ガールズパンツァー
ポゼッション・ウォー!

トゥルー
*この作品は、アニメ「ガールズ&パンツァー」の二次創作小説です!



文部科学省の庁舎の一角、学園艦教育局の執務室。
ブラインドを閉ざした薄暗い部屋の中に、一組の男女の姿があった。

一人は七三に分けた髪と度の強そうな眼鏡をかけてキッチリとスーツを着た、いかにも役人風の男。
もう一人は短く切り揃えた黒髪と厳しい目つきが印象的な、自衛官の制服に身を包んだ女性。
両者は黙ったまま、じっと睨み合っていた。

「それで――わざわざわたしを呼んだのは、どういったご用件なんですか……?」

沈黙に耐えられず、女性がようやく言葉を発する。
しかしその鋭い瞳は変わらず、役人を睨み続けていた。

「大洗女子学園の一件……と言えばお分かりになりますか?蝶野一尉」

刺さる視線を気にも留めず、男は眼鏡のツルを指で持ち上げながら、感情のない言葉を口にした。
その問いに、女性自衛官の眉間の皺が更に深く刻まれる。

「まさか、廃校の話ですか?あれはあの学園が全国大会を優勝したことで無効になったのでは?」

蝶野と呼ばれた女性は、相手とは対照的に感情を露わにした強い口調で問い詰める。
彼女――蝶野亜美ちょうのあみは戦車教導隊所属の一等陸尉であり、日本戦車道連盟の強化委員でもあった。

2人の話の中に出てきた大洗女子学園とは、先頃行われた「第63回戦車道全国高校生大会」の優勝校だ。
戦車道が廃れて久しい無名校だったこの学園が次々と強豪校を打ち破り、まさか優勝まで勝ち取るなどとは誰も予想していなかっただろう。

蝶野自身、大洗女子学園が戦車道を復活させたばかりの時期に特別講師として呼ばれたこともあった。
決勝戦では審判長も務め、彼女たちの戦いには立場を忘れて大いに感動させてもらったものだ。

そもそも大洗女子学園は、文科省が計画していた学園艦の統廃合の候補として、廃校処分を通告された学校だった。
生徒数が減り、大した活動実績がないことがその理由だ。
しかし大洗女子の生徒会はかつて盛んだった戦車道を復活させ、「全国大会で優勝すれば廃校を撤回する」と言う約束を文科省と取り交わしたはず。
その宣言通り、彼女たちは見事全国の頂点に昇りつめたのだ。

仮にも教育に関わる者が、そんな子供たちの努力や健闘を讃えこそすれ、約束を反故にすることなどあり得ないと言うのが、蝶野の問いの意図するところだった。

「あんなもの、ただの口約束ですよ。それにこちらは「あくまでも検討する」と言ったまでです。可能な限り善処したがやはり決定は覆らなかった――それだけのことじゃないですか」

しかし眼鏡の男は、彼女の指摘を鼻で笑って一蹴した。
誰あろう、彼こそが大洗女子学園に廃校の最後通牒を突きつけた張本人だったのである。
名を、辻康太つじこうたと言う。

「最初から廃校を撤回する気はなかった……と言うことですか?」

彼の嘲りに蝶野は怒りを覚え、膝の上に乗せていた拳を握りしめる。
――文科省の強引なやり方は、彼女の耳にも届いていた。
こうしてその本丸に呼ばれたことで何かしらの真相を暴けるのではと予想していたが、まさかこうもあからさまに開き直られるとは。

「ハッキリ申し上げておきましょう。2年後に開催される戦車道世界大会を日本に誘致する為、我々はあらゆる手段を講じております」

文科省役人――辻はソファーに背中を預け、他者を見下すような態度で話を始めた。

「この大事な時期に、「大洗女子学園」などと言う無名校がまぐれで全国大会に優勝した、となっては他国に示しがつきません。悪い芽は、早いうちに摘んでおかなければね」

「そんな横暴な!」

あまりの物言いに、ついに蝶野は声を荒げて立ち上がった。
それでも辻は柳に風の態度を保ったままだ。

「ですから再度、あの学園の生徒たちには、残された『道』など一つもないことを理解させる必要があるんです。その協力を貴女に頼みたいんですよ、蝶野一尉」

「わたしがそのような人の『道』に反した行いに協力するとでも?」

「戦車道連盟が私と同じ考えを持っていると知れば、彼女たちも黙ってこちらの言うことを聞くでしょう」

「全国大会の優勝校を廃校になんてしたら問題になることは、火を見るよりも明らかでしょう!それこそ世間に対して示しがつかないのでは?」

「そんなものは後から何とでもなります。「試合中に反則を行っていたことが判明した」とか、「あの決勝は実は八百長だった」とか。聞けば、対戦した両校の隊長は姉妹同士だそうじゃないですか?我々が裏で手を回せば、情報を捏造することなど容易いものです」

「馬鹿を言わないでちょうだい!あの素晴らしい試合を観て、よくもそんな卑劣なことを考えられるわね……彼女たちの戦いを穢すと言うことは、戦車道そのものを侮辱するのと同じよ!これ以上の与太話沢山だわ、失礼させていただきます!」

蝶野はこの世で最も唾棄するものを目にしたように顔を顰め、踵を返してオフィスを出て行こうとする。
対する辻はソファーに座ったまま、深々と溜息を吐いた。

「仕方ありませんねえ……話して分かってもらえないようならば、強引な手段を取らざるを得ません」

「……それは、脅しですか?不用意な発言を戦車道連盟の人間の前で口にしたとなれば、あなたのクビだけでは済まない事態に陥りますよ」

感情の籠らなかった口調が、明らかな敵意をむき出しにした冷徹さを帯びる。
普通の女性ならばそれだけで震え上がったかもしれないが、蝶野は百戦錬磨の陸上自衛隊で鍛えられた鉄女だった。
喧嘩を買って出る気風の良さで、静かに向き直る。

「心配には及びません……すぐに君は、私の命令に喜んで従ってくれるようになるはずですから」

辻の方も、この程度の駆け引きで動じることがないのは承知の上と言った余裕を見せ、ゆっくりとソファーから立ち上がった。
その顔には、薄ら笑いすら浮かべている。

「天地がひっくり返ってもあり得ない話よ。それとも、非合法な行為にでも訴えるおつもりかしら?」

「貴女もお分かりでしょう?どこの組織にだって「闇」はある……融通の効かない相手を屈服させる方法など、いくらでもあるのです」

そう言うと、辻は何を思ったのかスラックスのベルトを緩めだした。
彼の真意が読めず、蝶野は僅かに狼狽えてしまう。

「ご覧なさい……!これこそが、あらゆる者に教育指導を施す、文科省驚異のメカニズムです!」

辻は叫び、豪快にズボンを足首まで擦り下ろした。

「ちょ……!気でも触れたの!?」

さすがに予想外の行動に驚き、嫌悪感から顔を背けようとする蝶野。
しかし一瞬遅く、彼女はスラックスの下に隠れていた部分を視界に捉えてしまった。

夜道で通りかかった通行人に自分の股間を見せびらかすような、変質者的行動を取られたのかと思ったが――そうではなかった。
スラックスの下にあったのは丸出しの股間でも、ましてや只の下着でもない。

辻の股間を覆っていたものは、言うなれば『鋼鉄製のオムツ』とでも呼ぶべきもの。
装甲版を継ぎ接ぎしたような、脇にコンソールまで取り付けられた、妙にメカニカルな代物だった。

スーツを着たいい大人が、オムツを履いた股間をさらけ出したまま、恥ずかしげもなく立っている――
先程までの緊迫感に包まれた空気そのものが馬鹿らしくなってくる相手の格好に、蝶野は絶句するしかなかった。

「システム・起動!」

そんな彼女の脱力感を気にもせず、辻はノリノリの口調で叫びながらコンソールを操作した。
途端にドルルルン!とディーゼルエンジンじみた駆動音がオムツから鳴り響き、装甲版全体がガタガタと激しく揺れ始めた。
オムツの前面が迫り出し、さらに股間の中央部分が蒸気を上げながらガシャガシャと音を立てて伸びていく。
内部に収納されていた部分が展開し、50cmほどの長さになったところでようやく停止した。

変形した装甲オムツの中心から伸びたものは――まるで戦車の砲塔だ。
ティーガーTに搭載された88mm砲を人間大にダウンサイジングしたような、異様なものが辻の股間で存在を主張していたのである。

「どうです……?この雄姿!この躍動感!」

文科省の役人は、腰に両手を付いて自らの股間の長物を見せびらかす。
蝶野にはその珍妙な格好が、ダンボールで作った戦車を履いた幼児の姿にも、股間から白鳥の頭を生やしてプリマドンナの仮装をしたお笑い芸人の姿にも見えていた。

「な、何なのよ、それは……!?」

「これこそが我々文部科学省学園艦教育局の秘密兵器――その名も『たましいふきこみ砲』です!」

冷えていく蝶野とは反比例して、辻は中学生のような羞恥心のなさで、下半身を覆う物の名前を口にする。
自慢の玩具の格好よさを説明したくてウズウズする子供としか思えないはしゃぎようだ。
絶対にこいつ友達がいないだろう、と蝶野は思った。

「ご説明いたしましょう!これは自分の魂の「一部」を体外に飛び出させ、他の人間の肉体に乗り移らせる機能を有してるのです!魂を吹き込まれた相手は、自分の思い通りに操ることができる……言うなれば、相手はもう一人の「私』になると言うわけですよ!」

「訳の分からない世迷言を口にする前に、今の自分の格好に疑問を抱かないの!?」

「ふっふっふ……私の魂を宿しさえすれば、どんな相手でも絶対に逆らうことはなくなる。何しろ「一心同体」になるんですからねぇ……!」

蝶野が鋭くツッコミを入れるが、辻はノーリアクションのまま、ゆっくりと体を近づけてきた。
股間の砲身が鈍く光り、彼女に狙いを定め続けている。

「……わたしをからかっているの?それとも、本気で頭がおかしくなったの?」

「おや、どうやら今の説明だけでは、「たましいふきこみ砲」の素晴らしさがご理解いただけていないようですね……?」

「当たり前でしょう!」

「ふふっ……!ならばその体で――じ〜っくりと体験してもらうとしましょう……私の魂の感触をねぇ……ふふふふふ!」

辻の薄ら笑いが下品さを増大させる。
眼鏡の奥に見える目つきは、どう考えても狂人のそれだ。
喋っている説明は一つとして信じるに足る要素はなかったが、その気迫は本気としか思えなかった。

単純に暴力を振るおうとする相手ならば対処のしようもあるが、辻からは正体不明の不気味さが漂っている。
蝶野は、女性としての本能的な恐怖を感じずにはいられなかった。

「あ、あなたは正真正銘の変態よ!」

吐き捨てるように叫び、今度こそオフィスの入口のドアへと駆け出す。
しかし彼女は――自分を狙い続ける男の股間から伸びる砲塔の真の恐ろしさを甘く見ていたのだ。

たま込め、用意」

逃げ出そうとする蝶野を見すえたまま、辻は淡々とした動きで「たましいふきこみ砲」の上部にある小型の部品を手前に引っ張った。
それは、マウスガードの付いた吸入器に似た装置だ。
チューブにつながった機器をスルスルと伸ばし、口元に近づける。
大きく息を吸い込んでから、マウスガード目掛けて一気に吐き出す。
すると、「たましいふきこみ砲」の本体表面にあるランプが甲高い音を立てて青い光を灯した。

「エネルギー充填50%……ターゲットスコープ、オープン」

荒げた呼吸を整え、メガネのフレームの角に付いている小さいスイッチを指でつまむ。
レンズの表面が光学ディスプレイに変わった。
辻の視線の動きに同期して、逃走を図る蝶野の姿をディスプレイに映し出された光学レティクルが追う。

「目標――誤差修正」

コンソールの真下に取り付けられていたハンドルをつかんで、グルグルと回転させる。
それに合わせて、股間の砲塔を支えるターレットがギン!ギン!と鈍い音を立て旋回する。
(戦車型のオムツは、砲塔がセットされた中央部分だけが360度稼動するように独立していたのだ)

ハンドルを上下に動かし、射角を調整する。
まるで獲物狙い続ける鷹のように――砲身の先端は、確実に蝶野の背中を捉えた。

「ターゲットロックオン。魂、発射用意」

辻は腰を落とし、両脚を踏ん張った。
コンソールがあるのとは反対側の脇に付いたトリガーレバーをつかむ。

ぇぇーーーーーーっ!!」

装填手と砲手と車長を代わる代わる演じながら、辻は腹の底から叫び声を上げ、トリガーのボタンを一気に押し込んだ。
瞬時に「たましいふきこみ砲」の砲口から、ドゥギュルルルーン!と轟音を立てて砲弾が発射された!
装置全体が衝撃に揺れ、砲の先端に取り付けられたマズルブレーキからガスが左右に噴出される。

発射された弾は成形炸薬弾などではなく、青白い「光の球」だった。
炎のように揺れる形は――まるで人魂だ。
発射された光球は、狙い通り蝶野の背中に着弾した。

「!」

衝撃が体を貫き、その場に足を止めて石像のように固まる蝶野。
しかし光球は彼女の肉体を貫通することはなく、背中にめり込んだところで一度止まった。
OD色の制服には傷一つついていない。
服を擦り抜け、球は蝶野の肉体と一体化しつつあったのだ。
そこからドリルのように旋回を始め、ズブズブと体の中へと沈んでいく。

「あ……っ!ぁ……っ!」

ゆっくりと光の球が入り込んでいく度に、蝶野は全身を痙攣させながら、苦しそうに苦悶の嗚咽を漏らした。
やがて完全に背中に埋まってしまうと、その痙攣もピタッと治まる。
すると彼女の頭頂部から、「しゅぽん!」と音を立てて白旗が立ち上がったのだ。

よく見ると、白い布の中央に絵が記されている。
それは――辻をキャラクター風に模した似顔絵のようだった。

「ふう……っ」

蝶野が立ち止ったのを確認した辻は、大きく嘆息すると居住まいを正した。
コンソールを再び操作して「たましいふきこみ砲」のエンジンを止める。
伸びていた砲塔が内部へと引っ込み、ターレットを含めた装甲版が後退してオムツらしいフォルムへと戻る。
オフィスに、先程2人が睨み合っていた時のような静寂が甦った。


「――こちらに戻ってきなさい」

辻は振動でずれてしまった眼鏡を指で持ち上げながら、彫像と化した蝶野に呼びかける。
それに反応する彼女の動きは、予想外に迅速だった。

くるっと体を反転させ、両手をまっすぐに伸ばし、両腿を高々と持ち上げながら、辻を目指して真っ直ぐに行進してくる。
実に自衛官らしい、きびきびとした動作だ。
しかし彼女の顔は能面のように一切の表情を失くしたまま、どこか遠くをぼんやりと見つめていた。
辻の目の前まで来たところで、足を揃えて歩みを止める。

「……敬礼」

凛とした姿で直立不動の体勢を維持する彼女をじっと見つめ、役人は静かに号令を下した。
蝶野は当然のように右手を頭の斜め前に持ち上げて、綺麗な挙手敬礼を行う。

「……休め」

さらなる辻の指示に、蝶野は左足を肩幅に開き、両手を背中で軽く握り締めた。
上官でもない文科省の役人の命令に顔色一つ変えることなく従順に従う彼女の姿は、明らかに異様だ。

「ふむ……」

辻は蝶野の周りを一周して前後から全身を無遠慮に眺めると、満足そうに何度も頷いた。
出来上がった製品が仕様書通り動作するのかを確認する、技術者のような真剣さだ。

「ほ〜れ、ほれ、ほれ」

ところがそんな真面目さから一転、辻はひょうきんな口調でおどけながら両脚をがに股に開き、両腕を持ち上げて頭の上で大きなハートを作った。
微動だにしない彼女を笑わせようとでもしているのか?

――しかし蝶野は相手のふざけた姿に噴き出しもせず、それどころか無表情のまま、彼の格好を真似し始めたのだ。
まるで鏡に映る辻の鏡像になったかのように、頭の上に手を置いて限界まで脚を大きく開く。
太もも半ばほどしかない長さの大胆なミニスカートを履いているため、がに股になれば下着が見えそうになるのもお構いなしに、照れもせず堂々としている。
(まあ、普段から彼女は10式戦車の上で胡坐をかいたりするような豪快な性格なので、このような真似も平然とできるのかもしれないが)

「ふふふふふ……ふははははは!!」

女性自衛官のみっともない姿に、辻は自分の格好も忘れて爆笑した。
姿勢を直すと、蝶野も直立に戻る。

「それでは……」

辻はニヤニヤと口元を歪ませたまま、「たましいふきこみ砲」の脇にあるアタッチメントを外した。
プシューッと蒸気を上げ、装甲版の継ぎ目がゆっくりと離れていく。
腰回りの圧迫が緩んだのを確かめると、装置を両手でつかんで落とさないよう慎重に床に置く。

下はトランクス一枚の情けない格好だ。
(今までも十分情けなかったが)

脱ぎ捨てたスラックスを履き直し、腰のベルトをきつく締めながら、蝶野の横に移動する。
仲良く2人が並んで立つ光景は、つい今しがたまでの険悪な雰囲気もあって実に奇妙だった。

「――1、2、3、4、5、6、7、8」

突然辻がリズムを刻みながら、両手を当てた腰を左右に振って「エンゼル体操」を始めた。
横に立つ蝶野も、最初から示し合わせていたようにその動きをトレースする。

「アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス、ズィーベン、アハト」

屈伸やうさぎ跳びなどを次々に試しても、女性自衛官はまったく遅れることもなく、辻とユニゾンしたパフォーマンスを決めて見せた。
振り上げた手の角度、踏み出したステップのテンポ、どれもタイミングが寸分もずれていない。
長年コンビを組んだダンスユニットでもなければ不可能な動きだった。

「ふっふっふっふ……素晴らしい!私の魂を入れただけで、こんなにも簡単に他者を操ることができるとは!」

一頻り体操を続けた辻は息を弾ませたまま、ソファーにドカッと座り込んだ。
ネクタイを緩めながら、蝶野の体を見上げる。
彼女は両手を「鶴の構え」に持ち上げて体を捻った不自然な格好のまま、一時停止ボタンを押したように動きを止めていた。

――辻の言葉通り、「たましいふきこみ砲」の性能は本物だった。
現在、蝶野の肉体には彼の魂が乗り移っている。
先程の砲撃は辻の魂の半分――50%を砲弾として発射したものだったのだ。

攻撃された相手は肉体と意識を掌握されてしまう。
すでに蝶野はもう一人の辻、いわば彼の『分身』となってしまったのだ。
彼女の頭の上ではためいている「白旗」は肉体を乗っ取られた証であり、旗に記された顔はその身に宿った征服者を表わしていた。
旗そのものが、辻の魂の一部が変化したものだったのである。

「ふふっ、あれほど忌み嫌っていた私に体を操られる気分はどうですか、蝶野一尉?」

辻は座ったまま脚を組み、尊大な笑みを浮かべて質問する。
当然、相手は何の反応も示さない。
支配者である辻が人形であることを命じているからだ。

「おや、何も喋れませんか?でしたら……」

じっと彼女を睨みつけながら、目に力を込めて念を送る。
すると蝶野は「廻れ、右!」とでも号令をかけられたように素早く体を辻に向け、乱れていた姿勢を直立に戻した。

「あー、あー、あー、Goddamn! I am CHONO!あー、あー、あー、Goddamn!I am CHONO!」

女性自衛官は背筋を伸ばした状態で、壊れたテープレコーダーのように同じ台詞を繰り返し続ける。
辻はソファーの上で頬杖をついたまま、唐突に始まった発声練習をおかしそうに眺めていた。

「フム、頭の中で思い浮かべるだけで、どんな台詞でも自由にしゃべらせることができるようですね……」

そうつぶやいたのは、辻ではなく蝶野だ。
抑揚のない声で語る口調は、まさに彼の意識が乗り移ったように聞こえる。

「……記憶の方はどうでしょう?」

今度は辻本人がつぶやいて、意識を集中させる。
途端に蝶野が発声練習を止めて、感電したようにビクンと肩を震わせた。

「では、あらためて……貴官の官姓名を述べてください」

「ハッ!陸上自衛隊富士学校 富士教導団戦車教導隊所属、蝶野亜美一等陸尉であります!」

敬礼とともに力強く名乗る声には、彼女自身の意思が明らかに込められている。
同時に辻の脳裏には、蝶野の記憶が奔流となって流れ込んでいた。

「ほほ〜う?まるでデータベースのように他人の頭の中を閲覧できるとは面白い……ふふふっ、本人が隠しておきたい恥ずかしい秘密も、私の前には丸裸になってしまうと言うわけですね……!」

目を瞑って蝶野の記憶を盗み見ている辻の口元が、意地悪そうに歪む。
心を隅々まで無遠慮に調べられるなど、女性にとっては気が狂いそうなほどの恥辱だろう。

「うふふっ、でも今のわたしには何の抵抗もできない……だって貴方に体を乗っ取られているんですもの♪」

敬礼の姿勢を取ったまま、いつの間にか蝶野が辻とそっくりのイヤらしい笑みを浮かべていた。
口調は彼女自身だが、まるで自分のことを他人のように評する物言いは不気味だ。
体の中に宿る辻の魂が、ワザとそんなしゃべり方をさせているのである。

本来あったはずの蝶野の魂は、辻のそれに完全に取り込まれた状態となっている――
「たましいふきこみ砲」の使用者は、スイッチ一つで照明の色合いを操作するように、 相手の肉体の中に自分の人格を表出させることも、相手の人格を自由に操ることも思いのままにできるのだ。

「フム、確認作業はこれくらいにして……そろそろこの辺で、余興でも披露してもらいましょうかねぇ……?」

「ええ、お安い御用よ!」

試すような辻の提案に気さくに答え、蝶野はソファーの前に置かれたテーブルの上にピョンと跳び乗った。
そのまま彼の方に流し目を送りながら――

「うっふぅ〜ん……♪」

頭の後ろで腕を組み、色っぽい表情を浮かべたまま、クネクネと腰を振って思いっ切りしなを作ったのである。
まるで制服コスプレをした風俗嬢のような痴態だ。
現役の自衛官が、絶対にするはずもない格好だった。

「これはいい!貴女をこのように辱められるなんて、実に痛快だ!」

「そうでしょ〜う?もっともっとわたしを操って、思う存分凌辱してちょうだ〜い」

辻は鼻息を荒くしながら、女性自衛官の淫らな踊りをガン見する。
あれほど反抗的だった相手が自分の言いなりになっているのだから、彼からすればこれ以上興奮する材料もないだろう。
蝶野はウットリと目を細め、背中を向けて挑発するようにお尻をくねらせている。

「では今度は……そうですね、パンツでも拝見させてもらえますか?」

「モチロン、いいわよ。ほれっ」

次なる辻の無茶な命令にも、躊躇することなく頷く蝶野。
受講生の質問に実演で答えようとする教官らしいノリのよさで、両手で制服のスカートの裾をつかんで豪快に捲り上げた。
肌色のパンストに包まれ、ピンク色のショーツを履いた彼女の股間が丸見えになる。

