これも俺の仕事なのか(^^;

作:Tira
絵:あさぎりさん



「お父さん、いってらっしゃい」
「ああ、行って来るよ」
「あなた、気をつけてね」
「ああ、大丈夫だ。行って来るよ」
「ええ」


福岡 泰三(ふくおか たいぞう)は、家族に見送られ玄関を出た。
日焼けした大きな体には、紺色のブレザーが窮屈そうに見える。
年齢は38歳と、もう若くはないが身長197センチ、体重98キロという体型がその年齢を思わせない。
太っているのではなく、全て筋肉なのだ。その顔つきも怖いが、ツルツルに剃った頭が、彼の雰囲気を更に怖いものにしている。でも、見かけによらずその性格は優しく、家族想いな良いお父さんなのであった。

そんな彼の職業はSP
今日は日本を発つ某大手の金融会社の社長を警護することになっている。
彼の担当は、空港からオーストラリアに着くまでの区間。
飛行機はもちろんチャーター便で安全なのだが、いつ何が起こるのか分からない。しかも、予定では彼が一人で警護しなければならないらしい。
その理由は後程分かるのだが――


とあるビルの最上階。
ここに泰三の所属するSPチームの待機場所……というか、事務室のような場所があった。
泰三の目の前の机に座っているのが、SPチームのリーダーだ。
そのリーダーが、机の前に立っている泰三の顔色を見て問い掛けた。


「福岡、体調はどうだ?」
「はい。問題ありません」
「今日の任務は分かっているだろうな」
「はい。某金融会社社長の高沢 信利様をチャーター便内で警護することです」
「よし。午後1時に高沢社長が空港に到着する。そこで他のSPと合流するのだ」
「了解いたしました。ところで、やはり飛行機内は私一人で警護するのでしょうか?」

……そうだ。もちろん離陸前までは他のSP達も同行させる。しかし、離陸する前に他のSP達は撤退させる」
……大勢で警護するほうが良いのでは?」
「それはそうだ。高沢社長は金より命が惜しいだろうからな。しかし一つ問題があるのだ」
「問題ですか。それは一体?」
「高沢社長の意向としては、機内のSPは必ず女性にしろということなのだ」
「じょ、女性……ですか」
「そうだ。残念ながら、我々のチームには女性SPはいない。オーストラリアまでの数時間、むさくるしい男と一緒にいるのは嫌だということだ」
「なるほど……しかしリーダー。私は男です。しかもこんなに大きい。むさくるしいと言う言葉が似合いすぎるのですが」
「それは分かっている。だからお前にはこれを着てもらうことにした」


リーダーが机の横に立てかけていたアタッシュケースを机上に置き、ダイヤルを回して開く。すると、そのケースの中には肌色のゴムのようなものが折りたたまれて入っていた。
しかも、栗色の細い……まるで髪の毛に見える物まで入っている。
更に、そのゴムの下には、何やら紺色の洋服が入っているようだ。

「何ですか?それは」

泰三がそのアタッシュケースを覗き込むようにしながら質問した。

「これは、今からお前が着るスーツだ」
「スーツ?」
「そうだ。お前はこのスーツを着て警護を遂行するのだ」
……それは一体何なのですか?」
「裏ルートから手に入れた特殊な女性型スキンスーツだ」
「女性型スキンスーツ?」
「このスキンスーツを着れば、お前は女性になれるのだ」
……私が……女性に??」
「そうだ。早速この肌色のスキンスーツを着てみろ。裸になって着るのだ」
「は、裸に?」
「これは一種の人工皮膚のようなものだ」
「じ、人口皮膚……ですか」
「ああ」


そう言うと、リーダーはその肌色のスキンスーツを持ち上げた。


「なっ……
「どうだ?まるで人の皮の様だろう」
「は……はい……


皺が寄っているが、リーダーが手にした物は人の皮……というか、抜け殻のように見えた。60センチくらいある黒くて細いもの……やはり髪の毛だ。


「こ、これを私が着るのですか?」
「そうだ」

「し、しかしこんなに小さな皮……いや、スキンスーツですか。私には到底入りません」
「それは大丈夫だ。とにかく着てみろ」
「は、はぁ……


泰三は何度も首をかしげながらアタッシュケースを受け取ると、
ロッカーのある小さな部屋に歩いていった。




「これを着ろと言われてもなぁ……


自分のロッカーの前に経ち、アタッシュケースからスキンスーツをを取り出してジロジロと眺める。
皺くちゃになっているそのスキンスーツを伸ばしても、泰三の身体が収まるとは思えない。


