体内「侵」入 4
体内「心」入

作:リイエ



「うぅーん・・・・あれ?ここは・・・・?」
 僕は確か加奈子に・・・・・それにこの空間は・・・・
 何もない真っ暗な空間に僕は浮いているようだった。
「あらら、またやっちゃったわね」
 ふと前の方から声が聞こえる。
「誰?」
 前の方を見るとフードをかぶった、手袋を売りつけてきたおばあさんがいた。
 しかし、声があの時とは似ても似つかない。
 おばあさんがフードに手をかけて、バァッとその全身を隠していたフードを脱いだ。
「ふぅー、この服暑いのよねー。
 で、希望は叶った?」
「え?・・・・・!?」
 僕はそのありえない、姿に絶句した。
 女性なのか・・・
 スラットしたボディに、黒色をメインとした露出の少ない服。
 何より頭には大きい角が二本、背中には黒い大きな羽が・・・・
 そしてお尻には尻尾までついているのだ・・・・
 僕はあまりにも現実離れした存在が目の前にいることに面を食らっていた。
「あーまたなのね、人間ってほんとめんどくさい生き物だわ」
 頭に手を当てながら、大きくため息をついている。
 すると近寄ってきて、僕の頭に触れた。
「はい、これでどう?
 まったく3回も同じ事させてくれちゃって、別途代償をもらいたい位だわ」
 浸入、侵入、針入・・・・・・
 触れた瞬間に今までのことが、頭に蘇ってくる。
 そして目の前の人物が誰かなのかも思い出した。
「あぁ、そうでしたね。
 ようやく思い出せました・・・・・」
「うーん、いいのいいの愚痴ってるだけだから。
 あたしだって、あんたみたいな人間がここで覚えてたらスカウトしちゃうよ!?」
 ケタケタと笑いながら、僕の肩を叩く。
 ぶっちゃけると、結構痛い。
「んー、それでどうするの・・・?
 チャンスはあと1回しかないわよ」
 僕は女性の声にハッとした。
「そ、そうですね・・・・・、次の時に記憶を持っていくのはやっぱり無理なんでしょうか?」
 僕がそういうと女性は首を横にしながら、腕を組み始めた。
「うーん、そうねぇ・・・・・・・、それは別の代償が発生しちゃうわねぇ・・・・」
「具体的にはどんな代償なんですか?」
「寿命半分」
 即答で返ってくる。
「もともと、記憶の伝達自体は無意識レベルではしてるはずだからそれを思い出せてない君が悪いんじゃないかな?」
「はぁ・・・・・」
「4回だよ!?4回、普通これだけやってくれないよ!?
 あたしじゃなかったら、君なんか骨の髄まで代償として取られて存在なんかしなくなっちゃうよ!?」
 女性は僕の前に4本の指を立てて、若干怒っている様に物を言った。
「じゃあ、どうすれば?
 このままだと、また同じ結末をたどりそうですし・・・・
 それこそ今度こそ残機0のゲームオーバーになっちゃうじゃないですか」
「しょうがないなぁ・・・・、ほんとだったら代償発生もんだけどこれが最後のチャンスだし大サービスしちゃおう!!」
「ほ、本当ですか?」
「このまま、願いが叶わないまま、代償をもらうのも気が引けるしねー。
 あぁ、なんてあたしは優しいんだろう・・・・」
 女性は自分の腕で自分を抱きしめながら、悦に浸っているようだった。
 そしてチラっとこちらの方を見る。
「あ、ありがとうございます」
 あわてて僕はお礼を言った。
「うんうん!」
 どうやら満足した様子の女性は、僕の方向に向きなおした。
「じゃあ、これが泣いても笑っても最後のチャンスだからね。
 がんばって君の思うように行動しなさいな。
 ばっははーい!!!」
「あ・・・え!?ちょっ・・・・・ちょっとまってください」
「え?なにー?」
 女性が僕に聞きなおす。
「実はお願いが・・・・・」

