テストの点が悪くて
 作:奈香乃屋載叶


「これからテストを返す」

 先生から先週やったテストが返ってきた。
 いつもは不安。
 でも今回は凄く自信があるし、もしかしたら100点なのかもしれない。全部埋めたから可能性がある。
 そうじゃなくても、分かった問題が多いからね。
 ああ、早く返ってこないかな。

「成沢くん」

「はいっ!」

 来た!
 僕はわくわくしながら先生からテストを貰う。
 さあ、何点だろう?

「えっと……」

 裏返したテストを見てみた。
 28点。
 良い点数……とはいえない……
 一瞬僕は固まってしまった。思ったより、ものすごく低かったからだ。

「はぁ……」

「あらら……」

 隣のあかりちゃんが僕のテストを見て呟いている。あかりちゃんの点数は85点で僕よりも良い。
 僕はどうしてこんなに低いんだろう……
 分かった問題は多かったし、全部埋めたからこんなに低いはずはない……
 この点数を信じることが出来なかった。

「じゃあ、正解を言っていくからね」

 先生が解説をしていく。
 僕が正解だと思っていた問題は全部間違っているし、おしいといえないもの。
 全然駄目だ……

「どうしよう……」

 テストを見ながらお母さんの事を思い浮かべる。
 このテストを見せたら、絶対に怒られる。もしかしたら、今度のお小遣いも無しになるかもしれない。
 嫌だな……
 隠したいけれども、バレたらさらに怒りが倍になりそう。
 本当にどうしよう……
 それにもうすぐ下校時間だし、もう帰るしか無い。
 僕はため息をつきながら授業を聞いていた。



「じゃあ、これで今日の授業は終わりだ」

「ありがとうございました」

 授業が終わって家へと帰ることに。
 でも教室から家への帰り道はものすごく遠く感じて、足も重かった。
 どうしようかな。
 テストを捨てて、無かったことにしようかな。そうすればバレない限り怒られることもない。
 うん、そうしよう!
 そう思って、橋からテストを捨てようとした、その時。

「君、どうしたの?」

「うわぁっ!?」

 後ろから声がした。
 捨てようとしていたから、バレちゃったのかなと思ってビクッとしてしまう。
 まるでサスペンスドラマでよく見る、ヤバイことをやっているのを見られてしまった犯人みたいに。
 驚いたけれども、振り返ってみる。
 そこには、綺麗なお姉さんが立っていた。
 お母さんとは全然違う、もの凄い美人。
 僕でも見とれちゃう。

「お姉さんは……?」

「私はかなえ。君の名前は?」

 お姉さんが名前を言ったから、僕も答えないとね。

「僕は成沢快斗というんだ」

「へえ、そんなことよりも、何を捨てようとしたの?」

「えっと……あっ!?」

 捨てたことの答えに困っていると、お姉さんは手に持っていたテストを見られて、そのまま取られてしまった。
 急だったから抵抗もできなかった。

「返して!」

 お姉さんは大きくて、僕の手を伸ばしても届かない。
 するとお姉さんはテストを見てしまった。
 見られたくないのに……

「ふうん、快斗くんはこのテストを取られたくないんだね」

「そうだけど、返して!」

「このまま見せたらお母さんに怒られるんだね」

「うん!」

 僕は怒りながらお姉さんに返事をする。
 テストが低いからバカにされてしまうかと思ったけれども、お姉さんが言ったのは全く違っていた。

「だったら、私が快斗くんになって怒られてあげようかな?」

「えっ……?」

 突然の事だったから、どう言ったら良いのか分からないで、詰まってしまう。
 お姉さんが僕の代わりに怒られる……
 そんなことができたら良いけれども、本当にできるのかな。

「本当……?」

「ええ!早速やってみようかしら?」

 するとお姉さんは何かを喋ったかと思ったら、お姉さんが煙に包まれて見えなくなってしまった。
 煙はすぐに消えたけど、そこにはお姉さんは居なかった。
 だって目の前に僕が居たから。
 身長が高いはずで女の人のお姉さんじゃなくて、身長が低くて男の子の僕。
 信じられなかった。

