラシを使って、唇をなぞってゆく。
鏡には、本物の政代が化粧をしているようにしか映らない。
しかし、今化粧をしているのは政代のタイツを着ている智一なのだ。
唇の外側をリップブラシで塗った後、口紅をそのまま唇に塗る。
そして、綺麗に塗り終わったら白い紙を咥えて、余分な口紅を取った。
その白い紙には、政代の唇の形が綺麗についている。
 

智一:「これが姉貴の唇なんだよな」
 

そんな事を呟いた智一。
次は目だ。化粧箱の中をゴソゴソと探すと、コンパクトに入っている数種類のアイシャドウを発見した。
 

智一:「これだこれ。確か姉貴はいつも青系のやつを使っていたような気が……」
 

そう思いながら、一つ一つコンパクトを開いてゆくと、薄い青と濃い青のアイシャドウがあった。
 

智一:「これかな。これを塗ればいいんだよな」
 

鏡に映る政代に問い掛けるように呟く智一。
適当なブラシを使って、まずアイホールに薄い青のアイシャドウを塗ってゆく。
細目にしながら軽く塗り終えると、今度は濃い青を目元に塗ってみた。
すると、政代の目が一際綺麗に見える。
 

智一:「よし、姉貴に近づいてきたぞ!あとはマスカラってやつだよな。その前にビューラーってので
    まつ毛をカールさせるんだ」
 

とても細かいところまで調べた智一。
すぐに見つかったビューラーでまつ毛を挟み、カールさせる。
目をシバシバさせながらも、何とかうまく出来たようだ。
そのあと、マスカラを使ってまつげにボリュームを与える。

すると、パッチリとした政代の瞳が出来上がったのだ。
 

智一:「これで姉貴と同じだな。最後にふさふさのブラシを使ってチークを塗れば完成だ」
 

そこまでこだわった智一は、ピンク色のチークを頬に塗り、少し赤みをつけてみた。
生き生きとした肌の表情が頬に現れる。

鏡に映る政代のマスク。それは、智一が化粧で仕上げた、政代そっくりの表情をかもし出していた。
 

智一:「我ながらよく出来たよな。何処から見ても姉貴だもん」
 

鏡に向かって話し掛けた智一。
その鏡に映る政代が、智一と同じ言葉を口にしているようだった。
 

智一:「これであのウェディングドレスを着れば……」
 

心の底からゾクゾクする。
化粧を済ませた智一は椅子から立ち上がると、まずタンスの中から政代の下着を取り出した。
白いブラジャーに、白いパンティ。そして白いパンティーストッキング。
 

智一:「はぁ、はぁ……俺が姉貴の下着を穿くなんて」
 

鼻息を荒くしながら、白いパンティに足を通す。
そして、ゆっくりと引き上げて丸見えになっていた政代の股間を隠した。
プリンとしたお尻がパンティの生地にフィットして気持ちがいい。
タイツの上から穿いているのに、この感触が得られるのは本当に不思議な事だ。

そのあと、ブラジャーの肩紐に腕を通すと、カップに胸を入れて後ろのホックを止める。
ぎこちない手の動きだが、何とかホックを止める事が出来た智一は、
はみ出している胸をカップの中に仕舞い込んだ。

深い胸の谷間がすごくセクシーだ。
わざと二の腕で胸を寄せて、深い谷間を作ってみる。
柔らかい胸が、窮屈そうに中央に寄せられて男心をくすぐる。
 

智一:「姉貴の胸って、結構でかいよな……服を着ているときはそんな風に思わなかったけど」
 

胸の大きさを確かめた智一は、白いパンティストッキングを手繰って足を入れ始めた。
ストッキングの生地が足に密着して、少し締め付けられるような感じ。
片足ずつ、太ももまで入れたあと、腰まで引き上げて下半身を包み込む。
すると、温かいパンティストッキングの感触を下半身全体に感じる事が出来る。

