憑依事件 イラスト:jpeg 文:toshi9 この町では、最近奇妙なことが起きている。 女性たちが、次々に本来の彼女たちからは想像もできないおかしな行動を取るというのだ。 私の元には、今日も何人もの調査依頼が舞い込んでいる。 「そうなんですよ~、綾乃ったらグループで一番大人しくて引っ込み思案なタイプだったのに~、放課後急に制服のスカートを脱ぎだしたと思ったら上着も脱いじゃって、パンティ一枚になって自分の胸を揉み始めたんですよ~。 まるで初めて触るみたいに最初は恐る恐る、でも目を見ていると段々興味津々って感じで、そのうちいい気持ちになってきたらしくって……あ~やだやだ、彼女どうしちゃったんだろう」 ![]() 「あたしも、更衣室に入ったら中野先輩がいやらしい目つきで自分のお尻にさわったり胸を揉んでいるのを見ちゃって、あの時の目つきってまるでおっさん。中野先輩ったらあたしに気がつくと更衣室を飛び出していって……でも、次の日に聞いても何も覚えてなかったみたいで」 ![]() 「相談があるんです。私、スタイリストしているんですけど、モデルの亜美ちゃんが撮影の最中に突然「こいつの体ゲット~!」なんて叫んで、そして自分の体をいやらしい目つきで見下ろしているんです。亜美ちゃんに何があったんでしょう。お願いです、調べてください」 ![]() 「職場の……あ、あたいたちバーでホステスしてるんだけど、客を送った後に隣にいたユカリの体を何か青白いもやもやっとしたものが入っていくのを見たんだ。そしたら急にユカリの顔つきが変わって自分の胸を揉み始めてよだれを流すんだよ。何だいあれは。あんた探偵だろう、何か知らないのかい?」 ![]() 「こっちなんかもっとひどいですよ。静先輩が廊下で胸を出して揉んでいるんです。それになんだか背中に浮浪者みたいなじいさんがいて、でも目をこらしてたら見えなくなっちゃって、なんだったんでしょう、アレ」 ![]() 「僕、もうどうしていいのかわからなくって。クラスメイトのすみれちゃんが急に自分の胸を揉み始めたんです。で、『お前も揉んでみるかい』って僕に胸を突き出すんですよ。驚いて逃げちゃたんですけど、すみれちゃん急にどうしちゃったんだろう」 「お前、逃げたのか」 「は、はい、怖くって」 「ばっかだなぁ」 隣のホステスが呆れたように少年を見た。 ![]() 「で、そちらは?」 吉岡探偵は二人で並んで座る若いカップルに声をかけた。 「ぼくたち、入れかわっちゃったんです。デートの最中だったんですけど、気がついたら僕が目の前にいて」 「あたしが目の前にいたんです」 「何か気がついた事は?」 「いいえ。あ、そう言えば、公園の売店で買ったドリンクを飲んだ後だったような」 「ふむ」 ![]() 「びっくりしちゃって。でも僕たちそれからずっと」 「元に戻らないというわけか」 「はい、仕方なくお互いに相手に成りすましているんですけど」 「どうしたんだい?」 「段々、お互いの体に馴染んじゃって、このままでもいいかなって、ね、アキちゃん♪」 「う、うん」 「じゃあ、何もここに調査依頼に来なくても良かったのではないのかな?」 「そ、そうですね、確かに。それじゃ、僕たちはこれで」 そう言って女の子は男の子に手を伸ばすと、ぎゅっと手を握る。 「アキちゃん」 「四郎くん」 男の子が顔を赤らめてその手を握り返した。そしてカップルはお互いの手を握ったまま二人で出て行ってしまった。 「ふーむ、あのカップルはともかくといて、果たしてこの町に何が起きているのか」 残った依頼者を前に、吉岡は腕組みするしかなかった。 「先生、怪人緋郎の仕業でしょうか?」 依頼者たちに紅茶を配っていたメイド姿の助手が問いかける。女の子の恰好をしているが、れっきとした男子だ。 「広海君、さすがに彼にもこんな事件は起こせんだろう。考えられるとしたら……」 腕組みした吉岡が、静かに目を閉じる。 「先生、心当たりがあるんですか?」 「昔、あるものの研究をしていた知り合いがいてな」 「あるもの?」 「うむ、だが彼は行方不明になったはず、もう10年も前のことだよ。だが、もし彼があの飲み物を完成させていたとしたら」 「こんな事件を起こす事が可能なんですか?」 「そうだな」 目を開いた吉岡は軽い溜息をついてパソコンのモニターを眺めた。 そこには『なりすましモノ祭り』という文字が。 「ここに手がかりがあるかもしれんな」 (終わり) 後書き この作品はjpegさんからいただいてたイラストを眺めながら開催記念にと思い書いた作品です。ipegさん、たくさんのイラストありがとうございました。 それから、内容は思いつきで書いたものなので、続きません! 本日から『なりすましモノ祭り』開催です。皆さまどうぞお楽しみくださいね。 toshi9 |