群青色の衝動 作:ガメル 昨夜の大雨も過ぎ去って、雲ひとつない青空が広がっている。 その青空を映し出すかのような水溜まり。このひび割れたアスファルトが目立つ道路に染み込んでいる。 一見すればどこにでもある光景だが、ひとつだけ違和感があった。 それは道の端に溜まった雨水が、まるで混ぜ合わせた絵の具のように深みがかった青色をしていることだ。人通りが少ない狭路のため、いつからここに在ったのかは分からないが、その一種独特の存在感は不気味でしかない。 こんな場所にひとりの人間が通りがかってしまった。 「……うわっ、なにあれ… 近づかない方がいいよね」 少々息を切らして急いだ様子の、セーラー服姿の少女。 赤松(あかまつ)沙(さ)衣(え)はその異様なモノにすぐ気が付いた。それをチラチラ横目で気にしながらも艶めいたセミロングの黒髪を靡かせ、足早にその脇を過ぎ去ろうとする。しかし、突如その青い水溜まりからしゅるしゅる縄のような細いものが伸びてきて彼女の足首にぐるりと巻き付いた。続いて身体がバランスを崩すほどの勢いでぐんと引っ張り込む。 「――えっ… きゃあっ!?」 沙衣は転倒しそうになったが、体が地面に着地する直前に青い塊が広がって彼女を受け止めた。水音と不思議な弾力が顔や胸越しに伝わってくる。 続いて畳ほどのサイズに広がった青色がみるみる収縮すると、彼女の全身を一気に包み込んだ。いきなりの変化に反応できず、全身がスライムで満たされてしまった。 「…ごぼっ! んん、がぼっ……がぼっ…!」 耐えがたい息苦しさから彼女は、柔らかくも確かな弾力を持ったスライム状の物体の中で必死にもがき続ける。動いても一向に出られる気配はなく頭の中が絶望感で満たされていく。 やがてごぽごぽと泡を吐き出しながら、彼女は自分の意識が薄れていくのを感じた。 気絶した制服姿の沙衣を包み込んだまま、この深い青は隣接した廃屋へずるずると移動していく。 後の閑散とした道路には飛び散った少量の群青色だけが残された。 ――ちゃぷっ、ちゃぷっ…… どれくらい時間が経ったのか、寂れた廃屋にセーラー服の少女が横たわっていた。 短いスカートからほど良い肉付きの白い太腿が露わになっており、乱れた制服から引き締まったお腹と臍がチラリと見えている。朽ち果てた部屋には、屋根の隙間から滴り落ちる雫の音だけが響く。そして薄暗い部屋を小窓からの光だけが、小さな埃が舞う部屋の様子を分かるものにしていた。 少女の瞼が僅かながら動いた。少し苦しそうに呻くと目をパチパチさせて、どうやら意識が戻ったようだ。 「ん…ここ、は……?」 まだぼんやりとした頭でしなやかな手足を動かす。 さっき髪に纏わりついた粘液を気にして、華奢な手を頭の美しい黒い束へ持っていこうとした。しかし、ねっとりとしたスライムが手足の自由を奪っており、すんでのところで髪まで届かない。さっきまで自分がどういう状況だったか思い出して眠気が吹き飛んだ。 あの恐怖感、このままでいればどうなるか分からない。 彼女は焦燥に駆り立てられ、拘束するスライムを除けようと足掻く。 「うぅ… なんで抜けないの…!?」 粘液が相手とはいえ一部が硬質化しているため、この拘束は抜けられそうで簡単に抜けられないようになっているようだ。 そんな折、ずるずると水音を立てて、人型大くらいの深い青色をした粘液の塊が目の前に現れた。 圧倒的な質感がある粘液という脅威を目の前にして沙衣は怯えた様子を見せた。だが、青い塊は彼女に襲い掛かることなく、ぬるりと青い粘液が細くなってゆき段々と人間の女性を思わせる身体つきへ変化していく。胸は形よく盛り上がり、緩やかな曲線を描いた腰つきが女性の身体を強調する。 ――とぷん…… そのまましばらくして、まだ未成熟な少女を思わせる人型になって変化が収まる。そして、青い肌色に血が通ったように人肌の色素へ染め上げられていった。 出来上がった瑞々しい若い女性の一糸纏わぬ肉体に下着、セーラー服が順番に覆っていくと、そこには目を閉じた沙衣自身の姿があった。 「――ひっ! わ、わたしの姿になった……!?」 自分を誘拐した得体の知れない不定形の塊が、最もよく知る自分の姿となったことに恐怖と驚きが隠せない。 