フュジティブ

 作:無名



第3章


教室で対峙する龍平と彩香。

彩香は、龍平をバカにした笑みを浮かべている。


「どういうことなんだ…彩香!」

信じたくなかったー

大切な彼女の彩香がー
いつも優しい彩香がーー。


「ふふふ…
 最初はね…わたし、淳子に憑依してたの。

 一番動きやすそうだったからね」

淳子ー。
スポーツ好きの子だ。


”私、最近寝不足でさ、
 今日の朝も眠くて
 な〜んかボーっとしてたんだよね!”


淳子の言葉を思い出すー。

そうか、あの日の朝までは淳子に…。


「でもさ、学校に登校して、コイツが目に入った。
 この女がね」

彩香が自分のことを他人のように言う。


そしてーー

「だから、俺は引越ししたのさ!
 この彩香って女にな!

 ひひひひひひひひっ!」

彩香が表情を歪めて笑う。
今まで見たこともない表情。


「うふふ…でね、わたし、乗っ取られちゃったの!
 今では心も体も、思うがまま!うふふふ…」

「嘘だ・・・」
龍平が首を振る。

「嘘だ〜〜〜〜〜〜!」
龍平は叫んだ。


「−−”からだ”を移動できないと思ってたなんて…
 バカね」

彩香はバカにしたようにして鼻で笑う。


「−−そうだ。
 あんた、わたしのエッチなところ、見たことある?」

龍平は突然の言葉に首を傾げる。

彩香とは、まだそういう段階にはなっていない。


「−−−ないんだ? うふっ…
 じゃ、見せてあげる」

彩香が自分の胸を触り出す。


「−−や、やめろ!ここ学校だぞ?
 あ、彩香、目を覚ましてよ!」

龍平が叫ぶ。

「あん…あっ♪ うふふっ♪
 わたし、、けっこう感度がいいのよ?
 あっ♪ ふふっ… うふふふふっ」

胸を揉みながら甘い声を出し始める彩香。

今まで聞いたこともないようなエッチな声を出す彩香。


「ねぇ、、やめてよ彩香!ねぇ!」
龍平は叫んだ。

だがー


「どう?わたしの、、あっ♪
 エロい声…♪
 ほら、、彼女が目の前で喘いでるのよ??
 あなたも興奮するでしょ???

 ウフフッ・・・あはははははははっ!」

彩香の乱れた姿ーー。

そんな恥ずかしい行為を”やらされている”彩香。


「やめろ!!!彩香を汚すな!」

龍平が叫びながら彩香のほうに向かう。


「邪魔だ!どけ!」
彩香が乱暴に叫んで、龍平を吹き飛ばす。


「うわぁ」
机に激突する龍平。


「あん…♪
 わたし…こんなことしたくないのに…
 興奮しちゃってる!!

 うふふ…わたしの、、ううん、俺の興奮が
 この女のからだを興奮させている!!!
 
 あはははははははっ!」


彩香から愛液がこぼれ落ちる。



「−−やめてくれ!!!!彩香!彩香!目を覚ましてくれ!」

龍平は必死に叫ぶ。


「んふふふふっ!む〜りよ!
 わたし、完全に乗っ取られちゃってるの!うふっ!」

そう言うと、今度は自分の制服を引きちぎり始めた。


「あははっ、わたし、教室で制服破いちゃってる!
 完全に変態ね!!