「おお、おお!そんな色のパンツを履いていたとは……意外とイヤらしいお人なんですねぇ……!」

「そうよ〜、わたしってトンデモなくエロい変態自衛官なの。あっは〜ん」

まじまじと股間を凝視する辻に向かって、蝶野は脚をがに股に開いて腰を突き出し、ゆっくりと前後に揺すった。
見知った相手に無理やりストリッパーじみた行動を強要させていることに、背徳的な悦びを覚える。
しかし今、誰かがこのオフィスに入ってきたとしても、蝶野本人が自分の意思でやっているようにしか思えないだろう。
他者の尊厳をこうも簡単に歪めさせている倒錯感に、すでに辻はスラックスの中で股間をギンギンに膨張させていた。

「はあ、はあ……!まったく「たましいふきこみ砲」の素晴らしさは期待以上です……しかも君は只、私に操られているわけではないんですからね……」

「はあ、はあ……!その通りよ。なにしろ「わたし」は「私」なのですから……!」

興奮する辻に同調して、蝶野の顔つきが彼そっくりになる。
頬を赤らめ、鼻を膨らませたみっともない表情は、元が綺麗な女性なため、思わず目を覆いたくなる有様だった。

「んふ……このアーティストを気取ったような透き通った声が、ぴっちりと制服を纏ったスタイルのいい体が、私自身のものなのですねぇ……!」

辻の口調で言葉を紡ぐ唇を指で撫で、OD色の制服に包まれたふくよかな体をギュッと抱きしめる。
彼女が体を撫で回す度に、何故か見物している辻もビクビクと体を断続的に痙攣させていた。

しばらく自分への抱擁を続けていた蝶野は満足したのか、抱きしめるのを止めてテーブルから跳び下りた。
そのまま衣擦れの音がしそうなほど艶めかしく腰を振りながら、辻の側に近づいてくる。
全てを承知したようにニヤけたまま彼が脚を開くと、ソファーに足を乗せて体に跨った。
こちらもニヤけた笑みを顔に張りつかせたまま、ゆっくりと股間の上に座り込んでいく。

「おふ……っ!貴女のような美人と、このようなシチュエーションを味わえるとは……!」

「んふふ、貴方ってスーツを着こなした女性が大好きですもんねぇ……いつも頭の中でそのスーツを無茶苦茶乱暴に剥がして、とびっきり淫らな姿に貶めているんでしょう……?今日はそれを、わたしで実演できるのよ……!」

自分に圧し掛かってくる女性の重みに、辻は嬉しそうに息を吐く。
蝶野は妖艶な顔つきで、股間同士を擦り合わせるよう、腰をグリグリと小刻みに振っていた。
皺ひとつなく着こなしていた自衛官の制服を着た女史が、このような淫らな振る舞いをしてくれる――
まさにAVでしか見たことがないような非現実の出来事が、現実に侵食してきたようだ。

試しに、手を伸ばして制服の上から存在を強く主張するオッパイを触ってみる。
「むにゅん」と音がしそうなほど柔らかい弾力が、掌から伝わってきた。

「おほぉ……!制服越しだと言うのに、何と言う感触ですか……!?」

破顔しながら、思いっきり乳房を握りしめる。
蝶野はその手を振り払いもせずに、むしろ自ら胸を突き出し、ウットリと目を瞑っていた。

「あふ……っ、胸を揉まれるってこんな感覚なのねぇ……!」

まるで初めて男に触られた初心な少女のような感想を漏らしながら、艶めかしい吐息を漏らす。
閉じた瞼をピクピクと痙攣させ、あまりの気持ちよさに身を捩ると、つられて辻も一緒に体を捩らせた。

「んっ!女の感じ方は、男とは全然違うのですねえ……それにしても、乳房を揉みながら同時に揉まれる貴女の快感も得られるのだから、実に不思議な気分ですよ……!」

辻は沸き上がる未知の興奮に驚くと、もう片方の手でスーツの上から自分の胸元を弄った。
あるはずのない乳房を確かめるように、指が宙を泳いでいる。

そう――蝶野の肉体に自らの魂を吹き込んだ辻は、彼女の感覚を共有していた。
魂を通して他人の五感が、彼の意識化へと流れ込んできているのだ。
先程から蝶野が感じる度に、一緒になって体をくねらせていたのはその為である。

男でありながら女性の快感を体験できるなど、まさに「たましいふきこみ砲」のような常識を覆す装置の力を借りなければ不可能な行いだろう。

「うふ……っ!女の指を使って乳を揉みしだくのもたまらないわぁ……はぁんっ!」

辻に胸元を弄られたまま、蝶野は反対側の乳房を自らの手で掬い上げた。
鼻の下を伸ばし、口の端から涎を垂らしたみっともない顔で、制服に皺ができるのも気にせずに荒々しく胸の膨らみを捏ね繰り回す。

煩わしくなってきたのか、ネクタイを乱暴に襟元から引き抜き、ブラウスのボタンを外していく。
見下ろすと、開いた襟元の隙間から胸の谷間が覗いていた。

「はぁ……っ、このアングルで揺れるオッパイを眺められるなんて、たまらないわねぇ……!」

胸元を食い入るように覗き込みながら、ワザと上半身を揺すってみる。
それに合わせて、ブラウスの隙間から見える胸の谷間がぶるぶると震えた。
はち切れんばかりの一対の乳房が、外に飛び出そうと身を躍らせているようで、とてつもなくイヤらしい。
これこそ女にならなければ見ることが叶わない景色だと、彼女の中に潜む辻の魂は歓喜していた。

一頻り自分への視姦を堪能した蝶野は胸元から手を離し、腰をずらしてソファーの上に片膝を立てた。
途端に辻が揉み続けていた乳房からターゲットを切り替え、彼女の脚に顔を近づけてくる。

「ほおお……!何と美しいおみ足でしょう……!実は私、以前から貴女のこの脚に思う存分むしゃぶりつきたかったのですよ……!」

「そうよね〜、こっそり盗み見ていたつもりでしょうけど、本来のわたしは、その度に虫唾が走るような嫌悪感を覚えていたのよ?でも今の「わたし」は「私」なんだから、嫌がる行為だって平気でやってあげちゃうわ……ほぉ〜らぁ♪」

蝶野は体を少し後ろに傾け、脹脛を辻に見せびらかせた。
恐る恐る震えながら伸びてきた指が、その表面を撫で摩る。
パンストの生地のザラザラとした感触越しに、引き締まった脚の肉の弾力を感じる。

「ムフーッ、たまらん……!肌色のパンストも健康的でいいですが……この脚には是非、黒タイツを履いてもらいたい……!」

「んふふ、そんなもの……この先いくらでも履かせられるでしょう……?だって、わたしは貴方の着せ替え人形なんだからっ」

脹脛に顔をくっつけ、頬擦りしながら変態的に表情を歪める辻。
蝶野はくすぐったそうに首を竦ませているが、それでも嫌な表情一つ浮かべず長い脚を突き出していた。

太ももの柔らかさと脹脛の筋肉の差を、頬を擦り付けて思う存分確かめる。
そのまま脚の曲線に添って足首まで肉感を味わうと、履いていたローヒールのパンプスを脱がせ、ストッキングに包まれた足の指に鼻を押し付けた。

「ふうう!これが、女性自衛官の足の匂い……実に、実に香しい……!」

深呼吸をしながら、犬のように蝶野の足を嗅ぎまくる。
ずっと靴を履いていた為、かなりの臭気が漂っているはずなのだが――脚フェチである彼にとっては、それもすべて極上の香りだったのだ。

しばらく辻のなすがままにさせていた蝶野だが、あまりにも嬉しそうに愛撫を続ける彼の姿に火照ってきたのか、ゴクッと喉を鳴らして生唾を飲みこんだ。
ソファーの上に転がった自分のパンプスを、おもむろに手に取る。

「こっ、これがわたしの足の匂いなのね……?ス〜、ハァァ〜〜」

履き口に鼻を突っ込み、籠っていた臭いを吸い込む。
辻の魂のせいで、彼女自身もすっかり異常な性癖に目覚めてしまったらしい。
自分の靴の臭いを嗅いで悶える姿は、正真正銘の変態だった。

足の指を口に含み、舌でイヤらしく舐め回す辻。
パンプスを鼻に当てたまま、勃起した乳首をブラウスの上から指で擦る蝶野。

フェティシズムを充足させた2人が、次に考えることは一緒だった。
何の言葉も交わさず、全てを理解した風に頷き合う。

蝶野は持っていたパンプスを放り捨て、辻の体に跨り直した。
制服の上着のボタンを外し、前を肌蹴る。
すでに胸元が開いていたブラウスの隙間から、ピンクのブラジャーが完全に顔を覗かせた。

体を手前に倒し、辻の頭を抱きかかえるように密着する。
彼の顔が豊満な胸の谷間に埋まった。

「うふふふふ……」

淫蕩な笑みを浮かべ、ゆっくりと体を上下に揺する。
辻の頭を押し潰さんと、挟んだ乳房が形を変えて擦り付けられる。
これほどまでに柔らかい刺激が、この世に存在するだろうか?
男にとっては窒息してもいいと思えるほどの抱擁だ。

辻は胸に顔を埋めたまま、両手を後ろに回してスカートの上から蝶野のはちきれんばかりのお尻に指を食いこませた。
柔らかい尻肉を撫で回すと、女性自衛官が気持ちよさそうに背筋を反らせる。
同時に、辻の背中にもゾクゾクと鳥肌が立った。

「はぁ……ん……っ!あはぁぁ〜……!」

頭上から、蝶野の艶めかしい吐息が聞こえてくる。
顔を圧迫する信じられない弾力。
スカートの表面を摩る指が、下に履いたショーツのワイヤー部分をみつける。
視界を奪われた分、生み出されるあらゆる快感が倍増し、一気に昇天してしまいそうだ。

蝶野はそうはさせまいと、一端拘束を解いて辻の体をよじ登り、彼の頭を股の間で挟み込んだ。
そのまま背もたれを両手でつかみ、全身を前後に大きく揺する。

「く……っ!ん……っ、くふぅ……っ!」

荒馬を乗りこなそうとするロデオガールのように、蝶野は辻に跨ったままソファーの上を飛び跳ね始めた。
顔に押し付けられた股間からは、明らかに雌の匂いが漂ってきている。

辻はスカートを無理やり捲り上げ、思いきってその中に頭を突っ込んだ。
目を凝らすと、ショーツの生地が色濃く濡れているのが分かる。
秘所から湧き出す愛液の影響だ。
間違いなく蝶野の肉体は欲情し、性的興奮を覚えていたのである。

「た、たまらんっ!」

辻は叫び、湿り気を帯びた股間にむしゃぶりついた。
両手でお尻をつかんで動かないように固定すると、パンストの上から濡れた部分を舌で丹念に舐め回す。
たちまち痺れる快感が、2人の股間を這い上がってきた。

「ひゃあああっ!」

「くおおおおっ!?」

蝶野はビクンと背筋をのけ反らせ、跨っていた脚をギュッと内股に閉じた。
太ももがガッチリと辻の頬を拘束する。
スカートの中に籠った淫靡な空気が、意識を朦朧とさせる。
彼女の割れ目の味は、どんな高級料理も叶わない至高の逸品だった。

「はあ、はあ、はあ……駄目だ……!これ以上は耐えられません……!」

空気が薄くなってきた辻はたまらず、スカートの中から頭を引き抜く。
しかしそれは只苦しいだけでなく、限界まで昂ぶった性欲のはけ口を求めてのことだったのだ。

彼らはロデオゲームを止めて、体を離した。
蝶野が床に跳び降り、辻はソファーのクッションに完全に寝そべる格好を取る。

「さ、さあ……猛り狂った私の大事な部分を、貴女が鎮めてください……!」

辻はスラックスのファスナーを下ろすと、隙間に指を突っ込んだ。
ゴソゴソと弄って、自分のイチモツを外に飛び出させる。
解放された肉棒はすでに限界まで硬くなり、先端からはガマン汁が溢れ出てきていた。

「……他人の目で見ると、結構グロいわね……」

臭気さえ漂ってきそうな性器に顔を近づけ、蝶野は興味深そうに全体を観察する。
見慣れたアングルではなく、さらに本来の自分よりも小柄な女性の体を通して見ているからかもしれない。

男の肉棒など、女になったからと言って絶対に触りたいとは思わないが――
目の前にあるのは自分の一部なのだ。
それに対する愛着は、肉体を離れた魂となっても変わらなかった。

「んふふ……それじゃあ、いくわよ……?」

蝶野は舌なめずりしながらあごを突き出して、女王のように君臨する者の眼で、寝そべる辻を睥睨へいげいした。
ゆっくりと片脚を持ち上げる。
そのまま股間に狙いを定め、屹立する肉棒の先端に押し付けながら、丸めた足裏で包み込んでいく。

「お、お、おお、お……!」

辻が嗚咽を漏らしながら、寝そべる体をくの字に曲げた。
痛みを感じるギリギリの強さで脚を踏み込み、股間を刺激してやる。
自分自身だからこそ可能な荒っぽい行動だ。

脚フェチであり制服女子萌えである辻にとって、蝶野が行う足コキは何にも勝る性的刺激だろう。
当然、彼の魂を半分宿した彼女にも、その快感は伝わっていた。

「あっ、あはぁっ!?」

沸き上がる衝動に、思わずスカートの上から股間を抑えて悶える。
つながった脚と肉棒の間を、エクスタシーが駆け巡っているようだ。

辻が覚えた「男」としての気持ちよさが蝶野へと流れ込み、彼女が感じた「女」としての気持ちよさがまた彼へと戻る。
互いが与えた刺激が積み重なって、倍に膨れ上がっていく――
魂を分け与えた者同士の感覚は、どこまでも高く天へと昇っていく龍のようだ。

「ん、んふ……っ!端から見れば、私たち2人がアブノーマルなプレイを楽しんでいるように見えるのでしょうが……今ここにいるのはどちらも「私」……!つまりこれは広義的には『自慰』と変わらないんですよねぇ……!くおぉっ!?」

「あぁん……!男と女の快感を味わいつつ、自分は寝転がったままわたしを操って奉仕させる――こんなにも素敵な自動制御のオナニーってあるのかしら……?ひゃうんっ!」

蝶野が股間を踏みつける度に辻がソファーの上で悶絶し、辻が体をくねらせるたびに蝶野が艶っぽい息を吐く。
快感を与える者と受け取る者が同じなら、どこをどう攻めれば喜ぶのかは赤子の手を捻るよりもたやすい行為だ。
これこそが真のマスターベーションと言えるのかもしれない。

ストッキングに包まれた足の指が、亀頭を優しく撫で摩る。
ガマン汁が指にくっ付き、にちゃにちゃと淫靡な音を奏でる。
生地はすっかり汚れ、脚と肉棒の間で粘り気のある糸を引いていた。

すでに辻の肉棒は、この世で最も硬い物質と呼ぶべき強度に達している。
蝶野は脚を小刻みに踏みつけながら、両手で自分の乳房を荒々しく揉みしだいた。
こうすることで、脳を満たす快感がより一層男女混淆の色合いを増すのだ。

「あ、あ、あん……!」

「お、お、おお……!」

「んぅ……んぅ……んふぅ……っ!」

「くっ……ふぅ……はあぁ……っ!」

「はひ……はひ……あひぃ……っ!」

「はひ……はひ……あひぃ……っ!」

足コキを続ける男女の喘ぎ声が、次第に異口同音に染まっていく。
まるで蝶野の魂そのものが、辻の魂に汚染されていくように。

目の奥でバチバチと火花が飛び散る。
口の端から涎がとめどなく溢れてくる。
胸から心臓が飛び出しそうなほどに鼓動が激しくなる。

よく見れば蝶野の頭から生えた白旗が、嵐の空に晒されたように布地をはためかせていた。
昂ぶる彼の肉棒の脈動に合わせて、ポールの長さが伸び縮みしている。
彼女の肉体に宿る辻の魂が、獣のように暴れ回っているのか?

上昇し続ける快感は、ついには限界に達し―――

「ぉ、ぉ、ぉ、くおおおおおっ!!」

意識が、決壊した。

ガクンと辻の体が弓なりにのけ反り、そそり立った肉棒から怒涛の勢いで白濁した液体が噴出する。
まるで間欠泉のようだ。
噴き出した精液が蝶野の足を押し返し、飛び散る飛沫が彼女の制服を、顔を汚していく。
そしてその勢いは凄まじい快感となって、蝶野の意識に襲いかかってきた。

「ひゃああああああっ!?」

股間から脳を貫く爆発的な衝撃に、背筋をまっすぐに伸ばして、喉が張り裂けんばかりの嬌声を上げる。
蝶野は立ったまま、一瞬で絶頂に達した。

ガクガクと腰が震え、秘所から愛液が迸る。
それは失禁と言っていい勢いで、ショーツやパンストの中に洪水となって広がっていった。

「ぁ……っ、は、あああ〜〜〜……!」

下半身から力が抜け、床に女座りしてしまう。
蕩けるような快感に頬を染め、息を弾ませて喘ぐ姿はたまらなくセクシーだった。

「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ……!ま、まったく、何と言う破壊力ですか……!脳が焼き切れるかと思いましたよ……?」

辻もソファーの上で、スーツをグシャグシャにした酷い格好で放心していた。
丸出しの肉棒の先から精液の残滓が零れ、性器そのものは十分に育たなかった人参のように萎れている。
男と女の快感を同時に味わったのだから、こうして正気を保っているだけでも奇跡と呼べるのかもしれない。
蝶野の頭の白旗も、風が凪いだように布地が垂れ下がっていた。

「お、女はイッた後も男とは勝手が違うようですね……?まだ全身が火照っている……脚にほとんど力が入りませんよ……!」

立ち上がろうとしても、膝が笑ってしまう。
蝶野はソファーのひじ掛けをつかんで、ようやく身を起こした。
体を確認すると、制服はすっかり皺が寄って、ストッキングも伝線しまくっている。
足裏には受け止めた精液が大量にこびり付き、床を踏む度にニチャニチャと不快な感触がした。

「ふう……足コキされただけでこの有様だ……これで本番を迎えていたら、一体どうなっていたことか……」

辻の方もどうにか気力が回復したようで、ソファーに座り直して大きく息を吐いた。
乱れた髪や眼鏡を整え、萎えてしまったイチモツをスラックスにしまってファスナーを締める。

「どうする……?何ならこのままオフィスファックに突入してもいいのよ……わたしの『口』だって試したいでしょう……?」

蝶野を顔の前で見えないものをつかむように手を握り締め、舌を突き出したまま頭を前後に振るジェスチャーをした。
その表情は一度絶頂を覚えたことで、益々妖艶さが増しているように思える。

「……いえ、座興はこれくらいでやめておきましょう。貴女を犯すことはいつでもできます。私も「たましいふきこみ砲」の使用をマスターしたわけではありませんからね……慣れない内に最後の一線を越えたら、性が尽きるまでその肉体に溺れてしまいそうだ」

「うふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ……」

辻の賞賛の言葉に蝶野は従者のようにかしこまり、恭しく頭を下げた。
そんな彼女の立ち振る舞いに、彼の中で鎮まろうとしていた支配欲が再び首をもたげる。

「あはっ♪そ・れ・じゃ・あ・今日の記念に……わたしの使用済みのパンストを差し上げますわん……♪」

眼鏡の奥で辻の目が狼の鋭さを取り戻した途端、蝶野は甘ったるい声でスカートに手を忍ばせ、腰をくねらせてパンストを脱ぎ始めた。
脚から引き抜いた生地にはまだ肌の温もりが残り、愛液を吸って淫靡な湿り気を帯びている。

「ふふふ……他者と自分の意識がつながると言うのは、本当に便利ですねぇ……いちいち考えを声に出さなくとも、こちらが望む通りの行動を取ってくれるのですから」

辻は彼女のパンストを受け取り、戦利品としてスーツのポケットに仕舞い込んだ。
素足を晒した蝶野はまた一段とそそる雌の匂いを漂わせているが、激情に駆られては本当に止め時がなくなってしまう。
咳払いをして、一度場の空気を引き締める。

「オホン!さて、大分話が脱線してしまいましたが……蝶野一尉、あらためて貴女には我々への協力をお願いします。これからはこの私の『手足』となって、文科省のために働いてくれますね……?」

「勿論ですとも。蝶野亜美一等陸尉は本日より、辻局長の指揮下に入ります。何なりとご命令を!」

決裂したはずの話し合いを再開する両者。
ところが蝶野は打って変って上官の指令を順守する部下として、生真面目な表情を取り繕ったまま敬礼を返した。

「んふふ……!見ていなさい大洗女子学園の連中……このわたしが、絶対にお前たちの学園を廃校にして見せるわ……!」

女性自衛官は、その美しい顔を邪悪に歪ませて宣言する。
先程まで、その少女たちを必至に守ろうとしていた人間だとはとても思えない言葉だ。
蝶野の豹変ぶりに、辻は満足そうに頷いた。

「よろしい。それでは手始めに、この通知に戦車道連盟も同意した旨を捺印してもらいましょう……今日のところは連盟理事の代理として」

デスクに移動して椅子に腰を下ろし、引出しから一枚の書類を取出す。
それは、大洗女子学園への廃校処分が当初の予定より繰り上がったことを記した、一方的な通告文書だった。

「ハイ、お任せを♪うふっ……いずれこの体を使って児玉こだま理事長も籠絡して、こちらに引き入れてみせますわ……んじゅるるっ」

蝶野は床に転がっていたパンプスを履き直し、靴の中で精液をニチャニチャとかき混ぜながら、辻の目の前にやって来た。
制服の胸ポケットから判子を取り出して、宅配便を受領する程度の気軽さで、躊躇することなく書類に署名と捺印をする。
獰猛に舌なめずりをする表情は、ハニートラップを企む悪女にしか見えなかった。

「あっ、ついでに貴方への忠誠も示しておかないと☆ん〜〜……」

「んぷっ……!まったく、悪戯が好きなお方だ……んぐっ」

そのまま蝶野はデスクを回り込み、椅子に座る辻の肩に手を置いて、彼の唇を奪うように激しいキスを交わした。
素早く舌をねじ込んで唾液を交換し合う。
口内に広がる甘い味と、蝶野から漂う女の香りの虜となり、辻は大人しく彼女に身を委ねてしまう。

「っぷはぁ……こんなもので、いかがかしら……?」

「グ、グッジョブです……」

2人の唇と唇の間で、唾液のアーチが生まれる。
只のキスだと言うのにそれだけで骨抜きになった辻は、何とか親指を立てて彼女の舌技を讃えてやった。
唾液と共に蝶野の意識が流れ込み、思わずキャラクターが彼女に引っ張られている。

「と、とりあえず……貴女には本来の意識を取り戻してもらいましょう……ほら、戻って」

「ハ〜イ」

油断していたら、あっという間に指揮権を奪われてしまいそうだ。
辻は威厳を知らしめるように努めて低い声でつぶやくと、蝶野は大人しく従ってソファーの前に移動した。
ハンカチで体に付いた白い液体を拭い取り、肌蹴ていた胸元を直しつつ制服の皺を伸ばし、ネクタイを拾って締め直す。

彼女が元通りの姿になったのを確認した辻は、懐からこぶし大ほどの奇妙な装置を取り出した。
TVのリモコンにも似たそれは、中央にツマミの付いたロータリースイッチだけが取り付けられている。
本体表面の上部にスイッチの可動域を示すような半円状のゲージがあり、両端には大きく「0」と「100」の数字が表示されていた。
スイッチを動かして、ツマミを「10」の位置に捻る。

