フュジティブTHE END@〜終章〜

 作:無名



秋の気配が漂う校内…。

文化祭実行委員として、
幼馴染の彩香と一緒に文化祭の準備をしていた
男子高校生、市村龍平は思うー。

思えば、小学生の時から、彩香とはずっと一緒だった。

何かとからかわれがちな自分を助けてくれることもあったし、
勉強が追い付かずに悩んでいた龍平を励ましてくれたこともあった。

いつも、いつも彩香には支えられてきた。

それまでは”幼馴染”として見ていた。

けれどー
高校に入ってから龍平は、彩香を異性として意識するようになった。


でもー
龍平は、今まで彼女が居たこともなかったし、
告白する度胸もなかった。

”このままでいいんだ”

そう、言い聞かせていたー。

そんなある日、
図書室で調べごとをしていると、クラスメイトの一人に声をかけられた。

清水 由香里(しみず ゆかり)−
真面目なメガネの女子生徒で、
穏やかな笑みが魅力的な子だった。

”恋愛についての本”を
なんとなく読んでいた龍平を見て、
由香里は声をかけたのだった。

「−あれ?市村くん?どうしたの?恋愛本なんか読んで…」
由香里がほほ笑みながら言う。

「−−え?あ、いや、こ、これはさ…ホラ…あの」
顔を真っ赤にして答える龍平。

「−−ふふ…」
由香里は微笑んだ。

「−−松本さんでしょ?」

彩香の名前が出てきて龍平は
さらに狼狽えた。

「ちが、違う!!違うよ!!!」

そんな龍平の様子をお構いなしに由香里は言った。

「−−私から一つだけアドバイス…!
 自分から行動しないと何も始まらないよ…!」

由香里の笑みを見ながら龍平は
狼狽えるのをやめた。

「−−−私みたいに、後悔しても遅いから」

少しだけ寂しげに言うと、由香里は微笑んだ。

「市村くんは、いつもまっすぐだからきっと大丈夫。
 頑張って!」

そう言うと、由香里は、龍平に微笑みかけて
そのまま立ち去って行った…。

その3日後、由香里に背中を押されるカタチで、
彩香に告白し、龍平は彩香と付き合い始めたのだった…。

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市村 龍平(いちむら りゅうへい)
高校生。凶悪犯の座間の憑依を突き止めた。

市村 孝彦(いちむら たかひこ)
龍平の父親。座間を追っていた。

松本 彩香(まつもと あやか)
高校生。龍平の彼女。座間に憑依されていたが救出された。

清水 由香里(しみず ゆかり)
高校生。生徒会副会長で、読書好き。

竹内 美香(たけうち みか)
高校生。お嬢様育ちでわがまま。

小笠原 淳子(おがさわら じゅんこ)
高校生。ショートカットが似合うスポーツ好きの少女。

座間 良一郎(ざま りょういちろう)
凶悪犯罪者。現在もとある女子生徒に”成りすまし”をしている


〇あらすじ〇
凶悪犯罪者の座間が、警察に追い詰められた際に、
憑依薬を使い、通りすがりの女子高生に憑依した。

警察官の孝彦は、ちょうど、憑依対象となった可能性の高い
女子生徒たちが通う高校に在学している息子の龍平に、
調べてもらうことにしたー。

そしてー。憑依されていたのは龍平の彼女、彩香だった。
なんとか彩香を解放させることに成功するも、
座間は消えていなかった。

別の女子生徒に憑依して、彼は今も、
その女子生徒になりすましているー。

そして…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから、時は流れた。

龍平たちは、3年生となり、
桜が散り、
夏の気配が漂い始めた。

もうすぐ、修学旅行。

龍平たちの中では、座間との一件も
過去のこととなり、平和な日常を送っていた。


「−−修学旅行、楽しみだね」
彼女の松本 彩香(まつもと あやか)が微笑む。

「そうだね…北海道なんて、行かないもんなぁ」
龍平が言うと、

「わたしは小さい頃、行ったことあるけどネ!」と
彩香が微笑んだ。

3年に進級して、クラス替えがあったけれど、
彩香とは変わらず同じクラスだった。

生徒会副会長の清水 由香里(しみず ゆかり)も同じ
クラスだったけれど、
例の凶悪犯罪者の一件の際の生徒たち、
スポーツ好きの小笠原 淳子(おがさわら じゅんこ)と
おしゃれ好きの竹内 美香(たけうち みか)とは
別のクラスになってしまった。