 えへへへへ…たまんねぇ、、たまんねぇよ!!!」

制服のちぎれる音が響き渡る。


「おい!やめろよ!ふざけるなよ!!
 座間ぁぁあぁ!」


龍平は我を忘れて彩香に突進した。

だが、彩香は引きちぎった制服を龍平に投げつけた。


そしてー
背後から龍平を羽交い絞めにした。


「−−調子乗るなよ。なぁ?
 いいのかよ?服を全部脱ぎ捨てて、学校から飛び出して
 街中走ってやるぞ?」

彩香が笑う。


「−−−やめろ…彩香の人生を…壊す気か?」


苦しみながら龍平は言う。


「うふふ…そうねぇ、あなた次第かな?」
彩香は笑う。


悪魔のように。


「−−−龍平、わたしを助けたい?」

彩香が尋ねる。


「−−−決まってる!彩香は僕の大事な、彼女だ!」

龍平が涙ぐみながら彩香を見る。


目の前には、制服を半分引きちぎって、
淫らな姿になってしまった彩香。

「−−うふふふふふ、そ〜んなにわたしを助けたいんだ…
 じゃあさ…」

彩香がニヤリと笑う。

「そこから飛び降りなさい」

ー無情な言葉。

教室は4階。

彩香はその教室のベランダから、飛び降りろと、
龍平に指示を出した。

「−−−え、、、無理だよ…」
龍平が躊躇する。

「−−あっそ」
彩香が低い声で言うと、今度はスカートに手をかけ始めた。

「−−−−やめろ!やめてくれ!」
龍平が叫ぶ。

彩香が冷たい表情で龍平を見ている。
なんとかこの場を収めようと龍平は土下座した。

「分かった…、、分かったから、
 これ以上、彩香を汚さないで!」

龍平が叫ぶと、
彩香は龍平の頭を靴で踏みつけた。


「ふふふふ、女王のわたしを守るために、
 ベランダから飛び降りなさい!

 …な〜ちゃってね♪あははははははは!」

頭を散々踏まれた龍平は、彩香を睨む。

彼女は、完全に支配されている。
やむを得ず、ベランダに向かう龍平。

彩香が腕を組みながら、
それを笑ってみている。


ベランダに出た龍平。
下を見つめる。

「−−−」

”ここから飛び降りれば、
 彩香は解放されるのか?”

龍平は考える。


いやーーー、
相手は凶悪犯罪者だ。
嘘に決まっている。

自分がここから飛び降りたところで…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「−−はぁ〜あった、あった」
テニスコートにやってきていた淳子が
嬉しそうに自分のテニスラケットを手に取る。

昼休みにテニスをしていた淳子は、
友達と話をしているうちに、
テニスラケットを忘れたままにしてしまっていたのだ。

「−−−さ、戻ろっと!」

どうせ、授業は自習的なものだから、
少し抜けても、大丈夫大丈夫、などと思いながら、
再び視聴覚室へと戻ろうとする。



「−−−あれ?」
淳子はふと、4階のベランダを見た。

そこにはーー
龍平が下を見つめて立っていた。


「うそっ!
 市村くんじゃんあれ!
 まさか…自殺?」

淳子はそう呟くと、慌てて校舎に入っていく。


そして…
視聴覚室に戻ると、仲の良い由香里のところに行き、
耳打ちした。

「え?市村くんが?」
由香里が不思議そうに淳子に聞き返す。

さっき、由香里が目薬を教室に取りに戻った際、
龍平もあとからやってきて、忘れ物だなんだの言っていた。

「−−−勘違いじゃないの?」
由香里が心配そうな顔で聞く

「ううん、今にも飛び降りそうだったんだって!」
淳子が言うと、
由香里は、授業で流れている映画のほうを一瞬
見つめてから呟いた。

「−−−もしそうなら、止めにいかなくちゃ!」  と。


由香里と淳子が慌しく視聴覚室から出て行く。

映画に夢中な生徒達は気づかない。


「−−−−由香里?淳子?」
仲良し三人組の一人、
おしゃれ好きの美香が、二人が出て行くのに気づき、
なんとなく興味本位でそのあとに続いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほら、飛び降りなさい」
彩香が笑う。

乱れきったその姿で。

「−−−いやだ」
龍平は涙を流しながら言う。

「−−−は?」
彩香が不快そうに声を出し、
龍平を睨む。

「−−−座間、だったよな…
 どうせ僕が飛び降りても、お前はそれを笑って、
 彩香に成りすまし続けるつもりだろう!

 ふざけるな!
 僕は騙されないぞ!」

龍平がベランダの方から彩香に向かって叫んだ。

「−−−ふふふっ…
 そうね・・・

 だってさぁ…みんな バカばっかりなんだもん。
 彩香に”成りすましている”だけで、
 誰も気づきやしない!
 
 み〜んな外見だけ!
 外見が彩香なら、中身が誰であろうと
 関係ないってことでしょ?
 うふふふふふっ」


彩香が笑う。
龍平は悔しさで唇を噛みしめた。

どうしてーー、

どうして気づいてあげられなかったのかー と。


「くふふふふ、誰も俺が座間だってことに気づかない!
 あははははははは!
 可笑しくて笑っちゃうんだけど!あはははははは♪」

座間と彩香の口調が入り乱れる。



その時だった。


「−−−−彩香…?」
クラスメイトのスポーツ女子、淳子が教室に入ってきた。

「−−−どういうこと…?」
生徒会の由香里も…

「−−何なの?」
おしゃれ好きの美香も…。

3人が教室に入ってきた。

「−−−−!」
彩香が慌てていつものような笑みを浮かべて三人のほうを
振り返る。

「−−みんな、どうして?」
龍平が言うと、
由香里が、答えた。

「どうしてって…市村くんが、ベランダから
 飛び降りようとしてるって、淳子が言うから…」

由香里に続いて、淳子が口を開く。

「ほら、あんたさっきベランダに立ってたでしょ?
 私、見たんだからね!

