復讐の魔剣士

作:愛に死す


「貴女を愛しているんだ」
 賞金稼ぎを生業としていたスレインは、自分の命を救ってくれた薬師のアイリスに告白していた。
「貴方に惹かれるものを、私も感じるわ、でも・・・」
「なんだい?」
「貴方と私では住む世界が違うわ、私は、人を救うのが仕事、でも、貴方は、人を傷つけなければならない」
「俺は、戦いの世界からは足を洗うよ」
「本当?」
「二度と俺の手が、血に濡れる事はない、君に誓うよ」
「うれしいっ!」
 アイリスは、スレインに抱きついた。

結婚式場にて
「スレインさん、こんな物が届いていますが」
「誰からだ?」
「差出人は、書いてありませんね。おやっ、タロットカードが、挟まれている・・・死神!?」
「まさか奴か、皆、伏せろぉぉぉ!」
 スレインの絶叫は、爆音に打ち消された。

「ドク、彼女を助けてくれ」
 スレインは、転移の魔法を使い、知り合いの闇医者を訪ねた。
「無理じゃよ、一度死んだ者を蘇らせる事は誰にも出来ない」
 アイリスを診察した闇医者は、無情に告げた。
「そんな!外傷なんて何処にもないじゃないか!?」
「そうじゃな、しかし、打ちつけた場所が悪かった」
「俺の身体ならどこでも使ってくれ!必要なら、俺の心臓でも構わない」
「あんたも重症じゃないか、この傷では助かるかどうか・・・」
「ウォォォォ!俺は、アイリスの仇を討つ事もできずにこのまま死ぬのか・・・」
「命が助かるかわからないが、一か八か賭けてみるかね?」
「くそぉ、意識が霞む・・・た・・・の・・・む」
 しかし、その後スレインの姿を見た者は誰もいなかった。
 スレインが、消息を絶って二年の歳月が流れた・・・。

「少し物を訪ねたいのだが」
 皮鎧に身を固めた女が、酒場に入ってきた。顔だけ見れば、儚げな印象だったが、声には重みがある。
「賞金首を捜している」
 カウンターに座ると女は、店主に声をかけた。
「女の賞金稼ぎとは珍しいな」
 店主は、じろじろと女を眺めた。
「この男を何処かで見たという噂は聞かないか?」
 女は、似顔絵が書かれた紙を店主に見せた。
「死神ラドックか、魔法をも操る事ができた剣士スレインを殺した事で一躍名を馳せた暗殺者だな」
「知っているのか!」
 女は声を荒げると、店主の手に金貨を数枚握らせた。
「ラドックが、この街で仕事をするという噂がある」
「獲物は?」
「この街の領主コーラル卿」
「感謝する」
 女は、声だけを残し瞬時に姿を消した。
「なにをしたんだ!?」
 女が幻でなかった証拠に、店主の手には、女の体温が残った金貨が握られていた。

「俺を護衛として雇ってもらえないか?」
 酒場を後にした賞金稼ぎの女は、コーラル卿の屋敷を訪れていた。
「女に守られるほど、この屋敷の警護は手薄ではありません」
 執事は断ろうとした。だが、
「美しい顔をしているな、まぁ、その身体で仕えるというなら別だが」
 肥満し、脂ぎった顔をしたコーラル卿は、女にそう告げた。
「それでも別に構わないさ」
 女は、サバサバと答えた。

「よい身体をしている」
「・・・・・・」
 賞金稼ぎの女は、無言でコーラル卿に抱かれていた。
「早く、その顔が快楽に悶えるのを見せてくれ」
 コーラル卿が、女に挿れようとした時、
ガシャーン!
 窓が割れ、黒い影が飛び込んできた。
「貴様に恨みはないが、死ね!」
 影は、コーラル卿に剣を振り落とす。
キンッ
 暗殺者の剣は、女が隠し持っていた短剣で受け止められていた。
「なにっ!?」
「コーラル様、今の物音は何です!?」
 警備兵が、寝室に近づいてくる。
「ちっ、失敗か」
 影は、窓から抜け出て屋根の上に駆け登った。素早い動きで、屋根から屋根へ逃げようとする。だが、その影の前に、賞金稼ぎの女が立ち塞がった。
「ようやく会えたな、ラドック」
 女は、凄惨な笑みを浮かべた。
「俺の名を知っているとは、女、貴様只者ではないな!」
「この額の傷に覚えはないか?」
「知らんなぁ、道端にいる蟻を踏み殺しても人は気付かないものだ」
「そうだろうよ」
 女は、ラドックに短剣で斬りかかる。
「女、中々の腕前のようだが、獲物が短剣ではどうしようもないぞ」
「くっ」
「刃に亀裂が入ったぞ、もはや長くは持つまい」
「やはり、こんな物では話にならないか」
 女は、短剣を投げ捨てた。
「諦めたか」
「まさか、得意なものを使うだけだよ」
 女の手が、光ると雷光が、ラドックを貫く。
「ぐはぁっ!」
「彼女の味わった苦しみは、こんなものではない」
「ば、化け物め」
「雷光よ、火炎よ、吹雪よ」
 一寸の容赦もなく、女は呪文を唱え続ける。
「これほどの呪文を一度に使えるのは、この世でただ一人のはず、しかもその男は死んだはずだ!」
「地獄から蘇ったのさ」
「まさか、貴様の名は、スレイン!?」
「疑問を抱えたまま死ぬがいい!さよならだ・・・」
 女の手から不可視の破壊の力が放たれる。ラドックの身体は、肉の欠片すら残さず消滅した。
「アイリス、仇は取ったよ。安らかに眠ってくれ」
 女は気が抜けたように膝をつき、両手で自分の身体をきつく抱きしめると、嗚咽の声を漏らしはじめた。



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