フュジティブTHE ENDA〜欲望〜

 作:無名



座間 良一郎ー。
彼は、己の欲望にを満たすため、
これまで、何人もの命を奪ってきた。

その理由は、身勝手なものだったー
”欲しいものを、奪うため”


8歳の頃ー。
彼は、クラスの友達を自宅に招いたことがある。

その友達は、座間に対して、
当時流行っていたカードゲームのカードを自慢した。

「−−いいなぁ」
無垢な少年だった座間は、
素直に羨ましがった。

「ははっ!いいだろ!座間!
 お前も親に買ってもらえばいいじゃないか!」
友人はそう言った。

良一郎は、その場で父親にカードをおねだりした。

しつこくねだる良一郎。
父親はうんざりとした様子でそれを聞いている。

元暴走族だった良一郎の父親は、
しつこさに根負けしたのか、突然立ち上がった。

そしてー
信じられないことに、息子の良一郎の友達を
突然グーで殴りつけた。

「−−お、お父さん!?」
純粋な少年だった
8歳の座間 良一郎は、訳も分らず叫んだ。
突然、父親は何をしているのかー?

なぜ、”友達”を殴るのかー。

息子と同じ8歳の小学生をボロボロになるまで
殴りつけた父親は、
息子の良一郎が欲しがっていたカードをその子から
取り上げると、カードを息子に手渡した。

そのカードには、血がついている。

「−−欲しいものは、力ずくで奪い取れ」
父親は鋭い目つきで息子に言った。

「−−う…うん…」
顔に痣を作って涙を流している友人を
見つめながら良一郎は返事をした。

「強く生きろ、良一郎」
父親の行動に、息子の良一郎は恐怖したー

そしてーー
彼に”欲しいモノは、奪い取れ”という
心の傷”トラウマ”を刻み込んだのだった。

座間良一郎は
今も囚われているのかもしれない。
”父親の教え”にー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

市村 龍平(いちむら りゅうへい)
高校生。凶悪犯の座間の憑依を突き止めた。

市村 孝彦(いちむら たかひこ)
龍平の父親。座間を追っていた。

松本 彩香(まつもと あやか)
高校生。龍平の彼女。座間に憑依されていたが救出された。

清水 由香里(しみず ゆかり)
高校生。生徒会副会長で、読書好き。

竹内 美香(たけうち みか)
高校生。お嬢様育ちでわがまま。

小笠原 淳子(おがさわら じゅんこ)
高校生。ショートカットが似合うスポーツ好きの少女。

座間 良一郎(ざま りょういちろう)
凶悪犯罪者。現在もとある女子生徒に”成りすまし”をしている

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「−−−悔しい?」
鏡に向かって呟く、生徒会副会長の由香里。

「−−青春を奪われて悔しい?
 悔しいよね?」

勝ち誇った表情でつぶやくー。

「ふふっ…奪われる方が悪いのよ。
 この体はもう、わたしのもの。
 どうしようがわたしの勝手ー」

手が一瞬、ピクリと動く。

「−−−欲しいモノは、力づくで手に入れる」

鏡に映った由香里は、不気味にほほ笑んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一日目の行動を終えて、
宿に辿り着いた、修学旅行の一行。

「はぁ〜…結構、疲れちゃった」
彼女の彩香が笑いながら言う。

「そうだね…でもホラ、明日もあるし」
龍平が言うと、彩香が「うん、明日も楽しみ!」と
微笑み返した。

ふと、龍平がロビーに居た
電気工事士のような一団に目をやる。

「あれは、何だろう?」
ホテルとは不釣り合いな、作業服姿の
一団を見て龍平が言うと、
彩香が答える。

「あ、なんか、屋上の電線にトラブルが
 あったみたいよ。
 さっき入口で従業員の人たちがそう言ってた」

彩香が言うと、
龍平は「ふーん、大変だなぁ」と感心した様子で
その作業員たちを見つめた。


「−−じゃ、またあとで!」
龍平が、彩香に手を振る。

流石に、男女別室のため、部屋では一緒ではない。

「うん!」
彩香がほほ笑みながら龍平を見送った…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕食の時間がやってきた。