とは言え、隣のクラスだから、よく遊びに来てはいるけれど…。

「−−いいなぁ、リア充は!」
淳子が呟く。

「−−お、小笠原さんだって、良い子だし、
 絶対、いつか彼氏できるって!」
龍平がすかさずフォローを入れる。

しかし、淳子はふてくされた様子で、
「はいはい、口だけならなんとでも言えますからね」
と首を振る。

「−で、でも、ホラ、小笠原さんも可愛いと思うよ」
天然な一面もある龍平が言うと、
淳子は顔を赤らめた。

「−−へっ、か、可愛い…?
 け、警察官は、そうやって女の子を口説くの?」

淳子の言葉に、龍平も自分の失言に気付き、
顔を真っ赤にした。

「−−−はぁ、龍平ったら…」
彩香は、微笑ましくそのやり取りを見ていた。

龍平が天然なのには、もう慣れている。

・・・・・・・・・・・・・・・

修学旅行を翌日に控えた夜。

龍平は、父の市村 孝彦(いちむら たかひこ)と共に、
夕食を食べていた。
母親は、今日はパートで遅い。

父の孝彦は、昨日、とある事件の捜査中に、
女の子を守って、腕を骨折している。

「−−父さん、怪我、大丈夫?」
龍平が尋ねると、孝彦は「ん?あぁ、これか…」と
言いながら笑う。

「大丈夫さ。
 警察官たるもの、命を張って守らなきゃいけないものもあるんだ」

孝彦が言う。
感心しながら龍平はその言葉を聞いた。

「−−俺の場合は、家族は当然、命をかけて守るし、
 一般市民の人たちも、犯罪者の手から、命をかけて
 守らないといけない」

父の孝彦は警察官の鏡とも言える人物だった。
己の使命に忠実で、そして、時に”組織”という檻の中では
危うい行動をとることもある。

けれど、龍平は、そんな父を尊敬していた。

「龍平、お前に守りたいものはあるか?」
孝彦が箸を止めて言う。

龍平も箸を止めて、
少し考えたあとに、微笑んだ。

「あるよー」

その言葉を聞き、孝彦は笑う。

「なら、その”守りたいもの”が、もしも危険な目に
 遭ったときは、お前も、絶対に諦めるな。
 信じて、信じ抜いて、必ず、その人を守ってみせろ」

孝彦が言うと、
龍平は笑った。

「−−−うん。」

龍平の目を見て、父は笑う。

「それでこそ、俺の息子だー」

と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

闇は消えないー。
凶悪犯罪者の座間は、
”消えるフリ”をして、龍平の彼女、彩香から追い出された。

しかしー座間は消えていなかった。
生徒会副会長の由香里に憑依して、
既に半年ー。
”目の前で座間は消滅した”