「!……あ、あら……?」

すると, ニヤニヤと笑っていた蝶野が目を瞬かせ、憑き物が落ちたようにキョトンとした顔で、周囲を見回しだしたのだ。

「蝶野一尉、どうかされましたか?」

「えっと、わたし……?今まで、何を……」

内心ほくそ笑みながら辻が声をかけると、蝶野はぼんやりとした目で首を傾げている。
その様子は中に巣食う辻の魂がやらせている演技ではなく、彼女自身のとまどいに思えた。

今――彼が操作した装置は、「たましいふきこみ砲」で発射した魂の『支配力』を調整するコントローラだったのだ。
ツマミを捻って「魂の支配ゲージ」を下げると、奥に封じられていた肉体の持ち主の意識が目覚める。
それは精神を乗っ取られる以前の、本来の蝶野の人格だった。

しかし彼女が正気に戻ったからと言って、辻の魂が肉体から抜け出したわけではない。
彼の魂は肉体の奥へと引っ込み、一時的に蝶野への支配力を弱めただけ――
つまり、閉じ込めていた牢獄から外に出しはしたが、行動を制限する鎖にはつながれたままなのだ。
こうして意識が表出していても、コントローラを操作するだけで簡単に辻の支配下に戻ってしまうのである。

蝶野は「たましいふきこみ砲」に砲撃された直後に気を失ってしまったため、前後の記憶がおぼろげになっていた。
辻とのやり取りをほとんど覚えていないのは、その影響だ。
(ちなみに、支配力を弱めた影響で、頭に生えた白旗のポールも短くなっていた)

「戦車道世界大会に向けて、プロリーグを発足するための協力をお願いしていたところですよ。もう、お忘れですか?」

「ああ、そう……そう、でしたわね……」

相手の記憶が混乱しているのをいいことに、辻は平然と口から出まかせを吐いた。
それなのに蝶野は彼の言葉を鵜呑みにして、弱々しく頷いてしまう。
全ては肉体に潜む辻の魂の影響だった。

――宿主に寄生した魂は、今のように相手の意思を誘導することが可能なのだ。
乗り移った魂が囁く声を、蝶野は自分の心の声だと錯覚してしまうのである。
知らず知らずのうちに、思考や行動を誘導されているのも知らずに。

「貴女には戦車道連盟の強化委員として、また陸自の人間として、これから色々と骨を折ってもらうことになります……よろしいですか?」

「……分かりました…そちらの期待に添うよう、尽力します……」

蝶野の疑念の隙間を、辻の含みを込めた言葉が埋めていく。
彼女は何かおかしいと思いつつも、心の声に従って無理やり納得しようとしていた。
どんなに強い意志を持つ者でも、この状態では自分を支配する魂の囁く声から逃れることは不可能なのだ。

コントローラのテスト動作を確認して、辻は満足そうににやけている。
これならば魂を乗り移らせたまま、本人として活動させることも可能だろう。

――さすがに常に彼の魂が蝶野を動かしていたら、怪しむ人間が出てくるかもしれない。
そこで、こうして普段は本人の意識を表面化させることで、周囲に警戒されず、しかも彼女自身にすら悟られないまま、文科省のスパイとして暗躍してもらうのだ。

「では今日のところはこれで。ご苦労様でした」

「……はい、失礼します……」

辻の言葉に従い、蝶野はすっかり脱力した様子で挨拶をすると、フラフラとおぼつかない足取りでドアに向かって歩きだした。
思考を操られ、いつの間にかパンストを脱いでいることにも気付いていない。
このままトイレに入って鏡で自分の顔を見たとしても、頭から生えた旗の存在を知覚することさえできないのだ。

気の抜けた彼女の後ろ姿に悪戯心が芽生え、辻はコントローラのツマミを「30」の位置に回した。
すると、蝶野の足取りが確かなものに変わり、制服のスカートを両手で一気にたくし上げたのだ。
お尻を丸出しにしたまま、彼女は堂々とした歩調で廊下へと姿を消した。

「ふふふふ……はっはっはっはっは!素晴らしい!圧倒的ではないですか、「たましいふきこみ砲」の威力は!」

蝶野が去り、自分だけとなったオフィスで、辻は誰にもはばかることなく腹を抱えて笑いだした。
――距離を置いた今も、蝶野と意識はつながったままだ。
精神を集中させれば、彼女の目を通して彼女が見ている景色を、TV画面のように眺めることさえできた。

向こうから、男性局員がやって来るのが見える。
辻は魂を通して蝶野の行動を誘導し、スカートの裾を急いで直させると、頭から生えた白旗を隠すために制帽を被らせた。
どうやら肉体を操作することも距離とは関係なく、思い通りにできるようだ。

「この装置が量産の暁には、逆らう者すべてを私の前にひざまずかせてみせますよ……!く、く、く」

国連直属組織の総司令官にでもなったように、デスクの上で組んだ両手で口元を隠しながら、眼鏡を怪しく光らせて笑う辻。
彼の頭の中では、蝶野を筆頭に大洗の少女たち全員が、神を崇める信者のように地面にひれ伏す光景が広がっていた。

スーツのポケットを弄って、先程手渡されたパンストを取り出す。
まだ生暖かく、指で押すと裏地に溜まっていた愛液がニチャニチャと絡み合った。
椅子に背中を預けたまま、パンストを鼻に当てて思いきり息を吸い込む。

「ふぅぅぅ〜〜〜、はあぁぁ〜〜〜……!」

たちどころに淫靡な匂いが脳を刺激し、辻は変質者そのものの不気味な笑みを浮かべて悦に入った。
その感情は通路を歩く蝶野にも伝わり、突然官能的な表情で「はあぁぁ〜〜〜……!」と艶めかしい吐息で喘ぎだした。
丁度横をすれ違った男性局員が驚いて、信じられないものを見た顔で茫然と立ち尽くしている。
パンストを嗅いだことで辻の興奮が規定値を振り切ってしまい、コントロールを無視して彼女の中に潜む魂にフィードバックしてしまったようだ。


「「ふっふっふ……ガルパンガールズパンストはいいぞ……!」」


離れた場所にいるはずの両者が、声を揃えてつぶやく。
そのまま蝶野は庁舎を出て、待機していたOH-1観測ヘリコプターに乗り込んだ。
ヘリのパイロットは戻ってきた彼女の変化に気付きもせず、すぐに機体を離陸させる。

見る見る遠ざかっていく街の景色を、後部座席に座ったままぼんやりと窓から眺める蝶野。
時折膝に乗せた手がイヤらしく太ももを撫で回しているが、当然彼女の中に潜む辻の魂がやらせていることだ。
役人の魂を宿した女性自衛官を乗せたまま、上空に浮かび上がったヘリは一路、富士駐屯地へと向けて飛び去って行く。

――こうして、潰えたはずの大洗女子学園廃校計画は、再び水面下で動き出してしまった。
蝶野亜美と言う手駒を得た辻局長はこの先、一体何を企むのか?

迫るその危機を学園の少女たちは知る由もなく、凱旋した大洗の地で、全国大会優勝を記念したエキシビションマッチを開催しようとしていたのである――





文部科学省の庁舎の一角、学園艦教育局の執務室。
局長である辻康太はデスクに座り、いつも通りの業務を行っていた。

「――く、くふっ!?」

と、書類を整理していた辻が突然、苦悶の声を漏らして前屈みになった。

「局長、どうかされたんですか?」

偶々室内に居合わせていた局員が、心配そうに様子を伺ってくる。

「い、いえ、何でもありません……」

辻は極力平静を装い、無表情を取り繕った。
訝しみながらも局員は「失礼します」と頭を下げて部屋を出ていく。
その途端に、辻は興奮を抑えるようにひじ掛けをつかんで、全身を震わせ始めたのだ。

「フ、フフ……!すごい……女同士でそんなことを……!?」

何やらブツブツとつぶやき、だらしない笑みを浮かべる。
この場にまだ誰かがいたとしたら、気が触れたと思われても仕方ない不気味な姿だ。
それからも辻は時折ビクンと発作的な痙攣を起こしつつ、見た目には平然と仕事を続けていた。


夕刻――
西の空に傾く日差しがブラインドの隙間から差し込み、オフィスは血のように赤く染まっている。
一通りの業務を終えた辻が椅子に身を沈めて休んでいると、デスクの端に置かれた内線が電子音を鳴らした。
スピーカのボタンを押すと「陸上自衛隊の蝶野様がお見えになられました」と、秘書の声が来客を告げる。

「お通ししてください」

辻はそれに答え、居住まいを正して相手が現れるのを待った。
すぐに正面のドアをノックする音が聞こえてくる。

「どうぞ」

声をかけるとドアが開き、秘書の女性とその後ろから蝶野亜美が姿を見せた。
しかし先日ここに来た時とは、だいぶ雰囲気が変わっている。

室内に入っても制帽を被ったままで、目には辻そっくりのメガネをかけている。
制服のスカートの下に履いたパンストは黒色の生地で、妙な艶めかしさを漂わせていた。

「ご苦労様です、蝶野一尉」

「ハッ!恐縮です」

辻は蝶野に声をかけながら、メガネ越しに目配せをした。
彼女の方も、敬礼しながら視線でそれに応える。
秘書の女性は2人のやり取りを少し不思議に思いながらも、ドアを開けたまま一礼して退室していった。

「……それで、首尾の方は?」

「上々です――こちらをどうぞ」

自分たちだけになると同時に、辻たちは揃って不気味な笑みを浮かべた。
蝶野は口の端を吊り上げたまま、ドアの向こうに視線を送る。
すると――


「やあ、やあ、局長。お久しぶり〜」

通路から、小柄な少女が姿を見せた。
長い髪の毛をツインテールに纏め、猫っぽい大きな目が特徴的な、白いセーラー服と緑色のプリーツスカートを着た女子高生だ。

彼女の名は角谷杏かどたにあんず
大洗女子学園の生徒会長である。

人を食った飄々とした笑顔で、デスクに座る辻に手を振っている。
何故か頭には野球帽を被っていて、私服にでも着替えれば小学生に勘違いされそうだ。

「ほほう……?これは、これは」

辻は椅子に座ったまま手を組み、笑いを噛み殺しながら杏の全身をジロジロと見回した。
少女は両手を腰に当て、突き刺さる視線を当然のように浴びると、その場でクルッと一回転してみせた。
まるで、オーディションで審査員に自分の可愛らしさをアピールするアイドルのように。

――本来ならば、彼らはこんな呑気に顔を突き合わせるような間柄ではない。
普段は傍若無人に振る舞う杏だが、大洗女子学園を愛する気持ちはだれよりも強い。
学園を潰そうと目論む辻の計画に待ったをかけ、廃れていた戦車道を復活させたのも彼女のアイディアなのだ。
そんな仇敵とも言える相手の元に、フレンドリー感まるだしで会いに来るなどあり得ない話だった。

「傑作ですねえ……ついに君も私の「仲間入り」と言うわけですか」

「ふふふ、こうして体の中に宿った今も、嬉しさがこみあげてきて仕方ありませんよ……」

へらへらと笑っていた杏が一転、辻そっくりのイヤらしい表情を浮かべた。
口調まで彼を真似するように、制服の上から自分の胸に手を置く。

「どうやら装置のテスト運用は上手くいったようですね?」

「はい、それはもう見事に――」

辻が視線を杏から蝶野に移すと、彼女は畏まったまま制服のスカートをたくし上げた。
露わになった股間は、ストッキングの上からデリケートゾーンを象るように、パンティライナーのような奇妙な履物で覆われていた。
表面全体の色はピンクで、光沢のある金属製の形状だ。

「特に問題点もなく、性能はスペック通りに発揮しました」

自分の股間を指差し、蝶野は口元を綻ばせる。
それは先日、辻が身に付けていた『たましいふきこみ砲』とよく似ていた。

制服の懐からリモコンを取り出してスイッチを押す。
すると、装置がガタガタと振動を起こし、中央部が前方へと迫り出していった。

「あっ、あんっ」

不意に蝶野が色っぽい声を上げて、下半身を震わせた。
展開した部分が砲塔に変形する。
辻のものに比べて短い、まるで八九式中戦車のような短砲身だ。
しかし女性である蝶野が装備していると、双頭バイブじみた妙な卑猥さがあった。

「くふ……っ、この子の体には今、わたしの魂が宿っています。効果も『たましいふきこみ砲』と何ら変わりはないようです」

蝶野は自らの股間から伸びた砲身を手で摩りながら、ウットリと吐息を漏らした。
そのまま手を持ち上げて制帽を脱ぐ。
すると、杏も彼女の動きに引っ張られるように同じ動きを取り、野球帽を外したのだ。

2人の頭頂部には――揃って辻の似顔絵が記された白旗がはためいていた。

「汚染された魂でたま込めをしても、私の人格が標的を支配できることが、これで証明されたわけですね……」

辻は蝶野の股間を包む装置を、誇らしげに見つめた。
彼女が履いているものは『たましいふきこみ砲』――その先行量産機だ。
機能を簡略化し、女性の体型に合わせて軽量化されたモデルである。

現在、蝶野亜美には辻の魂が半分乗り移っている。
本来の彼女の魂は辻の魂に包まれ、取り込まれている状態だ。

そんな蝶野が『たましいふきこみ砲』を使用すると、どうなるのか?
彼女の魂を分離させることは、体に宿る辻の魂をさらに切り分けることになる。
この魂を新たな標的に(今回の場合は杏に)発射した場合、肉体には元からある魂と命中した魂がグチャグチャに混ざり合った状態となるのだ。

表で記すと――

彼自身の魂
蝶野 彼女の魂+辻の魂
彼女の魂+蝶野の魂+辻の魂

――となる。
(注:分離させた為、辻の体に残った彼の魂の総量は当然減っている)

杏の肉体にはまるで多重人格のように複数の魂が入り込んでいるわけだが、意識の「支配権」を持つのはあくまでも最初に『たましいふきこみ砲』を使用した辻の魂だ。
蝶野も杏も、仲良く彼の分身になり果てたと言える。

この上、杏が『たましいふきこみ砲』を使用したとしても、新しい標的の魂の成分が増えるだけで辻に意識を乗っ取られることに変わりはない。
言わば蝶野たちは、辻の魂を新たな器へと送る「運び手」でしかないのだ。

「魂の分離を続けて、細分化し過ぎたわたしの支配力がどこまで継続するのかは今後の課題ですが……『たましいふきこみ砲』が量産の暁には、無限に私を増やすことも可能と言うわけです」

白旗を生やした女たちを見比べて、辻は満足そうに頷く。

「いや〜、まさかこんなことになるとはね。蝶野教官にはすっかり騙されたよ〜」

辻そっくりの表情を浮かべていた杏がいつもの彼女の雰囲気に戻り、隣りにいる蝶野を見上げた。

「うふふっ、わたしが文科省の手先となって学園に乗り込んできただなんて、予想すらしていなかったでしょうね?」

女性自衛官も雑談でもするような気軽さで、小柄な少女を見返す。

「すべては私の計画通りと言うわけです……くっくっく」

辻はデスクの上で組んだ手で口元を隠しながら、肩を震わせて事件の黒幕のように邪悪に笑った。
そう――こうして蝶野が辻の元へ杏を連れてきたことは、すべて彼がシナリオを描いた「大洗女子学園廃校計画」の一環だったのだ。

先程まで杏たち大洗女子学園の生徒は、他校との合同で全国大会優勝を記念したエキシビションマッチを行っていた。
大洗町のあちこちで繰り広げられた名勝負に、集まった多くの観客は熱狂し、試合は大いに盛り上がった。

戦車道連盟の強化委員でもある蝶野も試合の審判を務めていたのだが――
その裏で、辻局長の命令を密かに遂行していたのである。
完成したばかりの『先行量産型たましいふきこみ砲』をスカートの中に隠したまま。

試合後に親睦会を開き、天然温泉施設「潮騒の湯」で参加した生徒たちを労っている最中、館内放送で杏だけが学園艦に戻るようアナウンスされた。
そんな彼女を待ち構えていたのが――先日辻が作成した、大洗女子学園の廃校に関する通告書を携えた蝶野だったのだ。

「わたしの口から廃校の件を告げた時の、貴女の鳩が豆鉄砲を食らったような顔、本当に傑作だったわ」

「てっきり、こっちは全国大会優勝のお祝いにでも来たと思ってたからね〜。さすがのアタシも教官の中身が局長だなんて見抜けないって」

「その隙を突いて、この子にわたしの魂を発射したというわけです」

戦車道の特別講師を買って出てくれた蝶野は、生徒たちから絶大な信頼を得ていた。
そんな彼女から裏切られたのだから、杏は相当なショックを覚えたはずだ。
しかしまるで他人事のように、肉体を乗っ取られるまでの出来事をあっけらかんと語る話しぶりは、明らかに普通ではなかった。

「あ〜、もう少し早く乗っ取られていたら、みんなの裸を見放題だったのにな〜……ぐふふ♪」

杏は試合に参加した生徒たちと仲良く湯に浸かっていた温泉での光景を思い出し、酔っぱらったように相好を崩した。
鼻の下を伸ばしたみっともない顔は、まるで女湯を覗く変質者同然の振る舞いだ。

何もかも、辻の意思によるものだった。
魂がつながっているのだから彼女の身に起こったことは既知のはずだが、辻はワザと本人の口から語らせることで充足感を得ていた。
彼女に普段からは考えられない言動を取らせることに、激しい征服感を抱いていたのだ。

「散々煮え湯を飲まされてきた君が、私の一部になっている……これほど笑える話は、他にありませんね」

辻は立ち上がり、2人の側に移動する。
警戒することもなく佇む杏を見下ろし、おもむろに頭の白旗のポール部分をつかむ。

「どうですか、角谷会長?私に魂を支配された気分は……」

「あっ!あっ!?はぁんっ!」

指で擦ってやると、突然杏が気持ちよさそうに喘ぎだした。
彼女を襲う感覚はそのまま、辻にも跳ね返ってくる。

「おほぉっ!?」

「ひゃっ!」

辻が前屈みになって股間を押さえ、関係ない蝶野までビクビクと身悶える。
痺れる感覚は、まるで肉棒を摩った時のようだ。

「何と……!旗を弄るだけで、これほどの気持ちよさを感じられるとは……」

辻は快感に耐えながら、もう片方の手で蝶野の旗竿の方も擦ってやった。
白旗は彼の魂が変化したものだから、触れることで男性的な性感を生み出しているのか?

「はぁっ、あひっ、あへぇ〜……!」

女性自衛官は恥も外聞もなく、発情期の犬のように舌を垂らして興奮する。
杏に比べて辻の魂に汚染されまくっているので、もはや羞恥心の欠片も残っていない様子だ。

「ふむ……魂と言うものはどこまでも奥深い。では、角谷会長の記憶を吸収して、意識の同化をさらに高めるとしますか」

快感に溺れてしなだれかかってこようとする蝶野の手をすげなく振り払い、辻は杏を凝視した。
――魂をつなげることで、相手の知識や記憶を共有することができる。
そうすれば杏に辻の人格を移すだけではなく、彼女の持つ能力を彼が同等に使いこなすことも可能となるのだ。
杏と見つめ合ったまま意識を集中して、必要な知識を脳に刻み付ける。

「……よし、ちょっと試してみましょう」

辻は己の分身たちに目配せをして、その場に直立した。
だらしない表情を浮かべていた蝶野が瞬時に顔を引き締め、スカートに手を忍ばせて『先行量産型たましいふきこみ砲』を取り外す。

下から現れたのは、剥き出しの股間だ。
ショーツも付けずに、肌の上からパンストを直履きにしていたようだ。
蝶野は下半身を丸出しにした格好で辻の横に移動し、杏がその反対側に並び立つ。

「アアアンアン、アアアンアン、アアアン、アアアン、アン、アン、アン♪」

3人は息を合わせ、突然「あんこう踊り」を披露した。
腕を頭上に突き出してイリシウムに見立てながら、体を左右に激しく振る。
まさにそれは、一糸乱れぬ動きだった。

「燃やして焦がしてゆ〜らゆら♪燃やして焦がしてゆ〜らゆらぁ♪」

太ももの下で両手を叩き、胸を小刻みに揺する。
中でも蝶野は豊満な乳房を持つため、制服越しでも分かるほどぶるぶると、魅惑的に中の膨らみが飛び跳ねていた。

3人が3人とも、どのパートをとちることもなく、タイミングがずれることもない。
全国大会のプラウダ戦で見せた、大洗女子学園の生徒たちの踊りを彷彿とさせるレベルだ。

この踊りは大洗町の伝統的な踊りで、地元民である杏が踊れるのは当然だが、辻も蝶野もやるのは初めてのはず。
それなのに杏の動きに遅れることもなく、振り付けも完璧だった。
魂がつながっているからこそ可能な芸当だ。

肉体を乗っ取った標的の脳から情報をフィードバックして、自分と相手の能力をシンクロさせる。
勉強が苦手なものが突然秀才になることも、運動が苦手なものがアスリート並みの身体能力を発揮することも容易く出来るというわけだ。
辻の魂を持つ者がこの先増えていけば、人々はひとつにして群体――個にして全なるものへと進化してしまうのかもしれない。

「これこそまさに、「人類補完計画」!」

――おいおい。

「ゴホン……さて、この辺で先程の素晴らしい感覚を、もう一度体験させてもらいましょうか」

辻は咳払いをして、踊りを止めた。
ダンサーと化していた女たちも姿勢を正すと、粘つく視線と視線を絡み合わせる。

「うふ……っ、局長がご所望よ。また可愛がってあげるわね、会長」

「あぁん、蝶野お姉さまぁ」

蝶野はかけていた眼鏡を外すと、甘ったるい声で囁きながら少女のあごを指で持ち上げた。
対する杏は目を潤ませ、胸に飛び込む勢いで体を近づける。
2人は当然のように身を寄せ合い、唇と唇を重ねた。

「んむ……」

「ふぁ……っ」

躊躇なく舌と舌が絡み付く。
ちゅばちゅばと、互いを吸い合う淫靡な音が聞こえてきた。

「お、おお……!?こ、これはすごい。女同士のキスの、何と甘いことか……!」

間近で女性自衛官と女子高生が貪り合う姿を眺め、辻は感動に打ち震えていた。
口内に広がるキスの熱さ。
勝手に唾液が溢れてくる。
辻には蝶野と杏、両方の唇と舌の柔らかい感覚が同時に伝わってきていた。

「ぁ……ふう、ん……っ、教官ってば、すごいキスが上手……」

「んむ……っ、ちゅば……っ、角谷さんの口の中は相変わらず干しイモの味がするわねぇ」

杏はすっかり恋する少女の顔で、蝶野を見上げる。
顔を離した両者の口の間で、唾液が糸を引いているのがイヤらしい。

――先程までいた大洗女子学園でも、彼女たちはこうして睦み合っていた。
杏の肉体を手に入れた辻の魂は女子高生の肉体に宿ったことに興奮し、蝶野の手を借りて散々「自分」を凌辱してやったのだ。

つながった魂を通して、その百合プレイは辻本人も散々追体験させてもらっていたが――
こうして目の前でやられると、また新たな性的刺激を覚える。
蝶野は小柄な杏の体をギュッと抱きしめると、ツインテールの髪に顔を埋めて香り立つ匂いを嗅ぎまくった。