・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

 意識がブラックアウトする・・・・・・

「あれここは・・・・?」
 ここどこ?って寒っ!!!
「外でボーっとしたまんまだったのかな、いけないいけない」
 危ない危ない、この癖は治さないと本当に危ないなぁ。
 そうだった、薫の家に寄ってきてたんだった。
 久しぶりに緊張する話をしたからかな・・・、こんなところでボーっとするなんて。
 僕ができることだけのことはやった、これで彼女自身の崩壊は止まると思う。
 けど、問題は終わりではない。
 なんとか、彼女を助けられないだろうか・・・
 そのためには、リーダー格の少女を何とか説得しないといけない。
 一度説得を試みたこともあった、しかしそれは少女の怒りに火を注ぐ結果となってしまった。
 では、どうすればいいのだろうか・・・
 いっそのこ・・・・・
『純君・・・・・、どこに行っちゃったの・・・・
 私が純君を傷つけちゃったのかな・・・・・
 だから、家出なんかしちゃったのかな・・・・
 私は純君が帰ってくるまで、耐えて見せるよ!!!
 純君だって気にしてなかったもの、私だってこんなことには屈しない!!
 だからお願い・・・・、純君帰ってきて・・・・』
 頭に見たことないような映像がフラッシュバックする・・・
 今のは・・・・・・?
 まぁいいや、それよりどう説得するかだよ。
「本心から本当に薫を嫌っているはずはないんだよね」
 アレだけ仲がよかったんだ、引っ込むに引っ込めなくなっているところもあるんだと思う。
 けど・・・・・・
「どう説得するか・・・・、うーん」

「あれ?ここ・・・どこ?」
 考えながら歩いていたのが災いしたのか、周りをみるとよくわからない景色になっていた。
 さっきもそうだったのに、またやっちゃったのか。
 いけない癖だな・・・、治さないようにしないと次は車の前でドカンだったりして・・・
「あははは、僕なんか病気だったりして・・・・」
 誰にでも言うわけでもなく、つぶやく。

「けど・・・、どこかで見たような・・・」
 デジャヴというやつなのか、以前どこかで見たような風景だった。
「んー、けど・・・・・あ!」
 違和感を確認するように道を歩いていると、ふと視線に露天か占いかわからないが道にお店を出している人を見つけた。
 ちょうどいいや、道を聞こう。

 近づくと全身にローブを着たような、老婆が座っていた。
 フードを深く被っていて、その人相はわからない・・・よね?
 何で老婆だと思ったんだろ・・・・?
 ちょっと声をかけるのに躊躇したが、他に人もいないので僕は勇気を出して声をかけた。
「あの、すいません、ちょっと○○駅への道に出たいんですが・・・」
「ふぇふぇふぇ・・・」
 やっぱしお婆さんなのかなとしゃがれた声を聞いて僕はそう思った。
 んー、この人どっかで見た気がするな、どこだろう・・・?
「あれ?どっかであったことありませんか?
 あなたを見かけた気がするんですけどね、僕の気のせいだったらすいません」
「ふぇふぇふぇ・・・」
 お婆さんは何も言わずに、笑っている。
「えぇ・・・っと、いやなんでもないです」
 僕は首を振り、本来の目的をたずねる。
「あのぉ、道を教えていただきたいんですが・・・」
 僕がそう言うと、老婆は台の上に手袋を出した。
「えっと、これは・・・?」
 老婆は手袋のほかに2枚の紙を台座の上においた。
 一枚は地図だった、駅までの道のり・・・だと思う。
 もう一枚は良くわからないが、真っ白な紙?
「持って行きなさい」
「いやでも・・・」
「持って行きなさい」
「はぁ・・・・、ありがとうございます」
 釈然としないながらも僕は手袋と紙を受け取り、そこを後にした。

 ローブを被った店売りは少年を見送りながら、誰に言うのでもなくつぶやいた。
「ラストチャンスよ、がんばってね」

「ん?」
 いまあのお婆さん何か言ったような・・・・
 振り向くと、そこにはすでにお婆さんの姿は無かった。
「え?ありゃ、もう片付けて別の場所に行っちゃったのかな」
 見かけによらず手際がいいんだな。
 ってわぁ!!!」
 弾みでもらった手袋と紙を落としてしまった。
 水溜りにそのまま落ちそうだったけど、そこを避けて落ちた。
「ふぅ・・・・、危なかった・・・・」
 僕は落ちていた3枚の紙と手袋を手に取り、駅へと向かった。