「嘘……!?」

 急な事に驚いて、何も言えなくなってしまう。
 どうなっているのだろう……

「ほら、これで信じたかしら?」

「……うん!」

 これだったら、この僕は怒られる事も無いし、しばらくしたらお母さんだって元に戻るから大丈夫。
 そう思って、お姉さんの提案を受け入れる。

「じゃあ、早速怒られてくるからね」

「うん、お願い!」

 お姉さんは僕のランドセルとテストを持って、家へと行った。
 あとは、お姉さんが戻ってくるまで公園で遊んでいようかな。



「快斗くん、終わったよ」

 お姉さんが僕のところに戻ってきた。正しく言ったら、僕になったお姉さんが戻ってきたというのが正しいのかな。
 でも表情が良いから、成功したみたい。

「ありがとう!」

 お姉さんに感謝をする。
 こんなのありがとうを何度も言ったって、足りないと思う。

「良いのよ」

 僕はお姉さんをあとにして家へ帰ることに。
 ちゃんと終わっていたら良いな。
 そう思いながら、いい気持ちで家へ帰っていく。



「ただいま……」

「おかえりなさい」

 恐る恐る入ってみると、お母さんはいつもみたいに返事をしてくれた。
 ちょっと怖い感じはするから、あのお姉さんは怒られていたみたい。
 これで大丈夫だね。
 夜になったら、晩御飯を食べて寝ればいつも通りの明日になる。
 そう思いながら、靴を脱いで部屋へ戻る……

「あの……君って快斗くんの友達?」

「えっ……?」

 お母さんは僕を見て、まるで知らない人みたいに言ってきた。
 信じられなくて、言葉が出ない。

「なんで?僕はお母さんの子供だよ?」

「ちょっとおかしな事を言わないで。私は君のお母さんじゃないわよ」

「そんな……!?」

 僕はお母さんの子供じゃないと言われて、どうなっているのかなと思ってお姉さんが居る公園へと戻る。
 なんでなんだろう……



「お姉さん!」

「来たわね」

 公園にはお姉さんが居て、僕を見て笑顔だった。
 姿は元の綺麗なお姉さんに戻っている。
 今回は見とれる事もなくて、怒りたいという気持ちが高かった。

「何かしたの!?お母さんが僕を友達って言われたんだよ!」

「ふふっ」

 するとお姉さんは、少し笑ったかと思ったら、また何かを言って姿が僕になってしまった。
 もうなる訳じゃないのに……

「どうしてまた……?」

「そりゃあ、快斗くんになりかわるためよ」

「えっ……?」

 僕になりかわる……
 急だったから信じられなかったけれども、お母さんが僕を友達と言っているみたいだから、信じるしかなかった。

「これから君の代わりに私が成沢快斗として、過ごすから!」

「そんな……!?僕はどうなっちゃうの!?」

 お姉さんが僕になっちゃったら、僕はこれからどうすれば良いのかな……
 ホームレスになるのも嫌だ。

「大丈夫よ。これから君はね……」

 お姉さんがそう言ったところで、何を言っているのか分からない、まるで呪文みたいなことを喋った。
 すると僕は煙に包まれてしまう。

「うわっ!?」

 煙のせいで前が見えない。
 すると、僕の身体におかしなことが。

「ああっ……!?」

 大きくなるような感じがして、服がきつくなってくる。
 おっぱいが急に重たくなってきて、柔らかい感じが。
 触ってみると、ゼリーみたいにポヨンポヨンとしていた。

「うっ……!?」

 髪の毛が重たくなってくる。もしかしたら伸びているのかな、引っ張られて縛られているみたいな感じも……
 どうなっているだろう……

「ひゃあっ……」

 あれが引っ込んでいくような感じ……
 それにお尻も膨らんで……
 本当に女の子になっているのかな。
 でも煙のせいで見えない。

「そんな……女の子になっちゃった……」

 煙が消えて、僕の姿がはっきりしたらどうなっているのかが分かった。
 大きなおっぱいに忍者みたいな服……
 僕は忍者になっちゃったんだ。
 しかも色々と見えちゃっているくらいで、何故かエロい。
 それにお姉さんが鏡を見せると、お姉さんそっくり。つまりは、お姉さんになっちゃったということかな……

「君はくノ一として僕の代わりに頑張ってね。僕はやめたかったけどやめられなかったから、こうしたの。悪く思わないでね」

「嫌だよ……ううっ……」

 お姉さんは僕の代わりに家へ帰ってしまった。
 そして僕はというと、女の忍者のまま、公園で立ったまま泣いていた。
 だって、これからどうすれば良いのかも分からなかったから、ただ泣くことしか思いつかなかったから。
 はぁ……
 どうしよう……






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