足を蟹股に開いて、ストッキングの上からのっぺりとした股間を撫でると、そこには当たり前のようにムスコの
存在は無く、生地越しに触られていると言う男の感じとは全く違う感覚を体験する事が出来た。
政代がそんな事をしている……いや、させているという行為だけでもすごくいやらしい。
 

智一:「姉貴、こんな事したことあるのかな。きっとしないんだろうな」
 

政代のいやらしい行動を想像できない智一にとっては、今、自分が行っている事全てが
新鮮であり、興奮させられるものだった。
 

智一:「何だか下半身が熱くなる感じがする……」
 

そんな風に感じながら、ふと飾ってある白いウェディングドレスに視線を移す。
そのドレスは、早く智一に着てほしいと言っているように思えた。
 

智一:「おっと。やっぱり先にこれを着なければ!」
 

嬉しそうに政代の声で呟いた智一は、軽やかな足取りでドレスの前まで歩いてきた。
ドキドキしながら専用のドレス掛けに掛けてあるウェディングドレスをそっと手にする。
すると、ふわっとした感触が手のひらいっぱいに伝わってきた。
白い……いや、純白のウェディングドレス。
まじまじと眺めた智一は、ドレスの背中に着いているファスナーを下ろした。
ドレスの裾が円を描くようにとても大きく広がっている。
 

智一:「よ、よし。さ……早速……」
 

シワが寄らないようにしながら、少しかがんでドレスの中に両足を入れる。
そして、腰を伸ばしながらゆっくりとドレスを引き上げてゆく。
ふわりとドレスの裾をたなびかせながら、両肩を通してしっかりと上まで引き上げた。
ごわごわとした着心地は決して嫌ではない。
両手を腰に回して、後ろに着いているファスナーを引き上げる。
 

智一:「よいしょっと……あ、あれ……途中までしかあげられないなぁ」
 

それほど器用ではない智一。
あと5センチほど引き上げなければならないのだが、うまく引き上げられない。
 

智一:「まあいいか。これでも十分だ」
 

ファスナーを中途半端に引き上げた状態だが、ずり落ちてこないのでこのままでいいと思った智一は、
ウェディングドレス姿の政代を姿見に映してみた。
とても綺麗な純白のウェディングドレスに包まれている政代。
しっかりと化粧も出来ていて、このまま結婚式に行ってもおかしくないくらいだ。
 

智一:「姉貴……すごく綺麗だ……」
 

姿見に映る政代の姿を見ながら、そっと呟いた智一。
 

じっと眺める……
 
 

智一:「あ、そうだ。興奮しすぎてすっかり忘れてたよ」
 

何かを思い出したかのような表情をした智一が、仕舞ってあった白いロングのウェディンググローブと
ティアラ、チョーカーを出してくる。
 

智一:「これをつけないとな」
 

まず、チョーカーを首元につける。
そして、ティアラを頭の上に乗せると、白いウェディンググローブを両手にはめた。
とても肌触りの良いグローブ。
細い指が、いっそう細く見える。
 

智一:「よし、これで完璧だっ!」
 

そう言いながら、もう一度姿見の前に立った智一。
お腹の前に白いウェディンググローブをはめた両手をそっと重ねる。
わざと政代の優しく微笑んだ表情を作る智一は、もう心臓が張り裂けそうな思いだった。
何も言わず、じっと智一を見つめ返すウェディングドレス姿の政代。
 