「ただいまー」
 ガチャとドアを開け、僕は家に帰ったと示す挨拶をする。
「・・・・・ん?」
 扉を開けたら心配した様子の顔の母さんがいた。
「母さん、どうしたのそんな顔して?」
 そういうと、母さんは僕の襟首をつかみ持ち上げた。
 相変わらず力あるなぁ・・・、と感心しているうちに僕はリビングまで連れてこられた。
「・・・・ここに正座」
 これは素直に従った方が良いなと思った僕は母さんの前に正座をする。
「今何時だと思ってるの?
 まぁ、それはいいわ 葉山の奥さんから聞いたわよ」
「げ・・・・」
 げ、まさか・・・・・
「なんで黙っていたの!!!!」
 珍しく声を上げて母さんは怒鳴った。
「いや・・・・、ほらさ・・・・僕自身はきにしなーいってかんじー?」
 えへへへへ、とごまかしてると母さんは右手を上げて僕に近づいた。
 やばい!!
 ぶたれると思った僕は目をつぶり、体を硬くした。
 衝撃はこず、優しい体を包み込む感触がする。
 母さんは僕のことを優しく抱きしめてくれた。
「まったく、薫ちゃん助けるのはいいけど自分の心配もしなさい」
「うん」
「けど、男らしい!さすが私の息子ね」
「うん」
「えらいぞ」
「うん・・・・」
 母さんは僕の肩を持ち、顔を向き合わす体勢にした。
「でもこれだけは覚えていて頂戴、あなたのことはいつも心配しているんだからね」
「うん・・・、ごめんね母さん」
「じゃあお風呂も沸いているから、入ってさっさと寝なさい」
「わかった」
 母さんはそういうと寝室へ戻っていった。
 普段なら寝ている時間なのに、僕がこんな時間まで返ってこなかった所為で起きてたのか・・・・
 寝室に行く母さんを見送りながら、心の中でもう一度ごめんなさいと反省した。

 母さんに言われた通り僕は風呂に入り、2階の自分の部屋へ戻った。
 日課である寝る前の予習をしている時に、ふと机の上においていた3枚の紙と手袋が目に入った。
「あれ?そういやもらった紙って3枚だったっけ?」
 これは地図だよな
 これは・・・・白紙で・・・・・・・
 この紙は・・・・・?

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浸びこめば、家族が崩壊し
侵されれば、自分が崩壊され
針を打てば、大切な人が崩壊するのだ

他人の欲望に振り回されるな
自分の欲望に囚われるな
かなえたい望みは一つ
そのために願うことは唯一つ

浸入し侵入させ、針入を行ってはいけない
心入するのだ
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 なんだこれは?
 うーんけどなぜか重要なことだと思える気が・・・・・?
 なにか忘れていたことを思い出せそうな・・・・

 考え込んでいると、ハラっと白紙の紙が手から落ちる。
「っと」
 床に落ちた紙を拾った僕は目を疑った。
「あ・・・・あれ?」

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【浸入用手袋】

この手袋を使えばあなたもすぐに別人に!

▼使用方法
@手袋をつけましょう
Aなりたい人物の腹か背中を両手を逆さに合わした形で軽くつきます
Bそのまま両手を開きましょう
C体が開くので、自分の体を入れましょう
(注:入るときは衣服を身につけないでください)
Dこれであなたは別人です

▼注意点
・入るときには手袋を含め、身につけているものをすべてはずして浸入してください、身に着けていると事故の元になります。
・浸入する際に相手が死んでいるか眠っているか起きているかによって入ったときの効能が違いますのでご注意ください。
・死後一時間以内の外傷がない死体のみ入ることができます、それ以外の死体では体を開くことができません。
・この商品を使ったことにより起こる事は一切保障できません。

▼効能について
・死んでいる場合
特に抵抗なく入れます、入った後記憶の混乱もなく入った当人の記憶が読み取れます。
脳死等、意識の戻らない状態の体もここに該当します。
内傷や病気で死亡している場合は入った時点で修復されますのでご安心ください。

・眠っている場合
こちらの場合も抵抗なく浸入することが可能です。
しかし意識として存在しているため、浸入した当人の記憶を読み取ろうとすると記憶の混乱が起きる可能性があります。
最悪意識を取り込まれて、本人の認識ができなくなる可能性があるので注意が必要です。
記憶を読み取らない限りは、自由に浸入した当人を動かせますのでご安心ください。

・起きている場合
かなりの抵抗が予想されます。
当人の意識があるため侵入している間も相手側の体は常に動ける状態にあるので、抵抗される可能性もあります。
浸入した後も、記憶読み取りに関係なく記憶の混乱が高確率が起こります。
上記で記したとおり自分自身の認識ができなくなる可能性が大いにあるのでお気をつけてください。
ですが、もし記憶の読み取りと完全なる浸入が成功した場合はその体はあなたの言いなりです。
その体から出た後でもあなたの命令を聞く人形になります。
精神の入れ替えも可能になりますので、成功の暁には是非お試しくださいませ。