 まだ死ぬには早いって!」

淳子が少しふざけた調子で言う。


「それは、その…」
龍平が返事に困っていると、
おしゃれ好きの美香が口を開いた。

「−−−で、、座間って…?どういうこと?
 何かニュースでやってた逃亡中の犯罪者のことよね?」

美香が尋ねると、
彩香が笑いながら言った

「−−ちょ、ちょっとね。気にしないで」
彩香がそういうと、
由香里が口を開いた。


「−−最近、市村くんが色々調べてたのはーー
 あなたのことだったのね…?」

由香里が彩香に言う。

生徒会の由香里は、
洞察力や勘も鋭い子だった。

「−−−何のこと?」
彩香が少しイラついた様子で言う。

「−−−…今の話、聞いたわ…。
 松本さんの体を、返してあげて…」

由香里が悲しそうに言う。

彩香が座間に憑依されているー。

3人の女子生徒は、
この非現実的な事実を、
認めるしかなかった。

何故なら目の前の彩香が
たった今、
「俺は座間だ!」と叫んでいたのだから。


「−−−チッ!うっせぇんだよ!
 この体は俺のものだ!
 俺が、いや、わたしが彩香だよ!」

彩香が胸を触りながら言う。
制服は破れ、乱れている格好で。


「−−−松本さんはそんな弱い子じゃない」
由香里が言う。


「ははっ!ばっかじゃないの!
 こうして私に好き勝手されてるじゃない!」

彩香が言う。

その表情を見て、
由香里ははっとした。

そしてーーー

「…なら…どうして涙を流しているの?松本さん」

彩香はーー
目から涙を流していた。

「−−−は?わたしが泣いてなんか…!」

そう言いかけたそのとき、
彩香の頬を涙が伝う。

「−−−えっ…な、、なに…?どうして…?」
彩香の目から涙がこぼれ落ちていく。


由香里ー
美香ー
淳子ー

そして、彼氏の龍平。

大事な仲間たちが
”自分を助けようとしてくれている”