杏の小さな手がOD色の自衛官の制服の上を這い回り、蝶野の細い指が白い大洗女子学園の制服の上を這い回る。
抱き合うどちらの手も、女らしい柔らかさだ。
子供としか言いようがない華奢な杏の体型と、抜群のプロポーションを誇る蝶野の体型を同時に味わう。
こうして別々に流れ込む感覚の違いを実感するだけで、気が変になりそうだ。

「くは……っ!こ、この程度で意識が朦朧としてくるとは……これは早々に、私自身も楽しませてもらわなければ!」

まったく――伝わってくる女たちの刺激は想像以上と言うしかない。
たまらず辻は、その場に腰を下ろした。
2人は名残惜しそうに唇を引き剥がすと、杏は彼の目の前に移動して、蝶野は背後に回り込む。

「ああ……辻局長。偉大なる貴方様の魂を授かり、杏はこの上ない喜びを感じております。今までのご無礼、どうかお赦しくださいませ……!」

突然、少女が膝を付いて土下座をした。
顔が汚れるのも構わず、額を床に擦り付ける。

それは、辻が夢にまで見た光景だった。
自分の目論みをことごとく邪魔してきた忌々しい相手が、無抵抗に屈服している――
その姿を見るだけで、背中をゾクゾクと興奮が走り抜けていく。

「ん……っ、これより角谷杏は文科省の犬となり、この身を捧げ、変わらぬ忠誠を誓います……!」

足を前に突き出すと、杏は躊躇することなく屈んだ姿勢のまま、靴先に口付けをする。
ツインテールの髪を左右に振って舌を這わせてくる姿は、まさに犬のようだ。

「フフ!フハハハハ!実にいい気分です……これこそまさに、支配者の愉悦!」

足を後ろに引いても追いかけて、執拗に舐めようとする少女は子犬じみた健気さで、この無様な醜態を学園の生徒たちに見せつけてやりたくなってくる。
彼女に心酔する書記の河嶋桃かわしまもも辺りは絶句するかもしれない。

どんな行為を取らせたとしても彼の魂が操っている為、厳密には一人芝居でしかないのだが――彼女を辱めるだけで、一気に絶頂感を迎えそうだ。
しかし、そう簡単に果ててしまってはもったいない。

「そうですねぇ……次はお返しに、君の足を献上してもらいましょうか?」

辻は忠誠の儀式を中断して胡坐をかくと、含みのある言葉を這いつくばる少女に投げかけた。
すぐさま杏が上体を起こして、片脚をゆっくり持ち上げてくる。
辻は差し出されたかかとをつかみ、ローファーを脱がせて黒い靴下の上から足裏に鼻を押し付けた。

「むふふ〜〜ん……!ほおお……!?」

女子高生の足の匂いを力一杯吸い込み、役人は恍惚の表情を浮かべる。
同時に脹脛を摩り、発展途上な思春期の少女の脚の肉付きを思う存分楽しむ。
籠った臭気が鼻から一気に脳までも貫き、衝撃で思わずよろめいてしまった。

背後に回り込んでいた蝶野が、豊満な乳房でそれを受け止めて支えてくれる。
女性自衛官は胸をグイグイと押し付けながら、転がったローファーを拾い上げて履き口を顔に当てた。

「ス〜ッ、ハァァ〜……♪」

靴に残る杏の匂いを、蝶野は何度も何度も反芻する。
背後から辻に抱き付いた格好のまま、蟹ばさみをするように両脚を前に伸ばす。
阿吽の呼吸で杏がその長い脚をつかんでパンプスを放り捨て、ストッキング越しに足の指を舐めだした。

「ん……っ、ちゅぱぁっ、むふふ……っ!」

目を細めながら、口に含んだつま先を丹念に吸い尽くす。
あどけない顔には不釣り合いな、妖艶な表情だ。

女子高生の足の匂いを嗅ぐ男――
女子高生の履いていた靴の匂いを嗅ぐ女――
女性自衛官の足を貪る少女――
ここにいるのは間違いなく、全員が等しく変態だった。

「んふふふふ……」

杏は蝶野の足を舐めるのを止めると、辻の下半身に顔を近付けた。
色とりどりの快感に翻弄された彼の股間は、他人の目から見ても分かるくらい立派なテントを張っている。
少女の手が、膨らみを愛おしそうに撫で回す。

「おほぉ……っ!?」

辻は我慢できずに、素っ頓狂な呻き声を漏らした。
杏の手はそのままスラックスのファスナーを下ろし、窮屈さに苦しむ肉棒を解放してやる。
ガマン汁を滴らせながら、怒張したペニスが顔を出した。

「あむっ」

流れるような動作で、杏が肉棒を咥え込む。
短い舌が狭い空間を獰猛に跳ね回り、亀頭や竿に絡み付く。
フェラなど経験があるはずもない少女は、魂が同化したことで蝶野の技をコピーして実に見事な舌使いを披露した。

「ほ……お、おおお……!」

辻はパクパクと魚のように口を開き、女子高生にされるがままに股間を食い尽くされている。
頭の後ろには女性自衛官の胸のクッションがあり、さらに逆さまに覗き込んできた彼女の荒々しいキスに唇を奪われる。

「んちゅっ、んっ、れろっ、んむ……っ」

「ずじゅるるるっ、ぷはぁ……っ、んじゅっ、ずぢゅうぅ……っ、ちゅばぁっ」

大人の女性の熟練の舌と、あどけない少女の技巧的な舌。
異なる者たちから与えられる刺激なのに、姉妹のように息の合ったコンビネーションだ。
圧倒的な快感に翻弄された男に、耐える術は何一つなかった。

「うおぉぉぉっ!?」

辻は咆哮を上げ、肉棒の先端から白い液体を発射した。
飛び散る飛沫が杏の顔を汚していく。

「はあっ、はあっ、はあ……っ!」

蝶野に背中を預けたまま、大きく深呼吸する。
杏は顔が汚れたのも気にせず、滴る精液全てを飲み干そうと亀頭を鳥のように啄んでいる。
緩やかなその愛撫が、男の欲情を誘う。
少女の唇が触れる度に、ペニスはさらなる漲りを見せた。

「さ、さあ……次はこちらの反撃の番です!」

女性自衛官の抱擁から体を離し、辻は勢いよく立ち上がった。
腰のベルトを外し、スラックスを豪快に脱ぐ。

杏は何も命令しなくともすべてを理解した顔で、四つん這いのまま後ろを向いた。
スカートの間から白いショーツが丸見えになるのも気にせずに、お尻を高く突き出す。
辻は屈み込んで股の間に手を当てると、秘所の匂いを確かめた。

「んん〜〜♪清廉そうなフリをして、しっかり濡れるところは濡れているではないですか……この淫売め!」

蝶野教官に散々調教され、辻の魂との同調も高まったことで、生徒会長の肉体はすっかり火照りまくっていた。
ショーツを擦り下ろし、白い尻肉をパンパンと平手で叩いてやる。

「あん!あぁん!もっと……もっとぉ!卑しいアタシの穴に、局長の熱い教育的指導をくださぁい!」

「望み通り――我が巨砲で貫いてやりましょう!」

お尻を振ってよがる杏。
辻は彼女の腰をつかんで固定し、そそり立つ肉棒を披裂へと突き立てていった。
じゅぶじゅぶと精液と愛液が混じり合いながら、男根が肉襞を突き進む。

「ん、ん、くふ……っ」

「い"……っ!?ぎ、あ、あ……!」

辻が腰を振ると、杏の股間に激痛が迸った。
狭い膣内を男の象徴が、狂った獣のように蹂躙する。
膣口は限界まで大きく広がり、処女膜は裂けて襞の隙間から血が滴ってきた。

「ふ、ふふふ……どうですか、初めて男を受け入れた感想は……?自分の愛する学園を潰そうと企む者に凌辱される気分は――っ?ぐう、お……っ!こ、これが犯される女の気分……!?」

侮蔑の言葉を吐きながら股間を杏に叩き付ける辻だが、ぞわぞわと未知の痛みが生まれ、下半身を這い上がってきた。
魂が同化している為、彼女を犯しながらも犯される彼女の感覚を共有してしまうのだ。

「あっ、熱いぃ……!痛いぃ……!かはぁ、しかしこの痛さも「アタシ」が「私」に屈服した何よりの証……鋭い苦痛も、流れる血の熱さも、気分を高揚させる材料でしかないっ!はああっ!」

杏は涙を流して激しい痛みにのた打ち回りながらも、辻として少女の尊厳を踏みにじることに歓喜した。
その歪んだ感情が、次第に激痛を激しい快感へと変えていく。

これがただの強姦魔ならば、犯される者の痛みと恐怖を知ってたじろぐかもしれない。
しかし辻は覚悟をもって、少女の魂に牙を突き立てていたのだ。
肉体を、精神を、少女そのものを喰らい尽くす覚悟を。

「あぁっ、はあっ、いいっ、いひぃ……っ!気持ちいい……きぼぢ、いい"……っ!」

杏は自らも腰を淫らに振って、口から泡を吹きだしながら激しく喘いだ。
瞼が小刻みに痙攣し、ほとんど白目をむきかけている。

辻は彼女を犯すことだけを考えるマシーンと化して、ピストン運動のスピードを加速させた。
2人の結合は本能の赴くまま体と体をぶつけ合う獣同士の性交のようであり、装甲と装甲を軋ませ合う重戦車同士の戦いのようでもあった。

「ぁっ!あっ!ぁっ!んん……はふぅっ!」

辻が杏を犯している背後から、蝶野の喘ぎ声が聞こえてくる。
見れば彼女は辻のデスクの角に股間を擦り付け、一心不乱にオナニーに耽っていた。

腰の動きが後ろに比重を置いた杏の動きと同調したかと思えば、荒々しく前後に振る辻の動きに変わる。
犯す男と犯される女の動きと共鳴したまま、女性自衛官は自分で自分を凌辱していた。

「はぁ、はぁ、はぁ……!い、いよいよ、砲撃の用意が整ったようです……か、覚悟はいいですか……?」

「ひぃ……!いひぃ……!来て……来てぇ……!がぁ、あぐぅ……っ!」

辻の動きがラストスパートに入り、股間を叩きつけるリズムが変化する。
杏は涙を流したまま鼻水も涎も垂れ流し、低い唸り声を上げて女豹のようにさらに身を屈める。

杏と蝶野――両者の頭上では、白旗のポールが独りでに高速で上下していた。
まるで頭と股間を同時に犯されているような光景だ。
カチャカチャと金属音を立て、髪を振り乱して、女たちは狂おしい舞を踊り続ける。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、う――おおおおっ!!」

辻の体の内を駆け巡る興奮が内圧となって高まり、股間から伸びる砲身目掛けて収束していく。
それは限界まで上昇し、ついには巨大な奔流となって発射された。
白濁した怒濤の液が、杏の膣内に叩き付けられる。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あ――あぁぁんっ!!」

熱い濁流にさらされ、少女も一瞬でオーガズムに達した。
ビクンと背筋を反り返らせ、秘所が決壊したように潮を吹く。

「ひゃはあああぁぁっ!?」

同時に蝶野も金切り声をあげ、デスクを掴む手に力を込めた。
自慰をしていただけなのに、辻と杏の絶頂感までもが流れ込み、噴き出した愛液がパンストの中に溢れる。
それはスカートの上からでもハッキリ分かるくらい、股間に染み広がっていった。

「「「は、ああぁ〜……」」」

三人は仲よく力を失い、床の上に倒れ込んだ。
辻は精力全てを使い果たしたように憔悴し、杏たちの頭の白旗も力なく垂れ下がっている。

「ぜえっ、ぜえっ、ぜえ……っ!す、素晴らしい……本当に素晴らしい……!」

果てたばかりの男は、全身が粉々になるほどの衝撃に賞賛の言葉を繰り返す。
これほどまでに素晴らしいセックスは、体験したことがなかった。
男と女のオーガズムを同時に感じたのだから、無理もない。

「はあっ……はあっ……はあっ……魂を同化した者が増えれば増えるほど、この快感も無限に増えていくのですね……?ふふ、ふふふ、ふははははは……!!」

辻局長の荒い呼吸が、次第に高笑いへと変わる。
それは杏に、蝶野に次々と伝染し、爆笑のハーモニーを奏でた。


「……ふう〜〜っ、女子高生の瑞々しい肉体、実に美味でしたよ」

「お、お褒めにあずかり光栄です……あはぁ」

「んふぅ、本当に若いって羨ましいわねぇ……」

しばらく横たわって体力を回復させていた辻は身を起こして、すっかり乱れてしまった髪を指で七三に整え直した。
杏と蝶野もフラフラとした足取りで立ち上がる。

女性自衛官はお漏らしをしたように、スカートの前面が色濃く変色していた。
女子高生は這いつくばっていたことで制服はすっかり皺くちゃになり、生地のあちこちが自分の愛液と辻の精液で汚れまくっている。

「これで君と私の魂の融合も、さらに強固なものとなったことでしょう。くふふ……」

「正気のアタシなら発狂するような行いをしたと言うのに、心を包む高揚感は萎むどころかまだ膨らんできてる……いや〜、我ながらすっかり変態さんになってしまったみたいだよ〜」

杏は物を見るような目つきで、あられもない姿となった自分を見下ろしてから股間に手を突っ込むと、こびり付いたイヤらしい液を指の間でにぎにぎと伸ばした。
意識の奥底で、体を穢してやった悦びに辻の魂が打ち震えている。

「――局長。お戯れはこの辺にしていただいて、そろそろ計画の方を進めませんと」

「ああ、そうですねぇ」

いち早く身だしなみを直した蝶野が秘書のように報告する。
辻は脱ぎ捨てたスラックスを履きながら、今後のスケジュールを脳裏に思い浮かべた。

「『大洗女子学園廃校計画』……ついに悲願のプロジェクトを本格的に実行に移す時が来ました。ふふふ、学園の生徒たちの驚く顔が、目に浮かびますよ」

「……とりあえず、アタシは何も知らないフリをした方が、色々と動きやすいよね?」

「ええ。貴女には、私の命令に刃向うであろう学園の連中を説得してもらう必要がありますからね」

「だったらさあ、「廃校の勧告を受け入れないと、学園艦に住むアタシらの親や住人たち全員を解雇すると脅された」とか言えば、あいつらだって下手な抵抗はしないんじゃな〜い?」

「ほう、それはよい考えです」

「素晴らしいわ!」

「へっへ〜♪『アタシ』と『私』の脳みそを使えば、この程度の悪だくみくらい簡単に思いつくって」

「まさに策士ですねぇ。敵に回すと恐ろしいが、味方になればこれほど心強いものはありません」

「んふふふふ……!」

3人は揃って邪悪な笑みを浮かべた。
学園を愛するはずの杏が、自らその存在を潰す算段を企てているのだから、信じられない話だ。

「けど、アタシを仲間に引き入れたからと言って油断しない方がいいですね。あの学園には、まだまだ手強い相手がいますから」

「ええ、それは身に染みて分かっています。その為にも、計画には何重もの予防策を講じているのです」

「わたしたちなら例え離れた場所にいても、不測の事態に対応できますしね」

「全ては文科省のために……必ずや計画を成功に導くのです!それでは各自、行動に移ってください」

「「ハッ!」」

指揮官として女たちを見下ろす辻に、蝶野と杏は揃って選りすぐりの兵士として、一点の曇りもない力強い声で敬礼を返した。
彼女たちには変心も、裏切りもない。
辻の魂を持つ者は、その尽くが彼のしもべなのだから。

こうして――誰にも気付かれることもなく、「大洗女子学園廃校計画」はひっそりと動き始めたのである。


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「誰よ!勝手にこんなことするなんて!?」

今しも夜の帳が訪れつつある黄昏時――
ここは、茨城県大洗港に浮かぶ大洗女子学園の学園艦。
その中心に建つ大洗女子学園の校門の前に、生徒たちが集まって何やら騒いでいる。

騒ぎの原因は、校門そのものだ。
「KEEP OUT」と記されたバリケードテープが、校門の鉄柵に何重にも巻き付いていたのだ。

生徒たちからしてみれば、エキシビションマッチを終えて母校に帰って来た途端にこんな光景に遭遇したのだから、大騒ぎになるのも無理はなかった。
風紀委員が校門に張り付き、テープを剥がそうと四苦八苦している。


「――君たち、勝手に入っては困るよ」

そんな彼女たちの行動を、一切の感情を排除した怜悧な声が止めた。
声の主は辻だ。
眼鏡を指で持ち上げ、その場にいる女子生徒たちに氷のような視線を向けている。

「あ、あの……わたしたちはここの生徒です!」

「もう君たちは生徒ではない」

面識のある河嶋桃が慌てて状況を説明しようとするが、辻はその発言を無情に切って捨てた。
彼の言葉を聞いて、周りにいる生徒たちの間に動揺が走る。

「……君から説明しておきたまえ」

広がった驚きが鎮まるのも待たずに、辻はそう言い残すと踵を返した。
彼の体に隠れるように後ろに立っていた者の姿が現れる。
いつになく真剣な顔つきをした、角谷杏の姿が。

「会長?」

「どうしたんですか、会長!?」

彼女のただならぬ雰囲気に、同じ生徒会に所属する桃や小山柚子こやまゆずたちがいち早く反応した。

学園艦を守るために苦楽を共にしてきた2人の視線を受け、
厳しい戦いを一緒に潜り抜けてきた生徒たちに向かって、
杏は静かに――残酷な一言を告げるのだった。


「大洗女子学園は……8月31日付けで廃校が決定した」



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文科省の決定に、生徒たちは当然さらに紛糾し、中には学校に立てこもると言い出す者まで現れた。
しかし杏の必死の説得を受け、副会長である柚子も擁護に回り、騒ぎはようやく沈静化したのだ。

柚子にしてみれば、きっと会長には何か考えがあるはずだと、彼女への信頼感でこの場を耐え忍ぶこと選んでくれたのだろう。
――苦渋の表情を浮かべているその杏が、心の中で舌を出していることも知らずに。


すっかり夜も深け、暗闇に包まれた校舎。
学園から離れることになり、生徒たちは引越しの手続きや荷造りで大わらわとなっている。
学園艦の思い出を少しでも残そうと、運び出すダンボールの数は増える一方だ。
誰もが気落ちしつつも、淡々と体を動かすことで廃校のショックを忘れようとしていた。

そんな生徒たちの様子を、杏が艦橋兼生徒会室の窓からぼんやりと眺めている。
ここもほとんどの棚が空っぽとなり、ダンボールの山がうず高く積まれていた。

室内には彼女しかいない。
桃も柚子も艦内のあちこりを跳び回り、離艦の準備に追われているのだ。

会長席の革張りの椅子に座る杏の表情に、一切の感情はなかった。
先程まで生徒たちを説得していた時とは正反対の、機械のような目つきで彼女たちの行動をつぶさに観察している。

「――はい、ええ。予想通りパニックになりましたが、話そのものは信じたようです」

不意に、杏が虚空を見つめたままつぶやきを漏らした。
誰かに語りかけるような口調だが、電話をしている様子はない。

「あいつらときたら、アタシが不自然に野球帽で頭を隠していることすら気付いていないんですもの……まあ、よっぽど廃校の通告がショックだったんでしょうね〜」

頭に被った帽子のツバを、おもむろに指で弾く。
無表情だった顔に、侮蔑のこもった笑みが刻まれた。


「……生徒たちの様子はどうですか?」

一方――
大洗港を離れ、霞ヶ関へと戻るために自衛隊が手配したヘリの中にいる辻も、ボソボソと独り言をつぶやいていた。
当然、彼も携帯電話で通話をしているわけではない。
魂を共有した者同士が空間も距離も無視して、テレパシーのように会話をしていたのだ。

「すっかり意気消沈していますね。ひひひっ、本当に傑作ですよ。アタシと局長がつるんでいるとも知らずに……」

真相を知らない仲間たちを上から見下ろしながら、杏はニタニタと口元を歪める。
彼女を信じた柚子たちの思いを踏みにじる、醜悪で卑劣な笑いだ。

「よろしい。それでは計画を次の段階に進めましょう。手駒がさらに必要となりますが……目星はついていますか?」

辻は念話を続けたまま、何気ない動作でスラックスの上から股間を弄りだした。
すると、学園艦にいる杏の方も糸に吊られる人形のように全く同じ動きをトレースする。

「あっ……お任せください。この役目を担うのにうってつけの子がいますので……くふっ」

スカートの中に忍ばせた指が、少女の股間をイヤらしく撫で摩る。
辻のマリオネットと化した杏は艶めかしい吐息を漏らしながら、目を細めて生徒たちの1人を見据えた。

彼女の視線の先には――普通科2年生、秋山優花里あきやまゆかりの姿があった……


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熊本県某所。
夏の日差しが眩しい青空の下、美しい自然の中に佇む純日本風の邸宅。
ここは戦車道の名門「西住にしずみ流」の本家である。

書斎で書き物をしていた西住流家元・西住しほは、風を切る音に気付いて顔を上げた。
音の正体はローター音だ。
西住邸の広い庭に、陸自のOH-1ヘリコプターが着陸しようとしていた。

「家元、蝶野様がお見えです」

書斎のドアが開き、和服を着た弟子の女性が顔を覗かせた。
西住家では、こうした突然の来客はよくあることなのだろう。

「分かっている」

しほは持っていたペンを置き、客人を迎えるために庭へと向かう。
外では丁度コクピットのキャノピーが開き、蝶野亜美がステップを降りようとしていた。
ローターの風圧に飛ばされまいと制帽を手で押さえながら、庭に立った女性自衛官は、こちらを見て何故かニヤリと笑った。

普段とは違うその態度をしほが訝しんでいると、蝶野は手に持つ小さな機械のスイッチを押した。
ヘリのローター音にかき消されながら、鈍いエンジン音が鳴り響く。
次の瞬間、しほが目にしたのは、むくむくと膨らんでいく蝶野のスカートの股間だった――





「――みほ」

文部科学省の庁舎へと続く階段を昇っていた西住みほは、自分を呼ぶ声に周囲を見回した。
栗色の髪を肩まで伸ばし、白いセーラー服に身を包んだ女子高生そのものな出で立ちは、霞ヶ関の場には酷く不似合いに見える。

彼女は大洗女子学園の生徒だ。
素人ばかりの学園内において唯一の戦車道経験者であり、実家は由緒ある戦車道の名家でもある。
先の全国大会で大洗女子学園が優勝できたのも、みほが隊長としてチームを率いたことが大きな要因だった。

庁舎の正面玄関の側に、少女が立っている。
黒いブラウスとスカートを着た、みほに面影がよく似た女子高生だ。

「お姉ちゃん?」

みほは驚き、目を瞬かせた。
少女の名は西住まほ――みほの実の姉である。
熊本にある戦車道の強豪校・黒森峰女学園の隊長を務め、全国大会の決勝戦で大洗女子学園と激しい戦いを繰り広げた相手でもあった。

