体内「侵」入 3
体内「針」入

作:リイエ



 ドンッ!
 大きい衝撃と共に僕の意識は暗闇に沈んでいった。

「あれ?ここは・・・・いつつつ」
 僕は少女に膝枕をされているみたいだ。
 周りを見るともう空が暗闇に染まっているみたいだった。
 学校の屋上か・・・・?
 少女は泣きそうな顔で、僕に謝っている。
「ごめんね、ごめんね・・・・」
「ぼ、僕は・・・一体・・・」
 一生懸命謝っている、少女に尋ねた。
「あ・・・、あたし・・・・」
 その言葉を聞いてさらに少女は僕に謝ってくる。
 それを見て僕は彼女の頬に手をやり、できう限り優しい顔で彼女に微笑みかける。
「落ち着いて・・・・・うん、僕は大丈夫だから、何があったのか説明してくれるかな?」
 しかし彼女の同様は収まらないみたいで、わたわたとつぶやいていた。
「ひっく、えっとね。あ、あたしそんなつもりじゃ・・・・・」
 そんな彼女を見かねて僕は彼女を優しく抱きしめる。
 そして背中をぽんぽんと叩き落ち着かせる。
「うん、大丈夫だよ。
 何があったかはわからないけど、僕も君も大丈夫じゃないか」

「うぁ・・・・うあああああああん!!」
 彼女は僕の一言がきっかけで、目にためていた涙をあふれさせて僕に抱きついた。
「うわっと・・・っと、うん・・・・うん、大丈夫だよ」
 彼女を抱きしめ返し優しく頭をなでる。
「すー・・・・」
 落ち着きを取り戻した彼女は眠ってしまったらしい、彼女を背負った僕は家に送るため学校を後にした。

 そしてようやく断片的に思い出せた記憶。
『ドカッ!』『バンッ!!!』『あたしに反抗するき!?』『なんなのよ気持ち悪い!!!』
 怒りの表所の彼女、運悪く僕は頭をぶつけて気を失ってしまったみたいだった。
 なぜこうもまで、彼女が激変したのか、それについてはある3人の少女のことを話さないといけない。
 その3人の少女と彼女はとても仲のいい友人関係だった。
 きっかけはわからないが、彼女はリーダー格の女の子と仲たがいをしてしまったらしい。
 おそらく好きな俳優の食い違いとか理由は些細なものだったんだろう。
 彼女は次の日謝って、また仲良くしようと思ったに違いない。
 しかしそれは叶うことはなかった・・・・

「あ、昨日はごめ・・・・・」
「ねぇ美紀、向こう行こ?」
「うん・・・、そうだね」
 彼女は喧嘩した少女に謝ろうとしたら、急に二人は席を立って別の場所に移動してしまった。
「え・・・・、なんで?」
 次の日、彼女が行くとその喧嘩をしていない仲良くしていた女の子たちも彼女のことを無視し始めた。
 彼女は「なんで、どうして」と聞くが執拗に、だんまりを決め込むか他の人と話に行ってしまう。
 彼女の運の悪さは、その仲たがいした女の子はクラスでもリーダー格だったことに尽きる。
 
 不協和音は次々と奏でられていく。

 日にちがたつことに、わかりやすくなっていく彼女へのいじめ。
 同じクラスだった僕にももちろん誘いがくる。
 それを断ると、僕もどうやらいじめの標的に加わったみたいだった。
 
 彼女がトイレで用をしていると、急に上から水が降ってくる。
「あれー?このトイレ水出っ放しだよー」
「きゃはははは!!!」
 ドンドンドン!!
 続けざまに、ドアにけりと思われる衝撃が走る。

 他にも彼女の机を廊下に出されていたり上履きがなくなっていたりと、それもこれも陰湿・・・しかしくだらないものだった。
 僕自体はなんとも思わなかったが、彼女の精神は徐々に追い詰められていった。
 この時点で自分は大丈夫だから、彼女も大丈夫だという考えをしていた僕の浅はかさを恨んだ。
 彼女はとても弱い人物だったのだ。
 ガラスの様に脆く繊細だった心が崩壊するのは遅くはなかった。