そのことが、
奥底に幽閉されている彩香の意識を呼び覚ました。


「−−ねぇ…彩香」
龍平が静かに呟いた。

彩香は龍平のほうを見て、睨みつける。


「−−−」
彩香が龍平を鋭い目で睨んでいる。


「−−僕は…彩香のことが大好きだ」
龍平が真顔で言う。

「−−ちょ、、昼間から愛の告白?」
おしゃれ好きの美香が言う。

「お〜流石に未来の警察官は違うね〜!」
スポーツ好きの淳子が冷やかす。


だから、警察官にならないってば、と思いながら
龍平はさらに続けた。


「ーーーうるせぇ!黙りやがれ!」
彩香が怒鳴り声をあげる。

だが、目からの涙が止まらない。


「くっそ…この女、、俺に支配されているのに!
 無駄な抵抗しやがってぇ!」

彩香が頭を抱えながら
憎しみに満ちた目で、龍平を見つめる。


「−−彩香!彩香はこんなやつになんか負けないって
 僕は信じてる!
 お願いだ!戻ってきてきてよ!」
龍平が言う。

「−−松本さん」
生徒会の由香里も彩香の名を呼ぶ。

「−−−これだけ彼氏に叫ばれちゃ、
 放っておけないよね?」
スポーツ好きの淳子が彩香に語りかける。

「−−いつまで体、好き勝手にされてんのよ!」
おしゃれ好きの美香が叫ぶ。


「だ、、、黙れええええ!!」
彩香が、怒りを爆発させて、壁のほうに歩いていき、
自分の頭を壁に打ち付け始めた。


ゴン!ゴン!と音がする。


「この体は俺のものだ!
 いつまでも抵抗しやがって!
 消えろ!消えてしまえ!」

本来の意識に語りかけながら頭を強く打ち付けている彩香。

可愛い声で、
信じられないような汚い言葉を吐いている。


「−−−−!?」

彩香の手を龍平がつかんだ。


「−−−どんなになっても、
 僕は彩香を信じるからーー」

龍平のまっすぐな目…。


「−−−−龍平…」
彩香の表情が緩んだ。


そして…

「うっ…うああああああああああっ!」
彩香が頭を抱えて、その場に蹲った。


「ぐ…っ ごほっ…ぐふっ…」
彩香が苦しそうに咳き込むと、
ドロドロした液体が出てきた。

彩香がその場にうずくまる。

ドロドロした液体が、
少しずつ移動している。

「−−−これは!」

龍平は思った。

これが”座間”だと。

「−−−よくも彩香を…」

スライムのような小さな液体を睨む龍平。

そしてーーー


「−−僕はお前を、許さない!」
そう叫ぶと、龍平は、床を這いずる小さな
スライムのような物体になった凶悪犯罪者の座間を
力強く踏みつけた。


「ぎぃあああああああああっ!」

断末魔のような声が、
聞こえた気がしたーーーー


「−−−人の体を弄ぶなんてーーー」
龍平はそう呟く。

スライムのような物体は、龍平に踏み潰されて、
蒸発するかのようにして消えた。

「お・・・のれ・・・」

…その言葉は、既に、言葉にならなかった。
彼にはもう、体が無かったからだ。


「−−松本さん!」
「ほら、しっかりしなさいよ!」
「…全く、世話がやけるわね!」

由香里、淳子、美香の3人が
倒れたままの彩香を優しく
抱えている。


「−−−−−−」

「−−−彩香!」
龍平が叫ぶ。

その呼びかけに応じるかのように、
彩香はゆっくりと目を覚ました。


久しぶりの目覚め…。
彩香はうつろな目で周囲を見渡す。

「あれーー、わたし…?」
不思議そうな顔をして、
龍平のほうを見る彩香。

制服が乱れきった姿…。
こんな姿に、無理矢理”させられた”ことに
龍平は強い怒りを感じた。

けれどー
座間はもう居ない。


「−−−そっか」
彩香が優しく微笑んだ。

「−−−龍平が、助けてくれたんだね」

その言葉に、龍平は静かに微笑み返した。


生徒会長の由香里がその様子を微笑ましそうに、
安心した様子で見つめている。

「−−−さすが!未来の警察官!」
淳子がふざけた様子で、拍手をしている。

「−−ちょっとぉ、感動の再会は
 2人だけの世界でやってよね」
おしゃれ好きの美香が、苦言を漏らす。


「−−−あっ!」
由香里が、時計を見て、声をあげる


「そろそろ授業終わる時間よ!
 先生戻ってきちゃう!」

映画の授業で、先生も居ないから抜け出してきたけれど、
そろそろまずい。

由香里たちは「先に戻ってるね!」と龍平に声を
かけて、慌てて視聴覚室へ戻っていった。


「−−−彩香、おかえり」
龍平が優しく手を差し伸べると、
彩香は微笑んで

「ありがとう。ただいまーー」と優しく呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そうか…座間は…」

夜。

父に事件の結末を報告した。

座間は彩香に憑依していたこと。

やむを得ず、座間と思われる物体を踏み潰したことー


「まぁ、問題ないさ」
父が呟いた。

「−−憑依薬なんて、警察内部でも誰も
 信じちゃくれない。
 恐らくこのまま座間は、行方不明で処理されるだろう」

座間はもう居ない。
見つかりようがないのだ。

だから、龍平が座間を踏み潰したとしても、
そのことは、誰にも分からないー。


「−−−龍平。」

父が手を差し伸べた。

「よくやってくれた。本当に、ありがとう」

父の言葉に龍平は笑いながら答えた。

「−−困ったときは、お互いさま、だろ?」

その言葉に父子は微笑んで、握手を交したーーー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。
学校は、いつものように賑わっていた。

そんななか、
校舎を歩くとある生徒。

人目を気にするように、お手洗いに入っていく。



そしてーーー
鏡を見つめて、その生徒は笑みを浮かべた。


「これで、もう誰も”俺のこと”を探す人間は居ないー」


”座間”は消えていなかった。
龍平に踏み潰されて消滅したように、見えた座間。

確かに、一度は体から追い出された。

だが、”霊体”は目に見えない。

あれは、座間の演出に過ぎなかった。
あの時、龍平が踏み潰したのはーーーー



そしてーーー

「これからは、”この体”としてーー
 ”成りすまして”生きていくさーー。

 ふふふ・・・
 
 俺はここにいるのにー、
 誰も、俺に気づけない」


ーお手洗いの鏡に、邪悪な笑みを浮かべて映っていた
 生徒はーーーーーーーーー



もう、誰も、気付かない。

彼が”成りすまして”いることにーーー。




おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

私のサイト以外で、始めて投稿してみました!
お読み下さりありがとうございます^^

成りすましモノ祭りにこのように
参加させて頂けてとても光栄です。

ありがとうございました!!









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