「お前も学園艦教育局に呼ばれたのか」

「え、じゃあ、お姉ちゃんも?」

「ああ、蝶野教官を介して、わざわざ陸自のヘリで連れてこられたところだ」

みほが近づいてくるのを待ち、まほは鋭い眼差しを幾分和らげて声をかけてきた。
その指摘通り、彼女も突然の呼び出しによって、大洗港からはるばる文科省までやって来たのである。
――みほの場合、連絡をくれた相手は蝶野ではなく、生徒会長である杏からだったのだが。
何故会長が文科省の使い走りをしているのか不思議に思っていたが、その上まさか姉とこんな場所で再会するとは思ってもみなかった。

まほと取りとめのない会話をしながら、庁舎の玄関を通り抜ける。
姉と会うのは、あの決勝戦の日以来だ。
こうして姉妹として何の気兼ねもなく喋れることに、みほは言いようのない嬉しさを覚えていた。

――彼女も、昨年までは黒森峰女学園の生徒だったのだ。
姉の下で副隊長を任され、日本最古の戦車道「西住流」のあり方を母に厳しく躾られてきたが、ある出来事がきっかけで戦車道そのものを忌避するようになり、実家を飛び出して大洗女子学園に転校してしまったのである。

その為、姉とも疎遠になっていたのだが、紆余曲折の末に大洗女子学園が全国大会に出場することになり、再び戦車道と向き合う必要に迫られた。
圧し掛かる重圧に悩みもしたが、そんなみほを支えてくれたのが友人たちだった。
学園の仲間や、試合の中で出逢った数々の強敵たち、そして最後はまほとの一騎打ちを経て、みほは自分だけの戦車道を見つけることができたのだ。

決勝戦後の短い会話の中で、姉がそれを喜んでくれているのを実感できた。
戦車道のせいで家族とバラバラになったと思い込んでいたが、その戦車道が自分の進むべき道筋を示し、姉との絆をつなぎ直してくれたのである。
まほと2人で一緒に歩いていると、仲の良かった小さな頃に戻ったようで、心が温かくなってきた。

「きゃっ!?」

――そんな想いに気を取られていたのか、みほはロビーに入ったところで突然バランスを崩して転びそうになった。
しかし素早くまほが手をつかんで支えてくれたので、何とか尻餅をつかずにすんだ。

「あ、ありがとう……!」

「まったく、そそっかしいのは相変わらずだな……立てるか?」

「うん、ごめん……」

差し出された手を握り返し、みほは気恥ずかしさに頬を赤らめた。
子供の頃もこんな風に姉によく助けられていたことを思い出す。
腕を引っ張られて立ち上がろうとしたが、無理に力を入れ過ぎたのか、今度はまほの方が後ろによろめいてしまった。

「くっ!?」

「お姉ちゃん!?」

慌ててみほは、姉の体を引き寄せた。
抱き止めた体が、予想以上に小さなことに驚く。

「す、すまない」

「えへへ、お姉ちゃんも結構不器用なんだね……やっぱ姉妹だからかな?」

「う、うるさい……ほら、行くぞ」

少し意地悪く笑いかけると、まほは照れ臭そうにみほの手をつかんだまま受付へと向かった。
2人は職員の指示に従い、学園艦教育局がある階へと移動する為にエレベータに乗り込む。

そんな姉妹の姿を、こっそりと物陰に隠れてビデオカメラで撮影している者がいることに、彼女たちはまったく気付いていなかった……


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学園艦教育局の執務室――
みほはまほと共にソファーに座り、デスクにいる役人と向かい合っていた。
文科省学園艦教育局長、辻康太と。

「いやあ〜、はるばるご苦労だったねぇ、西住ちゃん」

そう声を発したのは辻ではなく、みほがよく知る相手――角谷杏だ。
何故か局長の横に立ち、ニヤニヤと笑っている。

反対側には蝶野教官の姿もあった。
2人とも辻そっくりの伊達眼鏡をかけていて、まるで彼の秘書にでもなったみたいだ。

「あの……それでわたしたち、何で呼び出されたんですか……?」

まほも来ていたことから、てっきり全国大会に出場した各校の隊長に召集でもかけられたのかと思っていたが、まさか自分たちだけだったとは。
みほは杏たちをチラチラと横目で見ながら、辻に質問をした。

顔は局長の方を向きつつも、視線はどうしても横に立つ両者の頭に吸い寄せられてしまう。
何故か杏たちの頭頂部から、辻の似顔絵が記された白旗がはためいているのだ。
しかし2人ともふざけているようには見えず、澄ました顔でいるのがかえって奇妙だった。

「――本日お越しいただいたのは、他でもありません。実は、先日の全国大会決勝戦の試合に関して、ある不正行為が行われた疑いがありましてね」

「え……?」

デスクに座る辻がようやく口を開き、驚くべき発言をした。
その衝撃で、みほの頭から会長たちへの疑問がすぐに吹き飛んでしまう。

「我々としても看過できず、事実を突き止めるために調査を開始しました。そこで、当事者である貴女たちへの聴取も必要だと考えた次第です」

「ちょ、ちょっと待ってください!私たちは何も……」

みほは大いに慌てたが、横に座るまほが手で制して落ち着くように促した。
彼女の表情は険しく、辻を鋭く睨みつけている。

「一体、我々がどんな不正に手を染めたと言うのですか?」

「……蝶野一尉」

「ハッ!」

対する辻はまほの視線を平然と受け流し、横に立つ蝶野に話の続きを促した。
短く答え、女性自衛官が一歩前に出てくる。

「まほさん――残念ながら、あの決勝戦の試合そのものに「八百長」の嫌疑がかけられているの」

蝶野はいつもの明るい笑顔からは考えられない意地の悪い表情で、淡々と説明を始めた。
彼女の報告にみほは絶句し、まほは怒りを静かに燻らせる。

「誰がそのようなくだらない妄言を。まったくの事実無根です」

「あら、そうかしら?だって両校の隊長が肉親同士なのだし、事前に示し合せれば不可能な話ではないでしょう?」

「例え相手が親であろうと姉妹きょうだいであろうとも、鋼の心で正面から堂々と戦いを挑む――それが西住流の心得です。例外などありません」

「ん〜、その西住流とやらがどれほど崇高な教えだったとしても……可愛い妹が困っているとなれば、お姉さんとしては手心を加えたくなるものじゃない?」

「……何が言いたいのです」

「大洗女子学園が全国大会で優勝できなければ廃校になる、って話は耳にしていたんでしょう?それを防ぐために、妹さんが貴女に無理なお願いをしたとしたら、どうかしら……?」

「そんな!私、そんなこと絶対に頼んでいません!」

一方的に突きつけられた疑いを、まほは努めて冷静に反論していくが、蝶野はさらに理不尽な憶測を並べ立ててきた。
みほは耐えられず、立ち上がって否定の叫びを上げる。
ところが――

「あ〜、ごめんねぇ、西住ちゃん……アタシらの計画、すっかりバレちゃったみたいだよ〜」

それまで黙っていた杏が、信じられないことを言ってきた。

「会長……?」

「アタシが無理を言って、黒森峰に話を通すようにお願いしちゃったからねえ……まあ、西住ちゃんはただ命令に従っただけだし、責任はすべてこっちが被るから、安心していいって」

「か、会長……何を言ってるんですか!?」

あっけらかんと自白めいたことを話しだす杏の態度に、みほは目を白黒とさせるばかりだ。
当然、何もかも初めて耳にすることばかりだった。

「――と、このように大洗女子側の言質はすでに取っているんですよ……まったく、手段を選ばず目的を果たそうとするなど、本当に困った子供達です……ねえ、蝶野一尉?」

生徒の悪戯に手を焼く教師のように嘆息する辻が、蝶野に同意を求める。

「ええ、戦車道連盟としてもこれを由々しき事態だと、重く受け止めています。当然、規定違反によって決勝戦の試合内容は無効とし、優勝を剥奪するのが妥当かと」

「そんな!」

「大体、ぽっと出の無名校がイキナリ大会で優勝するなんて、おかしいと思っていたんですよねぇ」

蝶野は眼鏡越しに侮蔑のこもった眼で、みほをねっとりと見下した。
彼女たちは知る由もないが――
辻が大洗女子学園を侮るような発言をする度に激しい怒りを覚えていたはずなの蝶野自身が、まったく同様の言葉を口にしていたのである。

「お姉ちゃん!私たち、本当にそんなことは……」

「分かっている。これは明らかに普通じゃない」

混乱する妹を落ち着かせようと、まほも立ち上がって自分の後ろに退がらせ、突き刺さってくる悪意ある視線を真っ向からすべて受け止めた。

「……蝶野教官。そもそも何故、貴女がここに?」

まほの疑問は当然だ。
戦車道連盟の強化委員としての立場でこの場に呼ばれているのかもしれないが、先程から明らかに文科省寄りの言動ばかりだ。

一方の話を鵜呑みにするような人物でないことはよく知っている。
それなのに、今日の彼女は別人としか思えない態度なのだ。
辻との間で、何かがあったとしか思えなかった。

「大人同士は色々とあるの……子供には分からないでしょうけど」

蝶野は含んだような言い回しで、ニヤリとイヤらしい笑みを浮かべた。
人を小馬鹿にしたような態度と仕草は、辻そのものだ。
姿形がまったく違うというのに、彼と相対しているような錯覚さえ感じる。

「文科省と戦車道連盟は裏でつながっていた、とでも言うのですか?」

「どう取るかはそちらの自由よ」

「でしたら直接連盟に連絡して、真偽を問い質します」

「ど〜ぞ、お好きに。ま、児玉理事長は今やわたしの言いなりですけどねぇ……んふふ!」

蝶野はおどけながら、獰猛に舌なめずりをした。
駆け引きによるハッタリではなく、相手がどんな行動に出たところで、気にもしないと言わんばかりの自信に満ち溢れている。
埒が明かず、まほは睨みつけていた視線を蝶野から辻に移した。

「……これはすべて、貴方の企みですか?」

「おやおや、酷い言いがかりだ。私が何をしたと言うんです?」

左右に並ぶ女たちを視界から振り払い、真実を照らす意思を込めて辻に詰問する。
女子高生とは思えないほどの迫力だったが、役人は半笑いの表情のまま、動じもせずに問いを投げ返してきた。

「先程の教官の指摘通り、大洗女子学園の廃校が決定したと言う情報は耳にしています。自分たちに都合がいいように、裏で文科省が工作を進めていたのではないですか?」

「工作とは人聞きが悪いですねえ……八百長を画策するような学園など優勝校に相応しくないのは当然。廃校処分もやむなしでしょう」

「学園の廃校を狙う一部の過激な勢力が、その理由を後から捏造したとも考えられます。加えて、教官たちの不自然な態度……我々を呼び出したことも含め、周到に計画されていたとしか思えない」

「ふむ、さすがは西住流の後継者。洞察力も大したものです」

辻は満足そうに頷くと、スッと片腕を持ち上げた。
前に出ていた蝶野が元いた場所に戻り、衛兵のように直立する。

「まあ、『建前』の会話はこれくらいにしておきましょうか……すみません、一端「撮影を止めて」出てきてください」

そのまま辻は、執務室の入り口に向けて声をかけた。
まほは釣られるように彼の視線の先に首を巡らせる。

一体いつからなのか、入り口のドアが少し開いていた。
そして、その隙間からビデオカメラのレンズが飛び出していたのだ。

軋んだ音を立てて、ドアが完全に開く。
ビデオカメラを手に持ち、そこに立っていたのは――大洗女子学園の制服を着た少女だった。

「ゆ、優花里さん!?」

姉の後ろでオタオタとしていたみほが、思わず前に飛び出しそうになるくらいの大声を上げる。
ボリュームのある癖毛と人懐っこい顔は、見間違えるはずがない。

秋山優花里。
みほが車長を務める「あんこうチーム」の装填手であり、かけがえのない友人の一人だ。

「ど、どうして優花里さんがここに……?」

杏だけでなく、彼女までこのような場違いな場所に現れるとは。
――そう言えばみほが文科省に呼ばれた時、チームメイトにメールで事情を伝えたのだが、優花里からは何の反応もなかった。
彼女の実家が学園艦内にあるため、引越しで忙しいからだとばかり思っていたのだが。

「お疲れ様です、秋山君。撮影の方はどうですか?」

「はい、それもうバッチリ!局長閣下の思惑通りのいい画が撮れていますよっ♪」

辻に聞かれた優花里が敬礼しながら答える。
先日校門の前で会った時が初対面のはずなのに、非常に息の合った会話だ。
まるで体を許しあった男女のような、気安い雰囲気を醸し出している。

「優花里さん……何で……?」

「ふふふ、彼女には記録係を頼んでいたのですよ。貴女たちに八百長の事実を認める告白をしてもらい、それを証拠映像として録画しておくためにね」

「西住殿の恥ずかしい姿を思う存分撮影できるだなんて、こんなに嬉しいことはありませんよ〜!でへへ……」

妄想の中でみほを思い浮かべているのか、優花里がだらしなく笑う。
以前も生徒会からの指示を受けて対戦校の学園艦に潜入し、情報収集のために撮影をしてきたことはあったが――
共に過ごした自分たちの学園の評判を踏みにじるような命令を受けて、それに喜んで従うなんて、みほが知る優花里ならば絶対にするはずがない。

よく見れば、彼女の頭からも白旗が生えている。
杏たちと同じく、様子がおかしいのは明白だった。

「馬鹿な……皆、洗脳されたとでも言うのか?」

「フム、当たらずとも遠からず、と言ったところですね……」

まほも辻を取り巻く女たちのただならぬ様子に、思わず心に浮かんだ言葉を口にする。
辻はお馴染みの人をおちょくるような笑みで、それに答えた。

「くくくっ、そろそろ種明かしをしてあげましょう。彼女たちは彼女たちであって彼女たちではない――全員、私の『一部』なのですよ!」

眼鏡のレンズを光らせながら、辻が力強く叫ぶ。
同時に、左右にいた杏と蝶野が彼の座る椅子の背もたれをつかみ、一気に後方へと引いた。
デスクに隠れていた役人の全身が、露わになる。

「……!」

「きゃっ!?」

まほは無言のまま眉を顰め、みほは思わず両手で視界を塞いだ。
椅子に座ったまま、ふんぞり返る辻。
彼の下半身は――スラックスを履いていなかった。
股間が鋼鉄製の珍妙な履物で覆われていたのだ。

「どぉぉ〜です!?文科省が誇る脅威の秘密兵器のこの美しいフォルムを、とくとご覧あれ!」

両手を肘かけの上に置き、貧相な両脚を大きく開いて、腰を突きだすような座り方で、股間を西住姉妹に見せつける。
蝶野が、杏が、優花里までもが拍手喝采して、その雄姿を讃えた。

「……何なのだ、そのふざけた代物は……?」

みほは完全に言葉を失っている。
まほは吐き気を覚えながらも、震える声でなんとかそれだけを言った。

「これこそが『たましいふきこみ砲』!装着者の魂を分離させて発射する画期的な装置です。発射された魂が命中した者はすべて、私の支配下となる……彼女たちのようにね」

辻は装置の説明をしながら、脇に取り付けられたコンソールを操作した。
瞬時に股間の装甲が手前に迫り出し、中心から砲塔が伸びていく。
以前に比べても、変形が格段に速くなっている。
密かに改良を重ねてきたのだろう。

『たましいふきこみ砲』が変形を完了すると、左右に並んだ蝶野と杏が揃って色っぽい表情でセクシーポーズを決めた。
まるでモーターショーで新型車輛に寄り添うコンパニオンのように。
優花里は優花里で、プロポーションを誇示する2人の姿を地面擦れ擦れの際どい角度から撮影していて、完全にカメラ小僧と化していた。

「我々をおちょくっているのか……?」

「トンデモない。むしろこの素晴らしさを、早く貴女方にもお教えしたいくらいですよ」

「彼女たちがお前の魂に操られているとでも?」

「YES。正確には、私の魂に意識を乗っ取られているんですがね」

「くだらない!そんな馬鹿げた装置など、この世に存在するわけが……」

「我が文科省の科学力は世界一ィィィ!できないことなどありはしないイイィ――――ッ!!」

荒唐無稽すぎる説明に呆れるまほの声を遮り、辻は断言した。
有無を言わさぬ迫力で、姉妹を交互に見渡して表情を引き締める。

「ならば証明してみせましょう……『たましいふきこみ砲』の偉大なる力を……!」

辻はつぶやくと、背筋を伸ばして居住まいを正した。
蝶野と杏がポーズを止めて、無言で彼の元へと集結する。
座る辻を左右から挟み込むような形で、2人は向かい合った。
何をするつもりなのかとみほたちが見つめる中、蝶野と杏は互いの指と指を絡ませながら、身を屈ませて局長の耳の穴に舌を這わせだしたのだ。

「ずるるるっ、ずっ、ちゅうううっ」

「ぞずずずっ、じゅるっ、あふぁっ」

下品な音を立てて、女たちは男の耳を貪り合う。
とろんとした目つきは、完全に発情した雌の色を灯していた。

「んっ、どうですか……くふっ、正気の彼女たちがこのような行為をしてくれるとでも……?おふっ」

辻はくすぐったそうに首を竦ませながら、蝶野たちの凌辱に身を任せている。
たちまち両耳が唾液まみれになり、2人に吐息を吹きかけられて、みっともないくらいに顔をニヤケさせる。

「ひ……っ!」

「お、おぞましい……!」

目の前で繰り広げられる痴態に、みほは唖然となり、まほは嫌悪感に耐えられず口元を手で押さえた。
距離を開けた彼女たちの元まで淫靡な空気が漂ってきそうで、思わず距離を離したくなる。

「ちゅるっ……ぁ……っ、西住ちゃん……これでアタシが局長の人形だってことが分かったぁ?んふふっ」

「か、会長……!」

「頭の固いまほさんも理解できたかしら……?文科省の恐ろしさを……あむっ」

「ど、どうかしている……!」

杏は辻の耳の縁を丹念に舐め回し、蝶野は辻の耳たぶを甘噛みしている。
どちらも同性ですら息を呑むほどの妖艶さを漂わせていた。
初めて見る生徒会長の艶姿に、みほはもはや思考停止寸前だ。
それでも姉のまほは、眼前に広がる現実を否定しようと、首を左右に振りながら呻くのだった。

「ふふふ、まほさんはまだ納得できない様子のようだ。ならば、最後のダメ押しをするとしましょう……」

辻は股間の砲口をまほに向けながら、口の端を吊り上げた。
蝶野たちの体を両手で押しのけて、耳攻めを止めさせる。
そのままデスクの脇にある内線に手を伸ばし、通話ボタンを押した。

「至急、こちらへお越しを」

それだけを告げて、通話を切る。
すぐに通路から、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
先程優花里が登場した執務室のドアが、再び音を立てて開く。
ワケが分からないまま、まほたちは入り口を振り返った。

「お呼びですか、辻局長」

現れたのは、黒いパンツスーツを身に纏ったロングヘアーの女性だ。
それは、2人がよく知る人物だった。

「お母様!?」

予想外の闖入者に、流石のまほも大きな声を上げてしまう。
入り口に立っていたのは、彼女たちの母親――西住流戦車道家元・西住しほ、その人だったのだ。

「お、お母さん……?」

みほも茫然と、母親の顔を見返した。
こうして相対するだけで、条件反射的に身構えてしまう。
姉と違って母に対してはまだわだかまりが残っていたのに、このような状況で顔を合わせたのだから無理もなかった。

まさかと思ったが、やはり母の頭にも白旗が立っている。
普段の厳しい人柄を知っている分、蝶野たち以上にその姿に対する驚きは大きい。

しほは娘たちには無反応のまま、一直線に辻の元へと近づいていった。
まるで、用事を言いつけられて飛んできた彼の部下のように。

「いやあ〜、お待ちしていましたよ。西住先生」

「何か不手際がありましたでしょうか?」

「お宅の娘さんたち、どちらも聞き分けが悪くてほとほと困っていたんですよ……一体普段、どう言う教育をなされていたんですかぁ?」

「申し訳ありません。不肖の娘に代わってわたしがお詫びします」

底意地の悪い表情で訴えてくる辻に向かって、しほは深々と頭を下げた。
あり得ない光景に、娘たちは揃って絶句する。

「まあ、私に逆らうとどういうことになるか、今からしっかりと躾けてやります……そこで教育局の手並みをよく見学していてください」

「ハハッ、偉大なる局長に指導してもらえるなど、これほど光栄なことはありませんわ」

「私に傅く先生の態度を見れば、愚かな娘たちも現実を直視するしかないでしょう……くくく」

辻は勝ち誇った顔でまほを見つめたまま、無造作にしほの体に手を伸ばした。
ブラウスの上から乳房を乱暴につかみ、思いっきり握り締める。

「貴様!」

母親への無礼な行為に、まほは髪の毛が逆立たんばかりに激高した。
このまま殴りかかってもおかしくない勢いだ。

「――何を狼狽えているのです、まほ。道具が主人に使われるのは当然のことでしょう?」

ところがしほは辻の凌辱には無抵抗のまま、それどころか怒りを露わにした娘を見て眉を顰めたのだ。

「お、お母様……!?」

「西住流は文科省の軍門に下ったのです。わたしの言葉は辻局長の言葉だと思いなさい」

「ほ、本気で仰っているんですか……!?」

「今のわたしは身も心も局長に捧げています。貴女も駄々をこねていないで、早くこのお方に忠誠を誓うのです」

しほはまほに向き直って、生真面目な顔つきで厳命した。
辻の指はいつの間にか胸から下半身へと移動し、後ろから股間を撫で摩っている。
それなのに母は身じろぎひとつしなかった。
黒いパンツスーツの股の間を、男の指が前後に這い回っているのがとてつもなく卑猥だ。

「はっはっは。これでよ〜く分かったでしょう?『たましいふきこみ砲』にかかれば、漢女・西住しほと言えども、ご覧のとおりです……!」

辻は股間への愛撫に飽きたのか、脱力させた腕をしほの顔に近付けた。
母は躊躇なくその手をつかみ、指先を口に含んで音を立てて舐めだす。

「ん……っ、ちゅばっ、れろれろっ」

うっとりとした表情で、一心不乱に指をしゃぶり続ける。
それは、娘たちが初めて目にする、母の「女の顔」だった。

「お母様……!?や、止めてください……!」

「お、お姉ちゃん……!」

ここまであからさまな母の痴態を目の当たりにしては、まほも事実を受け止めるしかなかった。
ショックでよろめいた姉の体を、みほが受け止める。
彼女も矢継ぎ早に見せつけられる非常識な展開に、顔面が蒼白となっていた。

「んふふ……師範のこんなエロい姿が拝められるだなんて傑作だわぁ……ああ、もう家元を襲名したんでしたわねぇ?」

蝶野がしほの体に近付き、全身をネットリとイヤらしい目で睨め回す。
彼女にとっては戦車道の指導を受けたこともある恩師のはずなのに、尊敬の欠片もない態度だ。

「ちなみに、この人の肉体にはわたしの魂が入り込んでいるのよ……」

蝶野はまほたちに見せびらかすように、タイトスカートをたくし上げた。
隠れていた股間が、股間に装備した『先行量産型たましいふきこみ砲』が露わになる。
ピンク色の装甲に包まれた装置がすぐに起動し、短砲塔が展開した。

「蝶野一尉の肉体に宿った私の魂は、彼女自身の魂とも混ざり合っているのです。魂を汚染された者が『たましいふきこみ砲』を使えば、私が使用したのと同様の効果を発揮できるのですよ」