学生らしい、騒がしい雰囲気で、
夕食は始まった。

龍平は彩香や淳子、美香、由香里、
おなじみのメンバーたちの近くに座る。

「あぁ〜あ、方向音痴の男子のせいで
 疲れちゃった」
おしゃれ好きの美香がうんざりした様子で言う。

昼間の班行動、美香のグループは
班長の男子が道を間違えて大変だったらしい。

「そういうアンタだって方向音痴でしょ」
スポーツ好きの淳子が美香を茶化す。

「はは…仲がいいなぁ、二人は」
龍平が笑いながら言う。

その龍平の横に居た生徒会長の由香里は、
夕食のハンバーグを切るために用意
されていたナイフを見つめて思う。

”今、この場で龍平の首筋にこのナイフを
 突き立てたらどうなるのか”

由香里は、その光景を想像するー。
自然と笑みがこぼれる。

”信じていた生徒会副会長の優等生に
 突然刺されて迎える最後の瞬間ー
 
 もしも、今、龍平は刺されたらどう感じるのだろうか”

「−−−ふふふ」
思わず笑いがこぼれる。
ナイフを手に、手が震える。
ゾクゾクするー。

「−−由香里、どうしたの?」
おしゃれ好きの美香が、そんな由香里を見て
問いかける。

「え?ううん、みんな、仲良しだな〜って」
由香里が、いつもの自分を”演じて”微笑んだ。

「−−でも、寂しくなるね」
龍平の彼女、彩香が言う。

もう、3年生ー。
今年が終われば、龍平も、彩香も、美香も由香里も淳子も
別の道に進むことになる−。

彩香と龍平は恋人同士だから、
関係は続くかもしれないー。

でも、距離は、離れてしまう。

「そうだね…」
龍平が少し切なそうにハンバーグを食べながら呟く。

「大丈夫よ!何か事件に巻き込まれたら
 私、必ず市村くんに連絡するからっ!
 その時は、私を助けてよね?将来有望な警察官!!」

淳子が言う。

「だ、だから僕は警察官にならないって…!」
龍平が顔を赤くして叫んだ。

なんで、警察官の息子=警察官になると、
淳子に思われているのだろうか。

「−−−−…」
由香里は横目で、龍平を睨んだ。

卒業式の日ー、
由香里は龍平を殺す。

”お前に、卒業後の未来はないー”

由香里は再び、興奮を覚えた。
この可愛い少女の手でー、
龍平を血に染めるー

由香里の手は血に染まりー。
最後は大笑いしながら、由香里自身も自ら命を絶ってやるー。

世間は、その事件をどう報道するのだろうか?
由香里の体を”捨てて”座間は、また新しい身体に憑依する。

既に、今年の1年生の女子生徒の中に、
一人、めぼしい子を見つけてある。

由香里を”破棄”したら、今度はその子として高校2年生からやり直す。


そして、その子を破棄したらまたー。

「−−−」
由香里は、込み上げてくる笑いを必死にこらえた。

女子高生って、なんて楽しいのだろうー。
座間はそう思った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜も深まるー。
しかしながら、高校生はそう簡単には寝静まらない。