目の前に現れたもうひとりの沙衣はゆっくり瞼を開けると、拘束されて震える沙衣を見てニッと薄ら笑いを浮かべた。 「お目覚めかい…… どうだ俺の姿は、お前と寸分違わないだろう?」 澄んだソプラノの沙衣の声をして、男口調で話した元青色の物体だったモノ。 沙衣はそれに対して、半ば叫ぶように言葉を吐き出した。 「……あ、あなた一体何者!どうしてこんなことするの……!」 もうひとりの沙衣は実に愉快そうな表情をして、なだらかに膨らんだ胸を両手で軽く弄びつつ答えた。 「俺は後天的に特殊な力を手に入れてなぁ…… 目立たないところで獲物を探していたんだ。そしたらまんまとこんなにも良いカラダが手に入って嬉しかったぜ!」 「や、やめて……!! 私の姿でそんなことしないで!」 沙衣は真っ赤になりながら抗議の意を示したが、なりすました男がやめる気配は全くない。加えてスカートの裾を摘まむと無造作に持ち上げた。下から淡い桃色のショーツが丸見えになってしまう。 「ほら、下着まで全く同じものだぞ ……折角だし、お前がオナニーする様子を見せてやるよ…!」 「お願い、それだけは……! ダメ、やめてぇ!」 自らガニ股に開脚させると沙衣の目の前でショーツに手をかけてずり下ろし、じゅんと湿った秘部を晒した。そして、そのまま指を突っ込んで荒々しく刺激し始めた。 「……ん、あうっ! 身体がびくん、って… くふっ、んぁ……!」 しなやかな指がとても器用に秘部をかき混ぜて、くちゅくちゅと淫らな水音が部屋に響き渡る。床にはぽたぽたと彼女の愛液が滴っていく。 「嫌…! 嫌ぁ、もうやめてー!」 羞恥から目尻に涙を溜めてヒステリック気味な声を上げる沙衣だったが、沙衣の姿になりすました男の行為は激しさを増し、遂には絶頂へと至ろうとしていた。 「あぁくそっ、もうイきそうだ…… すげー気持ちいいな、この身体はぁ♡」 とろんと蕩けた目で頬を上気させる様子は、沙衣の普段の姿からは到底想像できないものである。 その直後、しなやかな指がぷっくり肥大化した陰核をぴんと弾いた。 「――ンッ……! ふ……ぁあああああぁんっ♡」 ――ぷしゅっ! ぷしゃあああああああっ……! 大きく目を見開いて絶頂に達した。身体をガクガクと揺さぶらせて、股間からは尿とは違う無色透明の粘液が勢い良く噴き出した。 「…グスッ こんなの酷いよ……」 目の前で自分の自慰する様を見せつけられた沙衣は咽び泣く。 そんな彼女に、未だ愛液を秘部から滴らせた贋物の沙衣が歩み寄ると、顎を持ち上げて顔をぐいと近づけてきた。 「あまり時間に余裕がなくなってきた…… 最後の仕上げだ」 「えっ……!?」 不敵な笑みを浮かべる偽物の背中から無数の触手が現れて、テントのように拡がって沙衣を自分ごと包み込み、群青色をした球体状に変わる。 ――グチュッ…… グチュッ…… 真っ青な球体から咀嚼するような怪しげな音だけが響く陰気に満ちた部屋。 ――ヂュプッ………… 「……ぷはぁっ!」 球体の表面が波打ったかと思えば、突然黒髪を振り乱した沙衣が顔を出した。彼女は水面から上がるかのように緩やかな動作で青い球体から全身を引き出していく。 「ふぅ…… これで本物の『私』になれた! 記憶も身体も、全部思い通りにできるんだよね?」 自分の身体を抱きしめ、幸福感に満ちた嬉々とした表情で沙衣はそう言った。 どうやら沙衣は襲い掛かってきた青い魔物と混ざり合いひとつになってしまったようだ。 まだ青色の粘液のようなものが制服や身体のところどころにへばりついていたが、すっと染み込むようにして消えていく。そして、自然な動作で制服と髪を整えたらそこに居るのは先ほどと変わりない沙衣そのものだった。 「――あとはこれを回収しないと……」 沙衣が抜け出て一回りほど小さくなった球体に目を向ければ、球体が意思を持ったかのように中から細い触手が伸びてきた。小さな可愛らしい口を開けて導かれるまま次々呑み込んでゆく。 「ぢゅるっ…… ぢゅるっ…… ごっぐん!!」 みるみる内に沙衣の身体の中へ消えていく青色。遂に最後の一部を満足した表情で嚥下した。 「げぷっ、はぁ……私の喉を通るのってこんなに気持ちいいんだぁ? あっ、そろそろ学校行かなきゃね♪」 口端から零れた群青色を手の甲で拭うと、黒いローファーを鳴らして駆け出していった。 END |