智一:「……あ、姉貴……」
 

鏡の中の政代が呟く。
智一がしゃべる言葉一つ一つを、姿見に映っている政代が忠実に再現する。
 

智一:「……と、智一……」
 

自分の名前を言ってみた。
政代が智一の事を呼んでいる。
 

智一:「智一……わ、わたし……智一の事が……」
 

姿見に映る政代の顔が少し赤みを帯びている。
智一は赤面しているのだ。
目の前にいる政代が、自分の事を……
 

智一:「好きよ……」
 

言ってしまった……
とうとう言わせてしまった。
姉の政代に、好きよと言わせたのだ。
お腹に添えていた両手の指をギュッと絡ませる。
 

智一:「智一……愛してるよ。私、智一の事、愛してる」
 

また言わせてしまった。
自分の言ってほしい事を次々と言わせる智一。
 

智一:「私、ずっと智一の事を愛していました。だから……お願い。私と結婚してください」
 

ウェディングドレス姿の政代が、目をウルウルさせながら智一に話し掛けてくる。
そして、ゆっくりと姿見に近づくと、そっと姿見の淵をもち、鏡に顔を近づける。
智一の目の前に政代の顔が。
そして……

チュッ!

智一は政代の唇で鏡にキスをした。
それはまるで政代が智一に本当にキスしたかのような錯覚を感じさせる。
 

智一:「姉貴っ!」
 

うれしくてうれしくて……
智一は、自分自身をギュッと抱きしめた。
姿見にはウェディングドレスごと自分を抱きしめている政代の姿が映っている。
 

智一:「ああ……俺、今すごく幸せな気分だ……」
 

そのあと、政代に言ってほしかった事を全て言わせた智一は、精神的な快感に酔いしれていた。
 

智一:「もう姉貴は俺のものだっ!誰にも渡さないっ」
 

政代の声で叫んだ智一。
そのとき――
 

ガチャッ!
 

玄関の扉が開いた音がした。
 

智一:「あっ!や、やべぇっ!誰かが帰ってきたっ」
 

多分母親だろう。
父親はいつも帰りが遅いし、政代はフィアンセと一緒に結婚式場に最終打ち合わせに行っている筈だから
かなり遅くなると言っていたからだ。

急いでウェディングドレスを脱ぐ智一。
焦れば焦るほど、背中のファスナーを下ろすことが出来ない。
 

智一:「お、落ち着け。落ち着け俺っ!」
 

そう言いながら、先にウェディンググローブを脱いだ。
そして、そのあとティアラとチョーカーを外すと、深呼吸をして
背中のファスナーに手をかけた。

ジーッ

という音を立てながら、ウェディングドレスのファスナーが開いてゆく。
 

智一:「よ、よしっ」
 

ドレスが破けないように、それでも急いで脱ぎ終えた智一は、すばやくドレスを専用のドレス掛けに戻すと、
小物も元通りに仕舞った。
 

コンコンッ!

ビクッ!
 

部屋のドアを叩く音。
 

「政代?帰ってるの?」
 

母親の声だ。
 

ど、どうする?

今から政代の全身タイツを脱いだとしても、智一は裸なのだ。
そんな姿で政代の部屋にいるところを母親が見たら、どう思うだろうか。
 

智一:「……あ……う、うん」

母:「早かったわね。もう帰ってきたの」
 

カチャッという音と共に、部屋のドアが開く。
 

智一:「あ……」
 

下着姿の智一、いや、政代に視線を移した母親。
 

母:「何?着替えてたの?」

智一:「う、うん。そ、そうよ」

母:「どうだった?式場の方は全てOKなの?」

智一:「だ、大丈夫よ。ちゃんと話してきたから」

母:「そう。それなら良かったわ。夕食の用意をするから手伝ってくれない?」

智一:「あ……うん」

母:「今日は智一の好きなハンバーグを作ろうと思って。そう言えば智一、どこかに行ったのかしら?」
 
 

ドキッ!
 