「じゃあご飯食べようか」
 いつもと同じく彼女とお昼を屋上で食べようとしたら、急に彼女は僕に暴力を振るい始めた。
 いきなりで面を食らった僕は、そのまま倒れこんでしまった。
「ゲッ、げほっ・・・、急にどうしたの・・・?薫?」
 彼女はどこかうつろな目だけど、確実にわかる敵意でこちらを見ていた。
 その顔をみて彼女の心は崩壊してしまったんだなと、僕は悟った。
「純もあたしを裏切るんでしょ!!!こうやって一緒にご飯を食べたくなんて思ってないくせに!!!」
「そんなこ・・・うわっ」
 僕がいい終わる前に、彼女は自分のおべんとうを投げつける。
 いつも朝早くに起きて、自分で一生懸命作っているそのお弁当を僕の顔に。
 彼女をなだめるために結局お昼後の授業に出ることはなかった。
 それ以降急に何かがきっかけで彼女は壊れだしてしまうようになる・・・
 
 それに気付くのが遅すぎたゆえに僕は、その彼女の行為を甘んじて受けようと思う。
 それが自分への罰だから・・・・

 このままじゃ絶対にいけないと思った僕は、彼女を止めようとした。
 止めようと思った僕を振り払った弾みで、僕は頭をぶつけてしまいさっきの状況になってしまった。
 なんとか彼女を救えないのだろうか・・・・、僕は背中でくぅくぅと寝ている彼女を見た。
「はぁ・・・・、なんでこうなっちゃうんだろうな」
 誰に言うわけでもなく僕はボソッとつぶやいた。


「それじゃあ失礼します」
 僕は彼女の母親に頭を下げ、玄関を出る。
「ねぇ?大丈夫?うちの子を助けるために階段から落ちたんでしょ?もうちょっとゆっくりしてから帰りなさいな」
 ありがたい申し出だけど、僕は首を振りそれを断ろうと思った・・・・が。
 彼女自身に絶対よくない、このまま放置していたら・・・・
「ちょっと話したいことがあります。
 あ、その前に電話をお借りしてもいいですか?」
「え、えぇ良いわよ?はいどうぞ」
 僕は子機を受け取り、自分の家に電話をかける。
 プルルルルル、プルルルルル、プル、ガチャ
「はい、坂下ですが」
 電話口に母さんの声が聞こえる。
「もしもし、僕だけど」
「あら純、どうしたのこんな遅くまで帰ってこないで心配したわよ」
「うん、ごめんちょっと薫の家に寄っていてさ。
 もうちょっと帰るの遅くなりそうなんだ、だから電話の方を先にと思って」
「あらそうなの、薫ちゃんのお母さんにもよろしくいっといてね」
「うんわかった、じゃあ切るね」
「はいはい、じゃあご迷惑かけないようにするのよ」
 ガチャ、プープー
「あ、電話ありがとうございました」
 母さんに電話し終えた僕は、おばさんに子機を返した。
 
「端的に話すと・・・、薫がいじめを受けてます」
 僕はテーブルの対面にいる、おばさんに本題を切り出した。
「え・・・・えぇ!!まさか・・・・そんな・・・・」
 おばさんが顔を真っ青にしてうつむいてしまったのをみて、僕は心を痛めた。
 けどここで言わなきゃもっとひどいことになる。
「首謀格は仲のよかった友達です、多分お宅にも遊びに来たんではないでしょうか。
 僕もいじめに参加するように言われましたが、断ったら僕もターゲットにされました」
 おばさんは僕の言葉を黙って聞いている。
「僕自身いじめなんてくだらないものだと思っていますし、気にしないでいればそのうち飽きると思っていたんですが薫は僕とは違って繊細な心の持ち主です。
 薫がある日を境に徐々に変貌してしまいました、そのきっかけに気づかなかった僕の責任は大きいですしそれを今の状況になるまで黙っていたのも重大な過失だと思っています。
 おばさんに叩かれようが今家を追い出されるのも甘んじて受け入れるつもりです。
 本当にすいませんでした」
 僕は大きく頭を下げた。
 しばらくおばさんは黙っていたが、長い沈黙のあと喋り始めた。
「それじゃあ、その傷は・・・いじめによるものだったの?」
「いや、これは・・・・」
 僕は言って良いものか悩んだ、薫自身がやった行動だと知ってしまった時のショックは計り知れないと思う。
 けどこれは治療をしないといけないレベルまで言っていると思った、僕は手遅れにしちゃいけないという思いを胸に意を決して薫の変貌振りを語り始めた。
「・・・・・、そう薫が・・・・・」
「えぇ、ですからすぐに精神科等で治療をしたほうがいいと思うんですよ、いまならまだ間に合うと思うんです薫の心が壊れてない今なら!」
 おばさんは僕がそういうと、涙を見せた。
「純君は・・・、薫や他の子にも虐げられているのに、私の大切な子を気遣ってくれるんだね。
 本当にありがとうね」
 おばさんはそういうと手をとり、ありがとうありがとうと繰り返した。