辻は自分の股間の砲身の先端で蝶野の腰を突きながら、彼女の説明を補足する。
横ではしほが口元を唾液まみれにしたまま、命令を待つロボットのように立ち尽くしていた。

「あん♪局長と同化したわたしの魂は『弾』となって細分化されて、角谷さんと師範にそれぞれ分け与えているのよ」

蝶野はくすぐったそうに腰をくねらせた後、両手で髪を官能的にかき上げながら、杏としほに流し目を送った。
釣られるように、2人も揃って同じポーズを取る。
魂を共有していることを表現しているのだろう。

「で、局長色に染まったアタシの魂を、さらに秋山ちゃんにもぶち込んでやったってワケ……イェ〜イ!」

「イェ〜イ!」

杏は制服のスカートを捲りながら、優花里に向かってピースサインをした。
彼女の股間にも蝶野の物とよく似た形状の装置、『量産型たましいふきこみ砲』が装着されている。
ただし色はダークイエローで、装甲の表面に亀のイラストが描かれていた。
優花里はその会長の股間をカメラでたっぷりと撮影しつつ、フレンドリーにピースを返す。

「こうやって自分の『分身』を増やしていけば、私に逆らうものなど存在しなくなる……何故なら、相手も『私』そのものとなるのですからね!」

「――しかも、乗っ取った本人の記憶を持ったまま自由に操ることもできる。そのまま周囲に溶け込めば、怪しむ者など誰もいません」

「――先程までの貴女たちのように、他者に魂を乗っ取られていると見抜ける人間など皆無でしょうからねぇ」

「――大金で買収する必要もなく、大掛かりな設備で訓練を施すコストをかけることもなく、一流のスパイをどこへだって送り込むことが可能となるのです」

「――そうやって文科省の絶対的な権力を拡大する……すでに、私の計画は着々と進行しているのですよ!」

辻の言葉を――
蝶野が、
杏が、
優花里が、
しほが、
次々に引き継いで語る。

喋る者が変わっても抑揚もリズムもまったく一緒で、不気味なまでに呼吸を合わせた物言いだ。
語り部が、彼女たちの体を移動して言葉を紡いでいるとしか思えない光景だった。

「計画……だと……!?」

まほは挫けそうになる心を奮い立たせ、辻の真意を見極めようとした。
感情的にはすぐに彼を拘束して、母たちを正気に戻したいが――
意識を乗っ取られている以上、全員が人質となっているのも同然の状況で、下手な行動を起すわけにはいかない。
相手の狙いを探りながら、まほは頭の中でこの窮地を切り抜ける作戦を必死で考えていた。

「来る戦車道世界大会の我が国への誘致に向けて、戦車道に関わる全ての人間には私の駒となっていただきます。その為、大洗女子学園などと言うイレギュラーな存在には消えてもらわなければなりません……日本戦車道が、私の支配化で意志を一つにしてもらうためにね」

辻は役人としての仮面をかなぐり捨て、明らかな敵意でみほに向かって宣言する。
もはやこの室内に、純粋な意味での大洗女子学園の生徒は彼女一人になってしまったからだ。

「じゃ、じゃあ、全国大会の優勝で撤回されたはずの廃校問題がまた立ち上がったのも……?」

「無論、私の差し金です」

「イキナリ学園が封鎖されて、会長が大人しく文科省の命令に従っていたのも……?」

「みんなで温泉に入っていた時、アタシだけ館内放送で呼び出されたでしょ?あの後、蝶野教官に魂を入れられたんだよね〜」

杏は自分が罠にはめられた経緯を、他人事のように語る。
みほはこれまで自分たちの身の回りで起こった理不尽な出来事を、ひとつひとつ思い返していた。
その全てが目の前にいる男の独善的な考えで実行されたのだとしたら、とても許せるはずがない。
怯えていた彼女も、次第に怒りに表情を険しくしていった。

「ふざけるな……!己の野望のために、どれだけ犠牲者を増やせば気がすむと言うのだ……!」

妹の激情を感じ取り、まほはみほと共に並び立つ。
姉妹は軽蔑と義憤を込めた視線で、局長を断罪した。

「犠牲者?彼女たちは犠牲者などではありませんよ」

「では、何だと言うのだ!」

「……主が、『名は何か』とお尋ねになると、それは答えた」

「「「「わが名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」」」」

しかし辻は姉妹の非難の眼差しを意にも介さず、ふてぶてしい顔で新訳聖書の一節を引用した。
その言葉を続けながら、蝶野たち4人がデスクの前に横一列に整列し、辻を守るように立ち塞がる。

「戯言はもうたくさんだ!今すぐ皆を元に戻せ!」

「ハァ?貴女、今までの説明を聞いていましたか?彼女たちの魂は私の魂と混ざり合っていると言ったでしょう……一度作ったカフェラテを、エスプレッソとミルクの状態に戻せると思いますか?」

辻は、まほの要求を鼻で笑って突っぱねた。
人間はここまで相手を見下せるのかと、本当に腹立たしい表情を浮かべている。

「貴女も身を持って体験した通り、関係者全員が私と同化すれば、先程のような身に覚えのない犯罪行為すら相手になすりつけることが可能となるのですよ……さらに被害者である貴女たちの意識をも乗っ取れば、冤罪であろうとも大人しく受け入れてくれると言う寸法です」

「下劣な!もしもそんなことをすれば、わたしは黙って死を選ぶ!」

「ほう、私の魂に犯されれば自殺をするとでも?」

「当然だ!母も正気ならば、必ず同じことを言うはず!」

「ふ〜ん……だとしたら大変ですねぇ……自覚がないと言うの実に恐ろしい」

「どう言う意味だ!?」


「分かりませんか?貴女たち姉妹――すでに、私の魂に汚染されているんですよ」


周囲の音が、急速に遠ざかる。
気付けば背中に鳥肌が立っていた。

「何を……言っている……?」

まほは掠れるような声で、なんとかそれだけを言う。
たった一言で動揺してしまった心を、必死に落ち着かせようとしながら。

「ですから、すでにお2人の肉体には私の魂が入り込んでいるんですよ」

「ハ、ハッタリだ……!」

「うん、そうだよ……!だって、私たちずっと正気だし……」

みほもまほに追従して、辻の言葉を否定する。
肉体を乗っ取られた母たちの奇行を散々見せつけられてきたのだから、自分たちが同じ状態になっているなどと言われても、嫌悪感しかないだろう。
到底、そんな話を鵜呑みにはできなかった。

「正気、ねえ?ふっふっふ……でしたら姉妹そろって、随分とお行儀が悪いんですねえ……私の目の前で『そんな恰好』をするなんて!」

「――!?」

辻が視線を下げながら、スケベそうに頬を緩めた。
突然、『視点』が低いことへの違和感に気付く。
2人とも立ち上がって彼と向かい合っていたはずなのに、いつの間にかソファーに座り直していたのだ。

しかもまほもみほも、両脚を大きく開いていた。
これではスカートの中が、辻からは丸見えだ。

「きゃあっ!?」

「なっ!?」

慌てて脚を閉じ、スカートの前を手で押さえる。
何が起きたのか――まったく理解できなかった。
まるで急に時間が『飛んだ』ようだ。

訳が分からず、みほと顔を見合わせる。
その途端、妹の顔が真っ青になった。

「お、お姉ちゃん……そ、それ……!」

「!」

震えながら頭上を指差す妹に対し、まほも彼女を見返して息を呑む。
みほの頭に――白旗が生えていたのだ!

反射的に頭に手を伸ばす。
指が金属に触れる感触。
辿っていくと、明らかに棒状の何かが頭上にある。
そこに白旗が立っているのは、間違いなかった。

「な、何故……?」

夢ではない。
触っているのは確かに旗のポールだ。
自分たちの身体にも辻の魂が宿っている、何よりの証左だった。

「ふふふ、『たましいふきこみ砲』から発射された魂は、当然実弾ではありません……当たったところで傷つきもしない。被弾したことすら気付かなかったでしょう?」

「馬鹿な!一体、いつの間に……!?」

「まあまあ、慌てずに。今から教えて差し上げますよ……秋山君、準備を」

「ハッ、了解で〜す♪」

辻に呼ばれ、優花里は嬉しそうにビデオカメラを持ったまま、執務室の奥に移動した。
壁にプロジェクターが張られている。
優花里はカメラとPCを繋げて、録画していた映像をスクリーンに映し出した。

「実はわたし、この庁舎に入ってきたところからずっと、西住殿たちを盗撮していたんですよ〜」

とんでもない告白をサラッと口にして、満面の笑みを浮かべる。
それに驚く間もなく、プロジェクターに映る玄関ホールにみほとまほが入ってきた。
丁度、玄関側の壁の端から隠し撮りしているようなカメラアングルだ。

受付へと向かうみほたち捉えていた画面が突然激しくブレて、前方で何かが光った。
その直後に、歩いていたみほの身体が倒れ込む。

「い、今のは……!?」

流れる映像には覚えがある。
急に妹が転びそうになったので、自分が支えてやった時のものだ。

「スローでもう一度確認してみますね」

優花里はカメラを操作して、みほが玄関を通り抜けようとするところまで動画を戻した。
先程の謎の発光の瞬間から、スロー再生する。

光の正体は、カメラ下方からみほへ向けて伸びる砲塔から発射された『光の弾』だった。
スローだと、青白い人魂のような形がよく確認できる。
光弾は真っ直ぐにみほ目掛けて突き進み、彼女の背中に着弾した。
攻撃を受けた痛みもないため、衝撃でよろめいたことをバランスを崩して転んだと勘違いしたのだ。

「そ、そんな……!」

「えへへ……そうなんです。実は西住殿の体に入っているのは、わたしの魂なんですよね〜!」

にやにやと優花里が、制服のスカートを摘み上げる。
彼女も股間に、『量産型たましいふきこみ砲』を装着していた。
鈍いジャーマングレー色の装甲に、あんこうのイラストが描かれている。
しかも杏の装置とは違い、砲身の先端がハムのように太い筒状の物で覆われていた。

「局長閣下からは「撃たれたことにも気付かれるな」との指示を受けていましたからね。わたしのモデルは、ガスや発射音を抑えたサイレンサー機能付きなんですよ〜」

股間の砲塔を手で摩り、ウットリとした表情を浮かべる優花里。
まるで誇らしげに巨根をアピールする肉食系男子のようで、酷く不気味な姿だった。

「では……わたしもあの時に!?」

「おっと、まほさんは違いますよ。貴女には直々に、私が魂を分け与えています」

まほの注意をこちらに誘導するべく、辻は股間の砲塔を突き出した。
優花里はスカートを戻し、直ぐに動画の再生を続ける。

「発射するのが魂ならば、壁や床などの物理的な障害は意味をなさず、空気抵抗によって弾道が変わることもなく、遠く離れた場所からでも目標に命中させることが可能なのですよ。例えば、この執務室から地上階を歩く相手を狙うことだって、ね」

辻の説明を裏付けるように、映像は丁度バランスを崩したみほを引っ張り上げようとまほが力を込める瞬間を映していた。
斜め上から光弾と思わしき青白い光の軌跡が閃き、自分の頭にヒットしたのが確認できる。
建物を俯瞰して見れば、射線が執務室から一直線に走っているのは間違いなさそうだった。

「ふふふ、魂を宿した者が観測手を務めれば、阿吽の呼吸で標的の位置を砲撃手に伝え、百発百中の砲撃をお見舞いできると言うワケですよ……!」

優花里が、辻そっくりの口調で語る。
魂を共有した者同士はテレパシーのように離れていても意思の伝達が可能なため、まほまでの飛距離を彼女が伝えていたのだ。

「でも……!全然意識を支配されている自覚なんてないのに……」

「ああ、それは『これ』の影響です」

愕然とするみほに向けて、辻が手の平サイズの小さな機械を取り出した。
中央部に大きなロータリースイッチが嵌め込まれたリモコンだ。

「これは、魂の『支配力』を操作するコントローラです。ツマミを操作することで、乗っ取った相手の意識への影響を自由に調整できるのですよ」

コントローラのツマミは「10」と記された数値の位置を示している。
辻が持つリモコンは2つあり、彼の似顔絵とあんこうのイラストのシールがそれぞれに貼ってあった。
まほ用とみほ用のコントローラと言うことなのだろう。

「数値が低ければ相手の本来の意識が表面化し、肉体に潜んだ私の存在にも気付きませんが……数値を上げれば上げるほどに次第に魂が混ざり合い、互いの意識が一体化していくのですよ」

「ちなみに、この白旗も支配力を示しているんだよ〜?旗そのものが、局長の魂の変化したものだからね」

辻は2つのコントローラを持ち上げ、西住姉妹に掲げて見せた。
杏は自分の頭から生えた白旗を指差し、誇らしげに話に加わる。

確かにみほたちの物と見比べると、ポールの高さが違う。
杏たちの白旗は高々とポールが伸びて布地をはためかせているのに対して、自分たちはポールの先端が頭から飛び出し、白旗がダラリと垂れさがっている状態だ。
支配力の数値と旗の長さは比例すると言うことなのか。

「だからこのツマミを捻るだけで、すぐにお2人もそこの会長と同じ状態になるのですよ」

「や、止めろっ!」

「嫌ぁ!」

ツマミに指が触れただけで、まほたちは青冷めた顔で悲鳴を上げた。
それをされたらどうなるのか、目の前に杏たちと言う結果を示されている以上、効果は抜群だ。

「ふふははは!それですよ、それ!私が見たかったのは、貴女方のその恐怖に染まった表情です!」

辻は興奮を抑えられない様子で、怯える姉妹の姿を嘲笑った。
バンバンと掌でデスクを叩き、同調するように蝶野たちもゲラゲラと爆笑する。
まほたちにとっては針のむしろのような状況である。

「はあ〜、実に気分がいい……さて、関係者全員の『同化』もすんだことですし……ここは祝いも兼ねて、西住家の皆さんに『あんこう踊り』でも披露してもらいましょうかねぇ?」

「よっ、待ってました!」

――これで、辻が想定していた関係者のほとんどが彼の支配下に入った。
長らく推し進めてきた『大洗女子学園廃校計画』は、もはや成功したも同然だ。
悲願成就を確信した辻が余興の演目を提案すると、彼のデスクにピョンと腰を下ろした杏が絶妙の間で合いの手を入れた。

「……まずはお手本として、みほさんからどうぞ」

「嫌です!こんなもの、外してっ!」

みほは旗を手でつかみ、無理やり引き抜こうとする。
しかし当然、そんなことで辻の魂を排除できるはずがない。

「おやおや、諦めが悪いですねえ……大人しく私の魂に身を委ねればいいと言うのに」

「絶対に嫌っ!私たちを元に戻してください!」

「フン……この期に及んで、支配者の意に逆らえるとでも思っているのですか?」

辻は問いかけながら、平然とみほのコントローラのツマミを「30」に捻った。
みほの頭上の白旗のポールが、スルスルと自動的に伸びていく。

「嫌と言ったら嫌で――アアアンアン、アアアンアン、アアアン、アアアン、アン、アン、アン♪」

すると、あれだけ涙を浮かべていたみほの表情が一瞬で満面の笑みに変わり、全力であんこう踊りを踊り始めたのだ。

「み、みほ!?」

突然人が変わった妹を見て、呆気に取られるまほ。
今まで怯えていたのが嘘のようなはしゃぎ様だ。

「あ〜の子会いたやあの海越えてっ、あたまの灯はあ〜いの証っ♪」

「そうそう、その調子ですよ……では、続きまして西住先生、お願いします!」

辻はインストラクターにでもなったようにリズムに乗って手を叩き、そのまま目の前に立つしほを指差した。

「燃やして焦がしてゆ〜らゆらぁ♪」

「燃やして焦がしてゆ〜らゆらぁ♪」

マネキンのごとく硬直していたしほが、みほの踊りに合わせて動き出す。
娘に負けじと高らかに唄いながら、両脚を交互に持ち上げ、体を小刻みに激しく揺すっている。

とても初めてとは思えない――全国大会の試合中にこの踊りを披露したみほを、冷めた目で見ていた当人とは思えない――ノリノリの踊りっぷりである。
辻の魂によって杏たちとも意識が同調している為、動きの切れ味も名人級だった。

「お、お母様……みほ……!」

踊り狂う家族の姿を見せつけられ、まほは足元の地面が消失したような絶望感に襲われる。
ついに、みほまでもが常軌を逸した行動を取るようになった。
正気を残した人間が、自分一人だけになってしまったのだ。

圧倒的な孤独感。
膨れ上がる寂寞せきばくの想いに、胸が張り裂けそうになる。
しかし――彼女の悪夢は、これで終わりではなかった。

「くっくっく、やはり先生のような威厳のあるお方にやってもらうと、滑稽さも際立ちますねぇ……さあ、お待たせしました。いよいよ真打のまほさんにご登場してもらいましょう!」

自分の思うがままに操られる人形たちを愉快そうに眺めていた辻が、まほの方を振り向く。
眼鏡に隠れた欲情した視線を敏感に察し、背中に出来た鳥肌が全身に広がっていく。

「や、止めろ……わたしは絶対にやらないぞ……!」

「観念しなさい。もう逃げられませんよ……ほ〜れ」

「き、貴様ぁっ!」

立ち塞がるものすべてを前進することで圧倒してきたまほが、初めて後退りする。
辻はワザとコントローラを彼女に見せびらかせたまま、グイッとツマミを上に捻った。
途端にまほの頭の白旗が伸び、恐怖に染まっていた表情が取り澄ましたものに豹変する。

「こっち来てアンアン♪」

「逃げないでアンアン♪」

「――波〜に揺られてアンアンアン♪」

みほとしほの踊りに合わせてまほがテーブルに飛び乗り、クネクネとお尻を振った。
まさに親子3人による、見事なまでのあんこう踊りである。

「いいぞ、いいぞぉ!」

「やんや、やんや!」

杏は酔客のように乱暴な声援を送っている。
優花里は涎を垂らしそうなくらい興奮しながら、ビデオカメラで西住親子の醜態を撮り続けていた。

「はっはっはっ、傑作だ!実に傑作だ!いや〜、何度やっても自由に支配力を操作するのは楽しいものですねえ!」

辻は期待通りの芸の完成度に満足したのか、みほたち姉妹のコントローラのツマミを「10」に戻した。
たちまち少女たちは正気に返り、慌てて居住まいを正す。

「!わ、私……一体、何を……?」

「く……っ!よ、よくも、こんな辱めを……!」

羞恥心と怒りを露わにする娘たち。
母であるしほだけは踊りを止めると、「お粗末さまでした」とばかりに一礼して後ろに退った。

「ふふふっ、心配せずともまだ宴は始まったばかりです。これからもっとも〜っと恥ずかしい目に遭ってもらいますよ……!」

辻は卑しさを剥き出しにして、口元をだらしなく歪ませる。
次に獲物たちに何をさせようかと、下劣な算段を立てているのだろう。

「……!」

まほは明らかな殺気を漲らせ、拳を握りしめた。
視線だけで辻を呪い殺しそうなほどの勢いだ。

「……た、頼む。わたしはどうなってもいい。みほだけは、みほだけは助けてやってくれ……!」

しかし――いくら喚いたところで相手が動じないのはすでに明白だ。
まほは観念し、妹への助命を嘆願した。

「お、お姉ちゃん……」

姉の自己犠牲的な愛情に、みほは感極まって涙を流す。
その想いに報いようと、表情を引き締めて彼女に駆け寄った。

「ううん、私より、お姉ちゃんを解放してください!」

「駄目だ!犠牲になるのは私だけでいい……お前は逃げるんだ!」

みほは辻の視線から守るようにまほの前に立ち、壁となって叫ぶ。
しかし姉は体を押し退けて、逆に妹を遠ざけようと必死に声を荒げた。

「そんなの嫌だよ、お姉ちゃん……!やっとまたこうして一緒になれたのに!」

「私たちが2人ともやられたら、誰がお母さまたちを助ける!?お前は、残された希望なんだ!」

「でも……!でも……!ぐすっ」

「頼む、分かってくれ……!」

みほは姉の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
そんな妹の体を抱き締めたまま、まほは苦渋の呻きを漏らすことしか出来ないでいた。

「はいはい、実に美しい姉妹愛ですねぇ……しかしそんな純粋な気持ちも、私の思惑一つでどうにでも濁らせることができるのですよ?」

抱き合う2人の姿を冷めた目で眺めていた辻が、またしても手に持つコントローラのツマミを弄った。
みほの肩がビクン、と感電したように震える。
まほの背中に回っていた手が下がり、彼女の制服のスカートに伸びていく。

「……っ!?み、みほ……?」

ぞわぞわと湧き上がる悪寒。
みほの両手が、痴漢のようにイヤらしい動きでお尻を触っている。
まほは身を捩りながら、妹の様子を見下ろした。

「えへへへへ……お姉ちゃんって、結構エロい体していたんだね……♪」

はたして――顔を上げたみほは、あれだけ泣き腫らしていたのが演技だったのかと思えるような、鼻の下を伸ばしたみっともない表情でニヤけていたのだ。
それはもはや、蝶野や杏たちと瓜二つの表情だった。

「や、止めるんだ、みほ……!」

「えぇ〜?お姉ちゃんだって私のカラダ触りまくってるくせにぃ……あ、あんっ♪」

弱々く抵抗するまほだが、みほは意地悪く目を細めて自分の下半身に流し目を送った。
彼女の言葉通り――姉の態度とは裏腹に、姉の手は妹の肉体をこれでもかと弄っていたのだ。
両手がスカートの上からお尻を撫で回している。
その度に、みほは気持ちよさそうに体をくねらせていた。

「止めろ……!止めさせろ!」

まほは妹から手を引き剥がそうと体を左右に振りながら、辻を睨みつけて叫んだ。
どうやら意識を保ったまま、肉体のコントロールだけを奪われているらしい。

「フム……?みほさんと比べると、まほさんはまだ魂の汚染度が少ないようですねぇ……」

辻は首を傾げながら、自分の似顔絵のシールが貼られたコントローラを、カチカチと左右に回してみた。
みほ用の物はすでに「60」の位置で固定されている。
しかしまほのコントローラは、ツマミをいくら捻っても「30」から先には回らなかったのだ。

「やはり総量が減った状態の魂では、支配力の効果が中々発揮されないと言うワケですか」

辻はボソボソとつぶやき、一人で納得している。
どうやら、みほとまほの意識の乗っ取られ方に差が出ているのは、ワザとではないらしい。

――ここであらためて、2人の体に入った辻の魂について比較してみよう。
みほに入っているのは優花里の魂。
杏の魂に乗っ取られた優花里の魂を、半分に分け合ったものだ。

対するまほは、辻自身が魂を与えている。
しかし彼はその前に蝶野にも魂を与えている為、半分になった魂をさらに分離させている――つまり、まほに入っているのは元の魂の『1/4』の残量なのだ。
それ故に魂を汚染する速度も遅く、いまだに意識への影響が弱いため、肉体の操縦権を奪われるだけで済んでいるのだろう。

「わたしも師範を乗っ取った時は、随分と抵抗されましたからね……ふふっ、今となっては可愛いお人形さんですけど♪」

蝶野がしほの背中に密着し、背後から彼女の口に指を突っ込んで、グイッと横に引っ張った。
子供じみたい悪戯をされているのに、当人は無表情のまま怒りもせず、蛙のように頬を伸ばした変顔を晒している。