「はぁ……それでこの服は?」


今度は、スキンスーツの下にたたんであった紺色の服を取り出す。
それは――スチュワーデスの制服だった。
白いストライプの入った、水色のスカーフも入っている。


「これを?俺はスチュワーデスとして高沢社長を警護するのか?」


はぁと深いため息をつく泰三。
しかし、命令に逆らうわけには行かない。
とにかく、このスーツを着なければ。
いや、きっと着ることは出来ないだろう。
そして断ればいいのだ。

私には小さすぎて、このスキンスーツを着ることが出来ません。
だれか他のSPと交代してくださいと。



そう思った泰三は、とりあえず全裸になるとスキンスーツの背中についていたファスナーを下ろした。
そして、そのファスナーの間に右足を入れて、ぎゅっと引っ張ってみた。
泰三の太い足が、ペラペラのスキンスーツの足に入り込み――


「ほら、やっぱり無理だ……ん?えっ!?」


無理だと思っていたのに――
なぜか、泰三の足はすっぽりとスキンスーツの中に入り込んでしまった。
足の指を動かすと、ほっそりとしたスキンスーツの足の指が思い通りに動く。


「な、何なんだ?」


慌てて足を抜くと、やはり自分の足なのだ。


「どうなっているんだ?このスキンスーツは。まるで俺の足がこの中で小さくなっているようだ……


もう一度足を入れる。
すると、やはり泰三の足はほっそりとした女性の足になってしまうのだった。


「こ、こんなことが……


驚いた泰三が左足も入れて、スキンスーツを腰まで引き上げてみる。
何がどうなっているのだろう?

あんなに大きな下半身が、こんなに小さなスーツの中に無理なく入り込んでしまったのだ。上半身はガタイの大きな男。しかし下半身はほっそりとした女性になっている。もちろん、使い古した男の象徴も、うっすらとした茂みに包まれた女性の股間だ。


「ほ、本当に……着ることが出来るのか?」


目の前に起こる不可思議な出来事に気が動転した泰三は、そのままスキンスーツの腕に手をいれ、そして服を着るように女性の頭の部分に自分の頭を入れた。
目や鼻、口が合うようにあわせると、いつもどおりに見えるし、息も出来る。
そのまま背中に手を回し、開いていたファスナーをあげる。
すると――


「は……入った……あ、あれ?こ、声が!?」


あの低かった声が、急に女性のような高い声に変化している。
ドキッとして口を押さえ、ロッカーの扉についている小さな鏡に顔を映してみると、
そこには栗色の髪の綺麗な顔立ちの女性が驚いた表情で泰三を見ていた。


「な……何なんだ?こ、これは……これが…………なのか?」


鏡の中でそう呟やく女性。
もちろんそれは、女性型スキンスーツを着た泰三なのだ。
ハッとして俯き、顔を真っ赤にしながら自分の身体を見ると、女性らしさを強調した二つの胸が目に飛び込んでくる。
その胸を触ってみると、なぜか触られたと言う感触が伝わってくるのだ。
このスキンスーツ、まるで自分の身体の皮膚のようだ。


「す、すごい……これが特殊スーツなのか……


女性の声で小さく呟く泰三。
さすがにずっと見ているのは恥ずかしいので、早速スチュワーデスの服を着ることにした。
ご丁寧にも、制服の下に黒いパンティストッキングと白いブラジャー、パンティまで入っている。


「う~ん……


小さな白いパンティを手に取り、スルスルと足を通してみる。
思ったよりよく伸びるパンティは、うっすらと茂った股間とムチッと張りのあるお尻を覆い隠した。更に、妻がやっていたのを思い出しながら、黒いパンストを手繰って足を入れてゆく。パンストに包まれてゆく感触を覚えながら、パンティと同じように腰まで引き上げた泰三。
パンストを穿き込んだセクシーな下半身に、思わず唾を飲み込んでしまう。