「それじゃあ薫は当分休ませてくださいね。
 解決案の一つとして転校も僕はありだと思っています」
「今日は本当にありがとうね、おばさんしっかり話してもらってよかったわ。
 純君も無理しないようにね」
 おばさんに頭を下げると、薫の家を出た。

バタン

「ふぅ・・・」
 僕は星も月も見えない空を見上げる。
 やるだけのことはやった、これで彼女自身の崩壊は止まると思う。
 けど、問題は終わりではない。
 なんとか、彼女を助けられないだろうか・・・
 そのためには、リーダー格の少女を何とか説得しないといけない。
 一度説得を試みたこともあった、しかしそれは少女の怒りに火を注ぐ結果となってしまった。
 では、どうすればいいのだろうか・・・
 いっそのことリーダー格の女の子を・・・・
「いやいや、だめだめそんなことできない」
 僕は一瞬思いついた最悪の考えを振り払う。

「あれ?ここ・・・どこ?」
 考えながら歩いていたのが災いしたのか、周りをみるとよくわからない景色になっていた。
 いけない癖だな・・・、治さないようにしないと次は車の前でドカンだったりして・・・
「ははは、それはいやだな」
 誰にでも言うわけでもなく、つぶやく。

「けど・・・、どこかで見たような・・・」
 デジャヴというやつなのか、依然どこかで見たような風景だった。
「んー、けど・・・・・あ!」
 違和感を確認するように道を歩いていると、ふと視線に露天か占いかわからないが道にお店を出している人を見つけた。
 ちょうどいいや、道を聞こう。

 近づくと全身にローブを着たような、小柄な人が座っていた。
 フードを深く被っていて、その人相はわからない・・・
 ちょっと声をかけるのに躊躇したが、他に人もいないので僕は勇気を出して声をかけた。
「あの、すいません、ちょっと○○駅への道に出たいんですが・・・」
「ふぇふぇふぇ・・・」
 老婆のような笑い声をする人だな・・・、って。
 この人どっかで見た気がするな、どこだろう・・・?
「あれ?どっかであったことありませんか?
 あなたを見かけた気がするんですけどね、僕の気のせいだったらすいません」
 僕は首を振り、本来の目的をたずねる。
「って違う違う、、道を教えていただきたいんですが・・・」
 僕がそう言うと、老婆は台の上に手袋を出した。
「1000円」
「え?」
「1000円」
「これを買ったら教えてくれると・・・」
 うーん、自分で道を探した方がいいかなぁ・・・
 まぁ、背に腹は変えられないか。
「わかりました、わかりました」
 そういって僕は財布から1000円を取り出し、机の上におく。
 1000円を受け取ると、老婆は手袋のほかに2枚の紙をくれた。
 一枚は地図だった、駅までの道のり・・・だと思う。
 もう一枚は良くわからないが、真っ白な紙?
 とほほ、余計な出費をしちゃった、次からは気をつけないと。
 肩を落としながら僕は手袋と紙を受け取り、そこを後にした。