蝶野も先に杏に魂を発射している為、しほに分け与えたのは本来の魂の1/4のものだったのだ。
それがこうして教え子の言いなりとなっているのだから、一体どれほどの調教を受けてきたのか。

「まあ……それならゆっくりと、『私』に変質していく獲物の様子を眺めるのも一興です」

辻は薄ら笑いを浮かべたまま、組んだ手の上に顎を乗せて、まほの全身を舐るように視姦した。

「まほさんの言う「鋼の心」とやらがどこまで通用するのか……ここはあえて意識を操作せずに、しばらく観察させてもらいましょう」

「んふふ、わたしくらい魂が混ざり合ってしまったら、支配力の調整なんて関係ないですけどねぇ……んあっ、はぁん」

蝶野は誇らしげに胸を張り、頭の白旗を指で摩りながら色っぽく喘ぎ声を上げた。
彼女が辻の最初の犠牲者であるため、今や機器の力を借りる必要もなく、2人の意識は完全に同化していたのだ。

「げ、外道め……!すぐにみほを正気に戻せ!」

肉体への操作が中断され、まほはすぐに妹の身体から離れた。
みほに体を弄られ、みほの体を弄ったことへの気恥ずかしさを、怒りに変えて辻にぶつける。

「やれやれ。人の心配より、自分の心配をしたらどうですか?」

「黙れ!もしも、みほに何かしてみろ。その時は只では……!」

「フム、そんなにも妹さんが大事なのでしたら……貴女を堕とすのは、晴れて文科省の一員となったみほさん自身にお願いしましょうか」

辻が、またしても非道な試みを思いつく。
彼が頭の中で念じるだけで、みほはすぐに行動に映った。

「は〜い☆西住みほ、只今より辻局長の奴隷人形になりま〜す!」

そのまま辻のデスクの前に立ち、明るい口調で敬礼しながら、彼への忠誠を誓う。
もはや普段の人見知りで引っ込み思案な性格は、微塵も残っていないようだ。

「おめでとう、西住ちゃん!」

すぐさま杏が、飛び掛かる勢いでみほに抱き付いてきた。
大きく開いた両脚で体を挟み込み、じゃれつく子犬のように頬を擦りよせる。

「あん、会長ったらぁ♪」

「むふふ、西住ちゃんの身体はぷにぷにしていて、触り心地がいいね〜」

体を密着させて、互いの肌の弾力を楽しむ。
だらしなく相好を崩したみっともない表情は、鏡合わせのようだった。

「ヒヤッホゥゥゥウ!西住殿の太ももは最高だぜぇぇぇぇぇ!!」

それまでビデオカメラで撮影を続けていた優花里が、乳繰り合う2人の姿に耐えられず、機材を放り出してみほの下半身にむしゃぶりついた。
ミニスカートから伸びる太ももに頬擦りして、鼻息を荒くしている様はまさしく変態にしか見えない。

「もう、優花里さんまでぇ……駄目じゃない、貴女はわたしたちの恥ずかしい本性を撮影しなくちゃいけないんだから〜」

みほは困ったように微笑んだまま、片脚を持ち上げて優花里の顔を踏みつけた。
とても友達思いの彼女とは思えない行動だ。

「はうう!西住殿のお仕置きを受けられるなんて……もっと強めにお願いしますぅ!」

グイグイと踏まれる度に、恍惚の顔で咽び喜ぶ優花里。
あまつさえ、みほの靴底をぺろぺろと舌で舐め回している。
彼女たちのチームメイトがこの場にいたとしたら、どれほどのショックを受けるのか分からない異様な光景だ。

「素晴らしいわ、みほ。それでこそ西住流よ」

「お母さん……今なら分かるよ、お母さんの考えていることの、何もかもが」

「ええ。いらっしゃい、わたしの可愛い娘……」

「あぁ……!んっ、お母さん……ちゅっ、お母さぁん……!」

「ふふっ、そんなにがっつかないの……ちゅばっ、ちゅるっ、じゅるるっ」

しほは慈愛のこもった眼差しで、娘を抱き寄せる。
みほは母の抱擁に腰砕けになり、すぐに唇を重ね合わせた。
母と子の舌と舌が絡み合う。
まるで、恋人同士のような激しさで。
あり得ない親子の和解の瞬間であった。

「ぁ……あ……ああ……!」

目の前で繰り広げられる、圧倒的で絶望的な家族の狂騒。
まほの心に、じわじわと亀裂が走っていく。
彼女を支える強さが崩壊寸前なのは、誰の目にも明らかだった。

「さあ、最後の仕上げです。皆さん……一致団結して、まほさんに引導を渡してください!」

そんなまほに向けて、辻が容赦のない追い打ちをかける。
たちまち彼の分身となった女たちが狼の目つきに変わり、四方から獲物を捉えた。

「みほ、作戦は任せます。貴女が指揮を執って、まほを徹底的に犯しなさい」

「分かりました、お母さん。皆さんもよろしくお願いします!」

「ええ、お安い御用だわ、西住隊長!」

「アタシら全員、好きに使っちゃっていいよ〜」

「撮影の方はお任せください〜!」

アイコンタクトで、すべてを理解し合う女たち。
ビデオカメラで再び撮影を始めた優花里を残し、4人はゾンビのようにゆっくりと標的に近付いていく。

「く、来るな……!来ないでくれ……!」

まほは弱々しく叫び、迫る屍者たちから逃れようと後退する。
しかし背後は壁、前方は蝶野たちに囲まれて逃げ道はない。
退がった足がテーブルに当たって、バランスを崩しそうになる。

「お母さんは両腕の拘束を、蝶野教官と会長は両脚をお願いします!」

「「「了解!」」」

きびきびと指示を飛ばすみほ。
蝶野たちは命令に従い、一糸乱れぬ動きで散らばった。

「それでは「エロエロ作戦」――開始してください!」

みほの号令に、女たちは一斉にまほに襲い掛かる。
魂がつながっている者同士、言葉を交わさなくとも意思の疎通は一流の兵士顔負けの連携を見せた。
まほの身体をテーブルに押し倒し、四肢をつかんでガッチリと固定する。

「は、離せっ!」

「無駄な抵抗よ、まほ」

「んふふ……まほさんみたいな強い女の子を屈服させるのって、とっても興奮するわぁ」

「いや〜、全国大会であれだけ苦戦させられた相手校の隊長を、こうも好きにできるなんて痛快だよ〜」

激しく抵抗するまほだったが、テーブルの上に仰向けのまま磔にされてしまった。
みほが艶めかしい所作で彼女の前に移動し、寝そべる姉の全身をネットリと見下ろす。

「お姉ちゃん……覚悟はいいかな?」

「みほ……止めろ……止めるんだ……!」

「うふふふふ……パンツァー・フォー!」

みほはテーブルによじ登って四つん這いになると、慄くまほに向かって試合でお馴染みの号令をかけた。
W号戦車のように登攀力で、彼女の身体の上に覆いかぶさる。

「た、頼む、みほ……正気を取り戻してくれ……!」

「わたしは正気だよ〜。局長のおかげで、本当の自分に気付けたの……お姉ちゃんもさっさと楽になろう?」

まほは悲痛な想いで、みほの心に真摯に訴えかける。
しかし、妹の返答は無情だった。
姉の頭を両手でつかみ、何の躊躇もなくキスをする。

「!?」

未知の衝撃に、全身を強張らせるまほ。
その隙に、口の中に一気に舌をねじ込まれる。

「ん……ちゅっ、じゅるっ、ぴちゃっ、あむっ」

魂を通して、蝶野が使う大人の女性の技によって激しく繰り出されるディープキス。
あまりの気持ちよさに、まほは一瞬で意識を失いかけた。

「ふぁ……!あ、ぁ……っ!」

「どう、美味しい?さっきしたばかりだから、お母さんの唾液もたっぷり入ってるんだよ〜」

一度キスを止めて身を起こしたみほは、妖しく目を細めながら口元を窄めた。
ツーッと可愛らしい唇から唾が糸となって垂れ落ち、まほの顔を濡らしていく。

「ぷはぁ、今のお姉ちゃんの顔、とってもそそるよ……わたしとこんなことができて、嬉しいでしょう?」

「ば、馬鹿を言うな……!みほ、お前だって本心では絶対にこんな真似はしたくないはずだ……あの男の声ではなく、お前自身の声に耳を傾けるんだ!」

「もう、ノリが悪いなぁ……これが局長の望む『姉妹愛』の形なんだから、私たちは黙ってそれに従って演じていればいいんだよぉ」

妹からの辱めを受けても、姉は必死に説得を続けている。
みほはその真面目くさった態度に眉を顰め、指の腹を使って垂れ落ちた唾液を口の周りに塗りたくってやった。

「ぐ、くう、ぅ……っ!」

「やっぱりお姉ちゃんには、体で分からせるしかないみたいだね……えいっ!」

再び屈み込み、自分が押し広げた唾液を舌で舐め取ってやる。
餌を啄む鳥のように、姉の顔を妹の唇と舌が蹂躙する。

「んちゅっ、ちゅるっ、ちゅぅぅぅ……!」

「あぁっ!くっ、は、あ……んん!」

まほの顔のあちこちに、蚊に食われたようなキスマークが生まれていく。
みほは四つん這いのまま徐々に体を後退させ、首筋を舐め、鎖骨に唇を押し付け、胸元に顔を埋めた。

「くふふ……大洗女子学園の制服は散々味わいましたが――黒森峰女学園の制服も中々征服欲をそそりますねぇ……!ス〜、ハァァ〜」

辻の口調でつぶやき、黒いブラウスの生地の肌触りと匂いを嗅ぎまくる。
プリーツスカートの襞に舌を這わせ、太ももの位置まで来たところで目の色が変わった。

「お、お姉ちゃんの太もも……!」

きめ細やかな肌をまじまじと凝視する。
指で肉の弾力を確かめ、そのまま肌を伝って黒い靴下に辿り着いたところで、力強く足首をつかむ。

「はあ、はあ、はあ、お姉ちゃんの足……お姉ちゃんの足ぃ……!んんん、いい匂い……♪」

まほの片脚を持ち上げたみほは、足裏に鼻を押し付けて思いっきり深呼吸をした。
肺が姉の足の匂いで満たされていく度に、体の内を暴力的な熱が駆け巡る。

「ふふっ、汗を掻いてる……この味は『怯えている』味だね……?んむっ、ちゅっ、ちゅぱぁっ」

みほはつま先を口に含み、美味しそうにしゃぶりだした。
舌先を靴下ごと足の指に巻き付け、口全体を使って吸い尽くす。

「ひ……っ!や……あっ!」

まほはくすぐったそうに身体を痙攣させ、歯を食いしばって耐えようとする。
しかしその姿は、妹を興奮させる材料でしかなかった。

「えへ、えへへへへ」

スケベ心に支配されたみほは足への愛撫を終え、這いつくばったまま姉の股間に潜り込んだ。
スカートを捲り上げ、下着越しに秘所の状態を確認する。
外から見ても分かるくらい、割れ目は湿っていた。

「な〜んだ……口ではなんだかんだ言って、ちゃんと気持ちよくなってるんだね」

「そ、そんなこと……!」

みほの言葉攻めに、まほはさらに顔を赤らめる。
四方を囲む女たちの目を通して、辻の魂は動揺する彼女の様子をじっくりと楽しんだ。

「クン、クン、あはぁぁ〜〜!こんなにも雌の香り漂わせちゃってぇ……」

犬のように鼻をひくつかせ、悦に入るみほ。
鼻孔を姉の体臭が刺激する度に、ビクビクと彼女の股間も反応していた。

「あふ……っ、私のアソコもすごいことになってるみたい……まったく、呆れた淫乱姉妹だよね〜?」

みほは自分の秘所を指で擦り、引き抜いてから指先を確かめた。
イヤらしい液がネットリとこびり付いているのが分かる。
それを舌で掬って舐め取り、口の端を吊り上げて淫靡に微笑む。

「さあ、妹の『口撃』にどこまで耐えられるのか、見せてもらいましょうか……?むはぁぁぁ」

辻と化したみほが下着に顔を突っ込み、湿った部分の中心を舌で突いた。
捲り上げたスカートが彼女の動きで元に戻り、股間に入り込んだ頭を覆い隠す。
密閉された空間で、籠った臭いと空気が凶暴な行動に益々拍車をかけさせる。

「んっ、んふっ、れろっ、じゅるるっ」

「あっ!ああっ!?はああぁっ!」

怖気を伴う狂おしい刺激に、まほは全身を激しくのた打ち回らせた。
抵抗しようとするが、四肢を押さえつけられている為それもできない。
しかも手足に組みつく女たちまでもが、彼女への凌辱を開始したのだ。

「くふふふふ、まほ……あぁ、まほぉ……!」

しほは耳元に口を近づけて娘の名を囁きながら、時折息を吹きかけ、耳の穴の縁を舌でなぞった。
幼い頃、眠るまで子守唄を歌いながら優しく胸を摩ってくれた時のように――しかし今は、ブラウスの上から乳房を荒々しく揉みしだきながら。

「じゅるっ、ちゅっ、ふぁぁ……すべすべの肌触りがたまらないわぁぁ……!」

「ぁむ、ふぁっ、はぁん、さっすが強豪校の隊長だねぇ、よく鍛えられているよ〜♪」

蝶野と杏は左右から太ももに食らいつき、白い肌を唾液塗れにする。
複数の相手から、しかしまったく同じ舌技で攻められ続け、まほの意識が休まる瞬間は刹那ほどもなかった。
全身が蕩けそうなほどの快感に、精神が極限まで摩耗していく。

「んじゅるっ、じゅぱぁっ、んふっ、ぴちゃっ、ずちゅる……っ!」

股間を攻撃するみほの舌技は、特に凄まじかった。
腰をガッチリと両手で固定し、頭を激しく振って姉の秘所を貪り食らう。
縦横無尽に割れ目を這い回る舌は蛇のようだ。
高々と腰を持ち上げ、頭の動きに合わせて制服のスカートも左右に揺れている。

「はあ、はあ、はあ、西住殿……!これはエロい、エロすぎですよぉ……!」

揺れ動くお尻と、スカートから覗く白いショーツに画角を固定し、優花里は絞り出すような声であられもないみほの姿に賛辞を贈る。
眼は血走り、興奮しすぎて鼻血すら垂らしている。
しかも片手でビデオカメラを持って撮影を続けたまま、もう片方の手を自分のスカートの中に――いつの間にか『量産型たましいふきこみ砲』を脱いで自由になった股間に――忍ばせて、ちゃっかり自慰に耽っていたのだ。

「ひぃ、やぁ……!やめ、止めて……止めて、みほ……これ以上、これ以上はもう……っ!か、あ、ぁ……!」

女たちに全身を舐め回され続け、体を引くつかせるまほは、もはや正気と狂気のギリギリの境界線にいるようだ。
鋭かった眼に涙を浮かべ、瞳に宿った光彩もほとんど消えかかっている。

肌の上を舌が這う度にそれが心の中にまで入り込み、頭の中にまで潜り込み、脳を直接舐められているような幻覚に翻弄される。
彼女の意識下に、軽薄に笑う辻の顔が浮かび上がっていた。
局長の顔が鮮明になれば鮮明になるほど、精神を侵食されていくようだ。
必死に自我を保とうとするが――圧倒的な支配力には、抵抗する術がなかった。

「あ、あっ!あっ!あああぁぁぁっ!!」

ついに耐えられなくなり、まほは弓なりに体をのけ反らせて絶叫した。
ビクビクッと、腰が小刻みに痙攣する。
下着の中に愛液が迸り、濃い染みがじんわりと広がっていった。

「くふ……っ、この程度で根を上げるなんて、お姉ちゃんって結構初心うぶなんだねぇ……?」

匂い立つ股間から顔を離し、みほは身を起こす。
気怠そうに首を傾げながら舌なめずりをして、姉の味を口の中でくちゅくちゅと反芻する。

「んん?な〜んだ……私の体も今のでイッちゃったみたい」

みほは妖しく笑い、少し腰を浮かせてスカートの中に手を突っ込み、ショーツを一気に擦り下ろした。
白い下着がグッショリと濡れそぼち、手に持つだけで重みを感じる。

「ほらぁ、お姉ちゃんのせいで私のパンツ、こんなになっちゃったんだよ〜?」

ショーツを両手で引き伸ばして、寝そべるまほの頭上に掲げてみせる。
真ん中に大きく『ボコられグマ』の顔がプリントされていて、生地の表面から染み出る愛液が滴ってきた。

「ねぇ〜、欲しい?私のパンツ……欲・し・い〜?」

みほは意地悪い表情でショーツの履き口に指を通してクルクルと回しながら、姉の頬にそれを乱暴に叩き付けた。
ぴちゃっと音を立てて汁が飛び散り、彼女の顔を濡らす。

「ほ〜ら、ほら、ほら、ほらぁ」

嬉しそうに腕を左右に振って、自分の下着でまほの両の頬を打ち続ける。
大きく見開かれた瞳は、明らかにサディスティックな興奮の色を灯していた。

「う、く……ぐう、う……っ!」

何度となく頬を叩かれてもまほは目を瞑り、歯を食いしばって耐え続ける。
しかし下着にこびりついた愛液が鼻先に漂ってくる度に、ビクッと熱いものが下腹部から込み上げてくるのだ。

「ぐ……ぁ……は、ぁぁ……!」

「ん〜、いつまで我慢しているのぉ?無理してないで、自分の欲望を解放しちゃおうよぅ」

「あ……あぁ……!はあ、はああ……!」

「手に取っていいのよ〜?匂いを嗅いでいいのよ〜?うふ、うふふふふ!」

悪魔のように囁くみほの声に、まほはうっすらと目を見開く。
頭上でユラユラと揺れる妹の下着。
それを見た途端、彼女の中で何かが『プツリ』と音を立てて切れた。

「パ……パ……パンツ……パンツ……パンツゥ!」

絞り出すような声で、視界に映る物の名を叫ぶ。
全身に、それまでとは異なる『力』が漲った。
頭頂部に生えた白旗が、一瞬でギンギンに勃起する。
示し合わせたようにしほたちが凌辱を止め、手足の拘束を解いた。

「パンツァ――フオオオオオオッ!!」

雄叫び。
自由となったまほは獣の如き俊敏さで跳び上がり、みほの手からショーツをむしり取ると、一気に覆面のように顔に被ったのだ。

脱衣クロスアウッ

さらに人間離れした素早さで制服を脱ぎ捨て、テーブルの上に立つ。
顔を妹のショーツで覆い、下着姿でモデルのようにポーズを決めるその立ち振る舞いは――
失神寸前だった先程からは考えられない堂々とした、服と共に『何か』を脱ぎ捨てた狂気を発散していた。

「はぁぁ〜、みほのパンツ……みほのパンツゥ……!」

まほは顔に被ったショーツを愛おしそうに両手で撫で摩り、生地に染みついた匂いを思いっきり吸い込んだ。
母たちの奇行に勝るとも劣らない、正真正銘の変態的行動である。

「ハッハッハ。意外とあっけなかったですねぇ?苦痛をものともしない鋼の心とやらも、底なしの快楽の前には形無しと言うことですか」

デスクに座って一部始終を楽しんでいた辻は、起き上がったまほを観て満足そうに頷くと、放置したままだった彼女の支配力コントローラを確認した。
いつの間にかツマミが、「100」の位置に独りでに切り替わっている。
まほの意識を守っていた理性と言う名の防壁が絶頂を覚えたことで消滅し、奥に潜んでいた辻の意識が強引に浮上したのだ。

ついに――この場にいる女たちすべてが、辻の魂に征服された瞬間だった。

「ス〜ハ〜ッ、レロッ、レロレロッ」

ショーツを被ったまま深呼吸を繰り返し、下着の生地を内側から舐め回すまほ。
まるで彼女自身の中にあった、みほに対する歪んだ愛情が表出したような振る舞いだが――
散々抵抗されてきた意趣返しに、中に宿った辻の魂がわざとやらせているのである。

「ぷはぁ……こうして完全に乗っ取ってみると、この肉体の素晴らしさがよく分かりますよ……ふふふ、やはり私の目に狂いはなかった」

ようやく満足したのか、被っていたショーツをベリベリと剥がし、まほは辻の口調でウットリと息を吐く。
裏地はみほの愛液ですっかり濡れていた為、顔全体が保湿クリームでも塗りたくったように艶々だ。
自分の体を見下ろして満足そうに笑っているが、何故か両目からボロボロと涙が零れている。
流れ出る涙が、彼女の中に残った「まほ」としての最後の理性だったのかもしれない。

「まさに……!今こそぶっちゃけますが、以前から私の『片腕』になってもらうのは、まほさんしかいないと思っていたのです……それ故に、貴女の肉体には直接私の半身を乗り移らせたのですからね!」

「ハハッ!遅ればせながら西住まほ、今より文科省の犬となり、辻局長に忠誠を誓います!何なりとご命令を!」

期待を込めた辻の言葉に、まほは背筋を伸ばして返礼する。
生真面目な表情は普段通りの彼女だが――頭にショーツを被り直し、下着だけを身に付けて堂々と佇む姿はひどく間抜けだった。

「えへへ……ようやく、お姉ちゃんも本当の自分になれたんだね……?」

「すまなかった、みほ。お前ばかりに負担をかけてしまった。これからは2人で協力して、局長にわたしたちの『姉妹愛』をじっくりと見てもらおう」

「うん!」

「さあ、わたしにも早くお前の足の匂いを嗅がせてくれ……!はあ、はあ」

嬉しそうに体を寄せるみほの足を血走った目で凝視し、荒い息を吐き出すまほ。
これまでの抵抗が強かった分、反動で辻の精神の影響が如実に現れているようだ。
みほが後ろ手で体を支えながら片脚を突き出すと、まほは腹を空かせたハイエナのように飛びつき、足裏に鼻を擦り付けた。

「クン、クン、あはぁ……っ!ちゅっ、ちゅばっ、はむっ」

靴下越しに臭気をたっぷりと吸い込み、指を口に含んで丹念に舐め回す。
まほの顔は、自分の足に被りついてきた時の妹とそっくりの、嬉々とした表情を浮かべていた。

「んっ、お姉ちゃん……温かい……」

取り憑かれたように足に執心し続ける姉の様子を、みほは気恥ずかしそうに眺めている。
熱い視線と視線が交じり合う。
どちらからともなく――姉妹は再び顔を近づけ、唇を重ねた。
2人だけの世界を邪魔すまいと、周りを囲んでいた蝶野たちも自然と離れていく。

「あっ、んむっ、んっ、くふっ」

「ふぁ……ちゅるっ、んはあっ、じゅるるっ」

互いの舌を味わう少女たち。
今度はまほの方が激しく攻めている。
頭の上に生えた白旗も、鍔迫り合いのように竿同士がぶつかり、カチャカチャと乾いた金属音を立てていた。
まほは妹の舌を吸いながら、胸元に手を伸ばして乳房を鷲掴みにする。