「これもつけないとダメなのか……


そう言って白いブラジャーを手に取り、リュックサックを背負うようにして肩紐を通す。そして、フロントホックを止めたあと――はみ出している胸をパットの中に押し込んだ。


ブラジャーの中で深い谷間を作る柔らかい胸。

それを見て「ふぅ~」とため息をついた泰三は水色のブラウスを着ると、白いストライプのスカーフを首に巻いた。
そして、少し丈が短い紺色のタイトスカートと上着を着て、黒いローヒールに足を入れる。
身なりをチェックした後、恥ずかしそうにロッカー室を出てリーダーの座っている机の前に歩いてきた泰三。



「おお!お前、福岡か!?」
「はい、リーダー」
「う~む、何処から見ても福岡には見えないな」


他にいた数人のSPたちも、
自分の仕事を忘れて泰三に見入っている。
あのガタイの大きかった泰三が、こんなに綺麗なスチュワーデスになっているのだ。


「よしよし。さすがに裏ルートから手に入れた女性型スキンスーツだけのことはある。その女性は実在する女性なんだ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。井上 亜里奈(いのうえ ありな)、22歳。大学生なのだ」
「大学生……ですか」
「そうだ。詳しい情報はないが、その井上という女性の身体を何かの方法でコピーしたんだろう。それをスキンスーツとして作りこんだと言うわけだ」
「なるほど。世の中に、この女性は存在するんですね」
「ああ。なあ福岡。そのスキンスーツの着心地はどうだ?」
「そ、そうですね。まるで本当に……井上亜里奈という女性になった気分です。
 このスキンスーツ、自分の皮膚と同化しているようで、触ると感触があるんです」
「そうか。まあ……綺麗に使ってくれよ。大事なスキンスーツなのだからな」
「はい」
「ではこれから早速空港に向かってくれ!」
「はい!無事、任務を完了する事に最善をつくします」

泰三は、亜里奈の姿で敬礼をした。

(任務とは言えこんな事をしているなんて、妻や子供には照れくさくて言えないよな……


こうして泰三は、井上亜里奈という女性に変身し、高沢社長の警護に向かったのだった――





これも俺の仕事なのか(^^;……おわり




あとがき

う~ん。
書きたいところだけ書きました(笑
この後、彼がどうなったかというと、
チャーター便の中では、もう一人のスチュワーデスがいました。

実はそのスチュワーデス。高沢社長の暗殺を企てたグループの男だったのです。
泰三と同じようにスチュワーデスに化け、上手くチャーター便に潜り込んだようですね。
最初は気づかなかった泰三も、そのスチュワーデスの行動に怪しさを感じ――
タイトスカートのポケットに忍ばせていたナイフで高沢社長を仕留めようとした所を、見事取り押さえたのでした。
その行動に感激した高沢社長。
ありがとうと言いつつ、泰三の身体を触ってきます。




「や、止めてください。高沢社長」

「さっきの蹴りはすごかったやん。この足が、あのスチュワーデスに化けた男を倒したんか」
「ちょっと……あっ、そんな風に触ったら……
「姉ちゃん気持ちええんか?ほんならココはどないや?」
「わっ!そこはっ……ひっ……はぁっ、はぁ~、はぁ~」


隣の座席に座らせ、タイトスカートの中に手を入れる高沢社長。
その悪戯に、泰三は女性としての喜びを感じてしまうのでした(笑



――
ってなわけで、無事任務を果たした泰三。
その身体になれた泰三は、妻に悪戯してやろうと亜里奈の姿のまま家に帰ったのです。


「はい。ど、どちらさまですか?」
「んふ。私、泰三さんの妻、亜里奈です」
「ええ!?な、何よ一体っ」
「だから、私が泰三さんの妻なのよ」
「ど、どういうことよっ!」


怒った妻に真実を伝えてやろうと、服の中に手を入れてファスナーを下げようとした泰三。
でも、ファスナーが引っかかって下げられないのでした(^^
悪ふざけも、度が過ぎるといけませんね(クスッ

そんなこんなで、何とか一日を終えた泰三。
さて、次回の仕事はまた女性に化けるのでしょうか。
それとも、もうコリゴリかな(^^

いや、それよりもリーダーが使いたいようです(笑


それでは最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
Tira
でした。

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