 ローブを被った店売りは少年を見送りながら、誰に言うのでもなくつぶやいた。
「ふぇ・・・ふぇ・・・ふぇ、今度は邪魔をされないといいねぇ」

「ん?」
 いまあのお婆さん何か言ったような・・・・
 振り向くと、そこにはすでにお婆さんの姿は無かった。
「え?ありゃ、もう片付けて別の場所に行っちゃったのかな」
 見かけによらず手際がいいんだな。

「ただいまー」
 ガチャとドアを開け、僕は家に帰ったと示す挨拶をする。
「・・・・・ん?」
 扉を開けたら心配した様子の顔の母さんがいた。
「母さん、どうしたのそんな顔して?」
 そういうと、母さんは僕の襟首をつかみ持ち上げた。
 相変わらず力あるなぁ・・・、と感心しているうちに僕はリビングまで連れてこられた。
「・・・・ここに正座」
 これは素直に従った方が良いなと思った僕は母さんの前に正座をする。
「今何時だと思ってるの?
 まぁ、それはいいわ 葉山の奥さんから聞いたわよ」
「げ・・・・」
 げ、まさか・・・・・
「なんで黙っていたの!!!!」
 珍しく声を上げて母さんは怒鳴った。
「いや・・・・、ほらさ・・・・僕自身はきにしなーいってかんじー?」
 えへへへへ、とごまかしてると母さんは右手を上げて僕に近づいた。
 やばい!!
 ぶたれると思った僕は目をつぶり、体を硬くした。
 衝撃はこず、優しい体を包み込む感触がする。
 母さんは僕のことを優しく抱きしめてくれた。
「まったく、薫ちゃん助けるのはいいけど自分の心配もしなさい」
「うん」
「けど、男らしい!さすが私の息子ね」
「うん」
「えらいぞ」
「うん・・・・」
 母さんは僕の肩を持ち、顔を向き合わす体制にした。
「でもこれだけは覚えていて頂戴、あなたのことはいつも心配しているんだからね」
「うん・・・、ごめんね母さん」
「じゃあお風呂も沸いているから、入ってさっさと寝なさい」
「わかった」
 母さんはそういうと寝室へ戻っていった。
 普段なら寝ている時間なのに、僕がこんな時間まで返ってこなかった所為で起きてたのか・・・・
 寝室に行く母さんを見送りながら、心の中でもう一度ごめんなさいと反省した。

 母さんに言われたとおり僕は風呂に入り、2階の自分の部屋へ戻った。
 日課である寝る前の予習をしている時に、ふと机の上においていた1枚の紙と手袋が目に入った。
 そういえばこれは結局何なんだろう?
 気になった僕は準備を一時中断し紙を手に取った。
 しかし紙にはなにも書いていない。

「うーん・・・・・何も書いていないなぁ、なんなんだろこれ?」
 どんだけ透かして見たり、こすってみたりしたものの。
 文字が浮かんで来るわけでもなく、白い紙はいたって白い紙のままだった。
 何も印字されていない紙を再び机の上におき、僕は授業の予習をし始めた。
 
 予習しながら机の上においてある手袋をみる・・・
 指の先端部分に鋭い物がついている、何のための機能なのだろうか?
 触ってみるが、見た目と違ってふにゃふにゃしている。
「うーん・・・、なんかのおもちゃなのかなぁ?」
 ぼーっと手袋の使用方法がどんなのかと考えつつ、予習を終えパジャマに着替えた。