そう思っている龍平たちは、普通の平和な日々を送っている。
座間も、女子高生として、日々、由香里になりすましていたー。

今日も…、由香里として”昼”を過ごした。

そしてー”夜”
座間が、女を弄ぶ時間がやってきた…。


バニーガールの姿をした、
生徒会副会長の由香里が、鏡の前で微笑んでいる。

網目から覗く、綺麗な足に、
由香里の中に潜む、凶悪犯罪者の座間は
興奮した。

既に、由香里は誰にも気付かれず、
半年以上も座間に憑依され続けていた。

座間に犯され、汚されまくったこの体。

由香里は、将来のための貯金も全て使い尽くして、
自分のからだを存分に堪能した。

腰に手をやり、ポーズをとる由香里。

「わたしは清水 由香里」

メガネの奥の瞳をギラギラと輝かせて言う。

「−−ふふ、可愛そうな”わたし”
 誰にも気付いてもらえないなんて。

 でも、それだけ私の成りすましがカンペキだって
 ことよね…

 くくく…はははははははは!」

由香里は机に置いてあったタバコを手に取り、
おいしそうにそれを吸い始めた。

由香里は未成年。

しかし、座間にとってそんなことは関係ない。


「んは〜〜〜」
煙を鼻から吐き出した、
バニーガール姿の由香里は笑った。

「この背徳感…たまんねぇな」

優等生である由香里に、
自分が”そうさせている”支配感。
座間はたまらなく興奮した。


「−−ふふ、俺の手にかかれば、
 こんな女、思いのままだぜ」

由香里は、自分のアダルトな姿を見つめて、
勝ち誇った表情を浮かべた。

明日からは修学旅行ー、
学生として、エンジョイしてやるー

・・・・・・・・・・・・・・・

修学旅行当日。

北海道についた龍平たちは、
ハイテンションで、見学を始めていた。

班行動を始める龍平たち。

彩香や、他のグループと一緒に
北海道の町を歩いて回る。

「・・・・」
龍平はうかない顔をしていた。

「どうしたの…?」
彩香が心配そうに尋ねると、
龍平は作り笑いを浮かべた。

「実は…」と口を開く龍平。

龍平は、何故だか、時々”ある夢”を見るー。
”女子生徒”が、座間に憑依されていることを自分に訴えかけてくる夢ー。

彼女は、夢で、助けてと嘆願するー。
いつも、龍平も助けようと手を伸ばす。

けれどー
助けることはできない。
そして、目が覚めるといつも
”夢の中で助けを求めていたのが誰だったか”を忘れてしまう。

「ーー大丈夫よ。もう、座間は居ないー」

そう、座間が彩香に憑依していたのは
半年以上前のこと。

あの時のことがトラウマになって、夢を見ているに違いない。

「−−−そうだよね…
 ごめん。僕も、前を向かなきゃね」

龍平は言った。
彩香は「そう、ホラ、もう今年で高校も最後なんだし、楽しも!」
と笑うー。

同じ班の男子が「お、北海道でもイチャイチャか!?」と
茶化し始めた。

彩香はそれを聞いて苦笑いすると、
そのクラスメイトたちの方に向かって歩いて行った。

「そうだー、
 せっかくの北海道なんだし、楽しまないと」

龍平はそう呟いて、班員たちの方に向かうのだった…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「由香里〜どうしたの?」

別の班で、観光中の生徒会副会長の由香里を
班員が呼ぶ。

「あ、ごめん!先に行ってて!」
由香里が言うと、「うん、じゃあ、この先で待ってる!」と
クラスメイトは微笑んだ。

一人になった由香里は
お手洗いに向かうー。

そして、笑みを浮かべた。

「くくく… 女子高生の修学旅行…たまんねぇな」

凶悪犯罪者としての邪悪な顔で、
笑う由香里の姿はー
クラスメイトが知る由香里の顔ではなかったー。

狂気に歪んだ、邪悪な笑みを浮かべる由香里ー。


だがーー
座間は知らなかった。

”由香里として修学旅行にやってきてしまったこと”が
大きな誤算であることにー。


Aへ続く

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コメント

フュジティブの最終章です!

最初は祭り期間中に、祭りの方に投稿できれば、と
思っていたのですが、目の調子を崩して、
毎日の小説以外に小説を並行して作るのが難しくなってしまったので、
憑依空間で書いていくことにしました!

が、せっかくなので、TS解体新書様の方でも
掲載することにしました!!

龍平たちの、最後の物語をぜひお楽しみください!







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