 

智一:「さ、さあ……」

母:「またどこかで遊んでいるのかしらねぇ……」
 

そう言うと、母親は部屋を出て行った。
 

智一:「はぁ〜……あ、危なかった……」
 

額からドッと汗が噴出す。
母親は智一の事を政代だと思っているようだ。
まったく疑っていない。
 

智一:「助かったなあ。どうなるかと思ったよ。でもこれからどうしようか。ずっと姉貴の姿でいるわけにも行かないし……
    姉貴が帰ってきたらやばいよな」
 

政代が帰ってくるまでに、この全身タイツを脱がなければならない。
 

智一:「どうしようか……母さん驚くだろうな。姉貴が帰ってきたら、姉貴が二人いるんだもんなぁ。姉貴だってきっと……
    やっぱり脱がないと」
 

そう思い、政代の下着を脱いだ後、元通りタンスの引き出しに直して自分の部屋へと戻った。
そうそう。姿見に付いていた口紅もしっかりと落として。
 

智一:「母さんが姉貴を待ってるんだ。でも姉貴の格好で母さんの手伝いをするわけに行かないからな。
    ……う〜ん……どうしよう……」
 

智一は全身タイツを着たまま、頭の中で色々と考えた。
そして、その結果……
 

智一:「よし、こうなったら……」
 

そう言うと、政代の姿になったまま自分の服を着始めた。
お尻が窮屈な感じがするトランクスを穿き、黄色いTシャツにゆったりとした薄茶色のイージーパンツを穿きこむ。
姉貴にはちょっと似合わない服かもしれないが、とりあえずこの服装で1階まで下りて行った。
廊下の向こうのキッチンでは、母親が大根か何かを包丁で切っている音がする。

玄関でぶかぶかでサイズの合わない自分の靴を穿いた智一は、
 

智一:「お母さ〜ん。私、ちょっとだけ出かけてくるね〜」
 

とキッチンに向かって大きな声で叫んだ後、急いで扉を開けて外に出たのだった。
 

母親:「政代っ?」
 

扉の向こうで母親の声が聞こえたような気がした。
しかし、智一は靴が脱げそうになりながらも、必死に公園まで走ったのだ。
 

智一:「はぁ、はぁ、はぁ……」
 

政代の声で息を弾ませる。
顔に汗をかいたせいで、長い髪が額や頬に張り付いてくる。
それを指で払いながらベンチに座り、大きく息を吸って呼吸を整えた。
たかが200m程走っただけなのに、やたらに息が上がっている。
 

智一:「はぁ……俺ってこんなに体力なかったっけ。もしかしたら、このタイツを着ていると
    姉貴の体力になるのかもしれないな」
 

そう言うと、キョロキョロとあたりを見渡し、誰もいない事を確認する。
そのあと、ベンチから立ち上がると、そばにあった公衆トイレの男性側の個室に入った。
 

智一:「この状態でマスクを取れば……出来るのかな」
 

智一は顎の下あたりを掴むと、ゆっくりと上に引き上げ始めた。
すると、首元のところに境目が出来始め、マスクの部分だけが剥がれ始める。
 

智一:「お、やっぱり出来るんだ。このままこうやって……」
 

政代のマスクを前に引っ張って顔から剥がすようにしながら後ろに脱ぐと、
智一の頭が現れた。
そして、しわくちゃになった政代のマスクは、首の後ろにぺちゃんこになってぶら下っている。
髪の毛はお尻まで垂れ下がっているようだ。
 

智一:「よしよし。折角だからこの状態で……」
 

本当は全部脱いで帰るつもりだったのだが、智一は政代の身体を着たまま帰ることにした。
Tシャツの背中に政代のぺちゃんこになったマスクを入れ、Tシャツの裾から見えている
黒い髪をイージーパンツの中にしまいこむ。
背中のところが少しモコッとなっているがそれほど気にならない。
それより、智一の顔でTシャツの生地を持ち上げる二つの胸の方がよっぽど違和感があった。
 