「さて・・・、寝ようかな」
 チラ・・・・・
「けど、明日はそんな早い時間に起きなくてもいいしなぁ」
 チラリチラ・・・・
「あ、緑はもう寝たのかな?」
 チラチラチラ・・・・・・・
「・・・・・・・・えええい!やっぱ気になる!!」
 こういうときは緑に相談するに限るけど、やっぱ寝ちゃってる緑起こすのは悪いよね。
 僕は手袋に目線を戻した。
「しかし・・・、何に使うんだろう。
 物は試しだ、一回つけてみようか」
 両手に手袋を着けてみる・・・が。
「んー、特に変化は無いな」
 振り回しても、両手を合わしても特に変化も起こらない。
 やっぱり、ただのおもちゃの手袋かな。
「んー、高い授業料だったなー、こうやってさしてみたらなんか起きればいいのになぁ」
 そういいながらやわらかい手袋の先端部分を、テーブルに突き刺してみる。
 プシュー
「・・・・え?」
 とたんにテーブル自体がまるで風船から空気が抜けるようにしぼんでしまった。
 あわてて僕は手袋を手からはがした・・・・
「な、ななななな」
 なんだ!?一体なんなんだ!?
 恐る恐る、ぺしゃんこになってしまったテーブルを触ってみる。
「や、やわらかい・・・・」
 まるでビニールを触っているようなだった、持ち上げてみるとテーブルだった時の重さはまったくなく。
 簡単に持ち上げることができた。
 ふと、穴が開いていることに気づいた。
「これは・・・さっきさした箇所・・・・かな?」
 どうやらここから空気(?)が抜け出して、テーブルがしぼんでしまったみたいだった。
 けど・・・・・・
「これどうやったら戻るんだろ?」
 穴の開いているところにでも、空気を送り込めばいいのかなぁ・・・・
 やるだけやってみよう。
 僕はテーブルの穴の裂けている部分に、空気を送り込んだ。
 吹き込んでいると、形を取り戻していくと同時に質感、重量が元に戻った。
「うわぁ・・・、お、重い!!」
 あわやテーブルの下敷きになりそうなところを、かろうじて避ける形に・・・・
 穴の開いていた部分は、形を取り戻すと共に消えてなくなっていた。

「あ、あぶなかった・・・・」
 完全に重量を取り戻したテーブルは、先ほどまでの出来事が無かったように鎮座していた。
 けど、この手袋は一体・・・・・
 無機物以外・・・・・、人間とかにも使えるのかな・・・・
 今日の出来事が頭によぎる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
 無言のまま僕は覚悟を胸に秘め、ベッドに潜り込んだ。
 たとえアダムが禁断の果実に手をかけて追放されようとも・・・・・
「薫・・・・、もうちょっとだけの辛抱だからね」
 誰に言うわけでもなくそうつぶやいた。


 チュンチュンチュン
「もう朝なんだ・・・・・」 
 寝たような、寝てないような・・・
 けど頭だけはすっきりしている。

「おはよー、母さん」
 階段を下りて、朝ごはんの支度をしている母さんに挨拶をする。
「あら純、今日は早いのね?」
「うん、ちょっと気分転換に早めに行こうかなと思って」
 昨日のことはまるで無かったように接してくれる母さんをありがたく感じる・・・・
 そして母さんを悲しませないためにも・・・・、僕はさらに決意を固めた。

「いってきまーす」
 母さんが作ったご飯を一人で先に食べたあと、かなり早い時間に家を出ることにした。
 まだ早い時間なのか登校している学生はほかに見当たらない。
 ゆっくりと歩きながら、今日することを頭の中で反芻していた。
「失敗は・・・・できない」
 手袋の入ったかばんをグッと強く抱きしめる。

 学校に着いたら、ある人物の下駄箱の中に朝起きた時に書いた手紙を入れておく・・・・
 よし、ほかには誰も見てないな・・・・
 人の気配が無いことを確認したら、教室へ向かった。
 自分の席でいろいろな事態を想定する・・・・
 問題は複数人数で来た場合なんだけど。
 気配を悟られずに事を済ませられるだろうか・・・・・
「落ち着け・・・・、落ち着け・・・・・」
 冷静に考えてこんなこと悟られるはずが無いんだ、絶対にうまくいくさ。
 徐々ににぎわっていく教室の中・・・、何も聞こえないようなまるでどこか別の世界にいるような風に感じるくらいに集中していた。
 先生が出席をとっている際に、左斜めの空席を見た。
 今日は薫は来ていないみたいだった、おばさんが休ませてくれたのかな・・・
 