先生たちは、就寝時間に寝るように促すものの、
なかなかそうはいかないのが、このぐらいの年頃と
言うものだろう。


そしてーーー
由香里の表情からはさっきまでの笑顔が消えていた。

イライラした様子で髪をかきむしる由香里。

「はぁ…くそっ」
洗面台で一人呟く。

座間に憑依された由香里は
”毎日”夜に自分の部屋でエッチなことを
しまくっていたー。

色々な服を着たり、
大人のおもちゃで遊んだり、
とにかく由香里の身体を堪能した。

毎日のように喘ぎまくった。

けれどー
修学旅行ではそれができない。

毎日のように身体の欲望を満たしていた
由香里は、あふれ出る欲望を抑えられずにいた。
身体が疼くー。
トイレで済ますだけでは満足できない。

とは言え、
流石にここで、それをやるのはまずい。
座間は、何のために今まで
由香里に成りすましてきたのか。

それが、全てパーになる。

全ては女子高生ライフを楽しむため。
卒業式の日に、龍平が絶望する顔を見るため。

もちろん、今ここで由香里を”破棄”して
別の身体に移動する覚悟で、
喘ぎまくったって構わない。

しかし、座間は、卒業式の日に龍平を消すことを何よりの
楽しみにしていた。

だからー、今は我慢だ。

「…チッ」
由香里は舌打ちしながら、鞄の物を取り出し、
部屋から出て行った。


一人、暗い廊下の隅で
由香里は煙草を口に咥えていた。

「くそっ…思ったよりも、イライラするわ…」
由香里が不愉快そうにつぶやく。

女子高生として修学旅行を楽しむのも一興。
そう思って修学旅行にやってきた。

だがー誤算だった。

エッチなことが出来ないー、
タバコも、酒もダメだ…。

由香里のイライラは頂点に達していた。

「−くそっ!」
タバコを非常階段の外に放り投げて
もう1本取り出す。


「−−由香里?」
背後から声がした。

「−−−!!」
由香里は慌てて非常階段の外に
タバコを投げ捨てて振り向いた。

「あ、、美香…」
由香里はひきつった表情で笑みを浮かべる。

背後から由香里に声をかけたのは、
おしゃれ好きの美香だった。

「−−い…今、何してたの?」
美香が不審そうに尋ねる。

「え…み、美香こそどうしたの?」
由香里が動揺しながらも優しく尋ねた。

「あたし?あたしはホラ、
 部屋のみんながうるさいから
 少し外の空気を吸いに来たのよ」

美香は答えた。
だがーー
美香は聞かずには居られなかった。

”声をかけたときに由香里が外に投げ捨てたもの”について。

「−−由香里…あのさ…
 あたしの見間違えなら悪いんだけど
 今さ…」

美香がそこまで言うと、
由香里は笑った。

「−−ご、ごめんね。
 ポイ捨てなんてわたしらしくないよね。
 ゴミ箱無かったから、ついティッシュを…」

由香里がそこまで言いかけると
美香が叫んだ。

「ティッシュなんかじゃない!」

美香の言葉に由香里は表情を曇らせる。

「−−今、由香里…”タバコ”吸ってたよね?」
美香が気まずそうに尋ねた。

「−−−−」
由香里は、言葉が咄嗟に浮かばず、目を泳がせた。

「−−ね、ねぇ…由香里…?な、何とか言ってよ…」
気の強いお嬢様育ちの美香が戸惑っている。
真面目で優等生な由香里が喫煙なんて…。

「−−皆には黙ってて」
由香里はそれだけ言って立ち去ろうとした。

「−−−黙ってて…って…
 ねぇ、由香里!」
美香が由香里を呼び止めると、
由香里は明らかにイライラした様子で、
綺麗な黒髪をかきむしった。

「−−−−…黙ってて…いい?」
もの凄く低い声で、由香里は美香を睨みつけた。

「−−−−−…!」
美香はそれ以上、由香里に声をかけることが出来なかった。


一人廊下に残された美香は
足を震わせた。

「…由香里…」
不安そうな表情で、由香里の立ち去って行った廊下を見つめるのだった。


ガン!!

夜中のお手洗いー。

由香里が壁を乱暴に蹴り飛ばす。

「ふざけんじゃねーよ!あのクソ女が!」
乱暴な口調で叫ぶ由香里。

髪の毛を振り乱しながら、
壁を何度も蹴ったり殴りつけたりしている。

「余計なところ見やがって…!
 くっそ…
 あ〜〜〜イライラする!」

イライラを抑えきれない由香里が、
怒りに身を任せて壁を殴りつける。

「はぁ…っ はぁっ…」
由香里は息を切らしながら呟いた。


「−−我慢…我慢…」
由香里は深く深呼吸をする。

そして、鏡を見つめたー。

「−−わたしは清水 由香里なんだから…
 我慢しなくちゃね…」

そう呟く、由香里。
けれど、顔は怖い表情になっていたー。

座間は”由香里としての平静”を取り戻して
部屋へと戻って行ったー。


そして1日目が終わり―
2日目の朝が訪れた。



”人生最後の日”がー。



Bへ続く


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コメント

ハッピーエンドかバットエンドか…
そのあたりも楽しみにしていてくださいネ!

あと数話の間、お付き合いください!!





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