智一:「他人に見られないように胸を隠しながら走って帰ればいいだけだし。身体だけ姉貴ってのも
     なんだかすごくいやらしいよな」
 

そう呟いた智一がトイレから出る。
周りは少し暗くなりかけているので、また走って帰れば問題ないだろう。
智一は、周りの目を気にしながら両腕で胸を隠すようにすると、走って家に帰った。
腕で押えている胸が上下に揺れる。
しかも、ブラジャーを付けていないので胸の突起が擦れて妙に気持ちがいい。
行きは焦っていたのでそれほど感じなかったが、帰りは心にも余裕があるので、
変に意識してしまう。
 

智一:「はぁ、はぁ。あ、あまり早く走ると……Tシャツに擦れて……」
 

胸の突起が硬く尖ってきたのが分かる。
それでも智一は、もう目の前に見えている家まで全速力で走った。
 

智一:「はあっ……はあっ、はあっ、はぁ。何とか家に着いたぞ」
 

誰に怪しまれたわけでもない智一が玄関の扉を開ける。
 

智一:「ただいま」
 

急いで靴を脱いで二階に上がる。
 

母親:「何処に行ってたの?」
 

キッチンから母親の声がしたが、
 

智一:「ちょっと連れのとこに行ってただけさ」
 

と二階から叫んだ。
自分の部屋のドアを開け、ふぅと息をついた智一。
 

智一:「はぁ、はぁ、はぁ〜。ふぅ〜。疲れたなぁ。母さんに見つかったせいでえらく大変だった」
 

そう言って、智一はベッドの上に座り込んだ。
Tシャツの胸元に汗が滲んでいる。
とりあえずTシャツやイージーパンツ、トランクスを脱いで、政代の身体になっている全身タイツも脱いだ。
 

これで元の智一の姿へと戻ったことになる。
目的を果たした智一は、こそっと政代の部屋から化粧箱に入っていたクレンジングジェルを持ってくると、
汗で化粧が滲んでしまった政代のマスクを綺麗に拭いた。
しわくちゃだが、素顔の政代の顔が現れる。
 

智一:「これからはずっと姉貴と一緒だよ」
 

そう呟いた智一。
本当の政代への愛情はかなり薄れていた――
 
 
 
 

結婚式当日
 

政代は新婦と共に幸せそうな笑顔をしていた。
あの智一も着たことのあるウェディングドレスを着て。
 

智一:「姉貴、お幸せに。俺も姉貴と幸せになるから」
 

誰にも気づかれない小さな声で呟いた智一。
無事結婚式も終えて家に帰ると、すっかり片付いてしまった政代の部屋がある。
その部屋は智一が自由に使ってもいい事になっていた。
洋服や小物は新居に持って行ったが、不要なタンスやベッドなどは置いてある。

そして、ベッドの下にあるダンボール箱の中には、政代が結婚する前にこそっと拝借していた下着と、女子高時代に
使っていた白い体操服に青いブルマが入っていた。

親のいない時間。
智一はあの全身タイツを使って政代に成りすますと、ダンボール箱の中からそれらを取り出して着込んで遊んだ。
少し小さな体操服。
その姿で政代の身体の快感を味わい、精神的、肉体的に至福の時を得るのだ。
 

智一:「ああ……姉貴……もう誰にも渡さないから。姉貴……愛してるよ……」
 
 
 
 
 
 

絶対姉貴っ!(後編)…おわり
 
 
 
 
 
 

あとがき

ここまで思いつめると、さすがに怖いですね(笑
結局彼は、政代の容姿が好きだったということでしょうか?
そんなことは無いと思いたいのですが(^^;

化粧とウェディングドレスに重点を絞ってみたのですがいかがだったでしょうか。
以前メールでのやり取りで、ウェディングドレスや化粧についての
話がいいなぁという方がいらっしゃったので書いてみました。

文化祭には、単に黒いタイツを着ていただけですので、特に話は作りませんでした。
ヒロインに成りすまして……何て話も面白そうでしたが、
何と言っても「絶対姉貴っ!」ですから(笑
姉貴以外はダメなんですよ!

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
Tiraでした。
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