-より良いご使用方法とお客様の精神の健康を祈っております-

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「な、なにこれ・・・・?」
 お、おかしい・・・・・・
 確かにさっきまで白紙だったのに。
「やっぱり白紙だ・・・・」
 目を擦ってもう一度紙を見ると、やっぱり白紙のままだった。
「そ、そうだよね・・・・、疲れてるのかな・・・・」
 今日は早めに寝たほうがいいのかな・・・・
「明日学校もあるし、そうしようかなぁ」
『純君!!』
「薫・・・?」
 ベッドに入ろうかなと思ったそのときに、薫の声が聞こえたような・・・・
「うーん」 
 僕は再度机の前まで戻り、頭をぽりぽりと掻きながら白紙の紙を手に取った。

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刺し込んで、あなたの心を入れなさい
そうすればおのずと道は開けるでしょう
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 2行書き加えられていた。
 白紙だったのは間違いがない、じゃあさっきのも・・・?
 浸、侵、針、心・・・・・・
 もしかしてと思い、白紙の紙を持って「針」と強く念じてみた。
 すると、おいてあった手袋が強く光り始めた・・・
「・・・・・・・・・」
 手袋を手に取り先端部分を、テーブルに突き刺してみる。
 シュー
 とたんにテーブル自体がまるで風船から空気が抜けるようにしぼんでしまった。
 ぺしゃんこになってしまったテーブルを触ってみる。
 まるでビニールを触っているようなだった、持ち上げてみるとテーブルだった時の重さはまったくなく。
 簡単に持ち上げることができた。
 僕は刺した部分を確認する・・・・
「やっぱり、穴がある」
 テーブルの下敷きにならないように、僕はその穴に息を吹き込んだ。
 息を吹き込むと、形を取り戻していくと同時に質感と重量が元に戻った。
 穴の開いていた部分は、形を取り戻すと共に消えてなくなっていた。

 僕は机に戻り、紙を手に取る。
 今度は「心」と強く念じた・・・・

 チュンチュンチュン
「もう朝なんだ・・・・・」 
 寝たような、寝てないような・・・
 けど頭だけはすっきりしている。

「おはよー、母さん」
 階段を下りて、朝ごはんの支度をしている母さんに挨拶をする。
「あら純、今日は早いのね?」
「うん、ちょっと気分転換に早めに行こうかなと思って」
 昨日のことはまるで無かったように接してくれる母さんをありがたく感じる・・・・

「いってきまーす」
 母さんが作ったご飯を一人で先に食べたあと、かなり早い時間に家を出ることにした。
 まだ早い時間なのか登校している学生はほかに見当たらない。
 ゆっくりと歩きながら、今日することを頭の中で反芻していた。
「失敗は・・・・できない」
 手袋の入ったかばんをグッと強く抱きしめる。

 学校に着いたら、ある人物の下駄箱の中に朝起きた時に書いた手紙を入れておく・・・・
 よし、ほかには誰も見てないな・・・・
 人の気配が無いことを確認したら、教室へ向かった。
 自分の席でいろいろな事態を想定する・・・・
 問題は複数人数で来た場合なんだけど。
 気配を悟られずに事を済ませられるだろうか・・・・・
「落ち着け・・・・、落ち着け・・・・・」
 冷静に考えてこんなこと悟られるはずが無いんだ、絶対にうまくいくさ。
 徐々ににぎわっていく教室の中・・・、何も聞こえないようなまるでどこか別の世界にいるような風に感じるくらいに集中していた。
 先生が出席をとっている際に、左斜めの空席を見た。
 今日は薫は来ていないみたいだった、おばさんが休ませてくれたのかな・・・
 