「ふふふっ、すっかりこんなに成長して……わたしは嬉しいぞ、みほ」

「はぁん、お姉ちゃんの触り方、とってもやらしい……!」

「気付いていたか?一緒に熊本の実家で暮らしていた頃、お前が入浴する度にわたしはこっそりと窓から覗き見をして、お前の裸をオカズにしていたのだ」

「んふっ、そうだったんだぁ……?でも私だって、お姉ちゃんがいない時にこっそり部屋に忍び込んで、下着とか物色していたからね〜♪」

「まったく……わたしたちは揃って、言い訳しようのない変態姉妹だな」

「えへへ、本当だよ〜」

2人はあけすけに罪の告白をしながら、ケラケラと笑い合う。
――そんな事実など、一切ないはずなのに。
辻を喜ばせるために根も葉もない話を彼女たち自身がでっち上げ、『性癖の歪んだ姉妹』を演じているのだ。

「あぁ……まほもみほも、我が娘ながら何て官能的なのかしら……!」

2人の痴態を眺めていたしほが、感極まって身悶えしている。
娘たちの近親相姦を咎めるどころかそれを見て欲情しているのだから、とても母親とは思えない非常識さだ。

「んふ……っ、じゃあこちらは大人同士、子供には真似できないも〜っと背徳的な快楽に溺れましょうか……?」

そんなしほの体に蝶野が背後から絡み付き、首筋に舌を這わせた。
彼女の言葉通り、熟した肉体を持つ者同士が肌を触れ合わせる光景は、少女たちには背伸びしても敵わない妖艶さを漂わせていた。

「あはぁ……っ、いいわ、来てちょうだい、亜美……!」

「うふふ、師範……今日もたっぷりと可愛がってあげますわ……!」

しほは後ろを振り向き、教え子に熱い視線を注ぐ。
蝶野は淫蕩に笑いながら、ゆっくりとスカートたくし上げた。

一方、杏は取り澄ました顔で辻のデスクに近づき、椅子を後ろに引くと、彼の足元にしゃがみ込んだ。
腰に手を伸ばして『たましいふきこみ砲』を、甲斐甲斐しく夫の着替えを手伝う妻のように脱がせていく。
辻はニヤニヤと頬を緩めたまま、体の力を抜いて少女の手際に身を任せる。

装置を外し、剥き出しになった股間は――すでに肉棒が天高く隆起していた。
女たちの卑猥な姿を見物し、彼女たちの快感を一緒に味わっていた為、辻本人の肉体も完全に臨戦状態となっていたのだ。

「ゴク……ッ」

杏は欲情した目つきで猛り狂ったペニスを見つめ、生唾を呑み込んだ。
そのままスカートの中に手を入れ、『量産型たましいふきこみ砲』を取り外す。

周りの女たちが戦闘準備に入る中――
まほは一度テーブルを降り、辻のデスクの引き出しを開けてゴソゴソと中を漁った。
今や局長と意識が同化している為、執務室のどこに何があるのか、自分の部屋のように把握しているのだ。

引き出しの中から、細長い棒状の道具を取り出す。
それは、二門の戦車砲の閉鎖機同士を溶接したような奇妙な代物だった。
左右それぞれに伸びる砲口は丸みを帯び、大人の玩具的ないかがわしい形状を想起させる。

これこそが文科省が誇る秘密兵器のひとつ――
その名も『砲塔バイブ』である。

「フ〜!フ〜!待っていろ、みほ……すぐにこれを、お前の中にぶち込んでやる……!」

まほは鼻息荒く、妹を凝視したままバイブを握りしめた。
両脚をがに股に開き、自分の股間にその先端をゆっくりと押しつける。

「ん!く、ぅ……っ!」

苦しそうに顔を歪めながら、両手に力を入れて砲塔バイブを割れ目に挿入する。
異物を迎える準備ができていないはずの無垢な少女の秘所は、しかし絶頂を覚えたばかりで滑りきっていたため、どうにか侵入を助けてくれた。
何度も繰り返すことで、ようやく砲塔バイブの半分ほどの長さまでもが膣内に入り込む。

「ああ、お姉ちゃん……それ、すっごくエロいよ……!」

まるで男のように股間から棒状の物体を生やした姉の格好を、みほはウットリと見返す。
今からあれで犯される自分を思い浮かべると、彼女の下腹部もじんじんと疼いていた。

2人の興奮に同調し、周囲の女たちも行動を開始する。
蝶野は腰のコンソールを操作して、『先行量産型たましいふきこみ砲』を再起動させた。
それと同時に、しほが急いでベルトを緩め、テーパードパンツを足元まで擦り下ろす。
展開した砲口が、露わになった彼女の股間に向けられた。

辻の人形と化したしほは、当然のように下着を身に付けていない。
両脚を開き、向けられ砲口に秘所を――まほとみほが生まれた場所を――夫以外の人間に躊躇なく――差し出す。

「わたしは蝶のように舞い、蜂のように刺すのよ!」

蝶野は醜悪星人のような台詞を叫び、猛然としほに襲いかかった。
勢いよく、2人でソファーに倒れ込む。
魂を発射する砲としてではなく、短砲塔を肉棒のように直接披裂に突き入れる。

「んはあぁっ!?」

たちまちしほがよがり声を上げ、体をくねらせた。
じゅぶじゅぶとイヤらしい汁を滴らせ、秘所に鋼鉄の陰茎が深々と沈んでいく。

杏は脱いだ『量産型たましいふきこみ砲』を床に置き、椅子に座る辻の股間の上に跨った。
剥き出しになった性器はまほとは違い局長にすっかり開発されていた為、ひくひくと男を求めて蠢いている。
ゆっくりと腰を下ろし、硬く猛った男根を咥え込む。

「ん、あっ、あはぁっ」

背筋を震わせて、少女は甘い声で喘いだ。
局長の肩を両手でつかみ、自ら腰を上下に動かす。
辻は腕を組んだまま、股間に生じた素晴らしい感覚に意識を集中させた。

「みほ、いくぞ……!」

「きて……お姉ちゃん、きてぇっ!」

まほは股の間の長物を揺らしながら、妹の背後に歩み寄る。
みほはテーブルに手を付き、お尻を高く持ち上げて姉を求めた。
両手でガッチリと腰をつかみ、振りかぶった股間を一気に叩き付ける。
砲塔バイブの先端がみほの秘所に潜り込んだ途端、肉襞と器具が擦れて「ブフォッ」とくぐもった音を立てた。

「空砲!?」

「オナラじゃないのよ、オナラじゃないのよ、空気が入っただけ!」

まほは妹の背中に抱き付き、辛抱溜まらなくなった男のようにカクカクと腰を振る。
その度に互いの膣内を太い筒が出入りして、信じられない快感が突き上げてきた。

「はぁぁぁぁぁんっ!」

「あひゃああぁぁっ!」

2人は、仲よく嬌声を上げた。
姉が妹を犯しているあり得ない状況に昂ぶる辻の激情が、その場にいる全員に伝播し、周囲の女たちも激しく肉欲に溺れていく。

そこから始まったのは――これまで以上の狂乱の宴だった。


「はい、こちら現場の秋山です!私は今、あの西住流一門の秘密の会合に潜入しています。ここで繰り広げられていたのは恐るべき光景でした……皆さんも是非、ご覧になってください〜!」

優花里がカメラのレンズを自分に向け、酩酊した表情で興奮気味に捲し立てる。
そのままビデオカメラを反転させて、執務室の様子を映し出した。

「あっ!ああっ!いいっ!いいわぁ!亜美、もっと荒っぽくわたしを突いてぇ!」

「ふうっ、ふうぅっ!そうよ、しほ……!とびっきり淫らな声で鳴きなさい!」

低く喉を震わせて、獣じみたセックスに興じるしほと蝶野。
口から涎を垂れ流し、教え子の体を両足で挟んで腰を振りまくる姿に、『西住』の名を守る長としての威厳は欠片も残っていなかった。

「このように、家元である母親が日本戦車道連盟の強化委員と肉体関係におよぶことで、大会で娘たちの学園に都合のいい采配を振るわせていたのですね〜」

優花里は絡み合う2人をAVのような構図で撮影しながら、辻が用意していたシナリオをナレーションとして映像に被せる。
暴かれた戦車道世界の闇とでも呼ぶべきシチュエーションをたっぷりと録画して、次にカメラをソファーからテーブルへとパンさせた。

「あん!んはぁんっ!すっごい……!お腹の中を掻き回されて……わたし、お姉ちゃんと一つになっているんだね……?はぁぁんっ」

「おぉっ!おうっ!んおおっ!?ああ、みほ……みほぉ……!私は昔から、お前とこうなることが望みだったのだ……くひぃ!」

テーブルに伸し掛かる勢いで、まほは妹をバックから犯しまくっている。
2人のお尻と股間がぶつかる度に、鈍い肉を打つ音が鳴り響く。
姉とテーブルに挟まれたみほの制服は皺まみれとなり、首のスカーフも解けてほとんど半裸状態だ。
そんな妹を見下ろして雌豚のように嘶くまほも、本来の黒森峰女学園の隊長としてのクールさは何処かへ吹き飛んでしまっていた。
副隊長である逸見いつみエリカがこの場にいたら、卒倒していたかもしれない。

「さらにその娘たちにも、目を背けたくなるような恥ずかしい性癖があったのです!こんなアブノーマルな関係を持った姉妹なんですから、例え敵対校同士で通じ合っていたとしても不思議じゃありませんよね〜?ああ、それにしても西住殿のあんなはしたない格好を拝めるだなんて……まさに、感動ですぅ!」

優花里は涙を流し、姉に凌辱されるみほの全てを隅々まで、余すところなく録画する。
――彼女のみほに対する信仰は、あるいは辻の魂をもってしても自由にすることは叶わず、その情念を肥大させることしか出来ないのかもしれない。

「んく……っ!見えますかぁ〜?わたしのアソコもこんなになっちゃってますよ〜……ぐふふ!」

優花里は熱い吐息を漏らすと、ショーツを膝まで擦り下げ、自分の股間をカメラで映し出した。
秘所は愛液がしとどに溢れ、割れ目と下着の間で糸すら引いている。
密閉された空間から解放された彼女の汗や汁が蒸気となって沸き立ち、カメラのレンズを曇らせた。

「はぁん、局長……!あっ、あっ、局長のココ、太くて素敵……あはぁぁんっ!」

杏は辻の頭を抱き締めながら、一心不乱に腰を振っていた。
上下左右に擦り付ける動きで彼女が最も感じた瞬間だけ、辻も腰を跳ね上げてやる。
それだけで天にも昇る衝撃が身体を貫いた。

「く……っ!こ、これは強烈だ……まさに無限の快感……一度に全てを受け切れるのか……?お、お、おっ!」

椅子に座り続ける辻も、人知を超えた凄まじい感覚に只、圧倒されていた。
直接交じり合っている杏だけでなく、蝶野としほ、まほとみほ、それを見て興奮する優花里、女たちの五感全てが流れ込んでいるのだから。
本来ならば脳が破壊されてもおかしくない破壊力である。

それは、女たちも同様だった。
意識が繋がったことで互いの感情が混ざり合い、倍増し、限界を超えて膨れ上がる。

その結果、起きたのは――『連鎖爆発』だった。

「来る……!来る……!くおおおぉぉっ!」

「駄目……!駄目……!ひゃあああぁぁっ!」

「んあっ!ぁっ!おっ、お姉ちゃあああぁぁん!」

「みっ、みほぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「無理!もう無理っ、無理っ、きょっ、局長ぉぉぉぉぉっ!」

「はぁぁん、最高ですぅぅぅぅぅっ!」

同化した女たちが揃って絶頂を迎える。
彼女たちの股間が、時間差なく一斉に潮を吹いた。
一人で自分を慰めていた優花里さえも。

「おほぉぉぉぉっ!?」

支配者である辻に、渾然一体となった全員のオーガズムが収束する。
彼の股間は一瞬で臨界を突破して、なす術もなく射精した。
白濁した液体が杏の膣内に叩き付けられる。
少女の体は、悪魔に取り憑かれたようにガクガクと激しく辻の上で飛び跳ねた。

「「「「「「あはぁぁぁ〜〜〜〜〜……っ」」」」」」

他の5人の女たちも、直接局長の肉棒で刺し貫かれたように、やはり体が浮かび上がるほどの痙攣を引き起こした。
残った力を嗚咽として喉から吐き出し、次々と倒れていく。

ソファーの上に崩れる蝶野としほ。
テーブルに突っ伏すまほとみほ。
ビデオカメラを握りしめたまま大の字に倒れる優花里。
そして、辻の胸に寄り添ったまま気を失う杏。

「ハア、ハア、ハア……フフ、フフフ、フハハハハ……!」

椅子にもたれかかった辻の口から、乱れた呼吸と笑いが交互に漏れる。
自分の分身を増やしてきた彼も、一度にこれほどのエクスタシーを覚えたことはなかった。
まさに集大成に相応しい――カール自走臼砲から発射される600mm砲並みの破壊力だ。

頭の中で白い閃光が爆ぜ、新しい世界が目の前に広がる。
意識が混乱して、瞬きするだけで女たちの体に移動したような錯覚さえ覚える。
足腰が立たないほどの疲労感に包まれながらも、込み上げる歓喜を抑えることはできなった。

「これで「大洗女子学園廃校計画」は完遂しました……!早速、次なる計画を推し進めなければなりません……!「たましいふきこみ砲」の量産体制を整えて、私の魂で全ての少女たちを乗りこなすと言う計画を……!そう――それこそが私の少女せんしゃ道なのです……!フフフフフ、フハハハハ……!」

艶めかしい女たちの吐息が充満する執務室で、一人息を吹き返した辻が宣言する。
眼鏡の奥に宿る彼の瞳には、これまでにない狂気の光が灯っていた………


###


「そ、それ以上、近付かないで!」

文部科学省の庁舎の一角の会議室に、恐怖に怯えた少女の叫び声が響き渡る。
部屋の角でボコのぬいぐるみをギュッと抱きしめたまま身を縮みこませているのは、長い髪をサイドテールに纏めた可憐な少女だ。
彼女の名は、島田愛里寿しまだありす
大学生戦車道選抜チームの隊長である。

彼女の眼前には、数人の少女たちが立ち塞がっていた。
揃いも揃って頭上に辻局長の似顔絵が記された白旗を掲げ、色取り取りの制服を着た女子高生たちが。


「ふふふ……さあ、いい加減ギブアップして貴女も私たちと魂を同化しなさい……!」

ウェーブのかかった金髪の少女が、ニヤニヤと不気味な薄ら笑いを顔に張り付かせている。
彼女はサンダース大学付属高校の隊長、ケイ。
本来はスポーツマンシップにあふれた明るい性格の持ち主のはずが、今は追い詰めた獲物をいたぶることに最大の喜びを感じるような残忍さを、全身から発揮していた。

「大人しく同志ツジーシャの指揮下に入るのよ!あんたが仲間に入ることで、偉大なあの方の部隊は鉄壁になるんだから……難攻不落と言われた、ブレスト要塞のようにね!」

幼児としか思えない小柄な少女が、永久凍土のように冷たい視線で愛里寿を睨みつけている。
プラウダ高校の隊長、カチューシャ。
ケイと違って彼女自身は元より人を見下すような態度が通常なのだが、口元に浮かんだイヤらしい笑い方は瓜二つで、まるで年の離れた姉妹のようだ。

「……こんな言葉を知っているかしら?家族とは愛しい蛸のようなもの。その絡みつく足から逃げることはできない……それどころか心の奥底では逃げたくないとさえ思っている、と」

ブロンドの髪を後ろで結い上げた少女が、優雅に詩を諳んじた。
聖グロリア―ナ女学院の隊長ダージリン。
気品漂う佇まいをしている彼女の顔にも、やはり淑女らしからぬ品のない笑みが刻まれていた。

異常なのは、雰囲気だけではない。
3人とも上半身は制服を着ているが、下半身はスカートどころか下着さえ身に着けていなかった。
股間には、まるで一昔前のファンタジー作品に登場する女戦士のビキニアーマーのような奇妙な装置だけが装着されていたのだ。
――言わずと知れた、「たましいふきこみ砲」である。
文科省がさらなる改良を重ねて最軽量・小型化が進み、旋回砲塔だけが取り付けられた装置は恥丘部分だけを覆うサイズで、性器がほぼ丸見えになっている。

ケイの股間にはシャーマン、
カチューシャの股間にはT34/76、
ダージリンの股間にはチャーチルを模した砲が男根のようにそそり立っていた。

今や彼女たちは、完全に辻の支配下だった。
すでに大洗女子学園だけでなく、全国大会に出場した戦車道チームのほとんどが彼の軍門に下っていたのだ。
そして少女部隊の最後の駒として白羽の矢が立ったのが、島田愛里寿だった。

文科省、戦車同連盟、愛里寿の母親と親交のある「西住流」の関係者たちが裏で手を引き、彼女はまんまとこの場所まで連れてこられてしまったのだ。
今やその運命は、風前の灯だった。


「さあ愛里寿さん……貴女も、わたくしたちの家族になりましょう?」

ダージリンが舌なめずりをしながら、股間を前に突き出す。
こんな時にも手には紅茶用のティーカップを持ったままで、相反する上半身と下半身の格好が、アブノーマルな卑猥さを醸し出していた。

「ふざけないで!こんな卑劣な真似をする連中に、誰が手を貸すものですか……!」

迫る3人の痴女に対して、愛里寿は涙ぐみながらも気丈に抵抗の意志を示した。
いつもは可愛らしい見た目に反するクールさで戦闘指揮能力を発揮してきた彼女が、今は年相応のか弱さを晒しているのだから、一体どれほどの恐ろしさを感じているのか。
「島田流」家元の一人娘としての誇りを支えに、何とか心が折れずにいるのだろう。

それでも、状況は明らかに彼女にとって絶望的だった。
背後にドアはあるが、残念ながら施錠されている為、脱出はできない。
戦車に乗っている時ならともかく、愛里寿の体格では正面突破することも難しかった。

しかし、変幻自在のニンジャ戦法で様々な窮地を乗り越えてきた島田流ならば、必ず活路を見いだせるはず。
愛里寿は小さな体に、精一杯の勇気を奮い立たせた。


と――
不意に後ろに人の気配が生まれ、ドアの鍵が開く音が聞こえてきた。

「!」

驚いて振り返るのと同時に、ドアが開く。
その向こうにいたのは――よく知った顔だった。

「あなたたち!」

強張っていた愛里寿の表情が綻ぶ。
目の前に立っていたのは、大学選抜チームの副官たちだったのだ。

メグミ、
アズミ、
ルミ。
大隊長である愛里寿を支える中隊長トリオ――『バミューダ三姉妹』である。

「無事だったのね!」

愛里寿は母親を見つけた迷子の子供のように、副官たちの元へと駆け寄った。
この庁舎に入るまでは彼女たちと一緒だったのだが、辻の策略によって離れ離れになり、今まで消息がつかめなかったのだ。

やはり、自分と同じような酷い目に遭っていたのか。
必死に堪えていた涙が、目の端からポロポロと零れてきてしまう。
普段は部下たちの前でも感情を露わにしない愛里寿だが、今は心の底から喜んでいた。

気紛れな運命の女神が、少女に微笑んだのか?
絶望の底に堕ちたとしても、まだ最後の希望は残っていた――


「!?」

――そんな彼女の気持ちは、無残にも裏切られた。

愛里寿の顔が、強張る。
目を背けようとしても、背けることができない。

彼女は、ハッキリと見てしまった。
メグミたちの頭からそそり立つ、『白旗』を。

「んふふ……女子高生も美味しかったけど、女子大生のカラダも辛抱たまらないわねぇ……!」

艶やかな黒髪を背中まで伸ばしたメグミが、ニヤニヤと笑いながら自分の胸を両手で掬い上げている。

「あぁん♪このエロボディにBC自由学園の制服を着させて、あえて女子高生の格好でプレイするのも興奮しそうだわぁ……!」

大人びた雰囲気を持ったミディアムヘアのアズミは、パンツァージャケットの上から自分の豊満なボディラインを撫で回し、悩ましげな表情を浮かべていた。

「ひひひ、どうしたんですかぁ、隊長?お化けでも見たような顔をしてぇ……」

メガネをかけたショートヘアのルミが、鋭い視線で愛里寿を意地悪く見下ろすと、見せつけるように股間を前に突き出した。
スカートもショーツも脱ぎ捨てた、剥き出しの股間を。

彼女たちの下腹部には、揃ってM26パーシング重戦車を模した「たましいふきこみ砲」が取り付けられていたのだ。

「ぁ……!ぁ……!いや……いや……!」

愛里寿の心に亀裂が入り、じわじわと砕けていく。
運命の女神も、すでに辻の虜となっていた――そんな事実に、今度こそ絶望を覚える。

「さあ、隊長……」

「貴女で最後です……」

「私の魂を、その身に宿す時が来たのですよ……!」

メグミたちの言葉が次第に辻の口調へと変わり、愛里寿の周りを取り囲む。
敬愛するはずの隊長を物でも見るような目つきで見つめたまま、彼女たちは股間の砲塔の狙いを、無情にもその小さな体に向けた。

「「「バミューダアタ―――ック!」」」

三姉妹の叫びと共に、ゼロ距離で砲口が火を噴いた。
青白い光球が、三方から愛里寿の体を射抜く。

「あああああ!?」

肉を食い破ろうとするピラニアのように、凶暴な光が少女の全身を蹂躙した。
ひとつ、またひとつと、体の中に潜り込んでいく度に、愛里寿はガクガクと激しい痙攣を起こす。

「あっ!あっ!あはぁ〜〜……」

光が完全に体内に消えると、悲鳴は嗚咽へと変化して、発作そのものも治まった。
腕がダラリと垂れ下がり、大事そうに抱えていたボコのぬいぐるみが床に落ちる。
同時に、「しゅぽん!」と音を立てて少女の頭に白旗が勃った。


「……ふふ……ふふふ……ふはははは……!」

絶望に染まっていたはずの愛里寿の口元に――笑みが生まれた。

それはバミューダ三姉妹が、
ケイが、
カチューシャが、
ダージリンが浮かべているのと同じ、男そのものの笑みだ。

「――犯〜ってや〜る、犯〜ってや〜る、犯〜ってや〜るぜ〜、す〜べての女をメ〜ロメロに〜♪」

愛里寿は「おいらボコだぜ!」の替え歌をノリノリで歌いながら、あれほど大事にしていたボコのぬいぐるみを無造作に踏みつけた。
可愛らしかった顔を邪悪に歪めて、瞳には明らかな狂気の色を灯して。

それはまるで、幼子の姿を借りて人々を惑わす夜魔のような姿だった。
汚毒にまみれた辻の魂は、一瞬にして少女の無垢な魂を黒く塗りつぶしてしまったのだ。

魔少女と化した愛里寿の歌にバミューダ三姉妹の輪唱が重なり、順にケイたちも参加する。

と、通路からも複数の歌声が近付いてきた。
会議室のドアがまたしても開き――

大洗女子学園の生徒たちが、
黒森峰女学園の生徒たちが、
サンダース大学付属高校が、
プラウダ高校が、
聖グロリアーナ女学院が、
大学選抜チームのメンバーが、

さらにはアンツィオ高校、知波単学園、継続高校の生徒達までもが現れ、盛大なる合唱を生み出した。

一個の群体となった少女たちの歌声が、庁舎全体を揺るがせる。
頭の上ではためく白旗が無数に広がる光景は、まるで小国のようであった――


<おしまい>


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