 神経を尖らせたまま、昼休みになった。
 みんなが思い思い行動をしている中、僕は立ち上がり人気の少ない後者裏に向かった。
 手には手袋を持って・・・・

「坂下、こんなところで話があるんだって?」
 僕が後者裏でボーっと立っていると、かなり上からの目線で僕のことを見下している少女がこちらに向かってきた。
「加奈子さん・・・、よかった手紙を読んでくれたんですね」
「えぇ・・・、あなた・・・・いじめに加担するってこの手紙に書いてあるけど・・・?」
 僕は加奈子との距離を徐々に詰める、手は見えないようにポケットに入れているがすでに手袋は装着している。
「そう・・・・、なんで気が変わったかわからないけど・・・ま、いいわ、それじゃああなたは見逃してあげるわ、要件はそれだけ?
 じゃあ私は教室に戻るわよ、なんかここ薄気味悪くて怖いし」
 そういって加奈子は僕に背を向けた。
「えぇ、だからここを選んだんですっよ!!!!」
 僕は勢いよく加奈子に先端を突き刺した。
「え!?ぎゃああああああああああ」
 加奈子の悲鳴と共に穴から液体が吹き出てきた、それと共に加奈子の体は厚みが無くなっていった。
 ドサッっと服が落ちるような音と共に、加奈子は空気が抜けたゴム人形の用になってしまった。
 亀裂部分からもれていた液体はいつの間にか消えてしまっていた、蒸発してしまったのだろうか・・・?

「ふふ・・ふははははは!やったやったよ!!かおる!!!!!」
 僕は頭をかきむしりながら、喜んだ。
 ふと目の前にある、加奈子の残骸が目に入る・・・
「・・・・・・・・・」
 髪の毛がついたような全身タイツみたいになっている加奈子の残骸は、まだ体温が残っているようで暖かった。
 僕はおもむろに穴の開いた部分に指をかけ、裂き始めた。
 ある程度裂いて、穴を開けると、僕自身が服を脱ぎ裸になり始めた。
 僕ハ何ヲヤッテイルンダロウ?
 全身タイツ状の加奈子に、裂いた部分から足を入れる。
 中はぬるっとしたような感じで、気持ちがいい。
 ヤメテクレ・・・・
 右足を入れ終わると左足も入れる。
 両足を入れ終わったら腰の部分をもって自分のあそこが隠れるように引き上げた・・・・・
 僕ハコンナ事シタクナイ
 次は裂けている部分から、肩と手を潜り込ませる。
 加奈子は僕より小さいが、ゴムが伸びるように僕に合わせて加奈子も伸びた。
 最後にヤメロ・・・・、加奈子の顔をヤメテクレ!!!自分に合わせて・・・・ボクガキエル!!!


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 純君・・・・・、どこに行っちゃったの・・・・
 私が純君を傷つけちゃったのかな・・・・・
 だから、家出なんかしちゃったのかな・・・・
 私は純君が帰ってくるまで、耐えて見せるよ!!!
 純君だって気にしてなかったもの、私だってこんなことには屈しない!!
 だからお願い・・・・、純君帰ってきて・・・・


 今日もテレビのモニターから見れるだけのような、一日が始まる。
 加奈子のしてる行動が加奈子の目を通して見える・・・
 けど見えるだけで、なにも行動ができない。
 加奈子を脱ぎたいと思っても、それは叶わないことだった。
 試しても見たが、本能的にそれは不可能だとわかった。
 僕はあの日から行方不明扱いにになってしまった、薫へのいじめは相変わらず続いている・・・・
 しかし、テレビのモニターの様に目から映るもの以外にも、加奈子自身の心も聞こえてくる。
 なぜここまで自分も苦しんでいるのに、薫を虐めているんだろうか。
 腕にはリストカットの後・・・・・、加奈子自身も苦しんでいる様子だった。
 このすれ違いさえ・・・・・・。
 最近は自分の意識が薄れていくような、加奈子に同調しているような感じがする・・・・
 このまま消・・・・・


「ふぇふぇふぇ・・・・・、おしかったのぅ・・・・・・」
 ロングヘアーのセーラー服の女の子「加奈子」を後ろから老婆は眺めつつ小さく呟いた。

END


inserted by FC2 system