 神経を尖らせたまま、昼休みになった。
 みんなが思い思い行動をしている中、僕は立ち上がり人気の少ない校舎裏に向かった。
 手には手袋を持って・・・・

「坂下、こんなところで話があるんだって?」
 僕が後者裏でボーっと立っていると、かなり上からの目線で僕のことを見下している少女がこちらに向かってきた。
「加奈子さん・・・、よかった手紙を読んでくれたんですね」
「えぇ・・・、あなた・・・・いじめに加担するってこの手紙に書いてあるけど・・・?」
 僕は加奈子との距離を徐々に詰める、手は見えないようにポケットに入れているがすでに手袋は装着している。
「そう・・・・、なんで気が変わったかわからないけど・・・ま、いいわ、どれじゃああなたは見逃してあげるわ、要件はそれだけ?
 じゃあ私は教室に戻るわよ、なんかここ薄気味悪くて怖いし」
 そういって加奈子は僕に背を向けた。
「えぇ、だからここを選んだんですっよ!!!!」
 僕は勢いよく加奈子に先端を突き刺した。
 すると空気が抜けていくように加奈子の体は厚みが無くなっていった。
 ドサッっと服が落ちるような音と共に、加奈子は空気が抜けたゴム人形の様になってしまった。
 
「加奈子さん・・・・、ごめんなさい」
 そういって僕は加奈子の穴が開いている部分に、自分の息を送り込んでいった。
 息を送り込むと昨日のテーブルの様に加奈子は形を取り戻していく・・・・
 ある思いを込めながら・・・・、息を吹き込んでいく。
 息を送り込み終わると、空気が抜ける前の元の加奈子に戻っていた。

「あ・・・あれ?ここは・・・あれ?坂下君・・・・なんでここに・・・?」
 加奈子が僕に語りかけた口調をみて僕はにっこり微笑んだ。
「よかった・・・・」
 そのまま僕は意識を失った。
「ちょ、ちょっと!!!!坂下君!!!坂下君!!!!」
 遠くで加奈子が僕の体を揺すりながら、声をかけている・・・・
 あぁ・・・話しかけないで・・・・
 眠・・・・たい・・・・

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「青皆高校、第○○回後夜祭を始めます」
 アナウンスの後、ワーッという歓声とともにオクラホマミキサの音楽が流れる。
 チャラチャッチャチャラララチャッチャッチャ♪
 キャンプファイヤーの周りで各々楽しそうにフォークダンスをしているのを屋上のフェンスに寄りかかりながら見つめる。
 後夜祭委員のテントのところでは加奈子と美紀・・・・・そして薫が仲よさそうに談笑しているのが見えた。
「よかった・・・・・」
 加奈子や美紀が薫のことを支えてくれるだろう・・・
 すべてこれでよかったんだ・・・・

「ほんとにー?これがキミの願いだったわけ?」
 後ろから声が聞こえる、振り向くとフードを全身にがぶった人物がいた。
「えぇ、彼女を・・・・薫をそして加奈子さんの二人を助けるのが僕の願いです」
 フードをかぶった人物はフードを脱ぎ去ると僕の横でフェンスに寄りかかった。
 人物というべきだろうか、悪魔というべきだろうか?
「けどさー、いいのー?」
「何がですか?」
「結局代償を別に支払ったわけじゃない」
「えぇ」
「それでよかったの」
「彼女さえ守れれば」
「ふーん」
 そういいながら悪魔はギシギシとフェンスを揺らせていた。
「キミの存在価値を消してまで守りたかった子ねぇ・・・・・」
 そう、僕は息を吹き込んだ後、この世界から存在が消えた。
 正確には加奈子の無意識に吸収というべきか、加奈子と融合したというべきか。
 といっても、僕が乗っ取ったわけではない。
 あくまでも僕の思いを加奈子に上乗せさせたのだ。
 その甲斐もあって、薫は無事回復し、クラスでのいじめも『最初からなかったことに』なっていた。
 もちろん僕も『最初からいなかった』ことになっているわけだが。
「ほかに方法もあったと思うんだけどねぇー」
 悪魔の発言に僕はちょっと笑ってしまう。
「つくづくお人よしなんですね、人をだましてまで奪うのが悪魔なんじゃないんですか」
「あーら、悪魔にもわびさびってものはあるのよ!!
 まぁもちろんそんなのない悪魔のほうがたくさんいるけどね」
「それに『僕』は想いとして薫を支えていくわけですから、消えているわけじゃないですしね」
 悪魔は右手を僕に差し出した。
「じゃあ行きましょうか、まぁ悪いようにはしないわよ。
 代償だって半分ただでもらったようなものだしね」
「くく、お手柔らかにお願いしますね」
 僕は悪魔の手を取った。
 
 薫、一人でもがんばってね。
 できる限り見守ってるから・・・・・

END



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